翌日、俺の作戦の元、ガリアを取り戻す作戦が開始されようとしていた。戦争において、一番重要になるのは情報だ。だが、戦場は完全な平地で敵の兵隊に忍び込む事など出来ない。
なら、やる事はサーヴァントの数によって作戦を切り替えられる作戦を考える事だ。
そのために、とりあえず右翼と左翼と中央の三部隊に分け、それぞれにサーヴァントを配置した。残念ながら遠距離攻撃の手段を持つサーヴァントはいないため、前衛にサーヴァントを固める陣形になってしまったが、まぁこの際仕方ないだろう。
戦場に向かう直前、思い出したようにネロに言った。
「あーそうそう。ネロ、お前はもちろん後衛の指揮官だからな」
「むっ、な、何故だ⁉︎」
「指揮官っつーのは基本的に前衛に出るものじゃねーんだよ。俺の伝えた作戦を頭に入れたのなら、臨機応変に判断してそれらを実行しろ」
「なら、お兄ちゃんが後衛でも良いではないか!」
「俺にはサーヴァントへの指揮もある。俺と藤丸さんは前衛に出ざるを得ないんだよ」
「むぅ……仕方あるまい………」
「大丈夫、ネロの力が必要な時はちゃんと前衛に呼ぶから」
「なら良いが……。絶対だぞ」
「ああ、分かってる」
よし、では行くか。右翼は清姫、スパルタクス、ブーディカ。左翼はマシュ、ジャンヌオルタ、藤丸さんに任せ、中央は俺とクー・フーリンさんと沖田さんだ。
後衛の中央にいるネロに軽く挨拶を済ませると、進撃した。三部隊に別れて進んでると、クー・フーリンさんが聞いてきた。
「………なぁ、マスター」
「? 何?」
「沖田の奴は大丈夫なのか?」
そう言われて沖田さんの方を見たが、未だに心ここに在らず、といった感じだ。
「大丈夫じゃない」
「なら、なんで前衛に入れたんだよ」
「沖田さんが大丈夫って聞かなくて」
「だからってな……」
「クー・フーリンさんがいるから大丈夫だとは思ってるよ。こう見えて、俺が一番信頼できるサーヴァントはクー・フーリンさんですから」
「……マスター」
それに、沖田さんが機能しなかった場合の陣形でもある。問題ないはずだ。
………さて、そろそろ行くか。
「全軍、突撃!クー・フーリンさん、お願いします!」
「おお!『突き穿つ死翔の槍』‼︎」
クー・フーリンさんは敵兵が見えるなり、槍を投擲した。水平に飛んでいき、敵兵の心臓を貫いた。向こうが動揺した直後、盾持ちの兵士達に、盾を正面に構えさせて突撃させた。
その先頭に立つはクー・フーリンさん。盾を借りて戦闘で敵の弓兵からの矢を弾いたり躱しながら一番乗りに到着すると、宝具を持って暴れ回った。先頭にいる弓兵隊が崩れた事により、相手の陣形は次の作戦へと移行する。弓兵を下がらせ、その先に剣と盾持ちが向かって来た。
それもこっちは読めていた。だって、そうするしかないし。
「怯むな、押し切れ‼︎」
途中から入れ替えられた所でこちらの勢いは止まらない。
俺は先頭ではないが一番後ろでもない位置で戦場を見守っていた。戦闘で暴れるのはクー・フーリンさんと沖田さん。だが、予想通り沖田さんはいつもより動きが悪い。
「ロマン、サーヴァントの反応は?」
『奥に一人だけだ。それ以外に反応は見えない』
「りょ。じゃあ、右翼は清姫、左翼は藤丸さんとマシュに中央に向かわせて」
『了解』
よし、予定通りだ。だが、物事が予定通りに進んでる時は、逆に向こうの思惑通りの可能性もある事を忘れてはならない。俺は目の前の戦場より先を見据える必要がある。
その直後だ。足元から地響きを感じた。何か嫌な予感がする。
「クー・フーリンさん、沖田さん!兵士連れて退いて‼︎」
「ああ⁉︎」
その直後だ。前の方の地中からゴーレムが5体ほど生まれてきた。どう考えても魔性の生物だ。やはり、何か手を打って来たか。しかも、最悪なことに前衛を二つに両断される形で現れた。
「クー・フーリンさん、沖田さんはゴーレムの相手をして。その他兵士は前の敵だけを見ろ!ただし、ゴーレムからの攻撃には最低限の注意は向けろ!ロマン、清姫とマシュ達に合流を急がせて!合流し次第、ゴーレムの前にある兵士達の援護をさせて!」
その指示に全員から返事が来た。その程度、奇襲にもなっていない。
それに、相手がどれ程、この戦場にかけてるか知らないが、前線のうちの一つにそこまで魔力をかけるとは思えない。
「オラァッ‼︎」
クー・フーリンさんの気合のこもった声が聞こえた。ゴーレムを一体撃破したようだ。
清姫達はまだ到着してないのが不安だが、クー・フーリンさん達と沖田さんは順調のようだ。ここからゴーレムが増えないとも限らない、何か手を打たねば。
そう思っていた直後だ。ゴーレムの前の戦場で爆発音が聞こえた。味方兵士がぶっ飛ばされていた。
「………来たか。待ちくたびれたぞ。一体、いつまで待たせるつもりか」
その先にあるのはかなり太った男。狸と呼んでも差し支えないくらいのデヴ。だが、味方兵士の中を無双してる辺り、おそらくサーヴァントだろう。
「しかし、だ。どうやら私が退屈するだけの価値はあったぞ。面白い指揮官がいるな」
そのサーヴァントは、真っ直ぐと俺を見据えていた。なんだ?俺が指揮官である事がバレたのか?いや、まさかそんなはずは……あるわ。他の人と服装違うし、戦場が見渡せる位置にいる時点で………。
とにかく、現状はまずい。
「全員、クー・フーリンさんと沖田さんがゴーレムを食い止めてる間に撤退しろ!敵サーヴァントとゴーレムの挟み撃ちにされるのは避けるんだ!ロマン、後衛のネロに弓兵の援護射撃をさせろ!」
『了解』
言ってる場合じゃない、俺も退かないと殺される。ネロに頭を潰されてはならないと偉そうに言っておきながらやられるわけにはいかない。
敵サーヴァントは援護射撃で降ってくる矢を物ともせずに剣で弾き飛ばしている。このままでは、沖田さんとクー・フーリンさんに追い付いてしまう。周りの兵士達は撤退しながら敵兵士と戦うのに手一杯だ。
「ロマン、清姫達はまだ来ないの?」
『ああ、他の場所にもゴーレムが出てて足を止められてるようだ』
………清姫達はまだ来れない、ゴーレムとサーヴァント相手でクー・フーリンさんと沖田さんも手こずっている、さらに沖田さんは本調子じゃないと来た。追い込まれれば沖田さんも少しは調子を戻すと思ったが、アレじゃ並みのサーヴァントと変わらない。
………仕方ない、次の一手だ。元々、沖田さんの不調の原因は俺だし、俺が責任を取るのは当然だ。
「………仕方ない。ロマン、ネロを前線に出す」
『! 分かった』
「それと、後の事はネロに任せて。敵の増援の事を考えた上でのゴリ押しでいけるはずだから」
『? それって、どういう……』
ロマンからの声を無視して、俺はゴーレムを通り過ぎた。その俺にクー・フーリンさんから声が上がった。
「ああ⁉︎マスター、何やってんだ⁉︎」
「サーヴァントは俺が足止めする!」
「バカ言うな、出来るわきゃねぇだろ‼︎」
「クー・フーリンさんと今の沖田さんだけじゃ、三人相手は厳しいだろ!誰かがやらなきゃいけねえんだよ‼︎」
クー・フーリンさんと沖田さんを含みがある言い方で分けた。ピクッと沖田さんが反応したのを見ると、俺はゴーレムの間を抜けてサーヴァントの前に立った。
「マスタ……!」
声を上げてクー・フーリンさんが援護しようとするが、黒いゴーレムがその道を阻んだ。あっちは茶色いのより少し強いようだ。
「ほう、大将自ら私の相手をしてくれるのか?見込違いだったようだな」
「バーカ、うちらの大将は俺じゃねえ。あいつがお前なんかの相手をするわけがねえだろ」
「まぁ良いさ。私の前に立った以上、斬り伏せるだけだ」
来る………!拳銃は……ダメだ。どうせやられるなら、この時代に存在しない武器は今は使わない方が良い。
となると、俺にあるのはナイフ一本だけだ。………いやいやいやいや!無理無理無理無理!10秒も保たねえよ!ど、どうしよう……なんか戦うとなったが腰が引けて来たんですけど………。
「………殺す前に、名前を聞いておこうか?」
「な、名前ですか?」
「なんで急に敬語?」
「あ、いえ、なんでもないです。えっと……僕は田中正臣でございます。一つ宜しくどうぞお願い致します」
「そ、そうか。タナカマサオミか。私はガイウス・ユリウス・カエサル」
「! それって……!」
初代皇帝以前の支配者………‼︎それがあんなにデヴだと⁉︎
「嘘だ!」
「え、いや嘘じゃないけど」
「なんでそんな雪だるまみたいな体型した奴が皇帝なんかやってんだよ!」
「体型は関係ないだろう!それに、ふくよかなのは富の象徴だ!」
「違うね!我慢を知らない暴飲暴食を繰り返すダメサラリーマンと一緒………‼︎」
直後、ズボァッと俺の真横の地面が抉れた。………え、ち、ちょっと待って………?これ………。
「と………飛ぶ斬撃…………?」
「おしゃべりは終わりだ。戦いを始めようか」
カエサルは俺を睨むと、剣に手を掛けた。嫌な予感がして反射的にしゃがむと、俺の頭皮の髪の毛先が切れた。
「ちょっ、ちょちょちょっと待って!セイバーでそんな鷹の目みたいな事ズルじゃないの⁉︎」
「戦いに卑怯も何もないだろう?」
「いやいやいや!限度ってものが……!」
文句を言ってる最中にカエサルは剣を振り上げた。慌てて横に逃げると、ズバッと俺の真横の地面が抉れた。
こっ……怖ぇ〜〜〜〜〜⁉︎マジかよ、サーヴァントってこんな化け物ばかりなのかよ!正直、あの丸々した体型見たから三下ポジなのかとばかり………!
このままじゃ近付くことも出来やしねぇ!いや、近付いたって勝てるわけがないんだが。いや、結果的に足は止められてるから良いんだが………。
そんなフラグ染みた事を思ってしまったからだろうか。石に躓いてゴロゴロと転がった。何かにぶつかって俺の体は止まり、尻餅をついた。
「痛て……」
ふと何に見つかったのか気になって見上げると、目の前にカエサルがいた。
ものっそい冷たい目で俺を見下ろしている。あ、死んだなこれ。今までありがとう、みんな。
「………ここまでだな、ナカタマサオミ」
「いや、俺、田中………」
訂正される前にカエサルは剣を振り下ろした。おいおいおい頼むぞ!このままじゃマジで死ぬ………!そう思いながらキュッと目を瞑って、反射的に両手で頭を抱えた時だ。
頭上でギィンッという鈍い音が聞こえた。ビーンッと鼓膜に響いたが、それが気にならないほどに何があったのか気になって見上げると、沖田さんがカエサルの攻撃を弾いて立っていた。
「………ほう?新たな兵隊か?」
「………私のマスターに、手出しはさせない」
………思ったより早かったな、覚醒が。マスターが死ねばサーヴァントも消える。沖田さんが覚醒するのは目に見えていた。
「もう平気なのか?」
「はい……。マスターには色々言いたいことがありますが、とにかく今は戦闘に集中させていただきます」
そう言って、沖田さんは刀を構えた。しかし、沖田さんがまともに機能すれば、ゴーレム程度何とでもなるのは分かっていたが、にしても早いな。
とりあえず邪魔にならないように後ろに下がりながら後ろを見ると、ネロが追いついて来ていた。見事なまでのゴリ押しで敵兵士を圧倒している。
「………なるほど。今の男は貴様のマスターであったか。名前を聞こう、美しき少女よ」
「私は沖田総司、クラスはセイバーです」
「ほう。その美しさと私の剣を弾いた褒美をやろう。故に一つだけ質問を聞いてやろう」
なんだ?女好きか?とりあえず、質問しておくか。
「沖田さん」
「わかっています。私達の質問は一つ、聖杯はどこにありますか?」
おお、よくわかってる。一周回って冷静、と言うか頭が回るようになったのか?
「良いだろう。聖杯なるものは我が連合帝国首都の城に在る。正確には、宮廷魔術師を務める男が所有しているな」
………やはりか。それだけ分かれば十分だ。
すると、カエサルの魔力が上昇するのを感じた。それと共に俺と沖田さんの後ろの地面から新たなゴーレムが生まれてきた。ざっと見た感じで5体はいる。
まるでゴーレム達は他のサーヴァント達の相手をするかのごとく立ち塞がった。
「!田中先輩!」
声が聞こえて振り返ると、マシュと清姫がようやく来たようだ。その後ろからは元気に指揮をするネロの声が聞こえる。あいつらにはゴーレムの相手を任せるとしよう。
「では、これから戦うとしようか」
カエサルの腕が変形し、グレーの鎧のようなものが出てきた。それを見るなり、沖田さんは刀を構えた。
「沖田さん、タイマンでいける?」
「愚問です」
「じゃ、頑張れ」
「はい………!」
戦闘開始だ。刀を構えて沖田さんは突撃した。