Fate/Grand Order【The arms dealer】   作:放仮ごdz

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ウェルカム!ストレンジャー…本日、7月23日を以てハーメルンでの初投稿から五周年となった放仮ごです。よくもまあ続いてるなあと自分でも思います。

今回はついに「M」の正体、そして第四特異点の異変の真実が明らかに。VS「M」となります。楽しんでいただけると幸いです。


敵は女王様だとよストレンジャー

 それは、何時も通りの、ヒルの研究を行っていた日常の最中。終わりは突如訪れた。銃で幾度も撃たれ、解剖しようとしていたヒル共々倒れた私の前に現れたのは、最も信頼を寄せていた二人の若僧。

 

 

「所長。あんたには死んでもらう」

 

「t-ウィルスは私が引き受けますよ」

 

「ウェスカー・・・・・・。バーキン・・・・・・」

 

 

それだけ言い残して去りゆく二人に、私は処理場に沈められ薄れゆく意識の中で確信した。スペンサー・・・アンブレラが、私を裏切ったのか。復讐・・・奴に、奴等に、いや、この世全てに復讐を・・・最期に口の中に入って来た異物を感じて、そのまま私の意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

横穴から入った道を奥深く進んだオルガマリー達。最奥と思われる空洞の真上に出た彼女達が飛び降りると、そこには冬木の大空洞と同じような光景が広がっていた。広い地下空間に、丘にそびえる巨大な蒸気機関。しかし一定距離を置かれたその周囲には大量のヒルが蔓延っている。正直近付きたくない異様な光景。ヒルは無視してそれを見たオルガマリーが疑問の声を上げ、アンデルセンが唸る。

 

 

「・・・魔霧の中でも強く感じられる魔力量・・・これは、巨大な魔術炉心・・・?」

 

「ふむ。見るからに魔霧を生み出していた本体だな。聖杯が組み込まれているのを見るに、魔霧からサーヴァントが召喚されたのはアレが原因のようだ」

 

「その通りだ。巨大蒸気機関アングルボダ。これは我等の悪逆の形そのものだが、私の希望でもある。――――奇しくも、死にぞこないのパラケルススの言葉通りとなったか。悪逆は、善を成す者によって阻まれなければならぬ、と」

 

「・・・誰?」

 

 

そして、その前で待っていたのはジェームス・マーカスではなく、青髪の青年だった。見覚えのない男の登場と、その血塗れの姿に警戒する一行。するとジルが何かに気付いたのか、アングルボダの下を指差した。

 

 

「オルガマリー!あそこ!」

 

「あれは、パラケルスス・・・!?」

 

「愚かにも、今更になって私を止めようとしてきたから少し仕置きをさせてもらった。バベッジに令呪を使用した隙を狙われたから加減はできなかったが・・・なに、生きている。手駒を失う訳にはいかんのでな」

 

「・・・あなたは、誰?」

 

 

血塗れで倒れているパラケルススを見たオルガマリーは、何時の間にか男の背後に立つ複数のジェームス・マーカス・・・否、リーチマンに警戒しながらハンドガン・ブラックテイルを突きつけて問いかけた。すると、アルトリアの背後にシェイクスピアと共に隠れていたアンデルセンが声を上げる。

 

 

「・・・読めたぞ。お前が「M」だな」

 

「え!?でも、それはマーカスのはず・・・」

 

「奴は恐らく、偶然同じ頭文字だっただけの、後から召喚されたサーヴァントだろう。「B」は知らんが、三人の魔術師の首魁である「M」は間違いなくコイツだ。魔術協会の資料でこの顔を見たぞ、コイツの名は・・・マキリ・ゾォルケンだ」

 

「魔霧・・・じゃない、マキリですって!?」

 

 

その名を知らないオルガマリーではない。マキリと言えば、遠坂、アインツベルンと共に聖杯戦争を立ち上げた御三家の魔術師の一つで、令呪などの多くのシステムを立ち上げた「間桐」の事だ。マキリ・ゾォルケンともなれば、間桐臓硯・・・500年以上生きている妖怪染みた魔術師の名前だ。考えれば100年以上前の時代だ、それも魔術協会の本場。居ても可笑しくはない人物だ。驚くオルガマリーが可笑しいのか、マキリはクツクツと笑う。

 

 

「如何にも。ようこそ、この地獄の果てへ。私はマキリ・ゾォルケン。この「魔霧計画」における最初の主導者である。この時代・・・第四特異点を完全破壊するため、魔霧による英国全土の浸食で人理焼却を確実の物とする事を目指す、ひとりの魔術師だ」

 

「英国全土!?・・・ロンドンだけじゃないの・・・?」

 

「ロンドンだけでは足りぬ。この時代全てを破壊する事で人理定礎を焼却する。魔術王など関係ない、父の復讐を果たすのだ」

 

「・・・なんですって?」

 

 

ローマのレフ・ライノール、オケアノスのメディアリリィと同じ魔術王の手下。そう確信していたオルガマリーに語られた信じられない言葉。しかしそんなこと知ったことではないとばかりにマキリはコツコツとアングルボダに歩み寄りながら嗤った。

 

 

「もはや語るに及ばず。この男の「王」の目的は果たそうと言うのだから邪魔するのはお前達だけだ。アングルボダは既に暴走状態へと移行した。私の加えたT-ウィルスと共に都市に充満した魔霧を真に活性化させるに足る強力な英霊の現界を待たねばならないのは億劫だが・・・ジェームス・マーカスはそれによりT-ウィルスがどのように変容するのか興味を抱いている様だ。さすがは我が父、研究心は過去の偉人にも勝る」

 

「・・・ジェームス・マーカスが父、ですって・・・?」

 

「かの英霊の一撃により魔霧は真に勢いを得て世界を覆い尽くす。そしてすべてが終焉に充ちる。そう、世界は完全に焼却される!それに導くは、我が野望を成すのは、人類神話の終幕に相応しき、星の開拓者がひとり。フハハハ、実に楽しみだ。私の!父の!野望を成す瞬間が!」

 

 

狂喜に満ちた笑みを浮かべて手を広げてオルガマリーに顔を向けるマキリ。その言動に、オルガマリーはある可能性に思い至った。

 

 

「・・・貴方は、マキリ・ゾォルケン?」

 

「如何にも。私の人格は、身体は、マキリ・ゾォルケンだ」

 

「・・・本物はそうは言わないわよ。アルトリア、アイツは人間?それとも・・・サーヴァント?」

 

「・・・そう言われてみれば妙な気配です。確かに人間、だが、何かが違う・・・」

 

「貴方・・・嘘吐きですね。それも、自分にも嘘を吐いてしまう、藤丸様と同じ性質の悪い大嘘吐きです!」

 

 

オルガマリーの言葉に訝しげにマキリを睨みつけるアルトリアと、確信して言い放ち殺気を向ける清姫。そんな様子に、合点が言ったのかふてぶてしく笑うアンデルセン。

 

 

「・・・そう言う事か。奴は、話に聞いたヒルの擬態、か」

 

「なるほど。育ての親であるジェームス・マーカスに擬態した食人ヒルの集合体。それなら、あの物言いも納得が付く」

 

「そうだとするならば下手な演劇ですな。まったく演じ切れていない、三流の役者ですぞ」

 

 

アンデルセンを始めに、次々と意見を述べるジルとシェイクスピアの二人。その二人の言葉に頷いたオルガマリーは手を掲げて一言、述べた。

 

 

「―――アルトリア!」

 

「ハアッ!」

 

 

オルガマリーの言葉と共に地面を蹴り、肉薄。急接近されてなおも余裕の笑みを浮かべたマキリに一閃。その肉体が二つに分かれ・・・次の瞬間、崩れる事無く、瞬く間に再生。周りのリーチマンが攻撃し、アルトリアはギリギリ退避。オルガマリーの前に立つとエクスカリバーを前方に構えて警戒を深めた。

 

 

「なっ!?」

 

「・・・私の擬態がお粗末だったことを抜いても、見事だカルデアの魔術師。だがな、前提が違う」

 

 

再生した傷痕から粘液をこぼしたマキリが愉しげに笑う。それに浮かぶは余裕。その顔が、ぬるりと若りし頃のジェームス・マーカスの顔と服装へと変わり、それに驚愕したオルガマリー達をさらに混乱に貶めるが如く老年のマーカスの顔・肉体に、そして再びマキリへと戻った「それ」は不敵に笑んで若いジェームス・マーカスの形を取る。声まで全く別人のものになっていた。

 

 

「私がジェームス・マーカス?馬鹿な、彼は確かに私を生み出し、育てた。だが実際にバイオハザードを起こした訳ではない。起こしたのは、この私だ。彼が英霊になる事は、絶対にありえない。では私は誰だろう?」

 

 

そう言ったマーカスの姿がマキリの物となる。一瞬、ぬめった人型のナニカになったのをオルガマリーは見逃さなかった。身の毛もよだつその姿を見て、その正体に、行きついてしまった。震えから、銃を落としそうになり必死に握りしめるその姿にマキリは笑う。

 

 

「確かに「M」はマキリ・ゾォルケンの事だ。ジェームス・マーカスとなりパラケルススと共に偽った事は謝ろう。私は、この男に召喚されたサーヴァントだ。ゾンビに対する抑止力、としてな。そこである偶然が重なった」

 

「・・・偶然?」

 

「マキリ・ゾォルケンの特性とジェームス・マーカスの特性が偶然にも一致した、異形の群れを使って延命する、というものだが。それでも確かに、縁は在った。さらに、魔霧から召喚されたネメシスによる感染で現れたゾンビ、正確にはT-ウイルス。それは私から生まれた物。そしてあの日だ」

 

「あの日・・・」

 

 

その言葉を聞いたオルガマリーの脳裏に、ヴィクター・フランケンシュタインの残した手記が過る。1888年7月25日、その数日前にゾンビは現れたのだと言うものだ。

 

 

「1888年7月23日。ちょうど100年後、1988年にジェームス・マーカスは殺害され、その10年後に彼の遺伝子と記憶を取り込み、自分がジェームス・マーカスだと思い込んだ私がバイオハザードを引き起こした日だ。

これらは偶然の産物だろうがしかし、何の因果か触媒となって私は召喚された。だが私の願いはただ一つ。故に、この者を殺し、成り代わり。擬態してマスターとなった。分身を作り、それが召喚されたサーヴァントだと偽ってな」

 

 

サーヴァントがマスターを殺し、擬態する事で他のサーヴァントのマスターとなる。そんな事が出来るのだろうか。いや、令呪システムに精通したマキリに擬態したからこそできた芸当だろう。ここまでくれば、オルガマリーも、ジルも、いやこの場にいる、あの話を聞いた誰もが目の前の人物の正体に思い至った。

 

 

「まさか、貴方は・・・!」

 

「・・・女王ヒル。そう座に記録された、ジェームス・マーカスの愛した子だ」

 

 

殺害されたジェームス・マーカスに擬態し、本人だと思い込んで復讐としてアンブレラもろとも世界を破滅させようと目論んだ、B.O.W.第一号。人間ではない、文字通りの怪物だ。

 

 

「私は、父の復讐を果たす事のみを願う。即ち、この世に災いをもたらし…全てを地獄の炎で焼き尽くす。そんな野望を志すと言うのに復讐者(アヴェンジャー)ではなく、狂戦士(バーサーカー)なのは納得が行かんが・・・さて、遊びは終わりだ。もっと楽しませてもらいたかったが…君達には消えてもらう。私の復讐に邪魔なのでね…」

 

 

そう言ったマキリの姿が途中からマーカスの姿に変わり、その手にヒルを這わせながら狂笑を浮かべた。即座に構えるオルガマリー達。シェイクスピアとアンデルセンを背後に置き、何時の間にか囲まれていたリーチマンの群れを前に円陣を組んだ。

 

 

「楽しい宴を始めようじゃないか。君達の弔いの宴を。フフフハハハハハハッ!」

 

「炎に弱いのは分かってる・・・清姫!ジル!」

 

「シャア!」

 

「火炎弾!」

 

 

清姫とジルの炎でリーチマンを焼き払い、その炎を風の鞘で纏って突撃するアルトリア。それに対し、炎が弱点の筈のマーカスは余裕綽々で嗤い、そして。

 

 

「無駄だ・・・スキル発動!」

 

「なっ・・・!?」

 

「叩き斬る!」

 

 

アルトリアは、突進の勢いを利用したアルトリア(・・・・・)の一閃で地に叩き伏せられていた。信じられないと目を見開くオルガマリーの様子に、アルトリアから姿を戻したマーカスは心底楽しそうに嗤った。

 

 

「何のために長々と我が正体を話したと思う?我々は、長年父を観察し続ける事でその姿に擬態する事を覚えた。それが昇華された我がスキル「擬態」は、数分でいい。観察する時間さえあれば、その者に完全に擬態する事が出来る。・・・もちろん、宝具もだ」

 

「ッ!全員、全力で退避!」

 

 

オルガマリーの言葉を受けたジルが咄嗟にアンデルセンとシェイクスピアを掴んでアングルボダの方に向けて飛び退き、反対側に清姫が抱えたオルガマリーがアルトリアと共に飛び退いた瞬間。今の今まで居た空間を星の聖剣による極光が横切った。

 

 

「・・・出力は本来の物には及ばない。さすがに避けるか。ならば!」

 

「負けるものか!」

 

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー)を展開したアルトリアはつまらなげに唸ると、そのまま剣を手に突進。同時に飛び出したアルトリアと、同時に魔力放出を使い凄い勢いで激突、剣を切り結ぶ。場所を入れ替え、全く互角に立ち回る二人のアルトリア。どちらがどちらか分からなくなり、清姫とジルも援護ができず、背後から襲い来るリーチマンを迎撃するしかない。

 

 

「ウオォオオオッ!」

 

「ッ・・・シャア!」

 

 

何とかアルトリアが押し勝ち、吹き飛ばしたかと思えば今度は清姫に擬態し炎でオルガマリーを狙い、それを防いだ瞬間には今度はジルに擬態、銃による攻撃でアルトリアと清姫を寄せ付けない。ならばとジルが銃で応戦すると、今度は地面に銃を撃って砂埃に紛れてアンデルセンに擬態、一瞬攻撃を手間取らせるとオルガマリーに擬態しガンドでその動きを封じ、動けなくなったジルを袋叩きするリーチマンを清姫とアルトリアが迎撃。まるで息を吐けない攻防が続く。

 

経験した事の無い苦しい戦いに、思考の海に溺れてしまうオルガマリーは混乱し、ろくな指示ができていない。アンデルセンとシェイクスピアは見守るだけで、時折付け焼刃にも程がある魔力弾を放ってリーチマンを迎撃するぐらいだ。

 

 

「シャア!やはり、擬態しようとも弱点の炎を克服はできない様ですわね!」

 

「・・・さすがに我が子供達ではサーヴァントの数の差は埋められないか」

 

「私の姿で子供などと言わないでいただきたい!」

 

「ならば、こちらもカードを切ろう。君達用に取って置いた。堪能してくれ」

 

「なにを・・・オルガマリー、後ろよ!逃げて!」

 

「え?」

 

 

何かに気付いたジルの言葉に、振り向くオルガマリー。そこには触手を振り上げた異形の大男・・・ネメシスが立っていて、それに気付くや否やオルガマリーは全力で横に飛び退くも、叩き付けられた勢いのまま薙ぎ払ってきて真面に受け、吹き飛ばされてヒルのど真ん中に落ちてしまった。

 

 

「くっ・・・気色悪い!」

 

 

ブラックテイルとガンドが火を噴き、次々とヒルを倒していくが間に合わない。次々と押し寄せる、全長20センチはあるヒルの群れに噛み付かれ、オルガマリーは嫌悪感を隠さず全力で振り払う。そんな最中、確かに立香達が倒したはずのネメシスの、その頭部。前に見た時よりも歪んだその頭部が、何かぬめっている事に気付いた。恐らくは、消えそうなところをヒルで頭部を修復し、そのまま脳を支配したのだろう。つくづく恐ろしいヒルである。

 

 

旦那様(マスター)!」

 

「ジル、ここは私が押さえます。清姫と共にオルガマリーを!」

 

「ええ!」

 

 

それを見たアルトリアはエクスカリバーを突きの形で構えて突進、偽物のオルガマリーの腹部に突き刺すとそのまま魔力放出でアングルボダまで吹っ飛ばし、清姫とジルをオルガマリーの元に行かせた。

 

 

「・・・ごぼっ、がはっ・・・おのれ・・・」

 

 

口から数匹のヒルを吐き出したマキリが忌々しげにアルトリアを睨んだ。清姫に幾度も巻かれた炎で弱り切ったところに痛恨の一撃。再生はできると言っても、効く物は効くのだ。それを見たアルトリアは、彼の発言を思い出して問いかけた。

 

 

「・・・その様で全てを地獄の炎で焼き尽すというのか。貴公の思いは口だけか、怪物」

 

「炎。確かに私の弱点だ。だがそれがどうした。私は父を殺したアンブレラへの復讐を果たす。この世に災いをもたらし…全てを地獄の炎で焼き尽くす。そのために貴様は邪魔だ・・・!」

 

「ッ!?」

 

 

再び若りし日のマーカスの姿に擬態し、アングルボダの周囲に控えたヒルが集束。形作られたそれの予想以上のスピードで殴られ、宙を舞うアルトリア。地面に叩き付けられながら、迫り来るそれを何とか捉えたアルトリアは痛む体に鞭打ち立ち上がった。

 

 

「まったく、またこの系統ですか・・・」

 

 

ローマのタイラント。オケアノスのヘラクレス・アビス。いわゆるタイラント系統のそれ・・・皮膚の腐敗が目立ち、頸髄まで露出している、右腕の一本だけ伸びた巨大な爪が特徴的なタイラントの試作型、プロトタイラントに、アルトリアは果敢に立ち向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻。ドォン。ドォン。ロンドンの地下数百メートルにて、次々と壁を突き破る轟音が響き渡る。その正体は、古めかしい・・・と言ってもこの時代では最新の・・・列車、蒸気機関車であった。

 

 

「ロンディニウムの地下か。地面の下に地下鉄ってのが広がっているのは知ってたが、まさかさらに下があるとはな。深く潜る程に魔霧の濃度が濃くなっているのは当たりだ、このまま突き進め。しかしまあ、相変わらずぶっとんでんなアンタ達のマスター!だが悪くねえ。特にオレと黒い騎士王にアシュリーを加えた三人の騎士が要ってのがいい!」

 

「ふん。同意したくないが全くだ。ここまでの思いきりのよさと奇策はマスターでないと難しいだろうな」

 

「おい騎士共。俺の仕事も忘れるな。お前等が撃ってもいいんだぞ?」

 

「ルーカスの玩具(おもちゃ)みたい!ママもどき、これ楽しい!」

 

「ぶっこーわせーとーつーげきー!げーきーとーつーロケーラーン!」

 

「外野うるさい!」

 

 

運転席の後ろではしゃぐモードレッドと幼少コンビに怒鳴るのは、念のため鎧を維持して運転しているアシュリー。客席の窓から上半身を出して無限ロケットランチャーを構えたディーラーは文句を二人の騎士にぶつけた。

 

 

 

フランをアパルメントに置いてくる道中でゴールデンとフォックスに連れられたジキルと合流した立香達はオルガマリー達が一足先に向かったことを聞き、急行を決意。フランをジキルたちに預けて、無人のチャリング・クロス駅の地下で目論見通り昔ながらの汽車を見付け、立香の思いつきを実行する事にした。

 

立香の思いつきはこうだ。まずディーラーが無限ロケットランチャーで壁に穴を開けて無理矢理道を作り、次にアシュリーの怪力で列車を持ち上げて脱線。そのままアシュリーと、魔力放出を使ったセイバー二人が列車を押して加速させてから乗り込み、運転席である先頭車両をアシュリーが怪力をフルに活かして持ち上げ、軌道修正。つまり吹っ飛んでいる列車を無理矢理力づくで運転し、あとはセイバー二人がかりの「直感」スキルで進む方向を決めて石炭をボイラーに放りこみ、時折出てくるゾンビやウーズ、スケルトンと言ったエネミーの妨害を轢き潰しながらひたすら走る。何時にも増してぶっ飛んでいるのは御愛嬌だ。

 

こんな荒業が実行できるのも、地味にランクの高い騎乗スキルと怪力を併せ持つアシュリーと、地形(道を塞ぐ岩とか)をも粉砕する武器を有するディーラー、そして共に直感スキルを持つブリテン親子という、この立香一行の組み合わせ故。しかしその当の本人はというと。

 

 

「うっぷ、吐きそう・・・」

 

「先輩!気を確かに!」

 

『マシュ!ここは落ち着いて、教えた通りに対処をするんだ!』

 

『文字通りぶっ飛んだ名案を立てるのはいいけど、何時も自分の事を度外視するのは君の悪い癖だねえ・・・』

 

 

英霊でやっと耐えられる酷い揺れで、オケアノスの時と同じく策士策に溺れるを体現するがごとく盛大に酔って客席に横たわってマシュの看病を受けていた。通信越しのロマンとダ・ヴィンチちゃんも呆れ顔である。

 

 

「・・・ルーカス?・・・それにジャック・・・偶然、だよね・・・」

 

「先輩?どうかしましたか?」

 

「ううん、なんでもない。それより・・・セイバーオルタ、あとどれぐらいか分かる?」

 

「私の直感スキルは青いのよりも落ちているから断言はできんが・・・もうすぐだ、そろそろ準備をした方がいいぞマスター」

 

 

薄れ始めていた意識を何とか保ちつつ、立香はマシュに支えてもらいながら前を見据えた。まるで迷宮の様な作りだが、つい数分前からディーラーのロケランの音は響かず、ずっと真っ直ぐ突き進んでいる。元々存在した通路に辿り着いたのだと思い至り、深呼吸。手持ちの装備を確かめる。

 

 

愛用しているハンドガン・マチルダ。弾も補充した。予備の弾倉も数個。問題ない。

 

マシュから譲り受けたマシンピストル。替えの弾倉は50発入りの一つしか手持ちに無いが、合わせて300発。牽制ぐらいには使えるだろう。

 

ナイフ。切れ味はさほど落ちてない、咄嗟に振り抜いても問題は無さそうだ。

 

 

「・・・よし」

 

『準備は万端の様だね立香ちゃん。できれば戦って欲しくないけど、敵は間違いなくあの殺人ヒルを使って来るだろうから自衛は必須だ。でも無茶はしないでくれ』

 

『言って置くけど、いくら私特製のチョーカーを付けていても、直接ウイルスの類を打ち込まれたらどうしようもないからそこは気を付けて欲しい。オルガもだけど、君の生存は必須事項だからね』

 

「言うまでもないよ、ダ・ヴィンチちゃん、ドクター。まず、魔霧の発生源であるアングルボダ(北欧の女巨人)とか言う大層な名前の機械を止めて組み込まれているらしい聖杯を確保。その次、もしくは同時に、残る「M」と「P」の撃破。今度こそ。誰も、死なせない!」

 

 

ひたすら走る列車の上で。立香はそう、決意を固めた、その数秒後。列車の前方に、ぬめりと凸凹が目立つ壁が見えてきた。セイバーオルタのモードレッドの直感の行き先は、その向こうだ。

 

 

「あの向こうの筈だが・・・」

 

「なんだありゃ?土やレンガのそれじゃねーぞ!」

 

「アレは・・・ヒルの壁!?」

 

「おいジャック、エヴリン!俺もお嬢様も手を離せん!ありったけ石炭をくべろ!俺が破壊すると同時に全速力で突っ込む、衝撃に備えろストレンジャー!」

 

「りょーかい!やるよ、エヴリン!」

 

「・・・モールデッド。お願い」

 

 

ディーラーの言葉に、ジャックが意気揚々とシャベルを手に石炭をボイラーに突っ込み、あまり乗り気じゃないエヴリンはモールデッドを数体出してそれを手伝う。

 

 

「オルタとモードレッドは襲ってくるだろうヒルの迎撃を頼んだ!いくぜ・・・お嬢様、準備はいいか!」

 

「あんまりよろしくないけど何とかする!」

 

「このままアングルボダとやらに突っ込めば万々歳だ!期待してるぜお嬢様!」

 

 

速度が上がり、アシュリーが無理矢理軌道を調整、全速力で真っ直ぐ突っ走る蒸気機関車。その客車の窓から顔を出したディーラーは、背後からの立香の声に応え、前方のヒルの壁に向けて引き金に指をかけた。

 

 

「お願い、頑張ってアシュリー!やっちゃって、ディーラー!」

 

注文(オーダー)には応えるぜ、ストレンジャー!」

 

 

そして、二連射。一撃目で穴を開け、続けざまに再生しようとしていたヒルの壁に大穴を開けた大空洞の入り口に突っ込む機関車。それを目撃するのは、今にもヒルの波に飲まれそうになっていた所を清姫の炎で救出されたオルガマリーを始めとした面々。ジルなんかはネメシスと追いかけっこをしながらその光景に見惚れていた。

 

 

「な、なに!?まさか・・・藤丸!?」

 

「と、とりあえず旦那様!今はそこから抜け出しましょう!」

 

「まるで喜劇の様な登場の仕方!トラブルメーカー、またはトリックスターとも言うようですぞ、吾輩のような男と、彼女の様な者は」

 

「あんなふざけた真似ができる馬鹿は一人しかいない。あれか、モードレッドと同じで頭にマッシュポテトでも詰まっているんだな、きっと!」

 

「・・・・・・ネメシスがいて、列車が吹っ飛んでいるとどうしてもラクーンを思い出してしまうわね・・・」

 

 

崩れ終えて無かったヒルの壁がちょっとした段差になり、文字通り吹っ飛ぶ汽車。それを目撃して驚愕するのは、ジェームス・マーカス・・・に擬態した女王ヒル。何の因果か、ジルと同じく彼もまた吹っ飛ぶ列車と言う物に由縁があった。

 

 

「レベッカ・チェンバース!ビリー・コーエン!また、貴様等かあ!」

 

「誰かは知らんが残念ながら不正解だ、ストレンジャー!」

 

 

恩讐の声を上げるマーカスに向け、数十トンの鉄塊が宙を舞い・・・真正面から直撃。ぐしゃりと、その身を轢き潰した。同時に横転した客席から何とか外に出た立香は、吹っ飛んだ衝撃で死んで新たに出てきたディーラーに手を借りながら、マシュと共に地面に降り立つとオルガマリーの無事(?)を確認してほっと、安心した。

 

 

「・・・うっぷ・・・。えっと、ヒーローは遅れてやってくる・・・と言う奴です、遅れました。所長」

 

「先輩・・・それどころではないと思いますが、とりあえず休みましょう」

 

『しまらないヒーローだねえ。しかも本人にその気はないときた!』

 

『見るからに絶体絶命、だったから間違いなくヒーローなんだけどねえ』

 

「まったくだなダ・ヴィンチ。・・・生きてるかお嬢様?それと子供と騎士共」

 

「勝手に殺すんじゃねえ。クソッたれ、頭打ったじゃねーか・・・」

 

「忌々しいが愚息と同感だ。・・・アシュリー、無事か?」

 

「・・・・・・・・・頭がグワングワンする」

 

「あーー楽しかったね、エヴリン!」

 

「うん、まあ・・・?」

 

 

吐き気を催し、マシュに介抱される立香を尻目に、通信のカルデアの面々とディーラーは溜め息を吐いた。他の面々も無事であり、さらにネメシスは停止。プロトタイラントはヒルの大群に戻り崩れ落ちた。

その空間は、敵の首魁を倒したという確信から空気が緩んでいた。しかし、そう簡単に行かないのがバイオハザードというもの。

 

 

『高貴なる四つの魂を以て、バルバトス現界せよ』

 

「「「「!?」」」」

 

 

アングルボダの傍、パラケルススの気絶している地面の下。埋められた本物のマキリ・ゾォルケンの死骸を糧に、魔神柱バルバトスが姿を現した。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

そして、鉄の塊の下で、復讐鬼は真の姿を現し、その命が鳴動する。




5周年だと言うのに相変わらずぶっとんだものしか書けないのは如何なものか。

・最初の独白
バイオハザード0における、ジェームス・マーカスの最期。ちなみにHD版の日本語だとウェスカーは言峰orキングハサン、バーキンはサリエリだったりします。

・マキリとマーカス
共に名前が「M」で始まり、ヒルor蟲を愛し、それで自らの肉体を形成し、魂(記憶)を移して延命、老人と青年の姿が登場する、大体こいつのせいと言う繋がりを持った変態爺。ここまで似てるって最早偶然じゃなくね?

・気絶したパラケルスス
バベッジが立香たちと戦っている頃、反旗を翻すもあっさり撃退されてしまったよかれな人。未だに生き残っている彼のいる意味とは。

・女王ヒル
バーサーカーのサーヴァント。日にち、召喚者、環境など様々な偶然が重なり召喚されてしまった「最初のB.O.W.」完全な反英霊である。英霊化した事で擬態能力が超強化され、数分観察する事でそのサーヴァントに擬態、スキルや宝具を用いる事が可能、さらにはマスターにまで擬態し令呪を得る事が可能という破格級の怪物。
強靭な再生能力を有しており、とある方法を用いなければ致命的なダメージを与える事が出来ない。苦手な物は炎だが、弱点ではない。
全世界を巻き込んだ復讐を目的としているのに復讐者(アヴェンジャー)じゃないのは、マーカス本人ではないのと、文字通り狂っている為。

・ネメシス
一度倒された物のクラススキルで消滅まで長引いて女王ヒルに拉致され、ヒルで頭部を再生、女王ヒルの言いなりになってしまった追跡者。元々他人の命令を実行する事に長けている為、さらに厄介になった。第二形態。

・ヒルの波に溺れるオルガマリー
描写してないけどぶっちゃけR指定でも可笑しくない状況。R指定だけどGの方。齧られたけどカルデア戦闘服のおかげで殆んど無事。

・プロトタイラント
バイオハザード0に登場する、廃棄されたタイラントの試作品。女王ヒルがヒルの子供達に擬態させた偽物。性能はほとんど変わらない上に分裂して避けるため厄介。

・ぶっこーわせーとーつーげきー
かけ声はエグゼイドのアレ。作戦的には「脱線した機関車を加速させながら無理矢理怪力で軌道修正して突き進む」という馬鹿みたいなもの。モードレッドとセイバーオルタがいないとろくに向きも分からない。相変わらず立香は気持ち悪くなってる。

・立香とエヴリン
ルーカス、ジャックという共通の知り合いがいる模様。一体どういうことなのか。エヴリン曰くルーカスの玩具はぶっとんでいるらしい。

・吹っ飛ぶ列車
バイオハザード3・0・6ではお馴染みのアレ。主人公が乗った列車は必ず吹っ飛ぶ。そして何故か無事までが形容詞。

・バルバトス降臨
死体を糧にすると言うちょっとネタバレ臭い方法で登場。ついでにパラケルススも取り込んでたりする。


そんな訳でやっと色んなフラグを回収できた回でした。女王ヒルだと気付いた人は何人いるかな・・・日にちとか、ジキルとの会話やヴィクターの置手紙やらですごく計算しながら書いた苦労が報われる事を祈ります。

次回はVSバルバトス戦。人類神話降臨。・・・からの?次回もお楽しみに!よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。

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