魔法のお城で幸せを 作:劇団員A
俺は今普段はやらないことをやっている。申し訳程度の変装としてデフォルメされたアナグマのお面を被っている。
「おりゃあああ」
「いいぞ、アイク」
「もっとやれ!!」
「名前を呼ぶな!!」
フレッドとジョージと共にクソ爆弾やら球状に固めたスライムやらを廊下にてぶん投げる。あたりは完全にひどい臭いと粘液で完全に大惨事である。
「また貴様らか!!」
「お、フィルチが来たぞ」
「逃げるぞ」
「派手なのは好きだけどこれは趣味じゃないんだよなぁ」
フィルチを廊下の端に見かけたフレッドが知らせて、俺たち3人はその場を走り去って行った。
そもそもなぜこんなことをしているかというと、俺は忍びの地図をフィルチの部屋から奪取するためにフィルチの部屋に忍び込もうとしていた。
そこで騒ぎを起こしてフィルチを動かして、しばらくそこに清掃等で釘付けさせ、その間に部屋に侵入して忍びの地図を盗もうとした手筈である。騒ぎを起こすことには定評がある双子を誘って俺は騒動を起こし、没収された物を取り返したい双子と俺の利害は一致していたので3人で部屋に向かった。どうやら二人は何度も侵入しているようでナビもバッチリである。
ジョージはフィルチの部屋の前に立ち、ごそごそと針金のようなものでドアをこじ開けた。
「それコソ泥の技術だよね」
「マグル式のな」
「意外と役に立つんだぜ」
悪びれもしない二人に苦笑しつつ開いたドアから部屋に入る。中には様々な物が転がっていた。湿気った花火、ドギツイ色をした薬品や液体、用途のよく分からない巨大な置物、様々である、
「大体の没収品はそこに入ってるから」
「やばいやつは特にな」
「ありがとう、二人とも」
俺たちは別れて探し物を始めた。確か、一見するとただの羊皮紙と言っていた。それに呼び寄せ呪文も弾くようにしてあるとかでアクシオも使えない。指差された書類棚をごそごそと漁る。色々とツッコミを入れたくなるような品がたくさんあるのだがそれを無視して羊皮紙を探す。がしかし、どこにも見当たらない。
本当にあるんだろうか。若干不安に思っていると1ついやな考えが頭をよぎる。もしかして、もう燃やしてしまっているのでは?これはあり得る考えだ。だって学生時代に散々手を焼かせていたスーパーアイテムなのだろう、憎くてしょうがないはずである。まさかそのままとっておくわけがあるまい。仕方ない、諦めるか……。
フレッドとジョージの方の様子を見ると、どうやら二人とも目当てのものを見つけたようで、毒々しい蛍光色の液体を持っていた。
「あ、アイク、終わったのか」
「こっちも無事に見つかったぞ」
「あー……。俺は見つかんなかったけど、もしかしたらもう無いかもしれないからさ。とりあえず逃げよう」
「そっか、残念だったな」
「どんまい、何だったら作ってやるよ」
ポンと二人に肩を叩かれて落ち込んだ様子で俺は部屋を出て行った。
忍びの地図が手に入ろうが入りまいが、やがてやって来てしまうものがある。OWL試験である。ということで五年生の割合が多い劇団の部室は軽く勉強部屋と化していた。触発された下級生も宿題やら質問やらでわりと真面目に勉強している。
「きゃあああ!!」
「どうしたシェルビー?!」
「り、リアム。どうしましょう、マーカスが突然女の子に……」
「ちょっ?!フレッドさんとジョージさんですよね!?これ!!」
「「フレデリカもいるぞ」」
「……嘘。私は勉強中。一緒にしないで」
「でもほとんど作ったのはフレデリカだろ?」
「俺たちはあんまり性転換薬には関わってねぇからな」
「……それは認める」
「ちょっとぉぉ?!」
……一部例外がいるが。
「団長、ここ質問なんですけど」
「お、何だい」
「この魔法薬の作り方でこの手順の意味が分からないんですけど」
「ああ、それはだね……」
問題を起こしている一部を除けばみんなかなり真面目に勉強をしている。俺は基本的に軽く復習をしておけばテストは大丈夫なので、下級生や同級生の質問を受けていた。
「アイク先生ぇー、私も分からないんですけどぉ」
「どうしたフローラ」
「なんかぁ、某劇団の某団長がぁ、この前廊下で騒動起こしたって聞いたんですけどぉ、理由ってわかりますかぁ?」
「…………さぁ?」
「クソ爆弾とかスライムボールとか投げまくってたらしいんですけどぉ、何か知りませんかぁ?」
「…………何も知らないなぁ」
「そうですかぁ、何でも一緒にいた双子がアイクと呼んでたらしいんですけどぉ」
「…………アイク?誰それ?俺アイザックだから、アイクじゃないから」
「…………」
「そんなじとっとした目で見んなよ!違うよ!あれは、あの、そう、野生仮面ワイルド・アナグマンだよ。そう縄張りを広げるために人里に降りて来たと巷で噂の!何でもマスクの下はイケメンだとか!」
「…………ハッ」
「鼻で笑った?!」
「うるさいですよ、アイク」
「え、俺だけ」
この前の事件については理由は説明できないので適当にはぐらかしていると注意された。解せぬ。というか俺だってあんなことは趣味じゃないのだ。
「アイク、魔法生物学について何だけど質問いいかしら?」
「あぁ、いいとも是非とも何でも聞いて!!」
ぐるんと天使の声が聞こえた方へ急いで向かう。
「あのね、このページにはこういう特徴が………」
ハーマイオニーの質問を聞きながらちらりと彼女の様子を盗み見る。どうにか普段通りを装っているが、この前は俺に泣きついて来たのでとても心配である。何でもロンのスキャバーズがいなくなり、なおかつハリーに届いたファイアボルトが罠かもしれないとマクゴナガル先生に報告したところ決定的なまでにロンと仲違いし、3人組で動いていないらしかった。
スキャバーズ、つまりピーターの行方が分からずじまいになってしまったのはとても残念だ。おそらくノワールに怯えて何処かに逃げることにしたのだろう。ノワールのせいであり、ハーマイオニーは何も悪くないのだ。
ファイアボルトが送られて来たのは有名で学校でも噂になっていたが、誰だってこの状況でハリーに匿名で送られてきたのだったらシリウス・ブラックを疑うものだ。実際にシリウス・ブラック、ノワールが送ったわけだし、その通りである。それをマクゴナガル先生に報告するのは至って当然のことだ。またロンにとってはクィディッチや箒はかなり特別なものであるし、分解に憤ったのは幼いし仕方ない。これも全てノワールが悪い。
従って考え無しの変態ロリコン犬野郎には軽く折檻をして説教した。しかしいくら考え無しの変態ロリコン犬野郎を怒ったところで3人の仲が元に戻るわけではないのだ。ハーマイオニーの為にも一刻も早くピーターを捕まえなくては。俺は決意を強めた。
「ねぇ、アイク聞いてるの?」
「あぁ、聞いてるとも。それで何だっけ?」
「もう聞いてないじゃないの!!全く、いい?私が聞いているのは……」
彼女の空元気が元通りのただの元気に戻ることを誰よりも俺は強く祈っている。
しばらく勉強していると、思い出したようにハーマイオニーが声を上げた。
「アイク、思い出したことがあるの」
「何だい、ハーミー?」
「あのね、バックビーグが今訴訟起こさせれてるの。助けてくれない?」
「……なに?」
あれか、確かスリザリンの男子生徒を傷つけたとかで訴訟になりそうとか噂になっていた気がする。まさか本当になってしまうとは。こうしてはいられない。
「ステフ!!バックビーグが訴訟になった!!助けなきゃ!!」
「本当ですか!?」
動物大好きステフがこんな事件に黙っているはずないのである。下手したらドラゴンですら猫や犬と同じ感覚で可愛いというステフがヒッポグリフという気高く美しい動物の処刑となることに手を出さないわけがない。
こちらのテーブルに駆けてくるステフはハーマイオニーから事情を聞くと憤慨した。
「全く!!どういうことですか!?授業中に講師の言うことを聞かなかったお坊ちゃんのせいでヒッポグリフが刑に処させるとは!?どうなっているのですか魔法世界の司法は!?」
普段の優しそうな表情は消え、怒ってますと全身で表現するステフ。かなりキレているな、コレ。ステフが俺を上回る怒気を発しているせいで、俺は少し冷静になっている。が、処刑させたくないのは俺も同じである。たとえこれがハーマイオニーのお願いじゃなかったとしても俺は気がついていたならもっと早くから調べるだろう。
「アイク!!絶対に勝ちますよ、この裁判!まずは資料集めからです!」
「ステフー、勉強はぁ?」
「そんなもの後回しですよ!!何としてでも勝ちます!!」
「……ええ。ありがとう、ステフ」
熱意にハーマイオニーが若干押されている。
「よし、じゃあとりあえずは資料集めから始めようか」
苦笑しつつ俺も勝たせる為に努力をすることを決めた。