Fate/Grand Order【The arms dealer】   作:放仮ごdz

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ウェルカム!ストレンジャー…いい加減ロンドンを終わらせたい放仮ごです。・・・去年は二ヶ月で三章まで終わらせたと言うのに、今年はずっとロンドン書いていると言うこの体たらく。本当に申し訳ないです。
UAが139,000超えました、ありがとうございます。来月にはロンドン終わらせられるはずですのでもう少しおつきあいください。五章に行ったらさくさく行くはずなんや・・・

前回から切ったけど最後が難関で手古摺った今回。ジル、ディーラー、モードレッドが活躍するニコラ・テスラ及びリーチネメシスとプロトタイラント軍団(とりあえずの命名)との決戦です。楽しんでいただけると幸いです。


神話を作ってやろうぜストレンジャー

――――アンブレラと、それを生み出した世界へ復讐を。

 

 

――――悪逆に満ちた己が未来を失くすため、王のため、人理焼却の完遂を。

 

 

――――この世界に災いを。全てを焼き尽くす地獄の炎を、此処に。

 

 

ロンドンに充満させた魔霧を活性化させてサーヴァントでさえ真面に行動できない領域へと変化させ、爆発感染(パンデミック)の如くロンドンのみならずブリテン島を飲み込んで、人理焼却を完全な物にした上で世界を炎で覆い尽くす。それが実行できるニコラ・テスラならば、我らが共通の願いを叶える事が出来る。

 

しかし、失敗は許されない。己は生前、生存本能だけであっさりジェームス・マーカスの記憶を投げ捨て、自分を恐怖させた者達から逃げ、無様に生き抜こうとした挙句に弱点を看破されて倒されてしまった。それだけは、駄目なのだ。

 

だから、無い頭なりに考えた。ありえないことではあるが、ニコラ・テスラが敗れた場合。己は間違いなく同じ事を繰り返すだろう。それでは駄目だ。だから、ニコラ・テスラを召喚してからは攻めずに防御に徹する。猿知恵だと言われたらそれまでだが、ロンドン中を見張っていたおかげで思わぬ掘り出し物を得た。

 

己が能力、子供たちの擬態能力を考えれば盤石の布陣。・・・だがしかし、その考えには辿り着かなかった。女王ヒル自身は突然変異だと考えていたが、エヴリン及びモールデッドはともかく、ウーズが何故ロンドンに現れたのか、その理由を。

 

 

 

だから、その男を一目、見たとき。歯止め・・・自制心が効かなくなったのだ。

 

 

 

「――――――ウェスカァアアアアアアアアッ!」

 

 

サーヴァント、女王ヒル。そのクラスは、バーサーカー。ただし常は人の皮を被り理性を保った獣であり、その狂気が発揮されるのは一定条件下に限定されている。それ即ち・・・・・・生前、生存本能を感じさせられた、恐怖の象徴との邂逅である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雷電魔人、そうとしか形容できないアーチャーのサーヴァントの出現に、最大限警戒する立香たち。地下にも関わらず次々と雷撃が放たれ、マスター二人を守る様にしながら敵の情報を得る事に集中。マシュが、女王ヒルから語られたその真名について語った。

 

 

「ニコラ・テスラ・・・科学者や発明家として知られ、現代の電気を中心にした機械文明の礎を築いた、ドレイクさんやダ・ヴィンチちゃんと同じく星の開拓者の一人です。本来はこの時代に生きる人物の筈ですが・・・過去に確か似た様な状況が記録されてましたが・・・」

 

「電気の礎か。なるほど、モードレッドの様な魔力放出でも無い・・・雷を、投げるなんて馬鹿げた力を持っているはずだ。・・・また弓を使わないアーチャーかストレンジャー」

 

「キャスターという可能性もあるけど・・・アーチャー?」

 

「疑問は尤もだけど藤丸!大至急あのサーヴァントを倒すわよ!奴の呪文は狂化を齎す物・・・つまり、オルレアンのバーサーク・サーヴァントと同等のモノと考えなさい!マキリの、奴の言う事が真実であれば奴を地上に出したらいけないわ!」

 

『その通りだ所長!ニコラ・テスラが自動的に周囲へ齎す強力な雷電は魔霧を活性化させる性質があると見える。彼が魔霧の集積する地帯へと至れば・・・ロンドンの異常事態、バイオハザードは爆発的に拡大する』

 

 

オルガマリーの言葉に、カルデアで計算したのかロマンの声が通信機から伝えられ、ダ・ヴィンチちゃんが続く。

 

 

『被害が広がるのは恐らくブリテン島全域だ。そうなってしまえばこの特異点の修復は不可能だと考えた方がいい。人類の歴史はここで途絶える。バイオハザードでもっと酷いことになるかもだけどね!』

 

「・・・あの穴を気付かれたらアウトね。アレは地上へ直行よ、止められない。ここで倒さないと」

 

 

マシュ、ロマンとダ・ヴィンチの説明に構えながらも押し黙る一行。奴を外に出さない、言うだけなら簡単だが、それは本当に難しい。何故ならば、ジルの指摘した通りオルガマリー達が通って来た縦穴が存在するからだ。

 

 

「作戦会議は終わったかね?」

 

「来ます、先輩!」

 

「何でもいい、あの雷野郎をぶっ倒せば不死身のバケモノの鼻を明かせるって話だろ?分かり易くていいぜ!」

 

「同感だ!」

 

「当たらなければどうということはない!」

 

 

すると、引き絞られていたテスラの掌から放たれた極大の雷撃に気付いたマシュが咄嗟に防御するも弾き飛ばされ、間髪入れず次々と放たれる雷撃の弾幕に対して飛び出したのは、モードレッド、セイバーオルタ、アルトリアと、かつてこのロンディニウムの地を守護していた円卓の騎士たち。ブリテンの危機とあれば黙ってられないのか、魔力放出でロケットの様に飛び上がり、雷撃を直線的な動きで避けながら突き進む。

 

 

「我が歩みを阻むか。いいだろう、受けて立とう!」

 

「馬鹿を言わないでくれ、天才。バケモノの私でも分かるぞ。セイバー、それも三人と接近戦など自殺行為だ。護衛は用意したと言っただろう」

 

 

しかし、マーカスの指示できっちり狙いをつけ偏差射撃されたロケットランチャーがモードレッドに直撃して吹き飛び、騎士王二人もネメシスの触手で足を絡め捕られて地面に激突したところにプロトタイラント軍団が一斉に襲い掛かり、鋭い爪の一撃が連携で振るわれ、モードレッドが懐に突っ込んで弾き返す事で体勢を整え、三人揃って突撃。

すると何を思いついたのか、テスラの雷撃がプロトタイラントを撃ち抜きながら放たれ、スピードの上がったプロトタイラントの振るった一撃の力強さに圧倒され、アルトリア達は斬り弾きながらもディーラーとジルの援護射撃を受けながら後退せざるを得なかった。

 

 

「・・・タイラントの動きが速くなった?」

 

「テスラの雷がヒルを活性化させているとでも言うの・・・?」

 

「ゾンビだったら電撃はアウトの筈なんだがな?これは迂闊に電撃グレネードも投げれないか」

 

「先輩、所長!敵サーヴァント、進撃を始めました!」

 

「アルトリア達はそのままニコラ・テスラを!残りは女王ヒルとネメシス、タイラントの群れを止めるわよ、藤丸!」

 

「はい、所長!マシュ!アシュリー、エヴリン、ジャック!お願い!」

 

「清姫、ジル、お願い!シェイクスピアとアンデルセンは援護よ!」

 

「我が復讐の邪魔はさせん!「究極の出来損ない」の出来損ないであるプロトタイラントの紛い物であっても、ゾンビの如き数の暴力に勝てる物か!」

 

 

マスターたちの命令が飛び交い、マーカスの叫びと共にプロトタイラントが増量し、大乱戦が始まった。雷撃と魔力弾が飛び交い、魔力放出、弾丸の雨、肉弾戦、剣戟に炎。

 

エヴリンの召喚したジャック・ベイカーと、対抗する様にヒルたちが合わさり姿を変えた巨大なサソリ型B.O.W.スティンガーと、二次感染で誕生した巨大なムカデのB.O.W.センチュリオンの怪獣決戦といった派手な攻撃が飛び交う、そんな中。こそこそとディーラーは中心から離れていた。

 

 

 

 

 

「プロトタイラントとかいうデカブツなら何とかなるだろうが、ネメシスとかいうのはレオンの奴からは何も聞いていないがタフさもスピードも桁違い、さらにロケランも扱えると来た。そう簡単には勝てないだろう。ジル・バレンタインなら気付いてくれると信じるしかないが・・・弱い俺は俺なりに仕事させてもらうか。サービスだから手数料は取れないがな」

 

 

そう言いながら、転倒した列車内に入ったディーラーがリュックから取り出したのは、手榴弾三種類が数個ずつとワイヤー。そして探索がてら集めた、ピアノを壊して集めたピアノ線と、スクラップで作ったベアトラップ。今までは商品の宣伝の如く正面戦闘ばかりしてきたが、彼としても何度でも死ねる自分の特性があるからできる事だ。死んだら立香に怒られるのだからそんなに多用する訳には行かない。それに、裏工作の方がよっぽど得意なのである。

 

 

 

 

 

 

 

「スタァアアアアズ!!!」

 

「ッ!」

 

 

女王の指示など知ったことかと言わんばかりに、女王ヒルにグレネードランチャーを向けていたジルを見るなり目標を変えて襲い来る追跡者に、ジルは崩壊した瓦礫の隙間を掻い潜り、応戦しつつ逃走していた。過去の経験上、見晴らしがいい広い所で逃げるなど自殺行為もいいところだ。瞬く間に距離を詰められブラッドを殺した触手の一突きか、偏差射撃もしてくるロケットランチャーにより殺されてしまう。そう判断して、路地裏はないため限りなく狭いエリアへと逃げ込んだのだ。

 

生憎、ネメシスが頭部を破壊されて倒されたと聞いてその弱点である冷凍弾は置いて来てしまった。この地下にアイテムボックスが無い事は無いが、一番近いのは横転した列車の中、その最後尾である。瓦礫に隠れながら近付くにしても、瓦礫を押し退けて迫るネメシスから逃げて辿り着く前に捕まるのがオチだ。どうしたものか、と考えていると。

 

 

「オラアッ!」

 

「スタァズ!?」

 

 

突如、飛来した邪剣がネメシスの右肩と首の間に突き刺さり、その動きを止めた。見てみると、こちらに何かを投げた体制のモードレッドがしたり顔で笑みを浮かべていた。

 

 

「おい、触手野郎。貸しを残したまま立香達にやられたってんでガッカリしてたが、あの時の貸しは返したぜ」

 

「モードレッド・・・」

 

「ああん?気にすんな!こんななんちゃってアーチャーなんかトリスタンの野郎に比べりゃ雑魚だ、雑魚!ステゴロで十分だ!」

 

 

ジルにそう叫びながら宣言通り拳でテスラに殴りかかるモードレッド。雷撃の直撃を受けて吹き飛ばされるもまだまだ元気の様で文句を吐きながら父親二人と共に再び挑みかかり、ジルは首に突き刺さったクラレントを抜こうとして完全に動きが止まったネメシスの姿に、チャンスだと横転した上の窓から列車の中に飛び込んだ。入れ違いにディーラーが出ていき、ジルは仕掛けられたそれに気付くと不敵に笑む。

 

 

「・・・貸し一にしとくわ、ディーラー」

 

「スタァアアアアズ!!」

 

 

やっとのことで引き抜いたクラレントを投げ捨て、列車の壁を引き裂きながら顔を見せるネメシスはそのまま足を踏み入れ、そこに仕掛けられていた手作りベアトラップが足に食い込み、動きを止め、待っていたジルの手にしたショットガンの直撃を顔に受けて顔を押さえてうめき声をあげる。

 

その間に妙に慎重な動きで列車の後部車両に向かうジルを追いかけるべくベアトラップから無理矢理足を抜くと前進、したところにちょうどネメシスの顔の高さに仕掛けられていたワイヤートラップが発動し二つ同時にピンが抜かれた手榴弾が起爆。

 

 

「!? スタァズ・・・!」

 

 

顔に集中攻撃を受けたネメシスはふらふらとした足取りでそれでも進むと、ピンッと貼られていたワイヤーに気付く事無く引っ掛かりそのまま転倒。右手がビターンと叩き付けられると、ちょうどそこに張られていたワイヤーが起動し、天井(横転した窓)が開いて落ちて来た焼夷手榴弾が炎上、頭部を形成していたヒルの大半が声にならない奇声を上げて焼かれていく。しかしネメシスは炎に包まれながらも立ち上がり、重い足取りで奥を目指して歩くと、そこは最後尾だったのかアイテムボックスを漁るジルの姿が。車内でロケランを使えば自分もただではすまない為か、突進。

 

 

「スタァアアアズ!!!」

 

 

かつて警察署の壁をいともたやすく破壊した時の様に邪魔な座席やらを破壊しながら突き進みそのまま顔を掴んで触手をお見舞いしようと試みるが、最後尾車両の入り口の足元に仕掛けられていたベアトラップにまんまと引っ掛かり、急に止まって空を切った右手が何かを千切り、現在彼の頭部を形成しているヒルたちが警鐘を鳴らす中、ピンが抜かれた閃光手榴弾が眩い閃光を放って片目しかない視界を埋め尽くし、目を開けるとそこにはグレネードランチャーを構え腰にマグナムを下げた標的が立っていた。

 

 

「ラクーンでの追いかけっこの時には無かった、充実した装備。・・・これがなかったらまた私は貴方に勝てなかったのかもね。あと、もう私はS.T.A.R.S.じゃない。B.S.A.A.のジル・バレンタインよ」

 

「……………BSAAーーー!!」

 

 

油断して捕まり、高濃度のウィルスを打ち込まれてしまったラクーンシティの時計塔での死闘を思い出したのか自嘲気味の笑みを浮かべ、装填された冷凍弾を発射。弱り切っていたネメシスは咆哮する事でしか抵抗できずに凍りつき、ジルはマグナムを握りしめて構える。

 

 

「あの時は無かった頼れる仲間、充実した装備。そして経験。それがなければこうも簡単には行かなかった。でも、これだけはやっぱり思ってしまう。―――――あんたみたいなバケモノは消えてなくなればいい!」

 

 

慟哭の叫びと共に、全弾撃ち尽くされるマグナム。胸元に六発の44マグナム弾を撃ち込まれたネメシスは膝を付いて崩れ落ち、そのまま動かなくなった。

 

 

「っ、とどめを・・・」

 

 

まだ消滅しない事を確認したジルはマグナムの薬莢を排出し替えの弾丸を装填、銃口をネメシスに向け・・・られることはなく、急激な揺れによってジルの体勢が崩れてしまった。

 

 

「ッ!?な、なにが・・・?」

 

 

体勢が、というよりは列車ごと傾き、ジルは座席に掴まるが耐え切れず、窓から外に投げ出されてしまう。見上げれば、先頭車両を起点に宙に浮かぶ機関車があった。よく見れば、テスラの掌から放たれ続けている雷が纏っている。

 

 

「・・・電磁石?っ、そうか!不味い、オルガマリー!立香!逃げなさい!」

 

「我が雷電に不可能は無し!見るがいい。私が地上へ導いたこの輝きこそ、大いなる力そのものだ!新たなる電気文明、消費文明を導きしエネルギー! 旧き時代と神話に決定的な別れを告げる、我が雷電!」

 

 

プロトタイラントに守られながらも、立香達の奮闘によって歩みを抑えられて退屈していたテスラは、雷を鉄塊である蒸気機関車の先頭車両に放出し、自由に操り持ち上げていた。ジルがいるとは知りもしなかったが、そのまま立香達のいる方角とは反対方向に電気を集め、音速を伴って撃ち出した。吹っ飛んで来た機関車に驚愕し、動きが止まる立香達。動けたのは、たった二人だった。

 

 

「「なっ!?」」

 

「させるかぁああああっ!」

 

「ッ・・・疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)ッ!」

 

 

気付くなりアシュリーが自分の怪力をフルに使って跳躍、力任せに体当たりして勢いを弱め、最後の最後で鎧の維持が溶けてしまった我が身を犠牲にしたアシュリーにより弾かれても機関車は横に回転して前進を止めず、押し潰されそうになっていた立香達を庇う様に宝具を展開したマシュが受け止め、押し負ける前にその一瞬で正気を取り戻したアルトリアとセイバーオルタが合間に入って一閃。叩き斬ることでようやく事なきを得た。

 

 

「あ、危なかった・・・アシュリー!」

 

「ごめん、ディーラー、マシュ・・・・・・マスターを頼んだ」

 

 

バベッジ戦での消費もあり消滅するアシュリーとそれに駆け寄る立香を守るべく、ディーラーはライオットガンでプロトタイラントを牽制しながら転がる蒸気機関車を睨みつけ、その正体に気付く。

 

 

「今のは、レールガン、だと・・・」

 

「真名解放せずとも我が宝具は雷電を用いた極めて強力な電磁気操作能力を持つ!未来ではこれを用いた強力な兵器もあると言う。天才たる我が身の発想で再現してみたこれは如何かな?」

 

「速度はともかく、質量と放電量はアンタの方が上だよストレンジャー・・・」

 

「ほう、武器商人にそう言わしめるとは。だがお遊びは終わりだ、ボディーガードのおかげでゆっくり観察してどの道程で地上へ向かえばいいかは分かった。さあ来たれ!私は是より天へと進まん!地上へ至るがための足場を此処へ!」

 

「させない!」

 

 

オルガマリー達が落ちて来た穴を見上げ、そう言ってのけるテスラに向け、ジルがマグナムを発砲するのを皮切りにディーラーを始めとした立香、オルガマリー達も銃撃。しかしテスラの周囲に発生した電磁場が寄せ付けず、その横でマキリの姿をした女王ヒルは嗤い、彼等の傍に雷電を纏った紫苑の大階段が出現した。

 

 

「その反応は、ここが正解であると言っているようなものであるぞレディ?」

 

「そう言えば最初の連中は上から落ちて来たのか。どこから来たのか疑問だったが納得行った」

 

「情報は正確に頼むぞマスター。さて、呼び声に応じて此処に参じた大雷電階段(ペルクナス・ラダー)!今許そう、私を地上へ運ぶがいい!ははははははははははははは!ははは!!

 目指す先はバッキンガム宮殿の上空!そこに我が雷電の一撃を加えしとき!私は私の纏うこの雷電にて!魔霧を活性化させ!森羅万象総て、人理を覆い尽くす!人類史は終焉を迎えるだろう!もはや、私を止める者は何処にも現れはしないか!」

 

「ッ・・・貴方が星の開拓者の一人と言うのなら、本心から人類と世界の終焉を望むことはないはずよ!あなたの意思じゃ、もうどうにもならないの!?」

 

「そうだ!たくましきレディ!我が身には狂化の影響があり、自らの意思は抑圧されている!その道理は覆せぬのだ!」

 

 

オルガマリーの問いかけに、笑いながらそう応えるテスラ。マキリの魔術を用いた特殊召喚により、言うなればバーサーク・アーチャーの様な状態なのだろうと察したオルガマリーは覚悟を決めた。

 

 

「そう言う事なら容赦はしない。正直すっごく逃げたいけど、ここで引いたらまた、見殺しする事になる!それだけはもう、勘弁なのよ!」

 

「所長の言う通りだ、全力で行くぞストレンジャー!あの雷電男を外に出したら地上のゾンビ共はそこのヒルと同じように活性化する、生きている人間は間違いなく助からん!一気に決めろ!」

 

「うん、ディーラー!ここで倒すよ!アシュリーの犠牲を無駄にしてたまるか!」

 

「はい、先輩。マシュ・キリエライト、行きます!」

 

「よぅし、話は簡単だ。ぶっ殺す!逃げても構わねえぞ。相手はこのモードレッドだからな!」

 

 

立ちはだかるオルガマリー、ディーラー、立香、マシュ、無手のモードレッドを前にしてなお、天才は笑う。狂ったような、喜んでいるような、嘆いているような。その全てを伴わせた自信に満ち溢れた笑みで両手を引き絞る様に構える。

 

 

「ほう。私に勝つと、私をここで倒すと。即ち、君たちは新たな神話を築かんとするか!だが、哀しいかな不可能だ。活性魔霧・・・我が雷電を魔霧に及ぼし生まれるサーヴァントさえまともに行動できない領域などなくとも、私の操る雷電はあまりに強力だ」

 

「待て、ニコラ・テスラ!奴等は私が足止めする。貴様はさっさと地上に・・・」

 

「それは聞けぬ相談だマスター!何故なら、私は天才だ。何故なら、私は雷電だ。神とは――神とは何だ。そう、雷電だ。遥か古代より多くの人々がそう信じ、実際のところ、主神ゼウスや帝釈天インドラの名を挙げずとも、確かに神ではあるのだろう。雷。空より来たる神なる力。それを受けてたらんとするのだ!全力で応えてやらねばならんだろう!」

 

「・・・我が父といい、貴様といい、天才の考えは理解できん。好きなだけやれ。だが・・・“負ける事は許さん”」

 

 

自身の言う事を聞こうとしないニコラ・テスラに、マキリの姿になった女王ヒルはその手に姿を現した令呪を輝かせて嗤う。反抗的だったバベッジであっても令呪を受けて立香達を追い詰めた姿を、子供たちの目を通して見たからこその信頼。ましてやテスラは自分に従順的なのだ、効果も増すだろうという、馬鹿の一つ覚えとも言うべき過信から来る笑みだった。

 

 

「令呪か!いいだろう、先程の児戯とは違う、最大出力で薙ぎ払ってやろう。ここに、我が天才の一端をお見せしよう。痺れるぞ、耐えてみろ!ハハハッ!ハハハハハハハハハッ!」

 

 

黒マントを靡かせ、自身に蒼雷を纏わせて発光、浮遊して高笑いを上げるテスラに集束して行く電磁エネルギー。雷が轟き、電磁の渦が巻き上がって洞穴という密閉空間に閉じ込められたアルトリア達サーヴァントを吹き飛ばしてしまう。

 

 

「くっ・・・これほど、とは・・・!」

 

「令呪だけじゃない、魔霧の魔力でさらに増幅されている・・・」

 

「近づけもしないなんて・・・!」

 

 

そうごちるアルトリア二人とジルだが、比較的頑丈な彼女達だからこそで他の面子は喋る余裕も無い。オルガマリーと立香はそれぞれ咄嗟に前に出た清姫とジャック、エヴリンが庇った事で無事ではあるが、痺れて口も回らない状態だ。余波で殆んど壊滅状態、そんな中でも、ほとんど根性で立ち上がる少女が一人。

 

 

「・・・負け、ません。受け止めてみせます・・・アシュリーさんに託されたんです。この身が蒸発してでも、先輩と所長を守り抜きます!もう、あんな思いは沢山なんです!」

 

 

思い出すのは冬木の最終局面、手も足も出ずにレフ・ライノールの手でオルガマリーが消えゆこうとする瞬間。ディーラーがいたから大事には至らなかったが、もしいなかったらと思うとぞっとする。何もできないまま大切な人が消えていくのを見るのは嫌だ、そんな思いで、マシュ・キリエライトは立つ。

 

 

「その思いは分かるが、そいつは聊か無謀というやつだマシュ」

 

「撃たれる前にぶっ殺せばいい話だろうが。単純に守るだけじゃ守れないものもあるぜ」

 

 

マシュが盾を構えて立香達の前に立つ中、二人のサーヴァントがその前に出た。余波が直撃し死んで即復活したディーラーと、自身の魔力放出で余波を相殺したモードレッドだ。ディーラーの手には何故かフックショットが握られているが、モードレッドは相変わらず無手であった。

 

 

「さて、ご丁寧に教えてくれてどうもだストレンジャー。狂化されてもアンタが止めて欲しいと思っているのはよく分かった。注文(オーダー)には応えるのがモットーだ。それに今のアンタはここでは余所者だ、さっさと出て行ってもらおうか」

 

「仮にも騎士王を地に伏せさせたテメエなんぞに臆して堪るか!未熟な騎士に守られるぐらいなら受けて立ってやるぜ!」

 

「そいつはいいが、剣を取りに行かなくても大丈夫か叛逆の騎士?」

 

「馬鹿かディーラー。要は勝てばいいんだ、勝てば。剣の技など戦闘における一つの選択肢に過ぎん。勝つためなら、殴るし蹴るし噛みついてもやるさ」

 

 

ネメシスに捨てられ彼方に突き刺さっているクラレントを指摘されながらも不敵に笑い、拳を打ち鳴らして今にも宝具を放とうとしているテスラを睨みつけるモードレッド。それに対して、フックショットを握った手とは反対の手にリュックから取り出したP.R.L.412を構えてチャージを始めるディーラー。それを見て、立香とオルガマリーは「何故プラーガでもないのに?」と疑問符を心の中で浮かべて、まったく意に介さないのかテスラもまた不敵に笑って雷電が集束した右手を掲げた。

 

 

「受けて立つか!それもいい、括目せよ!其は人類に齎された我が光…!さあ! 君たちにも御覧に入れよう!神の雷霆は此処に在る!

 

――人類神話・雷電降臨(システム・ケラウノス)!!!」

 

 

 

放たれるは、数多の神話で語られる雷電神たちの再臨を思わせる猛威を地上へともたらす限定的・擬似的な時空断層。それが放たれる寸前、ディーラーは引き絞っていたP.R.L.412のトリガーを放して次の瞬間、テスラの攻撃が放たれると共にモードレッドが飛び出していた。

 

 

「現代の「光」をなめるな、ストレンジャー」

 

「ぐぅ、直接我が目に・・・だとぉ・・・!?」

 

「よっしゃ!任せな!」

 

 

マシュは身構えていたが、テスラの目に目掛けて放たれたP.R.L.412の光が視界を塞いで照準がずれて真横に逸れ、同時にディーラーが引っ張ったフックショットから伸びたワイヤーの先端に括りつけられていたクラレントが引き寄せられてモードレッドの手に渡り、そのまま魔力放出で加速して突撃。

姿を現す直前に、二人で話し合った付け焼刃もいい所の作戦だ。先程の会話はモードレッドは剣を使わない、と思わせるためのブラフであった。ちょうど雷光でワイヤーが見えないのも味方していたのも大きい。

 

 

「Take That, You Fiend!」

 

「グアァアアアッ!?」

 

 

猛加速したモードレッドの一撃がテスラの胸部を貫き、赤雷を放出しながら勢いのままにクラレントを引き抜いて蹴り飛ばし、そのまま鍔が展開し赤い雷電を迸らせたクラレントを振り下ろす。

 

 

 

「――――我が麗しき父への叛逆(クラレント・ブラッドアーサー)ァアアアアアアアッ!!」

 

 

 

令呪の力か消滅はせず、黒こげになりながら凄まじい勢いで吹き飛ばされたテスラに、フックショットとP.R.L.412を放り捨てたディーラーの手にした通常のハンドガンが火を噴いた。

 

 

「コイツが本当のヘッドショットだ、サービスで見せてやるよ叛逆の騎士」

 

 

その言葉と共にテスラは額を撃ち抜かれ、完全に雷電が消え失せてそのままゴロゴロと岩肌に転がった。・・・・・・だけならよかったの、だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

立香達は、テスラよりも先に、そのマスターである女王ヒルから倒すべきだった。例え倒すことが難攻不落でも。不安要素は早急に消しておくべきだったのだ。

 

 

 

 

「馬鹿な・・・・・・いや、まだだ。まだ、策はある」

 

 

女王ヒルはテスラが敗れた事に驚愕しつつも、マーカスの姿に擬態して冷静に対処しようと、生き残った子供達に指令を下してそれ(・・)を再起動させた。そして、邪魔者達を確認しようと前方に視線をやって。

 

 

 

「――――その程度か。貴様には失望したぞ女王ヒル」

 

 

 

邪魔者達の遥か背後、崩れ落ちた入口の前でウーズを傍に置いて無表情でこちらを見詰める黒ずくめサングラスの男の姿を、見てしまった。

 

何故だ、何故、此奴がここに居る。ロンドン中に配備した自身の包囲網からどうして逃れられた。どうしてここにいる。奴等の仲間なのか。

 

 

 

何故、何故、何故、何故―――――――――

 

 

 

―――――何故、したのだ?

 

 

 

 

「――――――ウェスカァアアアアアアアアッ!」

 

 

 

 

空っぽの獣は狂乱し、復讐を成し遂げんと咆哮を上げる。その姿はもはや人ではなく――――人型ですらなかった。




やっぱり今回も暗躍していたアイツ。特殊タグ入れるのが大変だったけど雰囲気演出できたかなと思います。もっと使うべき?

・冒頭の独白(?)
女王ヒルsideの内情。生前の最期を恥ずべきことだと思っている女王ヒル。擬態して理性を保っても単純にしか考えられないのがなんとも。

・ニコラ・テスラ
電気でヒルを活性化、簡易的なレールガン、大雷電階段をさくっと出して、余波だけで戦闘不能にさせるなどやりたい放題の雷電博士。バーサーカーの女王ヒルより好戦的なのが玉にきず。持ってないけど推し鯖だから優遇されてる。

・スティンガーとセンチュリオン
テスラの電撃で活性化し、何時もより擬態能力を活性化させたヒルたちによる人型以外への擬態。共にバイオ0のボス。エヴリンの出したジャック・ベイカーとの壮絶な戦いの末、共に相討ちした。

・小細工するディーラー
バイオハザード4で村人たちが仕掛けたトラップを自作して設置。乱戦ではすぐ死んでしまうためサポートに徹した。4の手榴弾系+トラップはえげつないと思う。

・ネメシスに借りを返すモードレッド
▲様と共に苦汁を舐めさせられた相手にリベンジ成功してご満悦。だけどさっさと回収しなかったため苦戦に強いられることに。

・ジルVSネメシス
サーヴァントになっても因縁の対決。列車内での対決はバイオ3の一幕の再現。ネメシスの方はヒルが頭部を形作って動きが単純になっていたため簡単に数々のトラップに引っ掛かってしまった。最後の会話はプロジェクトクロスゾーン2の一幕から。律儀にBSAAと呼び方を変えるネメシスに印象が変わったのは言うまでもない。とどめの一撃はバイオ3ラストシーンから。実は歴代初めてロケラン以外で決着を付けたシーンである。

・列車レールガンとアシュリー
書いている当時にテレビでレールガンが活躍する映画を見た為、テスラの能力が電磁気操作だからせっかくだし書いてみた。アシュリーが身を挺して割り込んだ事で事なきを得たが、そうしなければ立香とオルガマリーが肉塊になっていた。また最後まで立香と共にいられなかったのを悔やんでいた。

人類神話・雷電降臨(システム・ケラウノス)
マシュでさえ防ぎ切れない超威力を誇るニコラ・テスラの宝具。余波だけで一級のサーヴァントであるアルトリアを行動不能にしたが相性の問題もあった。

・マシュの戦う理由
立香と似ているが少し異なる理由で戦うできる後輩。今回は喋れなかったが立香は泣き叫んで止めようとしていたが、それでも彼女は立ち続ける。

・ディーラーとモードレッド
アルトリアみたいな正規の騎士とは相性最悪のディーラーだが、セイバーオルタやモードレッドみたいなタイプはむしろ相性がよかったりする。とある聖杯戦争のモードレッドのマスターは銃を扱っていたのもあり、難なく連携がとれた。ディーラー的には前回のモードレッドの「ヘッドショット」はお気に召さなかったようだ。

・暗躍していた黒い人
ジルと同じく、魔霧から召喚された直後に単独行動し続けてたアサシンのサーヴァント。女王ヒルにとっては怨敵。とある理由から、t-Abyssをロンドンにばら撒いた張本人。ずっと隠れていたのはとある人物を観察するためで、地下洞穴にもその人物を追って来た。

・女王ヒル
バーサーカーの本領発揮。擬態を維持する事ができずに、バイオ0最終局面の姿に変貌。一応今章の大ボス。



次回、暴走した女王ヒルとの決戦。あのサーヴァントが味方に?次回もお楽しみに!よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。

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