Fate/Grand Order【The arms dealer】   作:放仮ごdz

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ウェルカム!ストレンジャー…どうも、ガチャで何も当たらずモチベも上がらず、ちょっとスランプに入っていた放仮ごです。前回から約二ヶ月・・・本当にお待たせしました!

 あるところまで書き上げたらやっとロンドンの終わりが見えて来てテンションが上がる上がる。UAも144000を超えてありがとうございます!

VS暴走女王ヒル。あのサーヴァントが参戦、今章の大ボスも登場。楽しんでいただけると幸いです。


お前の自業自得だストレンジャー

 数刻前。列車に乗り大空洞に向かう道中、客車に座った立香はロマンから知らされた「ある事」について考えていた。

 

 

「うーん・・・ヒルは炎が弱点らしいからクー・フーリンかメディアさんでもいいと思うけど・・・」

 

 

ジルが走り書きした、知る限りのジェームス・マーカス及び女王ヒルの情報と睨めっこしながら考える立香。ヒルを操る時点でマーカスの正体は女王ヒルでほぼ確定している。その弱点は炎・・・なのではあるが。問題があった。

 

 

「日光が無いと直ぐに再生するってレベッカ・チェンバースさんのレポートにはあった、って書いてあるんだよね・・・」

 

 

炎によるダメージすら数秒で回復してしまう超再生力。もう一人と連携し、時間を稼いでいる間に天窓を開いて真の弱点である日光を浴びせて再生能力を阻害したことで勝利を納めたとある。そのもう一人は明らかに傭兵か何かで、時間稼ぎしかできなかったのはどれだけ女王ヒルが強かったのか窺えた。

 

しかし、向かう先は魔術師達の拠点と思われる洞穴。さらにロンドンは霧で覆われ昼であっても日光は届かない。セイバーオルタから聞いた話なのだが、サーヴァントは死因から弱点も固定されてしまうらしい。例えばアキレウスは踵、ジークフリートだと背中、ヘラクレスはヒュドラの毒、クー・フーリンだとゲッシュだ。

 

そして、無敵の肉体などの逸話も反映されてしまい、弱点以外には看破する方法が無くなる事もあるようだ。つまり、超再生能力がサーヴァントになった今でも女王ヒルにはあることになる。エクスカリバーで再生する暇もなく消滅させることはできるだろうが、もしもの時のためにそうでない手段も考えておかないといけない。

 

 

「ドクター、マテリアルを端末に出せる?」

 

『ちょっと待ってくれ。・・・よし、カルデアに居るサーヴァントのマテリアルを所長のサーヴァントも合わせてそっちに移したよ。これでいいかい?』

 

「ありがとうドクター。・・・・・・・・・・・・・・・ん?」

 

『どうしたんだい?』

 

「・・・えっと、ディーラーの宝具もそうだけど。これもかなり特殊な宝具だなって・・・」

 

『なるほど。それは扱いにくいし味方が戦えないとただの自滅になる普通の聖杯戦争じゃ完全に負け組な宝具だね。でも強力なのは間違いない。これは対象がどんなに高い耐久と再生能力を持とうが、意味を成さないからね』

 

「・・・タイミングを見て召喚するとか、できます?」

 

『それは難しいな。でも、場所を指定してなら誤差あるけど何とか』

 

「じゃあそれで、彼をお願いします。えっと、座標は・・・」

 

 

そんな会話があった数刻後、立香達は女王ヒルと邂逅し。その、驚異的な再生能力に手古摺ることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――ウェスカァアアアアアアアアッ!」

 

 

テスラを倒した直後にその咆哮が轟き、驚いた立香達が視線を向けると、完全に擬態を解いた人型のヒル姿の女王ヒルが周囲のヒルを大量に吸収、細胞増殖とともに肉体構造を完全に組み替えて膨れ上がり、より異形と化し巨大化した醜悪な姿に変異。

 

 

「■■■■■ーーーーー!」

 

 

その自らの重さに耐え切れず四つん這いとなり、もはや人の言葉など発さず入り口を塞ぐ瓦礫に突撃して粉砕、その粉塵の中から黒衣の男が現れて空中を舞ってから降り立ち、立香たちはさらに驚愕する事になった。

 

 

「ふむ。なるほど、奴のクラスはバーサーカーか。姿を見せるのは悪手だったな」

 

「貴方、ウェスカー!?それもローマの時の・・・!」

 

「オケアノスの記録もあるから久し振りと言う訳ではないが久しくだ、カルデアの諸君。早速で悪いが、奴を止めなくていいのか?」

 

 

その男、アルバート・ウェスカーに何か言いたい事はあるものの、女王ヒルを無視できるはずもなく。サーヴァントを率いてウェスカーを無視し飛び出して行く立香たち。だが、唯一動かなかったサーヴァントに、ウェスカーはニヒルに笑う。

 

 

「ウェスカー・・・まさかブラッドだけじゃなく貴方までサーヴァントになっていたなんてね」

 

「それはお互い様だろうジル。お前も何人も殺してきた癖にどの口が言う?」

 

「ッ・・・それは貴方が!」

 

 

激昂しマグナムを突きつけるジルに、ウェスカーはやれやれと言わんばかりに肩を竦めて舐める様にその姿を眺めると何が可笑しいのか馬鹿にするような笑みを浮かべた。

 

 

「しかしその姿か・・・クラスにより容姿が変動するのは知っている。さしずめ、今のクラスはアーチャーか。あの姿(・・・)は・・・やはりバーサーカーか?」

 

「何でここにいて、何をしていたかは知らないけど、もう私は貴方の言いなりにはならない。立香達の邪魔はさせないわ」

 

「いいだろう。俺もアレには極力関わりたくはない。クリスはいないが、あの時の再現と行こうじゃないか」

 

 

瞬間、発砲されるマグナム。しかしウェスカーは素早い動きでそれを涼しい顔で回避。連射されたマグナムも、次々と高速移動で避けてジルの目前に立つと首を竦めた。

 

 

「この程度か?」

 

「・・・いいえ、ここからよ」

 

 

クリス、カルロス、パーカー、ジョッシュといった頼れる相棒は今はいない。今の仲間たちも、人理を救うために奮戦している。己一人で、かつて自分を“殺した”相手を倒すしかないのだ、と思っていたのだけれど。ウェスカーの、反応できない速度で放たれた掌底を受け止めた黒い剣の腹があった。

 

 

「そいつはお前の因縁の相手か、ジル・バレンタイン」

 

「貴方は・・・セイバーオルタ、でよかったかしら?あっちはいいの?」

 

「安心しろ。マスター曰く「頼もしい助っ人」が来たからな。それに、今の私は貴様の頼れるパートナー、なんだろう?」

 

 

そう言って楽しげに笑んだセイバーオルタが参戦、ジルもまた笑みを浮かべてマグナムを構えた。

 

 

「・・・パートナーがいるなら、ウェスカー!貴方には負けない!」

 

「蹂躙してやろう。行くぞ!」

 

「いいだろう。決着を付けるか。俺が手を下さずとも既にこの特異点は破滅へと進んでいる。くだらん足掻きはお終いだ。新世界の礎となれ・・・!」

 

 

弾丸を掻い潜り、突進してくるウェスカーの拳とぶつかるセイバーオルタ。と、そんな時だった。

 

 

 

 

「スタァアアアアアアアアズ!!!」

 

 

「「「なっ!?」」」

 

 

突如、放電(・・)しながら飛び込んできた四つん這いの怪物に、それぞれ飛び退くジル達。その異形の怪物は咆哮しつつウェスカー、そしてジルに向けて放電している触手を放ち、ウェスカーは呼び出したゾンビ犬を盾に使って凌ぎ、ジルはセイバーオルタが斬り払う事で難を逃れた。

 

 

「スタァアアアズ・・・!!」

 

「ほう、これはこれは……?人理め、ずいぶんと懐かしい物を引っぱり出してきたものだ。俺の宝具でも呼び出せない中古品とはな」

 

「何だとウェスカー。その言い分は・・・まさか、追跡者か!?」

 

「そんな!さっき、確かに倒したはずよ。マグナムを叩き込んで・・・」

 

 

その異形の怪物を一目見て正体に行きついたらしいウェスカーの発言に驚くジルと警戒するセイバーオルタ。そして放電が放たれ、視界が光で埋め尽くされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、こちらはウェスカーをジルに任せ、ロマンからある通信を受けてセイバーオルタを向かわせた立香達。闇雲に突進してくる女王ヒルを相手に、マスター二人はそれぞれのサーヴァントに体を預けて回避してもらいながら銃を手に反撃。しかし、銃撃を受け粘液を噴出した肉体がすぐに再生、ヘッドショットも意味を成さない。さらには背中に開けたヒルの大口から地面を溶かす程の毒液を放出しながら高速で突進してくる相手に、全員逃げ惑うしかなかった。

 

 

「ッ!傷が直ぐ再生する!?それにまさか毒まで出すなんて・・・!清姫、炎は押さえて!毒が気化したら洒落にならない!」

 

「マシュ、エヴリン!真正面からじゃなくて、受け流す様に防いで!」

 

 

清姫に掴まったオルガマリーと、ディーラーのリュックにしがみ付いている立香が指示を出す。アンデルセンとシェイクスピアは安全圏からちまちま魔力弾を撃ってもらっているが女王ヒルは意にも介してないためデコイにもならず、アルトリア、モードレッド、ジャックが翻弄し、マシュとエヴリンが危ない攻撃を防ぎ、マスター達とディーラーの銃撃で遠方から攻撃することで耐え凌いでいるものの、このままではジリ貧である。

 

 

「・・・まさか作家様方が銃も持てず戦力にもならないとは恐れ入ったぞ。なあストレンジャー?」

 

「ヴァカか!俺達に何を期待している!誇る事でもないが、我々は他者から守られてここにいる根本的弱者、そして傍観者だ!援護しているだけでもありがたく思え!」

 

「ええ、我が友アンデルセン。まったくその通り!まさしく『倍増しになれ、苦労と災難。(Double, double, toil and trouble;)炎よ燃えろ、釜よたぎれ(Fire burn and cauldron bubble.)』ただでさえ危険だと言うのにこれでは近付かれるだけで我々は即死だ!先の魔神柱とやらが大したことが無かった分、これはなんとも口惜しい!『今に見ていろ、弱みをにぎりさえすれば、(If I can catch him once upon the hip,)つもりにつもった恨みをはらしてやる(I will feed fat the ancient grudge I bear him.)』!」

 

 

ディーラーの皮肉に暴言を吐き捨てたアンデルセンに続いたシェイクスピアの言い放った言葉が癪に障ったのか、シェイクスピア目掛けて突進を繰り出す女王ヒル。作家二人は必至の形相で逃げ惑い、女王ヒルは地面を毒で溶かしながら追いかける。

 

 

「ヴァカか貴様!煽るならもう少し危険そうじゃない奴にでも言って置け!俺達にタゲを取らせるとかこの阿呆め!?」

 

「いやはや、これは参った!普通、雑魚は後に取っておく物だと言うのにあのバーサーカーに常識は無いらしいですな!ああ、刺激的な体験をしたかったとはいえ、アパルメントに籠らない事を選んだ過去のわたくしを呪いたいですぞ!まさしく『生きるか死ぬか、(To be, or not to)それが問題だ(be: that is the question.)』!」

 

「貧弱キャスターは下がってろ!いくらでっかくなろうが関係ねえ!」

 

 

アンデルセンとシェイクスピアを庇う様に女王ヒルとの間に立ったモードレッドは、放射された毒液を雷迸ったクラレントで蒸発させながら斬り弾き、一度地面に切っ先を突き刺して魔力放出。

 

 

「叩き斬る!」

 

 

地面を鞘にした居合切りの如く女王ヒルの巨体を真っ二つに叩き斬った。傷の断面部から電流迸りながら二つに分かれて崩れ落ちた女王ヒルに、立香とオルガマリーが歓喜の声を上げる。だがしかし。

 

 

「効いた!?」

 

「やったの!?」

 

「いや、まだです!モードレッド、離れなさい!」

 

「な・・・に!?」

 

 

得意げに笑っていたモードレッドの背後でまるで傷など無かったかの様に合わさって元通りになった女王ヒルの太い前腕部で殴り飛ばされ、アルトリアの警告に咄嗟に不貞隠しの兜(シークレット・オブ・ペディグリー)を展開しながらも岩壁に叩き付けられ、さらに毒液を放射されてダウンするモードレッド。毒液は甲冑でも完全に防ぎ切れるものではないらしく、激痛で呻いていた。

 

 

「この威力・・・奴の宝具と見るべきが妥当だぞストレンジャー。ブルーハーブで治るだろうが、人間のストレンジャーたちが浴びたらただじゃすまない。恐らくは即死だ。耐久低い奴等も下がってろ」

 

「でも、それじゃあどうすれば・・・!?」

 

「奴だってサーヴァントだ。尋常じゃない再生速度もかなりの魔力を使っているはずだぜストレンジャー」

 

「では、魔力が切れるまで倒し続けるしかないのでしょうか。第三特異点のヘラクレスに比べるとまだ戦える相手ですが・・・」

 

「駄目でしょうね。魔霧で常時魔力を吸収されたら下手したらヘラクレスよりも性質が悪いわ。・・・電撃帯びた剣が効いたってことは炎も間違いなく効くはずだけど、清姫の炎じゃ逆に気化して危険なのが痛いわね。アルトリアの宝具も、こんな場所で使ったら私たちがお陀仏だわ」

 

「何か手はあるかストレンジャー共。銃弾もろくに効かない相手じゃ俺の武装もあまり役に立たないぞ」

 

 

眼前で、アルトリアとジャック、エヴリンの出したクイック・モールデッド数体が時間稼ぎしている間にどうするか考える立香達。状態で言えば、同じバーサーカーでもオケアノスのヘラクレス・アビスよりは弱いにしても数倍性質が悪い相手だ。ディーラーが弱音を吐いていると、立香が思い出したかのように通信機に問いかけた。

 

 

「ドクター!“彼”は今どこに!?」

 

『今、倒壊した岩盤の前で立ち往生している!彼の武装ではこれを超えられないらしい!』

 

「それが分かれば十分!ディーラー、みんな!女王ヒルに、あの入口に向かわせて!」

 

 

そう言って笑い、念話を試みながら指示を飛ばす立香の余裕の姿に、オルガマリーは不満を隠さず怒鳴り散らした。

 

 

「藤丸!?さっきから、彼って誰よ!?セイバーオルタをジルの援護に向かわせる程には強力な助っ人なんでしょうね!?」

 

「・・・多分言ったら怒られると思って黙ってたんですけど、マイクの代わりに送ってもらったサーヴァントです。ジルさんから聞いた女王ヒルの情報から、彼しかないと思って・・・」

 

「私が怒る?・・・まさか、そのサーヴァントって・・・」

 

「入り口を開ければいいんだなストレンジャー!?」

 

「先輩に何か策があると言うのなら・・・マシュ・キリエライト、やってみせます!エヴリンさん!」

 

「・・・見ていて気分が悪いからいいよ、やってやる」

 

 

暴走を始めた女王ヒルを見てからずっと顔を顰めていたエヴリンの足元から湧き出た黒カビが壁となって通り道を制限、跳躍したマシュの全体重を乗せた急降下で盾が突進の軌道を逸らす。と、同時に近付いていたディーラーが手榴弾を取り付けたナイフを顔面に突き刺していた。

 

 

「助っ人とやらへのお土産だ、渡してくれよストレンジャー」

 

 

瞬間、瓦礫の山に激突と同時に爆発。汽車が通って来た道の入り口が開き、爆発でダメージを負った物の突き進む女王ヒルの前に、彼はいた。

 

 

「おっ?ナイスタイミングって奴かこれ。いっちょ殺されますかぁ。手加減してくれよ~?」

 

「はあ!?助っ人って・・・本気なの藤丸!?」

 

「本気も本気です!」

 

 

姿を見せた真っ黒な人影・・・助っ人に、目をひん剥いて信じられないとばかりに立香を睨みつけるオルガマリーとは反対に、少し申し訳なさそうに縮こまっているものの自信満々の立香。マシュやアルトリアたちカルデアで彼と会った者達ばかりか、初見のエヴリンたちでさえ「頼りない」という助っ人とは思えない第一印象に心配げな表情を見せる。

何故なら、彼の目と鼻の先に女王ヒルは迫っているのだから。しかも爆発で生じた瓦礫の雨というおまけつきだ。

 

 

「お待たせだマスター。さぁて、派手にやられますかねぇ!」

 

「初陣早々で悪いけど、ぶちかましてやって・・・アンリマユ!」

 

「ほいきた。行くぜ!てめぇの自業自得だ!」

 

 

そのサーヴァント、悪魔王の名を背負わされた村人、アンリマユの姿が紅い瞳だけが妖しく光る全身黒い影の様な「獣」へと変わる。天を仰いで咆哮するアンリマユへと女王ヒルが突進し、何か起きる事も無く瓦礫の雨がアンリマユに降り注ぎ、さらに全質量を乗せた体当たりが直撃。さらには零距離で毒液が放射され蹂躙される。誰もが助からないと確信し息を呑む中で、分かり切っていたとでも言う様にただ一人、凛と佇んでいた立香は手を掲げて叫んだ。

 

 

「マスタースキル!騎士の誓い!」

 

 

女王ヒルが再びアルトリア達に突進した事でその上を通り過ぎていき、無残に潰された姿になっていたアンリマユが、立ち上がる。死ぬ直前だったその瞬間に行使された、立香の着ている礼装アニバーサリー・ブロンドの最後のスキルが発動されていたのだ。一度は倒れても主君を守るために立ち上がる、いわゆる「ガッツ」である。

 

 

「ガァァーッ!?死ぬっつーの……!てか俺、騎士でもなんでもないんですけどねぇ・・・でも俺の耐久力をまるっきり信じてないなんてさすが、ディーラーのマスターだ」

 

 

悲鳴を上げ、文句を垂れるアンリマユに驚いたのか興味を持ったのか、立ち止まって振り返る女王ヒル。そこには、胸部がひしゃげ、右腕が千切れ、左肩が脱臼し、右膝が砕け、左足が爛れ、右が潰れた頭から血を垂れ流した満身創痍の姿でなお、ガクガクとなりながらも立ち続け、ニヤリと笑む獣の姿があった。

 

 

「言ったよな?てめぇの自業自得だって。うちのマスターに謀られた感はあるが、悪く思うな?生前の俺と同じく理不尽に、逆しまに死ね! 偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)!」

 

「――――――!?」

 

 

瞬間、全身に激痛が走り、絶叫を上げて悶える女王ヒル。その巨体からはよく分からないが、満身創痍のアンリマユの傷と同じ箇所が、同じように傷付いていた。

 

 

「な、何が起こったの?」

 

「・・・アンリマユの宝具は、自分の負ったダメージを決して癒えない傷として相手にそのまま返すものです。死に掛けないと相手にろくな傷を与える事も出来ない、だから使いたくなかったんですけど・・・ディーラー用と考えてきてきたこの礼装のマスタースキルを思い出して」

 

「宝具と礼装、そして女王ヒルの超再生能力がかみ合って、相性抜群だったわけね。よく決断してくれたわ」

 

「じゃあ俺はこのままくたばってますんで、あとはよろしく頼んますぜマスター」

 

 

元の姿に戻ったアンリマユがばったりと仰向けに倒れ、そのダメージから四肢がろくに動かない女王ヒルを取り囲む立香たち。再生できなければ、動き回らなければ何の脅威でも無かった。

 

 

「近付くなよストレンジャー。アンリマユの宝具で致命傷を負ったとはいえ、毒液を真面に喰らったらブルーハーブでも足りるか分からんからな」

 

「うん、分かってる。早く倒そう。・・・モードレッド、まだ宝具撃てる?」

 

「当り前だ・・・って言いたいところだが毒を受けたオレにやらせるか?ちょっと休ませろ」

 

「・・・じゃあ、清姫。お願い」

 

「分かりましたわ」

 

 

侮る事無く、女王ヒルの弱点である炎で仕留めようと清姫に指示するオルガマリー。と、その時。ディーラーがそれに気付いた。

 

 

「待て、ストレンジャー。何かが可笑しい」

 

「どうしたの、ディーラー?」

 

「・・・そうか!あの似非アーチャーがどこにもいねえぞ!」

 

「なっ!?」

 

「消滅したか?いや、違うな。忌々しい雷電が残っている。これはどういうことだか分かるか、商人」

 

「絵本作家先生に分からん謎が俺に分かる訳がないだろう。・・・いや待て、不確定要素がもう一つ・・・あの追跡者は、ちゃんとジル・バレンタインに倒されていたか?」

 

 

ディーラーの問いかける疑問に答えることが誰にもできない。当り前だ。ニコラ・テスラとの対決の最中倒されたと言うネメシスの姿はジル・バレンタインしか確認しておらず、ニコラ・テスラが倒されたと思えば本性を表して暴れ始めた女王ヒルの対処に手一杯。誰にそんな余裕があると言うのか。慌てて周囲を見回す一同だがしかし、黒焦げとなって転がっていたはずの場所からニコラ・テスラが消えていたという事実に気付くのが、遅すぎた。

 

 

「逃げろ、マスター!」

 

「オルタ?」

 

 

セイバーオルタの叫びに、振り向く立香。そこには倒れ伏したセイバーオルタとジル、そしてウェスカーの姿があり・・・よろよろと立ち上がりながらも警告の声を上げるセイバーオルタに、駆け寄ろうとしたその背後。女王ヒルに覆いかぶさるようにそれは現れた。

 

 

 

「カルデアァアアアアアアアアッ!!!」

 

 

「なっ・・・こいつは!?」

 

 

立香達のど真ん中に降り立った怪物。まるでブリッジしたまま歩き回っているような異様な骨格に、全身から伸ばした触手には、両肩と思われる部分から伸びた一対の電極が蒼雷を迸らせる。放電し続ける怪物は大口を開けて咆哮を上げて雷撃を立香へと飛ばし、咄嗟に立香を庇う体勢となったマシュが受け止めるも大きく弾かれ、そこに飛び込んできた触手で立香もろとも薙ぎ払われてしまう。

 

 

「ストレンジャー!」

 

「世話がやける・・・」

 

「・・・っ、マシュとエヴリンのおかげで無事!でもマシュが・・・」

 

「気絶したか。だが上出来だ、アレは見たところプラーガを解放したサドラー級の怪物だ。・・・ヘラクレス・アビス程じゃないだろうが、それでも危険度ならダントツだろうな」

 

 

立香とマシュが吹き飛ばされた先にカビを茂らせてエヴリンが受け止め事なきを得たが、立香の前でマグナムを構えたディーラーの目利きに驚愕する立香とオルガマリー。あるかどうかも分からない弱点を突かなければ勝てない相手ということである。

 

 

「だがこいつはなんだ。ニコラ・テスラには何のウィルスも使われていなかったはずだが・・・女王ヒルを潰しているが奴の隠し玉か何かか?」

 

『それの正体はサーヴァントだ!この霊基反応は・・・ネメシス、いやニコラ・テスラ・・・?』

 

『なんだ、この反応は・・・一体化している・・・?』

 

「ネメシスですって!?それにニコラ・テスラも含めた二体の英霊の霊基を併せ持つサーヴァント!?ってそれよりも・・・女王ヒルと同じようにおおよそ人にも見えない姿をしているのは何で・・・」

 

「危ない、ますたぁ!」

 

 

咄嗟に清姫がオルガマリーの手を引き、放電しながら振るわれた触手を回避。地面が砕け、そのまま空を巻き付いたそれに冷汗をかくオルガマリー。捕まっていたらどうなっていたか、考えるだけでも恐ろしい。

 

 

「・・・まさか、私たちを取り込もうとしている?ジャック、エヴリン。近付いちゃ駄目。アンデルセンたちと離れてて」

 

「逃げてみんな!それはネメシスよ!生前、重傷を負って廃棄場のタイラントを喰らって遺伝子を取り込み再生強化した時の姿に似ている!」

 

「タイラントの代わりにニコラ・テスラの霊核を取り込んだらしい!恐らく他のサーヴァントも取り込もうとするぞ、気を付けろマスター!」

 

 

危険性を即察知し、サーヴァントであるにも関わらずジャックたち子供組を下がらせる立香に、感電して動けないジルと、何とか立ち上がったセイバーオルタの声がかけられる。

 

 

「サーヴァントを・・・取り込む!?それって・・・Gカリギュラと同じ・・・!?」

 

「まさか・・・アルトリア!取り込まれる前に女王ヒルを宝具で・・・」

 

「・・・どうやら、遅かったらしいですオルガマリー」

 

 

意に介さず取り囲んで警戒する立香達の目の前で、足元の女王ヒルの巨体を貪り始めるネメシス。ピクピクと動いて反抗しようとした女王ヒルは直ぐに動かなくなり、光の粒子となって消滅。ネメシスの体に変化が現れた。

 

 

女王ヒルとネメシス、二つの首の間にテスラコイルが突き刺さり、様々な生物を無理やり融合したような姿の多数の手で地を踏みしめる肉塊の如き怪物。両肩どころか体中に電極が突き刺さった実験体の様な風貌で多数の手を伸ばして歩み寄るその姿は不恰好で醜悪であり、二首の間の背にはボロボロの服を纏った上半身だけとなったニコラ・テスラが存在していた。名付けるとすれば・・・リーチネメシス、だろうか。

 

 

「・・・最悪だ、マスター。俺の宝具で負った傷が無かったことにされている。他の霊基(テクスチャ)を重なられたらどうしようもねーわ」

 

「そんな・・・!?」

 

「って事は再生能力も元通りって事か・・・そいつは面倒そうだなストレンジャー」

 

 

アンリマユの言葉に絶望の表情を見せる立香と、飄々としながらも冷汗を垂らすディーラー。アンリマユの宝具は初見殺しだ。同じ手が通用するかと言われれば、限りなくノーだろう。

 

 

「「「アンブレラに復讐を・・・地獄の炎をこの世全てに・・・!」」」

 

 

幾重にも重なった多数の声でテスラの口からそう喋ったリーチネメシスは、赤い目を光らせてテスラの両手をテスラコイルにかざして放電。全ての電極に伝達した放電は宝具発動直前にも匹敵する電撃波を放射してオルガマリー達を薙ぎ払い、リーチネメシスは用は無いとばかりに踵を返して壁に向かって走りだし、一気に壁を登り始めた。全ての腕の掌に毒液をにじませ、融解させて登って行く様を見るに、一時間もしないうちに地上に出る事は明白だった。

 

 

「まさか・・・地上に!?どうしよう、ディーラー!」

 

「お生憎だがストレンジャー、お手上げだ。俺達は奴みたいに登る手段がセイバーたちの魔力放出しかないと来たもんだ。追い付いたところで撃墜されたらそれまでだ。あのスピードじゃロケランも当たらん」

 

「・・・エクスカリバーなら届きそうではあるけど私たちが瓦礫に巻き込まれて生き埋めになるわね」

 

 

焦りに焦った様子でディーラーに問いかけバッサリ現実を突きつけられて項垂れる立香と対照的に、一周回って冷静になってとりあえず考えてみるもやっぱり駄目で同じく項垂れるオルガマリー。

 

 

「もうオレ達に用は無いって事かよ・・・気に入らねえ!」

 

 

そんな役に立たないマスター達の傍で、毒で融解した鎧を消してディーラーから受け取ったブルーハーブで治癒したモードレッドは登って行くリーチネメシスを見上げ、気に入らないとばかりに地団太を踏んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「―――――ブリテンを脅かす者は何処だ」




そんな感じで誕生リーチネメシス。ネメシス+女王ヒル+テスラという、一番困った名前はシンプルにしました。正真正銘四章のラスボス()です。


・レベッカ・チェンバースのレポート
インクリボンでコツコツ書いていたアレを纏めたものの写し。作中のタイプライターなどは実際そんな感じに纏められてると勝手に妄想してます。ビリーの存在はあやふやになってるのは御愛嬌。

・援軍アンリマユ
真打登場。実は最初から女王ヒルとネメシスと言う超再生能力に対するアンチとして今章最初に召喚された黒い人。うちのアンリが宝具レベル5絆10になった影響でちょっと豪華な登場となってます。覚えていた人が何人いるのか。マイクが倒された事でカルデアから召喚された。アシュリーが倒された今、もう一人援軍を召喚可能だが・・・?

・ウェスカー
満を持して登場したはいいけどジルとの因縁を見せただけであっさりネメシスに負けて動けなくなってる黒い人。この人は調子に乗ったところで何かしくじる傾向が見れます。無印とかベロニカとか。

・女王ヒル暴走形態
自身の天敵と対峙するとぷっつんする系バーサーカー。バイオハザード0のラスボス。攻撃が通じず、時間を稼いで天窓を開いて弱点の日光を当てる事でようやくとどめを刺せるというめんどくさい系ボス。全身から毒液を放出するため近寄れず、さらに突進してくるため普通に危険。

・ウェスカーVSジル
因縁の対決。会話していた内容からジルのサーヴァントとしての特徴が垣間見える。クラスによって大きく在り方が変わる系サーヴァントである。

・ジルとセイバーオルタ
ナーサリーライム戦の約束を律儀に守る黒王様。真面に戦っていたら間違いなくウェスカーに勝利できていたが・・・

・ネメシス+テスラ
仮称はテスラコイルネメシス。前回の最後で女王ヒルが「保険」として発動していた、子供ヒルで再び頭部を形成したネメシスの再起動。テスラが倒された際に、その死体が消えるまでに取り込んで自分の言う事を聞く従順な最後の鍵を得るためのものだったが、最悪の形として保険が成立してしまった。
タイラントの代わりにテスラを取り込んだものの、同様に寄生生物ネメシスが巨大化しており、追跡者第三形態と酷似している。いわばテスラの能力を使える第三形態。

・毒液を受けたモードレッド
言うまでも無く元ネタはアポクリファのVS赤のアサシン戦。ヒュドラの毒とまでは行かないが、それでもブルーハーブを受け取るまで戦闘不能だったぐらいには強力。人間が喰らったら即死する。

偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)+騎士の誓い
FGOでも再現できる変則的使用。一度死ぬぐらいのオーバーキルなダメージを受けてから蘇生し、返す。アニバーサリー・ブロンドは元々このためだけに着せて来た(名目上はディーラーへの保険として)。立香としては苦渋の決断だったが最終的に死ななきゃいいや思考になっている。

・リーチネメシス
Gカリギュラ、ヘラクレス・アビス&フォルネウス・アビスに並ぶ今章のサーヴァント×B.O.W.枠。他者の霊基or遺伝子を取り込み進化できるネメシスだからこそできた大ボス。テスラコイルを使った大放電で敵を圧倒する他、毒液を放出したり触手で攻撃する。ネメシス一番の武器であるロケットランチャーが使えなくなったのが唯一の救い。
 女王ヒルとテスラ自身は既に消滅したものの、執念からか女王ヒルの意識が中心になっている。己がテスラであるため、後は地上に出て魔霧が集まっている場所に雷電を放てばそれで全てが終わる上に、女王ヒルの絶壁踏破能力と追跡者の執念深さが合わさってめんどくさいことに。
 ネメシスと女王ヒルの最終形態が似てるなあという考えから生まれた。モデルは「サイコブレイク」のアマルガムα。電極が突き刺さっている実験体ぽい姿はそれをイメージしてる。

・最後
文字数が一万字を超えた為、ちゃんと書けなかったものの一足早く参戦したあの人。敵か味方か。



次回、一年ぐらいかけたロンドン編の集大成にして総力戦のVSリーチネメシス。そして・・・次回もお楽しみに!よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。

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