真・恋姫†無双 転生伝   作:ノブやん

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五話

馬は思ったよりもゆっくりと進んでいた。予定期間の半分の行軍だっていうから、もっとペースを上げるもんだと思っていたが、いつもの行軍より、少し早い程度らしい。

 

「「北郷(一刀)、大丈夫か?」」

 

「何とか、つかまってるくらいにはね。てか、なんで如月は普通に乗れるんだよ。」

 

「んなもん、このチート能力のおかげだ。まぁ、時間を見つけては乗馬の練習をしていたが。よし、一刀はこの討伐が終わったら、乗馬の練習だな。しごいてやるぞ。」

 

「お手柔らかにお願いします。」

 

「そういえば、秋蘭。軍師の募集はしてなかったのか?」

 

「ああ、募集していなかったな。」

 

「なんでなんだ?」

 

「経歴を偽って申告する輩も多いのでな。この武勇なら姉者あたりが揉んでやれば大体分かるのだが、文官はよほど名の通った輩でない限り、使ってみないと判断がつかん。」

 

「だから、桂花はあんなことまでして、自分を売り込んだのか。」

 

そんな風に話しながら行軍していると、春蘭がやってきた。

 

「おお、貴様ら、こんな所にいたのか。前方に何やら大人数の集団がいるらしい。華琳様がお呼びだ。すぐに来い。」

 

「「了解。」」

 

「うむ。」

 

・・・・・・

 

「…遅くなりました。」

 

「ちょうど偵察が帰ってきた所よ。報告を。」

 

「はっ!行軍中の前方集団は、数十人ほど。旗がないため所属は不明ですが、恰好がまちまちな所から、どこかの野盗か山賊だと思われます。」

 

「様子を見るべきかしら。」

 

「もう一度、偵察隊を出しましょう。夏候惇、如月、あなた達が指揮を執って。」

 

「おう。」

 

「了解。」

 

・・・・・・

 

「まったく。先行部隊の指揮など、私一人で十分だというのに。」

 

「偵察も兼ねているからな。むやみやたらと突っ込むなよ。」

 

「そんなこと言われるまでもないわ。そこまで迂闊ではないぞ。」

 

「その迂闊がありえるから、俺が付けられたんだと思うぞ。」

 

「むぅー。」

 

と話していると、

 

「夏候惇様!誰かが戦っているようです!その数……一人!それも子供のようです!」

 

「なんだと!」

 

報告を聞くが早いか、春蘭は馬に鞭を振り、一気に加速させていく。

 

「あ、ちょっと待て春蘭。お前らも遅れずについて来い。」

 

兵たちにそういって春蘭を追いかける。

 

・・・・・・

 

「でえええええいっ!」

 

ビュン!

 

「ぐはぁ!」

 

「まだまだぁっ!でやあああああああっ!」

 

ビュン!

 

「がは……っ!」

 

「ええい、テメェら、ガキ一人に何を手こずって!数でいけ、数で!」

 

「おおぉぉ!」

 

「はぁ…はぁ…はぁ…、もう、こんなにたくさん…多すぎるよぅ。」

 

ヒュン!

 

「ぐふぅっ!」

 

「…え?」

 

「だらぁぁぁぁっ!」

 

ヒュン!

 

「げふぅっ!」

 

「貴様らぁっ!子供一人によってたかって…卑怯というにも生ぬるいわ!てやああああああっ!」

 

「うわぁ…!退却!退却だー!」

 

「まて!逃がすか!全員、叩きってくれるわ!」

 

「春蘭!ちょっと待て!」

 

「なぜ止める!」

 

「むやみやたらと突っ込むなとさっき言っただろう。それに、俺達は偵察部隊だ。他にやることがあるだろ。」

 

「ん?たとえば?」

 

「逃げた敵を、こっそり追跡して、本拠地をつかむんだ。てかもう、数人偵察に出したからな。」

 

「あ、あの…」

 

「おお、怪我は無いか?少女よ。」

 

「はい。ありがとうございます!おかげで助かりました!」

 

「それは何よりだ。しかし、なぜこんなところで一人で戦っていたのだ?」

 

「はい。それは…。」

 

女の子が話そうとした時に、本体が到着し

「如月、謎の集団とやらはどうしたの?戦闘があったという報告は聞いたけれど…。」

 

「何匹か逃がして、数人に尾行してもらってるから、本拠地はすぐに見つかるよ。」

 

「あら、なかなか気が利くわね。」

 

「それも含めて、俺を出したんだろ。よく言うよ。」

 

「あのー、お姉さん、もしかして、国の軍隊?」

 

「まぁ、そうなるが…ぐっ!」

 

ビュン!

 

ガキン!

 

振り下ろされたのは、女の子の持っていた巨大な鉄球だった。

 

「き、貴様、何をっ!」

 

「国の軍隊なんか信用できるもんか!ボク達を守ってもくれないくせに、税金ばっかり持って行って!てやああああああっ!」

 

「……くぅっ!」

 

「だからキミは一人で戦っていたのか?」

 

「そうだよ!ボクが村で一番強いから、ボクがみんなを守らなきゃいけないんだっ!盗賊からも、お前たち…役人からもっ!」

 

「くっ!こ、こやつ…なかなか…っ!」

 

おお、スゲーなあの春蘭が押されてるな。

 

「なぁ、桂花。華琳って、そんなヒドイ政治をやってたのか?」

 

「あのな一刀。華琳がそんなことするわけないって。他の理由があるんだろ?桂花。」

 

「このあたりの街は、曹操様の治める土地ではないの。我々は盗賊追跡の名目で遠征して来てはいるけど…その、政策に曹操様は口出しできないの。」

 

「そういう事か。」

 

「やっぱりな。」

 

「……」

 

「華琳様」

 

「二人ともそこまでよ!」

 

「え…っ?」

 

「剣を引きなさい!そこの娘も、春蘭も!」

 

「は…はいっ!」

 

その場に歩いてくる華琳の気迫にあてられて、女の子は軽々と振り回していた鉄球を、その場に取り落とした。

 

ズシン!!

 

地面が陥没したんだが、どんだけ重いんだよ。一刀なんか冷や汗流してるし。

 

「…春蘭。この子の名は?」

 

「え、あ…」

 

「き…許緒と言います。」

 

こういう威圧感のある相手を前にするのは初めてなんだろう。許緒と名乗った少女は、完全に華琳の空気にのまれている。

 

「…そう。」

 

そして、華琳のとった行動は、

 

「許緒ごめんなさい。」

 

「えっ?」

 

許緒に頭を下げることだった。

 

「曹操、さま…?」

 

「なんと……」

 

「華琳が頭を下げてる。」

 

「お、おい、華琳。」

 

「あ、あの…っ!」

 

「名乗るのが遅れたわね。私は曹操、山向こうの陳留の街で、刺史をしている者よ。」

 

「山向こうの…?あ…それじゃっ!?…ご、ごめんなさいっ!」

 

「な…?」

 

「山向こうの街の噂は聞いてます!向こうの刺史様はすごく立派な人で、悪いことしないし、税金も安くなったし、盗賊も少なくなって!そんな人に、ボク…ボク…!」

 

「かまわないわ。今の国が腐敗しているのは、刺史の私が一番よく知っているもの。官と聞いて許緒が憤るのも、当たり前の話だわ。」

 

「で、でも…。」

 

「だから許緒。あなたの勇気と力、この曹操に貸してくれないかしら?」

 

「え…?ボクの、力を…?」

 

「私はいずれ、この大陸の王となる。けれど、今の私の力はあまりに少なすぎるわ。だから…村の皆を守るために振るったあなたの力と勇気。この私に貸して欲しい。」

 

「曹操様が、王に?曹操様が王様になったら、ボクの村も守ってくれますか?盗賊もやっつけてくれますか?」

 

「約束するわ。この大陸の皆がそうして暮らせるようにするために、この大陸の王となるの。」

 

「この大陸の…みんなが…。」

 

「華琳、偵察の兵が戻った。本拠地が見つかった。」

 

「許緒、まず、あなたの村を脅かす盗賊団を根絶やしにするわ。まずそこだけでいいから、あなたの力を貸してくれるかしら?」

 

「はい、それなら、いくらでも。」

 

「ありがとう…。春蘭、秋蘭。許緒はひとまず、あなた達の下につける。分からないことは教えてあげなさい。」

 

「はっ。」

 

「了解です。」

 

「あの…夏候惇…さま。」

 

「さっきのことなら気にせんで良い。…それよりも、その力を華琳様のためにしっかり役立ててくれよ!」

 

「は…はいっ!」

 

「では総員、行軍を再開するわ!騎乗!」

 

「総員!騎乗!騎乗!」

 

俺は、号令をかけた秋蘭に近寄る。

 

「なぁ、秋蘭、これが俺の初陣でな、俺は人を殺したことがない。俺は人を殺せるのかな?」

 

「そうなのか。如月、奴らは賊はもはや人間ではない。初めは人間だったが、略奪、殺戮を繰り返していく内に、人間の皮をかぶった獣だ。だから、その獣どもから、村の人々を、そして一緒に戦う我らを、姉者以上のおぬしの武で守ってくれ。」

 

「ありがとう。相談して良かった。その言葉を聞いて、覚悟が決まった。みんなを守るため、この力を振るおう。」

 

「ああ、辛かったらあとで吐き出せばいい。」

 

「ああ、そんときは頼むよ。」

 

大切な仲間を守るため、俺は覚悟を決め、気合を入れた。

 


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