Fate/Grand Order【The arms dealer】   作:放仮ごdz

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ウェルカム!ストレンジャー…どうも、前回を投稿して数日後の節分に祖父が他界し、通夜の最中にバイオハザード8がエヴリンに関する物語だと知って焦り、通夜やら終わってイベントに勤しんでたら紫式部を召喚したり、新規のバイオハザード小説にお気に入り数をあっさり抜かれて落ち込んだりと、色々あって憔悴している放仮ごです。

そんなわけでギリギリ間に合いました。現在行われているフルボイスバレンタインイベントに感化されて書いてみた、うちのオリ鯖たちのバレンタイン。召喚されてない組は「もしも召喚されたら~」のIFです。急きょ書いたせいでほとんどが拙いものですがご了承ください。一応、本編の布石があります。

楽しんでいただけると幸いです。


バレンタインって奴かストレンジャー

【ディーラーの場合。非売品のとっておき】

 

 

「ディーラー…ちょっと、いいかな?」

 

 

その日、立香がやってきたのは、ロケットランチャーやら銃器やら弾薬やらが飾られた、ちょっとした店になっているディーラーの部屋。暇してたのか解体したハンドガンを整備していたディーラーは立香の声に顔を上げた。後ろに右手を回して左手で頬を掻きちょっと照れている様子の立香に何を思ったのかディーラーは笑みを浮かべて店先に並べたラインナップを指差した。

 

 

「どうしたストレンジャー?アンタも騎士王様達みたいに材料を買いに来たのかい?」

 

「材料?あ、もしかして出所不明のチョコの材料って…」

 

「もちろんこの俺だ。季節に合わせたラインナップは勝手に自動更新されるらしくてな、今月はこれだった訳だ。卵黄を混ぜる奴用に新鮮(?)な卵もある。金の卵は高いがな、ヒィッヒッヒ」

 

「へえ、そうなんだ…」

 

 

聞くところによるとそれも「商人(ディーラー)」というクラスの特性の一つらしい。カルデアの貴重な食糧元になっているだけあって便利だな、と思った。

 

 

「それで誰に出すんだい?マシュか、それとも所長か?いや、身近な男ならクー・フーリンかマイクかい?」

 

「え、えっと…」

 

 

心底困った表情をしている立香。いつもと違うその様子にディーラーは疑問符を浮かべ、立香は意を決して口を開いた。

 

 

「えっと、さっきセイバーオルタたちからチョコをもらったんだけど…私、バレンタインなんてものとは縁がなかったから知らなくて…。大事な人にチョコを贈る日だって聞いて、それでね?セイバーオルタから余った材料をもらって…作ったんだ」

 

「…もしかして、俺にかストレンジャー?」

 

「うん、そうなんだ。いつもお世話になっている筆頭はディーラーだからね。どうぞ」

 

 

そう言って立香が手渡したのは、シンプルに包装されている赤い小箱。ディーラーは両手で丁寧に受け取り、なにが珍しいのかじっくりと眺めた。

 

 

「えっと…変だった、かな?」

 

「いいや、嬉しいぞストレンジャー。ちょっと待て、何かお返ししないと商人として面目が立たん」

 

 

そう言って店の奥に引っ込んでいくディーラー。いつの間に改造したのか床下収納を開け、ひんやりとした冷気が漏れるそこから一本の酒瓶を取り出して立香の元まで戻ってきた。

 

 

「そら、このもらい物ならこいつがいいだろう。完全にプライベート用の非売品で俺のとっておきの葡萄酒だ」

 

「え。私、未成年だよ?」

 

「だがすぐに大人になるだろう?コイツは保存しておけばそれぐらい問題ない。アンタが大人になった時に親しい人間と飲んでくれたら嬉しいんだ、ストレンジャー」

 

「ディーラー…」

 

「絶対に人理を取り戻す、それはアンタにとって当たり前のことだろう?だからコイツはそのご褒美さ。俺だっていつまでもアンタと一緒にいれる訳じゃないからな。それに、銃と違ってそいつなら日本に持ち帰れるだろう?餞別さ」

 

「悲しいこと言わないでよ…」

 

「まあ、まだその時じゃないのは確かだ。もしあんたが酒を飲める年になってものうのうと俺が残っていたら、一緒に飲もうぜストレンジャー」

 

「うん…!」

 

 

酒瓶を受け取り、嬉しそうに笑みを向けてくる立香に、ディーラーもまた笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【アシュリーの場合。護衛係の大好物(?)】

 

「マスター。ちょっといいかしら」

 

「どうしたの、アシュリー?」

 

 

ドアをノックし立香の自室に入ってきたのはアシュリー・グラハム。読書中だった立香は顔を上げると、珍しくエプロン姿の彼女に疑問符を浮かべた。

 

 

「実はね、レオンに作ってたんだけど…」

 

「…レオン・S・ケネディさんはうちにはいませんよ?」

 

「うん、作ってからそれに気付いて…だから、武器商人さんと貴方用に分けて作ったの。受け取ってくれる?」

 

 

そう言ってアシュリーが手渡してきたのは、卵の様な物がいくつか入ったビニールの小袋。手渡された立香は疑問符を浮かべて首をかしげ、アシュリーは得意げに説明を始めた。

 

 

「あ、ありがとう…?」

 

「レオンってね。村だと余裕があれば鶏が卵を産むまで平気で待つし、城でも蛇を見かけるたびに斬りかかったり、卵が大好きなのよ?だからホワイトチョコで殻を作って、中にチョコクリームを入れてみたの!ど、どうかしら…?」

 

「うん、美味しいよアシュリー。ありがとう!」

 

 

なお、立香はディーラーからレオンは村に入った直後に村人に追い回されて手持ちのハーブを全部使い果たして時間さえあれば卵や魚を掻き集めて回復に使っていたから好物ではないと聞いていたのだが、優しさなのか単に忘れていたのか、満面の笑みのアシュリーにそれを伝えることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【マイクの場合。俺達が遺そうとしたもの】

 

「マイク、ちょっといいかな?」

 

 

廊下で見かけた、ヘルメットを被って顔を隠した男に、動作からマイクだと気付いた立香は笑顔を浮かべて駆け寄った。

 

 

「どうした、マスター?俺か、それともカークか、ブラッドに用事か?」

 

「うーん…どちらかというとマイクたちみんなにかな?はい、ハッピーバレンタイン!」

 

 

そう言って手渡されたチョコに、まさかもらえるとは思わなかったのか、分かりやすくたじろぐマイク。

 

 

「何人いるか分からないから一人分だけど…ごめんね?」

 

「い、いや…。くれるだけ嬉しいさ。…だがどうするか…お返しなんて考えてなかったからなあ」

 

「気にしなくていいよ。感謝の気持ちだから」

 

「そうはいかない。武器商人やジルに怒られてしまう。…後で部屋に持っていくから、期待しないで待っていてくれ」

 

「うん、分かった」

 

 

数時間後、立香の部屋に贈られたのは何の変哲もない絵画。そこに描かれた澄み渡った青い空に、感慨深い思いと懐かしさを感じる立香であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【▲様の場合。鋏の片割れ】

 

オルガマリーが自室でデスクワークしていると、スーッと自動扉が開いて不思議に思って視線を寄せると鉈を引きずりながら▲頭の少女が無言で入って来た。

 

 

「うわっ、びっくりした。どうしたの、レッドピラミッドシング。何かあった?あと、傷がつくから引き摺らないでね」

 

「………」

 

 

無言で佇んでいたレッドピラミッドシングは、壁にかけられたカレンダーを指差した。

 

 

「カレンダーがどうしたの?…そういえば、今日はバレンタインか。どうかした?」

 

「……」

 

 

すると今度はオルガマリーと同じ細い指で長方形を形作ると思ったら✕の形にし、しょんぼりと落ち込む様子を見せたかと思えば、もう片方の手にもう一本鉈を取り出すと差し出してきた。

 

 

「えっと…チョコを作ろうと思ったけどできなかったから、代わりにこれをやる、って?」

 

「…」

 

「あ、ありがとう…?」

 

 

重そうにしながらもちゃんと両手で受け取ってくれたことに満足したのか、そのまま去って行くレッドピラミッドシングの姿に、オルガマリーは首をかしげた。

 

 

「……レッドピラミッドシングって今はあの姿だけど元は男じゃなかったかしら。むしろ私が渡さないといけないんじゃ…?」

 

 

考え始めて混乱し、深く考えないことにしたオルガマリー。その手に渡された鉈が、とある鋏の片割れで、レッドピラミッドシングを殺せる武器であることをオルガマリーはまだ、知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【サドラーの場合。支配種プラーガ】

 

「えっと…サドラー様、いいですか?」

 

 

そう言いながらおずおずと玉座の様なソファが置かれている仰々しい部屋に入った立香を出迎えたのは、映画鑑賞をしていたオズムンド・サドラー。まったく言う事を聞かないめんどくさい系サーヴァントだが、召喚に応じてくれたのだからしょうがないとばかりに立香は赤い小箱を差し出した。

 

 

「なんだ、別に私には必要のないマスターよ」

 

「だったらこれもいらないかな…一応、どうぞ」

 

 

渡されたサドラーはきょとんとし、目を見開いて立香を睨みつける。立香は物怖じせず睨み返し、サドラーは何が面白いのか笑いながら小箱を開封、中から出て来たチョコに一瞬変な表情になると「フフフフフッ…!」と笑い声をあげた。

 

 

「私のマスターとなった愚か者よ。これは何事か?」

 

「バレンタインデーです。日本だと、親しい人間やお世話になった人間にチョコを上げる日です。私には関係ない話だったけど…一応、お世話になってるので」

 

「いいぞ。実にいい。つまりアレだ。これは、貴様の忠誠の証と言う訳だな」

 

「え、そういう訳じゃ…」

 

 

勝手に自己解釈して上機嫌にのたまうサドラー。立香が狼狽えていると、サドラーは嗤いながら懐から紫色の液体が入った注射器…彼の宝具を取り出した。

 

 

「そうだ。いいことを思いついたぞ。弱きマスターよ…特別だ、私に忠誠を見せた貴様に我らの力を授けてやろう。やがてお前もコレの力の魅力に逆らえなくなる…」

 

「つまりガナードになれと」

 

「いいや。貴様は支配する側の人間ということだ。コレは支配種のプラーガだ。覚悟が決まれば使うといい」

 

「いや、あの…アレとかコレとかボケが始まってるんですか?」

 

「馬鹿を言うな、私は本気だぞ?それに、それさえあれば私の支配から商人を解放することも出来るかもしれないぞ?どちらの支配力が高いかは明白ではあるがな。商人達は忌避するが、力を手にすれば貴様も理解できるようになる。我がロス・イルミナドスは貴様を歓迎しよう」

 

「ええ…」

 

 

どうやら、かなりお気に召したらしい様子のサドラーに、立香は支配種プラーガを手にしながらため息を吐くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【アルバート・ウェスカーの場合。お揃いのサングラス】

 

「ウェスカー?…入るわよ?!」

 

 

自らチョコになって追いかけてきた清姫から逃げるオルガマリーは、一つ思い出して近くの部屋に訪れた。中には金髪オールバックにサングラスのアルバート・ウェスカーがいた。

 

 

 

「何事だ?俺に必要なことなんだろうな?」

 

「清姫から逃げてきたの。少し匿ってくれないかしら?」

 

「ふむ。何か報酬をもらえれば考えよう」

 

「貴方はそればっかりね。…一応よ、一応。貴方、誰からももらえそうにないし。義理の義理なんだから、勘違いしないでよね?」

 

 

そう言って手渡された綺麗に包装された小箱に、ウェスカーはにやりと笑んだ。

 

 

「わるくないな。礼を言っておこう。ところで俺は、洋館事件が起きた時には既に妻子持ちだぞ?」

 

「んなっ!?…案外モテるのね貴方」

 

 

その直後、清姫に乱入されてひと悶着が起きたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ヴェルデューゴの場合。淹れたてのコーヒー】

 

オルガマリーの自室にて。慣れない銃の手入れをしていたオルガマリーは、解体したハンドガン・ブラックテイルをやっとのことで組み立て直して一息吐き、伸びをする。するとガタゴトと天井裏から音がしたかと思うと、扉を開けてポットを片手に持った異形のサーヴァント、ヴェルデューゴが入ってきた。

 

 

「この匂いは…私に?」

 

「……」

 

「ありがとう。ありがたくいただくわ」

 

 

普段はカルデア職員に怖がられるため廊下を歩けず、霊体化しながらも律儀に天井裏に潜んでいた彼の差し出してきたコーヒーカップを受け取り、一口飲んだオルガマリーはその味に舌鼓を打つと、思い出したかのように懐から赤い小箱を取り出して差し出した。

 

 

「お礼ってわけじゃないけど…バレンタインのチョコよ。えっと…食べれる?」

 

「……(noproblem)」

 

「なんでみんな、貴方を怖がるのかしらね」

 

 

どこからともなくスケッチブックを取り出しすらすらと英語でそう綴りながら三本指で器用にサムズアップするヴェルデューゴにぼやいたオルガマリーはそのまま手渡すと、異形の怪人はそのままガコッと天井蓋を開けるとするりと入って行って姿を消したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【アビス完全体の場合。ダンテの本】

 

「Morgan…!」

 

「いたいた、ノーマンさん!」

 

 

カルデア職員たちに避けられながらも、何時も通り標的を探してカルデアの廊下を彷徨っていたアヴェンジャー、アビス完全体と化したジャック・ノーマンに駆け寄る立香。

 

 

「…?」

 

「あ、待って!」

 

 

ノーマンは不思議そうに立香の方に顔を向けるが、特に気にすることなく歩き続け、立香は慌てて前に割り込むと赤い小箱を差し出した。

 

 

「えっと、食べられるかは分からないけど今日ぐらいは復讐は忘れて欲しいと思って…」

 

「……」

 

 

するとノーマンは顔を開いて単眼を露出させると、まばゆい閃光を放って廊下を覆いつくし、立香の視界を遮った。幻覚を見せるガスと閃光だ。

 

 

「わっ!?」

 

「感謝しよう、マスター。私はモルガン・ランズディールを裁く復讐者ではあるが、大いなる猟犬として君に仇を為す敵も裁こう。これは私の愛読書だ。よければ、もらってくれ」

 

 

光の中で、人間の姿をしたノーマンに手渡される赤い表紙の著書『ダンテの神曲』。光が消え、去って行くノーマンを見送る立香の手に開かれたページには、『地獄篇』の第三十三歌が記されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【パーカーの場合。頼れる相棒】

 

「はい、チョコレート。片手間で悪いけど」

 

 

大量に積み重ねた本を手に歩いていたオルガマリーは、廊下ですれ違ったパーカー・ルチアーニに持ってもらい自室に向かう道中、赤い小箱を差し出した。パーカーは片手に本の山を持ったままそれを受け取り、物珍しげに眺めると懐に収めた。

 

 

「アンタが俺にチョコだなんてどんな風の吹き回しだマスター?」

 

「今回のお礼…ってだけじゃなくて、貴方は覚えてないかもしれないけどオケアノスでもお世話になったし、感謝の気持ちよ。そういうのじゃないから」

 

「ハハッ、だろうよ。女性陣に聞いたがこういうのはお返しが必要なんだっけな。なにがいいかねえ…おっ、こいつなんかどうだ?」

 

「!?」

 

 

気軽に渡されたそれは、パーカーが使う宝具であるハンドアックスだった。驚愕するオルガマリー。

 

 

「聞いた話じゃあ、立香と違ってアンタは近接武器は持たねえんだろ?だったらそいつを受けとりな」

 

「だって、これ…宝具じゃ…」

 

「安心しな。そいつは武器商人に作ってもらったオーダーメイド品だ。クー・フーリンと酒を交わした時にな?以前の聖杯戦争で参加した際に、宝具は奥の手として封印して代わりの得物で戦ったって話を聞いたんで特注したんだ。だが、やっぱり相棒を使っちまってよ。持て余してたところだったんだ」

 

「じゃ、じゃあありがたく…?」

 

 

テラグリジア・パニックで苦汁を飲まされたハンターに対抗すべく手にしたハンドアックス…その、代用品の重さからひしひしと伝わるプレッシャーにオルガマリーは冷や汗を流した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ネメシスの場合。お揃いのコート】

 

「スタァアアアアアアズッッッ!」

 

「うわっ、びっくりした!」

 

 

チョコの入った赤い小箱を差し出した途端、いつもの咆哮を上げたネメシスにビビる立香。ジルを探してカルデアの壁を突き破る問題児ではあるが、召喚に応じてくれたサーヴァントであるため感謝の気持ちとしてチョコをプレゼントした途端これである。何か悪いことをしたのかとか、何時も令呪でジルに襲いかかるのを止めているのに我慢の限界が来たのかとか様々な思想が脳裏を埋め尽くし、完全にフリーズした立香をひょいっと右手で摘み上げたネメシスはノッシノッシと歩き始めた。

 

ネメシスに揺られながら立香が辿り付いたのは、一応与えられている彼の自室。中に入ると簡易的なベッドに寝かせられ、ネメシスは部屋の奥に向かうとゴソゴソと何かを物色し始めた。

 

 

「あ、あのー…」

 

「スタァアアアアズ!!!」

 

「ひぃいいいっ!?」

 

 

声を掛けようとするもまた吠えられ、両手を上げて涙目で固まる立香。カルデアで召喚されたレッドピラミッドシングに追いかけられたことはトラウマになっており、どうも追跡者(チェイサー)は苦手なのだ。すると、固まっていた立香にズイっと無造作に差し出され視界を埋め尽くす黒。何なのだろうかと、おずおずと立香がそれを受け取ると、彼女には幾分か大きく重いコートだった。

 

 

「これって…防弾防爆っていう…?」

 

「スタァズ」

 

 

それは、ネメシス愛用のコートのスペアであった。大きすぎて着れないが、被れば並大抵の攻撃ならば完全に防いでしまう代物だ。自分を心配してこれを渡してくれたのだと気付くと、立香は顔を綻ばせた。

 

 

「ありがとう!」

 

「スタァズ…!」

 

 

なお、ぶかぶかである前に重すぎて持ち運ぶことができずに立香はネメシスに謝り倒したという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ジルの場合。救急ボックス】

 

「日本ではバレンタインデーという行事があるそうね?」

 

 

部屋に入ってくるなり、そう尋ねてきたジル・バレンタインにバレンタインデーを聞かれて頷くオルガマリー。

 

 

「え、ええ。私は日本人じゃないけどそうみたいね」

 

「と言う訳で、はいこれ。マスターに私からプレゼントよ」

 

 

そう言って手渡されたのは、何故か救急ボックスだった。開けてみると、救急スプレーとグリーンハーブ×2を調合したものの横に、ちょこんと非常食のチョコレートが入っている物だ。清姫にアルトリア、ネロからもらっていたオルガマリーは予想とは違うそれに狼狽えた。

 

 

「…えっと…?」

 

「え、チョコを渡す日なのよね?だから、アイテムボックスにちょうどあったこれを…ね?安心して、どんな致命傷を負っても回復できる代物よ。いわゆる贅沢セットね」

 

「あ、ありがとう?」

 

「どういたしまして」

 

 

どうやらただチョコをあげる日だと勘違いしているジルに何も言う事はなく、オルガマリーは見送ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【女王ヒルの場合。ヒルのオブジェチョコ】

 

「マシュ…じゃないや、女王ヒル。どうしたの?」

 

「さすがだマスター、我が父(father)よ。この娘のマスターの母国では面白い風習があるという。私からの贈り物を受け取ってくれ」

 

 

自室でのんびりしていたところに、壁から湧き出るように現れたマシュ…の姿をした女王ヒルの分身から手渡された、ねちょねちょした粘液に覆われた透明のケースに入れられたそれに、思わず顔を引きつらせる立香。茶色いためチョコのようではあるが、その形は食人ヒルを模していた。立香は知らないが、かつてアンブレラ幹部養成所に在った『ヒルのオブジェ』に酷似していた。

 

 

「えっと…これは?」

 

「恥ずかしながら…私の幼少時の姿を模した物だ。私は一応「女王」だから用意してみた。喜んでくれると嬉しい」

 

「う、うん…ありがとう…」

 

 

満足したように笑顔で複数のヒルに分裂して去って行く女王ヒルを見送り、立香はハンカチで粘液を拭い取って中のヒルのオブジェチョコを取り出し、少し戸惑いながらも意を決してぱくりとかぶりつく。

 

 

「あ、美味しい…」

 

 

食人ヒルにチョコを塗りたくった物だと思っていた立香は思わぬ優しい味に安堵した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【■■■■の場合。ビターチョコ(?)】

 

2月14日になったばかりの深夜二時。半分寝ている立香は、ふらふらと暗い廊下を歩いていた。呼ばれるがままに、立香は歩いていた。

 

 

 

ママーーー?……………こっちだよ、きて、きて?

 

 

 

脳裏に響く声に従い辿り付いたそこは、古い物置。通称「ロストルーム」と呼ばれる、カルデア所員の間で「午前0時に入ると失われたものを見る。あるいは失うものを見る」という怪談が伝わっており、基本的に誰も近づこうとはしない部屋だ。0時ではないが薄気味悪いそこはいつの間にやらカルデアの誰にも気づかれることなく黒いカビに浸食されており、戸惑いなく中に入った立香を出迎える少女がいた。

 

 

「ハッピーバレンタイン、ママ!」

 

「うん、■■■■」

 

 

走って飛び込んできた黒いワンピースに茶色いブーツの黒髪ロングヘアーの少女を優しく受け止める立香。痛いくらいに力いっぱい抱きしめられ、それでも拒絶することなく立香は安心したように笑みを浮かべた。

 

 

――――――ああ、ちゃんとここにいる。

 

 

「それでママ?チョコなんだけど…ちょっと、失敗しちゃった」

 

「大丈夫、■■■■が頑張って作ってくれたんだから、美味しくないはずがないよ」

 

「うん、ありがとう!」

 

 

満面の笑みで少女が取り出したカビ塗れのチョコを受け取り、戸惑うことなく口にする立香。

 

 

苦く、甘く、……そして、苦い味がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、朝。マイルームに向かって廊下を歩いていた立香に出会ったマシュが話しかけた。

 

 

「先輩?今朝は姿が見えませんでしたがどこにいたんですか?」

 

「ん~?なんか寝付けなくて、散歩してたんだ。心配させたなら、ごめんね?」

 

「いえ!でも、セイバーオルタさん達が捜していましたよ?」

 

「そうだった。ディーラーたちの分も作らないと!」

 

 

そう会話して、食堂に向かう立香達のいた場所に。

 

 

「ねえ、ママ。怒ってる?」

 

 

その問いかけに、少しだけ振り向いた立香は首を横に振って否定し、それに気づいて振り返ったマシュに怪訝な表情で見つめられた少女は笑う。

 

 

 

 

 

「これからはずっと一緒だよ」




相変わらず不穏な最後。ホワイトチョコとビターチョコが好きな私です。


・立香とオルガマリー
異形で手が付けられないB.O.W.ばかり喚んでいる立香と、意思疎通できる人間かある程度大人しい異形を喚んでいるオルガマリー。その違いとは?

・ディーラーのお返し
バイオ4のとある所で見れる武器商人のとっておき。何気に、季節の商品が勝手に入荷されるなどの設定も判明。ついでにあることにも言及してたり。

・アシュリーのチョコ
バイオ4プレイヤーならアシュリーにたくさん食べさせたであろう卵を模したチョコ。序盤では頼もしい鶏と蛇の卵。

・マイクのお返し
彼らが手に入れたかったもの。即興で交代しまくりながら描いたらしく、複雑な筆跡。

・▲様のチョコ(?)
一応女性扱い。原作「サイレントヒル2」における一周目最強クラスの武器。元々▲様の持つ物と合わせて鋏だったらしい。

・サドラーのお返し
IFその一。マスターとは認めないが、カルデアに利用価値があると見なして協力する外道爺。カルデア職員を勧誘して支配下に置こうとする問題児その一。チョコをもらって年甲斐もなく上機嫌である。趣味は映画鑑賞。立香をロス・イルミナドスに迎え入れたいらしいが、渡されたのが本当に支配種か、それとも隷属種か。それを見極めるのは貴方次第。ちなみに、ロス・イルミナドス自体は滅んではおらず残党たちが新たに「Aウイルス」を作り出したことが判明して何か企んでいる模様。

・ウェスカーのお返し
IFその二。オルガマリーをどうやら気に入ったらしい新世界の神。世界を救わないと新世界も作れないことを察したらしく大人しく協力しているが合理的でないと判断すると容赦なく切り捨てる。愛用のサングラスのスペアで、閃光弾を防ぐことが出来る。

・ヴェルデューゴのお返し
IFその三。オケアノスの頃から相性が良かったサーヴァントで、IF組の中では一番オルガマリーと意思疎通できている。元執事だけあって珈琲を淹れるのが上手い。

・アビス完全体のお返し
IFその四。カルデアに召喚されるはずもないモルガンを捜して徘徊する問題児その二。マスターの元に職員からの苦情が相次いでいる。意思疎通が出来ないわけではなく幻覚で会話する。愛読書を渡すなど立香を気に入っている様子。

・パーカーのお返し
IFその五。オケアノスでの縁から召喚された。プロトタイプクー・フーリンの話から思いついたお返し。ハンターを二撃で葬れる恐ろしい武器。オルガマリーには扱えない模様。

・ネメシスのお返し
IFその六。ジルを追って召喚された問題児その三。意思疎通は出来ないものの立香の言う事はよく聞き、恐がられることを気にしている。立香を心配して己のコートのスペアを渡すものの、重すぎて使えないことは盲点だった模様。なお、頭部以外に攻撃を通さないぐらいには最強の防御力を誇る。

・ジルのチョコ
IFその七。バイオハザードを解決すべく召喚された。バレンタインの名を持つもどんな日なのか知らない天然…というより、仕事以外を考えられない真面目さん。意味を知ったら特別な物をクリスにあげるんじゃなかろうか。

・女王ヒルのチョコ
IFその八にして問題児その四。一応女性扱い。人型のヒルの姿が本来の姿なため出歩けず、普段は本体だけ自室に閉じこもって分身にマシュやら色んな人間に化けさせてコミュニケーションをとっている脳筋。倫理観がないため、気持ち悪いなどの感情が分からない模様。

・■■■■のチョコ
IF…だといいなあ(希望的観測)


次回は多分四章の鯖もしくはオリジナルB.O.W.の設定、もしくは空の境界イベントの話。活動報告にこれからのFGO/TADについて書いているのでそちらもよろしくお願いします。
次回もお楽しみに!よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。

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