カルデアがダブルマスター体制だったら。   作:バナハロ

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反省と後悔は紙一重。

 全力でジャンヌ様に謝りながら、森の中に逃げ込んだ。近くに霊脈があるそうで、召喚サークルを作った。

 で、ようやく落ち着くことが出来た。とりあえず、岩の上に座って全員に問い詰めた。

 

「で、なんで来たんだよお前ら」

「……………」

 

 問い詰めるが、全員答えようとしない。マリー・アントワネットと面白い人以外目を逸らしている。

 

「おい、こっち見ろバカども」

「………申し訳ありません。私の責任です、田中さん」

 

 ジャンヌ様が俯きながら呟いた。

 

「街から誰かが戦う音がしたもので、もしかしたら田中さんがワイバーンに狙われてるのかもと思って………」

「……………」

 

 ああ、野良サーヴァント二人とワイバーンの戦闘音か。いや、でももしもの場合はロマンが伝えてくれるって言ってたし、わざわざ来ることもなかったろうに………。

 

「ああ、それは私達のですね。ドラゴンが襲って来たものでつい応戦してしまいました」

「あれ、あなた達だったんですか?」

「とにかく、来なくて良いっつったんだから来る必要なかったんですよ。マシュ達が来たことによって、こちらのサーヴァントのクラスも相手にバレる所だったんだから」

 

 そう言うと、沖田さんがムッとして言い返して来た。

 

「そんな言い方ないじゃないですか!こっちは心配になったからわざわざ行ったのに!」

「だーかーらー、来ても全滅しちゃ意味ないだろ!」

「それに、ドクターさんから『彼から万が一の時は、敵の情報を伝えるように言われてるけど……君達はどうする?』なんて言われたら嫌でも不安になります!」

「あ、あいつ!余計な事を………!」

「私はマスターを決して好きというわけではありませんが、それでマスターを見捨てるのは話が別です!」

 

 くっ……流石武士というべきか………!ありがたいお言葉だ。だけど、戦争中でその精神は褒められない。

 

「ま、まぁまぁ、変態のあなた。結果的には私達という仲間も増えたんですし、あまり怒らなくても良いのでは?」

「や、まぁ結果的に言えばそうだけど……」

「それより、自己紹介させてくださる?」

 

 なんか自己紹介タイムになった。まずはマリー・アントワネットからだ。

 

「私の真名はマリー・アントワネット。クラスはライダー。どんな人間なのかは、どうか皆さんの目と耳でじっくり吟味していただければ幸いです。それと、召喚された理由は残念ながら不明なのです。だって、マスターがいないのですから」

「ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト。僕も、彼女と右に同じ。何故自分が呼ばれたのか、そもそも英霊なのか、まるで実感がない。確かに僕は偉大だが、しかし、それでも数多くあった芸術家の一人に過ぎないんだが……」

 

 続いてこちらサイドの自己紹介。まずはマシュが立ち上がった。

 

「私はマシュ・キリエライト。デミ・サーヴァントで真名は分かっていません。こちらは藤丸立花。私のマスターです」

「チーッス」

「まぁ、面白い挨拶ですわね。ち、チーッス!シクヨロ!」

「先輩……変な挨拶教えちゃダメですよ………」

 

 なんだ、意外とノリいい人なんだな。

 

「私は沖田総司、セイバーです。で、誠に遺憾ながらさっき公衆の面前で変態行為に走った奴のサーヴァントです」

「あ、俺は田中……」

「で、あなたがジャンヌ・ダルクですのね?」

 

 おっと、スキップされましたよ。スタートボタン押したの誰だよ。

 

「フランスを救国すべく立ち上がった聖女。生前からお会いしたかった方の一人です」

「………私は、聖女などではありません。先程、汚されてしまいました」

「大丈夫ですわ。盛った類人猿に触られたくらいノーカンですもの」

 

 いや言い方。逃げるためなんだから仕方ねーだろ。

 

「それに、あなたの生き方は少なくとも真実でした。その結果を私達は知っています。だから、皆はあなたを讃え、憧れ、忘れないのです」

「まぁ、その結果が火刑であり、あの竜の魔女なわけだが。良い所しか見ないのはマリー、君の欠点だ」

 

 アマデウスが口を挟んだ。

 

「いいかい、マリー。君はいつも他人をその気にさせ過ぎる。たまには相手を叱り、否定する事も大切だよ」

「そんなこと、アマデウスに言われなくても分かっています!こ、こうすれば良いのでしょう⁉︎この音楽バカ!人間のクズ!」

「ああ、そうだ。そんな感じだ」

「変態!キチガイ!大勢の人の面前で女性に恥をかかせる男として最低の人種!」

「おい、なんで俺に矛先向けてんだよ」

「露出魔!」

「パンツ男!」

「ど変態!」

「なんでお前らまで参戦してんだよ!」

 

 藤丸さん、マシュ、沖田さんを黙らせてると、アマデウスが言った。

 

「そんな感じでジャンヌにもかましてあげなさい」

「おい、てめえジャンヌ様に向かって何言わせる気だコラブッ殺すぞ」

「それに、それは無理よアマデウス。ジャンヌには欠点がないんだもの」

 

 よく分かってらっしゃる。マリーとは良い酒が飲めそうだ。

 

「………本気か。これは重症だ。君はそこまで好きだったんだな。ジャンヌ・ダルクが」

「好き、というより信仰ね。あとはちょっとの後ろめたさ。小さじ一杯分くらいのごめんなさい。愚かな王族が抱く、聖女への当然の罪悪感」

「………マリー・アントワネット。あなたの言葉は嬉しい。でも、だからこそ告白します。生前の私は聖女などというものではなかった。私はただ、自分の信じたもののために旗を振るい、そして己の手を血で汚した。その先で、どれほどの犠牲が出るのか想像すらしなかった。後悔はしなかったけど、畏怖する事もしなかった。それが私の罪です。そんな小娘を聖女と呼ぶのは……」

「そんな事ありません」

 

 沖田さんが口を挟んだ。

 

「私にはジャンヌさんの生前に何があったのか分かりませんが、上からの命令だから、相手は江戸幕府を脅かす危険分子だからと言い訳を重ね、自分の剣に何の責任も乗せずに、ただ眼前の敵を斬り捨てていた私などと違って、あなたは自分の夢のために、何か理由があって戦に臨んでいたのですから、それは悪いことではないと思いますよ」

「………沖田さん」

 

 ………会話に入れねぇー。まぁ、そういうのは英霊にしか分からないんだろうな。

 よし、ジャンヌ様がへこたれているのは俺も嫌だ。何か言おう。

 

「しかし、私はとても聖女などと呼ばれるには……」

「ジャンヌ様」

「は、はいっ」

「この世には、国によって様々な法があるし、人によって各々の正義は違います。………が、一つだけ絶対不変万物平等森羅万象オールマイティジャスティスがこの世にあります」

「は、はぁ……?」

「ほう、それは気になるね」

「なんだというの?」

 

 アマデウス、マリーが聞いてきたので、俺は少し溜めを作ってから答えた。

 

「それは『可愛い』だ!全ての『可愛い』のために人は全てを捧げ、全ての『可愛い』が全ての人間の行動原理となっている!」

 

 グッとガッツポーズを作りながら熱く語った。顔の前で両手をクロスさせながらポーズを取ると、シュバッとジャンヌさんを指差した。

 

「つまり、何が言いたいかと言うと、ジャンヌ様、あなたは可愛い」

「い、いきなりなんですか⁉︎」

「だから、正義はあなたにある。過去に何があるか知りませんが、今、可愛いあなたが正義なんです。我々は、そんなあなたとの共闘を望んでいるのです」

 

 あれ、自分で何言ってんだか分からなくなってきた。まぁいいや、とにかく勢いで誤魔化せ。

 

「とにかく!ジャンヌ様可愛い愛でたい結婚したいということで」

「あっ、あのもう分かりましたから!やめて下さい!恥ずかしいです!」

 

 ふぅ、まあそれで良いや。すると、今度はマリーが口を挟んできた。

 

「ねぇ、私は可愛いのかしら?私は正義?」

「え?まぁ、顔だけなら可愛いんじゃねぇの?」

「じゃあ私も正義ね!」

「まったく、馬鹿なこと……ねぇ?先ぱ」

「私は?私は?」

「先輩⁉︎」

「藤丸さんも可愛いよ。中身は割と斬れ味鋭いけど」

「じゃあー、マシュは⁉︎」

「うえっ?わ、私は別に……!」

「超可愛い大人しそうな雰囲気と口調なのにオッパイ大きくてギャップが可愛い」

「ど、どこ見てるんですか!」

 

 よし、盛り上がって来た。この流れでこれからの行動を決めよう。と、思ったら今度は沖田さんがソワソワしながら俺をチラチラ見ていた。

 

「ああ、お前は全然可愛くねーから」

「んなっ……!な、なんでですかー⁉︎」

「当たり前だろ!マスターをサンドバッグのように殴る蹴るし呼吸するように暴言吐くし、お前の事可愛いとかいう奴の気が知れないわ」

「全部自業自得じゃないですか!」

「うるせーバカバカバーカ脳筋!」

「子供かあんたは!」

 

 なんて俺と沖田さんが喧嘩してる間に、クスッと微笑んだジャンヌにマリーが言った。

 

「ねぇ、あなたは聖人ではないのですよね?」

「え、ええ。少なくとも、私自らそう名乗ることはできません」

「なら、ジャンヌと呼ばせてもらっても良い?」

「え、ええ。勿論です。そう呼んでいただけると、なんだか懐かしい感じがします」

「良かった。それなら、貴女も私をマリーと呼んで?あなたが聖人じゃないただのジャンヌなら、私も王妃ではない、ただのマリーになりたいわ」

 

 アイドルみたいなこと言いだしたな、と思った直後に沖田さんの蹴りが脇腹に直撃したため、俺も殴り掛かった。

 

「ね、お願いジャンヌ。私をマリーと呼んでみて?」

「は、はい。では遠慮なく。………ありがとう、マリー」

「こちらこそ嬉しいわ、ジャンヌ!」

 

 そう二人が微笑み合ってる間に、俺は沖田さんに取っ組み合いの喧嘩を挑んで返り討ちに遭った。

 

 ×××

 

 とりあえず、マリーとアマデウスに現状を説明した。黒ジャンヌ様だけでなく、カルデアの事も説明した。

 

「成る程……。現在はそうなっているのですね」

「まぁな。で、とりあえず奴らに対して圧倒的に足りないのは頭数だ。だから、これからサーヴァントを探しに行く。いや、霊脈も見つけたし召喚もする」

「探しに?どういうことですか?」

 

 ジャンヌ様が聞いてきた。

 

「さっきマリーとアマデウスを見ていたときから思ってたんだ。こいつらは誰が召喚したものなのか。聖杯を持ってる黒ジャンヌ様は知らないみたいだったしな。そこで、そもそも現状がどうなってるのかを考えた。これが仮に聖杯戦争だと考えたら、何で聖杯はすでに相手が持ってるのか。聖杯を巡る戦争なのに聖杯を最初から持ってるんじゃ戦争にすらならない」

「………確かに」

「だとしたら、この聖杯戦争は何処かバグってる事になる。そこでルールを変更し、聖杯を巡るのではなく聖杯を奪う戦争になったと俺は考えてる。そして、そのためにマリー、アマデウス、ジャンヌ様は召喚されたんだ」

「それが何?」

「つまり、まだ何処かに召喚されたサーヴァントはいるかもしれないって事だ。流石に聖杯持ちにサーヴァント三人だけって事はないだろ」

 

 そう説明した直後、マリーが手を打った。

 

「なるほど……!それらを探し、味方に引き入れれば……!」

「そんなに単純な話じゃないよ、マリー。そいつが敵になる可能性だってある」

「ああ。向こうは探知性能付きルーラーがいるんだ、俺達よりも早くサーヴァントを見つけることができるし、最悪俺達が仲間を見つける度に戦闘になる」

 

 それは少し面倒だ。こちらの消耗の方が激しい。

 ………それに、向こうの軍師がまともなら、こちらが戦力を欲しがってることもバレてるはずだしなぁ。それなら簡単なゲームになる。野良サーヴァントを探知してそれ餌にして俺達釣って総攻撃すれば向こうの勝ちだ。

 だが、こちらも何かしら行動せねば勝ち目はない。

 

「………まぁ、とりあえずしばらく考えてみるから。みんなは明日に備えて寝ててくれ」

「………寝てて良いの?」

「もう夜も遅いからな。ジャンヌ、マシュ、藤丸さん……あとアマデウスかマリーのどちらかも寝てくれ。バ……沖田さんは悪いけどまた付き合ってくれる?」

「今、バカって言いかけませんでした?」

「じゃあ、僕が起きていよう。マリーは先に寝てくれるか?」

「分かったわ。じゃあ、みんなおやすみ」

 

 さて、とりあえず明日の作戦でも考えないとなぁ。そう思って顎に手を当てて俯いてると、沖田さんが小さく欠伸をした。

 

「ふわあ……」

「眠いなら寝てても良いぞー」

「いえ、大丈夫、れす……」

 

 ていうか、昨日起きるの一番遅かったくせに………。

 と、思ったら沖田さんは俺の肩の上に頭を置いた。よく、さっきまで取っ組み合いの喧嘩をしていた相手に身体を預けられるものだ。

 ………童貞の俺にこのシチュエーションはキツイ。顔が近いんだよ。沖田さんは黙ってりゃ可愛いし、こういうシチュエーションになると心臓がドキドキする。

 

「仲良いじゃないか、君達」

 

 アマデウスが口を挟んで来た。

 

「ねぇよ。嫌われてるし命令は無視されるしロクなもんじゃない」

「さっきの話を聞いた感じだと、君はみんなに待機命令を出したんだろう?それを無視して、危険な場所に助けに来てくれたのなら嫌われているわけではないんじゃないか?」

「………だからって、命令違反は良くないだろ。今回はマジで結果オーライだ」

「まぁ、僕もマリーも彼女達に救われた側だ。君は、僕達を見捨てて敵の戦力を見定めるつもりだったんだろう?」

「…………」

 

 バレたか。まぁ、その通りなんだが。

 

「いや、君の立場になればそれは当然だ。僕達の正体は分からないし、味方になる保証もない。その上、戦えるサーヴァントだ。敵の戦力を見るにはうってつけの二人組が敵と戦おうとしてるんだ、だから君を責めるつもりはない。でも、結果論であれ僕達は君の仲間に救われた。だから言う、彼女達を怒らないでやってくれ」

「いや別に怒ってねーよ」

 

 ただ、今回の事で分かったのは、うちの連中はどいつもこいつも良い奴ばかりだ。誰かがピンチになっていたら命令や任務を無視して助けに行ってしまう。

 これからは、それらも頭に入れて作戦を決めなければならないという事だ。

 

「………まぁ、安心してくれ。アマデウスもマリーも、仲間になり戦力と数えられる以上は捨て駒にはしないし見捨てたりもしない。今は、一人でも戦力が欲しい状態だからな」

「ああ、それに関しては信頼してる。君は任務を第一に考えてるし、戦力の低下は任務の失敗に繋がる。誰かが死ねば士気も下がるからね」

 

 よく分かってらっしゃる。

 

「………田中くん、だったかな?」

「そうだけど?」

「肩の力抜きなよ」

「は?」

「割り切るのも良いし、間違っていない。だが、無理に割り切るといつか崩壊する」

「…………別に、無理になんて割り切っていない。ただ、俺の頭の中で考えられる最善の手を常に考えてるだけだ」

「それなら良いさ」

 

 アマデウスはそれきり黙ってしまった。何なんだ?俺が無理してるとでも言うのか?

 残念ながらそれはない。これは仮にも戦争だ。戦争に勝つには、感情を捨てて必要なあらゆるステータスのアップに神経を注ぐしかないんだ。

 そう頭で思い込ませて、とりあえず再び作戦を練り始めると、コテンと沖田さんの頭が俺の膝の上に落ちた。

 

「……………」

「……すぴー」

 

 クソッ……本当こいつ見てくれだけは可愛いな………。なんか頭撫でたくなって来た。いや、まぁこれ以上嫌われたくないから撫でないけどな。

 ………まぁ、その、何?可愛いから少し頭の中に焼き付けておくだけだ。

 そう思って、沖田さんの寝顔を見つめてると、なんか寝言が聞こえて来た。

 

「………ふへへっ、ますたーのすけべー」

 

 沖田さんの頭を掴んでぶん回しながら木に叩きつけた。取っ組み合い第2ラウンドが始まった。

 

 


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