Fate/Grand Order【The arms dealer】 作:放仮ごdz
前回より始まった「バイオハザードクロニクルズ 監獄塔に復讐鬼は哭く」の初戦。バイオハザードクロニクルズの名の通り、彼女が参戦します。楽しんでいただけると幸いです。
旅行者はたずねた。
「あの男、自分自身に課せられた判決を知らないのですかね?」
将校は答えた。
「教えてやっても意味はないでしょう。なにしろ自分の身体に刻まれるわけですから」
フランツ・カフカ 『流刑地にて』より
「ようこそ、
アヴェンジャーに蹴散らされてなお、すぐに集ってくるゾンビやウーズにモールデッド、そして目は赤く全身には針金を巻きつけたり釘を刺されていたり裂傷や切り傷があったりと痛々しい姿をしているゾンビの様な何か「アフリクテッド」の群れに、アヴェンジャーは背を向けて余裕綽々に語り出し、立香もそれに当てられたのか構えながらも応える。
「…そんなこと言われても。私は今、白昼夢かなにかを見ているの…?でも、この感触は夢とは思えない。まるで、あの時の様な…」
「落ち着け
「私が一体何なのか…?いや、それよりもマスター、だって?」
「罪深き者、汝の名は藤丸立香!此処は恩讐の彼方なれば、如何な魂であれ囚われる!お前とて例外ではないさ。得られる知識の多くは瑣末に過ぎんが…」
マスターと呼ばれたことに驚いた立香に、アヴェンジャーは嗤う。その背後で、ゾンビのうち二体が膨張して変形、筋肉組織が剥き出しの獣染みたマッシブな体格となり鋭い爪と牙に長い舌を備えた「リッカーβ」と、同じく筋肉組織が剥き出しだが四つん這いにならない大型のゾンビ「ブラッドショット」へ、ウーズの一体が膨張してただの肉塊の様なナマコの様な何かであるグロブスターに、アフリクテッドの一体は皮膚や肉が腐敗し骨格が露出した「ロトン」へと変貌、一見隙だらけのアヴェンジャーに襲いかからんとし、立香が思わず退いて足を滑らせて転倒する。
「そうだな。ひとつぐらい学んでいくがいい。例えば———そう、こいつら…いや、
しかしアヴェンジャーから青黒い魔力が雷の様に奔り、背後にいた異形の群れを悉く粉砕。倒れた立香をアヴェンジャーは見下ろし、手を貸した。
「…助かったよ、アヴェンジャー。ありがとう。シャトー・ディフだっけ?気が付いたらここにいたんだけど、何か知っているなら教えてくれない?」
「オレはお前のファリア神父になる気は無い。このオレがわざわざ懇切丁寧に伝えてやる義理はない、が。気の向くままお前の魂を翻弄するまでだ。最低限の事柄は教えてやろう、奴が来る前に手短にな。
お前の魂は囚われた。この監獄塔に。何故かはオレの知るところではないが、思い当たる節があるだろう。それとも既に忘却したか。いいとも、存分に忘れ去るがいい。あらゆる全てを魂に刻み続けるのは復讐鬼だけだ」
「……」
立香の脳裏に、ロンドンでの死闘が蘇る。魂を捕らえる呪いの様な物には、彼しか心当たりはなかった。忘却などしない、あんな悔しさを、無力感を忘れてはならない。
「まあいい。此処は歴史上に存在したイフ城とは大きく異なっている。ゾンビ共が溢れ、安全地帯などどこにもない。ここから出るのはなに、特別なことはない。多少歪んでいてもここは監獄だ、脱獄すればいい。檻は既に解き放たれている。厄介な看守…いや、
「魂ってことは私の身体はカルデアに?」
「そうだ。それも、まだ魂がここに定着していない。何度か覚醒するだろう。だがすぐにその魂は完全に此処に囚われる、二日あればいい方だ。此処で死ねばお前の魂も消え失せる。此処はそう言う場所だ」
「…なら脱獄するしかないか」
「お前一人で生き残れるほどこの牢獄は甘くはないぞ?」
「大丈夫。私は、一度一人で地獄を生き延びた。貴方は強いから置いて行っても大丈夫、だから何も憂いはない。脱出するまで生き残るぐらいなら私一人でもできるから。…私をマスターと呼んでくれても、私に付き従う義理は何も無いもの」
そう宣言しながら廊下に出た立香を、黙って目線で追っていたアヴェンジャーは溜め息を吐き、ずれていた帽子を直しながら口を開く。
「…そうか。ならば一つ忠告だ。――――人を羨んだことはあるか?己が持たざる才能、機運、財産…そうだな、家族や友人がいる人間を前にして、これは叶わぬと膝を屈した経験は?世界には不平等が満ち、故に平等は尊いのだと噛み締めて涙に暮れた経験は?」
「腐るほどあるよ。このクソッタレな世界はそれを抱いた人間が星の数ほどいる。私もその一人だ」
「…答えるな、その必要はない。心を覗け。目を逸らすな。そうだ、それは誰しもが抱くが故に誰一人逃れられない。他者を羨み、妬み、無念の涙を導くもの。…特に、他者ですらなく。堕ちた自分に無い物を手にした
「なにを言って…?」
そこで、視界が歪む。アヴェンジャーの瞳が炎と燃える。全身を殺気が通り抜けていき、その矛先…廊下の奥へと視線を向けた。
廊下の奥から悍ましい姿をした巨大な何かが四つん這いで凄まじい速度でやってきたその瞬間、意識が暗転した。
食堂で気を失った立香。しかしすぐに意識が覚醒し、心配して集まってきたサーヴァントたちに「心配ないから」と断り、ふらふらと自室に戻って行く。
「これが、アヴェンジャーの言っていた覚醒か。所長や皆に心配をかけたな…」
「ママは何も悪くないよ」
夢だったのかは分からないが、あの場所に至ったことで急に罪悪感と無力感が過去最高に圧し掛かってきたのだ。廊下を通りがかる度に、すれ違ったカルデア職員の皆さんに心配された。吐き気がする、悪寒が酷い。早くベッドに入って休まなきゃみんなに迷惑をかけてしまう…そう思い至り、自室へと向かう足を速めた。
瞬間、意識が暗転する。半分機械の醜い異形の女ともいえない何かに追いかけられる光景がフラッシュバックして、またカルデアの廊下へ戻る。目の前には、こちらに向かってきたのであろう、肩を上下させたマシュがいた。
「先輩。ロンドンから帰還してから、たまに呆けることはありましたが、今回は意識まで…先輩?何でこんなところで立ち止まって…あの、どうかされましたか…?」
「大丈夫?ママ?ママー?」
「先輩?…先輩!」
「ママー?聞いてるー?」
「うるさい!」
意識が戻るや否や、立香はマシュに怒鳴ってしまっていた。耳鳴りが酷くて、耐え難くて。ただただ、振り払いたかった。
「せん、ぱい…?」
「っ…ごめん!」
ショックを受けたらしいマシュの顔が見られなくて。立香はそのまま自室に辿りつくと、日記に心境を書き殴ってからベッドに倒れ伏した。
「っ!?」
再び意識が監獄塔に移った瞬間。殺気を感じて、慌てて後方に飛び退く。そこには、呼吸器を始めとした様々な機械を体に取り付けていて、背骨が異様に発達し手足が伸びた異様な巨体の体格をダークグレーの大きなマントで隠した、露出した顔は髪が殆ど抜け落ちて肌が白濁した色で目を赤く光らせた女性の様なクリーチャーが、今まさに立香を捕まえようとした手を伸ばして石の床を砕いた光景があった。
「許さない…逃がさない…お前が消滅しろ…ナタリアァアアアアアア!!」
「っ、知らないよ!」
恩讐の声を上げて振り上げ、勢いのまま振り下ろしてきた長い腕の攻撃を避けて、目の前に迫った顔に砕けた床の瓦礫を手に取って叩きつけ、怯んだ隙に逃げ出す立香。アレがアヴェンジャーの言っていた
「ディーラーの武器が欲しいところだったけど、これなら…!」
「ナタリアァアアアアアアアアッ!!!」
ズンズンズンズンと、ゾンビを押しのけウーズを踏み潰しモールデッドを蹴散らしアフリクテッドを突き飛ばしながら迫る
「アァアアアアアアアッ!」
「ッ!?」
しかし、両腕を天井に伸ばして異様に反り上がった身体の首には当たらず機械化されている部分に当たって火花が散り、それに怯んだところを殴りとばされてしまった。
「があっ!?」
廊下の奥にあった扉を吹き飛ばし、天上が高い広間の様な所に投げ出された立香。その立ち上がったところに、アヴェンジャーはいた。
「アヴェン、ジャー…」
「まさか
「やっぱりソロモンの仕業か…とんでもなく理不尽なのは分かった」
「よろしい。さて、
「?? 意味が分からないんだけど…誤認?」
「気にするな。理解しようとしたところで理解に苦しむだけだ、こういう類の輩はな!」
「ナタリアァアアアアアアッ!」
そこへ、扉の両端に手を付けて無理矢理その巨体をねじ込んで現れた
――――――私は・・・・・・なんて醜いのか。私が、醜い醜い醜い、ワタシじゃない。私が醜い・・・・・・あの死は、私の死ではなかった。それは全て自らが招いたこと、ああ。あの引き金を引く瞬間、私が、世界から消滅することに、私が、恐怖を覚えるなんて。死に損ない、病魔に侵された肉体を、ウィルスの力にすがり、生き存えるとは………
蘇生したもう一人の私が、覚醒する。その時、醜い姿に変身し生き存えている。許されない。私は、認めない、こんな姿を覚醒した私が、私に笑いものにされる。私は・・・・・・なんて醜いのか。私こそ、私なのに。私こそ、覚醒した私だったのに。なのに、なんであいつがみんな持っているの…私が持てるはずだった全てを!妬ましい、私にはないのに当然だと言わんばかりに正常な命を持っている人々が妬ましい。私じゃないワタシが妬ましい。あまねく全てが妬ましい!
そうよ。ああ、そうだわ。私は、私しかワタシじゃない、だから、ヤツはワタシじゃない!だから、ヤツはニセモノ。まがいもの!だから、消滅するのはヤツ。殺さなければ。ワタシがワタシにあるために。お前が消える時、その時、ワタシはワタシに転生するのよ、ああ。ナタリア・・・・・・死ね、ナタリア。死ね、消えろ。死ね、死ね、死ね!
「…アレが、嫉妬の罪?」
一人の女の恩讐の声を聴いた立香は、そうアヴェンジャーに問いかけた。
「嫉妬とは、自分がほしいものを他人が持っていることに対する葛藤と、そこから生じるストレスによって自他に対して攻撃的になる様の事を言う。アレは自分に無いものを得ようとしたがために、自分に全てを奪われてしまった哀れな女の怪物だ。ようく見ておけよ、マスター。コレが人だ。お前の世界に満ち溢れる人間どものカリカチュアだ!戦え。殺せ。奴は、問答無用でお前を殺すからな!」
「…武器が無い私一人じゃ無理だ」
「武器があれば一人で殺すというのか。それもよかろう。だが、今の貴様には武器が必要だ。そうだろう?」
そう言って視線を向けてくるアヴェンジャーに、立香はハッと顔を向けた。
「…貴方が、その武器になってくれる?」
「互いの目的のための一時の協力か、その言葉にはただ一言を以て返答するとしよう」
そして、待てなくなったのか飛びかかってくる
「待て、しかして希望せよ」
嫉妬はクラウザーか彼女しかいないと思いました。クラウザーだと弱そうだったから…うん。
お気づきの方もいるかと思いますが、この監獄塔はバイオハザードシリーズのラスボスたちがあくまで「人間」として立香とアヴェンジャーの前に立ちはだかります。今回はバイオハザードリベレーションズ2のラスボス、アレックスこと
ちなみにリベレーションズ1のノーマンさんは「憤怒」でしたがもっと適役…というかどうしても出したい人間がいたのでリストラしました。ウーズがいるのはその名残です。
地味に混ざっていたブラッドショット。リッカーみたいにT-ウィルスで生まれるはずがないクリーチャー。つまりは…
若干不安定の立香。現在は「ウェルカム、ディーラー(番外編)」の日記の時系列に当たります。彼女の身に何が起きているのか。精神の方は見た目だけでえぐいアフリクテッドから奪い取った斧で反撃するなど元気です。
次はVS色欲の怪物。クリーチャー自体は既に出ているけど、彼が初登場です。残り五話ぐらいで終わりたい。次回もお楽しみに!よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。