古き神、とやらを探す為に地中海に来た。他の面子に話すのそれなりに賛同してくれた。
「………よし、沖田さん!おんぶ!」
「はぁ?なんですかいきなり」
「だって泳ぐしかないじゃん。俺、疲れるの嫌だ」
「私もマスターに乗られるなんて嫌です。重そうだし」
「いやいや俺軽いからね⁉︎」
「いえ、だって基本的に動きませんし、この時代に来てからは食事も豪勢ですし」
「そうです、ますたぁ。ここに来る前より体重が2.81キロも増えていますよ!」
「えっ⁉︎マジ……!………てか清姫テメェなんで小数点第二位まで分かるんだよオイ」
清姫さんたまに怖ぇんだけど。いや、たまにっつーか常に怖いわ。
「………しかし、太ってたか。少しショックだ」
「と、いうわけでマスターは自分で泳いで下さい」
「いや、泳ぐ必要などないぞ」
ネロが口を挟んだ。どういう意味?と思ったのも束の間、ボートみたいなのが普通に海に停めてあった。
「よし、お兄ちゃん。余の華麗な操船を披露してやろう」
「え、ネロたそ船運転出来んの?」
「うむ。まぁ見ておれ。よし、出航するぞ!」
と、いうわけで、全員船に乗り込んだ。
×××
到着した。死んだ。
「だ、大丈夫かマスター?」
クー・フーリンさんが心配そうに声をかけてくれたが、返事をする余裕もない。気持ち悪い、ケツが痛い、泣きそう。なんつー運転しやがんだあの野郎………。
「そうかそうか、眠ってしまうほど心地良かったか、お兄ちゃん!」
お前叩きのめすよ?
「………ごめん、俺無理。古き神を探すのはみんなに任せるわ。クー・フーリンさん、残って俺の護衛」
「なんで俺なんだ?」
「俺のサーヴァントで一番静か」
「把握した」
「………あ、マスター」
沖田さんが口を挟んで来た。
「私が残りますよ」
「お断りよ」
「お断りよ⁉︎」
だってうるせーもん。ていうかなんで立候補してんの?
「良いじゃないですか、別にー」
「いや、無理。俺もう頭痛いし腰も痛いしお尻も痛いし気持ち悪いし……。うるさいのはいらない」
「むかっ!」
口で言うな。ネロとかジャンヌ様なら可愛いけどお前が言うと怖いわ。
「クー・フーリンさん、代わってください」
「え?いや構わねえけど」
えっ、ちょっ……なんで………。
「お待ち下さい!そういうことならわたくしも!」
「絶対清姫には残らせるな。最悪、令呪だわ」
「何故ですかますたぁ⁉︎わたくしはこんなにもあなたを愛しているのに!」
「清姫、今回の任務はお前にしか任せられない。頼むぞ」
「お任せください!」
そんな無駄なやり取りをしてると、ネロがまとめるように言った。
「うむ、では立花、マシュ、清姫、クー・フーリン。行くぞ!」
『いや、待った』
その直後、ロマンからドクターストップが掛かった。医者関係なしに。
『こちらから探す必要はなかったらしい。向こうからお出ましだ。ただし、サーヴァントの反応だ』
俺は慌てて立ち上がり、ネロの背中に隠れた。ネロが嬉しそうに微笑んだ気がしたが、ロマンの声がまた聞こえて来たので気にしないことにした。
『いいや、違うな。これは正常なそれとは違う。これは、なんだ?』
「ええ、そうよ?普通のサーヴァントではないもの」
声のする方を見ると、ピンク色の髪の女の人が立っていた。白い服で神々しいオーラを出している。
「ごきげんよう、勇者の皆様。当代に於ける私のささやかな仮住まい、形ある島へ」
………可愛い。
「私は女神ステンノ。ゴルゴンの三姉妹が一柱。古き神、と呼ばれるのはあまり好きではないのだけれど」
…………美しい。
「でも、それでも構わなくてよ。確かに、あなた達からすれば過去の神なのだろうし」
……………綺麗。
「どうか好きにお呼びになってくださいな、みなさま。ねぇ?そこのマスター様」
「はっ、ステンノ様。いやマスター。わたくしに何なりとお申し付け下さいませ」
「「ま、マスター⁉︎」」
「お兄ちゃん⁉︎」
ステンノ様の前で膝を着いて手を取り、甲にキスをすると沖田さんと清姫とネロが反応して来たので、俺は心底やかましそうに三人を睨んだ。
「なんだよオイ」
「何いきなり絶対服従宣言してるんですか⁉︎」
「そうです!ていうか、あなたがますたぁではありませんか!」
「そ、そうだ!余のお兄ちゃんではなかったのか⁉︎」
「俺はステンノ様に忠誠を誓ったんだよ!」
「ふふふ、そうらしいわよ?三人とも」
ステンノ様は心底楽しそうにニヤリと微笑むと、俺に一瞥した。
「あなた、名前は?」
「田中正臣と言います」
直後、ステンノ様は俺の首元に手を添えた。それに気付き、他のサーヴァントやネロがステンノ様に剣を構えた。
「! マスター!」
「田中先輩!」
「おっと、動かないでくれる?」
ああ、ステンノ様に命を取られそう、ありがたき幸せ!
「この男を助けたければ、今からこの島の洞窟に向かいなさい」
「………どういう意味?」
ジャンヌオルタが聞いた。
「簡単なことよ?島の洞窟の奥にある宝を持って来るの。そうしたらこの男は開放してあげるわ。言っておくけど、全員で行くのよ?ここに一切の見張りは許さないわ」
「それってステンノ様と俺が二人きりってことですか⁉︎」
「ええ、そうよ?」
猫を相手にするように、首元をこしょこしょとくすぐって来るステンノ様。直後、ネロ、清姫、そして何故か沖田さんまでが魔力を解放した。
それにも恐れる様子なく、むしろ楽しそうにステンノ様は言った。
「おっと、脅すのは良いけどこの男の身の安全も考えてね?」
「っ………!」
すると、今度は藤丸さんが全員に声をかけた。
「みんな、行こう」
「! しかしマスター!」
「行くしかないよ。彼女は女神だし、どうしようもない」
妥当だな。
「ステンノ様、宝を取ってくれば良いのね?」
「ええ、そうよ?」
「でも気をつけてね。こちらには嘘に厳しい人もいるから」
そう言う藤丸さんの視線には清姫がいる。それを察したステンノ様は微笑んだまま頷いた。
「ええ、分かってるわ。女神は嘘はつかない」
「………了解。じゃあ、行こう」
全員、洞窟に向かった。なんかすごいオーラ出してるが。
みんなの姿が見えなくなった直後、ハッと意識が戻った。ついさっきまでの記憶がない。
「………あれ?みんなは?」
「ごきげんよう」
「………誰?」
「ステンノよ。今、あなたの命を救うためにあなたの仲間は洞窟に向かったわ」
………つまり、この女は俺を人質に取ったって事か………?
「ああああああ!殺されるうううううううう‼︎」
「大丈夫よ、殺さないわ」
いやいやいやいや、敵の言葉を信じろって⁉︎アホか!ど、どどどどうしよう。どうやって逃げよう………。
「まぁまぁ、焦らないで。本当に殺さないわ。女神の名の下に約束する」
「ごめんなさい殺さないで……。お金ならいくらでも払います……」
「話聞きなさい。本当に殺すわよ」
「はい」
素直になった。にしても、綺麗な紫色の髪だ。さっきまで何をされたのか知らないが、まずいなこれ。
「にしてもあなた、すぐに人質にされたってよく分かったわね」
「そりゃわかるだろ!俺を助ける為に洞窟に向かったってことは、お前は何かしら必要だったって事っしょ?俺の命を引き換えにしなきゃいけないほどに重要なもの」
「なるほどね?でも、全然違うわ」
「は?」
「面白そうだったからやってみただけ」
「………………」
このクソドS女。過去最大級にムカつくなオイ。
しかし、大体分かってきた。ようはこいつ、島に訪れた俺達で遊んでるのだ。野良のサーヴァントなんだろうな。俺の仲間があれだけいる中で俺の背後を一瞬で取れる、つまりアサシンかな?
何にせよ、多分俺の事を殺すかどうかは分からないが、あいつらが戻って来るまで俺に出来ることはない。
「じゃ、俺寝るわ。あいつら帰って来たら教えて」
仕事サボれてラッキーだわ。その場で寝転がると、ステンノは俺に驚くほど素敵な笑顔を向けた。
「あら、それじゃあ私が暇じゃない。暇潰しに付き合ってくれる?」
「御意」
すぐに座り直した。