カルデアがダブルマスター体制だったら。   作:バナハロ

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風邪引いて文書ヤバイかもです。すみません。


元気を出すには怒らせるのが一番手っ取り早い。

 ようやく、カエサルを撃破し、俺達は野営地に戻った。今回は初めてサーヴァントだけでなく兵士同士の(いくさ)の指揮官をしたということで、少し反省すべき所が見えた。全く考慮してなかったわけではないが、魔性の生物が出て来ることまで想定していなかった。

 そのため、清姫とマシュの合流が遅れた。それと、前衛をあっさり分断されてしまったことだ。これからはその辺を考えて配置せねばなるまい。

 

「………と、いうわけで反省してるって!なんで怒ってんの⁉︎」

 

 なぜか正座させられています、はい。俺の目の前で仁王立ちしてるのはネロ。

 

「余達が怒っているのはそこではない‼︎何故、弱っちい癖に出しゃばった⁉︎指揮官が倒れるわけにはいかないと言ったのは貴様の方であろう‼︎」

「………あー、や、それは……」

 

 沖田さんの調子を戻すためです、と言おうとしたがそれやると沖田さんが責められるよなぁ………。

 

「の、ノリで………」

「っ!このっ、バカモンが‼︎」

 

 部長みたいな事を言いながら俺の頭をブン殴った。すると、沖田さんが間に入って、まぁまぁとネロをなだめた。

 

「も、申し訳ありません、ネロさん。マスターがあの様な行動に出たのは、私のためなんです……。私が、本調子ではなかったから……」

「む、むぅ……そうなのか?」

 

 思いの外、沖田さんは自分から言い出した。ネロにも確かめられ、頬をぽりぽりと掻きながら「ま、まぁ……」と答えた。

 

「に、にしてもだな……。何も命まで掛ける事では……!」

「は?命なんて掛けてないよ?何言ってんの」

「「えっ?」」

 

 沖田さんとネロから声が漏れた。

 

「だ、だって、カエサルに向かって行ったじゃないですか」

「う、うむ。実力差以前にお兄ちゃんは戦闘兵ですら無いではないか」

「ああ、それはね」

 

 聞かれて、上半身の服を脱ぎ出した。俺の下には防弾チョッキが巻かれていた。

 二人ともそれを見るなり首を傾げた。

 

「? なんですかそれ?」

「防弾チョッキ。拳銃から身を守るためのものだ。剣に有効かどうかはわからないが、せっかく持ってきたし付けるだけ付けとこうと思って。だから万が一、カエサルの剣が当たっても俺は死ななかったよ」

 

 まぁ、部位にもよるし多分一発で鎧が壊れるとは思うけど。

 すると、二人は微妙な表情を浮かべた。なんだよ?と視線で問うと、ネロと沖田さんは答えた。

 

「う、うむ。まぁ、それなら許すしかないのだが……」

「………なんか、まぁ、マスターらしいですね」

 

 なんだよ。良いだろ。俺だって死にたくなかったんだし。

 なんか少し不貞腐れそうになったが、それで話が長くなるのは嫌なので黙っておくことにした。

 

「そ、それよりこれからどうすんの?もう帰る?」

 

 代わりに今後の方針を聞くと、ネロは「ふむ……」と呟いた。

 

「そうだな。今日は皆、疲れたであろう」

「りょ。よし、今日は解散!」

 

 そう言うと兵士達やサーヴァント達は別れた。さて、俺も良いかな。今日は何度も死にそうな目に遭ったし、もう疲れたわ。

 

「………風呂」

「あ、マスター」

 

 簡易風呂に向かおうとすると、沖田さんに呼び止められた。

 

「何?」

「………少し、良いですか?」

 

 そう言うと沖田さんは森の中に向かった。まだ返事してないのに。仕方ないので俺もついて行った。

 森の中に入り、しばらく歩くと沖田さんが止まったので、俺も立ち止まった。

 

「なんだよ」

「………昨日の事なんですけど」

「あー……」

 

 そういやちゃんと話してなかったな。

 

「悪かったよ。その……まんっ……敏感なとこ舐めちまって。こっちも殺される所だったとはいえ」

「………いえ、その件は良いんです」

「えっ?」

 

 じゃあなんで呼び出したんだよ。てか、さっきその件って言ってたろうが。

 

「………その、昨日の事を引き摺って、指揮官を引っ張り出すようなことをして、すみませんでした………」

「あー………」

 

 そういうことか。てか、それは昨日の事なのか?まぁなんでも良いが。

 

「いや、気にしなくて良いよ別に。むしろ、俺の方が悪かったよ。そんな行動不能になるまで恥ずかしい思いをさせて」

「いえ、それは……結局、起きなかった沖田さんの所為ですから」

「いやいや、にしてもやって良い事と悪い事があるだろ。沖田さん、仮にも女だし」

「………それは、そうですが……。マスターの命を狙おうとするなんて以ての外でしょう」

 

 ………うーん、相当凹んでるな。流石、元新撰組。普段なら「仮にも」って所で怒るのに。あまり気にして欲しくないんだが……。仕方ない。

 

「沖田さん」

「? 何ですか?」

「それはそうと、沖田さんって処女なんだね」

 

 開戦の狼煙を上げると、ビキッと沖田さんの頬に青筋が立ったのがすぐに分かった。

 

「なんですか!この期に及んでセクハラ発言ですか⁉︎挑発してるんですか⁉︎」

「いや、だってそうだろ。少し舐めただけで力抜けるなんて敏感にも程があるでしょ」

「う、ううううるさいです、このど変態‼︎マスターだってどうせ童貞でしょう⁉︎」

「てめっ、せめてマスターは付けろコラァッ‼︎大体、童貞じゃないし!経験がないだけだし!」

「それを童貞って言うんですよバーカ!大体、処女だから敏感とか思い込んでる時点で童貞感丸出しですから‼︎」

「うっ、ううううるさいわアホ‼︎俺はお前と違って初チューはしてるしー!」

「はん!どうせこの前のジャンヌさんの時の話でしょう⁉︎あんな舌も入れてないチューは誰にも自慢なんて出来ませんよ!」

「ああっ⁉︎てめっ、今のはマジあれだわ。ジャンヌ・ダルクとキスした人間なんて世界史的に見ても俺しかいねーから。そんな俺の思い出をバカにする者は誰が相手でも許さん」

「はぁ?やるって言うんですか?上等ですよ」

「今日こそ決着つけてやらぁ‼︎」

「いつもぼろ負けしてるじゃないですか!見栄張らないで下さい‼︎」

 

 襲い掛かった。

 

 ×××

 

「痛て……ったく、本気で殴りやがって……あんにゃろ………」

 

 ボロボロになった身体を引きずりながら野営地に戻った。

 そういえば、昨日はネロの部屋で寝たから俺のテントってどれだか分からねーんだよな。

 とりあえず、男湯に入って中で一緒になった人にでも聞こうと思ってると、「お兄ちゃん!」と言う呼び声が聞こえた。俺の事を兄と呼ぶのは現代史的に見ても歴史的に見ても一人しかいない。

 

「少し、話良いか?」

 

 ラブリーマイエンジェルシスターネロたそだ。

 

「良いよ。お兄ちゃんがネロのお願いを断ったことがあるかい?」

「良いから早く来い」

 

 少し冷たいですね。いや、まぁ良いけど。

 ネロのテントに到着し、二人で椅子に座った。

 

「それで?」

「うむ、まずはからかうぞ」

「はっ?」

 

 何その宣言。

 

「沖田を元気づけるために随分と回りくどい事をするのだな?」

「っ!お、おまっ……見てたのか⁉︎」

 

 マジかよ………。しかも見透かされてるとか………。なんか、かなり恥ずかしいんだけど………。

 

「普段は喧嘩ばかりしてるようなのに、随分と優しいのだな?」

「いや、違うから。凹まれてると戦闘に響くから黙らせただけだし」

「ふむ、しかも照れ隠しか?可愛いところもあるではないか」

「……………」

 

 これ以上、この話題は危険だ。話を変えようと思ったところで、ネロが微笑みながら言った。

 

「まぁ、お主のそういう所、余は好きだぞ?」

「っ」

 

 っくりしたぁ……。ネロの笑顔が可愛すぎて思わずときめいたわ。ホント、妹にして良かったと思えるほど可愛いわこの子。

 

「………で、話ってなんだよ。『まずは』って事は何か他にも話あるんだろ?」

「う、うむ。そうだったな。実はここにきてから何度か聞く話なんだが、古き神が現れた、というのだ」

「はぁ?」

 

 なんだよ古き神って。てか誰から聞いたの?

 

「その島があるらしいんだが、どうする?行かぬか?」

「行かない」

「即答⁉︎」

 

 当たり前だろ、胡散臭い。

 

「昔の人の『神』っつーのは火山の噴火や落雷とかを表してるからなぁ。どうせ、どっかの島に雷が落ちたりしただけだろ?」

「いや、余も詳しくは知らぬのだが………。だが、『地中海のある島に古き神が現れた』というかなり具体的な話だぞ」

「地中海のある島の火山が噴火したんじゃねーの?」

「火山はないらしいのだが……」

「じゃあ雷」

「テキトーにも程があるぞ……。そこまで行きたくないのか?」

 

 行きたくない。さっき死にかけたばかりだし、もう疲れたし。城に戻って寝たい。

 

「ネロは行きたいの?」

「うむ。気になるからな」

 

 うわー……でも、リスクがデカイなぁ。特に俺個人に対するリスク。ていうか、行きたくないどころの騒ぎじゃないわ。ネロには悪いが断ろう。

 

「とにかく嫌だ。俺はもう疲れた。誰がなんて言おうと」

「お願い、お兄ちゃん?」

「行くか。今すぐにでも」

「いや今すぐは………」

 

 よし、やってやるぜ。古き神だかなんだか知らないが敵なら速攻しばき倒してやるぜ。

 

「うむ、では次が最後の話だ」

「え、今ので終わりじゃないの?」

「違う」

 

 直後、ネロが俺の腰の辺りにギュッと抱き着いた。

 

「っ⁉︎ね、ネロ⁉︎」

「………馬鹿者。心配したぞ」

「え、なんの話?」

「………先ほどの戦闘だ。カエサル殿に大した武器も持たずに向かって行くなど………」

「あ、あー………」

 

 その話か。いやそれは申し訳ないとは思うよ。

 

「余は……余は、お主が死んだら悲しいぞ。味方の戦意を奮い立たせるためだか知らぬが、お主が死んでしまっては何の意味もない」

「いや、あれはだから命かけてたわけじゃ………」

「首を斬られたらどうするつもりだったのだ?」

「…………」

 

 それは正直賭けだった。まぁ、俺の中でも首と脚への攻撃には気を付けてたんだけどね。

 

「………頼むから無茶はするな、正臣よ」

「…………悪かったよ」

「うむ。では、話は終わりだ」

「ああ、ちょうど良かった。なら、俺の部屋教えてくれない?」

「? 何を言っている?お兄ちゃんの部屋ならここだ」

 

 ? お前が何を言っている?

 

「昨日、お主が言ったのだろう?俺には甘えろ、と」

 

 あーいや確かに言ったけど……。でも、あの時は兄テンションだったというか………。昨日なんて全然眠れなかったし、今日くらいは一人で寝たいんだけど………。

 何とかやんわり断れる言葉を探してると、ネロは悪戯っ子のよう且つ、純粋な笑みを浮かべて言った。

 

「だから、これからはしばらく甘えさせてもらうぞ?お兄ちゃん」

「……………」

 

 仕方ない、今日の睡眠も諦めよう。そう決めると、俺はとりあえず風呂に入る事にした。

 

 


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