「え、エミヤさん……クー・フーリンざぁぁぁぁぁん‼︎」
号泣しながら二人に飛びつこうとしたが、二人揃って武器のツカで俺を引っ叩き、追い出した。
「アホやってる場合か。リーダーなら指示を出せ」
「奴は強いぞ。緊急時ゆえ詳細は省くが、12回殺さないと死なんぞ。違う殺し方でな」
「は? な、何それ。角都以上?」
「それを抜きにしても折り紙つきの化け物だ。ここまで接近を許した以上、簡単には逃がしてくれないだろう」
「……」
……なるほど。そりゃすごい。だが、限界は見えてる。わざわざ12回も殺してやる必要はない。
「ちょっと、どうするのよ正臣! それに、アステリオスだっているし……!」
「少し黙ってろ、エウリュアレ」
鬱陶しいので黙らせてから、エミヤさんとクー・フーリンさんに声を掛けた。
「二人とも、3分ちょうだい。それまでに作戦を考える」
「さ、3分⁉︎」
「「了解」」
それだけ話して、俺は再びエウリュアレを担いで罠の多い方に身を隠した。
そこで、木に身を隠してエウリュアレを下ろした。
「どうする気なのよ。アステリオスは……」
「エウリュアレ、ここからは一人で戻れるか?」
「え?」
「増援を呼んで来い。そいつらにアステリオスの救援に向かわせる」
「そ、そんなの……!」
「それが早く済めば、それだけアステリオスが助かる可能性は上がる。アストルフォなら、宝具を使えば1〜2人運べる上に、上空から迎えに行けるからな」
「わ、分かったわ……!」
そう言って、とりあえずエウリュアレが捕まる可能性は排除した。
さて、あの化け物を殺す可能性、か……。まぁ、さっきも思ったけど殺してやる必要なんかない。アレがヘラクレスだろうがなんだろうが、生き物である以上はいくらでもやりようがある。
通信機を取り出し、エミヤさんとクー・フーリンさんに繋いだ。
「もしもし? 聞こえる?」
『こちらアーチャー。なんだ? 今、手が離せないのだが』
「作戦は決まった。そいつを殺すことなく無力化する」
『ほう。どう攻める?』
「首だ」
『ああ⁉︎ 首を落とすってか⁉︎ そうした所ですぐに復活しちまうぞコイツ!』
クー・フーリンさんかな? 戦闘中に反応してくれてどうもありがとう。
「違う、首の後ろだよ。首の後ろには重要な神経が集まってる。そこを刃物で突き刺せば、上手くいけば殺さずに全神経を断てる」
『……なるほど。そういうことか』
『そりゃおもしれぇが、増援とか来たら厳しいぞ!』
「ヘクトールはアステリオスが相手してるし、相手の頭のイアソンは『ヘラクレスさえいればなんとかなる』と慢心してる。安心してやっちゃって下さい」
『はは、さすがだな!』
『了解した』
「キツそうなら増援よこすけど……いける?」
『『必要ない』』
さすが、とはこっちのセリフだ。まぁ、確実に勝てる試合にするため、増援は呼んでおくが。
とりあえず、俺はこれ以上、動くべきではない。多分だが、エウリュアレを仕留め損ねた時は俺を仕留めるつもりだろうから。いや、ドレイクを潰して船を動かさせない可能性もあるな。
とにかく、通信機がある以上、指示は飛ばせるし、盤面はドクターの通信越しに見れるし、どうとでもなる。
「……ふぅ、俺も合流するか」
ここで一人でいても危険なだけだ。エウリュアレの後を追おう。
そう決めて欠伸を浮かべた時だ。通信機から喧しい声が聞こえた。
『マスター? なんか、エミヤさんもクー・フーリンさんも通信出ないんですけど……』
「おはよう、バカ。もう開戦してるわ」
『ええっ⁉︎ な、なんで教えてくれなかったんですかー!』
「教えたよ。起きなかったけど」
『いや起きなきゃ意味ないじゃないですか! それ教えたことになりませんよね⁉︎』
「いいから早くこっち来いバカ。お前はエミヤさんとクー・フーリンさんの援護だ。相手、12回殺さないと死なない化け物だから気をつけろ」
『なんですかそれ……!』
「作戦は動きながら聞け」
そう言って、沖田さんは俺の口から作戦を聞きながら動き始めた。さて、とりあえずエミヤさんとクー・フーリンさんの様子でも見に行こうかな。
首の後ろで殺さずに全神経を断て、とは言ったが、それはかなり難しい事だ。サーヴァントとやらについては詳しく無いが、ヘラクレスは歴史的に見てもとんでも無い奴だ。チート性能をしてる事だろう。
それに、上手く神経を断てたとしても、出血は止まらない。そのうち、出血多量で死んで再生してしまう。
木の陰に隠れながら三人の戦場に近付き、戦闘を見学したが……まぁ、俺の出る幕なんてない。ここ2人やっぱすごいや。
正面を引き受けてるのはクー・フーリンさん。ヘラクレスに捕まらない距離を保ちつつ、受けに徹している。
ヘラクレスの一撃をバク転で回避すると、着地しながら距離を保って翔び穿つ死翔の槍を放つ。
回避され、槍は後ろの罠のワイヤーが仕込まれた木を両断する。ヘラクレス再び反撃に入るが、背後に回っていたエミヤさんが弓でクー・フーリンさんの槍を撃ち、クー・フーリンさんの方に返すと、へし折れた木から出てるワイヤーをキャッチした。
「ふんっ……!」
弓をしまって両手で木を縛ったワイヤーを握ると、振り回しながらヘラクレスの脳天に思いっきり叩き付ける。
が、ヘラクレスはそれを片腕でガードしていた。粉々になった木の中から、エミヤさんに向かって拳を振るうが、フリーになったクー・フーリンさんが槍で足を薙ぎ払う。
バランスを崩し、半端になったパンチの上に手を置き、飛び越えたエミヤさんは自分の魔術で足に金属製の甲冑を装備し、顔面に蹴りを入れた。
クー・フーリンさんの横に着地しながら両手にいつもの双剣を呼び出す。
それと共に、クー・フーリンさんは槍を横に振りかぶった。二人同時に槍と双剣をヘラクレスに向かって振り抜く。
それでもヘラクレスは反応し、手に持ってる剣を盾にしてガードしたが、流石に衝撃は受け止めきれない。大きく後退した。てか、俺の隠れてる木の近くに来た。
直後、足元がズボッと沈んだ。後退した場所には落とし穴があった。為す術なくヘラクレスは穴の中に沈んでゆく。
そして、その隙を逃すほどエミヤさんとクー・フーリンさんはマヌケではなかった。まずはクー・フーリンさんが走り込み、穴の上から槍を投げ込んだ。仰向けに倒れてる、ヘラクレスの背中に向けて、だ。
しかし、仰向けにいるにも関わらずヘラクレスはそれをキャッチした。
それも、エミヤさん達は読みきっていた。クー・フーリンさんの後ろから二重で飛んでいたエミヤさんが再び弓を構えて放った。その一発はヘラクレスの首の後ろに見事に刺さる。
「うおっ」
思わず悲鳴を漏らしながらその後を見に行くと、クー・フーリンさんの槍をキャッチした手から、力がぬるりと抜けた。しかし、ヘラクレスの口からは荒い息遣いが漏れている。
……えーっと、上手くいった……のかな? 恐る恐る、俺も穴の中を見に行くと、今気付いたのか、エミヤさんが声をかけてきた。
「なんだ、マスター。いたのか?」
「あ、はい。えーっと……終わり?」
「ああ、ようやくな……」
疲弊してる様子でそう言った。穴の中に槍を取りに行ったクー・フーリンさんも、疲れているようだった。
「ふぅ……やっとうまく行ったぜ……」
「え、そんなに長く戦ってたんですか?」
「ん、まぁな。7回くらい失敗して、ようやく1回だ」
おいおい……この人達マジかよ。もしかして、俺の引いてきた鯖ってかなりすごい人達ばかりか?
軽く恐れ戦いてると、エミヤさんが声をかけてきた。
「で、どうするマスター。指揮官なら、さっさと次の指示を出せ」
「え? あ、は、はい。了解です!」
「……戦闘を見た後、一々、ヒヨるのはやめろ」
そう言われましてもね……まぁ、確かに指示が先だな。他のパーティの現状を聞いておかないと。
「藤丸さん?」
『はーい。えっと、こっちはアステリオスとエウリュアレと合流完了して、船に向かってるとこ。ただ、ヘクトールの姿は見当たらなかったけど』
「バカは?」
『沖田さんはいない』
バカで通じちゃうんだ。まぁ実際、バカなんだけど。しかし、あいつはいないのか。予定通りはないかないもんだ。何処までも邪魔する奴め。
……ま、いいや。とりあえず俺達も合流だな。
「よし、二人とも。帰ろう」
「……」
「二人とも?」
声を掛けたが、二人とも真剣な顔のまま動かない。
「おーい、時間ないよ。動きを封じれるって言っても、出血多量で死なないまでの間だからね? 復活しちゃったら……」
「黙れ、マスター」
「来てるぜ。敵が二人」
思わず俺も真剣な顔になり、身構えた。エミヤさんは両手に双剣を出し、クー・フーリンさんは槍を構える。俺もホルスターから拳銃を抜き、怖くてドキドキ行ってる心臓をなんとか抑え込んだ。
「あーらら、ヘラクレスやられちゃってるじゃないの」
「だから、個人の戦力に過信するのはやめろっつったんだよな」
唐突に正面から声が聞こえた。嫌に落ち着いた声が二つ。なんか軽いノリで話しながら歩いて来ている。
「え? それおじさんに話しかけてる?」
「お前以外に誰がいんだよ」
「いやいや、お前よく俺に話しかけられたもんだよね。殺すよ本当」
「やってみろやコラ」
「は?」
「あ?」
……何を喧嘩してんだ? ヘクトールと……もう片方のトンガリ頭。ただ、まぁサーヴァント同士……それもヘラクレスを片付けた俺達を前にしてあの雰囲気でいられる辺り、只者では無いだろう。
「……よう、お前ら。誰から死にてえよ?」
しかも好戦的と来たもんだ。どうしたものかな。
策を練ってるうちに、トンガリ頭が俺に声をかけてきた。
「お前がマスターか?」
「ワタシハニホンゴワカリマセーン」
「……ヘクトール、あいつ殺して良いかやっぱり?」
「バカのふりしてるけど、結構なキレモンだ。下手に手を出して早々と退場したいのならやれよ」
チッ、と舌打ちすると、トンガリ頭は続けた。
「まぁ、あんたがマスターなんだろうが……」
「停戦しない?」
「ああ?」
「あんたらのヘラクレス、しばらく復活しないよ。掘り起こす作業もあるだろうし、ここは穏便に……」
「テメェは何を勘違いしてんだ?」
背筋が凍るようなゾッとした声で俺を睨んだ。おしっこちびりそう。
「俺の任務はヘラクレスの救援でもなんでもない。テメェらを狩りに来ただけだ」
「は?」
「お前らをぶっ殺してから、そこの落とし穴で寝てる奴を持ち帰れりゃそれで良い」
……なるほど。そんな奴か。中々、気が触れた奴だ。
しかし、戦術的にはまずいことになった。敢えてヘラクレスを放置し、俺達との戦闘になることが一番、まずい。
こういう奴を相手にしても時間の無駄だ。ならば、もう片方を相手にさせてもらおう。
「なんか、すでに勝ったような言い方だけど、わかってる? ここは俺達のホームだ。仲間も呼べばすぐに来るし、地の利もこっちにある。それでも停戦を申してるのは、こちらも準備を整えたいからだ。現状の俺達では、エウリュアレを守りながらヘラクレスを十二回殺すのは厳しいが、それをやるしかない。その為の作戦を考える時間が欲しいから」
「……なるほど」
「あんたらもヘラクレスを掘り起こす時間が欲しいだろ。……何より、敵地じゃ気持ち良く戦えない。違うか?」
すると、とんがりの横のヘクトールが考えるように顎に手を当てた。奴は流石に俺のペースに引き込まれてることに気付いてるだろうが……でも、そっちのメリットも提示してやった。
そんな時だった。空気を全く読まないマヌケな声が聞こえてきた。
「マスター! こんな所に居ましたね⁉︎」
「……頭のたりない女が来たよ……」
本当に何処までも邪魔な……いや、まぁ良いか。一応、サーヴァントだし、人数の上では有利だ。
「まー、誰の頭が足りないって言うんですか⁉︎」
「お前だよ。頼むから黙って1+1の勉強でもしててくれ」
「バカにし過ぎですよ! 流石に1+1くらいは出来ます!」
「じゃあ1+2」
「3!」
「1+30」
「4! ……あ、じゃなかった、41! あれ?」
おい、マジかよこいつ。まぁ、結論は出たな。
「はい。足し算からやり直してろ」
「今の流れはズルいですよ! さっきから何なんですか⁉︎」
「敵の前だっつーの! お願いだから黙ってろバカ!」
「なぬっ⁉︎ て、敵の前で沖田さんのバカをバラしたんですか⁉︎」
「自らバラシに行くスタイル! 自覚があるだけ手遅れ感なくて良かったね!」
「マスターだって大した頭じゃ無いくせに!」
「テメェ、今まで誰のおかげで犠牲者無しで勝って来れたと思ってんだ!」
「私の剣の腕ですよ!」
「殺してやろうか本当に‼︎」
「上等ですよ! 今こそ、本当の主従ってもんを教えてやりますよ!」
なんて言い合いをしながら、お互いに胸ぐらを掴んだときだ。
俺達のやり取りを見てるトンガリが呆れた声で隣のヘクトールに声をかけた。
「……なぁ、お前らあんなのに苦戦してたのか?」
「おじさんもたまにあいつが頭良いのか分からなくなるんだよなぁ……」
「おい、バカコンビいい加減にしろ」
なんて声を全く無視して俺と沖田さんは取っ組み合いの喧嘩を始める中、エミヤさんがいつものように仲介し、クー・フーリンさんが話を進めた。
「……なんか、悪いな。うちのバカ達が」
「や、いいわ。戦う雰囲気じゃねーし、肩の力が悪い意味で抜けたし。今回は見逃してやるよ」
「待てよ。その前に、テメェの真名くらい聞かせろや」
「ああ、良いぜ。俺の名はアキレウスだ。次に、そこのアホの首をもらうぜ」
「やってみやがれ」
と、知らない間に離脱を完了した。