Fate/Grand Order【The arms dealer】   作:放仮ごdz

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ウェルカム!ストレンジャー…一週間とはなんだったのか。どうも、一月中にロンドンを終えて達成感を感じている放仮ごです。バイオハザードRE:2発売おめでとうございます!先日の活動報告でも語りましたが、パワーアップしたバイオハザードにこれからのバイオに期待しかありません。8にはジェイクを…今度こそジェイクを…!

ロンドン編最終決戦。原作とは大きく離反するソロモンとの決着。15000字でお送りする大ボリュームの対決、楽しんでいただけると幸いです。

【ディーラーのコンティニュー回数、計7回。残り21】


ようやく夜明けだストレンジャー

 奴等を逃がした後、立ちはだかるゾンビの群れを殺戮しながら歩き続け、半日かけてやっと辿り着いた大空洞。

ようやく標的(ソロモン)を見つけ、手始めにと一番近くにいた罪人に手を掛けようとしたその時。憮然とこちらを睨み返す少女に、以前の召喚された記録が蘇る。この街で何度も己を退けた彼女には、ジェイムスとは違う何かを感じていた。

 

 

「私は、ここで死ぬわけにはいかない。藤丸とマシュも殺させるわけにもいかない。恩人のディーラーをみすみす犠牲にするつもりもない。こんなところで、立ち止まっている場合じゃないの。あの男を退けて、必ず人理修復を成し遂げてみせる、なしとげなければならないの。これは贖罪だから」

 

 

その決意に満ちた目は、私の得物を握る手を緩ませる。ジェイムス・サンダーランドという男の贖罪がための自罰意識として、霧の街(サイレントヒル)で生まれた私に、訴える何かがあった。

 

 

「…レフの裏切りに気付かず、カルデアのみんなを、将来有望なマスター候補者たちをみすみす殺させることになった私の罪は重いことには気付いている。この、殺してしまった罪悪感からは逃れられない、だから貴方からも逃れられない。でもだからってこんなところで、あんな奴に殺されようなんて思わない!

 所長の責務を果たそうとしていただけの私は死んだ、だけど私は生き延びてしまった。誰も私を責めなかった、ディーラーも私を認めてくれたけど、私が犯してしまった罪は、うやむやにされた!誰かに裁いてほしかった…一度、カルデアに召喚された貴方を知って、またいつか会いたいと思っていた」

 

「オマエノシワザダタノカ」

 

 

そうだ、人理焼却の黒幕を裁くことができるのは単なる偶然に過ぎない。この街に数多の悪が集い、奴も現れたに過ぎない。私がこの場に召喚されたのは、誰かの思いがあったから。それは、お前だったのか。

 

 

「でも、後を託そうと思っていた藤丸が、私と同じ不安定などころか、魔術師としても未熟なただの人間に過ぎないと知って、彼女に託すのも大きな罪なんじゃないかと思った。…死は単なる逃避でしかない。私が死んでも、死んでしまった人たちに詫びることなんてできない。せめてもの贖罪として、私はこのグランドオーダーを成し遂げる。

 それまでは死んでも死にきれない!人理修復を成し遂げることができたのなら、その時には貴方が私を殺してもいい。だから!」

 

 

ああ、理解した。私は。今の私は、ジェイムスを裁くもう一人のジェイムスではない。マスターとしての役割を得たのをいいことに、現実逃避をして罪から目を背けようとしていたオルガマリー・アニムスフィアを裁く、その心の中にいるもう一人のオルガマリーとして、この場に召喚されたのか。

 

 

「力を貸して、チェイサー!」

 

 

ならば、そう。彼女が贖罪をなし遂げるまで、力を貸そう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは突然のことだった。その場にいた当事者以外の人間は全てが全て、思考が停止した。

 

 

 

「————お前も家族だ」

 

 

立ち上がった藤丸立香を、エヴリンがモールデッドの様に異形化した右手で殴りつけ、失神させたのだ。驚愕のあまりソロモンまで固まってしまった中で、エヴリンが動いた。

 

 

「――――私は暗い穴の中で育てられた。仮釈放もない囚人のように。やつらは私を閉じ込めて魂を奪った。やつらが作り上げたものを恥じるがいい」

 

 

つらつらと歌うように詠唱しながら走るエヴリン。ディーラーとオルガマリーを置き去りにし、モードレッドとジルの間を抜け、我に帰るなり怒りの表情を己に向けながら立香に駆け寄るマシュを飛び越えて、着地と同時に足元に黒いカビ溜まりを作り出してソロモンを睨みつけた。決して、立香の方を振り向かずに詠唱を続ける。

 

 

「私は彼を呼んだ、そして彼はくるだろう。彼は手を伸ばすだろう。愛する彼女を取り戻すために。そして彼女は私を愛してくれない彼を殺すのだ。――――ようこそ、私の家族(ウェルカム・トゥ・ザ・ファミリー)

 

「なんだ?最後の悪足掻きにしては面白い趣向だったぞ、B.O.W.」

 

「殺して、ジャック!」

 

 

嘲笑を浮かべるソロモンに、カビ溜まりから出現したジャック・ベイカーが複数の拳を叩き込む。だがしかし、ソロモンの背後に控える四柱の魔神柱から放たれた光線の集中砲火を受けて、ソロモンに触れることも出来ずに灰燼と化してしまい、エヴリンはそれでも、怒りの表情を浮かべてソロモンへと足掻いた。

 

 

「ッ…なら!私のママになろうとしてくれた、マーガレット!私を糞餓鬼と呼んでちっとも愛してくれなかったアラン!私の家族になろうともしなかったトラヴィス、ハロルド、アーサー、タマラ、ヘイディ、リンゼー、スティーブン、レイド、スーザン、ジム、ドルー、ジョヴァンニ!・・・・・・・・・・・・私を欺きながら家族として接してくれた、ルーカス!…私じゃなくてゾイのために立ち上がった、ジャック!まだ、まだ、まだ!」

 

 

モールデッド、ブレード・モールデッド、ダブルブレード・モールデッド、クイック・モールデッド、ファット・モールデッドの群れを次々と呼び出していくエヴリン。

中には人に近い手足の長い壮年の女性の様なクリーチャーや、大柄なピエロの様な顔をしたクリーチャー、さらにはヘドロに塗れた沼男(スワンプマン)としか形容できない大男の様なクリーチャーを召喚し、さらにモールデッドを無限に湧き続けさせながらソロモンに対抗するが呼び出されるたびに散って行く。

 

 

「殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ!」

 

「…まるで稚拙な遊戯だな。つまらん。…これが、私が少しでも危惧した反英霊の末路か?」

 

 

叫び続けるエヴリンに、飽きて来たのか退屈気な表情を浮かべるソロモン。それに対してエヴリンはキッと睨み付け、ちらりと背後の立香に視線をやりながら誰に言うでもなく、まるで自分に言い聞かせるように語り始めた。

 

 

「私は、みんなを家族にした(アヴェンジャーの)エヴリンとは違う、みんなに家族になってほしかった(アルターエゴの)エヴリンだ。

 みんな、みんな。私の事を人間と見てくれない、生物としても見ちゃくれない。兵器を見る目で、兵器を扱うように、私を恐れる!そんな私なんか、誰も家族になってくれない。だから、私は、この兵器の力で家族を作って行ったんだ」

 

 

そう、自らの在り方を話しながらモールデッドの群れを嗾けるアルターエゴのエヴリン。聞き覚えのないクラスにオルガマリーを初めとした面々は疑問を表情に浮かべるも、ソロモンはどこか納得がいったとでも言うべく嗤った。

 

 

「でも、心から私を家族だとは誰も言ってくれなかった。言わせてるんだから当たり前だけど、悲しくて、悔しくて、妬ましくて、虚しくて…だから、家族を増やし続けて、ミアに母親になることを強要して、イーサンも呼んで…私は死んだんだ」

 

 

その言葉を聞いてピクリと眉を動かす少女が一人いた。モールデッドは光線で蹴散らされ、己も狙って放たれたそれを異形化させて右腕で防ぐも肘から先が吹き飛ばされてなお、エヴリンは退かない。明確な怒りと決意を表情に浮かべて、恐いだろうにソロモンへと毅然と立ち向かう。

 

 

「こんな子供の私なのに、誰一人守ろうともしなかった!寂しかった…ずっと暗闇だった。でも、サーヴァントになってやっと光が差した、夜明けが来たんだ。ジャックは私を怖がらずに友達として一緒にいてくれた。私を止めようとしてくれた、初めてだった…そんなジャックをお前は殺したんだ、許さない。

 そしてあの女は…ママは、私を命がけで守ってくれた!嬉しかった、家族だと言ってくれなくても、命をかけて守ってくれただけで嬉しかったんだ。そんな、私のママになってくれるかもしれない人を、殺させない!もう傷つけさせない、絶対に!」

 

「そうか、独白ごくろう。いい台詞だ。感動的だな、だが無意味だ。貴様のそれは、その感情はこの場においてあまりにも無意味だ。その女が生き残る可能性は万が一にもない。現実を知るがいい!」

 

 

淡々と無感情にそう述べたソロモンは焼却式 ベレトを発動すべく手をかかげて、そして。違和感を感じた。

 

 

「…馬鹿な。貴様は、まさか」

 

 

立香に視線を寄せて気付いた違和感。焼け石に水だと言わんばかりにディーラーの手で止血帯が巻かれている胴体の風穴。不意打ちでエヴリンを襲った際に触手として伸ばした魔神柱で、庇った奴の腹部をえぐって空けた穴。それが、塞がっている…?

 

 

「…何をした?」

 

「ママは殺させない。私を恨んだっていい、嫌われてもいい。でも、ママが死ぬのだけは嫌だ。だから、死なせない」

 

「訳のわからないことを…まあいい、共に死ねば関係ない。祭壇を照らす篝火だ!盛大に燃えるがいい!」

 

 

再び形成される劫火球。エヴリンは複数のファット・モールデッドを呼び出し壁にすることで防ごうとするも、間髪入れず放たれ爆ぜた火球に軽い子供の身体は吹き飛ばされ、ディーラーに受け止められた。周りにはようやく事態を飲み込めたジルとモードレッド、マシュもいる。

 

 

「ナイスガッツだストレンジャー。だが、マスターを守りたいのはアンタだけじゃないぞ。ほら、ほら、緑+赤+青の三色ハーブだ。体力全回復、毒の治癒と共に防御力ってやつを底上げできる。正念場だ、負けられないよなあ!」

 

 

そう言ってエヴリン、ジル、モードレッド、マシュに調合したハーブを渡してセミオートショットガンを携えてエヴリンの前に立ち、自らも三色ハーブを摂取するディーラー。ジル、モードレッド、マシュは各々の得物を携えてエヴリンの前に立っていく。今の独白に、誰もが感化されやる気を増していた。

 

 

「何か策があったのね。少しでも疑ってごめんなさい。……B.O.W.だからって人として扱わないのも駄目よね。クリスに怒られてしまうわ」

 

「何だか知らねえが、もうあいつを傷つけさせないってのは大賛成だからな!」

 

「…貴女が先輩に何をしたのかは分かりません。ですが、彼を退けないと話をつけることもできません…もうこれ以上、やらせません!」

 

 

並び立つサーヴァントたちに、ソロモンは眉をひそめる。まだやるのか?とでも言いたげなその顔は、侮蔑するような狂笑へと変わった。焼却式ベレトを今度は複数出現させ、高笑いを上げるソロモン。

 

 

「ギャハハハハハハハハ…!これはおかしいことを言う。これ以上やらせない、だと?私の気が一つでも変われば、お前たちが守ろうとしているその女ごと灰燼になる未来しか来ない。どう足掻こうと及ばない壁だとまだ理解しないとは、貴様らは真性の馬鹿なのか?」

 

「ええ、そうよ!馬鹿でもないと貴方に挑もうなんて思わないわよ!令呪を持って命ずる!貴方の仇敵を討ちなさい、チェイサー!」

 

「■■■■!」

 

「無駄だ。…なにっ?」

 

 

今の今まで戦意喪失し意気消沈していたと思われていたオルガマリーが叫び、ベレトを放とうとしていたその隙を突いて背後から振るわれた凶刃を、魔神柱を背後に回して受け止めたソロモンは驚きに小さく顔を歪めた。

 そこには鉈を手にした、赤い三角頭の……少女(・・)がいた。少女はバーサーカーの様な聞き取れない言葉を漏らすと後退。側にもう一人同じ姿をした三角頭の少女を顕現させるとすかさず踏み込み、同時に繰り出してきた斬撃を魔神柱で弾きながら、三角頭の大男を想像していたのか理解できないとでも言いたげな顔でソロモンはオルガマリーに問いかける。

 

 

「…なんだ、それは?」

 

「私と契約したレッドピラミッドシングよ。どうして契約するなりその姿に変わったかは知らない。…でも、貴方を倒すために力を貸してくれるとそう言ってくれた。だから私は頼るわ!他力本願だけどそれしか生き延びる方法が無いんだから!」

 

 

そう答えるオルガマリーと、同程度の身長にまで縮んで酷似している容姿に変わった赤い三角頭。違いは赤く錆びた歪な多角錐状の大きな兜の隙間から伸びた髪の色と肌が灰色なのと、オルガマリーがいつも着ている礼装が爆発でも浴びたようなボロボロの袖が無い物を着た裸足の、一見オルガマリーのゾンビの様な風貌という事である。引きずる鉈は身体に見合っておらず大降りに振り回しているが、体重やら怪力やらは変わらないようで再生し続ける魔神柱に幾度も切り傷を作っていた。

 

 

「…何だか知らんが、レッドピラミッドシングとはな。小癪な」

 

 

凄まじい勢いで増えていく三角頭の少女の群れに、魔神柱から光線と爆撃を放って蹴散らし対抗するソロモン。

 

 

「見苦しい人間(ヒト)の業が生み出した醜い怪物が、この魔術王を倒せると思うとはなあ!」

 

「ッ!」

 

 

ソロモンは何が可笑しいのが笑いながら三角頭の少女の群れを薙ぎ払っていく。その隙を突いてエヴリン率いるモールデッド軍団と共にモードレッド、ジル、マシュも攻撃するが関係ないとばかりに己を中心に四体の魔神柱で囲み、周囲を吹き飛ばすソロモン。

レッドピラミッドシングはソロモンの「殺人」からその数を既に100以上にまで増やし、大空洞を埋め尽くす勢いという、モールデッドも合わせた数の暴力で押し込もうとするが、ソロモンには触れる事さえ叶わない。

 その光景を目の当たりにしたディーラーは、未だに倒れ伏す立香と、無理をしているのか顔を歪めているオルガマリーとエヴリンに視線をやって、決意を目に浮かべてP.R.L.412を手にして引き金を引いた。

 

 

「ちっ…あんな化け物でも通じないとはな。やるしかないか。所長、魔力を少しでもいいから回せ。ストレンジャーの負担を軽減してくれ。此処が我ら武器商人の射撃場(ウェルカム!ストレンジャー)…!」

 

「ちょっ、今でもかなり魔力を持って行かれてるのに…ああもう、好きにやりなさい!」

 

「私も加勢するわ、一気に制圧する!無限の弾丸(アンリミテッド・ガン・バレル)!」

 

「駄目押しだ、食らいやがれ!我が麗しき父への叛逆(クラレント・ブラッドアーサー)!」

 

「やああああああ!」

 

 

オルガマリーの魔力を搾り取り、ディーラーを筆頭に宝具を発動していく面々。マシュも盾を手に跳躍、無謀にも体当たりを繰り出す。弾かれてもすぐさま挑みかかることをやり続けてそのまま五分以上も攻防を繰り広げるマシュ達。ダメージを減らせるレッド+ブルーハーブの効果は絶大だった。

 しかし、ソロモンを中心に魔神柱四体が捩れる様に回転して引き絞り、ギュルルルル!と竜巻の如く逆回転した勢いのまま光線を乱射。光線の嵐で周囲を薙ぎ払い、レッドピラミッドシングは一体残らず吹き飛ばされ、ディーラー20人とモールデッド軍団は消滅。エヴリンも姿が見えなくなりマシュ、ジル、モードレッドと余波で吹き飛ばされたオルガマリーは地面に叩きつけられてダメージで呻き、オルガマリーの魔力に限界が来たのか三角頭のチェイサーも一人を残して全て消失、その中心でソロモンは嗤う。モールデッドが消え、エヴリンをようやく殺せたと確信し満足したらしい。

 

 

「どうしたどうした!バイオハザードを解決した者共の力はその程度だというのか?ならば興醒めだな。あまり時間を取らせてくれるな」

 

「ちっ…これだけ戦力があって傷一つ付かないとかデタラメすぎるだろうストレンジャー…」

 

「ディーラー…?」

 

 

そこで目を覚ました立香。エヴリンに攻撃されたことから混乱していたようだが、辺りの惨状を見渡してどうなったのか知ったのか、悲痛に顔を歪めて唇を噛み嗚咽を漏らす。

 

 

「エヴリン…ごめん、ごめんね………ッ。よくも、よくも!」

 

 

そしてすぐに近くに転がったディーラーのマグナムを手に取り、蹲ったまま銃口をソロモンに向けて乱射する立香。憤怒の雄叫びを上げるが、ソロモンは興味ないのかつまらなげに見下した。

 

 

「まだ抵抗するか」

 

「ッ…ウアアアアアアアアアアッ!」

 

 

弾丸が魔力障壁に阻まれ、弾が切れたマグナムを捨てて痛む体に鞭打ち立ち上がると、ディーラーの静止の声も聞かずに突進。抜き放ったナイフを逆手に持ち切っ先を突きつけた立香はソロモンに向けて跳躍するが、再びギュルルルルと回転した四体の魔神柱に弾き飛ばされ地面に叩きつけられる。ナイフは奇跡的に魔神柱に突き刺さったままであり武器も失い、それでもと、拳を握って殴りかかる立香。怒りで我を失っていた。

 

 

「…なぜ貴様が生きているのか、もはやそれはどうでもいい。だがな、少しは分を弁えろ。不快だ」

 

 

それに対しソロモンは魔神柱に突き刺さったナイフを抜き取ると、そのまま投擲。回転したナイフは立香の胸部に突き刺さり、そのまま無様に頭から地面に叩きつけられ転がった。

 

 

「先輩!」

 

「ストレンジャー!」

 

「藤丸…ッ、チェイサー!」

 

 

慌てて駆け寄り手当てするディーラーと、蹲っているオルガマリーの声で奮起し鉈を手に斬りかかったチェイサーと共にソロモンに殴りかかるマシュ。やはり一蹴されてしまうも諦めず、立香を守るためにマシュは何度でも挑みかかる。意地なのか手にした槍を魔神柱に突き刺し、回転できなくさせたチェイサーも、魔神柱から放たれた光線をまともに浴びて吹き飛ばされるも、それと入れ替わるように飛び出したモードレッドのクラレントとジルのナイフが魔神柱を大きく斬り裂いた。

 

 

「良いぞ良いぞ! ……そうでなくてはなァ?」

 

 

ようやくこちらにダメージを与えたカルデアに、嗤って魔神柱から光線を放つソロモン。なす術もなくサーヴァントたちは吹き飛ばされ、唯一立香の側にいたディーラーがP.R.L.412を手にしてその前に立ちはだかった。

 

 

「どうした?降参でもするか、我が魔神柱を粗悪品だとのたまった愚かな男よ?」

 

「…生憎だがなストレンジャー(よそ者野郎)。俺はマスターに似て諦めが悪いんだ。調子に乗って姿を見せた王様よ、一矢報いられるぐらいは考えて置いた方がよかったんじゃないか?此処が我ら武器商人の射撃場(ウェルカム!ストレンジャー)…!」

 

 

閃光が放たれ、ソロモンの目を晦ませた次の瞬間には、マシンピストルとシカゴタイプライターとライオットガン、ハンドガンとレッド9とパニッシャーとブラックテイルとマチルダを手にした8人のディーラーの援護射撃と共に、ナイフとショットガンとセミオートショットガンをそれぞれ手にした三人のディーラーが接近戦を仕掛け、11人まとめて薙ぎ払われる。発動中は五分間無敵という真名解放の効果で無事だったが、先ほどと同じく五分以上かければ敗北は必至だった。

 薙ぎ払っても無事な光景に眉を顰めたその隙を突いてライフルとセミオートライフル、ロケットランチャーと無限ロケットランチャーとマインスロアーで五人のディーラーが遠距離から高威力の攻撃を叩き込むも魔力障壁で弾かれ、焼却式ベレトでまとめて爆撃で散らされてしまう。

 

 

「ギャハハハッ!無様無様!誰がどう、一矢報いるだって?」

 

「ちっ…死なばもろともだ!」

 

 

立香の側のディーラーが放ったP.R.L.412の光線と共にマグナムとキラー7、ハンドキャノンを手にした最後のディーラー三人が特攻を仕掛けるも、即座に転倒。爆撃の様な光線の雨が20人のディーラーに襲いかかり、どんどん吹き飛ばされていく。例え「無敵」の射撃場でダメージを消せても、攻撃が届かなければ意味がない。ならばと、P.R.L.412を手にしたディーラーが爆撃を掻い潜って突進した。

 

 

「まだだ!」

 

「むっ?」

 

 

閃光を放つ。チャージなしのフラッシュバンでソロモンと魔神柱の目くらましをすると同時に、その手に焼夷手榴弾を握りながら体勢を低くして駆け抜ける。

 

 

「小賢しい!」

 

「アンタのそれ、狙いが甘いぞストレンジャー!」

 

 

ソロモン本人の目安で狙い、放たれる光線の雨を、魔神柱の目から軌道を見ぬきわずかな隙間を縫ってソロモンに接近するディーラーはそのまま体当たり。まさか普通に体当たりしてくるだけとは思わなかったのか虚を突かれたソロモンの襟を掴み、親指で焼夷手榴弾のピンを抜いて握りしめ、炎に包まれるディーラー。

 

 

「…貴様、何のつもりだ?」

 

「オケアノスでも使った奥の手さ。アンタの防御壁は、攻撃に対してだけしか発動しないのは分かった。俺のリュックには弾丸、手榴弾、火薬が大量に積み込まれている…後は分かるよなあ?」

 

「!?」

 

 

そして、リュックの中の手榴弾に引火して大爆発。ソロモンを中心に魔神柱四体の根元を大きくえぐり、20人のディーラーの姿は掻き消えた。声も出せずに、涙を流してその光景を眺める立香は無力に打ちひしがれる。しかし、爆発が晴れたその信じられない光景に目を見開いた。

 

 

「そ、そんな…」

 

「少々驚いたが…あの距離でバリアが張れないとでも思ったか?この程度の通常火薬ならば、ゾンビ程度ならいざ知らず、サーヴァント…それもその頂点に立つ私に挑むのは聊か無謀という物だ。無知とは悲しい物だな」

 

 

ソロモンは無傷の姿で健在だった。すぐに魔神柱も再生し、元に戻ってしまう。残機がないのかディーラーは姿を現さず、エヴリンも守れず、さらにはソロモンが無傷だという現実に打ちひしがれる立香。諦めたくはないが、どこかリアリストな面がある己の心が、終わったと言っていた。

 

 

「エヴリン、それにディーラーまで…」

 

「……………」

 

「先輩、所長…」

 

「こっちは魔力切れだってのに、ふざけてやがる…!」

 

「サーヴァントじゃ勝てないってのは戯言じゃなかったようね…」

 

 

絶望に打ちひしがれろくに動けない立香と、魔力切れで呼吸困難で倒れるオルガマリー、立つことも出来ないマシュ、モードレッド、ジルと、こちらも魔力切れのマスターを顧みて動きを止めた三角頭のチェイサーを見て、「それで終わりか」とつまらなげに鼻を鳴らすソロモンは踵を返した。

 

 

「では帰るか。思いの外時間をとったな」

 

「え…」

 

「今、なんと…?」

 

「はあ!? 帰るって、テメエ一体なにしにきやがった!?」

 

 

いきなり吐かれた信じられない言葉に、モードレッドが怒鳴る。これだけのことをして、とどめもささずに帰還すると言うのだ。信じられるはずもないが、ソロモンは何て事でもないように語る。

 

 

「いや、単なる気まぐれだが?ひとつの読書を終え、次の本にとりかかる前に用を足しに立つことがあるだろう? そしてついでに目障りにもこびりついたカビを消しに来た。これはそれだけの話だ」

 

「なっ……小便ぶっかけにきたっつうのか!?」

 

「――――、は。ハハ、ハ、ギャハハハハハハハハ……!その通り! 実にその通り! 実際、貴様らは小便以下だがなァ!教えてやろう、お前たち取るに足らない雑魚の相手をしたのは、小便のついでにしつこいカビ汚れを消す、そのついでの戯れだ。優先度で言えばあの小娘一人にも劣るぞ!ギャハハハハハハッ!」

 

「…みんなは、エヴリンはついでに殺されたって言うの!?ふざけるな!」

 

 

モードレッドの問いに答えたソロモンの、全ては戯れだったと聞いて激怒し、立ち上がる立香。出血は止まり、傷も塞がってはいるが血が足りないのかフラフラであり、それでも立たずにはいられなかった。なにも出来ない己が悔しかったのだ。

 

 

「私はお前たちなどどうでもいい。ここで殺すか生かすもどうでもいい。わかるか? 私はお前たちを見逃すのではない。お前たちなど、はじめから見るに値しないのだ。だが―――ふむ。だが、もしも七つの特異点を全て消去したのなら。その時こそ、お前たちを、“私が解決すべき案件”として考えてやろう」

 

《助かった…のか?見逃されるのは癪だけど、ここは黙って…「ふざけるな!アンタは世界を燃やして楽しいのか!?なんでこんなことをするの!?」ちょっと、立香ちゃん!?》

 

「先輩…!」

 

 

圧倒的な実力を持つが故の傲慢から出た台詞に、通信で聞くことしかできないロマニが安堵の声を上げるも、せめてものと声を張り上げた立香の問いかけに、ソロモンは嗤う。

 

 

「―――――ほう。意外な反応をしたな、人間。楽しいか、問うのか? この私に、人類を滅ぼす事が楽しいかと?

 ああ――――無論、無論、無論、無論、最ッッ高に楽しいとも!楽しくなければ貴様らをひとりひとり丁寧に殺すものか!私は楽しい。貴様たちの死に様が嬉しい。貴様たちの終止符が好ましい。その断末魔がなによりも爽快だ!そして、それがおまえたちにとって至上の救いである。なぜなら、私だけが、ただの一人も残さず、人類を有効利用してやれるのだから―――――!」

 

「…お前えッ!」

 

 

嗤いながら返された答えに、キレて後先考えずに飛びかかろうとする立香を、クラレントを杖代わりに何とか立ち上がったモードレッドが左腕で受け止め、抑え込む。ジルとマシュも明確な敵意を持ってソロモンと立香の間に対峙した。

 

 

「ちっ、こうなりゃヤケだ。下がってろ立香!コイツと話すのは無駄だ、心底から腐ってやがる!」

 

「ええ、同感よ!私たちが戦ってきたバイオハザードの首謀者のそれとも違う、ここまで話が通じないと思ったのは初めて。まだネメシスの方が話が通じるわ!意味もなく何もできずに死んでいく人達だっているのに、その断末魔が爽快だなんて…!」

 

「…魔術王ソロモン。貴方はレフ・ライノールと同じです。あらゆる生命への感謝が無い。人間の、星の命を弄んで楽しんでいる…!」

 

「人の分際で生を語るな。死を前提にする時点で、その視点に価値はない。生命の感謝だと?それはこちらが貴様らに抱く疑問だ。人間(おまえ)たちはこの二千年で何をしていた?ひたすらに死に続け、ひたすらに他人を死に貶め、ひたすらに自ら人であることを捨てていき、ひたすらその生命とやらを無駄に散らせていき、ひたすらに無為だった」

 

 

その台詞に、言葉を詰まらせたのはジル。心当たりが多すぎたのだ。

 

 

「知っているぞ!バイオハザード…その根源たる全ての元凶は、オズウェル・E・スペンサーという男がT-ウイルスの性質を利用して人類を強制的に進化させて20万年続いた人類の歴史に終焉をもたらし、新人類とやらを誕生させ新たな人類による理想郷を創造という浅はかにも程があることの実現、挙句の果てには自身がその世界を作り上げた神として君臨するという狂気の思想を実現させようとした事が始まりだ!

 進化を求め続けたその末に老いには勝てず瀬戸際になって不老不死を求め、自らの野望の欠片である男に殺されるという無様!無様ッ!無様ァ!

 お前たちは死を克服できなかった知性体だ。にも関わらず、死への恐怖心を持ち続けた。スペンサーが求めたという新人類もどうであろうな?元が人である以上、死の恐怖には勝てぬことは明白だ。死を克服できないのであれば、死への恐怖は捨てるべきだったというのに。死を恐ろしいと、無残なものだと認識するのなら、その知性を捨てるべきだったのに!」

 

 

暴論とも言うべき言葉の羅列に、何も言えない面々。立香でさえ、黙ってしまった。理解できない筈がない。親しい誰かが死ぬことを傍観する恐怖に耐えかね、共に生き抜こうと考えている事に費やした人生だ。何も思わない筈がない。

 

 

「何度でも言おう。――――無様だ。あまりにも無様だ。それはお前たちも同様だ、カルデアのマスターよ。何故戦う。いずれ終わる命、もう終わった命と知って。何故まだ生き続けようと縋る。お前たちの未来には、何一つ救いがないと気付きながら。バイオハザードが永遠に続く絶望の未来に気付きながら、何故戦う?」

 

「…っ」

 

「あまりにも幼い人間よ。人類最期のマスター共、藤丸立香とオルガマリー・アニムスフィアよ。これは私からの唯一の忠告だ。お前たちはここで全てを放棄することが最も楽な生き方だと知るがいい。それともここで潔く死ぬか?手伝いならばしてやろう」

 

「ッ……」

 

 

帰り際に、右手をかざして再び焼却式ベレトを発動。マシュ達三人が守る、言葉を失い項垂れている立香に向けて突きつけるソロモン。嗤っていて「守ってみろ」とでも言っているようだった。マシュが盾を構えて前に立つ。この身燃え尽きようとも先輩だけは、という決意だった。モードレッドと弾切れのジルもクラレントとナイフを手に抵抗を試みた。と、そこに。

 

 

「…………死の恐怖を克服だ?それができないから、俺はまだ人間なんだよ」

 

「むっ…!?」

 

 

聞こえない筈の声と共に、ソロモンの右手首にワイヤーフックが巻き付いて無理矢理に軌道を変えてベレトはソロモンの頭上に直撃、崩れ落ちてきた岩盤を魔神柱が押しのけた。ソロモンの右側にある瓦礫の山から出て来たのは、フックショットを手にしたディーラーだった。

 

 

「最後の一回だ。大事に使いたかったが、俺の顧客に手を出させる訳にはいかなくてな?帰る直前だからって気を緩めすぎたなストレンジャー」

 

「ふん、無駄な抵抗だ。それにその女はここで潔く死んだ方がよかろう。いずれ生きていることを後悔することになる」

 

「お優しいことだな。だが余計なお世話ってもんだ。ジル・バレンタイン!弾切れか?こいつを使え!」

 

「させると思うか?」

 

 

フックショットでソロモンの右手を引っ張ったまま、リュックを下ろして投げ渡そうとするディーラー。しかしソロモンは魔神柱四体に狙わせて光線で攻撃、爆発させて妨害する。…しかし、リュックに意識を向かせることがディーラーの狙いだった。

 

 

「…今がチャンスだ。来いよ(ウェルカム)、ストレンジャー!」

 

「なん…だと…!?」

 

 

ディーラーの掛け声と共に、左肩に手がかけられ無理矢理振り返させられるソロモン。そこにいたのは、倒したはずの少女だった。

 

 

「…お前も家族だ(ファミリーパンチ)!」

 

「ッ、ぬおおおおおおおっ!?」

 

 

振るわれた、異形化した右手の拳を、何がそんなに怖いのか必死の形相で飛び退いて避けようとするソロモン。しかしディーラーのフックショットで動きが阻害され、少女の拳はその頬を掠め、完全に体勢が崩れた、そこに。

 

 

「レッドピラミッドシング、令呪を持って命ずる。その霊基の全力を持って、奴に当てなさい!」

 

「…ウオォオオオオオオオッ!」

 

 

気絶間近のオルガマリーの最後の令呪が発動し、三角頭のチェイサーが咆哮を上げて手にした槍を全力投擲、同時に三角頭のチェイサーは魔力切れで消滅。その槍は、ぎりぎりで気付いたソロモンが移動させた魔神柱の一体の目の一つから大穴を開けてぶち抜いた。

 

 

「生きていたのか、カビ如きがァ!」

 

「ッ!?」

 

「エヴリン!」

 

 

瞬時に焼却式ベレトを発動し、憎悪のままにすぐさまエヴリンに直撃させて燃やし尽くすソロモン。立香は力なく悲鳴を上げて、今までにない感情的な姿のソロモンは怒りを抑えると、忌々しいとばかりに立香を睨みつけながら姿を消していく。

 

 

「…すぐにでも神殿に戻らねばいけない理由が出来た。藤丸立香、貴様の救済はもうしようとも思わん。灰すら残らぬまで燃え尽きよ。それが、貴様らの未来である」

 

 

その言葉を最後に、ソロモンは第四特異点ロンドンから完全に姿を消した。残されたのは、二度も救えなかったことに絶望した少女とその側に付き添う盾の少女、力尽きて気を失った少女とそれを抱き上げたフードの男、向き場の無い怒りを抱えて立ち尽くす反逆の騎士、そして無力感に苛まれる銃を手にした女性だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ここまでだな。聖杯を回収したってのに、締まらない気分だぜ」

 

「…ごめん」

 

「馬鹿、お前が謝るなよ。情けないのはオレだけだ。…結局、似たもん同士だったエヴリンも救えなかった、お前と違って力もあるってのに、情けない話だ。でもまあ、ロンドンは救えたんだ。オレにしちゃあ上出来だ。…騎士王が三人もいたのに、オレが生き残っちまった。それは違うだろ、なあ?」

 

「そんなことない。モードレッドが一緒に戦ってくれて、頼もしかったよ」

 

 

聖杯を回収し、何とか地上に戻った一行。霧が晴れていくそこで、今にも消滅しそうなモードレッドが涙が枯れ果て、早くも立てるようになった立香と話す。その隣にはこちらも消えそうなジルと、オルガマリーを抱えたディーラーとマシュがいた。

 

 

「嬉しいことを言ってくれるぜ。無念なのはここで終わりってことだな。本音を言えばお前たちについて行きたいが…この通り限界だ。特異点がなくなってオレの寄る辺もなくなったんだろう。もともと聖杯の霧で喚ばれたんだ。今回は消えるしかない」

 

「ついて行きたいのは私も同じよ。バイオハザードに因縁づけられた旅路だなんて、放っておけないもの。だから私からは、同じバイオハザードを生き延びた人間としてこれだけ。…『死にたくないから生きる』でもなく『生きたいから生きる』でもなく『誰かの犠牲を無駄にしたくないから生きる』でもない、『絶望の中でも絶対に生きてやる!』その気概で、私は洋館事件を乗り越えたわ。貴方には、それが足りないんだと思う。誰かを生かすのも大事だけど、まずは自分が生き残らなければ何もできないわ」

 

「自分が、生き残る…?」

 

「だから、もう二度と後先考えずに誰かを庇って飛び出したりしたら駄目よ。そんな死にたがりじゃマシュの心臓が持たないわ」

 

「わ、わかりました…」

 

 

モードレッドに続いたジルの言葉に、慌てて頷く立香。彼女個人としては死ぬ気は無いのだが、そんなに死にたがりに見えただろうか?と首をかしげた。

 

 

「……・悔しいが奴の言う通りだよ。オレたちは喚ばれなければ闘えない。最後なんてオルガマリーの魔力を搾り取らなきゃ宝具を撃つことも出来なかった。…悪いことをしたな、目を覚ましたらよろしく言っといてくれ」

 

「これが英霊の、サーヴァントの限界ね。生前じゃまずロクに戦えもしなかったのだからそれは感謝すべきなんだろうけど」

 

「時代を築くのは何時だってその時代に、最先端の未来に生きている人間だ。オレたち英霊の影法師なんかじゃないってことだ」

 

「生きている、人間…私は、生きている。みんなを死なせて、こんな血塗れの死にかけだけど、それでもまだ、生きている。…そういうこと?」

 

 

自分の胸に手を当てて、そう問いかけるボロボロの立香に、モードレッドとジルは笑った。

 

 

「ああ、そうだ。オルガマリーだって、精一杯生き延びた。立派に生きている。だから。お前たちが辿り着くんだ立香。オレ達では辿り着けない場所へ、七つの聖杯を乗り越えて、時代の果てに乗り込んで」

 

魔術王(グランドキャスター)を名乗るあの男を追い詰めるのは、口惜しいけど貴方たちにしかできない仕事よ」

 

「…モードレッドさん。ジルさん」

 

「そんな顔しないで、マシュ。何時かまた会えるから」

 

「盾ヤロウは気に食わないが、お前は別だ。そうだ、ジルの言う通りまた会えるさ。そん時はまた手を貸すぜ。敵だったら遠慮なくやってくれ、そいつはオレじゃない馬鹿なオレだろうからな」

 

 

マシュにもそう声をかけるジルとモードレッド。消滅までもう秒読みだ。

 

 

「じゃあな、立香。オルガマリー。マシュ、そしてディーラー。こんなオレにだってロンドンぐらい救えたんだ。ならお前たちはちょいとばかり張り切って、せいぜい世界を救ってみせろ」

 

「多分だけど、世界を救って人理を取り戻せば、きっと彼女に…エヴリンにまた会えるわ。それは絶望になるかもしれない。でも、希望を持つのはいいことだと思う。私たちの代わりに、このバイオハザードを終わらせて。…ごめんね?」

 

「……・全サーヴァントの反応、消失しました。先輩。これでこの時代の作戦(オーダー)は完了です」

 

 

その言葉を最後に消滅、姿を消した二人を見届け、マシュは報告する。立香は涙のあとを拭い、リュックの代わりに背負ったオルガマリーを担ぎ直しているディーラーに向き直った。

 

 

「…生きていて、よかった」

 

「マスターならコンティニュー回数ぐらい覚えておいてほしいな、なんてのはきつく言いすぎか。アンタこそ、生きててよかったよストレンジャー」

 

「でも、エヴリンが…」

 

「…アンタは聞いてなかったかもしれないけどな。アイツも確かにアンタに救われていたはずだ。エヴリンが繋げてくれたその命を無駄にするな。そいつは金じゃ買えない財産って奴だからな」

 

「…うん、分かった。マシュも…心配かけて、ごめんね?」

 

「いいえ、色々ありましたから。私は気にしていません。さあ、帰還しましょう」

 

 

マシュがそう言った瞬間、立香の端末から映像が飛び出しそこにダ・ヴィンチちゃんが顔を見せた。ようやく通信と映像が繋がったようだ。

 

 

《アー、テステス。よし、やっと映像が繋がった。立香ちゃん、オルガ、マシュ。三人とも無事ー?よかった、無事だね。ディーラーも生き残ったか。観測数値にも異常はなし。魔霧もただの霧に戻っているし、もうその時代に用はない。早速レイシフトを行うよ》

 

「ちょっと待てダ・ヴィンチ。所長がまだ目を覚まさない、少し待って…」

 

「…今、起きたわ」

 

 

レイシフトを行おうとするダ・ヴィンチちゃんを制止したディーラーの背中で目を覚ましたオルガマリー。魔力枯渇でまだ立つことも出来ないが、レイシフトぐらいなら耐えられそうだった。

 

 

《よしこれで問題ないね。四人とも、やり残したことはない?ないね?》

 

「…ジキルさんに一言言いたかったけど、そんな元気も、ないかな…」

 

《よし。ではレイシフト、開始!任務達成!お疲れ様ー!》

 

 

そして。立香たちもカルデアへ帰還するのだった。

 

 

 

 

しかし、彼女たちは知らない。この戦いで立香になにが起きたのか。それが何を意味するのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ママーーー?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・こっちだよ

 

 

夜明けが来ても、悪夢は終わらない。




ソロモンに撤退させるという原作でもできない大快挙を成し遂げた決戦でした。ただその犠牲も相当のもので…また、今回だけでロンドン編でちりばめた数多くの謎を回収させていただきました。


・オマエノシワザダタノカ
ジェームスボイスで思わず▲様が漏らした言葉。元ネタはサイレントヒル2犬エンドの、おそらく一番有名なネタ。片言日本語のこのセリフはある意味必見?

・▲様とオルガマリーの関係
▲様の姿はジェイムス・サンダーランドの心の中のジェイムスだということから、「贖罪する決意」を持ったマスターの心の中のもう一人のマスターとしての姿を取った▲様。
 そもそもロンドンに▲様が召喚されたのはオルガマリーがレイシフトしてきた時間と同時であり、立香と逸れたのもそれが理由。ソロモンは完全に偶然であり、彼が召喚された本当の理由はオルガマリーの自罰意識。
 元々、人命の責任を背負えるほど心が強くないのに責任感は強くて、冬木であのまま消滅することで贖罪しようとしていたのに生き延びてしまい、生前の望みである「認めて欲しい」は叶えてもらったけど、カルデア職員たちを死なせてしまった彼女を誰ひとり咎めなかったため膨れ上がってしまった自罰意識を、マスターになったことをいいことに現実逃避していた彼女。
 オケアノスでは自分はマスターにふさわしくないから理由を付けて、いつか自分は指揮官としての立場に戻って立香に後を託そうとしていたものの、自分の不甲斐無さからカルデア職員だけでなくオリオンたちサーヴァントまで犠牲にしてしまい、さらにオケアノスの道中で知ってしまった自分と同じように不安定な立香を残して逃げる訳にはいかなくなってしまった。さらにはオケアノスから帰還後、清姫によるネロの炎上事件でまた自分のせいだと責めてしまい、そんな精神状態でロンドンに召喚されたために無自覚にオルガマリーを標的として▲様は召喚された次第。

・アルターエゴのエヴリン
今まで明かされなかったクラスの正体。憎悪に満たされているオリジナルのエヴリンとは違う、いわば「純粋」な側面のエヴリン。自分を命がけで守ってくれた立香を「母親」と定め、全力で守るために「家族」を呼び出してソロモンに立ち向かった。立香に何かした模様。
 正確には「エヴリン・オルタ」であり、魔神沖田総司オルタと似たような存在。「愛してもらうことにした」方が本来のアヴェンジャーで召喚されるエヴリンで「愛してほしい」のがアルターエゴ。こちらは2014年時の幼女が全盛期で本来の姿。
 同類が誰一人いない、究極的に孤独な少女のIFともいえる存在。過去のミアやらの扱いから、一度も人間として接してもらえず兵器としてしか扱われなかったため、逃げ出した時に愛してもらうことを諦めたのだと自己解釈した結果生まれたサーヴァント。
 能力や有している家族はオリジナルのアヴェンジャー準拠だが、決して「殺人」はしないエヴリンである。なお、記憶もオリジナル準拠なのでイーサンへの憎悪はあるが、それが発現する場合は二重人格みたいな状態になっていてオリジナルの人格が垣間見える。
 ちなみに、2014年準拠でありながら2017年に没した英霊の別側面なために2017年の記憶を有して召喚された真実。

・エヴリンの呼び出したモールデッドたち
死体を媒介にしたモールデッド、自らのカビで形成したモールデッドなど複数いるが、ブレードなどの特殊なモールデッドは全部「バイオハザード7」にて判明している犠牲者たち。自分が死んだ後に生まれたルーカス変異体やスワンプマンも召喚できる。

・いい台詞だ。感動的だな、だが無意味だ。
ニーサン

・緑+赤+青ハーブ
バイオハザードRE2にて初登場した初の組み合わせ効果。あらかじめ煎じておくことで体力全回復の他、一定時間耐毒作用と防御力をアップすることができる。おそらく歴代でも最強の三色ハーブ。

・マスターを持った▲様
「贖罪する決意」を持っているとマスターの姿を取り、それを持たないマスターの場合ではいつもの姿を取る特殊なサーヴァント(カルデアの召喚では立香がマスターだったためあの姿だった)。
 また、野良サーヴァント状態では「ジェイムス・サンダーランド」をマスターとしており、どこからか魔力供給を行い標的の殺人の罪の数だけ分身することが出来るが、マスターがいる場合その分身出来る数はマスターの魔力量に依存する。
 元々28人で召喚されるディーラーと違い、一体ずつサーヴァントと同等の物が増えていくため燃費が悪い。魔術師としては優秀なオルガマリーでも、連戦のあとだと100体を超えた辺りが限度。さらにモードレッドとジルにまで魔力を回したためあっという間に枯渇してしまった。さらに、「贖罪させる」が目的になるためマスターの安否が一番大事であり顧みて行動不能になってしまうピーキーなサーヴァント。ちなみに最後のは消滅ではなく、霊体化しただけだったりするが特異点消失と共に消滅している。

・オルガマリー▲様
唸り声が米澤円ボイスに変わり、少女の肉体を得た▲様。爆発を浴びた様な袖が取れたボロボロの服装なのはオルガマリーの罪の形の具象。肌が白く裸足なのは「死人」であることを表している。怪力と体重はそのままではあるが体格が小さくなっており、鉈を振り回すも少し持って行かれているため槍の方が使いやすい模様。再びオルガマリーに召喚されるとこの姿で喚ばれる。

・魔力を全部請け持つオルガマリー
立香がダウンし、▲様・モードレッド・ジルの真名解放と、ディーラーの真名解放の一部の魔力を供給するという無茶をした人。一度死んだから上限が変わったのかわりと持ったが、▲様の100体以上の召喚はさすがに堪えた模様で、最後には気絶していた。

・四体の魔神柱を捩って回転させるソロモン
オリジナル攻撃。一見異様な光景だが攻防共に行い威力は絶大。

・マグナムとナイフで立ち向かう立香
姿が見えなくなったエヴリンが死んだとソロモン共に誤認し、怒りのままに猪突猛進した立香。魔神柱にナイフを突き刺すまではできたが、胸部に投げ返されてさらに重症に。それでもラストには全快近く回復しており……?

・決死の宝具発動するディーラー
オケアノスでの自爆攻撃でソロモンを撤退させることを目論んだものの通常火薬だったことが災いし失敗。そのまま消滅したと思われた。この時点でストックは11であり、真名解放に10人分を使用した。敵を騙すならまずは味方からと言わんばかりに、一人分残っていたため霊体化したままチャンスを待っていた。彼曰く、「死の恐怖を克服できないからまだ人間」だとのこと。
ちなみにソロモンの台詞は某ボドボドの人の名台詞から。

・バイオハザードの元凶
オズウェル・E・スペンサー。ジェームス・マーカスを裏切った張本人でもあるアンブレラ総帥にして老害爺。死に間際に二人の「ウェスカー」に希望を託したものの片方に裏切られて死亡という皮肉な末路をたどった。その行いと末路は、さらに皮肉にもソロモンの言い分と一致していた。

・不意打ちエヴリン
一度吹き飛ばされた際に、ソロモンの標的が自分である以上正攻法ではきついと考え爆発に紛れて霊体化して気を窺っていた。ディーラーはそれに気づき、囮役を買って出て「お前も家族だ」をソロモンに当てることに成功するも…

・モードレッドとジル
立香に必要な言葉をそれぞれ述べた、今回の生き残りにしてガイド役。『絶望の中でも絶対に生きてやる!』云々は以前もらった感想から。立香にその言葉は響くのか。


これにて第四章「第四特異点:死界魔霧感染都市ロンドンシティ」は終了となります。ここまで一年以上もお付き合いいただきありがとうございました。今章は立香とオルガマリーにとっての転換点として濃く細かく描かせていただきました。そしたら構成していた当初からは思いがけずとんでもない時間をかけることに。一応、全部予定通りですがぐだぐだ感が否めません。これからは心機一転、もう少し早く更新できるように頑張ります。
次回、物語はオケアノスの「日記」の場面へ。第五章「第五特異点:北米神話宿命大戦イ・プルーリバス・ウナム・ウロボロス」が始まります。マジニ、つまりプラーガの脅威再来。そしてアメリカを舞台にウロボロス計画再起動、三大英雄が揃い踏み。…と、その前に少しだけ小休止。色々まとめます。

次回もお楽しみに!よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。

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