「どう? 街の様子に貴女の時と違いはあるかしら?」
午後になり、すっかり調子を取り戻した姉さんが気軽に問いかけてくる。
「私が知ってるのと同じですけど、それよりも大丈夫ですか? こんなに堂々と実体化して散策して」
気楽な感じの姉さんとは対照的に、私はきょろきょろと周りを警戒して落ち着けなかった。髪の色を灰色から変えて、普通の洋服を着て、見た目はただの人間に見えてはいるが落ち着かない。
「大丈夫だって。下手に警戒してる方が怪しいわよ。まだ昼間なんだし、聖杯戦争の事は忘れて楽しみなさい」
「聖杯戦争がらみでの外出のはずでは……はぁ」
姉の能天気さにため息が零れ出る。昼間に戦うマスターもサーヴァントもいないのは常識なので、違う方面から文句を言う事にした。
「聖杯戦争に関係なくても、知り合いと会ったらどうするつもりですか?」
「そうね~。ドッペルゲンガーだと言って誤魔化しましょう」
「姉さん、それ誤魔化せてませんよ」
「あはは、大丈夫だって。平日で学校もあるし、新都でそうそう知り合いとなんて会わないわよ」
「そうだといいんですけど……」
穏やかな午前を過ごす中で、私が未来から呼び出された英霊だと知った姉さんは、勝者の私が英霊として呼ばれたら勝ったも同然ねと優雅に紅茶を飲んでいた。
血縁上の父のように優雅なその姿にイラっとした私は、つい苦言を呈してしまった。私が経験した聖杯戦争と、これから挑む聖杯戦争は私が召喚された時点で別物だと説明した。
私の時に姉さんが呼んでいたのはアーチャーで、他でも呼ばれるサーヴァントが違うかもしれない。マスターだって別人かもしれない。たとえ私の時とマスターもサーヴァントも同じであったとしても、『同じ』だからと言って使用する能力や行動まで同じとは限らない。油断はよくないと。
私が幸せになるチャンスを姉さんの慢心で潰されてはたまらないと思い言ったのだが……。何故か午後は姉妹で冬木の散策と相成った。
姉さんが言うには、街に出て今回の下見を兼ねて、私の時との街並みや雰囲気に差異がないかの確認という事らしいのだが。
「姉さん、街の様子を探るのを忘れて、さっきからウィンドウショッピングを楽しんでませんか?」
「楽しんでるわよ? 緊張して回るより、普通にしてるからこそ違和感に気づいたりするものよ。だから桜も楽しみなさいな」
建前なのか本音なのか判断しかねた。姉さんはすでに魔術師として一流で、学校でも優等生だ。楽しんでいるだけじゃなく、ちゃんと考えているとは思うのですが。
納得できなかった私の手を、不意に姉さんが掴んできた。
「本格的に聖杯戦争が始まったら、こんな事しないわよ。でもね、今だからこそ貴女と――――桜と一緒にお店を回ったりしたかったの」
「姉さん……?」
「あ~、ちゃんと本音を言わなかったから気を遣わせたかしら。ごめんなさい。後悔がないように戦いに臨みたいのよ。その一環って事で大目に見てくれない?」
照れた姉さんの笑顔の中に、確かな決意が見て取れた。
あぁ姉さんは、ちゃんと聖杯戦争に挑む覚悟を決めていたんだ。姉さんは自分が死ぬ可能性を含めて平然としているだけだった。
予想外の私を召喚して心乱れたに違いない。それでも私を認め受け入れ、私の時の戦いでは『自分が負けて死んだ』のを受け入れたんだった。
気楽だったのは私の方だった。姉さんは聖杯戦争で負けるつもりなんて微塵もないはずだ。だけど万が一として『妹に殺される覚悟』をしているようだ。
私を見て少し照れている姉をじっと見た。
優しい姉さんの事だから、逆の殺す覚悟の方はしたつもりなだけで、できてないんだろうなぁ。そういう人が自分の姉なのが無性に嬉しくなってしまった。
目の前の姉さんの為ではあったが、私が――してしまった姉への贖罪の気持ちもあったのかもしれない。散策をちゃんと楽しむ為に、藤村先生のように元気よく声を出した。
「姉さんの言い分はわかりました。だったら後悔しないように精一杯楽しみましょう」
私らしくない大きな声に姉さんが一瞬だけびっくりした。けれどすぐに笑顔に戻り、手を繋いだまま一緒に歩き始める。
繋がっている実感を得たくて、優しすぎる姉の手をぎゅっと握った。
私と姉さんの幸せを邪魔する者は全て排除しよう。だって今の私は姉さんのサーヴァントなんだから。
「ふふふ、姉さんの手、温かいですね」
「え、そう? 暑いなら放しましょうか?」
「いいえ、このままがいいんです。うふふふ」
たとえそれが、生きている私だったとしても――――。
短い! 30分で書いたから! ごめんなさい!
次回から聖杯戦争突入だ~(●´ω`●)
けど、休憩時間はうちの人材少ないカルデアで貴重な弓クラスを育てなきゃ……。
ガチャ運悪くて嫌になります(。-`ω-)でも楽しい