ジャンヌ様から通信が入った。サーヴァントが四騎か……。三騎潰された後で四騎投入してくるとは本気だな。このまま全滅させられるのは嫌だ。
『ど、どうしましょう田中さん⁉︎既に、マリーが怪我をしてしまっていて………!でも、サーヴァントが強くて……!』
現況が伝わってこねぇな……。相当ピンチなのか、落ち着きがない。
「ジャンヌ様、落ち着いて。オッパイ揉むよ」
『…………は、はい』
「現況を教えて下さい。なるべく細かく」
すると、ジャンヌ様は落ち着いたのか、声が聞こえてきた。
『敵サーヴァントは四騎。私、ランサー、セイバー、そしてもう一人セイバーです。ファフニールはいません。現在、藤丸さんの指揮でマシュさんとアマデウスさん、それとゲオルギウスさんが応戦中ですが、長くは保ちません』
「ゲオルギウス?クラスと装備は?」
『クラスはライダー、装備は剣と鎧です』
「なら、ゲオルギウス、マシュを最後尾にして撤退。まっすぐ砦に向かって進んであの辺の兵士を巻き込んで下さい。これと同じ指示を藤丸さんにも伝えて」
『そ、そんな⁉︎兵士達が殺されてしまいます!』
「軍人なら、戦場で死ぬ覚悟くらい出来ているはずです。何より、そこで俺達が合流します」
あ、ヤバイ。今のはカッコいい。俺ってこんなかっこ良い奴だったのか。
『………田中さん』
「惚れた?今、惚れちゃった?」
『………台無しです』
うん、それは俺も思った。言わなきゃ良かったなって。
『………でも、そうですね。少しですが、安心は出来ました』
「っ」
………え、何それ?どういう意味それ?逆にこっちがドキッとしたんだけど。ちょっと待ってジャンヌ様、それどういう……。
『では、早く助けに来て下さいね』
通信は切れた。俺はいつになく真面目な顔で沖田さんとクー・フーリンさんに言った。
「沖田様、クー・フーリンさん。二人は先行して砦を経由しつつジャンヌ様の行った街に向かって。全速力。ジャンヌ様達の戦闘が見え次第、奇襲を仕掛けて敵の数を減らして」
「マスターはどうするんですか?」
「俺も行くよ。ただ、二人の方が足早いじゃん?俺も急ぐけど後から行くよ」
「なら、こうすりゃ良いだろ」
直後、クー・フーリンさんは俺を脇に抱えて走り出し、沖田さんも付いて来た。
「あっ、待ってくださいませ!ますたぁ!」
「ち、ちょっと!一人にしないでよ!」
………なんか、清姫とエリザベートまで付いてきた。いや、まぁ戦力が増えるのはありがたいし別に良いけど。
×××
砦に到着したが、戦闘している様子はない。まだ着いていないようだ。
その足でジャンヌ様達のいる方に向かった。しばらく草原を走ってると、何処かから煙が上がった。おそらく、戦闘している。
「! あそこです!」
「クー・フーリンさん、さっきやってた技使えますか?」
「ああ、了解」
クー・フーリンさんは頷くと俺を振り上げた。あ、あの、何で俺を振り上げてるの?
嫌な予感が俺の脳裏に浮かぶが、クー・フーリンさんは御構い無しに叫んで腕を振った。
「『突き穿つ死翔の槍』‼︎」
「なんでだよおおおおおおおお‼︎」
俺をぶん投げた。投げられた俺はキィーンっと水平に飛んだ。飛んで行く際、空気が当たってぶべべべべっと頬が揺れる。で、ジャンヌ様に向かって武器を振り下ろそうとする黒ジャンヌ様が見えた。
………いや、見えたっつーか、これ……終点黒ジャンヌ様駅では?
「ちょまー!どけどけどけ!」
「はっ?」
直後、ゴヌッと黒ジャンヌ様の頭に俺の頭が直撃した。黒ジャンヌ様は後ろに吹っ飛び、俺も後ろにひっくり返った。
「………間違えた」
「いや絶対わざとですよね」
そんな会話が後ろから聞こえたが、あまりに直撃した頭が痛くてその場で悶えた。
「かはっ……あ、頭、割れ………!」
「たっ……田中さん………?」
隣のジャンヌ様から声が聞こえてきた。顔を向けると、ホッとしたような表情になった。ふむ、ここは俺もカッコ良い台詞を言うべき所かもしれんな。
「あなたのために来ました」
「………田中さ」
「ますたああああああ‼︎」
直後、後ろからものっそい勢いで清姫が突っ込んできた。
「ますたぁ!大丈夫ですか⁉︎お怪我はありませんか⁉︎」
「たった今、お前に怪我させられる所だったわ!ていうか、今良いとこなんだから邪魔すんじゃねぇよ‼︎」
「ますたぁったら、そんな風に照れなくても良いのに」
「照れてねぇよ!ていうか、こんな事してる場合じゃねぇっつの!ジャンヌ様もなんとか言って下さい!」
「………ふんっ」
「ジャンヌ様ぁ⁉︎」
何で怒ってんの⁉︎なんかしたっけ⁉︎
どうしようか困ってると、さっき頭突きした黒ジャンヌ様が槍を持って襲い掛かってきた。清姫とジャンヌ様が俺を押しのけながら回避した。
「………やってくれたわね、変態」
「………鼻血出てるよ」
「出てない」
「いや出てるから」
「出てない」
すごいラスボスっぽいオーラを放ちながら俺を睨んでいるのだが、鼻血が出てるので小物にしか見えない。しかもそれを全力でなかったことにしようとしてるのがもう………。
………あ、ダメだ。耐えろ。今笑ったら殺される。
俺は笑いを堪えながら辺りを見回した。沖田さんとクー・フーリンさん、エリザベートが追い付き、消耗してるマシュ、アマデウス、ゲオルギウスは十分にカバー出来る。
戦えないマリーとジークに被害が及ぶ事も無さそうだ。正直、今本気でやり合っても負ける気はしないが、それは相手に援軍が来ない前提での話だ。援軍のストックがないこちらはどうしても不利だ。
「黒ジャンヌ様」
「何よ。あんたと話すことなんて無いんだけど?」
「全ては明日決めるとしないか?」
「………どういう意味?」
「俺達は今から撤退してやる。全ての準備を整え、明日の昼の12時にお前らの街に攻め込む。クソめんどくせー戦術はもう飽き飽きしてんだ。それで良いだろ」
「何で私があんた達を逃がすような真似しなきゃいけないのよ」
「逃がす?バカ言うな。こっちが逃がしてやるって言ってんだよ」
話し合いで重要なのは、向こうに利益があると思わせて話す事だ。こちらの話し方、話す内容、それら一つ一つが重要になる。
「こっちは過去にあんたらの兵隊を潰してきたサーヴァント達が何人も揃ってる。それに比べ、そっちのサーヴァントはここにいるのが全員ではないんだろ?ファフニールもいないみたいだしな。だから、逃がしてやるって言ってんだよ」
「……………」
しばらく考え込む黒ジャンヌ様。やがて、竜の上に跨り、戦闘中の他サーヴァントに声を掛けた。
「撤退します」
それに従い、敵戦力は逃げていった。ふぅ、良かった……。なんとか凌いだぞ。俺はホッと息をつくと、ジャンヌ様が俺に声をかけてきた。
「………助かりました、田中さん……」
「いや、礼は後です。さっさと森に帰」
「いえ、今です」
「はっ?」
直後、ジャンヌ様はギュウッと俺を抱き締めた。唐突の出来事で、脳の処理が追いつかなかった。
「…………はえっ?」
変な声が漏れた。へっ、何?この人何してんの?
ちょっ、周りの人みんな見てんじゃん。おい、マリー、アマデウス、エリザベート、何、ニヤニヤしてんだ。ブッ殺すぞ。
「……ゎ、あっ、あのっ……ジャンヌ様……?何を……して………」
何とか声を絞り出すと、正気に戻ったのかハッとしたジャンヌ様は慌てて俺から離れた。
「すっ、すみません田中さんっ……!」
顔を赤くして離れるジャンヌ様。で、俯いたまま何も喋らない。えーっと、本当に何?え、俺これどうすりゃ良いの?
沖田さんを見た。興味なさそうに空を見上げていた。あてにする相手を間違えた。
クー・フーリンさんを見た。「抱き締めろ」というカンペを持っていた。出来るか。
ジークを見た。「青春だな……」と遠い目をしていた。意味が分からなかった。
その直後だ。魔力の放出を背中から感じた。振り返ると、清姫がすごい形相で睨んでいた。
「………ますたぁ?今、何をしていらしたのですか?」
「いや待て!何もしてないだろ!良くも悪くも無抵抗だったろ!」
「ふふふ、無抵抗なのがいけないんですよ?目の前で浮気とは良い度胸をしていますね?」
「何でだよ!ていうか浮気って何の話……!」
「浮気⁉︎浮気ってどういう事なんですかマスター⁉︎」
「何でジャンヌ様まで怒ってんですか⁉︎」
おい、誰か何とかしろよ、と思ってると、周りにはマリーと沖田さん以外誰も居なかった。
視線で説明を求めると、二人は答えた。
「皆さんなら先に森に帰りましたよ」
「私達の事は気にせずに、どうぞ続けて下さい」
いや気にするだろおおおおおお‼︎ていうか、マリーは怪我してるんだから帰れよ!
結局、俺達は日が落ちてから帰るハメになった。
×××
森に帰り、マシュ、ゲオルギウス、アマデウスはマリーの宝具で回復した。
ジークもゲオルギウスとジャンヌ様に呪いを解除してもらい、ようやく落ち着いた。流石に今日は疲れたぜ………。まぁ、その分成果もデカかったのだが。
だが、これからもっと疲れそうな気がするのは何故だろう。
「はい、ますたぁ?あーん……?」
「き、清姫さん!正臣さんは一人でも食べられます!」
「何を言っているのですか?ますたぁは何処かの誰かの半身の頭突きを喰らって朦朧としているのです。誰かが食べさせてあげないと食事もまともに出来ません」
「で、でしたら責任は私にあります!私が食べさせてあげるべきです!」
「怪我させた張本人が何を図々しいことを!」
「張本人ではありません‼︎」
まるでラノベ主人公のような気分だ。あいつら、こんなに良い思いしてやがったのか……。まぁ、俺も良い思いしてるから許すけどな‼︎
そんな俺の様子を見ながら、クー・フーリンさんがフッと微笑んで言った。
「………やっぱり、わざと間違えて正解だったな」
「やっぱわざとだったんですか」
「清姫、だったか?あいつがマスターに惚れてるのは一目瞭然だったからな。助けに行くのは目に見えていたし、万が一の時は俺が本物をやってた。ちゃんと安全を考慮した上での判断だ」
「いやそれなら良いってわけじゃないと思うんですが……」
そんな会話が聞こえてきたが、俺は気分が良いので許す事にした。いつの間にかジャンヌ様、俺のこと下の名前で呼んで来るし。
まぁ、いつまでもこのままなのは良くない。俺を挟んで争う二人に、俺は入って言った。
「まぁまぁ落ち着けよ。二人の気持ちは嬉しい。だから、二人から食べさせてもらうよ」
「はぁ?何ですかそれ。バカにしてるんですか?」
「二人とかダメですから。どちらかでなくてはダメですから」
「そんな浮気者は許しません。どちらか決めて下さい」
「この変態ますたぁ」
「……………」
あ、あれ?なんか思ってたのと違うな………。思ってたより居心地悪いんだけど………。なんでそんなギスギスしてんの?もしかして、アニメの主人公達はみんなこんな気分だったのだろうか。ごめんね、今まで死ねとか言って来て。
早くも助けを求める視線を周りに送ってると、アマデウスが口を挟んで来た。
「ま、まぁまぁ二人ともその辺にし」
「部外者は黙っててください」
「引っ込んでて下さる?面白ピエロ」
瞬殺された。こいつらほんとに………。ヤバいな、最終決戦を前にしてチームワークがまるでなっていない。
とりあえず、真面目に話を進めよう。表情を引き締めて明日の話をしようとしたときだ。
「はい、正臣さん。あーん?」
「あむっ、んー!ジャンヌが食べさせてくれるから美味しいよ!」
直後、チャキッと俺のジャンヌ様の間に剣が二本割り込んで来た。ゲオルギウスとエリザベートだ。
「いい加減にしろ。明日、決戦だぞ」
「うざったいったらないわ」
「な、何ですか!私とますたぁの愛の育みを」
「「あん?」」
二人に睨まれ、清姫は萎縮した。強ぇな、この二人。
「とりあえず、彼は没収する」
「ああ!ますたぁ!」
ゲオルギウスに持ち上げられ、俺はジークとゲオルギウスの間に連行された。色気のカケラもねぇな………。
まぁ、とにかく話を進めないとな。それに、任務が終わればどうせ二人とは別れるんだ。
「とにかく、明日の作戦を決める。相手の戦力はセイバーが二人、ランサー一人、ファフニール、ドラゴンが多数、そして黒ジャンヌ様。それともう一人、『ジル』とかいう人」
「! ジルがいるのですか?」
「ああ。初めて黒ジャンヌ様を見た時、独り言で『ジル』と言っていましたから。他にサーヴァントは数人いるかもしれませんが、とりあえずこんなものでしょう」
「どう攻めるのですか?マスター」
ゲオルギウスが聞いてきた。
「確か、明日の12時に開戦との事ですね」
「ああ、地の利は相手に合わせてやった。それに追加してこっちが襲撃する時間も教えてある。どう考えても向こうが有利だ」
「じゃあ、どうするつもりだ?」
ジークが聞いてきた。まぁ待て、落ち着け。
「だが、相手はどう思う?俺の今までの指揮を見れば、誰だって12時ぴったりに攻めて来るとは思わないはずだ」
「………確かに」
「不意打ちで宝具使わせて一人殺したり、ジャンヌのおっぱい揉んだりと結構最低なことしてましたものね」
藤丸さんとマリーが腕を組んで呟いた。正直、一人くらい否定して欲しかったです。
「だから、向こうは開戦の一時間前には兵を並べて置くはずだ。その時間を利用して、俺と藤丸さんとロマンの三人で偵察して相手の陣形を全て把握して来る」
「待ってください!それは明日、直前に作戦を決めるという事ですか⁉︎」
ゲオルギウスから声が上がった。
「ああ、余裕だろ」
「そんな悠長な………!」
まぁ、最近入った人だし俺が信頼出来ないのも分かるが………。
すると、ジャンヌ様が口を挟んだ。
「大丈夫です、ゲオルギウスさん」
「ジャンヌ・ダルク………!」
「それが出来るのが、私達のリーダーです」
「っ………!」
まぁ、うちのメンバーの中で三番目に古い人だからな、なんだかんだ言って。
「………分かりました。そこまで言うのでしたら信頼しましょう」
ゲオルギウスから許可が降りた。よし、とにかく明日だな。
「よし、じゃあみんな疲れただろうし、もう寝よう」
「ますたぁ、一緒に寝ませんか⁉︎」
「おーい、寝る前にこいつを誰か縛れ」
×××
夜中。みんなが寝静まった後、俺は起きて作戦を決めていた。マシュの盾を机にして、考えをまとめている。
さっき言ったのは半分本音だが、半分はさっさと寝かせたかっただけだ。今日はかなり働いたし、少なからず疲弊してるはずだ。明日に備えて寝た方が良いと判断した。
とりあえず、ファフニールの攻略だな。ファフニールは巨体なだけあって単体じゃなきゃ使えないはずだ。味方もろとも吹き飛ばす可能性があるからな。
だとしたら、サーヴァント戦とファフニール戦をどちらが先になるかだが……いや、同時に使われる可能性もあるにはあるが。使われるとしたら、サーヴァント戦とファフニール戦の二つのチームに分けなくてはならない。
………いや待てよ?俺がさっき投げられたのを利用すれば………。だとしたら、物理の計算が必要になる。完全に意表を突くにはそうするしかないか。
「なーにが作戦は明日決めるですか、バカマスター」
後ろから声がした。沖田さんが立っていた。
「………起きてたのですか?」
「もういい加減、敬語やめて下さい。多少、怒ることがあっても絶対にマスターを殺したりしませんから………」
「………本当に?」
「どこまで怯えてるんですか。本当です」
「………なら良かった。いやー、正直ストレス溜まりっぱなしだったわー」
「…………やっぱり殺したい」
沖田さんは俺の隣に座り、俺の手元の紙を見た。
「うわっ、相変わらず何だかよく分からないですね。何の計算式なんですか?」
「お前にはわかんねーよ。つーか寝ろよ、お前にも明日働いてもらうんだから」
「………じゃあ、マスターも寝ましょうよ」
「そうはいくか。俺は作戦決めるので忙しいんだから」
「明日決めるーとか言ってたくせに」
「うるせ。いいから寝ろ」
とりあえず、ファフニールの攻略は思いついた。残りはサーヴァントの対策か。
正直に言って、サーヴァントに大した脅威は感じていない。複数で叩けば確実に倒せる相手ばかりだし、沖田さんならタイマンでも倒せる相手だ。
あれ、何とかなりそうな気もしてきた。いや、油断は禁物だが、とにかく不確定要素はほとんど無い。
「マスター」
「今度は何」
「結局、ジャンヌさんとはどうするんですか?」
「はぁ?」
「いえ、なーんかいい感じだったので」
まぁ、明日勝てばお別れだからな。少し寂しいけど、そこは仕方ない。世界の命運には逆らえないからな。
「永遠の別れになるだけだろ」
「………そう、ですか?」
「ああ。良いから寝ろよ」
「…………分かりました」
言うと、沖田さんはようやく寝ようとしてくれた。別にどうするも何もない。ていうか、どうしようもない。例え、俺とジャンヌ様がお互いの事が好きだとしても、絶対に別れなければならないんだから。
………さて、もう少し頑張るか。俺は再びペンを走らせた。