カルデアがダブルマスター体制だったら。   作:バナハロ

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女性に手を出す時は慎重に。

 目を覚ますと、どっかの中だった。辺りは瓦礫というか、放棄された砦の中か?ていうか、何があったんだっけな………。

 ………ああ、傷口開いたんだ。それと沖田さんの変態的な戦闘力を見たっけか。とりあえず、あの人には一生逆らわないとして、今はどんな状況なんだ?

 辺りを見回してると「あっ」と声が聞こえた。沖田さんが駆け寄って来た。

 

「マスター!やっと目を覚ましましたか?」

「………沖田さん?いや、沖田様?」

「………あの、お願いだから前の感じに戻って下さい。マスターに敬われるとすこぶる気持ち悪いです」

 

 気持ち悪いって酷くね?いや、ていうか無理。今まであんな強い剣豪を相手にあんな口聞いてたとか俺、命知らず過ぎて泣ける。

 

「そういうわけにはいきません、沖田様。私はあなたを心から尊敬致しております」

「ま、マスター!どうすれば元のマスターに戻ってくれるんですか!」

「元のも何も、ずっとこの形でやらせていただいていますが」

 

 そんな受け答えをしているとさらに新しい声が聞こえて来た。

 

「………あっ、田中さん!目を覚ましましたか?」

「良かったー。やっとリーダー様のお目覚めだよ」

「当然です、私の宝具だもの」

 

 ジャンヌ様、藤丸さん、マリーが俺の方に駆け寄って来た。他にもジーク、クー・フーリンさん、マシュ、アマデウスが揃っている。全員無事なようで何よりだ。

 ジャンヌ様の姿が見えるなり、沖田さんはジャンヌ様に飛び付いた。

 

「ジャンヌさん!マスターが以前のようになってくれません!」

「そ、そうですか。よしよし」

 

 え、何それズルい。俺も飛び付きたい。ていうか仲良いなお前ら。

 

「………えっと、今どうなってんの?」

「はい。先の戦闘で敵サーヴァント、バーサーカーとアサシンを撃破。そのまま撤退し、近くにあった滅ぼされた砦で一休みする事にして、マリーの宝具で田中さんの傷を癒し、現在に至ります」

 

 ジャンヌ様が説明してくれた。ていうか、マリーってヒーラーだったのか。便利だなオイ。

 

「すまん、マリー。助かった」

「いいのよ。それより、傷口の具合はどう?」

「平気」

 

 しかし、サーヴァントを三騎撃破し、ジーグの救出も成功か。これは素晴らしい成果と言えるな。

 

「………じゃ、今日はもう森に帰ろうぜ。疲れちゃったよ俺……」

 

 背中痛……くはないけど怪我しちゃったし。

 すると、マシュが口を挟んで来た。

 

「いえ、その事なんですが、ジークフリートさんの呪いを解こうという話になっていまして」

「は?呪い?」

「はい。現在、ジークフリートさんには呪いがかけられています。生きているのが不思議なくらいの。それを解除するには聖人の力が必要でして………」

 

 それでさっき逃げる時倒れてたのか。

 まあ、とにかく言いたいことは分かった。

 

「なるほど。それで、聖人を探しに行きたい、と?」

「は、はい」

「いいよ」

「あっさり⁉︎」

 

 当然だろ。

 

「今は攻め時だ。さらにサーヴァントを三騎失い、向こうはファフニールがいるとはいえ、少なからず焦っているはずだ。ジークがいる以上、下手に手出しも出来ない。今行くべきだ」

「な、なるほど………?」

「無論、今回は二手に分かれて探す」

「おい、大丈夫かよ」

 

 クー・フーリンさんが口を挟んで来た。

 

「戦力の分散は危険だろ」

「普段ならそうですが、今は違います。さっきも言った通り今が攻め時ですから。それに、こちらが戦力を分ければ向こうも戦力を分けざるを得ないでしょう」

「………なるほど」

「じゃあ、俺の独断と偏見でチーム分けますね」

 

 てなわけで、チームを分けた。

 

 チーム正臣:ジャンヌ様、沖田総司、マリー、マシュ

 チーム立花:クー・フーリン、アマデウス、ジーク

 

 こうなった。

 

「って、田中のハーレム計画になってるじゃないか‼︎」

 

 当然のツッコミがアマデウスから来た。

 

「俺は!女の子に囲まれて過ごしたい‼︎」

「君の願望なんか聞いてないからな⁉︎」

「うるせぇうるせぇうるせぇ‼︎俺は!女の子に囲まれて過ごしたい‼︎」

「同じことを二回も言うな‼︎」

 

 アマデウス以外からも反対の声が上がり、仕方ないのでチームを決め直した。

 

 チーム正臣:ジャンヌ様

 チーム立花:マシュ、沖田さん、マリー、アマデウス、クー・フーリン、ジーク

 

「今度はデートがしたいだけになってるよ⁉︎」

 

 今度は藤丸さんからツッコミが来た。

 

「うるせぇバーカ!俺はジャンヌ様と結婚するんじゃああああ‼︎」

「け、結婚、ですか……?」

「なんで満更でもなさそうな顔してるのジャンヌ⁉︎しっかりして、あの男はあなたのオッパイを揉んだ男よ⁉︎」

 

 顔を赤くしてるジャンヌ様をマリーが肩を揺すった。

 今回も反対意見が相次いだため、結局こうなった。

 

 チーム正臣:沖田さん、クー・フーリン

 チーム立花:マシュ、ジャンヌ様、マリー、アマデウス、ジーク

 

 と、なった。

 こっちには機動力を集めて少数で、そちらは盾持ち二人とヒーラーを入れてある。藤丸さんが聖人を見つけたらその場でジークの呪いを解けるように、俺達が聖人を見つけたら最速で離脱できるようにしてある。

 ジャンヌ様と同じチームが良かったぜ………。空を見上げて涙を流してると、ジャンヌ様が頭を撫でてくれた。

 

「あっ、あのっ……落ち込まないで下さい………」

「………ジャンヌ様……」

「す、少しの間ですからっ。ね?」

 

 なんと……なんとお優しいお方………。感動のあまり、俺はジャンヌ様の胸に飛び込んだ。

 

「うおおお!ジャンヌ様ああああああ‼︎」

「あっ、コラ……!………もうっ、仕方ないんですから……」

「クンカクンカスーハースーハー!」

「っ⁉︎こ、コラ田中さん!息を吸うのやめなさ」

 

 直後、誰かのつま先が俺の顔面に減り込んだ。

 

「………私のお友達に変態プレイはやめて下さる?」

「………おまっ、治した相手を……蹴るとか……」

 

 しかもつま先ってお前………。その場で瀕死になってると、沖田さんが俺の襟を掴んで引き摺ったまま歩き出した。

 

「では、皆さんまた後で」

『はーい』

 

 出発した。

 

 ×××

 

「まったく、ああいう変態的な所が無ければ尊敬出来る人なのに………」

 

 沖田さんがブツクサと呟きながら歩いてる前に俺は膝をついて頭を下げた。

 

「申し訳ありません。沖田様の御前であのような醜態を……。この田中、一生の不覚でございます」

「だから、それやめて下さいと言っているでしょう」

「いえいえ、とんでもございません。過去に私が沖田様に対して働いた狼藉を考慮すれば、当然でございます」

「………ま、マスター……」

 

 死にたくない。プライドより命の方が大事だ。

 すると、クー・フーリンさんが口を挟んで来た。

 

「………あのさ、お前らってどんな関係なの?」

「「マスターとサーヴァント」」

「いやとてもそうは見えねーんだが………」

 

 何言ってんの?マスターよりサーヴァントの方が強いんだから、マスターがサーヴァントに服従するのは当然だろ。死にたくないし。

 

「いえ、沖田さん的には以前のマスターに戻って欲しいのですが……」

「俺は昨日召喚されたばかりでお前らの関係性がよく分からないんだが……前はどんな感じだったんだ?」

「いつも取っ組み合いの喧嘩をしてました」

「はっ?さ、サーヴァントとマスターが………?」

「まあ、毎回私が勝っていましたが!」

「当然でございます。私如きが沖田様に拳を振るうなど身の程知らずにも程がある」

「………それがなんでこうなったんだ?」

「………昨日、敵のバーサーカーをタイマンで倒したらビビちゃったみたいで………」

「別にビビってはございません。寝言は寝て仰ってください、沖田バカ」

「………今、バカって言いました?」

「いえ、幻聴でしょうか?疲れているのでしたら眠った方がよろしいのでは?永遠に」

「…………その口調だったら何言っても良いと思ってるんですか?」

 

 ビキッと沖田さんの額に青筋が浮かんだので、俺は慌てて頭を下げた。しまった、つい本音が………。

 そんな俺と沖田さんのやり取りを見て、クー・フーリンさんがボソッと呟いた。

 

「………お前ら、ほんとは仲良いのか?」

「良くありません!こんな変態マスターと!」

「その通りですよ。こんなバカ………アホ……いえ、中身が足りない頭……いや、頭の軽い……いえ、頭部の味噌が足りない?女性と仲良くなるなどあり得ません」

「言い直す過程が全部丸聞こえだったし、丁寧に言ったつもりでも言いたい事丸分かりですよ!本気で殴り合いましょうか⁉︎」

「ほら、仲良いじゃん」

「「良くない‼︎」」

 

 ありえねーから。沖田さんはぶっちゃけ、外見はどストライクだが中身がもうダメ。この人の義骸を作ってジャンヌ様に着させたい。

 

「まったく……こんな人に助けられたなんて、私の一生の恥です」

「あ?助けられた?」

「はい。クー・フーリンさんが別行動してる時、敵のファントム……ナントカとかいう人と戦ったんですが、不覚にも背後を取られてしまって……それで、助けてもらってしまいまして……」

「………それって、マスターの背中の傷か?」

「は、はい」

「え、俺はマスターが油断してやられたって聞いたが……」

「へっ?」

 

 あ、あー……そういや逃げてる時は確かにそう言ったわ。説明してる時間なかったってのもあるが、わざわざ他人のミスを周りに広める必要もないと思ったし。

 

「なんだよ、沖田を庇ったのか?」

「ま、まぁ。わざわざ言うことでもないと思って」

「そりゃ確かにそうだが……。変わったマスターだな……」

「え、なんで?」

「普通、サーヴァントなんて助けねえぞ?マスターが死んだら元も子もないからな」

「あー」

 

 でも、あの時は反射的に身体が動いてたっつーか……。気が付いたら助けてたっつーか………。

 すると、いつの間にか沖田さんはシュンっと肩を落としていた。どうやら、俺に庇われたことを少し気にしているみたいだった。

 

「…………」

 

 俺が気にするなと言っても良いのだろうか。いや、良くないよなぁ。庇った本人に言われたら誰だって気にするし、むしろ気にしない人なんかいない。

 

「お、着いたぜ」

 

 クー・フーリンさんがそう言う通り、街に到着した。まだ滅ぼされていない街だ。まぁ、それはつまり敵がいつ来るか分からないって事なんだが。

 

「どうするマスター?手分けするか?」

「いや、一人にしないでお願い。三人で探そう」

 

 そう言って、三人で探し始めた時だ。街の中央から炎が上がった。

 

「……………」

「……………」

「……………」

 

 三人で顔を見合わせ、こっそりと近付いた。街の中央では、二機のサーヴァントが喧嘩していた。

 

「このっ!このっ、このっ、このっ!生意気!なのよ!極東の!ど田舎リスが!」

「うふふふふふ、生意気なのは、はてさてどちらでしょう。出来損ないが真の竜であるこのわたくしに勝てるとお思いで?エリザベートさん?」

「うーーーーっ!ムカつくったらありゃしないわ!カーミラの前にまずはあんたから血祭りにしてあげる!この泥沼ストーカー!」

「ストーカーではありません。『隠密的にすら見える献身的な後方警備』です。この清姫、愛に生きる女です故」

 

 ………エリザベートと清姫な、覚えた。えっと、どう見ても聖人ではないなアレは。

 

「………よし、帰るぞ」

「いやいや、一応確認しようぜ」

「ええ……。やだよ。あんなギャーギャー喧しい奴ら、発情期ですかこのヤローって言いたくなるわ」

「でもよ、奴らも情報源かもしれねーしよ」

「……………」

 

 仕方ねーな。俺はため息をついて二人の元に歩いた。

 

「あのー、ちょっと良いか?」

 

「今取り込み中です、見て分からないのですか?類人猿さん」

「引っ込んでなさいよ!小ジカ!」

 

 イラっとした。今、とってもイラっとしましたよ。

 

「あ?お前ら今なんつったあん?」

「類人猿」

「聞こえなかったの⁉︎小ジカよ小ジカ!」

「へぇ?俺がサルに見えるんだ?青いの、お前は俺に喧嘩を売る前に眼科にでも行ってそのいかれ狂った視神経を治し、そのまま手術失敗してこの世から失せろハゲ」

「………は?」

「赤いの、誰も聞こえなかったなんて言ってないのに一度聞き返されただけで勝手にそう解釈するその短絡的思考回路を焼き切って新たな人格を芽生えさせたほうが世界のためだ、早くショッカー本部にでも行って改造されて来い」

「な、なんですって⁉︎」

「分かったらさっさと行動に移せ低脳」

「「いいから引っ込みなさいよ‼︎」」

 

 はい、もう無理。こいつら殺す。俺はクー・フーリンさんと沖田さんに言った。

 

「ボコボコにして。泣くまでボコボコにして」

「お、おう」

「了解しました……?」

 

 戦闘開始。

 

 〜5分後〜

 

「や、やられました……。きゅぅ」

「や、やるじゃないの……。今日はこの辺にしといてあげるわ」

 

 あ?何甘えた事抜かしてんだおい?俺は指をゴキゴキ鳴らしながら倒れてる二人に近付いた。

 

「なめてんじゃねーぞコラ。こちとらお前らみたいなチンカスと違って修羅場を何度もくぐり抜けて来たんじゃ我ボケェ」

「な、なんですか……?まだやる気ですか?私達はもう敗北を認めたはずですが……」

「ふはははは!そんなもん関係あるかああああ‼︎くらえ!そすんす!」

 

 俺が清姫の上に馬乗りになった直後、沖田さんが自分の肩を抱いたが無視して鎖骨突きを始めた。

 

「ななななななななななななな‼︎」

「っ!ふあっ⁉︎やっ、んっ!あっ、ああっ……!」

「ななななななななななななな‼︎」

「ふあっ……やっ、あっ…んんっ!」

「なななっ、ななっ……なっ……‼︎」

「らっ、らめっ……んっ……ああんっ!」

「なっ…………ななっ」

「やんっ……!あっ、はっ……んあっ……!」

「…………………………………な」

「ふわっ、ふわああああ‼︎」

 

 顔を真っ赤にして喘ぎまくる清姫を前に、俺は手を止めた。なんかとんでもない犯罪を犯してしまったような気がして、すごい罪悪感を抱きながら清姫の上から退いた。

 

「………よ、よしっ。この辺で許してやろう」

「………ビビってんじゃねーよ」

 

 クー・フーリンさんから呆れたような声が聞こえた。いや、だってなんか罪悪感がすごいんだもん。決して胸は突いてないのになんで喘ぐんだよこいつ。

 

「………下劣な人間もいたものね」

 

 エリザベートが盛大に引いていた。いやごめん。俺も悪かった。ちょっと大人げなかった。

 反省して、とりあえず清姫に謝ろうと思って顔を向けると、俺の手を清姫が握った。

 

「………あなた、お名前は?」

「え?田中正臣だけど……」

「わたくし、恥ずかしながらあなたのテクニックに一目惚れしてしまいました」

「…………はっ?」

「わたくしをあなたのお嫁さ……ーヴァントにしたください」

「……………」

 

 俺は助けを求めてクー・フーリンさんを見た。目を逸らされた。

 沖田さんを見た。俺をいないものとしてるのか、空を見上げていた。

 エリザベートを見た。沖田さんの後ろに隠れていた。

 ………どうしよう、ややこしい事に。全力で自分の軽率な行動に後悔していると、通信が入った。

 

『田中さん!田中さんはいらっしゃいますか⁉︎』

「ジャンヌ様ですか?助かった!」

「むっ、誰ですかますたぁ?まさか、女性の方ではありませんよね?」

「おいお前マジ黙ってろ。ややこしくなるから」

「電話の向こうの方⁉︎聞こえてます⁉︎わたくし、ますたぁのお嫁さんですが!ますたぁとはどういうご関係なのですか⁉︎」

「おおいバカやめろ!お願いだから黙ってて!」

『田中さん!コントに付き合っている暇はないんです‼︎』

「コントではありません!わたくし達は真剣なお付き合いを……!」

「クー・フーリンさん、こいつ何とかして」

 

 何とかしてもらうと、ジャンヌ様から声が聞こえて来た。

 

『敵襲です!敵サーヴァントが四騎!』

「…………はっ?」

 

 ま、マジで………?

 俺の頬を冷たい汗が流れた。

 

 


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