ドラゴンと竜牙兵を俺の完璧な作戦通りに全滅出来た。相変わらず、俺の完璧な作戦が怖いぜ………!
俺は顔に付着した血(さっき転んだ時に擦りむいた時の血)を返り血を拭うように払うと、決め台詞を言った。
「我が作戦に一瞬の狂いなし」
直後、ワアッと兵士達から歓喜の声が上がった。
「やった……!あの化け物どもに勝ったぞ!」
「勝てる、俺達でも勝てるんだ!」
「今日は深く眠れそうだぜー!」
相当、過去にコテンパにされて来たのか、全員がすごくはしゃいでいた。勝って兜の緒を締めよって言葉を知らんのかこいつら。あ、いや日本人じゃないし知らないよね。
しかし、眠れなかった人もいたのかぁ。竜の魔女、とはどこの誰だか知らないがかなりの化け物だな。
さて、後は俺が軽く演説してやれば、この辺の兵士は丸々俺のものだ。グヘヘと笑ってると、遠くで見ていたマシュと沖田さんが「うわあ……」とドン引きした時だ。
「りゅ、竜の魔女だー!」
そんな声がしてそっちを見た。
さっき、俺を助けてくれた金髪さんが竜の魔女と呼ばれていた。あいつが竜の魔女?つまり、さっき俺を助けたのは俺が突如現れた謎の指揮官で、連れ帰って尋問するため?何より、あいつを捕らえりゃ俺の支持率がさらに上がる。
「召し捕ったりィッ‼︎」
「よしなさい!」
「グェッフ!」
速攻で走り込んでドロップキックで襲い掛かったが、その俺の襟を誰かに掴まれたため、ものすごく喉が締まって断末魔に近い声を上げた。掴んだのは言うまでもなく沖田さんだ。
「何すんだよ!あいつ捕らえりゃここの兵力丸々獲得出来たんだぞ‼︎」
「さっき助けていただいた人に襲い掛からないで下さい‼︎」
「助けてくれたからって味方とは限らないだろ‼︎」
「だからと言って即襲い掛かるのは人としてどうなんですか⁉︎」
なんて話をしてると、周りからヒソヒソと話し声が聞こえて来た。
「………なんだ、竜の魔女に助けられた?」
「……そういえば当然のように指揮を執ってたけど、あいつ誰だ?」
「ドラゴンの倒し方も知ってるようだったし……」
「奴の仲間もヤケに強かったし……」
「竜の魔女のスパイなんじゃないか……?」
えっ……ちょっ、待っ………。待て待て待て!違うから!俺、そういうんじゃないから‼︎ヤベェよ、せっかく手に入れた統率力が、支持率が、兵士達が……!
すると、金髪の人が俺に声をかけて来た。
「詳しい話は後でしますので、どうか一緒に来ていただけませんか?」
「ふざけんなテメェいけしゃあしゃあとどの口が提案して来てんじゃ我ボケェッ‼︎」
「えっ?……えっ?」
「だからよしなさいっ‼︎」
沖田さんに頭をパカンと叩かれた。
「………おい、お前さっきから何なの?俺マスターだよ?分かってる?」
「申し訳ありません。とりあえず、話を聞かせてもらえませんか?」
「おい、無視かよおい。お前、いっぺんくらい本気で殴り合うか?ん?」
「分かりました。では、私について来て下さい」
との事で、俺の意見など全く無視して、俺と沖田さんとマシュと藤丸さんは金髪さんの後に続いた。
×××
どっかの森の中で、美少女四人と俺は話し始めた。こんな状況、世の男共なら喜ぶかもしれないが、マスターを全力で嫌ってる阿保、俺を先輩と呼ぶがたまにゴミを見る視線を送ってくるデミ・サーヴァントとそのマスター、俺の兵力入手チャンスを潰した金髪さん改めジャンヌ・ダルクしかいないので何も嬉しくない。
まぁ、そんな話はともかく、ジャンヌの話をまとめよう。つまり、ジャンヌにはサーヴァントとしての知識やステ、真名看破さえ抜け落ちている、この世界にはもう一人のジャンヌがいて、そいつが竜の魔女と呼ばれている、そのジャンヌがドラゴンの召喚だのシャルル抹殺などやりたい放題やっている、ということだ。
そんな事が出来る理由はまず間違い無い。
「………聖杯、か」
「そうだね、それが一番可能性が高いと思う」
藤丸さんが俺の呟きに賛同したように言った。聖杯の持ち主がわかったのは良いな。ジャンヌからの情報はでかい。その分、戦力も失ったわけだが。
本来なら敵の戦力を知りたいところではあるが、ジャンヌも数時間前に出て来たばかりらしいし、詳しい事は知らないだろう。
「………マドモアゼル・ジャンヌ、あなたはこれからどうするのですか?」
マシュのその問いに、ジャンヌは何の躊躇いもなく答えた。
「決まっています。オルレアンに向かい、都市を奪還する。そのために、障害であるジャンヌ・ダルクを排除する。その手段は分かりませんが、ここで目を背けるわけにはいきませんから」
「一人でも戦う……。なんというか、教科書通りの方ですね、マスター」
「私もそう思った」
俺も思ったわ。でも、無謀にも程がある。ただでさえ衰えてる癖にこいつは何を言ってるんだ?まぁ、本人がそう言うなら止めやしないが。
「あの、田中先輩」
「何?」
「私達とジャンヌさんの目的は一致しています。今後の方針ですが、彼女に協力する、というのは如何でしょう?」
「…………」
ふむ、それも良いけどなぁ……。
一応、俺の考えてることを伝えておこうと、沖田さん、マシュ、藤丸さんの耳元で聞いてみた。
「それより、こいつをさっきの連中に突き出して兵力丸々ゲットするってのはダメなの?」
「ダメです」
「非人道的です」
「あんたそれでも人間か」
「おい待て。言い過ぎだろ特に最後」
だよな……。仕方ない、仲間に引き入れるか……。
「仕方ない、ジャンヌ」
「は、はいっ」
「俺達と手を組もうか?」
「い、良いのですか?」
「ああ、俺達ももう一匹のジャンヌをぶっ倒さないと任務クリア出来なくてね。戦力が増えるならありがたい限りだ」
「分かりました。では、よろしくお願いします」
そう頭を下げられた。確か、ルーラーだったか?役に立たないってことはないだろうしな。最悪、マシュと並べて壁役にでも……。
そんな事を考えてると、ジャンヌが俺の手を取って安心したように微笑んだ。
「実は、私もあなたには協力していただこうと考えていたのです」
「へっ……?」
「先程の戦闘で、あなたの指揮能力と戦略には思わず感嘆の息を漏らしました。少々、軽率な行動も見えましたが、指揮官としては素晴らしいの一言です」
「あ、いやっ………」
「ですから、あなたと手を組ませていただくことができて、本当に助かりました」
「当然でしょう、美人の女性を助けるのはジェントルメェンとして当然です。必ず、もう一人のジャンヌ・ダルクを討ち取ると約束致しましょう」
「っ!は、はい!」
中村○一もビックリなイケメンボイスでそう言うと、ジャンヌさんはパァッと明るく微笑んだ。
その俺の宣誓を聞くなり、「うわあ……」と本来の仲間達はドン引きしたような声を漏らした。
「あの男、チョロいですね……」
「まぁ結果的には良かったと言えますが……」
「さっきまですごくジャンヌさんを嫌がってた癖に……」
うるせぇ、バカども。特に沖田さん?あなたは私のサーヴァントですからね?
すると、ジャンヌさんが聞いて来た。
「それで、これからどうしましょう?」
「敵の情報を集めると共に戦力の増加、これが最優先でしょう。そのために、まずはジャンヌさんについても知りたいのですが」
「………あの、なぜ敬語に変えたのですか?先程のようにタメ口でも良かったのですが」
「いえいえ、ジャンヌ様に対してタメ口など、恐れ多いです」
「え?様?」
「それで、ジャンヌ様について教えていただきたいのですが」
「え?あ、ああ、そうですね……。味方の戦力も把握しておかないと出来ることも……」
「とりあえず、3サイズを詳しく」
「ふえっ⁉︎す、スリー⁉︎」
直後、パガンと後ろから沖田さんに頭を叩かれた。
「テメェ何しやがんだコラ⁉︎」
「胸に手を当ててよく考えなさい」
「え?当てて良いの?」
「沖田さんのじゃなくて自分のです‼︎もういいから引っ込んでてください!」
沖田さんに追い出され、藤丸さんが改めてジャンヌ様に聞いた。
「それで、ジャンヌは何が出来るの?」
「………申し訳有りません。ほとんど何も……」
「そっか……」
「……ルーラーが持っているサーヴァントの探知機能も私には不能です」
「おい待て今なんて言いました?」
「へっ?」
ルーラーがサーヴァントの探知機能を……?それってさ……。
「それ、向こうのジャンヌも持ってるんじゃ……」
「っ!た、確かに!」
それってさ、俺達が何処にいても居場所がバレるって事じゃ……。いや、それどころかこっちの戦力全部向こうにバレることになる。
これはマズイだろ。どんな作戦立てようがすぐにバレるし、向こうに奇襲は通用しない。それでいて戦力差も負けてるとか終わってんな。
「………もう2017年とかなくてもいいんじゃないかな」
「何言ってるんですか⁉︎」
「冗談だから盾を振り上げるのやめろ、マシュ」
いや、今はそんな事考えても仕方ないか。敵がサーヴァントを感知できる以上、こちらがどんなにバタバタしても居場所がバレる時はバレるのだ。
どうせならゆったり構えよう。さっきのドラゴン軍団を撃退したのは向こうも知ってるはずだし、下手に手は出して来ないはずだ。
すると、「ふわあ……」と欠伸する声が聞こえた。藤丸さんが眠そうに目を擦っている。
「………とりあえず、今日はもう寝るか」
「そうですね……。なんか色々と疲れました」
マシュが賛同した。と、言っても全員で寝る必要はない。てか全員で寝て奇襲にでもあったら最悪だ。
「よし、マシュと藤丸さんとジャンヌ様が先に寝て下さい。沖田さんは悪いけど一緒に起きててくれる?」
「いえ、田中先輩も寝て下さい。サーヴァントは睡眠の必要はありませんから」
「バーカ、それは肉体的な話だろ。精神面は別だ(多分)。特にマシュは元は普通の人なんだから寝とけ」
「でしたら、私が起きていますので田中さんは……」
「ジャンヌ様より先に寝るわけにはいきません!」
断言すると、マシュは呆れたようにため息をつき、ジャンヌ様は苦笑いを浮かべた。
「………沖田さんもそれで良いよな?」
「はい」
よし、決まったな。マシュと藤丸さんとジャンヌさんはその場で寝転がった。
さて、俺は作戦でも考えるか。そう決めると、紙とペンを取り出して、マシュの盾の上で色々と書き始めた。
相手の戦力がわからないうちに作戦なんて考えても仕方ないかもしれないが、ルーラーがサーヴァント感知をできると聞いてから何か気になることがある。
それは、サーヴァント以外は感知出来ないんじゃね?ということだ。それがもし本当なら、奇襲は可能だし、それと共にやはりさっきの兵士達が欲しい所だ。まぁ、でもあの兵士達を手に入れるにはジャンヌさんを放り出すしか無いし、もう諦めよう。
とりあえず、どうやって相手の戦力を知るかを考えるか。………思いつく方法は一つだけある。それは………。
「……マスター」
「おうっ⁉︎………な、何?」
「………なんですか?今の声」
突然、しかも沖田さんから話しかけられると思わなくて………。
とりあえず、紙に文字を書きながら相槌を打った。
「や、何でもない。何?」
「いえ、その……さっき……」
「殺気?何処から?」
「いえ、違います。さっきの戦闘です」
ああ、そういう「さっき」ね。ビックリした。
「その、良くあの兵士達を使ってドラゴンを倒せたなと思いまして……」
「少しはテメェで戦えって事かよ」
「ちっ、違います‼︎ですから、少し見直したと言っているんです!」
見直した?沖田さんが?俺を?
「………熱でもあるんですか?」
「なっ、なんでそうなるんですか!」
「いや、だって出会って1日で嫌った人を褒めるとか………あ、何か変なもの食べたとか?」
「食べてません!も、もう!どうして人の褒め言葉を素直に受け取れないんですか⁉︎」
そりゃそうだろ。嫌われてるんだもん。嫌ってる相手を褒める奴はいないだろ。褒められる事があったとしてもだ。
「私がマスターを嫌いなのと、マスターが実績を残した事は別です」
おお、そういうとこしっかりしてるのか。さすが、新撰組。嫌いな部下とかいたんだろうなぁ。
………そういえばアホ過ぎて忘れてたけど、沖田さんって隊長だったんだよな。人をまとめる立場だったのかぁ。
「………なんですかその目は」
「いや、沖田さんの部下だった人は苦労してたんだろうなぁ、と思いまして」
「どういう意味ですか!まったく、人がせっかく褒めたのに………」
まぁ、悪い気はしなかったけどよ。人に褒められるのはやはり良いものだ。
少し嬉しくなりながら、明日、どうやって敵のアジトに乗り込むかを考えていた。
「……ていうか、さっきから何を書いてるんですか?」
「あ?」
後ろから突然、身を乗り出して手元を見られた。
「うわっ……これ、明日の作戦ですか……?」
「うわってなんだようわって……。ていうか、作戦というほどのものじゃない。明日からの行動の案を纏めてるだけだ」
「………へぇ〜……マスターって、意外と真面目なんですね」
「まぁな」
これくらいやらないと俺のある意味はないからな。リーダーとして、誰一人死なせるわけにもいかないし。
「で、明日はどうするんですか?」
「いや、俺が一人で敵のアジトに潜入に行こうかなと思って」
「………はっ?」
「んっ?」
え、何?なんかおかしいこと言った?
「何言ってるんですか?」
「いや、相手の戦力の確認だよ。サーヴァントなら感知される、逆に言えばサーヴァント以外ならバレないって事ですから」
「ダメです!危険過ぎます!」
「あー、だよね。正直止めてほしかった」
「大体、そんな事をリーダーにやらせ……は?」
絶対やりたくないでしょ。そんな下手に捕まれば拷問されるかもしれない事なんて。相手はサーヴァントである以上は英霊であり、従って俺よりも戦争の経験はずっと多い奴だ。99%捕まる。
「じゃあなんで言ったんですか!」
「だって案としては有りじゃん。ただ、誰か反対意見が一人でも出れば行かなくて済むかなって思って」
「………やっぱ行って来なさい。一人で」
「嫌だよバーカ。さっきは俺の事心配してたくせに」
「は?全然してませんが。ただ、あなたの指揮が無くなると今回の任務が面倒になりそうだなと思っただけですが?」
………少しは心配してくれてもいいのに。何度も思うけど、お前俺のサーヴァントだよな?
「まぁ、行くのが嫌なら相手の戦力を把握する方法を考えなさい」
「なんで上からなんだよ」
しかし、大失敗したかも。これ、マジで何も思いつかなかったら行かされそうだな。知恵を全力で振り絞らないと。