如月「 」
一刀「 」
という風にしようと思います。
どっちが話しているか分からないからです。
六話
盗賊団の砦は、山の影に隠れるようにひっそりと建てられていた。
一刀「こんな所にあったんだ…。」
如月「こんな分かりにくい所じゃ、うまく捜さなきゃ見つからないなぁ。」
華琳が許緒に確認している。この辺りに盗賊団は、砦の連中しかいないらしい。数は約三千。こちらの三倍ほどだ。
「もっとも連中は、集まっているだけの烏合の衆。統率もなく、訓練もされておりませんゆえ…我々の敵ではありません。」
「けれど、策はあるのでしょう?糧食の件、忘れてはいないわよ。」
「無論です。兵を損なわず、より戦闘時間を短縮させるための策、すでに私の胸の中に。」
「説明なさい。」
「まず曹操様は少数を率い、砦の正面に展開してください。その間に、夏候惇・夏侯淵の両名は、残りを率いて後方の崖に待機。本隊が銅鑼を鳴らし、盛大に攻撃の準備をにおわせれば、その誘いに乗った敵は必ずや外に出てくるでしょう。その後、曹操様は兵を引き、十分に砦から引き離した所で…。」
「私と姉者で、敵を背後から叩くわけか。」
「ええ。」
「ちょっと待て。それは、華琳様を囮にしろと、そういうわけか!」
「そうなるわね。」
「何か問題が?」
「大ありだ!華琳様にそんな危険なことをさせるわけにはいかん!」
「なら、あなたには他に何か有効な作戦が有るとでも言うの?」
「烏合の衆なら、正面から叩き潰せば良かろう。」
一刀「…いや、春蘭。それはさすがに…。」
如月「春蘭、さすがにそれはないぞ。」
「油断した所に伏兵が現れれば、相手は大きく混乱するわ。混乱した烏合の衆はより倒しやすくなる。曹操様の貴重な時間と、もっと貴重な兵の損失を最小限にするなら、一番の良策だと思うのだけれど?」
「な、なら、その誘いに乗らなければ?」
「…ふっ。」
「な、なんだ!その馬鹿にしたような…っ!」
「曹操様。相手は志も持たず、武を役立てることもせず、盗賊に身をやつすような単純な連中です。まちがいなく、夏候惇殿よりもたやすく挑発にのってくるものかと…。」
「はい、どうどう。春蘭。あなたの負けよ。」
「か、華琳様ぁ…。」
「…とは言え、春蘭の心配ももっともよ。次善の策はあるのでしょうね。」
「この近辺で拠点になりそうな城の見取り図は、すでに揃えてあります。あの城の見取り図も確認済みですので…万が一こちらの誘いに乗らなかった場合は、城の内から攻め落とします。」
「分かったわ。なら、この策で行きましょう。」
「華琳様!」
「これだけ勝てる要素のそろった戦に、囮一つも出来ないようでは…この先、覇道などとても歩めないでしょうよ。」
「その通りです。ただ賊を討伐した程度では、誰の記憶にも残りません。ですが、最小の損失で最高の戦果を挙げたとなれば、曹孟徳の名は天下に広まりましょう。」
「な、ならば…せめて、華琳様の護衛として、本隊に許緒を付けさせてもらう!それもダメか!」
「許緒は貴重な戦力よ。伏兵の戦力が下がるのは好ましくはないのだけれど…。」
如月「春蘭、俺も居るが、そんなに不安か?」
「そんなことはないが、万全を期してだな…。」
「何?あんた強いの?」
「あぁ、姉者に大ケガさせるほどだからな。」
「えっ!夏候惇が大ケガって、そんなに強いのこいつ。なら、囮部隊は曹操様と私と許緒と如月。伏兵は夏候惇と夏侯淵。これでよろしいでしょうか、曹操様。」
一刀「あの…俺は?」
「私の傍にいなさい。」
如月「そうだぞ一刀。華琳と桂花の近くで、戦場の空気と桂花の用兵術を学べ。」
「北郷!如月!貴様ら、華琳様になにかあったらただではおかんからな!」
如月「おう!盾になってでも守り切ってやるさ。」
「では作戦を開始する!各員持ち場につけ!」
「如月。」
如月「あ?どうした?華琳?」
「あなた大丈夫?人を殺したことがないって聞いたけど。」
如月「ああ、秋蘭に聞いたんだな。大丈夫かどうか分からないが、秋蘭に話を聞いてもらって覚悟が出来た。」
「そう、なら、あなたのその武、存分に振るいなさい。私たちを守ってちょうだい。」
如月「了解。」
その後、春蘭たちは持ち場へ布陣しに行った。
「あ、兄ちゃん。どうしたの?」
如月「ん?…ああ、許緒か。」
「季衣でいいよ。春蘭様と秋蘭様も、真名で呼んで良いって言ってくれたから。」
如月「そうなのか?じゃあ、俺のことも如月って呼んでくれ。」
「分かった、如月兄ちゃん。」
如月「一緒に華琳の護衛、頑張ろうな。」
「うん。たいやく、なんだってさ。」
如月「おう、ものすごい大役だぞ。何せ、華琳を守る仕事だからな。」
「そっか…。たいやく、かぁ…。うぅ、なんだか緊張してきちゃった…。」
如月「だよなぁ。」
「あれ?如月兄ちゃんも緊張してるの?」
如月「そりゃぁな…俺、今日が初陣なんだよ。」
「へぇー。そうなんだぁ。でさ、さっきの春蘭様に大ケガさせたって本当?」
如月「ああ、本当だぞ。」
「そうなんだ。如月兄ちゃん、強そうに見えなかったから。」
如月「人を見かけで判断できないってことを学んだな。これからは気を付けるように。」
「うん!でも、如月兄ちゃんも曹操様も、みーんなボクが守ってあげるよ!」
如月「季衣が?」
「うん!大陸の王って良く分かんないけど…曹操様がボク達の街も、陳留みたいな平和な街にしてくれるって事なんだったら、それってきっと良いことなんだよね?」
如月「ああ…そうだな。俺も季衣のことも守ってやるからな。」
「あ…ひゃっ!」
如月「…ああ、ごめん。」
季衣の声に思わず伸ばしていた手を引っ込める。いきなり頭を撫でようとしたら、そりゃびっくりするわな。
「ん?平気、だよ。ちょっとびっくりしただけ。」
如月「そっか。季衣が良いこと言ったから、なんか勝手に身体が動いてね…。」
「へへ。如月兄ちゃんの手、なんかおっきいねぇ…。」
如月「ん、そうか?」
「こらー、そこの二人ー!遊んでないで早く来なさいよ。作戦が始められないでしょう!」
如月「おう、すぐ行く!…んじゃ行くぞ、季衣。」
「うんっ!」
ジャーン、ジャーン
戦いの野に、激しい銅鑼の音が響き渡る。
「「うぉーーーー!」」
「……」
ジャーン、ジャーン
響き渡る…。
「「うぉーーーーー!」」
如月・一刀「「……」」
ジャーン、ジャーン
響き…。
「「うぉーーーー!」」
「……」
…響き渡る銅鑼の音は、こちらの軍のもの。でも響き渡る咆哮は、城門を開けて飛び出してきた盗賊達のもの。
「…桂花。」
「はい。」
「これも作戦の内かしら?
「いえ…これはさすがに想定外でした…。」
「連中、今の銅鑼を出撃の合図と勘違いしているのかしら?」
「はぁ。どうやらそのようで…。」
「…そう。」
一刀「何?華琳、挑戦の言葉とか、考えてたの?」
「…一応、こういう時の礼儀ですからね。まぁ大した内容ではないから、次の賊討伐の時にでも使うことにするわ。」
如月「舌戦聞いてみたかったな、一刀。まぁこれから聞く機会なんかいくらでもありそうだが。」
「曹操様!兄ちゃん達!敵の軍勢、突っ込んできたよっ!」
如月「これ…全軍突っ込んできてないか?」
「ふむ…まぁいいわ。多少のズレはあったけど、こちらは予定通りにするまで。総員、敵の攻撃は適当にいなして、後退するわよ!」
「報告!曹操様の本隊、後退して来ました!」
「やけに早いな…ま、まさか華琳様の御身に何か…!?」
「心配しすぎだ、姉者。隊列は崩れてないし、相手が血気にはやったか、作戦が予想以上にうまくいったか…そういう所だろう。」
「そ、そうか…ならば総員、突撃準備!」
「ほら姉者。あそこに華琳様は健在だ。季衣も北郷も如月もちゃんと無事のようだぞ。」
「おお…。良かった…。これが、敵の盗賊団とやらか。」
「隊列も何もあったものじゃないな。」
「ただの暴徒の群れではないか。この程度の連中、作戦など必要なかったな、やはり。」
「そうでもないさ。作戦があるからこそ、我々はより安全に戦うことが出来るのだからな。」
「ふむ…そろそろ頃合いかな。」
「まだだ。横殴りでは混乱の度合いが薄くなる。」
「ま、まだか…?」
「まだだ。」
「もういいだろう!もう!」
「まだだと言っているのに…少し落ち着け、姉者。」
「だが、あれだけ無防備にされるとだな、思い切り殴りつけたくなる衝動が…。」
「気持ちは分かるがな…。」
「敵の殿だぞ!もういいな!」
「うむ、遠慮なくいってくれ。」
「たのむぞ秋蘭。」
「応。夏侯淵隊、打ち方用意!」
「よぅし!総員攻撃用意!相手の混乱に呑み込まれるな!平時の訓練を思い出せ!混乱は相手に与えるだけにせよ。」
「敵中央に向け、一斉射撃!撃てぃっ!」
「統率などない暴徒の群れなど、触れるはなから叩き潰せ!総員、突撃ぃぃぃぃっ!」
「後方の崖から、夏候惇様の旗と、矢の雨を確認!奇襲、成功です!」
「さすが秋蘭。上手くやってくれたわね。」
「春蘭様は?」
「敵の横っ腹あたりで突撃したくてたまらなくなっていた所を、夏侯淵に抑えられていたんじゃないの?」
一刀「…俺もそう思う。」
「別にアンタと意見があっても、嬉しくとも何ともないんだけど。」
一刀「いやまあ、いいけどさ…。」
「さて、おしゃべりはそこまでになさい。この隙をついて、一気にたたみかけるわよ。」
「はっ!」
「季衣、如月。あなたたちの武勇、期待させてもらうわね。」
「分っかりましたーっ♪」
如月「まかしとけ。」
そう言って、剣を抜く。
「総員反転!数を頼りの盗人どもに、本物の戦が何たるか、骨の髄まで、叩き込んでやりなさい!総員突撃っ!」
「おりゃっ!」
「ギャー!」
「せいっ!」
「うぎゃー!」
逃げ出すやつが多くなってきたなと思っていたら、
「逃げる者は逃げ道を無理にふさぐな!後方から追撃をかける。放っておけ!正面から下手に受け止めて、かみつかれるよりマシだ。」
と声が聞こえてきた。あらかた終わったか。
「華琳様ご無事でしたか。」
「ご苦労様、秋蘭。見事な働きだったわ。」
一刀「あれ?春蘭は?」
「どうせ追撃したいだろうから、季衣に夏候惇と追撃に行くよう、指示しておいたわ。」
一刀「みごとなもんだな。」
「桂花も見事な作戦だったわ。負傷者もほとんどいないようだし、上出来よ。」
「あ…ありがとうございます。」
「それと一刀。よく逃げなかったわね。感心したわ。」
一刀「如月が命がけで戦ってるのに逃げるわけにはいかないだろ。」
「そうね。如月よくやったわ。初陣にもかかわらず、良く戦ったわ。」
「ありがとう。そんなにほめ…るな…よ。」
と目の前が真っ暗になって倒れてしまった。
「ち、ちょっと如月っ!?」
一刀「おい、如月!大丈夫か!」
「やれやれ…緊張の糸が切れてしまったようですな。」
如月「…あれ?」
「やっと気付いたか。」
目が覚めたら、ゆらゆら揺れる馬の上。かけられたのは秋蘭の穏やかな声だ。
如月「…城は?」
「とっくに陥したぞ。その間、貴様はずっと眠りこけていたがな。」
如月「どれくらい寝てた?俺?」
「聞きたい?」
「いや、聞きたくない。あとこの縄ほどいてくれない?」
今、俺は馬の上に、縄でグルグル巻きにされた状態で乗っけられていた。
「どうせ馬に乗れる体力なんか戻ってないのでしょう?ついでだから、そのまま帰ったら?」
如月「そうだな、そうしとく。そういえば、季衣は、華琳の所に来るのか?」
「うん、それにボクの村も、曹操様が治めてくれることになったんだ。だから今度はボクが、曹操様を守るんだよ。」
話を聞くと、この辺りの州牧が、盗賊に恐れをなして逃げたため、華琳が州牧の任も引き継ぎ、この地を治めることになったらしい。それにともない季衣は、今回の武功もあって華琳の親衛隊を任されることになったのだ。
如月「そっか。よかったな、季衣。」
「これからもよろしくね。如月兄ちゃん。」
如月「おう!」
「さて、後は、桂花のことだけれど…。」
「…はい。」
食糧の件か。
「桂花。最初にした約束、覚えているわよね?」
「…はい。」
「城を目の前にして言うのも何だけれど、私…とてもお腹が空いてるの。分かる?」
「…はい。」
如月「ん?糧食足りなかったのか?」
「半分は如月の予想通りだ。」
如月「半分は?」
一刀「季衣がな、人の十倍以上食べたからなんだ。まあ、あれだけのパワーの源になるって考えれば、妥当な計算なんだろうが。」
「え?えっと…ボク、何か悪いこと、した?」
「いや、季衣は別に悪くない。気にするな。」
「どんな約束でも、反故にすることは私の信用に関わるわ。少なくとも、無かったことにする事だけは出来ないわね。」
「華琳様…。」
「…分かりました。最後の糧食の管理が出来なかったのは、私の不始末。首を刎ねるなり、思うままにしてくださいませ。」
「ふむ…。」
「ですが、せめて…最後は、この夏候惇ではなく、曹操様の手で…!」
「とはいえ、今回の遠征の功績を無視できないのもまた事実。…いいわ、死刑を減刑して、お仕置きだけで許してあげる。」
「曹操様…」
「それから、季衣とともに、私を華琳と呼ぶことを許しましょう。より一層奮起して仕えるように。」
「あ…ありがとうございます!華琳様っ!」
「ふふっ。なら、桂花は城に戻ったら、私の部屋に来なさい。たっぷり…可愛がってあげる。」
「…むぅ。」
「…いいなぁ。」
一刀「え、な、なに…?」
「にゃ…?」
如月「季衣、一刀、気にするな。」
「それより兄ちゃん達。ボクお腹すいたよー。何か食べに行こうよぅ。」
如月「そうだな。片付けが終わったら、皆で何か食べに行くか。」
「やったぁ!それじゃ、早く帰りましょうっ!ほら、春蘭様も早く早くー!」
「分かったというに。ほら、秋蘭も行くぞ。」
「うむ。」
こうして、俺達の初陣が終わった。
こういう風に書いてみましたが、もっと他に見やすい書き方等があれば、教えてくださると幸いです。