Fate/Grand Order【The arms dealer】 作:放仮ごdz
現在進行中の「監獄塔に復讐鬼は哭く」イベントの前哨戦である空の境界コラボイベントに、ディーラーたちが参戦したら…というIFとなります。なお、イベント報酬の式さんがこの世界線だと強すぎるため召喚させないために、とある理由から正史では立香達はこのイベントに遭遇していません。四章からいきなり監獄塔編になってます。
メッフィーがそもそも立香と出くわしていない上に召喚もされてないため、大事な話はだいぶ省いてシンプルにディーラーVSアサシン式の対決のみで短いですが、楽しんでいただけると幸いです。
アスファルトで舗装された車道と壁の用に聳える高層建築群。特異点Fとは違う、ごく普通な二十一世紀の日本の都市群のとある丸いマンションの前にある駐車場のど真ん中。
私の前で向かい合うのは、共にナイフを相手に突きつけている、そんな背景に似つかわない格好の男女。一人はディーラー、もう一人は赤い革ジャンの下に青い着物を着ている黒髪の女性。
「何なんだお前。全身死の線だらけで姿が見えない。吐き気がする」
「そりゃあ俺はどこ触ったって即死するんだ。そう見えてもしょうがないかもな?」
サーヴァントらしきその女性は、交戦していたと思われるエネミーのゴーストを「消失」させたらしいとドクターから語られ、マシュが「まずは会話から」と接触を試みるも「長そうだから」という理由で拒否られ、さらにはナイフを手に「元いた場所に返してやるよ」と襲ってきたため、たまらず交戦。私が援護し、マシュが守り、ディーラーが攻める特異点Fから培った連携で対抗した。
しかし私の構えたハンドガン・マチルダが真っ二つにされ、ディーラーのショットガンもマグナム二つも綺麗に両断する謎のナイフに防戦一方。空中に舞って蹴りを入れて来た女性に体勢が崩れたマシュに向けられた凶刃を、下から払いのける形でディーラーがナイフを振るい、目を蒼く光らせた女性との会話がそれだ。
「まあいいさ。悪人にしろ善人にしろ、頭にコイツを打ち込めばこんな
「慈悲のつもりらしいがストレンジャーを殺すというなら話は簡単だ。正当防衛、って事で問題ないな?」
「ああ、問題ない。どうせお前は、今ここで死ぬんだからな」
そう言った女性の姿が、消えた。いや、跳んでいた。一跳躍で視界から外れる高度まで至ったその女性は月光に照らされながら愉しげに笑った。
「浮世は終わりだ───じゃあな!先に逝ってろ」
空高く宙を舞い、ディーラーの死角に降り立つと同時に一閃。軽く撫でられ、ディーラーが崩れ落ちる。・・・思わず悲鳴が漏れるが、直ぐに持ち直す。女性の背後に姿を現した二人目のディーラーが銃口をその後頭部に突きつけていたからだ。
「・・・どんな手品だ?確かに殺したはずだ。目の前の
「さあな。
発砲。同時に、体勢を崩して倒れ込んだ女性のローキックがディーラーを襲い、転倒と同時にナイフで心臓を串刺しにする。それでも崩れ落ちた瞬間に、ナイフのリーチから遠く離れた車の上に姿を現したディーラーはマシンピストルを乱射し、女性は大きく跳んで回避するとそのまま走りだし、それを銃弾の雨が追いかける。
「えっと、どうしましょう先輩。ディーラーさん、頭に血が上っているのか私たちの事が見えていません」
「・・・とりあえず、安全な所で見学しておこう」
流れ弾を盾で防いだマシュの言葉に、苦笑いを浮かべてそそくさと乗用車の陰に隠れる私達。冬木のアーチャーとキャスター、オルレアンのアマデウスとサンソン、ローマのアレキサンダーとダレイオス三世の様に相性が悪い英霊というのはいる物だが、この二人がそれだと何となく分かった。ならば落ち着くまで待つしかない。
「そっちは行き止まりだぜストレンジャー。こいつで終わりだ」
マシンピストルで袋小路まで追い詰め、ディーラーがその手に構えるのはロケットランチャー。外さなければ一撃必殺のそれに、女性はナイフを手に不敵に笑んだ。
「いいぜ、来いよ?」
「Goodbye!」
放たれるロケット弾頭。それに対して、女性は真っ直ぐ突進、ナイフをロケット弾頭に向けて滑らせた。瞬間、真っ二つに切断されたロケット弾頭が転がる。その様子に怪訝な視線を向けながらロケットランチャーを投げ捨て、マインスロアーを構えるディーラー。
「・・・何をした?」
「それはもう
「やれやれ。さも当り前の様に言われても困るな・・・!」
戦意を失い武器を降ろした・・・と見せかけてから瞬時に構えたマインスロアーを連射するディーラー。当たりさえすれば数秒後には木端微塵の代物だ。確実に当てる為に虚を突いた攻撃。それはいくつか真っ二つに斬り飛ばされるが、二つの小型榴弾を女性の腹部、左太腿に撃ち込む事に成功した。
「チッ・・・!」
「無駄だ、それは外せないぜ。GoodBye.Stranger……!」
小型榴弾をすぐ起爆するために散弾の範囲が広いセミオートショットガンを取り出し速射するディーラー。女性は跳躍してディーラーの頭上を飛び越えることで回避。そのまま蹴りを叩き込み、ディーラーは蹴り飛ばされて消滅。しかし今度は近くの普通のマンションの三階辺りから狙撃が襲いかかり、女性は飛び退いて回避する。
「ちっ…めんどくせえ。まずはこいつか」
すると女性は車の影に隠れて狙撃から逃れると、まず腹部にナイフを流すように切った。私達は慌てるも血は流れず、そのまま流れるように左太腿に一閃。しかしやはり血は流れず、それだけで小型榴弾が無効化されたのが分かった。さっきのロケット弾頭といい、物の機能を失くす力か何かを持っていると考えるのが妥当か。
「ちっ…面倒なところに行きやがって。だが、オガワハイムじゃなくて誰もいないそのマンションに逃れたのは失策だったな」
「なに…?」
ライフルは当たらないと思ったのか、高所からシカゴタイプライターを乱射し車ごと女性を狙うディーラーだったが、女性は車が壊れる直前に跳躍。射線から逃れると、人間離れした跳躍で駐車場を駆け抜けてディーラーのいるマンションに接近すると一閃、二閃、三閃。一瞬でナイフを振り抜くと、マンションの下階が三分割されていて、倒壊した瓦礫の山にディーラーは押し潰されてしまった。
「ならこいつだ!」
瞬間、女性の数メートル背後に出現したディーラーがライオットガンを撃ち込み、距離減衰の無い散弾を女性は跳躍して車の上に着地して回避。ナイフを投擲して同時に跳躍、咄嗟に飛び退いて回避したディーラーの着地点に飛び回し蹴りを叩き込んで着地した。この短期間で五回も殺されたディーラーは私たちの側に姿を現すと冷や汗を垂らした。
「…爆発物の無効化、さらにはたった数回切るだけで建物を崩壊させる、それを宝具ですらないナイフでだと?そいつは反則だストレンジャー」
「死んでも簡単に生き返ってくる奴がそれを言うのか?オレの眼はなんだって殺すのに、お前は簡単に生き返ってくる。始めてだぞこんなの」
「そうか?俺はすぐに死んでしまうから足りないぐらいなんだが…俺って反則なのかストレンジャー?」
「うん、普通に、反則なんじゃないかと思う」
普通に聞かれたので普通に返してしまった。正確には他の自分にバトンタッチしているだけだけど…傍目から見たら反則だと思う。28回確定ガッツとか頭おかしい。
「俺はまだまだ行けるぜ?アンタが俺を全員殺しきるか、それとも俺の武器がアンタに届くか、どちらか一つだ」
「…あー、やめだやめ。割に合わない。―――生きているのなら、神様だって殺してみせる。そのはずだったんだけどなあ」
そう言ってナイフを仕舞う女性にチャンスだと思い、いまだに戦闘態勢を取るディーラーを諌め、勇気を出して話しかけてみた。
「あの、貴方は一体…?」
「……名前は両儀式。簡単に言えば、この建物に縁があるからって引き寄せられた擬似サーヴァント、かな」
「文字通り、目の色が変わったな。魔眼か、そいつは俺も専門外だ。ただのナイフで俺の自慢の武器が悉く斬られるとはやってられん」
「まだやるってんなら気が済むまで殺してやるぞ?」
「おっと、そいつは勘弁だストレンジャー」
とことん気が合わないのか、得物を構えて睨み合う両者を慌てて仲裁する私とマシュ。これは、私が「彼女」と会っていなければあったかもしれない、可能性の一幕だ。
戦闘描写は中古で購入した空の境界DVD「俯瞰風景」「痛覚残留」を元にしました。蹴りもよく使うイメージ。
ディーラーにとっては天敵過ぎた式さん、というか直死の魔眼。ロケランを斬ってなんとかできるのは式さんか某斬鉄剣の使い手ぐらいじゃなかろうか。接近戦ではナイフが強い、をこれほど体現したキャラもいまい。
それでは次回もお楽しみに!よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。