Fate/Grand Order【The arms dealer】   作:放仮ごdz

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ウェルカム!ストレンジャー…どうも、次回で終わりとか言ったのに、長くなりすぎて分割してしまった放仮ごです。
結局去年中に終わらないどころか正月にも間に合いませんでした。正月に書き終えなかったのはちゃんと理由があって、某店員の実況者の新春生放送祭りのベロニカ実況とバイオ4実況を三日連続で徹夜で観ていたせいです。まことに申し訳ない。

今回はついにソロモン戦。真の敵は原作の台詞量だった…これでも減らして要所だけ入れたんですが、それでも5000字を優に超えるとか思わんかった。意識が朦朧としている立香視点ですが、楽しんでいただけると幸いです。

【ディーラーのコンティニュー回数、計7回。残り21】


黒幕登場だストレンジャー

 それは、勝負とすら呼べるものでもなかった。一言で言えば、蹂躙だろう。この魔窟を共に生き延びてきたみんなが、四柱の魔神達を従える魔術王の規格外の強さになすすべもなく倒されていく。

 

 

「良いぞ良いぞ! ……そうでなくてはなァ?」

 

 

女王ヒルとの戦いでの攻勢から考えられないぐらい一転、這いつくばる私たちの無様な抵抗を見て楽しんでいる人理焼却の黒幕である男。所長が、マシュが、みんなが戦っているのに。私はただ這いつくばって見ることしかできない。でもきっとこれは自業自得なんだ。結局エヴリンを救えなかった私への罰なんだ。もっと私は苦しむしかないんだ。ねえ、だから。

 

 

「…生憎だがなストレンジャー(よそ者野郎)。俺はマスターに似て諦めが悪いんだ。調子に乗って姿を見せた王様よ、一矢報いられるぐらいは考えて置いた方がよかったんじゃないか?此処が我ら武器商人の射撃場(ウェルカム!ストレンジャー)…!」

 

 

私のことなんか放って、所長とマシュを連れて逃げてよ、ディーラー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先輩!」

 

「ストレンジャー!」

 

 

腹部を突き抜けた感覚と共に力を失った体が崩れ落ち、一瞬意識が暗転した私に駆け寄ろうとするディーラー達に、有無を言わさず襲い掛かる魔神柱の光景が朦朧とする視界に映り目が覚める。気を失っている場合じゃ、ない。

 

 

「くっ…!?」

 

「魔神柱だと!?」

 

 

マシュ達が咄嗟に弾き飛ばし、ディーラーが反撃。エヴリンに放たれた攻撃は偶然防がれたけど、間違いなく敵対している何者かはエヴリンを狙っていた。私よりも、エヴリンを・・・そう、言いたいのに。それさえ口に出す余力もなかった。

 

 

『クソッ、なんでこの反応に気付かなかった・・・!?女王ヒルの強大過ぎる魔力反応のせいで索敵が遅れた!地下空間の一部が歪んで出現した、サーヴァントの召喚とも異なる不明な現象だ!いや、不明じゃない・・・これはむしろレイシフトに似ている・・・』

 

「そんなはずはないわ!カルデア以外にレイシフトの技術なんて・・・!」

 

『ああクソ、シバが安定しない、音声しか拾えない!どうした、何が起きたんだ!?』

 

「先輩が、先輩がエヴリンさんを庇って…魔神柱に襲われました!敵は…」

 

「ふん、無駄な事をしたものだ」

 

 

そう言いながらゆっくりと歩み寄り姿を現した男に、向き直る所長とマシュに、安堵を覚える。ああ、やっぱり。私なんかじゃ、駄目だったんだ。

 

 

「魔元帥ジル・ド・レェ。帝国真祖ロムルス。英雄間者イアソン。そして神域碩学ニコラ・テスラ。多少は使えるかと思ったが―――小間使いすらできぬとは興醒めだ。下らない。実に下らない。やはり人間は時代(トキ)を重ねるごとに劣化する。人類史最後の悪意、バイオハザードもまた然り。完全に消し去る事もできぬとは、何と生き汚い事か」

 

 

つまらなげに吐き捨てられた言葉に、私を守る様に立ち魔神柱を弾き飛ばしたマシュがキッと睨みつけた。駄目だ、これじゃあの時の繰り返しだ。

 

 

「おかあさんをよくも!」

 

「仮初とはいえ我がマスターを襲うとはな。生きて帰られると思うな!」

 

「散れ!」

 

「ふん、力の差も分からんか」

 

 

私がやられ、エヴリンも殺されかけたためか冷静さを失って飛びかかるジャック、ランサーオルタ、セイバーオルタだったがしかし。魔神柱の光線が放たれていとも容易く薙ぎ払われ、今度は連撃で迫った魔神柱によってマシュの盾が弾かれ、防御を掻い潜ったそれは、空から来襲した雷撃で蹴散らされた。

 

 

「あん?更なるピンチかと駆けつけてみれば、蛭の怪物じゃなくて悪の親玉っぽい奴がいるじゃねえか。・・・それも、かなりヤクい。まっとうな娘っ子が直視していいモンじゃねえ」

 

「はあ、はあ・・・もうっ、お待ちください金時さん。壁を伝って降りるだけとはいえ、少々速いんじゃ・・・ってマスターさん!?それになんですアレ?一尾の身では見るだけで穢されそうです」

 

 

やってきたのは金時さんと玉藻さん。二人は私の状況を見るなり、男を警戒しながら駆け寄って来て、玉藻さんは慌てて御札を手にこちらの手当てをしようと試みているが、多分駄目だと思う。この傷は物理的なものでありながら呪いの様な何かだ。それも、あのメディアさん…のリリィが魔術師では勝てないと評したあの男の…おそらくは、人理焼却の黒幕の呪いだ。本能的に、もう駄目だと分かってしまう。玉藻さんはそれを察したのか、心配げに見つめるマシュに対して首を横に振った。

一方で、男は退屈げにこちらの様子を眺め、先程オルタたちと一緒に飛び出さないで、所長たちと共に冷静に観察していたモードレッドが剣を突き付けた。

 

 

「立香を襲ったのはテメエだな。オイなんだこのふざけた魔力は。父上たちの…竜種の心臓どころの話じゃねえ。何者だ!」

 

「悪魔か天使の領域ですな。キャスターの端くれとしてわかってしまう、無尽蔵ともいえるこの魔力量。存在するだけで領域を押し潰す支配力…そろそろ我々はお暇した方がよさそうかと、我が友アンデルセン!」

 

「貴様はどうしてそう大袈裟なんだ。…まあ、逃げの一手には賛成だが。まさか本命がこの段階でやってくるとはな」

 

『なんだって?まさか!?』

 

「…あなたが、レフの言っていた人理焼却の黒幕。ソロモン王ね」

 

「その通りだ。恐れ知らずにも我が名を口にする愚かな女よ。聞きたいなら教えてやろう。我は貴様らが目指す到達点。七十二柱の魔神を従え、玉座より人類を滅ぼすもの。――――名をソロモン。数多無象の英霊ども、その頂点に立つ七つの冠位の一角と知れ」

 

 

所長に名を呼ばれ、肯定した男。紀元前十世紀に存在した古代イスラエルの魔術王、ソロモン。人理焼却の実行者と思われる、レフやジルドレェ、メディアリリィにウェスカーを裏から操っていた魔術師の頂点。ドクターは絶対にありえないと言っていたけど、本当だった。

 

 

「ハッ。そいつはまたビッグネームじゃねえか。だがどうせサーヴァントだろう?オレ達の敵じゃねえ!」

 

「それは違うなロンディニウムの騎士よ。私は死後、自らの力で蘇り英霊に昇華した。英霊でありながら生者である。故に、私の上に立つマスターなど存在しない。私は私の意思でこの事業を開始した。自業自得の生物災害(バイオハザード)を始めとした愚かな歴史を続ける塵芥…この宇宙で唯一にして最大の無駄であるお前たち人類を一掃する為に。」

 

「自業自得…偉大な過去の王に言われると否定もし辛いわ。元はといえば私たちの元上司が原因だもの」

 

「…ジルの言う通り、バイオハザードに関しては否定しないわ。藤丸の様な被害者だっている。でも、そんなことができるとでも…一個人で、世界を滅ぼせるものですか!」

 

「できるとも。私にはその手段があり、その意思があり、その事実がある。既にお前たちの時代は、時間を超える我が七十二柱の魔神によって滅び去った。魔神どもはこの星の自転を止める楔である。天に渦巻く光帯こそ、我が宝具の姿である。」

 

「…今までの特異点にもあった、アレが宝具…!?」

 

「そうだ。あれこそは我が第三宝具『誕生の時きたれり、某は全てを修めるもの(アルス・アルマデル・サロモニス)』。そこに三人もいる騎士王…貴様らの持つ聖剣を幾億も重ねた規模の光。即ち…対人理宝具である」

 

「ち、父上の聖剣の何億倍————」

 

「そんな代物で時代を焼き払うというのですか!」

 

「断じてさせん…!」

 

「今ここに顔を出したこと、後悔させてやろう!」

 

 

モードレッドとアルトリア三人が激高し、飛びかかるがしかし。ソロモンに触れることは誰一人敵わず、ソロモンの背後に四体も姿を現した魔神柱の光線で一掃されてしまった。所長や私にもついでとばかりに放たれるが、清姫の槍とネロの剣、マシュの盾がしのぎ切る。防御に専念しないと、やられる…!

 

 

「――――さて。その光景を見ることのない貴様らに答える気はないな。そうだ、我が魔神柱を粗悪品だとのたまった愚かな男がいたな。この光景を見て同じことを言えるなら褒めてやろう。今回は特別だ…私の気を留めるその盾を持つ娘。貴様の健気さに免じて、使うのは四本程度に留めてやるよ」

 

 

その言葉に応える様に、シカゴタイプライターの特徴的な射撃音とともに弾幕が炸裂。しかし瞬時に再生し、魔神柱とソロモンには傷一つ無い。私の側から姿を現したディーラーは舌打ちし溜め息を吐いた。

 

 

「…ちっ。きちんと扱える野郎がいれば商品価値も跳ね上がる。レフやマキリどころかメディアリリィのB.O・W.な魔神柱さえマシだったと思えるさ。その武器(魔神柱)はヤバい」

 

「そうだろうとも。貴様らがここに立つことさえ間違いだったのだ」

 

「それでも、ここで負ける訳にはいかない…!」

 

「助けを乞え!怯声を上げろ!苦悶の海で溺れるときだ!ハッハァッハハハハハ!」

 

 

圧倒的な力の差故か。それともマスターの私が不甲斐なく倒れているからか。いつもの余裕はどこに行ったのか、弱音をこぼすディーラーと、魔術でサーヴァントたちを治癒して、挑みかかる所長。

 

マシュ、セイバーオルタ、アンリマユ、アルトリア、ランサー清姫、ネロ。モードレッド、ランサーオルタ、ジル・バレンタイン、ジャック・ザ・リッパー、坂田金時、玉藻の前。そしてエヴリンの召喚したモールデッド軍団。

 

私の側にいるディーラー、エヴリン、アンデルセンとシェイクスピアを除いたこの面子。連戦とはいえこの面子なら大抵のサーヴァントになら圧勝できるだろう。だが、素人目でも分かる。勝てない、この程度の数では奴には勝てない。

 

 

 

 

 

 

 

「フフハハハ!小手調べだ。楽には死ぬなよ?」

 

 

明らかに見下し、手を抜いているとしか思えないのに、爆撃とも思える光線に皆が薙ぎ払われる。マシュの盾や玉藻さんの結界も物ともせず、ネロとアンリマユ、金時と玉藻が消えていく。

 

 

「エヴリン、おかあさん!…させない!」

 

「ジャック!?」

 

 

ジャックも持ち前の敏捷で避けていたが、みんなを掻い潜って私とエヴリンを狙う光線に気付いて前に飛び出し、庇って受けて消滅してしまった。モールデッドを操っていたエヴリンは動揺して止まってしまい、その隙を付いてモールデッドをまとめて薙ぎ払う魔神柱。…あいつ、何時からかは知らないけど私たちの事を見ていたんだ。なにが弱点なのかまで、知り尽くしている。駄目だ、所長やマシュもこのままじゃ…。

 

 

「…っ、みんな…!」

 

「クソッ、動くなストレンジャー!傷が広がるぞ!」

 

「ディーラー…私の手当てはいいから、すぐにでも退却して…」

 

「ふざけるなストレンジャー!俺は外科医じゃないがな、こいつはどう見ても重症だ。応急処置しないと五分も持たないぞ!」

 

「…ッ」

 

 

這ってでも向かおうとするが、止血帯を手に私の治療をしようとするディーラーに止められてしまう。エヴリンも動こうとしない。するとずっと側で黙っていたアンデルセンが口を開いた。

 

 

「…おい、藤丸立香。俺もその内あっさり消滅するだろうから先にお前に俺が見つけた答えを渡して置くぞ」

 

 

ジキルの家ででも拝借していたのか、取り出した手帳につらつらと綺麗な字で書き殴って破り、手渡してくるアンデルセン。その言葉に私が文句を言おうとすると、シェイクスピアも満面の笑みで口を開いた。

 

 

「立香殿。我輩からも一言言わせてもらいたい。『どんなに長い夜も、必ず明ける(The night is long that never finds the day.)』この言葉を胸に、後は頼みますぞ」

 

「それって、どういう…」

 

 

その意味を問いただす前に、私たちをあざ笑うかのごとくそれは発動した。

 

 

 

 

 

 

 

「ハハハハハハハハハハァ!祭壇を照らす篝火だ!盛大に燃えるがいい!焼却式 ベレト!」

 

 

猛攻に耐えしのいだ所長たちへと、ポンと出されたのは小さな種火。次の瞬間には種火が膨れ上がり、焼き尽くさんとする業火が放たれる。

 

 

「ますたぁ……ああ……どうかご無事で……」

 

「こんな……ところで……すまない、マスター……!」

 

「うっ……ぐっ!…ここまでか」

 

「くっ…私を……倒すか……」

 

「タンマ! せめて結末を書かせて…おくれ…」

 

 

所長と私たちを庇って直撃を受けたランサー清姫とアルトリアとセイバーオルタとランサーオルタが、巻き添えでシェイクスピアが吹き飛ばされ、消滅していく。

 

 

「ふざけているな、一度防いだだけでこれか。やはりキャスターでは貴様に歯向かえないか。そう気にするな、ただの気まぐれだ。なに、見学に徹しようと思っていたがどうせやられるならと、な」

 

 

そして私を守ろうとしたアンデルセンもまた消えていき、残ったのは耐えしのいだマシュとその側に絶望の表情で立ち尽くす所長、そして持ち前の直感からか離れて退避していたモードレッドとジルだけだった。ディーラーとエヴリンも残っているが、勝ち目なんて見えなかった。

 

 

「そら見た事か。ただの英霊が私と同じ地平に立てば、必然、このような結果になる」

 

「ロマニ、レイシフトを。このままじゃ全滅よ。早く、お願い…」

 

『それが無理なんだ!そいつの力場でレイシフトのアンカーが届かない!ソロモンがいる限り、君達を引き戻すのは不可能だ…!』

 

「くっ…こうなったら、所長と先輩だけでも…!」

 

「野郎、でかい口を…だが、ただのハッタリじゃねえ。父上たちが太刀打ちもできなかった」

 

「私の様な新参者じゃ当り前だけど、英霊としての格というより出力そのものが違う…BOWでもない、ただの魔術師のはずなのにどうなってるの…?」

 

「貴様らの言った通りだ。英霊としてのではなく、霊基(クラス)の格が違うのだ。アレを生き延びた褒美だ、教えてやろう。英霊召喚とは人類存続を守る者、抑止力の召喚だ。ある害悪を滅ぼすために遣わされる七騎の英霊。人理を護る、その時代最高の七騎。英霊の頂点に立つ始まりの七つ。もともと降霊儀式・英霊召喚とは、霊長の世を救う為の決戦魔術だった。それを人間の都合で格落ちさせたものがお前たちの使う召喚システム、聖杯戦争である」

 

「オレ達が…格落ちだと!?」

 

「そう言っている。貴様ら凡百の英霊とは器、権限が違うのだ。即ち、冠位(グランド)の器を持つサーヴァント」

 

冠位(グランド)…!?根源に選ばれた英霊だとでも言うの…!?」

 

「そうだ、そして我こそは王の中の王、キャスターの中のキャスター! 故にこう讃えるがよい!―――グランドキャスター、魔術王ソロモンと!」

 

 

グランドキャスター…キャスターの中でも上位だと思われるメディアさんでも勝てないはずだ。この男の言うことが真実なら、キャスターというクラスの頂点の一人だという事なのだから。止血帯を巻かれる前に血がだいぶ抜けたからか、冷静に状況判断できるようになってきた。もう駄目かもしれない。所長とマシュだけでも、カルデアに戻さないと。でも、どうすれば…

 

 

 

「さて、王殺しの英霊モードレッド。バイオハザード解決の立役者ジル・バレンタイン。そして名も無い商人よ。我が焼却式から逃れた貴様達は特に、念入りに燃やすとしようか。凡百のサーヴァントよ。所詮、貴様等は生者に喚ばれなければ何もできぬ道具。私のように真の自由性は持ち得ていない。どう足掻こうと及ばない壁を理解したか?」

 

「どう足掻こうと及ばないなんて、どうして分かるのかしら」

 

「はっ、そうだなジル。ここまで四つも聖杯を奪われた奴が、何を偉そうに。もう半分もオルガマリーと立香にやられたから慌てて出て来たんだろうが。負け惜しみにしちゃあみっともないぜ?」

 

「―――人類最高峰の馬鹿か、貴様?四つもだと? 違うな。すべてを踏破してようやく、なのだ。一つも六つも私には取るに足りぬ些事である。死にぞこないのオルガマリー・アニムスフィア、そしてそこに倒れている今にも死にそうな藤丸立香なる者が脅威などと、程遠い話だよ」

 

「言ってくれる…!」

 

 

立ち尽くし震えていても必死に取り繕う所長と、うつ伏せで倒れている私に退屈気な視線を送るソロモン。なんだ、このプレッシャーは。殺気?…私に?………・・・…いや、違う。奴が狙っているのは私の側にいる…

 

 

「だがその前に、だ。……エヴリンといったか」

 

「っ!?」

 

「目障りだ。貴様はここで、消えろ」

 

「マシュ!守って!」

 

「はい、先輩…!」

 

 

無防備だったエヴリンに向けて放たれた光線を、私の声で反応したマシュが防いだ。…それだけは、させるものか!

 

 

「…またか。藤丸立香。貴様は何故、そうまでしてその小娘を守る?」

 

「B.O.W.だからって、見捨てていい理由にはならない。私は、助けたいからエヴリンを助けたんだ!」

 

「そんな死にかけの身体になってもか。…理解も出来んな。だが、どうせ最後には消えるだろうがそいつは見逃せない」

 

『…やはりそうか。それを聞いて確信したぞ、エヴリン…彼女は、2015年現在。いるはずもないサーヴァント、B.O.W.なのか!データが無いのも当たり前だ、もし存在していたとしても表には出ていないから。表に出てきてないB.O.W.でも反英雄とされているなら召喚されてもおかしくない。だが彼女は、焼却された2015年以降(・・)の記憶を有して召喚されたサーヴァント。居られたら困るんだろ、魔術王!』

 

 

声だけのドクターにそう言われたソロモンが、初めて苦虫を噛み潰した様な表情を作った。どうやら図星らしい。つまりそうか、エヴリンの存在が、私たちが未来を取り戻す可能性を提示しているんだ。それは是が非でも、消したいはずだ。

 

 

「…この殺意はそれか。どうやらB.O.W.は奴にとっては嫌悪の対象らしいな。ジル・バレンタインに対してだけは言い方が優しいのはそれが理由か。バイオハザード解決の立役者…その事実はよほど好感だと見て取れる。そんなに怖いか?こんな小娘一人が起こすバイオハザードが」

 

「ハンっ、やっぱり大口叩いてんじゃねえか!そんな小さな可能性すら潰したいのか!どれだけ動揺したんだ?この餓鬼がこのロンドンに現れた時はよお!」

 

「黙れ。貴様らカルデアと違って影響の大きすぎる不確定要素の芽はさっさと潰すに限るという事だ。…その小娘は、目障りだ」

 

 

エヴリン一人を殺す為だけに殺気を溢れさせるソロモンの姿に、変な矛盾を感じる。なんだろうか、これは。…人類を滅ぼしながら、なんでバイオハザードなんて嫌悪しているんだ?

 

 

「させません…もう、これ以上誰一人やらせません!」

 

「いくらB.O.W.でも、無垢な子供を目の前で殺させはしないわ!」

 

「行くぞ、ハッタリ野郎!」

 

 

私と所長、エヴリンを置き去りにしてソロモンに飛びかかって行くマシュ、ジルさん、モードレッド。しかしソロモンは戯れてやるとばかりに光線をデタラメに連射し、その余波だけで三人は近づくこともできない。モードレッドの魔力放出による雷撃やジルさんのマグナムが火を噴くけど、魔力障壁に弾かれる。時々エヴリンを狙ってくる光線はマシュが防いでくれるが、このままじゃジリ貧だ。

 

 

「どうすれば…倒された分の英霊を補完してまたカルデアから召喚する?いや、残るはどちらもキャスター、勝ち目なんてない。サーヴァントもいない私に何が出来るってのよ…」

 

 

所長を見れば、青ざめた頭を抱えて完全にトリップしてしまっている。エヴリンを見れば、ジャックを失った喪失感からか私の傷を見ながら呆けてしまっている。ディーラーは私の治療が無駄だと悟ったのか、無言でシカゴタイプライターを手に取り三人の援護を始めた。…駄目だ、私が何かを考えないと。このままじゃ全滅だ、人理を救うことなく、こんな場所で終わってしまう。なにか、なにか…!

 

 

「…そうだ、私にできるのは立ち続ける事だけだ」

 

「ストレンジャー?」

 

 

力を振り絞って、立ち上がる。今、ソロモンは私を無力な雑魚としか思っていないはずだ。それが勝機だ。この死に体で特攻するしか、もう私にできることはない。やるしか、ないんだ…!

 

 

「…ママ」

 

「え?」

 

 

ぼそっと声をかけられ、肩に手をかけられる。ありえない言葉を言わないであろう子の声で言われ、振り向いたそこには。

 

 

「————お前も家族だ」

 

 

泣きはらした顔で笑みを浮かべ、右拳を握って構えたエヴリンがそこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、断罪の化身もまた、新鮮な赤い血に塗れた鉈を引きずりその場に訪れようとしていた。




人理焼却の黒幕ソロモン。やっと邂逅できました。既にオケアノスで名前まで呼ばれていて脅威度をそんなに見せてませんでしたが、原作以上に味方サーヴァントを増やして絶望を増させました。オルガマリーは完全に心が折れてます。


・腹に穴が開いているのに馬鹿みたいに冷静に状況を判断している立香
この時点で異常です。脳内麻薬がドバドバ出ているだけではないです。止血帯を巻かれて懸命に治療されているとはいえしぶとすぎるその理由とは————

・最初の独白
相変わらずの後悔しまくり立香。時系列は次回に当たりますが、状況を分かりやすくするために抜粋して切り取ってきたものです。ディーラーの宝具発動、この時点でストックは残り21。あまり死んで無かったという事実。

・バイオハザードを嫌悪するソロモン
バイオハザードを人類史最後の悪意とまで称して毛嫌いしているソロモン。終局まで行ってるマスターら理由はお察しなんじゃなかろうか。なお、魔神柱を粗悪品と評したディーラーへの嫌悪もMAX。ジルたちバイオハザードを解決した者には少しだけ敬意を払う。

・原作より早く倒されたアンデルセン
原作だとソロモンの手で酷い殺され方をしているアンデルセン。推理は立香に託し、焼却式ベレトから立香を守って消滅。推理タイムを削るために退場していただきました。オルガマリーではなく立香に託した時点で何かを確信していた模様。

・次々と倒されていくサーヴァントたち
ネロとアンリマユは既に限界が来ていたので即刻リタイア。金時玉藻も即死。ジャックは立香とエヴリンを庇って、ランサー清姫・アルトリア・セイバーオルタ・ランサーオルタ・シェイクスピア・アンデルセンも焼却式ベレトを前に敗北。残るはマシュ、ディーラー、モードレッド、ジル、エヴリン、そして…?

・どんなに長い夜も、必ず明ける
シェイクスピアの残した言葉。バイオシリーズではおなじみの言葉ではなかろうか。

・エヴリンというサーヴァント
ソロモンが危惧したその正体は、2015年以降の記憶を有して召喚されたありえないサーヴァント。終わった歴史の先から来た存在がロンドンに召喚された時、わざわざ立ち上がっていたのはこのためです。それでもまだついで扱いで、目障りなハエを叩き潰すのと同じ。

・立ち上がった立香、そして…
特攻という最後の手段のために力を振り絞った立香と、ファミパンを発動しているエヴリン、最後の最後でゾンビを倒しながらでやっと追いついた、多分もう忘れられているであろう断罪の化身。これで役者は揃いました。


今度こそ、ロンドン編最終回となる次回は一週間の間に必ずや仕上げます。この先の展開を書くためだけにロンドンをぐだぐだ書いてたと言っても過言じゃない。結末しか考えてないとこんな弊害があるので皆さんも気を付けてください。行き当たりばったり駄目、絶対。
次回もお楽しみに!よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。

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