ミューズの頑張り物語   作:月日星夜(木端妖精)

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ラブライブ!サンシャイン!!二期放映開始記念連続更新。

本日二回目の投稿です。


第六話 "冷血"ミューズ

 

 お昼をクザンさんと一緒するようになってから、なんだか寝つきが良くなった気がする。

 相変わらず海賊を殺す時は心が重いけれど、美味しいおでんを食べると体が温まる。食欲不振にもよくきくね。

 でもやっぱりおでん屋さんは女の子を連れてくる場所じゃないと思うのです。

 

「クザンさん、クザンさん、必殺技教えてくーださーいな」

「なんだいミューズちゃん、藪から棒に。必殺技ねぇ……」

 

 大将って呼ぶなーって言われたから名前で呼び合う関係になりました。最初はクザンおじさんって呼んだんだけど、「あらら、お兄さんじゃないのか。ま、そんな年でもない……」と言いつつも拗ねてしまったので普通にクザンさんって呼ぶことに。いい年して子供っぽい一面もあるのがかわいい。とっつきやすいともいう。

 

 クザンさんは話しかけると必ず返事をしてくれるから好き。見かけるとどんな時でも話しかけに行っちゃう。

 面倒くさげにしててもちゃんと構ってくれるんだよね。でも書類仕事から逃げるのはいけないと思う。部下の人達が代わりにやるから帰るのが遅くなっちゃってるんだって。ブラックはだめだぞ。

 

「話している時に急に寝る……クカー」

「それガープさんの必殺技じゃないですか」

 

 というか必殺技じゃないし!

 私はヒエヒエの実の力を使った必殺技教えて欲しいの!

 ほーしーいーのー! と地団太踏めば、呆れたような目で見られてしまった。ぐぬぬ。

 

「っつったって、ミューズちゃん使えないじゃないの」

「使えるようにするんですー」

「どうやって? ……まさか俺の首を狙って」

「ません!」

 

 ハッ! と気づいたクザンさんが首元に手を当てるのに否定する。

 ああ、クザンさん殺せばヒエヒエの実がどっかに現れるから今の結論に至ったのか。

 そういう物騒なのじゃなくて、ほら、雪とかなんかで再現できるかもしれないでしょ。

 技のレパートリー増やしたいのもあるしなので、聞こうと思ったのです。インスピレーション湧くかもしんないしね。

 パクッた技ばっかじゃさすがにダメだなーと思ったの。アレンジとか、オリジナルとか、色々考えなくっちゃ。

 

 それに、最近元気になってやる気も出てきたから、うおーっとひとっ走りDr.ベガパンクのところに行ってみたのよね。

 特権階級は結構行動に融通が利くのだ。面会できたからお話したりタル大砲作ってとお願いしたりしてたらなんか二人きりにさせられて「なぜ月に行こうとするのか」と問い詰められたけど、神様に会いに行くのだと胸を張って答えたら凄い微妙な顔されちゃった。

 私の夢だぞ! 笑うなよ!

 ……別に笑われてはいなかったか。協力してくれるみたいだし、特権階級様様だぜ。

 

 黄猿のレーザー要求したらめっちゃ勿体ぶった上に渋々作ってくれることになった。

 いいぞー、後は冷気製造機と溶岩製造機作ってー。あとねあとね、なんかゴム的な武器とか海楼石の武器とか雷的な何かとかとかとかとか。

 

 叩き出された。

 

 あんまりいっぺんに要求しちゃいけなかったみたい。

 でも私知ってるんだ。科学部への融資制度。お金注げば注ぐだけ影響力が出てくるというあれ。

 海軍もお金で苦労してるみたいだけど、私は懐暖かいから。ご飯はクザンさんが奢ってくれるし、海賊殺せば懸賞金の1割が手当てとして出るし。いや億越えとかは生きて連れてきて欲しいみたいだから、だいたい1割以下になっちゃうんだけどね。

 

 それでも使い道のないお金はたっぷりある訳で、これを全額科学部にぽい。

 晴れて私は科学部の偉い人になった。わはは、よきにはからえーみなのしゅー。サラバ!

 つきましては船の上でもクリームソーダ食べられる機械作ってよね。

 

 ……お金はたっぷり、で思い出したんだけど、私は赤犬のお家を貸してもらって過ごしている訳で、衣食住お世話してもらっている立場だ。だから家賃代わりにお金を渡そうとしたら、あの人「いらん」って一言だけ。初給料で浮わついてた心もすっかり消沈しちゃったのを覚えている。

 

「ま、あんまり根詰めすぎないようにな」

「肝に銘じておきます。恐縮です」

「……ふっ」

「……ふふ」

 

 ごちそうさまをした後に本部に戻り、別れの挨拶をする。おふざけするみたいにわざとお堅い喋り方をすれば、なんだか楽しい気分になれた。

 この気持ち、随分長いこと忘れていた気がする。なんでだろう。私はいつもお気楽だったと思うんだけどな。

 

 

 

 

 さて、今日は海に出る予定も無し。書類仕事を頑張るぞーと自分に与えられた部屋に戻る。

 ふっふっふ、私は本部大佐だぞ! 専用のお部屋も副官もつけられるくらい偉いのだ!

 ……ほんとは私が子供だから、代わりに書類等作成できる人が必要ってことでつけられた部下なんだけどね。お部屋もそのため。

 なんだか特別扱いされてるみたいで気持ち良い。えっへんえっへん。

 

「おはよ。さて、ちゃちゃっと片付けようかー」

「はっ!」

 

 大きな机の前の椅子に座り、扉横で待機してたお堅い女性に声をかける。

 さらっさらのロングヘアーな黒髪に鋭いブラウンの瞳の、ええと、名前はなんと言ったかな。

 とにかく彼女が私の副官。階級は曹長。……日が浅いとはいえ、何回も一緒に仕事してるのに名前わかんないのはなんでだろう?

 

 首を傾げつつてきとーに報告書の作成やら会議の説明やらに目を通す。あ、今度式典あるんだ。私も出席しなくちゃいけないのか。面倒だなー。

 カリカリカリ。部屋の中にはペンが紙を掻く音だけが響く。私と副官さんに会話はない。

 ちらっと横目で見れば、彼女は緊張に身を固くして一心に書類を睨んでいた。

 

 机仕事が苦手ー、という雰囲気ではない。ならこれは……ひょっとして。

 席を離れ、部屋に備え付けのポッドを使って紅茶を淹れる。二人分。

 

「ぁあっ、あのっ、そういう事は自分に言っていただければ……!」

「はい、あなたの分」

 

 慌ててやってくる彼女へカップを渡せば、大人しく受け取って、やり辛そうに床を見ている。

 自分の分を淹れつつ、この反応はやっぱりあれかなーと当たりをつける。

 

「副官さん、もしかして私のこと苦手に思ってる?」

「はっ……はあ!? あ、いえ、いえいえいえ、そのようなことは!」

「ふふっ、わかりやすいよもう。そっか、苦手かー」

「そっ、あ……うう、申し訳ございません……」

 

 しんなりする副官さんを見上げつつ、紅茶にミルクとお砂糖をどばどばいれる。

 うーん、この人もまた背が高い。純日本人風だけど鼻梁(びりょう)はスッとしてるし手足長いし腰細いしモデル体型。

 しかしこの世界の美女の例から零れ落ちてしまったのか、お胸は私と真剣勝負できるレベルである。

 かあいそう。コアラししょーのをわけてあげたい。8割くらい。

 

 じぃっとお胸を見ていれば、怪訝な顔をされてしまった。

 

「あの、自分に何か……?」

「ううん。……でもなんで? 私、なんか苦手に思われる事した?」

「えっ……」

 

 ただ一緒に書類仕事したりしてるだけなのになんでこんなに苦手意識を持たれているのかわからない。

 そう思って問いかけたのだけど、彼女から聞かされたその理由は、ここ最近の私の行動が原因だった。

 

「大佐殿は、その、ご自分がなんと呼ばれているか……ご存知ないのでありますか……?」

「うん。えー? 私に二つ名とかついてるの? どんなの?」

 

 二つ名がついてるなんて知らなかったよ。いつの間についたのかわからないけど、どんなのかすっごく気になる!

 「黒腕の」とか「白猟の」とかかっこいいやつかな!

 

「れ、"冷血(れいけつ)"ミューズ……」

「ん?」

 

 ……ん?

 ……それってどういう意味??

 

「あの、大佐殿は、あまりにも何も言わず、その、問答無用で海賊を(あや)めていくので……同僚も、同じ船に乗っている者もとても恐れてしまっておりまして……」

「ああー……あー、あー」

「さ、最近は大佐殿は随分明るくなられました! しかしどう接すれば良いのか戸惑うばかりで! 不肖ミサゴ、口を(つぐ)むことしかできず……!」

「まあ、うん。それは仕方ないというか……」

 

 ははあ。私ってみんなの目にはそういう風に映ってたんだ……どおりで誰も話しかけてこない訳だね。

 まあ、たしかにちょっと前の私はすこーしばかり海賊を追い回すのに熱を入れていたけど、こないだ本来の目的を思い出したし、今は全然そんな事はない。

 それで気が抜けちゃったのかわかんないけど、あれ以来正義のコートを肩にかけられなくなっちゃったんだよね。すぐずり落ちちゃうから留め具で止められるようにしてもらった。

 

 ……ああ、この人の名前がわからなかった理由もわかった。私、この人に話しかけた事一度もなかったや。

 ここへ配属された日にこの人が自己紹介してるのも無視しちゃったし、話しかけられても知らんぷりしてた。会話する暇も意味もないと思ってたから。

 最近急に話しかけちゃって、そりゃ薄気味悪がられたよね。ごめんね。

 

「い、いえ……はい」

「でもこれからはちゃーんとたくさん話しかけるから、お返事してくれると嬉しいな」

「お、お任せください!」

 

 ビシッ! と敬礼してくれた彼女……さっきミサゴって名乗ってたかな? に私も緩く敬礼を返す。

 あはは、略式でいいのにね。

 

「それじゃあもうひと踏ん張り、頑張ろう!」

「はい!」

 

 暗かった室内も、なんだかちょっぴり明るくなったみたい。

 やったね。話し相手ができたから、これで退屈な書類仕事も華やぐよー。

 

 

 

 

「准将殿、ガープ中将から呼び出しがきておりますが……」

「んぇ? ……なんか粗相したかな」

「はあ、何か心当たりがあるのでしょうか」

 

 それはー……ありまくるけどー。

 主に海賊をいっぱい殺した事とか、アライブオンリーの賞金首殺っちゃってたとか……。

 でも階級上がったから結果オーライだよね。ありがとー五老星。たぶん政府の上の方だよね、私の昇進促してるの。だってそうじゃないとヘンだもんね、こんなにぽんぽん偉くなってくのは。

 それで嫉妬とかされてないのは、赤犬がついているからか、私が冷血と思われているからか……。

 たぶんどっちも、なんだろーなー……。

 

「じゃ、ちょっと行ってくるね。後お願い」

「はい、ご武運を」

「いや武運は祈らないで欲しいかな」

 

 それじゃ私が折檻されに行くみたいじゃん。そういうのだったらきっとガープさんの方から乗り込んでくるだろうし、大丈夫大丈夫……たぶん。

 

 という訳でガープさんの待つ部屋へ行ってみたら、なんとコビー君とヘルメッポ君を紹介された。

 遠征の折、骨のある新兵を見つけたから預かってきたんだって。

 おお、それってこの時期だったんだ。

 

 ……うん? 待てよ、このコビー君達ってこれから短期間でめきめきと実力を伸ばすとはいえど、麦わらの人達に会いに行くのはウォーターセブン編直後……つまり時間が経ってから、になる。

 そうすると、私が海軍に入ったのっていつだろう。

 

 ……もっと言うと、前に出逢えた麦わらさん達。あれはどこまで進んでいた彼ら彼女らだったんだろう。

 さらにさらに追及すると、革命軍時代、私が月に行こうとしてた時って……麦わらさん達はどこにいたんだろう。

 

 ……ひょっとして、必死こいて月を目指していたあの頃にはまだ神様は月にいなかったのでは……。

 

 と勝手にキョドッていた私だけど、ガープさんの説明は初めて二人に会った私に向けて一から説明しただけのもので、何も最近連れてきた訳ではないらしい。

 言われて考えて見れば、本部に連れてこられたばかりの二人ならばもっと弱っちい感じのはずだ。

 でも既に二人は体格も良く、ヘルメッポくんはかっちょいいサングラス? をかけている。

 いいなあ、私もそれ、欲しいなあ。

 

 比較的年が近く、見込みのある三人だから仲良くやれと言われた私は、敬礼したままぶるぶる震えている二人をじろじろ見上げて脅かしてやった。

 これは私の冷血という噂を知ってるな。子供相手に汗まで流しちゃって、初々しい。

 

 これから切磋琢磨していきましょうね! と花のかんばせを見せてあげれば、ようやく緊張が収まったみたい。顔を見合わせてほっと息を吐いている。

 でも単なる子供だって侮るのはいけないと思うよー。海にはちっちゃくたって強いのがいっぱいいるんだからね。

 

 

 

 

 なんか黄猿のおじきにお昼誘われた。

 ……モテ期かな?

 

 ちょうどクザンさんがいなかったので、一人で食べるよりはと承諾。

 あらかじめ予定していたのか、お洒落なカッフェに連れてこられた。

 えええ意外!! こういうところ来るんだ、とびっくりしていたら、「こういう場所の方が嬉しいでしょう?」と優しい気遣いが見え隠れ。

 

 うんうん、もうそろ思春期の可愛い女の子をおでん屋さんにばっかり連れていくどこかのおじさんとは違って女心をわかってる!

 でも黄猿の雰囲気がこのお店の雰囲気に致命的なまでに合ってない。全然気にしてないみたいだけど。

 ……ワイルドだ!

 

「赤犬のしごきにもついていけて、心根もまっすぐだと評判だよォ。今からでもうちに来て欲しいくらい。おぉ~~……これ奢ったら………来るかい?」

 

 あはははは。私そんなに安い女じゃないです。

 というかしごきと言われても、特に何かされてる訳でもない。勘違いかな。

 ……心根がまっすぐとか噂してるのは誰? 会ってみたいなあ。だって私、怖がられてるんだよ。そういう噂は聞いた事ないし……。

 

「はふぅ……」

 

 クリームソーダを奢ってもらっちゃうと心がぐらぐらする。

 ああー、黄猿のおじきについて行っちゃいそう……。

 いやいや駄目だよ。赤犬に殺されるわ。

 今もうお家じゃ、おいたが過ぎて直接手を出されるくらいにまでなっちゃってるんだから、殺されるまで秒読み状態なのだ。

 

 最近気分が良いからお家で鼻唄歌ったりしてるんだけど、そうすると時々じぃっと見られたりするんだもん。あれは「ああ鬱陶しいのう!」って目で言ってたんだと思う。

 仕方ないから蔵から埃被ったお琴引っ張り出してきてぴんぺん引いたりしてる。音楽は癒されるよ……さくらさくらとか引いちゃう。懐かしいなー、小学生の頃の音楽の授業を思い出す。私小学生だった事ってないけど。

 赤犬の心も癒されろーとぴんぺん。ああ風情風情。和風なお庭と琴のコラボレーション。でもお庭の池にでっかい生き物を見た気がするのは気のせいかしら。

 

 

 

 カッフェタイムは雑談している間にあっという間に終わりを迎えた。

 支払いは全部黄猿持ち。出口までエスコートしてくれる彼は、きっとモッテモッテなんだろうな。惚れちゃうぜ。

 でも引き抜きは受け付けません!

 

「そいつは残念だねぇ。ま、気楽にやんなさいよォ」

「はい。今日はありがとうございました!」

「お相子ってことで」

「……?」

 

 あおいことはなんの話だろう。黄猿のおじきには何もしてないし、なんにもされてない。

 よくわかんないけど……というかそれより、会う人会う人みんな私に「気楽に」とか「根詰めすぎないように」って言うんだけど、そんなに踏ん張ってるように見えるかなー私。

 

 

 

 

 で、夜。なんか赤犬がめっちゃ怒ってる。

 理由はわからないけど私に怒ってる感じだったので縮こまっていれば、上着を押し付けられた。

 

「何しちょる。行くぞ」

 

 背を向けて外へ出る赤犬を追う。

 そうするとご飯屋さんに連れてこられた。

 どういう気の向きようだろう。赤犬が外食に連れてきてくれるなんて……。

 

 赤べこっていう牛鍋が美味しいお店だった。

 店内は和風の内装で、和服の人も多い。ははあ、だから私も着物羽織るよう渡されたんだ。ドレスコードってやつかな。

 特に会話はなく、黙々とご飯をもぐもぐ。

 

 沈黙は辛いが前よりは平気。全部きっちり平らげて、お腹いっぱい大満足。

 そうすると眠くなってきてしまう。帰り道、夜風に当たっても眠気はちっとも吹き飛ばない。

 お家に帰って寝る前のあれこれを済まし、すぐに寝床に向かう。

 

「なんじゃあ……琴はやらんのか」

「えっ」

 

 寝ぼけまなこを擦りつつのろのろと外側の廊下を歩いていれば、後ろから来た赤犬に声をかけられた。

 言葉の意味がよくわからなかったので聞き返せば、何も言わず自分の部屋に戻って行ってしまった。

 ……弾けって命令されたのかな。じゃあ眠くてもやらなくちゃだね。

 

 という訳で琴を引きずって(言葉の綾です)赤犬の寝室にお邪魔する。

 ろうそく一本の灯りが揺らめく薄暗い部屋は風情があって、小さな机に向かって何か書いていた赤犬を視界の端っこにいれつつ、テキトーに「愛してるばんざーい」を弾き語りした。

 

 ふああ、ねむねむ。さっさとお部屋戻って眠りましょー。

 

 

 

 

 翌朝、鼻唄に言及された。

 何を歌ってるんだなんて聞かれても、色々としか答えようがない。

 とか答えたらぶん殴られそうなのであせあせと大好きなアイドルの歌だと白状する羽目に。

 

愛弗(あいどる)? なんじゃあ、それは……」

「す、スクールアイドル、です……私の名前と同じ名前のグループがいて、ぇと、名前の意味、9人の歌の女神って言って、なので、私、その人達がすごく好きで」

「……」

 

 会話はそこで終了。赤犬は特に興味を持った様子も怒る様子もない。

 ほっとした半面、少しばかり残念な気持ちになった。

 赤犬もスクールアイドルのファンにならないかなー。

 無理か。この世界のどこを見回しても一人もいないし、音源もないし。

 

 あ、じゃあせめて私が歌って伝えよう。ちゃんちゃかちゃんちゃか、るるらー。

 夜とか非番の日とかに弾きまくってたらうるさいって怒られた。

 騒がしい曲は好かないんだって。でもリリホワの曲はお気に召してる感じがする。

 ふふふ……このまま一気にトリコにしてやるぜ。

 

 

 

 

 ベガパンクに極薄ゴム手袋作ってもらった。

 へっへっへ、これで神様にもパンチが当たるぜ。

 私考えたんだ。きっと神様を仲間にするのには一悶着ある。

 覇気が使えるからってそれで満足して挑んだら敗北は必須。だからこういう小細工も必要なのだ。

 

 大砲までは作ってもらえなかったけど、よく考えてみればえっちらおっちら月歩でいけばいいだけの話だったので、お休みの日に月に向かう。

 といってもさすがに体力が続かないかなー。やっぱ大砲作った方が良いかな?

 とりあえずは体力が切れるまで試してみようっと。

 

 

 

 

「まじかよー」

 

 小さくため息を吐いた私は、腰に手を当てて呟いた。

 

 ついちゃった、月。

 

 う゛ぇ゛え゛、空気が薄い。それに体が軽い。

 月は地上の6倍重力が軽いのです。豆知識。

 

 空の彼方には青く輝く生命の星、宇宙船地球号が浮かんでいる。

 正真正銘、月面に、私は立っているのだ。

 偉大なる一歩。そして、大きな地球……。

 

 美しい星だ……一瞬で消し飛ばしてしまえばよかろう。

 それじゃあ(ぼく)の気がおさまらないよコアラさん。

 いやコアラさんはそんな事言わないけど。

 

 ふと頭に手をやって自分をナデナデ。

 もしこの偉業を成し遂げたのが革命軍時代だったなら、帰還と同時に32発くらい拳骨くらっただろうなあと考えると感慨深いというか懐かしい。みんな元気にしてるかな。

 

「む」

 

 第一村人発見。

 何やら夜戦服的な衣装を身に纏った小さな影がクレーターの縁から顔を覗かせてじぃっとこっちを見ている。

 なので、私もじぃっと見つめ返す。

 

「!」

 

 うわ、見つかった! みたいな反応をした髭もじゃ顔の小動物は、手にした槍ごと体を引っ込めた。

 しばらくして、再びそーっと顔を出す。

 いや。そんなすぐ顔出したって私まだ見てるからね。

 

「!!」

 

 驚愕の表情を浮かべたもじゃ動物は、飛び上がって反転すると、すたこらさっさと逃走を開始した。

 ふぅむ、見た事ある。あれ見た事あるぞ。具体的には扉絵とかで。

 

 クレーターというのは半球状のくぼみだ。向こうへ逃げ出したもじゃ動物は反対側の縁に姿を現すだろうと眺めていたのだけれど、いつまで経っても現れない。

 不思議に思ってクレーターを覗き込めば、あれ? もじゃりんが消えてる。

 

 こんな時に役に立つのが見聞色の覇気である。

 私の類まれなる才能と美少女っぷりは武装色以外の力をも私に与えたのだ。

 覚醒の理由がミューズ工房でのお仕事をばれないようにこそこそしてたからなのが情けないけど。

 結局ばれたし。

 うーん、未熟。

 

 そんな私の見聞色をとくと見よ。

 縁でうつ伏せになって目をつむり、片耳に手を当ててよーく音が聞こえるようにして耳を澄ませる。

 するとほら、聞こえてくるぞ、『右足の蹴り……』。

 

「なーんてね」

「?」

 

 さすがにそんな声は聞こえないぜ。たはー、と一人でノリツッコミ。

 顔を上げれば目の前に人影。

 半裸の神様が首を傾げて私を見下ろしていた。

 

「…………」

「…………」

 

 完全に思考が停止する。

 頭の中が真っ白になって、ただただ瞳の中に神の姿を焼き付けた。

 

 あ、ああ……!

 

 会いたかった……! この日を何度夢に見た事か!

 次第に胸に広がる感動に打ち震えていれば、黄金の棒が私の顎下へ差し込まれ、ぐいっと持ち上げられた。

 強制的にゴッドを見上げる体勢に。

 ううっ、背中が痛い。

 

「誰の許可を得て」

 

 ひやあああ。

 ゴッドのボイスが耳朶を打つ。

 こんな声だった、そうだった、こんな感じこんな感じ!

 

「私の王国に踏み込んだ」

 

 棒が離れていく。

 いそいそと立ち上がった私は、制服の汚れを手で叩いて落とし、次にしわを伸ばしてきっちり背筋を伸ばして立つと、ゴッドを見上げて真剣な表情を作った。

 

「お前、(おれ)の仲間になれ!」

 

 ずっと前から決めていた第一声は、未来の海賊王リスペクト。

 麦わらにこうされて喜んでついていかない者はいなかった……。

 それを真似すれば当然ゴッドといえどもついてくるでしょ、きちゃうでしょー。

 

 わくわく、きらきら。神様の返答を待つ。

 大きな大きな背丈の彼は、私を見たまま耳をほじくると、おもむろに口を開いた。

 

「不届き」

 

 月面上に太鼓の音が木霊する。

 あわれ、私は黒焦げになった。

 スイーツ(笑)

 

 

 

 

 ゴム手袋意味なかったわ。

 というか雷に耐え切れず破けちゃった。駄目じゃん。あえなく地球に叩き返されてしまった。

 おまけに頑張ってマリンフォードに戻れるよう調整して落っこちたのに、たまたま居合わせた赤犬に見つかって大目玉食らわされてしまった。

 

「弱きは罪じゃ!! 弱いもんなどわしの下にはいらん!」

「すみません! すみませんっ……!」

「基礎から鍛え直してこんかい!」

 

 黒焦げの部下に言う言葉ではないと思うものの、怖いので平謝りする。

 とはいえ怪我を治してからじゃないと動けない。半日手当てに時間をとって、それから久しぶりに訓練場に駆け込んだ。

 最近は実戦ばかりだったけど、基礎訓練も大事だよね。頑張りましょ!

 ……なんて、頭ではわかってても、実は納得してなかったり。

 基礎からだなんて今さら過ぎる。私は海賊をバッタバッタ薙ぎ倒せる准将様だぞ!

 新技もばんばん考えて、たくさん技使えるようになったんだ。でもまだまだ増やしたい。基礎を鍛えなおしてる暇なんかないんだい!

 

 

「こいつは耳が痛いねぇ~~……つまりはぁ、あれだろ。基礎がなっちゃいないのに必殺技は駄目でしょって事だろう?」

「ボルサリーノさん!」

 

 夜遅くまで訓練場を借りていれば、ひょっこり黄猿のおじきがやってきた。

 ちなみに名前呼びなのは、青雉にそうしているなら自分にも、と自然な流れで促されたのでそうしている。 

 

「なのかも、です。でも……」

「青いねぇ~……青春だねぇ。よォし、手伝おうか」

 

 え、手伝うって……?

 羽織っていたコートをはためかせて歩んできた黄猿は、お手並み拝見とばかりに突然飛び込んできた。

 っ!

 

「おっと待った。その話……俺もいっちょ噛ませてもらうとするか」

「青雉ィ……珍しいじゃないか。どういう気の向きようだい?」

「なに、そいつが成長して、赤犬を超える女になれば、悔しがる顔でも見れるかと思ってな」

「おーおー、おっそろしい事を考えるねぇ」

 

 わ、わわ。クザンさんまで来ちゃったよ。反応した黄猿のおじきがその場でピタッと止まって振り返る。

 コキコキと首を鳴らしたクザンさんが黄猿に並ぶ。そうすると二人ともが私を見下ろした。

 うへ、大将並び立ち。これじゃ目の前に立つ私が極悪人みたいじゃん。それにこの身長差、なかなか微妙な気分になっちゃうな。

 

「んじゃあいっちょ、手合わせ願おうかね……ミューズちゃん」

「どれ程強いのか見させてもらうよォ~」

 

 言葉はそこまで。

 今度こそ飛び込んできた黄猿に対処すべく、右足に武装色の覇気を纏わせて真っ黒に染め上げ、ぐんと蹴り抜いた。

 

 

 

 

「こういう泥臭いのも、たまにはいいねぇ~」

 

 どこか懐かし気な顔で呟く黄猿に、ヘトヘトになった私はへたり込みながら首を横に振った。

 光の速さに追いつけるわけないだろ! いい加減にしろ!

 なんて抗議する気力ももうない。でも大将に直接指導して貰えたのはとても貴重な経験だ。

 技も盗めそうだし、とっときの必殺技なら大将クラスにも普通にダメージ通るってわかったし。

 

「ってて。結構やるじゃないの。いやマジで」

「正直もうちょっと弱いと思ってたよォ。よく追いつくねぇ光速に」

「光の速さって言ったって人なんですし、人対人の動きが当てはまれば、まあ……」

「ふぅん」

 

 だめだー。もう無理。大の字になって倒れ込む。

 硬い土の匂いを胸いっぱいに吸い込んで熱とともに吐き出す。

 冷たい土が気持ち良いー。ごろごろー。

 

「こらこら、はしたない。泥まみれじゃないの」

「いーいーんーでーすー。泥まみれにしたのは二人じゃないですか」

「まぁまぁ……よぉし、飯でも食いに行きましょうや」

「賛成!」

「うお! 復活した!」

 

 ご飯と聞けば元気になるのが女の子だ。

 特におじきはこっちのリクエスト聞いてお店変えてくれるから有望株!

 今日はねー、今日はねー、ケーキバイキングいきましょ!

 

「んん? いつから四皇の話になったんだ?」

「海賊じゃなくて食べ放題ですよ! よっ!」

 

 ぴょんと飛び上がって着地し、体の汚れを落とす。

 これは、ご飯の前にシャワー浴びちゃわないと。

 

「私、一回家に戻りますね」

「了解。街の方で合流しようか」

「それでは!」

 

 たたたーっと足を回転させて訓練場を出る。疲れは心地良いものに変わっていて、汗も乾く前に帰宅できた。

 大急ぎでシャワーを浴びて頭も体も乾かして、外行きの服に着替えて、赤犬に一声かける。

 

「お食事に呼ばれましたので、出かけてまいります!」

「待て」

 

 早々に出かけようとしたのだけど、呼び止められてしまった。

 うっ……もしかして駄目って言われるかな。どうしよう、せっかくのお誘いなのに。

 足取り重く赤犬の下に戻れば、立ち上がった彼は自分が羽織っていた肩掛けを私にかけると、それだけして座っていた場所に戻った。

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 新聞を広げて、もう私を見ようともしない彼に頭を下げ、そそくさと外に出る。

 今度は呼び止められなかった。

 ひょっとして、湯冷めするからってこれくれたのかな。へんなの。

 

 意図がわからず、でも肩掛けはあったかい。

 布を掴んで落とさないようにしながら街への道を急いだ。

 




TIPS
・愛してるばんざーい!
μ's(ミューズ)の曲。

・スクールアイドル
素人である高校生が好きなように歌って踊る流行りのアレ。

・酸素
吸える。

・とっておきの技
半分オリジナル。

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