Fate/Grand Order【The arms dealer】   作:放仮ごdz

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ウェルカム!ストレンジャー…どうも、監視者(オーバーシア)を書いて懐かしくなったので実況動画でリベレ2を見ながら執筆している放仮ごです。それはさておき、UA164000突破。お気に入りもついに1000人を超えました、ありがとうございます。これからもどうぞよろしくお願いします。

主役であるはずのディーラーがまるで登場しない監獄塔編第三話。今回は監視者(オーバーシア)との決着と第二の怪物との対決、そして今章のヒロイン登場。楽しんでいただけると幸いです。


一難去ってまた一難だストレンジャー

男は門の中へ入れて欲しいと申し出た。

 

門番は答えた。

 

「そんなに入りたいなら、禁止にそむいて入るがいい。だがいいか、わしはいちばん下っぱだ。

その先にいる門番たちは、ふるえあがるほど恐ろしい」

 

フランツ・カフカ 『掟の門』より

 

 

 

 

 

 

「ちぃっ!」

 

 

空中で監視者(オーバーシア)とかち合ったアヴェンジャーは、一瞬拮抗するも単純な体格か重量の差かあっさり弾き飛ばされて立香の側に降り立ち、黒衣が取れてグロテスクな全身を露わにしながら地面に着地した監視者(オーバーシア)は壁に向けて突進。長い右手で壁を崩して穴を空けるとその中に入って行ってしまう。

 

 

「逃げたか。さて、どうするマスター。奴を倒す術はあるか?」

 

「一つ確認だけど、アヴェンジャーの能力は高速移動と青黒い炎と、雷の様な魔力放出、あとは監視者(オーバーシア)とかち合える強靭な肉体で武器はない?」

 

「大体その通りだ。オレの持つ常時発動型の宝具で、強靭な肉体と魔力による攻撃を行使できる。お前の言う高速移動はまた違う宝具だ」

 

「沢山宝具を持ってるんだね。…真名を教えてくれたりは?」

 

「問題あるまい?我が身は規格外(エクストラクラス)のアヴェンジャー、お前が知るべき情報はそれだけでいいだろう。それよりも、だ。何か策はあるか?」

 

「うん。多分、奴の弱点は胸部に見られたオレンジ色の光。マントで隠してたし、多分アレは核みたいなもの。私が指示するからその通りに避けて、その間に魔力を溜めて近づいて、思いっきり叩きつけてやって」

 

 

そう迷いなく告げる立香に、一瞬呆けたアヴェンジャーは何が可笑しいのか高笑いを上げ、帽子を押さえて腰だめに構えた。

 

 

「くはははは!いいだろう、乗ってやる。ミスはしてくれるなよ?」

 

「…右に避けて!」

 

「ナタリアァアアアアアアッ!」

 

 

ボコボコボコッ、と石畳がアヴェンジャーの足元に向けて盛り上がり、立香はとっさに後退して指示。それを受けたアヴェンジャーは右に飛び退き、飛び出してきた長い腕から逃れることに成功。すると上半身を出してきた監視者(オーバーシア)は煙幕と毒ガスを噴出して目くらまし、さらにそれから飛び退いて逃れたアヴェンジャーに向けて上半身と下半身の間から生やした複数の黒い触手を伸ばした。

 

 

「魔力の雷で散らしながら上に逃れて、天井を蹴って飛び込んで!それで多分、反応できないはず!」

 

「それでいい。ぜぇやっ!」

 

 

右足に黒い触手を巻きつけられていたアヴェンジャーは、雷の様に魔力を放出しながら跳躍。天井に両足を付けると踏み砕く勢いで蹴りつけ、真下に加速。両手に黒炎を纏って監視者(オーバーシア)の胸部のコアに叩きつけた。

 

 

「アァアアアアアア!?」

 

「貴様は復讐者とも呼べないただの怪物だ。情けはかけぬ。存分に、朽ち果てよ」

 

 

そのまま両手を抉り裂く様にコアを握りながら振り抜き、燃ゆる胸部に大穴を開けた監視者(オーバーシア)は青黒い炎に包まれて断末魔を上げながら塵と化して消えた。

 

 

「脆い脆い!哀れ、醜き怪物に成り果てるしかなかったモノよ!シャトー・ディフはおまえの魂には相応しくない!監視者(オーバーシア)を気取り自分が持ちえなかったものを恐怖で御そうとして恐怖に負けたお前はあまりにも哀しすぎる!聖母と崇められた醜き監視者(オーバーシア)よ、おまえの嫉妬を見届けた。お前を殺し、その醜さだけを胸に秘めてオレは征く!」

 

 

消えゆく炎の残滓の側で、立香の方に振り返りながら高らかに叫ぶアヴェンジャー。サーヴァントとは違う消滅の仕方に、立香は目を見開いていた。

 

 

「…サーヴァントじゃ、ないの?」

 

「言っただろう。奴らは人間で、罪の具現だ。サーヴァントに近しい存在だが根本が違う。この監獄塔にいる者は過去、未来のいずれかの時間軸でお前と縁がある者のみ…のはずだ。見覚えが無いのならアレは未来のお前と縁を持つものだろう。…お前、未来で何をした」

 

「こっちが聞きたいよ!?」

 

 

呆れながら聞いてくるアヴェンジャーに怒鳴り返す立香。酷い言われようだ。恐らく後の特異点で出くわすのかもしれないが、少なくとも今の自分は何も知らないのだ。

 

 

「本来ならば、だ。なにかしらの罪を抱えた真っ当な英霊共が番人として現れるはずだった。魔術の王もまさかこうなるとは思ってもいまい」

 

「…つまり、七人全員バイオハザードの関係者?」

 

「お前にとっての「罪」がバイオハザードという事ならば、そうだろうな。クハハッ!どうした、臆したのか?諦めれば死あるのみだぞ」

 

「…大丈夫。アヴェンジャーこそ、指示に従ってくれてありがとう」

 

「っ…くくくっ、はははははははははははは!」

 

 

お礼を述べた立香に、一瞬呆けた表情を浮かべたかと思うと帽子を押さえ高笑いを上げるアヴェンジャー。

 

 

「これが、マスターを有した状態での戦いという奴か!見事な采配であったと言ってやろう。仮の契約ではあるが確かにお前はマスターだ!初見の英霊を、規格外(エクストラクラス)たるこのオレを使いこなしてみせる!」

 

「…エクストラクラスは初めてじゃないからね。ディーラー、アンリマユに…エヴリン。一癖も二癖もあるけど…頼もしい仲間だよ」

 

「ほう……俺以外のアヴェンジャーとして現界した者がいるか。なるほど、合点がいった。…さあ、第二の裁きの間へと向かうぞマスター!虎のように吠えよ。おまえには、すべてが許されているのだから」

 

 

そこで、藤丸立香の意識は浮上する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目覚めると、布団もかけずにベッドに横たわっていたらしく酷い頭痛がして立香は寝癖だらけの頭を押さえながら時計を見た。朝の五時だ。

 

 

「…次の日、か。夕飯も食べずにあそこに飛んでたんだな…」

「ママ、今日は大事なお話があるんでしょ?」

「…そうだ、所長がソロモン対策の会議を開くって言ってたっけ。行かないと…メディアさん、何か残してるかな…」

 

 

髪型を整え、朝食をとるべくふらふらと部屋を出る立香。寝ぼけ眼で頭を抑えながら、少女を追って食堂へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、書庫で時間を潰しながら過ごして二時間後。カルデアの会議室で、今だ制作中のディーラーとダ・ヴィンチを抜いた代わりに普段レイシフト中のオペレーターもやっているスタッフも加えた面子でソロモン対策及びこれからの特異点に必要なサーヴァント召喚の会議のミーティング中、ぼんやりしながら頭をさする立香を心配するオルガマリーの図があった。マシュも書記をしながらちらちらとこちらの様子をうかがっている。

 

 

「大丈夫、藤丸?顔色悪いわよ」

 

「…ああ、所長。私は大丈夫です、それよりも…」

 

「…藤丸。次の召喚はやっぱり、私がメインでするわ。貴方はロンドンで無茶をしすぎ。次の特異点は私とマシュだけでレイシフトするわ。貴方は私に何か遭った際の予備として休みなさい」

 

「っ!」

「ママを仲間外れにする気?許せない!」

 

そんなことを言い出したオルガマリーに、ショックを受けた表情を浮かべる立香。それでもすぐに平静を装いつつ答えた。

 

 

「お断りします。一人だけ安全なところにいるなんてできませんし、所長にマシュ、所長のサーヴァント達だけに戦わせる訳にはいかない。今までもギリギリだったんです。…ディーラーもいないのに、また…所長を見殺しにしてしまうのだけは嫌なんです」

 

「…分かりました。貴方の意思を尊重する。その代わり、次の特異点が判明するまでゆっくり休んで体調を整えなさい。これは所長命令です」

 

「はい…ありがとうございます、所長」

 

 

そう応えて立香は会議室を後にした。…とはいえ、またあそこに行くのだろうから休むに休めないだろうけど、と心の中でぼやき苦笑する立香。しかし体調も酷くなる一方であり回復に専念しなければもたないのも事実で。

 

「大丈夫ママ?すごく辛そうだよ」

「うん、大丈夫だよ。これぐらい…」

 

 

頭痛に顔をしかめながら自室に戻るとベッドに横になり、日課の日記をつける立香。それを最後まで記さないうちに再び意識は沈んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――例えどんなことがあっても誰かを見捨てない。私は、もう守られたり助けられたりするだけは嫌だ。逆に助けて、戦って、一緒に生き残るんだ。

 

それが、11年前から私がずっと抱いてきた、我儘とも言える、守られるしかなかった無力な自分が許せない、心の底から渇望している原初の思いだ。

 

そのためにはディーラーの武器やサーヴァントのみんなが必要だ。ディーラー自身も、マシュも、所長も、サーヴァントのみんなが生きているのも必要なんだ。

 

そんな、立香の心の中が垂れ流しになっていたのか、目の前に佇んでいたアヴェンジャーは不敵に笑んでいた。

 

 

「独白をどうも、人類最後のマスター。そうか、先輩(・・)。それがお前の抱く罪か。傲慢、強欲、色欲、暴食、怠惰、嫉妬、憤怒。そのどれでもないがそれは立派なお前の罪だな。その自覚はあるか、先輩?」

 

「……」

 

 

そう問いかけられても、立香には分からない。だが一つ。暇な時間ができたことで、知ることが出来たものも一つだけあった。

 

 

「ヒッヒッヒェ、いい武器があるんだストレンジャー。クハハハッ、オレと言うサーヴァントだ。不服か?」

 

「…不服じゃないけど、全然似てないよ。巌窟王(アヴェンジャー)

 

 

シャトー・ディフ。その名前には、心当たりがあった。これでも学生時代は友達がおらず、休み時間のほとんどを読書で過ごしていた藤丸立香だ。その物語も、読んだことがあったのだ。

 

イフの塔(シャトー・ディフ)とは、フランスのマルセイユ沖に実在した、十六世紀に要塞として建造された、政治犯や思想的犯罪者を主に収監していた監獄塔のことだ。十九世紀には牢獄としては閉鎖され、現在は史跡として残されている場所は、アレクサンドル・デュマ著作の小説「モンテ・クリスト伯」の舞台として一躍有名となった。その物語の主人公こそ「復讐者」として世界最高の知名度を有する人物、モンテ・クリスト伯爵。またの名を、巌窟王である。立香はそれこそこのアヴェンジャーの真名だと確信していた。

 

 

「タイムリミットだ。お前の魂は既にこの監獄塔に囚われてしまった。肉体と魂の乖離を防ぎたくば、カルデアに戻りたいならば残り六つの裁きの間を超えればいい。奴等を殺せ、生き抜いて脱出しろ。ここにはいつだって助けてくれるお前の理想の武器商人はいないぞ。奴に会いたいか?奴が居なくて心細いか?よろしい。ならば俺はこう言うしかあるまい。“待て、しかして希望せよ”だ」

 

「…でも、また最初の独房に戻っているような」

 

 

周りを見渡す立香。見覚えのある壁に繋がれた鎖。ゾンビは相変わらず目の前の廊下を徘徊しているし、最初の部屋とまるっきり同じだった。

 

 

「此処とカルデアでは時間と空間の概念が違う。此処での七日があちらでの一日であるかもしれない、その逆も然り。そして常に始まりの場所はここだが、行く先は異なる。裁きの間の先に進めばまたここに辿り付き、再び裁きの間へと至ればそこは次の裁きの間となる。ありていに言えば、ループしているという事だ。行くぞ、第二の裁きの間がお前を待っている。…今回も、厄介な看守がいるぞ」

 

「え?」

 

 

その台詞と共に聞こえてきたカランカランという、鉄製の何かの反響音とドスドスという足音が聞こえてきて、慌てて廊下に出て、前回は監視者(オーバーシア)が出て来た方向…向かって右側を見やる立香。そこには、異形の大男がいた。

 

 

「たあぁぁすけてえぇぇ…」

 

「G生物!?」

 

 

それは、ローマで相対したGカリギュラと同じ、G生物。その、第一形態。ただしこちらはボロボロの白衣と青いズボンを着た金髪の男で、巨大な眼球が存在する右上半身の筋組織が膨れ上がって肥大化しており、右手には鉄パイプを握りしめ引きずりながらこちらへと迫っていた。その危険性、というよりはタフさは身に染みて知っているため、だいぶ離れていて幸いと慌てて逃げようとする立香。しかし、聞こえてきたか細い声がその足を止めた。

 

 

「…誰か…誰もいないのですか…?そこに誰か…いるのですか…?」

 

「?…アヴェンジャー、今確かに人の声が…!」

 

「けて………助けて…助けてください…」

 

 

G生物の前方、ちょうど陰になっていて見えなかった場所から現れたのは、赤い軍服の様な物を着たピンク色の髪の、琥珀色の瞳をした女性だった。立香を見るや否やふらふらと駆け寄った女性はそのまま蹲った。G生物第一形態…G1は今にもここに来ようとしていて、時間はない。

 

 

「あ…ああ…助けて…ください…気付いたらひとりで…この暗がりにいて…ここは一体どこなのでしょうか……ひどく怖気がして…暗く…悲しくて…私は、私は…それにあのお方、私を誰かと間違えていらっしゃるようで…」

 

「もう大丈夫、私と彼がいるから!」

 

「それは正義感という奴か?はははっ、随分余裕があるじゃないか!いいや、違うな。それこそがお前の持つ罪だ。……女。貴様、名はあるのか?」

 

「私…いいえ…ごめんなさい…私なにも覚えていなくて…」

 

「名前よりも今は大事なものがある!とにかく逃げなきゃ、あれは死なない!」

 

「ほう。不死身の怪物か。安心しろマスター。ここでは不死身など通じない。生あるものは死あるのみだ!」

 

 

立香が女性に肩を貸して走り出したのと同時に、そう言って飛び出し、黒炎を纏った拳をG1の右肩に叩きつけるアヴェンジャー。グボッと嫌な音がして、G1は吹き飛ばされ沈黙した。

 

 

「すごい…一撃で」

 

「我が一撃は毒の様な物。直接ダメージに加えて持続ダメージやステータス異常を与える事が可能だ。だが、裁きの間以外で殺したところでどうしようもない。先を急ぐぞ…なに?」

 

「殺してやるぅ…」

 

 

意気揚々と語るアヴェンジャーだがその背後で、むくりとG1は立ち上がった。立香は知っている、G生物ほど持続ダメージが意味をなさない敵はいないと。

 

 

「…なん…だと…?」

 

「G生物は確か、無限に変異を繰り返す怪物…一瞬で死滅するような大ダメージを与えないと倒せない!」

 

 

ローマでの決着を思い出す立香。あの時は立て続けに大ダメージを与え、最期はディーラーの機転で連鎖爆発でとどめを刺した。アレを再現しようにも、こちらには数が足りない。

 

 

「とにかく、先を急ごう!どっちにしろここじゃ狭すぎる!」

 

「同感だ。割に合わん」

 

 

アヴェンジャーが魔力弾を放って牽制しつつ、立香が女性をお姫様抱っこして走り、裁きの間を目指す道中。ふと、アヴェンジャーが立香に尋ねた。

 

 

「では一つ質問だマスター。—————お前は劣情を抱いたことはあるか?」

 

「はい?」

 

「一箇の人格として成立する他者に対して、その肉体に触れたいと願った経験は?理性と知性を敢えて己の外に置いて、獣の如き衝動に身を委ねて猛り狂った経験は?」

 

「…逆に聞くけど、私にあると思います?」

 

「無いな。恋と言うものすら抱いたことがないだろう。心を覗け。目を逸らすな。そうだ、それは誰しもが抱くが故に誰一人逃れられない。他者を求め、震え、浅ましき涙を導くもの。これより挑むは世代交代を繋いで種を絶やさぬようにしなければならない繁殖の宿命、生物として当然の種の存続の本能」

 

 

それを聞いて、思い出すのはネロを付け狙ったカリギュラの末路。後から聞いたことだが、G生物は宿主の近しい者に胚を植え付けることで完全体と化すらしい。その時は何も思わなかったが、つまりそういうことだ。

 

 

「それでも意志疎通の概念と知能を付け過ぎたが故の快楽への沈溺が付いて回るのが人間だ。だが、奴…名をウィリアム・バーキンに至っては優れていたはずの知能すら失い自らの子を吐口とした元人間(ケダモノ)だ。故に、色欲の罪がふさわしい」

 

「シェェリィィ…どぉこぉだぁ…!」

 

 

その右肩の巨大な眼でこちらを認識したG1は鉄パイプを縦横無尽に振り回しながら走り出し、立香も全力で走り出す。アヴェンジャーも牽制しながらそれに追随、裁きの間へと至った。

 

 

「奴は自らの名さえ知らぬその女を自らの標的と誤認しているようだ。今回は運が良かったなマスター?」

 

「わ、わ、私ですか……?」

 

「全然よくない!力を貸して、アヴェンジャー!」

 

「いいだろう!不死身の獣に復讐に猛る虎の牙が通じるか否か!」

 

 

その瞬間、入り口から現れたG1に、黒炎を纏ったアヴェンジャーが高速で四方八方から体当たり。炎の刃が四肢を斬り裂いて脱力させて鉄パイプを手放させると、まるで虎の牙の様に構えた右手の指で大きく胴体を斬り裂いた。

 

 

「やめろぉ…死にたくなぁぁぁい…!」

 

「ぐぅおおっ!」

 

 

すると右上半身が更に膨張して肩から新たな頭部が出現し、バーキンの頭部は胴体左脇へ埋もれて右手から巨大な鍵爪を生やした第二形態へと移行したG2は右腕を振り抜いて一撃。咄嗟に防御の構えを取ったアヴェンジャーを吹き飛ばすも、その際に反撃を受けて眼を貫かれたG2はそのままさらに変異。両腕がさらに巨大になって翼の様に展開し、胴体に新たに腕を二本生やした四本腕の異形と化した第三形態G3へと移行。左足右肩背中に眼を出現させ、女性に視線を向けて獣のごとき咆哮を上げた。

 

 

「アヴェンジャー!?…がふっ」

 

「シェェリィィ!」

 

「ヒッ…!」

 

 

そのままG3は邪魔だと言わんばかりに立香を押しのけ、下の右手で女性を掴み上げた。しかし立香は死力を振り絞って傍らに転がる鉄パイプを拾い上げ、背中から飛びかかった。

 

 

「っ…させるかああああああっ!」

 

「ガアアァアアアアッ!?」

 

 

そしてG3の背中の眼に鉄パイプを突き刺して振るい落とされるも、G3の動きを止めてその手から女性を手放させることに成功した立香に、復帰したアヴェンジャーが不敵に笑んだ。

 

 

「よくやったぞマスター。――――我が征くは恩讐の彼方!」

 

 

その瞬間に、肉体はおろか、時間、空間という無形の牢獄さえをも脱した。まるで時間停止でもを行使しているかの様に、超高速移動したアヴェンジャーはG3に強襲する。

 

 

「――――虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)!!」

 

 

一瞬のうちにG3のやみくもに振るわれた四つ腕を斬り裂くと、腹部に出現した複数の眼が集まったようなコアを真正面から貫き、燃やすアヴェンジャー。G3は跡形も無く消滅していた。その光景を目の当たりにした女性は、呆けつつも口を開いた。

 

 

「助けてくれてありがとうございます、お二方。…あの方は、助けを求めていました。私は、彼を救うためにここに呼ばれたような気がします」

 

「そうか。お前がそう思うのならそうなのだろうな、名と記憶を奪われた女よ。ならばお前はメルセデスを名乗れ。かつてこのシャトー・ディフにて、名と存在の全てを奪われた男にまつわる女の名だ」

 

「メルセデス…」

 

「…やっぱり、貴方は…いや、なんでもない」

 

 

不死身の怪物を屠るべく発動したであろうその宝具と「メルセデス」という名に、立香は真名を聞くべく訪ねようとしたものの思いとどまった。聞くべき時があるのだ、とそう思ったのだ。

 Gの残した鉄パイプを拾った立香を先頭にそのまま奥の扉を進み、一周して最初の独房に戻ってきた一行。ひとまず小休止だと、簡易ベッドに座って一息つく立香とその隣に座るメルセデスを見据えてアヴェンジャーは問いかけた。

 

 

「さてマスター。汚れた世界を、自らの全てを奪われた世界を救わんと歩む愚者よ。このメルセデスをお前はどうする?ここで置いて行くもよし、牢獄に入れておくもよし。オレはお前の判断に従おう」

 

「一人は、嫌です…良くないものが、私を見つめている気がして…」

 

「分かってる、一人だけ置いて行かれるのは嫌だもんね。こんな大量のゾンビがいるところで一人で置いてけぼりにする訳にもいかない、連れて行こう」

 

「勝手にしろ。この女が何者だろうとお前がするべきことは変わらないさ。見事、第二の裁きをお前は乗り越えた。さあ、第三の裁きの間へと進もうか。今度は看守はいないようだぞ、運がいい」

 

「それは逆に怪しいんだけど…」

 

 

言いながら、三人で先を進む。しかし、すぐにアヴェンジャーはその気配を感じた。

 

 

「…待て。厄介な看守は居ない、が。凶悪な囚人がいたらしい。逃げるぞ、奴は速い上に痛みに鈍い!」

 

「「え?」」

 

 

例にもよって振り向く。そこには、瞼を縫い合わされ兜を被り両腕には大型のカギ爪が付いたガントレットを装備している異様な大男…ガラドールがこちらに走って来ていて。二人は恐怖に慄きアヴェンジャーに続いて走り出す。そして、第三の裁きの間へと辿り着く。そこには、絶望が待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようやく来たか、人類最後のマスター」

 

「我々が君の幻想に終止符を打ってあげよう」

 

「なっ…!?」

 

 

黒い戦闘服を着こんだ金髪オールバックに赤い眼光がうっすらと見えるサングラスをかけた男と、触手と目が付いている異様な茶色い杖を手にして紫色のフード付きローブを身に纏った金色の眼を光らせた男。立香にとっては、因縁のある者達。それを前にしてアヴェンジャーは合点がいったかの様に笑いだす。

 

 

「はははははははははははははははは!…前言撤回だマスター。お前は見るだろう。およそ人間の欲するところに限りなどないと。奴の欲は文字通り世界へと及ぶもの。愚かにも神などになろうとし、その一歩手前へと至った男を俺は他に知らない。そして高い自尊心、過度の自己愛を有し、他人を一切信じず己の力を過信し、慢心により身を滅ぼした男。奴等は其の大罪を持ちえると言えるし、そうでないとも言える。

 何故ならば、バイオハザードを起こす奴など強欲か傲慢いずれかだからだ。彼らはその中でも少しだけその罪が多いだけに過ぎない。一言で言えば力不足、だからこそ二人で現れたのだ。ここは第三・第四の裁きの間。強欲と傲慢の怪物が同時に現れるとは、不幸にも程がある」

 

 

強欲のままに新世界の神を目指した男、アルバート・ウェスカー。傲慢のままに身の程を弁えず自らの身を滅ぼした愚者、オズムンド・サドラー。かつての強敵達が、立香の前に立ちはだかる。




今章のヒロイン、メルセデス登場。恐らくこのFGO/TADにおける最重要人物ですね。原作とはまた違う立場でここにいます。推し鯖の一人ですが来ないんじゃあ…

今回で「ウェルカム、ディーラー」の時系列まで至りました。「彼女」の正体はこれで分かるかな。見事に浸透してます。立香も変に思わなくなってると言う。

リベレ2のカフカの文面が監獄塔と合いすぎだと思います。そんな訳で監視者(オーバーシア)と、立香は初めて相対したバーキンG生物撃破。ローマでは主に第四・第五形態と戦ったのでG3までと戦いました。元々G生物は好きなんですが、RE:2のG生物がドストライクでした。
今回の立香は武器としてバーキンの鉄パイプをゲットしました。▲頭をカンカンしなくちゃ…

バイオハザードにおける色欲は地味に迷いました。そもそもそんな目的を持っている輩が少ないですからね。最初は色狂いの大統領補佐官を当てはめてたんですが、色欲について調べてみたらもろにG生物ドンピシャだったのでそのまま採用。メルセデスをシェリーと誤認して追いかけてました。成長後ならまだ分かる。

バイオハザード監獄クリーチャーシリーズその二、バイオハザード4からガラドールさん登場。監獄があそこまで似合うクリーチャーもそういない。

そして最後にウェスカーとサドラーが同時に登場。既に一度戦っているのもありますが、残った該当者の中で強欲と傲慢は彼等しか思いつかなかった上に、なんかその理由もなんだかなあ…だったので同時に。アヴェンジャー&立香とのタッグマッチです。バイオが誇る高速移動VS FGOが誇る高速移動の夢の対決と、ディーラーに対する因縁対決。激闘必至です。
次回もお楽しみに!よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。

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