そら飛べワンチャンダイブマン ~1日1回個性ガチャ~   作:AFO

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U.A.FILE.07 Class No.02
MINA ASHIDO

個性
『酸』
 No.3にて『酸』ってなんやねんと筆者を苦しませた例の個性だ!
 普段は溶解液として噴出しているので、おそらく『酸』の中でも『硫酸』を用いているのだと思われていたんだぞ。
 分子としての『酸』を体内で生成できるのであれば他の酸はもちろん、応用次第で物をつくるに至るのでは──と考察を重ねていたのだが、そもそもの話、この『酸』は化学の分野のものでなく『架空の溶解液』ではないかという話が出て以来その説が濃厚となっているぞ。
 本当に考察が意味を為さない。もう駄目だぁ。かっちゃんはニトロ的な汗とか中途半端に言及してるのに!!
 彼女の肌の色は個性の影響らしいが、それならもう『エイリアン』っていう名前の異形系個性でよかったんじゃないかな。
 まあ出番もろくにもらえてないのも個性が謎な原因だぞ!
 ちなみに身体中からぴゅっぴゅできるので、うっかりすると服が溶けて裸になってしまう。夜の営みではお相手を溶かしてしまうし、修学旅行じゃみんなと一緒の風呂には入れない。だって危ないもん。電車もダメ。バスもダメ。基本公的施設は利用できない。危ないもん。なにかあったら敵になっちゃうんだよ!? って。
 生まれながらに業を背負わされた少女。もういっそ敵堕ちしていいからな、頑張れエイリアン少女!

ミナズツノ
 指で弾くとピコピコする。感じそう。なんかえっち。
ミナズヘア
 ピンクは淫乱と俗に言う。ピンク髪は恋愛キャラとも言う。一応『恋だ』『恋愛に結びつけたいーー!!!』と恋愛の権化のような台詞があったけれど、そんなことなく、そもそも出番がない。
 主人公に向いてない色である緑、緑髪は不人気、の緑をあえて主人公にしたあたり、あえてピンク髪を封殺した説がある。
ミナズメ
 白目の部分が黒い。八木俊典くんは陰になってて黒いみたいだけど、この娘は普通に黒い。
ミナズモモ
 なんかえっち。健康的。
ミナズハダ
 紫っぽいピンクの妙な色素。なんかえっち。触ると溶けると言われていじめられたことがあると思う。堀越先生はなんてものをいたいけな少女に押しつけたんだ。彼女が明るいのは、過去の裏返し説。
 道に迷った人に間違った道をわざと教えて『殺されると思ったー!!』とか抜かしたのには多分過去の闇が起因している。


No.8 どういうことよ お茶子さん

 

 緑谷出久の朝は早い。

 

 早朝4時頃に起床。マンションの屋上へ向かう。そして一日一回のワンチャンダイブに身を捧げる。

 それから小一時間ほど、自身に発現した『個性』の解析に努める。

 

 登校時間も早い。移動方法は足による走行。遠回りすることで調整し、毎朝数十キロのランニングを経て学校へ向かう。

 

 授業が終われば個性の研究。クラスメイトの話を聞くのはもちろん、時には他クラスや上級生も訪ねる。ヒーローを目指す者の集う雄英だけあって、多種多様の『個性』の持ち主が在籍しているのだ。それを活用しないでどうしよう。

 

 下校はもちろんランニング。ケンタッキーに寄るのは日課だ。

 

 帰宅後も、『個性』を活かすための体力づくりや勉強。発現した『個性』についても、考えられる範囲の応用を試す。

 

 場合によっては『無個性』同然になってしまう緑谷出久だ。これだけ必死でやらなければ、ヒーローにはなれない。

 また、緑谷出久には『無個性』を理由に努力を放棄していた時期がある。その時間を取り戻すために、彼は人一倍の努力をしなければならないのだ。

 

 もう、努力しても意味のない『無個性』ではないのだから。

 

 言い訳は、できない。

 

 とまあ、ここ最近で特に。自分の追い込みを始めた緑谷出久だが、それには理由があった。

 

   *

 

 時は遡り……雄英高校、1-A教室。

 

 

「まだ戦いは終わってねぇ」

 

 満身創痍の相澤消太が言った。つまるところ、俺たちの戦いはまだこれからだ! 未完!

 というわけではなく。

 

「雄英体育祭が迫ってる!」

 

「クソ学校っぽいの来たあああ!!」

 

 ということだった。

 

   *

 

 雄英体育祭。それはクソ学校っぽいの。オリンピックが廃れた個性社会において、『かつてのオリンピック』に変わる大規模クソ学校っぽいの。全国のトップヒーローまでもがスカウト目的に訪れるクソ学校っぽいの。

 

 クソ学校、っぽいの。

 

 進路さえ左右するクソ学校っぽいのだ。もちろん緑谷出久にとっても重要なクソ学校っぽいの。なんとしても、いい成績を残さなくてはいけない。

 

 クソ学校っぽいのはもう二週間後にまで現実として去来している。

 あまり時間はない。それまでに自身の個性の探求と、あらゆる個性への研究を進めなくてはいけない。

 

 体力づくりもまた然り。

 

 

 

 その日の放課後、緑谷出久たちは白いおじさんの元を訪れた。笑顔で迎えるおじさんは上から下まで余すところなく真っ白だ。黒尽くめならぬ白尽くめ。見た目は子供頭脳は大人な名探偵とは相反する真っ白。

 それは異形系に非ず、それもおそらく、どんな個性も持っていない。しかしおじさんは個性がなかろうと人々の笑顔を作り出すことができる。

 

 緑谷出久にとって、彼はオールマイトと並ぶ巨匠だ。

 

 彼の名はハーランド・サンダース。

 そして緑谷出久が訪れたその場所はケンタッキー。

 

 ケンタッキーフライドチキンには、ただのフライドチキンにはない魔法がかかっている。

 外はカリカリ中はジューシー。溢れ出す肉汁に誰もが発狂──

 

「──キエエエ!!」

「ど、どうした緑谷!?」

「んあうん。……ああ。えっと、上鳴くんの個性は『帯電』だっけ。電気、いい個性だと思うけど……」

 

 緑谷出久がケンタッキーを訪れた名目は、作戦会議。

 体育祭に備え、クラスメイトとともに個性の応用について話し合おうというものだ。こちらは多種の個性を知ることができ、向こうには個性の応用を提案する。両者に得がある。

 

「いやそうでもねーんだって。俺のは『発電』じゃなくて『帯電』。纏うだけ。それも操るわけでもねえから、細かい電圧調整も思った場所に撃つとかのできねえんだよ」

 

 話し相手は上鳴電気。個性について訪ねると、その欠点を打ち明けた。

 

「……それだと電気機器は使えないか」

「それだけじゃねー。使い過ぎると、その……ショートする」

「轟くんするのか……注意だね。じゃああまず使い方だけど、何かこう……金属チェーンみたいなのを武器にすればいいんじゃないかな。それに電気を流せば狙いはつくと思うよ。あくまで流すだけだから、むやみに放電するよりは節約できるはず……」

「お、いいじゃんそれ!! 電気なしでも武器になるし!」

「それからさっき言った電気機器だけど、コスチューム要望に電圧変換器みたいなのをつけられないかな? それなら自分で調整する必要ないし。どこでも電気が使えるって重要だと思う。電気を動力源にしてるものって多いから、下手に電気を撃つより安定するし用途も増える。家の電気製品だけでもバリエーションは多いでしょ。電気って機械を通せば光、熱、動力、音いろんなエネルギーに変換できるから、一口に電気だけじゃない。いっそパワードスーツみたいなのを使えば自分を動力源にできるわけだし……」

「お、おう……。そういうのパッと出てくるってすごいよな……」

 

 上鳴電気は圧倒された様子の後、どこか考える素振りを見せた。それを受け、緑谷出久は他のクラスメイトの方を向く。

 

「峰田くんの個性はなんだっけ?」

 

「……」

 

 次なる話相手は峰田実。峰田実は無言のまま、頭から球体をもぎ取る。そしてテーブルに押しつけた。

 

「超くっつく。体調によっちゃ一日たってもくっついたまま。オイラ自身にはくっつかずにプニプニ跳ねる」

「くっつく……! なるほど、粘着性のある球体か。瀬呂くんの『テープ』と同系……巻き取る使い方は使えないけど、球体だから粘着面積が広いのと、粘着力、分離する手軽さで差別化してく感じか……」

「……本当に馬鹿にしねーんだな」

「? なんで。いい個性だよ。どういう原理でくっつくのかは知らないけど、取って地面に置くだけでもう罠になる。個性が相手に割れる前は奇襲に、割れた後は牽制に使える。上鳴くんにした話じゃないけど、ロープの先端につければ瀬呂くんと似たような使い方もできる。自分にくっつかないのを利用するなら、クッションみたいな用途でもいける……数が必要だけど。防がれやすい個性だけど、応用は効くし。というか戦闘に限らず、救助で見ても──」

「緑谷、おめえ……」

「あれ? というかコレ危険な個性だぞ。敵の顔に張り付いたら呼吸困難になるんじゃ……。下手にその辺──車道とかに落としたら大惨事だ。電車の線路とか特に。ちなみにこのテーブルにくっつけたのはどうするの? まさか取れないとか……」

「……」

 

 店には一日程度で取れると説明して謝った。

 

 

「障子くんのも応用の効く個性だよね!」

「……そうだな。緑谷ならどう使う?」

 

 障子目蔵。個性『複製腕』肩から生えた触手の先端に身体の部位を複製できる個性。

 

「やっぱり目や耳を複製して視覚情報、聴覚情報の収集が基本だよね。索敵に使える。腕を生やせば攻撃のリーチも伸びるし。触手全部から腕を出して通信交換したみたいになれば相手を押さえ込むのにも使える。ちなみに複製っていうけど、痛覚ってどうなってるの? なければ強引な使い方でもいいわけだから、壁や無茶な攻撃も……いや無痛覚でもビジュアル的にマズいかな。障子くんはどう使ってる? その辺も参考に教えて貰えると……」

「いいぞ。俺の使い方を聞いた上でのお前の意見を聞いてみたい」

 

 

 そんな流れで。真面目な会話の後に談笑もしつつ、程々の時間で解散。

 

 

 

 放課後ケンタで談笑した後。

 

 帰宅すると、次は自分の『個性』の探求に移る。

 指で壁を叩く。すると、通常よりも鈍い音を発した。通常の人体と壁の接触では聞かないような音だ。

 

(なるほど……わかりにくいけど、これは『骨を硬質化させる』個性だ。どおりで見た目じゃわからないわけだ)

 

『ワンチャンダイブ』によって発現した個性はランダムであり、緑谷出久自身でさえ自覚するのに時間がかかる。パッと見で判る異形系が一番わかりやすい。何かを身体から発する類であれば違和感を感じるので、個性を発動しようとすれば、発動だけはできる。やっかいなのが視認できず、感覚でもわかりにくいもの。

 

 本日のような、人体の内部が強化されるものは気づきにくい筆頭だろう。

 

(骨……うん。骨だ。これはどうだろう、骨だけ強化されてても、皮膚と肉は弱いままじゃ少し困るな。その辺はコスチュームでカバーするべきなんだけど、僕の場合は道具で備えるにも限界があるし……)

 

 

 そうした日々をくり返し。

 

 彼は毎日屋上へ通った。命を絶つ方法はたくさんあるが、その大半は痛みと苦しみを伴う。一番容易なのがこのワンチャンダイブだった。

 銃による全弾込めたロシアンルーレットも候補に上がるが、銃は手に入らないので度外視。

 

(さすがかっちゃん。合理的だ……)

 

 

 ある日は『足の長さを伸ばせる』個性。

 

「緑谷さぁ……なんか身長伸びた?」

「足だけ伸びたよ」

 

 攻撃のリーチが伸びる程度だった。

 

 

 ある日は『髪がわかめになる』個性。

 

「うわっ、何この臭い!!」

「ごめん。僕の個性なんだ……」

 

 磯の香りが教室に蔓延した。

 

 

 ある日は『全身が真っ黒になる』個性。 

 

「教室に犯人がいるんだけど!!」

「半年間すいませんでした!!」

「僕としては真っ白の方がよかったんだけど……」

 

 

 ある日は『恐竜になる』個性。

 

「緑谷……!? お前恐竜って……緑で小さくてなんか丸くって……ほとんどガチャ(ピー)ンじゃねーか!!」

「誰か赤い雪男連れてこい!」

「切島くんでいいよ! 赤いし!」

 

 

 ある日は『皮膚が硬くやすりのようになる』個性。

 

「服ズタズタだなお前」

「骨が硬くなるのと一緒にくれば最高だったんだけど……」

 

 分析の末、『鮫肌』と断定。

 

 

 ある日は『眼球が飛び出る』個性。

 

「目玉出てる!? グッロ!!」

 

 流石に用途がなかった。明らかに爆死していた。

 

 

 

 ──そして二週間はあっという間に過ぎ。

 

 ──雄英体育祭、本番当日!!!

 

(これでよかったんだろうか……)

 

 入場直前にも関わらず、緑谷出久は浮かない顔で俯いたまま。

 

 本日の緑谷出久の『個性』は──未定!!

 

 彼はその日、まだワンチャンダイブしていなかった。

 無個性そのもの。素の人間である。

 

(いや、これでいいはず……!)

 

 二週間、『ワンチャンダイブ』の探求に力を入れた。

 飛び降りる場所も自宅のマンション以外にも、例のビルや学校の屋上とバリエーションを増やした。

 そうしてわかったのは、本当にランダムだと言うこと。使えるものから使えないものまで幅広く、場合によっては『無個性』と変わらない。どころか何の『個性』が発動しているのかさえわからないことも多々あった。

 

 そこで緑谷出久が重要と考えたのは、発動した『結果』ではなく、『過程』。

 命を落とすということは、無論肉体に傷が付いているわけだが、しかし発動後はそれが消え去っている。これまでのを思い返しても、死に至った時の傷は治っていると見ていいだろう。もちろん治るのは肉体のみで服はそのままだ。

 

 記録や上級生に聞くなどして過去の体育祭を調べた結果、『無個性』では命を落としかねない内容があった。

 

 ならば、下手な個性のまま挑むよりも渦中での大事に備える方が賢明だと判断したのだ。

 

 コスチューム使用不可というのは誤算だったが、それでもにわかに鍛えた身体はある。もう、もやしではない。屈強なもやしだ。毛が生えた程度ではない。毛まみれの屈強なもやしだ。

 努力の成果は、確かにある。

 

 

 ──緑谷出久。暫定『無個性』。

 

 数々の『個性』の使い手が犇めく祭典に、単身、挑む。

 

 

 

 第一種目は障害物競走。

 

 緑谷出久は良いスタートこそ切れなかったが、しかし確実に進んでいった。

 やることは、走り込みによって力を付けた足で、駆けるのみ。第一関門のロボットは、半ば漁夫の利を得るような形で走り抜けた。

 第二関門も同様、ここから落ちれば個性が得られるんじゃないのかなという欲望を跳ね退け無事通過。

 

 しかし『無個性』。悲しいかな『無個性』。

 

 切り抜けたのみで、先頭との差は大きい。

 

 最終関門。開けた場所に出た緑谷出久。視界のずっと奥に、先頭である轟焦凍と爆豪勝己の姿があった。

 到底追いつけない距離だ。

 

(遠い!! でも──!!)

 

 緑谷出久は、足に力を入れる。身体に喝を入れる。

 

(諦めちゃだめだ!! これ以上距離を広げないよう──)

 

 

 意気込み大きく踏み出す緑谷出久の足下で、かちりと、嫌な音がした。

 

「──あ」

 

 

 そして緑谷出久は、爆死する。

 




 THE・補足

○No.2 はりさけろ体操服の地の文「しかしその中で、ヒーロー科は僅か2クラス、計36人しかいない。」

 読者の方の誤字報告から
「これどゆこと?さっぱりわからんかった」という感想を抱きました。
 わかりにくくて本当に申し訳ありません。
 もちろんただの誤字という訳ではなく、
 実はすでに相澤先生が除籍指導していたのです。その数4人。「雄英での新生活面白そう!!」と口にしたら「お前Plus Ultra(除籍)な」されたのです。

 このコーナーがこれで最終回となるよう、
 もっと皆さんにわかりやすく、明朗快活、楽しい小説になるように鍛えます。あああああああ!!
 

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