カルデアがダブルマスター体制だったら。   作:バナハロ

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クライマックスは唐突に。

 翌日、ネロ達が出掛け、俺のサーヴァントだけが城内に残った。が、空気はいつもの5倍くらい重い。

 原因は俺と沖田さんだ。昨日の夜に一方的にボコボコにされ、当然仲は険悪になる。今朝もろくに挨拶もされなかったくらいだ。

 その上、戦場に向かったネロにいってらっしゃいのキスをしてからますます八つ当たりは増え、流石の俺もキレて今に至る。何をそんなに怒ってんだあいつは。

 大体、あの人俺のこと嫌いなんだから俺がどこで何してても良いだろ。なんでそんな妬ましく思われなきゃいけないわけ?なんつーかもう……思い出すだけで不愉快だわあの女。

 元々、別に仲良しってわけでもないうちのサーヴァント達の中、俺と沖田さんの険悪な空気の所為で、広い城内の中、それぞれが孤立していた。あークソっ、なんかもう嫌だわ。トイレ行こう。

 部屋の扉に手をかけた時だ。扉が開き、向こうにはレフが立っていた。

 

「やぁ、田中くん」

 

 直後、俺の手は自動で動いていた。拳銃をホルスターから抜き、レフの顔面に向かって撃ったが、躱されて鳩尾に張り手を入れられた。

 

「カハッ……!」

 

 見事に傷口に当たり、吐血して後ろに倒れ込む俺を見下すように言った。

 

「いきなり不躾だな君は……。挨拶くらいしたらどうだ?」

「ぎゃあああああ!ち、血だあああああああ‼︎血ぃ吐いたああああああ‼︎」

「え、なんでそんな狼狽えてんの?」

「せ、咳き込むと血が出るうううううう‼︎死ぬううううううう‼︎」

「ねぇ、話しにきたのお願い聞いて」

「し、死ぬうううううう!変な帽子のオッさんがああああああ!」

「私はオッさんではない!」

 

 あ、そこはキレるんだ。フッと息を吐いて、改めてレフを見た。

 

「よし、スッキリした」

「ストレス発散だったのか⁉︎」

「いやー、昨日うちの鯖と喧嘩しちゃったんだよねー」

「鯖って何かな?」

「サーヴァント」

「すごい呼び方するな……。ま、まぁ良いか」

 

 良いんだ。ま、そろそろ話を進めるとしようか。

 

「で、何の用?」

「あ、ああ。そうだな。ま、単刀直入に聞こう」

 

 そこで言葉を切って、急にニッと微笑んだ。

 

「まぁ、要件は二つある。いや、厳密には一つだ。君を殺しに来たわけだが……条件次第で見逃してやろうと思って」

 

 見逃してやろう、ね。

 

「条件って?」

「カルデアを裏切れ。そうすれば、次なる世界に貴様だけ生かしておいてやる」

「……はっ?」

「冬木市、そしてオルレアンでカルデアが忌々しくも生き残ったのは、十中八九君の所為だろ?」

「忌々しくってなんだよ」

「いやいや、敵同士敵同士」

「あ、そっか」

 

 しかし、偉くフランクになったなこのオッさんも。

 

「なるほど……。それは悪くないかも……しかし、裏切るって具体的には?」

「簡単な話だ。この時代の特異点の修復を阻止し、最後のマスターである藤丸立香とマシュ・キリエライトを抹殺しろ」

「いやいや、デミ鯖のマシュを殺せないでしょ」

「サーヴァントがいるだろう、貴様には」

 

 確かにマシュくらいならうちの鯖の一人だけで袋に出来る。

 ……まぁ、俺もカルデアとはいきなり連れて来られただけの仲だ。考えてみりゃ、あのジャンヌ様とは一生会えないし、ネロもこの時代が終わったらお別れだ。前の世界に未練などない。

 

「……分かった。殺すよ」

「よし、契約成立って事で……」

「あんたをな」

「……何?」

 

 直後、天井、床、左の壁を突き破って清姫、クー・フーリンさん、エミヤさんがレフを強襲した。

 一瞬で空いてる窓側にレフは飛び込んで中庭に逃れたが、壁側のエミヤさんが双剣を投げ、さらに弓を作り出して追撃した。

 

「チッ……!」

 

 それをも回避したレフは距離を置き、その隙に全員にトランシーバーで指示を与えた。エミヤさんが作った通信機を全員が耳にはめている。

 

「エミヤさんの遠距離攻撃で敵の位置を運び、クー・フーリンさんを主体に近接戦。清姫は確実に攻撃を当てられる時に仕留めに行け。奴は聖杯を持ってる、考える隙を与えるな」

 

 敵の本拠地にどんなサーヴァントがあるか知らないが、レフ本人がここにいる以上、間違いなく聖杯は持ってるはずだ。何処かの馬の骨に渡すとは思えないからな。

 ちなみに、さっき叫んでいたのは、俺のピンチを城内のサーヴァントに知らせるためだ。レフの前で通信機を使えば壊される可能性もあったから。そして来なかった沖田さんはお前マジ覚えてろよ。

 俺の指示に三人は頷きながら行動を開始した。

 

「アーチャー了解」

「ランサー了解」

「ワイフ了解」

「バーサーカーな」

 

 どこで覚えた、ワイフという言葉。

 大きく退がったレフはエミヤさんの攻撃を回避しながら俺をキッと睨んだ。

 

「チッ……!やはり人類か。無能に尽きるな……!だが、私がノコノコと一人でこんな所まで来ると思うか?」

「……!」

 

 直後、後ろから風を感じた。首の後ろは一番冷気やら霊気を感じやすい場所というが、その通りのようだ。間一髪しゃがむと、俺の首があった位置を剣が通り過ぎた。

 

「っ⁉︎」

 

 慌てて後ろを振り返ると、変なオッサンが振り抜いた刀を左手、火縄銃を右手に持って俺に向けていた。

 

「……やばっ」

 

 慌てて回避したが、俺のズボンを掠めた。腰の辺りのベルトだけを破壊され、ズボンが一気に緩くなる。

 

「ああああ!ズボン!」

 

 いや、大丈夫だ!手で押さえてれば脱げやしない……!

 そう思った直後、さらに足に向かって剣を振り抜かれた。ジャンプして回避したわけだが、緩くなったズボンで飛べば脱げるのは目に見えている。

 俺の身代わりにズボンは見事に裂けた。恥ずかしがってる場合ではなく、目の前の男の蹴りが空中に浮いた俺の身体を見事に捉え、レフの飛び降りた穴から投げ出された。

 

「うおっ……!」

「マスター!」

「バカ、お前らはレフから目を離すな‼︎」

 

 清姫が気を取られた直後、レフは隙を見つけたかのように大きく下がって距離を離し、何か始めた。身体が変化し、徐々に巨大な魔力を帯びていく。

 そんなレフを見てる間に、俺を蹴り飛ばした男は落下中の俺に銃口を向けていた。あ、これは詰んだかな?

 そう諦めかけた直後だ。俺の部屋の上、屋根から何かが飛び降りてきて男の火縄銃を弾くと、壁をすごい速さで走って下り、俺の身体をキャッチして地面に着地した。

 

「っ⁉︎」

「ご無事ですか?マスター」

「お、沖田さん……?」

 

 た、助かった、のか……?

 

「まったく、沖田さんが不貞腐れて屋上で寝てなかったらマスター死んでましたよ」

「……テメェ一番近くにいたのに一番来るの遅かったのか」

「寝が深いんです。てか、下半身丸出しの人に言われたくないです」

「斬られたんだよ‼︎」

 

 まぁ、とにかく助かったのは事実だ。下ろしてもらうと、俺と沖田さんの横に何かが降ってきた。さっきの男だった。

 

「久し振りだなァ、沖田……」

「……やっぱりあなたでしたか、土方さん」

「……えっ、土方って……マヨラーの?」

「は?」

「は?」

 

 あ、そっか。銀魂知らないよね。今度、全巻貸したげる。

 

「マスター!こっちもマズイぞ!」

 

 クー・フーリンさんの声が聞こえてそっちを見ると、なんか黒くて長くて目みたいなのがいっぱいある変なのが地面から生えていた。

 得体の知れないものだからか、エミヤさんもクー・フーリンさんも清姫も迂闊に手は出さずに距離を置いている。

 

『フハハハハ‼︎貴様ら、全員終わりだ!無能な人類史もここで全て消し去ってくれる‼︎』

 

 テンション高ェなあのオッさん。戦場は二つ、それに加えて土方はともかくあの化け物は戦闘スタイルすら分からない。

 ここは一度撤退した方が良さそうだが……そうは行かないんだろうな。地面から生えてる所を見ると地中からの攻撃も免れないだろう。

 

『田中くん⁉︎なんかすごい魔力を感じたけど……って、なんだあれは!魔神柱⁉︎』

「……ああ、ちょうど良かった。ロマン、あそこの魔神柱の戦闘の様子が見れる城内のポイントを探せ」

『いきなり⁉︎わ、分かった!』

「沖田さん、屋内戦だ。城内でどんな手段を使っても良い、一人で土方を消せ。なるべく早めにだ」

「了解しました」

「エミヤさん、クー・フーリンさん、清姫は退き気味に戦え。敵の攻撃方法を理解し次第、こちらから指示を出す」

「「「了解!」」」

 

 通信機に向かって指示を出すと、三人は頷いた。

 さて、当然レフは指揮官である俺を殺そうとしてくるはず……。

 

『貴様らサーヴァントごときが私に刃向かう⁉︎笑わせるな、フハハハハ!』

 

 あーバカで良かった。笑わせるなと言いながら爆笑してて楽しそうね。

 お陰で簡単に城内に入れた。まぁ、城内では沖田さんと土方がインファイトしている。それに巻き込まれないようにしないと。

 

『田中くん、4階の左から二番目の部屋、そこなら全体を見渡せる!』

「了解。中に誰もいない?」

『いない。皇帝の二つ目の部屋だから』

「ネロの部屋、だと……⁉︎」

『いや言ってる場合か!』

 

 クッ、興奮してしまう……!特に自慰のシミがベッドに残っていた暁には……!

 い、いやいや落ち着け!今はそんな場合じゃない!慌てての部屋に入り、窓の外を見ようとしたが、ベッドの上にパンツが落ちてるのが見えた。

 

「ロマン!」

『それは僕の名前が男のロマンか⁉︎なんにしてもぶっ飛ばすぞ!』

「くっ……!仕方ない……!」

『ポケットにしまうな!ていうかズボンどうしたの君⁉︎』

 

 無視して窓から外の様子を眺めた。魔神柱の位置はここからでもわかるほどだ。

 魔神柱の攻撃モーションを観察し続けた。モーションと言えるものはほとんどない。目がどう光るか、それと触手の動きに注意せねばなるまい。

 しばらく見てようやく動きが掴めてきた。まぁ、相手はレフだしこちらが動きを掴んだと分かったら動きを変えてくるだろう。その前に仕留めたいものだが、一番重要な事がわからない。

 

「……あれ、どうすれば死ぬんだ?」

 

 とりあえず殴ってりゃ死ぬのか……?それなら楽なんだが……。

 

「……まぁ、とりあえずこのままやるしかないな」

 

 増援は望めないし。

 とりあえず、掴んだ攻撃の直前の動きを通信機に言い残し、一応戦闘の様子を眺めた。指示を出したいが、戦闘に関しちゃサーヴァントの方が俺よりも経験は上だし、今見た動き以外の動きがあるかもしれない。

 引き続き見学を……と、思った直後だった。壁が崩れると共に沖田さんが部屋の中に飛び込んで来た。

 

 


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