清楚系ド淫乱アイドル『逢坂冬香』   作: junk

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第8話 冬香の目指せ!シンデレラNO.1

 趣味は意外にも普通に読書。どうも、逢坂冬香でございます。

 

 みなさん、本はよくお読みになるでしょうか?

 日本は非常に文明レベルの高い国ですので、多かれ少なかれ、一度くらいは何かしらの本を読む機会に恵まれたことと思います。

 私に関して言えば、本を読む機会は多く、また人より早く訪れたと言えるでしょう。と申しますのも逢坂家の教育方針として、自我が芽生えると、毎日20冊以上の本を読むことを義務付けられるからです。

 産まれた瞬間とほぼ同時期から自我があった私は、手に本をめくる程度の筋力が備わり始めた時期から、既に本を読むよう命じられていました。

 

 本、と一口に申しましても、様々なジャンルがございますよね。私が特に好んだのは大正文学でしたが、もちろんそれ以外の本も多く読みました。

 色んなジャンルの本を読んだ――と聞いてみなさんが抱く印象と、私の本意は多分異なっていることと思います。

 ミステリー、恋愛物、純文学、SF、啓蒙思想本、エロ本――この辺りがメジャーどころでしょうか。

 ですが私にとっては、例えば第二種電気工事士の資格を取るための参考書や、指圧師に向けた指南書などを読むことも、立派な読書の範疇なのです。

 自分にまったく関係ない分野の専門書を読むことで――大正文学を読むことで過去の偉人を身近に感じる時と同じような――まったく未知の世界を覗き見る。そんな風に専門書を読むのも、案外楽しいものです。

 

 読書を通じて、様々な世界に触れる……

 そんな幼少期を過ごしてきた私を以てしても、これは流石に未知の世界でした。

 

「なんと申しますか――凄いですね」

 

 両耳につけたイヤホンから流れてくるのは、女の子のえっちな喘ぎ声です。

 普段使っているアダルトサイトのオススメに出てきたので試しに買ってみたのですが、中々良いではありませんか。目を閉じて音声のみを聴き取ることで、逆に妄想力が掻き立てられますね。

 私の場合乱暴されている女の子に自分を重ねているわけですが、映像がないので、事実いつもよりイメージしやすいと感じました。これは画期的な物です。

 

 その時――私に電撃が流れました。

 

 ああいえ、スタンガンを使ったプレイをしたとか、電撃のような快楽が流れたとか、そういうことではないです。普通に良い案を思いつきました。

 今度私の『Snow World』のCDが発売されるのですが、美城のアイドルはソロCDが発売されると、毎回特典をつけるのが慣例のようです。その特典として私のえっちな喘ぎ声が込められたCDを封入するのはどうでしょうか。もちろん直接的な単語は出しません。シチュエーションも、頑張ってトレーニングをしているとか、ちょっと過激なマッサージを受けているという“テイ”にして……ふふふ。

 これは結構良いアイデアな気がしますよ、真面目に。

 ファンの方は私のえっちな喘ぎ声を聴くことが出来て、私は不特定多数の方に自分の喘ぎ声を聴いていただける。正にWin―Winの関係ではないでしょうか。事務所的にも、売り上げに期待できると思います。

 

 これは早速、明日にでも相嘉さんに提案してみましょう!

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 えーっと……これは少し予想外でした。

 

 相嘉さんに話を通したところ、意外なことに結構乗り気だったんです。元々音楽関係の出身だから、バイノーラル録音――音が繊細にレコーディングできる録音方法です――のスタジオが直ぐ借りれる。台本は僕が書いておくよ、と。あっという間に話がトントン拍子で進んで行きました。

 そして進みすぎて、私の手を離れて何処かへ行きました。

 私が録りたかったのは“喘ぎ声が入ったえっちなCD”です。なのに出来上がったのは“アイドルが寝かしつけてくれる添い寝CD”でした。流石の私も怒りました。ぷんすか!

 バンドの解散でよくある「音楽性の違い」というのをよく理解出来ましたよ、ええ。私と相嘉さんも、音楽性の違いを理由に解散しそうです。

 

 しかも、しかもです。

 “DVの夫に暴力を振るわれながらも泣き続ける息子を必死に寝かしつけているCD”とか“ファンに拉致され密室に閉じ込められた状態で誘拐犯を憎く思いながらも生きてゆく為に興奮する誘拐犯を寝かしつけるCD”とかの安眠用添い寝CDならともかく、内容は至ってシンプルな添い寝CDです。

 ……まあ、分かってましたけどね。私の要望が通らないのは。いつも黙々と仕事をこなすだけの私が提案したことだから、と相嘉さんが張り切って何とか形にしてくれたってことも分かってはいるのですが。

 

 もっと聴く人が身悶えるような、えっちなCDにしたかったです……

 

 ですが泣き言ばかり言ってもいられません。常に前向きな女。どうも、逢坂冬香でございます。

 というわけでレコーディングに行って参ります。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

「か、買ってしまった……」

 

 奈緒は部屋で一人、とあるCDとにらめっこしていた。

 パッケージには満面の笑みを浮かべる親友――逢坂冬香。

 そう、このCDは冬香のCDなのだ。記念すべき初のソロアルバムである。当然友達として、奈緒はCDを買った。

 友達としての贔屓目を抜きにしても、冬香の歌は良かったと思う。個人的にはかなり好みのタイプだ。

 問題はそのあとだった。このCDは二枚組なのである。そしてその二枚目こそが、奈緒を苦しめている元凶なのだ。

 奈緒はネット通販のレビューやSNSなどを見て、この二枚目がどんなCDなのか知っていた。大変評判は良い――が、それは男性ファンからの声がほとんどだ。

 つまりこのCDは、男性向けのちょっとあれなやつなのである。

 

「でも聴かなかったら、あいつガッカリするよな……」

 

 冬香が感想をねだってくることは間違いない。

 その時聴いてないと答えたら、冬香はシュンとするだろう。

 ……自分が同じことされたら、嫌だろうなあ。

 奈緒はそう考えた。

 

「ええい、ままよ!」

 

 奈緒は意を決してイヤホンをはめ、冬香の添い寝CDを流した。

 

『あら。どうしましたか、こんな夜更けに。

 まあ、寝付けないなんてお可哀想に。

 ですが……ふふ。ご安心下さい。私があなた様を癒やして、甘やかして、蕩かして、寝かしつけて差し上げます。

 そうですね。では歴史についてでも語りましょうか。きっと退屈で、直ぐに寝てしまうと思いますよ。なんて……ふふふ。冗談です。そんな悲しそうな顔をなさらないで下さい』

 

「……冬香ってやっぱり、いい声してるよな」

 

 1/fゆらぎを自在に操るだけの事はある。

 耳元で声を聴いてるだけで、もうちょっと眠くなってきた。

 

『さあ、こっちへいらっしゃって下さい。私のお膝を貸して差し上げます。

 どうですか、私の膝枕は。ダンスを習っているので多少筋肉質だとは思いますが、それなりに柔らかいので、ご満足いただけるかと……ふふ。

 ……寝心地がいい、ですか? ありがとうございます。あなたに喜んでいただけると、私もとっても嬉しいですわ。

 ええ、ええ。構いませんよ。足を撫でても、匂いを嗅いでも。なんでもなさって下さい。あなたに喜んでもらうことが、私の喜びなんですから。あなたの望むことは、なんだってして差し上げます。いいえ、してあげたいんです。

 私って強欲な女でしょうか?

 だってこんなに頼ってもらえて、今とっても幸せなのに、もっと頼ってもらいたいって、そう思ってしまっているんですから。

 頭を撫でてほしい?

 はい、もちろんです……ふふ。いいえ、あなたは私の望みをなんでも分かってらっしゃるんだな、と。それだけです』

 

「うわあ。なんだこれ、なんだよこれ。やばいだろ、これは。なあ」

 

 なんだか恥ずかしくって、誰が聞いてるわけでもないのに、奈緒は声をあげた。

 あいつからドMをとったらこんな感じなのかな……

 結構尽くすタイプだし、見た目とか声は癒し系だし。近くにいると不意に漂ってくる匂いも、あたしと違って、正に女の子って感じだ。

 正直、女である奈緒でさえ、冬香がここまで尽くしてくれる、というのはグッと来た。全てを委ねて甘えたくなる。

 ドMでさえなければ完璧なのになあ、本当に。

 

『よしよし――人様の頭を撫でて差し上げるのは初めてなので、なんだか緊張しますね。私は上手くやれてますか?

 まあ、それは良かった』

 

「嘘つけ。しょっちゅう人の髪の中に顔を突っ込んでモフモフしてくる癖に」

 

『なでなで、さわさわ。耳の裏をこちょこちょ……ふふ。くすぐったかったですか? あなただけに教えちゃいます。実は私って、結構イタズラ好きなんですよ。

 頭だけではなく、肩や首も撫でて差し上げますね。眠くなったら、寝てしまっても構いませんよ。明日ちゃあんと、私が起こして差し上げますから』

 

「と、冬香ぁ……」

 

 しばらく、冬香が頭や肩を撫でる音が続いた。

 冬香は特に喋らなかったけど……手を長く動かしているせいか、息遣いが聞こえてくる。意識しているのか、していないのか。その声はどこか喘いでいるようで、扇情的だった。

 恥ずかしくって顔が真っ赤になるのを感じながらも、身体中の力が抜けてしまい、奈緒は動けなかった。

 

『……ふわぁ。私もなんだか、眠くなってきてしまいました。ちょっとお隣に失礼しますね』

 

「えっ」

 

 奈緒が驚いたのもつかの間、布団が擦れる音がしたすぐ後、耳元から冬香の呼吸音が聞こえてた。

 「すう、すう」と。どこまでも無防備な吐息が、耳元をくすぐる。不思議と、嫌な気持ちではなかった。

 

『ふぅ――……」

「うひゃあ!」

『最後の意地悪です。それでは本当に、お休みなさい』

 

 最後に油断したところで、冬香が耳に息を吹きかけた。

 思わず身体がピーンと張ってしまう。

 せっかくリラックスしてたのに……

 

 しかし、これはやばい。

 途中で本当に身体が動かなくなった。寒い日に目が覚めた時、金縛りに遭う感覚に似てる。脳の感覚だけ残されて、身体の自由が奪われてしまう。

 そもそも冬香の声をこんな間近で聴くのが間違いなのだ。

 正面に座ってても、脳に直接響くくらいなのに。

 

「しっかし、誰がシナリオ書いたんだ、これ」

 

 これを書いたやつは、相当な変態に違いない。

 奈緒はそう思った。






【オマケ・『雪の降る中で死ねたら』3話予告】
 ひょんなことから寝て起きたらサバンナに放置されていた冬香。
 左から迫り来るライオンの群れ、右から突進してくるヌーの大移動。
 冬香は博士から託された『シマウマも肉食に目覚めるくらい美味そうな匂いを発する生肉の塊』を守りきれるのか!?


 次回『雪の降る中で死ねたら』第3話。
 『お日様の下で動物さんとピクニック』
 乞うご期待ッ!

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