翌日。薄っすらと目を開けると、目の前に沖田さんの顔があった。あれ?なんで一緒に寝てるの?恋人?と、思ったが、そもそも野宿の真っ最中だった。割と寝心地は悪くない。
「……………」
………沖田さんの寝顔を見て、不覚にもときめいてしまった。この人、黙ってりゃ超可愛いな……。しかも、確か沖田さんって享年26だったよな?とてもそうは思えないほど、幼い寝顔だ。
「……………」
いや、落ち着け。騙されるなよ、俺。マスターに平気で暴力を振るう奴だぞこいつは。見てくれの良い奴にろくな奴はいない。ジャンヌ様は除くが。
とにかく、もう少し寝よう。それで全部忘れよう。そう思って目を閉じようとした。何を枕にしたのか覚えてないけど、なんか頭の下が柔らかいし、せっかくならもう少し寝………。
「………お目覚めですか?」
上から声を掛けられた。ただ、もう起きてたのがバレたか……。そう思って上を向くと、ジャンヌ様の顔があった。
「っ………ふぁい、おはようございます………」
「はい、おはようございます」
あれ、待って?なんか顔近くない?ていうか、この柔らかさって……太もも?
もしかしてこれ、膝枕………?
「………あの、ジャンヌ様?」
「なんでしょう」
「………なんで膝枕してんの?」
「いえ、その……我々のリーダーとも呼べる方を地面で寝させるわけにはいかないと思いまして………」
………ジーンと来た。今、ジーンと来たよ。こんな風に俺を扱ってくれる女性はいなかった。
「あれれっ?なんで泣いてるのですか⁉︎」
「………ジャンヌ様、あなたが唯一の良心です……」
「は、はい……?」
意味わからないかもしれないが、マジでそうなんだって。みんな俺に対して当たり強いもん。
「だから、もう少しここで寝てても良いですか?」
「………いえ、あの……そろそろ起きないと……」
「………ジャンヌ様の太ももいい匂いする……」
「っ⁉︎な、なんでうつ伏せになるんですか⁉︎」
「クンカクンカスーハースーハー」
「そんな息をしないでください!」
怒られたので、俺は仕方なく起き上がった。気がつくと、藤丸さんとマシュは俺をゴミを見る目で見ていた。変態は死ねという目だ。
「おはよう」
「………おはよう」
「………おはようございます」
「とりあえず、朝飯にしようぜ。腹減ったわ」
その視線を全く無視して、俺は再び膝枕されながら言った。
「なんで飯にするのにまた寝転がってるんですか田中変態」
「ロリコンじゃありませんフェミニストです」
「起き上がらないと盾で押しつぶしますよ」
起きた。すると、ジャンヌ様は言いにくそうに目を逸らしながら声をかけて来た。
「………あの、田中さん」
「なんですか?」
「………そのっ、もう、お昼です………」
「へっ?」
言われて空を見上げた。太陽が真上に上がっている。どう見ても朝、という位置にあるようには見えなかった。
うん、まぁ、その、何?一言で言うなら、寝過ぎた。
少し反省しながら、ふと横を見ると沖田さんはまだ寝ていた。綺麗な寝顔をしてる癖に腹を出しながら。こいつ、俺より酷いんじゃねーの?と思わざるを得なかった。
×××
みんなで起きて、朝食を済ませて作戦を決めた。と、言っても結局はオルレアン周辺の街で地道に聞き込みをすることになった。
ジャンヌさんの案内でラ・シャリテとかいう街に行くことになった。すると、通信が入った。
『ちょっと待って。ラ・シャリテからサーヴァントの反応がある』
「数は?」
『五騎だ』
すぐに聞くと、すんなり答えてくれた。
『あれ、でも遠ざかっていくぞ?……あ、ダメだ。ロストした!速すぎる!』
速すぎる……敵だとしたら竜を使えるんだ。それを使ってるのかもしれない。
すると、「フォア、フォーウ!」とマリオみたいな声が聞こえた。マシュの頭の上で何かを見ていた。そっちを見ると、煙が上がっていた。
「!街が……燃えている……⁉︎」
「急ぎましょう!」
マシュとジャンヌさんが走ろうとしたが、それを俺は止めた。
「待った、行くな」
「どうしてですか⁉︎」
「奴らは撤退してはいるが、敵だとしたらルーラーがいる。サーヴァントが行くのは危険だ」
「じゃあ、どうするというのですか⁉︎」
そもそも行く必要あるか?あの中に生存者がいるとは思えないが。いや、でも仮にいるとしたら、どんな相手がいるのか知るチャンスでもある。
………いや、でもダメだろ。サーヴァントは五騎だし、戦力差は明らかに向かうのが上だ。なら、サーヴァントには待機しててもらうしかない。
「し、しかし田中先輩一人で行くのも危険です!」
「ロマン、奴らが撤退してからサーヴァントの反応はないよね?」
『無い。ただ、魔性の反応がいくつかある』
魔性の反応……ドラゴンかな?
昨日、見た感じだとドラゴンには鼻と目しか無い。つまり、俺を発見するには臭いと目視しかないわけだが、あそこは今燃えている。臭いに頼る事は無理だろう。あとは見つからないように探索するしかない。
「とにかく、俺一人で行く。四人はここで待機、良いな?」
それだけ言うと、俺はラ・シャリテに向かった。
×××
街に入ると、もはや焼け野原といえる惨状だった。ほとんどの建物は焼き払われ、至る所から煙が上がっている。冬木市程ではないから、何とか呼吸は出来る。
「………ロマン、生存者は?」
『………ダメだ。いない。とても情報収集なんて出来る惨状ではない』
「よし、帰るか」
『もう⁉︎』
「そりゃここにいても意味ないし。ドラゴンもいるなら危険だろ」
『そっか……そうだな』
よし、帰ろう。そう思って歩き始めた時だ。
何処かから戦闘音が聞こえた。
「………なんの音?」
『………近くで誰かが戦っている』
生き残りがいたのか?いや、さっき生存者はいないって言ってたし……ドラゴンが街を破壊し始めたのか?
何も分かってないまま、さらにロマンから声が聞こえて来た。
『………待った、先程去ったサーヴァントが戻って来た!』
「………まじ?」
『ああ、急いで逃げた方が良い!』
………なんで戻って来たんだ?俺に気付いた?いや、それはないだろ。奴らが探知できるのはサーヴァントだけだ。まさか、俺を殺すためだけに戻って来たとは思えない。放っておけば、いずれドラゴン達が俺を殺すと思うはずだし。
「………ロマン、この辺にサーヴァントの反応は?」
『………あれ?さっきより多い。七騎だ』
七騎………。まさか、あいつら付いて来たのか?いや、それはないな。それならロマンが言うはずだし。他の二人はどこから来たんだ?
何にせよ、俺を見つけたから来たというわけではない事がわかった。
「………ここで身を潜める」
『⁉︎ 本気か⁉︎』
「バカ、声がでかい。何処から召喚されたか知らないが、野良のサーヴァントが二騎、これ以上にない敵の戦力を知るチャンスだ」
正直、死ぬ程怖い。だが、怖くない戦争なんかない。ここは見て行くべきだ。
『でも、バレたら死ぬぞ!』
「………おそらく、大丈夫なはずだ。奴らが野良のサーヴァントに勝てば、必ず油断が生まれる。奴らが帰るまで息を潜めていれば見つからないはずだ」
『それは、そうだが………』
「ていうか、絶対死にたくないもん」
おそらく、大丈夫なはずだ。けど、万が一、万が一の時には………。
「………万が一の時には、ここの情報を全部藤丸さんに渡して」
そう言いながら、瓦礫の中に身を隠した。
すると、竜達が降りて来た。メンバーはセイバーっぽいの、杖持ってる人、棺桶持ってる人、唯一の白髪のおっさん、そして黒いジャンヌさんだった。ショートヘアも似合うなぁ。
「………ふむ、ここら辺のはずですが」
「あら、物騒な方々が現れましたね」
すると別方向から二人ほど愉快な格好をした二人組が姿を現した。
「あなた達が私の竜と戦った方々ですか?」
「ええ。この街に来てから急に襲われたもので」
「それよりも聞き捨てならないね。今、『私の竜』と言ったかい?」
あの赤い人は可愛いな。てかもう一人の格好が面白すぎるわ。何あれ、なんでタクト持ってんの?
「ええ、別にあなた達を襲わせようとしたわけではありません。私の出した竜が襲ったのが、たまたまあなた達だっただけです」
「何にしても、この街をこんな風にしたのは君達の仕業だろう?」
「その通りです」
面白い方が聞くと、黒ジャンヌ様は平然と頷いた。
「ですので、投降していただけませんか?」
黒いジャンヌ様がそう言うが、赤い方は首を横に振った。
「いえ、それも出来ませんわ」
「………何故です?」
「あなたがこの国を侵すというのなら、私はドレスを被ってでも貴女に戦いを挑みます。何故ならそれは……」
直後、セイバーっぽい人が小さく狼狽えた。
「! まさか、貴女は………⁉︎」
「まあ、私の真名をご存知なのね?素敵な女騎士さん」
「………セイバー、彼女は何者?」
黒ジャンヌ様が質問した。あいつはセイバー確定だな。
「……この殺戮の熱に浮かされる精神でも分かる。彼女の美しさは私の目に焼き付いていますからね」
………殺戮の熱?どういう意味だ?ただ狂ってるだけか?いや、でもそういうのはバーサーカーだろ。
「ヴェルサイユの華と謳われた少女。彼女は、マリー・アントワネット」
! マリー・アントワネット。て事は、あのセイバーはマリー・アントワネットの知り合いか。
「はい!ありがとう、私の名前を呼んでくれて!……そして、その名前がある限り私はどんなに愚かであろうと、私の役割を演じます」
マリー・アントワネットはそう言うと、好戦的に微笑んで質問した。
「ねぇ、竜の魔女さん?無駄でしょうけど質問してあげる。あなたこの私の前で狼藉を働くほど、邪悪なのですか?」
…………話しが長いな。早く戦えよ。まぁ、奴らの会話から多少の情報は得たが。
とにかく、戦闘が始まるまで待機を………。
「! ジャンヌ………!」
「本当にもう一人……!」
「マスターは何処ですか⁉︎」
「姿は見えませんが……まさか!」
………なんであいつら来てんの?待ってろって言ったよな?
「………増援、ですか」
ほらぁ、向こうも油断なく構えてんじゃん!来るならせめて奇襲を仕掛けるなら何なりしろよ!なんで堂々と対峙してんだよ!バカか!
マリー・アントワネットが面白い人と「あ、あれ……?二人……?」と狼狽えてる中、闇ジャンヌ様はジャンヌ様を見るなり、「クククッ」と笑みをこぼした。
「ねぇ、お願い。誰か私の頭に水をかけてちょうだい。まずいの、やばいの。本気で頭おかしくなりそうなの。だってそれくらいしないと、あまりにも滑稽で笑い死んでしまいそう……!」
よし、誰も水をかけるな。そのまま笑い死ね。
「ほら、見てよジル!あの哀れな小娘を!」
いや、小娘ってそれ君だからね?というか、ジルって誰の事だ?誰も反応してないところを見ると、あの五人以外にも仲間がいるということになるな。
とにかく、ジャンヌ様達が来てしまった以上、俺がここにいる意味もう無いよね。
「あなた達!田中さんは何処ですか⁉︎」
「………は?タナカ?」
ジャンヌ様が敵五人に問い詰めた。
「………誰?」
「さぁ……」
「てか人の名前?」
だよね。ここだと和名とかないもんね。でもね、それを言うとヒートアップすると思うんだ。
「あなた達、まさか……‼︎田中さんを人に見えないくらいにまで斬り刻んだというのですか⁉︎」
「へ?いや全然違うんだけど。ごめん、ほんと誰なのその人」
「自分が殺した相手も忘れたというのですか⁉︎外道な……!」
「は?いやそういうんじゃなくて本当知らないんだけど」
「許しません……!」
「え、待って。誰か田中とか言う人分かる人いる?」
ジャンヌ様……お願いだから落ち着いて下さい……。完全に向こう素じゃないですか……。
すると、空中から声が聞こえて来た。
『………あの、沖田さん?』
「なんですか?」
『そこの崩れた建物掘り返して見て?』
あの野郎!裏切りやがった!沖田さんがこっちに歩いてくる。
あ、ヤバイ。逃げようとすると多分音出るし逃げられる気がしない。ちょっ、やばい。掘り返される!
「………あっ、マスター」
「…………ぐへっ」
死んだフリをした。白目を剥いて口を半開きにしてヨダレを垂れ流している。
すると、俺の体が持ち上げられる感覚が出た。お姫様抱っこされてるのだろうか。いや、考えるな。俺は今、死んでいる。目が乾いて来た。
「……………」
静かだな………。なんだ、どうなっている?
「ジャンヌさん。いや、白いほうの。あそこで死んだフリしてましたけど」
「………は?死んだふり」
「てか、今も続行中です」
「……………」
あっさりバラされ、俺は薄眼を開けた。ジャンヌ様が涙目で頬を膨らませて俺を睨んでいる。すごくかわいい。
「………あー、ど、どうも……」
「田中さん……!あなたという人は………‼︎」
ジャンヌ様が怒鳴りかかって来た直後、ボウッと俺の隠れていた廃墟が燃え尽きた。
慌てて前を見ると、黒ジャンヌ様が睨んでいた。
「茶番は終わりです。何者か知りませんが、男の癖に隠れて覗き見とは情けない。今すぐにでも燃え尽きてもらいます」
グッ、やるしかないのか………!
………いや、ここで戦うのはダメだ。オルレアンの目と鼻の先、マリー・アントワネットと面白い人を仲間と見れば人数的にはイーブンだが、増援が来たら終わりだ。ここでの戦闘は……いや、待てよ?
「………ジャンヌ様、ごめんなさい」
「はい?」
謝ってから、黒ジャンヌに言った。
「おい、そっちの黒いジャンヌ!」
「なんです?遺言ですか?」
「お前はこっちの綺麗なジャンヌと同一人物で間違いないな⁉︎」
「ええ。反吐が出ますが、同じと言えるでしょう」
「なら、身体も趣味も同じ?」
「ええ、おそらく。それがなんなんですか?」
「つまり、こうされたら?」
直後、俺はジャンヌ様のオッパイを後ろから揉みしだいた。直後、ジャンヌ様は顔を真っ赤にし、他のメンバーはブホッと吹き出した。
当然、黒ジャンヌも顔を赤らめた。
「な、何してんのよあんたいきなり⁉︎」
お、素が出たな。いける。
「おお、流石ですなぁ、ジャンヌ様のおっぱいは柔らかい。そんな悪そうな顔で身体は随分と女らしいんだなぁ!」
「んんっ!ちょっ、田中さ……!」
「べ、別に女らしくないわよ!ていうか何してるのよ変態‼︎」
「ほれほれ、今すぐ帰らないと人前でもっとすごいことをしてやるぞ〜?」
「す、すごいこと⁉︎何する気ですか!」
「す、好きにすれば良いじゃない!同じ体型でも別人だし!」
「へぇ?そうなんだ?なら、今度は服越しではなく直で揉んでやろうか?」
「「じ、直⁉︎」」
黒ジャンヌは自分の胸を慌てて抱いた。それに構わず俺は服の中に手を入れた。
「ほほれほれ、男もいるこの公衆の面前でおっぱいを直揉みされるのはどんな気分だ?」
「やっ、やめなさい!」
「おや?これはあなたの体ではないんじゃないんですかー?」
「っ!そ、それはっ……!じ、じゃあ好きすれば良いじゃない!」
「ほほう?好きに?なら、次は下に行こうか?」
「「しっ、下ぁっ⁉︎」」
俺はジャンヌ様の下半身に手を掛けた。
するとジャンヌ様は大声で叫んだ。
「まっ、ままま待って待って待ってお願い待ってくださいお願いします!お願いだから待ってそれだけはやめて!」
「ふはははは!公衆の面前でパンツを晒されるのだ!趣味が同じである以上、貴様の下着の好みというものがバレるというもの!どうなっても知らんぞ!ふはははは!」
「わ、分かったからやめて!帰る、帰りますからそれ以上はやめてぇ!」
そう言われて、俺はジャンヌ様から手を離した。
黒ジャンヌは顔を真っ赤にして竜の上に乗り、他のメンバーも竜の上に乗った。
「あ、あんた!覚えてなさいよ!絶ッッッ対に燃やし尽くしてやるんだからね‼︎」
「その時は、またオッパイを揉むよ」
「良い顔で何言ってんのよ‼︎行くわよ!バーサーク・セイバー、バーサーク・ライダー、バーサーク・アサシン、バーサーク・ラン……ランサー、何鼻血出してるの?」
「いや、これは……」
「後で殺すわ」
そのまま全員は帰宅した。ふぅ、間一髪だったな……。
息をつくと、後ろから驚くほど冷たい目線が突き刺さって来た。振り向くと、刀を構えてる沖田さん、盾で素振りをしているマシュ、ゴミを見る目の藤丸さん、マリー・アントワネット、涙目で顔を真っ赤にして肩を抱くジャンヌ様、鼻血を垂らしてる面白い人が俺を見ていた。
「…………田中さん」
ジャンヌ様が俺に声を掛けた。
「何か言うことは?」
そう問い詰められ、俺の口から乾いた笑いが漏れた。ハッ、ハハハハと呟いた後、全力で頭を下げた。
「………すみませんでした」