魔法のお城で幸せを   作:劇団員A

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ステフとハーマイオニー視点です。


役決めとお散歩

今年もハロウィンパーティ前に第一弾の劇をやることになった。今回は初めてギルデロイ先生作の脚本である。

 

「えー、私の脚本が採用されたということで大変恐縮に思いますが」

「別にそんなこと誰も思ってないですよ、先生」

「先生の脚本が面白かったから、みんな先生を選んだのですから」

 

たくさんあるソファに各々が自由に座り、そんな劇団員の前にギルデロイ先生が一人立っていました。前の傲慢な性格は好きになれませんでしたが、こう落ち着いていると高身長でイケメンと目の保養ですよね。

 

「ありがとう、みなさん。えーそれで、私が今回書いた物語の役とその希望者を発表していきますね」

 

端正な顔に緊張の色を滲ませてギルデロイ先生は話していた。私たちは巻物に書かれた物語に軽く目を通して、役を確かめている。ギルデロイ先生が役を発表していき、それに立候補する名前が次々と書き込まれていた。私も脇役の一人に名前を記入する。それをギルデロイ先生とエリスが二人で集計している。今回の話は中世の騎士団と化け物の戦いやお姫様との恋愛などをモチーフにした超大作であり、何週間かかけてやる大掛かりな一幕である。

 

「あれぇ?ステフ、アイクはどこいってるのぉ?」

 

そうフローラがノワールを抱きつつ(身長が足りないため引きずりながら)話しかけてきた。そう、フローラが疑問に思った通りにアイクは今この場にはいないのです。その代わりとしてギルデロイ先生とエリスが代理として指揮をとっている。今回アイクは大勢のモブ役やら背景の細かい動きを担当するとして元から決まっていたのでそこまで影響はない。

 

それにフレデリカ、フレッドとジョージの3人による破天荒な実験同様に、団長であるアイクが突発的に行動をとったりすることには慣れているため大して支障はない。一番酷かったのは「限界に挑戦したい!!」といって有りっ丈のチョークを使って一人で人型を大量生産して部室で一人戦争ごっこをしていた。かなり細部まで凝っており、途中から劇と化していたが。

 

「なんでも『ハーマイオニーとデートだぁ!!』と叫んでたので」

「なるほどぉ、それなら絶対に来ないよねぇ」

 

妹に対する溺愛っぷりは団員みなが知っていることであり、妹が誘えば絶対に行くだろう。

 

「それにしてもハーマイオニーも珍しいねぇ、今まであんまり頼ってこなかったでしょぉ?少なくとも突然にはぁ」

「そうですね。なんでも勉強の相談と言ってましたよ」

「成績良いもんねぇ、アイク。魔法史以外はぁ」

 

アイクのスペルミスは未だに治らないのですが、不思議でなりませんよね。実技系も完璧ですし、箒と魔法史以外は大抵なんでもできますから。要領がいいんでしょう。

 

私たちは手持ち無沙汰なのでノワールを撫でたりして戯れる。このもふもふ感がたまりませんね。

 

「……私も触りたい」

「私も!!」

「ノワールくんぎゅー」

「あ、いーな。俺もしたい」

「もふもふ!」

 

すっかり大人気ですね、ノワール。次々と集まる生徒と私の黒く柔らかい愛犬をほっこりした気分で見つめていた。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

るんるんと楽しそうなアイクに少し苦笑しつつ私たちはお菓子を片手に二人で喋っていた。そばにはクルックシャンクスがのんびりと伸びをしたり近くをうろちょろと歩いている。

 

「この前の習った新しい魔法薬についてなんだけどね、私授業で一番早く作れたの」

「流石!!賢いね、ハーマイオニー。君は間違いなく首席になるよ!!何を作ったの?」

「くたびれ薬よ。完璧に調合できたわ」

「あーあれか。ふむふむ。確か途中でヒガナ草とアナコンダの目玉を使うよね」

「えぇ、そうよ。ちゃんと覚えているね、アイク」

 

こういうときに普段ははっちゃけているような兄が確かに頭が良いことを思い出す。先ほどまで話していた別の科目、呪文学や変身術の知識も正確であったし、私がまだ習い始めたばかりの科目についても的確なアドバイスをしてくれた。

 

「うん。それで確か、その目玉を入れた後にヒガナ草を少しずつ加えていくんだと思うけど、目玉を入れる前からヒガナ草を少量ずつ入れていくとより早く完成するよ。それ以外にも確か色々コツがあったと思うけど」

「そんなこと考えたこともなかったわ。教科書通りにやれば作れるもの」

「ハーマイオニーは言われたことは完璧にできるのだから、もう少し余裕を持った方がいいと俺は思うよ。なんでも正攻法だけが正解じゃないないからね」

 

正攻法だけが正解じゃない……。なるほど、確かに言われてみれば少し私は教科書通りになりすぎたかもしれない。アイクの言う通り自由にやることもときには重要なのかも。まぁ今年はそんな余裕ないのだろうけど。

 

「そういえばシリウス・ブラックが脱獄した理由ってハリーを狙ってらしいわ。アイクもハリーに注意して、何かあったら手を貸してあげてね」

「うわー、マジだったのか。冗談で言ってたのに。ハリーはよく厄介事に巻き込まれるね。大変だ」

「本当にね。少し同情するわ」

「まぁダンブルドア校長も吸魂鬼もいるから、誰かが手引きしたりすることをしなければホグワーツに入ってこれないと思うよ」

 

窓の外はいつものこの時期に比べると暗く、遠くに黒い靄のようなものが飛んでいるのが見えた。私たちが汽車でも見た吸魂鬼たちである。

 

「ハリーがホグズミードに行けないのは良かったかもしれないわね。校外は危険だと思うし」

「確かにね。それでどうして急にハーミーは俺に相談をしに来てくれたの?」

 

いつもこうである。私の不安や心配に対してアイクはすごく敏感だし、最優先してくれる。アイクは少し真面目な顔をして私の顔を心配したように覗き込んでいる。そんな彼の表情は幼いときから変わっておらずじんわりと安心感が私の胸に生まれた。

 

「少し勉強に疲れちゃって。それだけよ」

「そうかい?それに関してはハーマイオニーはいつだってパーフェクトだよ!むしろ今年はいつも以上に気負いしすぎてる気がするから少しは肩の力を抜いたほうがいいと思うな」

「そうかしら」

「うん。でもそれだけじゃないよね?」

 

確信しているようにそう言い切るアイク。小さい時からこうである。やっぱり隠し事は無理ね。それに見破られることを期待している私も確かにいた。

 

「何か困ってることがあるなら迷わず俺に相談してくれていいんだよ?もちろん、無理にとは言わないけどね」

「いいわ、言うわよ。私今少しだけロンと喧嘩してるの、クルックシャンクスが原因でね」

 

そういって陽だまりのように温かいオレンジ色をした毛並みの愛猫を膝に座らせる。クルックシャンクスは私の体に甘えるようにすり寄って来た。

 

「なぜかロンのネズミを捕まえようとするのよ。それでロンと少し仲が悪くなっちゃって」

「そうなのか。ロンのネズミだけ?他の、例えばホグワーツにいるネズミは捕まえようしないの?」

「え?そういえばそうね、なぜかロンのネズミだけだわ。ホグワーツの他のネズミたちを捕まえようとしたところを見たことないわね」

「んー、なんでだろうね。賢い猫なのになぁ。どうしてロンのネズミなんだよぉー、クルックシャンクスー」

 

アイクがクルックシャンクスをくすぐり、気持ちよさそうに身を捻っている。言われてみれば不思議なことである。ロンのネズミに何か特別な要素があるのかしら。

「それ以外に何かあるの?不安に思ってることならなんでも聞くよ?なんて言ったって俺は君のお兄ちゃんだからね!!」

「あとは占い学の教授とソリが合わないのよ」

「あー、あの人か」

 

ハリーに死神犬が取り憑いているだの信憑性の無いような不幸な内容をもっともらしく告げることなどをアイクに愚痴る。アイクはそれをうむうむと頷いてくれていた。

 

「あの人は必ず毎年誰か死ぬとか予言してくるからなぁ。ちなみに俺たちの年はフローラだったけど全く本人は気にしてなかったし、結局今も生きてるからね。気にしなくていいよ。それにそんなに気にくわないなら履修やめて他の科目にすればいいんだから」

 

そう言ってアイクは朗らかに笑う。それからローブを探りながら立ち上がった。取り出したのは鮮やかな青色をした笛である。その笛って確かデザインが気に入ったからっていってこの前の家族旅行でフランスの露店で買ったものはず。それから私に向かって手を差し出す。

 

「『お嬢様、わたくしがあなたにとっておきの魔法を見せてあげましょう』」

「ふふふ、それ前にやってた劇のセリフよね。アイクが主演だった」

 

確か一昨年の冬にやったものであり、魔法使いの青年がマグルのお嬢様に一目惚れして執事として仕えるといった恋愛劇であった。アイクが今言ったセリフは終盤でお嬢様に向けて言ったものであり、同時に桜の雨が舞台だけでなく会場中に降り注ぎ、まるで夢のような景色であった。

 

「それでアイクは私に何を見せてくれるの?」

「見せるってよりは体験するかな。ひと時の空の旅をお楽しみくだいってね」

 

そう言って取り出していた青色の笛を吹く。綺麗に澄んだ音色が辺りに響き渡った。何かを待っているか遠くを見ている。訝しんでいると動物の嘶きが聞こえ、それと同時に何かが空からやって来た。

 

「おーい!!こっちこっち!!」

 

ばさりと風を切る音とともに一匹の幻獣が現れた。美しい白銀の毛並み、橙色に輝く一対の瞳。これは、ハグリッドの授業で見たあのヒッポグリフじゃないかしら。驚いている私を他所に白銀のヒッポグリフにアイクはじゃれついている。

 

「やぁ!!バックビーグ!相変わらず綺麗だね!最高に美しいよ!!プラチナのような毛並み、琥珀のように澄んだ瞳!!力強い四肢に空を掴むその気高き翼!!最高!!!」

 

わぁぁっと降りてきたヒッポグリフにしがみつき、丁寧な手つきで体を優しく、しかし激しく撫でている。気難しいと言われているヒッポグリフにそんなことをしては襲われるのではと不安に思うがヒッポグリフもそんな賛辞を当然と毅然とした態度で受け入れており、アイクのじゃれつきを気持ちよさそうにしていた。

 

「アイク、ヒッポグリフで事件が起きたからしばらくハグリッドは生徒が近づけるのはやめたと思うけど」

「俺からじゃなくてバックビーグから来たから問題ないよ。ねぇ」

 

そういってヒッポグリフの首をアイクは優しく抱きつき。なんでも授業で仲良くなりその時に吹いた笛の音を気に入ったようで授業外でも遊んでいるのだとか。アイクはヒッポグリフに跨って再度私に手を差し伸べる。

 

「ハーミーおいでよ!!とっても楽しいよ!」

「……ええ、わかったわ」

 

私はアイクの手を取ってヒッポグリフに跨る。

 

「よし行こう!!バックビーグ!」

 

アイクがヒッポグリフに声をかけると大きく鳴いて、青空に私たちは飛び立った。

 

 

 

 

 

 


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