カルデアがダブルマスター体制だったら。   作:バナハロ

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悲鳴に男女は関係ない。

 野営地→風呂、という時点で俺の頭の中には温泉、或いは簡易風呂であることが読めた。これを覗かずに何が男か。だが、ここで女子達にのこのこ付いて行けば覗こうとしてるのがバレる。地道に情報収集するしかない。

 俺はその辺の兵士に声をかけた。

 

「ねぇ、ちょっと」

「? 何でありますか?」

「あーいやそんな堅苦しい話し方しなくて良いよ。タメ語で行こう」

「お、おう。じゃあ……なんだ?」

「風呂ってどこにあんの?」

「あそこ」

「サンキュー」

 

 よし、あそこか。いや、男湯だなあれは。だが、「女子は?」なんて聞けない。

 つまり、推測するしかない。だが、大体の検討はつく。風呂というのはトイレと違って自分の全てをさらけ出す場所だ。つまり、見えない角度、というものはなく、どんな場所からでも必ず恥ずかしい所のどこかしらは見えるものだ。ToLOVEると現実は違う。

 だからこそ、厳重かつ一番敷居の高い場所のはずだ。この狭い野営地の中でその場所を探せ。

 そう思って、俺は木に登った。ここからならよく見渡せる。それに、俺にはこいつがある、双眼鏡。こいつがあれば、いかに遠くの裸体であろうと眼前で拝む事が出来る。

 一番大きな敷居………あそこだ!見つけると、俺は木と木の上を跳んで移動した。

 簡易風呂のテントに天井はない。理由は俺が思うに二つある。一つは、布が濡れるからだ。持ち帰る時に手間になる。二つ目は、風呂場の大きさだ。思い付くだけでもシャワー(この時代だと、それらしきもの)、桶、椅子と必要なものがある上に、一人一人入っては手間になるので大浴場になるはずだから、なおさらスペースをとる。よって、高く壁を作れば天井はいらなくなるはずだ。

 だからこそ、俺のように身軽で運動神経の良い奴は覗けるのだ!俺は大きいテントに向かった。テントなら、布と布の隙間から覗けるはず……!

 

「何奴!」

「キャーーーーーーー‼︎」

 

 突然、目の前に黒い刃が布越しに突き刺さって来た。し、死ぬかと思った………。いや、ダメだ。ここが女子風呂だったらどちらにせよ殺される………。

 

「むっ?その声、お兄ちゃんか?」

「………ね、ネロ………?」

「なんだ、敵かと思ったぞ。入れ」

「へっ?は、入っても良いんですか⁉︎」

「構わんぞ」

 

 マジか!風呂に入って良いのか!皇帝陛下のお許しが出たんじゃあ仕方ないな‼︎是非、入らせてもらいます‼︎

 ウキウキしながら……いや、一回深呼吸してから入ると、中は普通にテントだった。何故かベッドや机、椅子が置かれ、床はシートの上に絨毯が置いてある、普通の部屋って感じ。

 おい、これひょっとして……。

 

「ここ、ネロの部屋?」

「そうだが……なんだと思って来たのだ?」

「……………」

 

 言えない。風呂場だと思って来たとは言えない。ていうか、よくよく考えたら女子なんてネロとブーディカしかいないし、女子風呂がそんなにデカいわけがないよね。

 なんか一人で肩を落としてると、クスッとネロは微笑んだ。

 

「それにしても、お主の悲鳴……ふふっ、『キャー』なんて女性が上げる悲鳴だぞ?」

「や、こっちは命の危機だったからね?それに男がキャーって言っちゃいけないなんてルールはないから」

「キャー!」

「…………ネロ?そういう意地悪を言う妹はお仕置きだぞー?」

「ほほう?お兄ちゃん、面白いではないか……!」

 

 構えると、ネロも構えた。ジリジリと隙の伺い合い。………だが、ガチの戦闘ではこんなことやる勇気はないが、この手の遊びで俺に勝てる者はいない。

 

「あっ」

「へっ?」

 

 ネロの斜め上を見上げると、ネロも見上げた。直後、俺は突撃し、ネロの腹にタックルをかまし、ベッドに押し倒した。

 

「ぬおっ……!ひ、卑怯者!」

「褒め言葉だ!ほれほれ、こちょこちょこちょ」

「あっ、ぷははははははは‼︎やっ、やめっ……ひははははは‼︎」

「ほれほれ、今のネロの方が女の子らしい悲鳴を上げてるぞー?」

「こ、これは悲鳴じゃなはははははは!」

「悲鳴も断末魔も大して変わらないから。ほれ、謝るなら今のうちだぞ?」

「ごっ、ごめっ、ごめんなひゃいいいひひはははは‼︎」

 

 よし、許してやろう。それに、これで少しは元気出たかな?

 手を離してからも、ネロはベッドに寝転がったまま肩で息をしていた。

 

「はぁっ、はぁ……まったく、余は皇帝陛下だと言うのに……。こんな事をするのは主だけだぞ」

「バーカ、俺の事をネロが『お兄ちゃん』と呼ぶ間はネロは俺の妹だ。俺の妹である以上、こうして気軽にちょっかい出したりするさ」

「………本当の妹ではないのにか?」

「そんなもん関係ない。ネロは可愛くて良い奴で一生懸命で、それでいて可愛い、だから俺の妹になってもらった。それ以外には何もいらないよ」

 

 自分で何言ってるか分からなかったが、とりあえず勢いでそう誤魔化しながらネロの頭を撫でた。

 

「………お主は変わってるな」

「ま、俺と一緒にいる間は気を抜けよ。アレだけの男共を一人でまとめてるんだ。疲れるだろ?」

「………いや、そんなことは」

「あるでしょ。俺だってうちの馬鹿どもまとめてるの疲れるもん」

「………あれはまとまっているのか?」

「………………」

 

 余計な口を挟むな。それに、いざという時は言うこと聞くから良いの。

 

「と、とにかく、人をまとめる立場ってのは大変なのは俺も良く分かる。必要なのは指揮能力だけじゃない。カリスマ、本人の実力、統率力……まぁ、他にもとにかくいろいろ。何より、部下に絶対弱味は見せられない、そう思う気持ちは分かるよ」

「………お兄ちゃんは見せまくってるではないか」

「良いんだよ俺の事は!とにかく、俺が言いたいのはだな。兵士の前では見せられない部分も、俺の前では見せろって事だ。俺はカリスマも実力も無いし弱味は見せまくってるし、それどころか部下には嫌われてるし………」

 

 あれ、言ってて悲しくなって来た。まぁ良いや、続けよう。

 

「頼りないかもしれないけど、俺に甘えろ!部下には見せられない部分を俺には存分に見せろ!」

 

 バーン、と効果音が出そうなほどに言い切ってやった。

 するとネロは、キョトンと瞬きを数回すると、やがてクスッと微笑んだ。

 

「………まるで説得力が無いではないか。でも、そうだな。お兄ちゃんには、私の息抜きを手伝ってもらおう」

「ああ。所で今更だけど、お前さっき寝るって言ってなかった?」

「………いや、少し頭痛が酷くてな。寝ように眠れなかったのだ。だが、お兄ちゃんが来てくれたからにはもう安心だな」

「寝るのか?風呂とか入らなくて良いの?」

「ふむ、そうだな………。今日はゆっくり風呂にでも浸かるとしようか。お主もどうだ?」

「一緒に入って良いんですか⁉︎」

「アホ。ここで待っていろ。余の部屋にもシャワーだけなら備え付けてあるからな」

「それは良いけど、何で俺もここにいた方が良いの?」

 

 聞くと、突然ネロは顔を赤らめて目を逸らした。言いにくいことなのか、10秒ほどためらった後にボソッと呟くように言った。

 

「………その……今日は、一緒に寝て欲しい、から………」

 

 途切れ途切れに頬を赤く染めながらそう言うネロを見て、思わず心臓がドキッとした。なにそれ、可愛過ぎるだろこの子………。心臓の高鳴りが収まらない。

 

「お、おう。でも俺もお風呂に入りたいんだけど」

「ふむ……なら、余が出た後にシャワーを貸してやろう」

「マジでか!」

 

 ネロは部屋のバスルームに向かった。

 交代でシャワーを浴び、いよいよ睡眠の時間。同じベッドに俺とネロは入った。………童貞にこのシチュエーションは少しハードルが高いな………。

 

「よし、では寝ようか。お兄ちゃん」

「お、おう。そうだな」

 

 ネロは俺の腕にしがみついて来た。柔らかい胸が俺の腕にあたる。というか意外と柔らかいのな。

 

「………ね、ネロさん?近くない?」

「………あ、甘えろと言ったのはお主の方であろう」

「いや、そうなんだが………」

 

 このままじゃ俺の方が眠れねーよ。いや、もう良いか。このまま柔らかさを堪能しちゃおう。

 そう思い、二人で目を閉じた。

 

「……………」

「……………」

「……………」

「……………」

 

 やっぱ眠れねー。ていうか、健全な男子がこんな中で眠れるか。ネロが可愛すぎて眠れねーよ。何その寝顔、反則級に可愛いわ。襲い掛かりたいのをなんとか我慢してる状態ですわ。

 いかんいかん、さっさと寝ればこの無限ムラムラ地獄から解放されるというのに………!

 

「…………お兄ちゃん」

「っ⁉︎な、何⁉︎」

 

 起きてたのかよ⁉︎

 

「その……眠れぬ。心臓がうるさくて」

「へっ?そ、そう?実は俺も何だよね。は、はははっ……」

「何か面白い話をしてくれぬか?」

「お、面白い話?」

「何でも良いから」

「……………」

 

 日本昔ばなしでも語るか?いやでもネロ大人だしなぁ。オルレアンでの話でもするか。

 

「あー……じゃあ、俺達がこの時代の前に来た時代での話でも聞くか?」

「! うむ、聞かせてくれまいか?」

「おk」

 

 そういうわけで、語り始めた。フランスの事、百年戦争の事、ジャンヌ様、マリー、アマデウス、ジーク、清姫、エリザベート、ゲオルギウスの事。そして敵の黒ジャンヌ様と俺の戦術について全部を語ってやった。

 

「………まぁ、そんなわけで何とか宮本武蔵を沖田さんと俺の二人で倒せたんだよ」

「ふむ………なるほどな。お主らも大変だったのだな。それで、そのあとは?」

「宮本武蔵倒したところで、敵の大将を藤丸さんが倒してくれて、それで任務は完了した。それで帰るつもりだったんだがなー」

「………?そのあとに何かあったのか?」

「あー、うん。その、何?ジャンヌ様が消える前に慌てて戻ってきてさ。それで、その……何?告白?的なことされちゃって」

「な、なんだと⁉︎そ、それって愛の告白という奴か⁉︎」

「あー、うん。まぁ……」

「お主は何と答えたのだ⁉︎」

「答える前に消えちまったよ。残念ながらな……」

「そ、そうか………」

 

 あれ、今ネロもしかして、ホッとした?なんでホッとしてんだよ?どういう意味それ?

 

「でも、そうか。お主らにも色々あるのだな」

「まーな。でも、何とか割り切ったよ。沖田さんとか藤丸さんが色々気ぃ回してくれてさー。……あ、そうそう。それで、カルデアに戻ってから藤丸さんの勧めで召喚したんだよ。一回ずつ。もしかしたらジャンヌ様出るかもしんないから」

「………その結果、ストーカーとラスボスが来たというのか?」

「………そうです」

「……お主も何かしら持っておるみたいだな」

 

 いや、ほんとに。運命の神様いたら殺してると思う。

 

「………しかし、そうか。辛かっただろうなぁ、それは」

「もう寂しくないよ。割り切らなきゃやってられないし、何より今はネロがいるからな」

 

 言うと、ネロはかあっと顔を赤くした。うん、正直そんな反応するんじゃないかなって思ってた。

 怒ってしまったのか、ネロは俺とは反対側を向いてしまった。

 

「も、もう寝るぞっ!」

「ん、おやすみ」

 

 今度こそ、寝ようと思ったが、少なくとも俺は眠ることはできなかった。

 

 


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