Fate/Grand Order【The arms dealer】 作:放仮ごdz
今回はVSバベッジ。珍しく何の魔改造もされていないサーヴァントとの対決です。恐らくアシュリー、今作最大の見せ場。日本英霊コンビも一足早く登場です。楽しんでいただけると幸いです。
「に、逃げれたかしら?」
「その様だな。まったく、作家に走らせるとは」
シェイクスピアの宝具による搦め手で足止めし、アルトリアの宝具による力技で開けた大穴から地上に脱出したオルガマリーは振り返り、あの恐ろしい三角頭が見えないことを確認すると一息吐いた。今まで自分を標的に宝具を使われた事がなかったが、ハイドに使われた事でその恐ろしさを再確認したのだ。するとアルトリアに担がれていたハイドが目を覚ました。その目は真紅から翡翠に戻っていた。
「面目ない・・・僕では、完全にハイドを抑えることはできなかった・・・」
「よかった、戻ったのね。気にしないで、ハイドが居た事で助かったのは事実だから」
「ジルの言う通りよジキル。それよりも、これからどうするかを考えなくちゃ・・・」
一度ジキルと作家コンビを戻すためにアパルメントに帰還するべき、しかしそれでは何も進まない。どうしたものか。オルガマリーが思考していると、ジルが自らの宝具の欠片であるマップを見てから声を懸けた。
「それなんだけどねオルガマリー。これを見て」
「うん?エクスカリバーでできた道まで描かれてる?」
「時折更新してくれるのよ。それで、ここ。エクスカリバーで開けた縦穴の途中に横道があるでしょ?」
「・・・登ってた時には気付かなかったけど、これってもしかして・・・」
今まで、敵の三人の魔術師の居場所が分からず難航していた。しかし、考えれば簡単だったのだ。ゾンビに襲われる危険性が少なく、人知れず魔霧を生成して広げ、地表に召喚された三角頭が三日経っても辿り着けなかった「敵」の居場所。
「三人の魔術師がいるのは、地下か・・・ロマン!ロマン・・・?」
カルデアに連絡を入れようとするも、うんともすんとも言わなくなった事に気付いたオルガマリー。どうやらここはロンドンの中心地、魔霧が濃くて通信が安定してないらしい。しかし、これはチャンスだ。穴を塞がれない内に侵入する必要がある。他の入り口が何処かも分からないのだから。
「・・・突入するにしてもジキルを安全な場所に運ばないと・・・アパルメントに戻れば通信もできるのでしょうけど、そんな時間は・・・」
ふと、ジルに送ってもらう手も考えたが、ジェームズ・マーカス相手に太刀打ちできなかったことを考えると戦力は少しでも欲しい。アンデルセンとシェイクスピアは戦闘力は皆無に等しいので連れて行った方がまだマシだ。かといって、ジキルを一人で戻す訳にもいかない。どうしようかと迷っていると、道の向こうから何かが吹っ飛んで来たのが見えた。堪らず身構えると、それはゾンビ数体で、燃えていたり電気を帯びたりしていた。
「これは・・・?」
「ッ!まだ動いているわ!みんな、気を付けて・・・」
ジルが注意した間髪入れず、まだ動いていたそれを、容赦ない金的を狙った飛び蹴りと、電撃を纏った黄金の斧が蹂躙。呆けたオルガマリー達の前に、ロンドンには似つかわしくない奇抜な格好の男女二人組が現れた。
「はいはいすみませんね。そこ暫く。ちょっ〜と待って下さいます?やっと会えた話が通じそうな御方。ここ、ロンドンで合ってますよね?霧の都ロンドン。ですよね?」
「え、ええ。それであってるけど?」
「では夢の二階建てバスはいずこ? 大英博物館、時計塔、セント・ホール大聖堂はいずこ?この不気味な霧は何です? どうして、昼日中なのに誰もいないんです?人影見えたかと思えば有象無象のゾンビの山ですし、必死に掃除しながら街に来てみればこの有様。
楽しみにしていたフィッシュアンドチップスは? 密かに憧れていたアフタヌーンティーは?スコーンは? クロテッドクリームは? フォートナム&メイソーンの本店は?これ、もう半分以上は廃墟っぽいふんいきですけれど?
みこっ?もしかしてロンドン、サクッと滅びかけてません?ご主人様とのハネムーンへの予行練習にと、ロンドン旅行に付いて来てみれば何ですこれ?もしやゴールデンさん、
「タダ乗りされて何で攻められてるんだオレ?って近い、顔が近いぞフォックス!」
怒涛の勢いで男に責め立てる改造した青い巫女服の様なものを着た少女に目を丸くするオルガマリー。桃色の髪で狐耳と尻尾を生やしている、いわゆる色物である。どうやら清姫は正体に気付いたようだが黙ってオルガマリーを見詰めていた。関わりたくないのでどうにかしてくれ、という意だろうか。
「えっと・・・もしかして、貴方達もサーヴァントかしら?」
「ああ、
そう言ってゴールデンと名乗った金髪グラサンの大男はにかっと笑う。まったく真名が予想できないが、とりあえず敵ではない事は確信したオルガマリーは提案した。
「ちょうどよかった。この、ジキルの護衛をお願いしたかったの。私たちちょっと急いでて・・・貴方達なら信用できる。無事に送り届けてくれないかしら?」
「おう!オレとフォックスに任せときな!大将たちは何も心配せずやるべきことをやってくれ!」
「もう、ゴールデンさんたら勝手に・・・いえ、倫敦に召喚されるからと無理矢理着いて来たのは私ですしね。みこーんとお任せを!良妻ですから!」
「大将?良妻?…えっと、とりあえず任せたわ。ジキル、ごめんなさい。藤丸達に、ここから乗り込むって伝えて」
「ああ、問題ないよ。力になれなくてすまない。無事に帰ってくることを祈っているよ」
ジキルがそう言った時だった。突如地鳴りが発生し、鳴動と共に何かが近付いて来たのを感じた。たまらず身構えるオルガマリー一行とゴールデン&フォックス。作家組がアルトリアの後ろに隠れたのは御愛嬌だ。
「な、なに!?まさかもう敵にばれたの!?」
「これって、まさか・・・オルガマリー、気を付けて!私の記憶が正しければ、ここ・・・
「はい?」
ジルが警告した瞬間、オルガマリーの足元を起点に道路のど真ん中が陥没し、エクスカリバーで開けた穴と隣接した巨大な陥没穴を作り上げた。全員避ける間も無く飲み込まれ、雪崩れ込んでくる砂と石で視界を遮られながら、オルガマリーは鎌首を上げたそれの、全長10mはある巨大な影を見た。
「嘘・・・でしょ?」
その正体は、巨大なミミズ。汚泥の如き茶色の硬質な肉体と、四本の牙を兼ね備えた口を開いて威嚇するそれの名は
「シャア!」
清姫が咄嗟に炎を撒くが通用せず、オルガマリーとジルは後退しながらジキルと作家組を守るべく銃を乱射、アルトリアが斬りかかるもビクともせず跳ね飛ばされる。そんなグレイブディガーの進撃を止めたのは、雷撃を纏った一撃と下からスライディングワームを巻き上げる突風だった。
「――――こいつぁ、ゴールデンだな。なあフォックス!久方ぶりに大物だ!この間の巨漢とサメ野郎よりはタフそうだぜ」
「はてさて、何がゴールデンなんでしょうか。私的には最悪です、こんな泥まみれになってしまって。せっかくの一張羅だというのに、このうらみはらさでおくべきか……落とし前はきちんと付けさせてもらいます!我が呪相・密天、つまりはまあ・・・バリバリ呪うぞっ♪」
オルガマリーの前に広がるは、金の斧を担いだ広い背中と、なにやらポーズを決めて御札をばら撒く小柄な背中。だがそれは、ローマでウェスカーにやられる瀬戸際に見た騎士王の背中と重なり、とても頼りになると直感する背中で。
「おう大将。ここはオレ達に任せてさっさといきな。心配はいらねーぜ?怪物退治はオレっちの分野だ」
「お話を聞かせてもらえないことは残念ですが、これも縁と言う物。ささっとお行きなさいな。このジキルさんとやらは責任もってゴールデンさんが守ってくれますので?」
「おいおい、丸投げかよ?まあいい、派手に行くぜぇ」
「・・・ありがとう、礼を言うわ!急ぐわよ、皆!」
その言葉に何も問題は無い、と断じたオルガマリーはそのまま背後に広がる、エクスカリバーで開けた穴へと急いだ。降りて行く途中でちらっと振り返って見えたのは、黄金の雷撃と巻き上がる緑の風、グレイブディガーの悲鳴と共に噴き上がる砂埃であった。
フランの案内で見付け、瞬殺した「リモコン」の大型ヘルタースケルターには、他のヘルタースケルターとはまた違う特徴があった。
それは、製造者氏名が英語表記で記されていた事だ。『Charles Babbage AD.1888』それを見た途端フランの様子がおかしくなったが、それは当然だった。
チャールズ・バベッジとは19世紀英国の人物で、優れた科学者にして数学者。そう、この時代の人間でありヴィクター・フランケンシュタイン博士とは知己の仲。フランは面識があるのだ。会って話した事さえある。しかし戸惑いながらも居場所を指したのは、ひとえにバベッジを止めたいからだと立香は思った。
そして、出くわしたのだ。サーヴァントになったことでその渇望と夢想が昇華された固有結界であり、彼の心であり、身に纏う機関鎧そのものとなった宝具を身に纏ったチャールズ・バベッジに。
「―――――聞け。聞け。聞け。我が名は蒸気王。有り得た未来を掴むこと叶わず、仮初として消え果てた、儚き空想世界の王である。貴様たちには魔術師「B」として知られる者である。そして帝国都市の魔霧より現れ出でた英霊が一騎であり、この都市を覆う「魔霧計画」の首魁の一人である」
「魔術師「B」。やっぱりか、チャールズ・バベッジ。イニシャルからそうだと思ってたがこりゃなんだ?ヘルタースケルターとほぼ同じ姿とはな。キャスター要素は何処に行った鋼鉄王?」
そう尋ねるディーラーに、バベッジは全身から蒸気を噴出させ単眼を赤く光らせた。
「鋼鉄王ではない。我が名は蒸気王。ひとたび死して、空想世界と共にある者である。我が空想は固有結界へと昇華されたが、足りぬ。足りぬ。これでは、まだ、足りぬ。見よ。我は欲す者である。見よ。我は抗う者である。鋼鉄にて、蒸気満ちる文明を導かんとする者である。想念にて、有り得ざる文明を導かんとする者である。そして・・・人類と文明、世界と未来の焼却を嘆く一人である」
「つまり・・・その姿は、ナーサリーと同じ固有結界・・・!?」
『その通りだ立香ちゃん、彼自身が固有結界だ。ナーサリー・ライムは眠りを撒いたが、彼は自分の分身をどこまでも際限なく撒き続ける。恐らくは、そういう・・・』
「御託はいい。いいか、屑鉄。よく聞け。お前の知り合いの娘が、お前を止めに来た。話を聞いてやれ。大層な御託も何もかも、それからだ」
「・・・ア、ァ、ゥ、ァ・・・!」
「―――おお、おお。忘れるはずもなきヴィクターの娘。そこにいるのか。お前は。可憐なる人造人間よ。造物主より愛されず、故に愛を欲す哀れなる者よ」
その言葉にピクリと反応し臨戦態勢を取って立香に手で制されるエヴリンと、それを心配そうに覗き込むジャック。対話ができそうなのだ、立香とて戦いたくないため必死に抑える。しかし、その心配も杞憂だった。
「嗚呼、嗚呼、お前の言葉が、想いが聞こえる。そうだ、碩学者の務めを果たさねば。だが、私は、我等は・・・」
モードレッドに続いたフランの叫びに応え、立香とマシュが対話を試みようとしたその時、バベッジの様子がおかしくなった。小刻みに震え、その手に掘削ドリルと一体化した杖を構え、目をさらに赤く輝かせる。
「グッ・・・これは、なんだ・・・?アングル、ボダの、介入か・・・、組み込んだ聖杯を・・・Mが・・・この私さえも・・・?グ・・・ゥ・・・グガ、ガガガガ・・・ヴィクターの娘・・・逃げろ・・・!」
「この様子・・・恐らく令呪だ、ストレンジャー・・・!」
「・・・コイツも、利用されていたにすぎないという訳か。サーヴァントの定めだなこれは・・・」
「オオ、ォ・・・!」
掘削ドリルを振り上げるバベッジに、ディーラーが立香を後退させ、セイバーオルタがいの一番に突撃する。しかし、振り下ろされた強大な一撃に耐え切れず、建物の外壁に叩き付けられ呻くセイバーオルタ。それだけで、力量差が分かった。聖杯からの援助もあるのか、元々の鎧の性能なのか、このサーヴァントのスペックは桁違いだ。
「もはや対話不能です先輩、来ます・・・!」
『令呪の効果が聖杯による物だとしたらもう倒すしかないぞ、立香ちゃん!』
「彼を止める!お願い、みんな!」
「はい、マスター!」
「・・・俺とは相性最悪のサーヴァント、苦戦必至だ。死んでも文句を言うなよストレンジャー」
立香の声に応えたマシュとディーラーを先頭に、滑走し突進してくるバベッジを応戦するサーヴァント達。しかし、ディーラーの言う通り、苦戦必至であった。
ギャリギャリギャリ、と聞くに堪えない金属音が、声にならない少女の絶叫と共に鳴り響く。それは、正気を失いながらも冷静に立ち回る蒸気王バベッジの手にした杖と一体化した掘削ドリルと、宝具を展開したアシュリーによる鬩ぎ合いの音だった。
片や、少女の身には余る無敵の鎧。片や、蒸気機関で駆動する鋼鉄の巨躯の鎧。共に数多の攻撃を物ともしない、無敵の鎧。
似た宝具を有する、本来非力な者同士の戦いは、寂れた街並みをも飲み込んで行く。建物が崩れ、石畳の道路が捲れ、瓦礫が舞い、ゾンビやウーズが巻き込まれてミンチと化して血飛沫と共に飛び散って行く。
バベッジが掘削ドリルを突き出せば、アシュリーが両腕を振り上げて弾き返す。薙ぎ払えば吹き飛ばされながらも果敢に立ち向かい、突進すれば真正面から受け止めて、それでも吹き飛ばされる。
そんな光景を、マシュにフランと共に守られながら見守る立香の表情に陰が宿る。既にジャックとエヴリンは力尽き、セイバーオルタとモードレッドは次々と現れる大型ヘルタースケルターの相手に手一杯。ディーラーは一撃で跡形もなく吹き飛ばされた後、姿を見せない。
オルガマリーと合流しないで強敵を対面した事を、立香は後悔していた。大人しくアパルメントで待機すべきだったのだ。自分は結局、無力なのだから。
結論を言うと、首魁である三人の魔術師の一人「B」は伊達ではなく、蒸気王チャールズ・バベッジは、強過ぎた。
まず、ヘルタースケルターと同じくメインウェポンである銃器と剣やナイフがまるで通じない。機関の鎧のパワーはセイバークラスの二人やマシュであろうと薙ぎ倒し、ジャックの「
これでクラスはキャスターなのだという。カルデアにいるメディアとクー・フーリンが「ふざけるな」と激怒する三騎士クラスにも迫るスペックは、そう簡単に覆せるものでは無い。
何より厄介なのは数学者として知られ、サーヴァントと化した事で階差機関と半ば一体化した状態のために規格外の計算能力を備えたチャールズ・バベッジの頭脳だ。ジャック、エヴリンの危険性からすぐさま鎮圧し、「マスターの有無」に危険性があるからと他のサーヴァントは一蹴して真っ直ぐ立香を狙い、咄嗟に鎧を展開したアシュリーが割り込み、今に至る。
「マスター、魔力を!このままじゃもたない!」
「う、うん・・・!」
拙いながらも、アシュリーの鎧を維持するために魔力を送る立香。アシュリーはそれに応える様に、フルパワーで両手を突き出し、掘削ドリルを押し返した。しかし、押し返された勢いのままバベッジは掘削ドリルを掲げ、全身から蒸気を噴出しながら勢いよく振り下ろす。
「―――蒸気圧 最大」
「ッ!?」
「鉄槌、一撃」
「先輩、フランさん、伏せて!」
その一撃は今までの比ではなく、アシュリーは耐え切れずに吹き飛ばされ、立香はマシュに言われるままにエヴリンとジャックを抱えてフランと共にマシュの盾の内側で身を縮めた。衝撃波がマシュの盾に直撃し、振動が伝わる。ガンッと重い何かがぶつかったかと思えば、ようやく衝撃波が止んで遥か後ろでゴシャーン!と重い何かが地面に激突した音がした。
ふと我に帰れば、様変わりした周囲の光景が目に入る。爆撃でもあったかのような破壊され、爆心地の様だ。振り返れば、鎧が消失し満身創痍のアシュリーの姿。先程盾にぶつかったのはアシュリーなのだと立香はすぐに思い至り、マシュとセイバー二人にバベッジの相手を任せ、フランにエヴリンとジャックを任せると慌てて駆け寄った。アシュリーは無傷であったが、度重なる慣れない魔力行使によって疲弊しきっていた。
「アシュリー!大丈夫?しっかりして!」
「・・・ごめん、マスター。わたし、やっぱり・・・レオンがいないと何もできない。見ていてもらわないとクランクを回す事も出来ない、無力よ・・・」
「そんなことない!私を助けてくれたのはアシュリーだよ!お願い、私を置いて行かないで・・・」
意識が朦朧とするアシュリーは、涙を浮かべる立香ごしに、バベッジに立ち向かう仲間たちを見た。バベッジの振り回す掘削ドリルを掻い潜りながら幾度も剣を叩きつけるモードレッド、大振りを黒い魔力を纏った剣を振るい相殺するセイバーオルタ、その二人の隙を突いた攻撃を防いでカバーするマシュ。その立ち回りは、彼女が間近で見続けて来た男と同じく、紛う事無き英雄の姿だった。
「・・・ねえ、マスター。お願いがあるの」
「なに?私にできる事なら何でもするよ」
気を引き締め、立ち上がる。負けられない。恐らくは自分よりもか弱いマスターに弱い姿は見せられない。もう、守られるだけではないのだから。
「
スキル、オーバーロードを発動し、鎧の蒸気機関を意図的に暴走させて出力を増幅。赤熱したボディでセイバーオルタとモードレッドを薙ぎ払い、体当たりでマシュを吹き飛ばすとその標的を立香と、その前で構えるアシュリーに見定めると単眼を赤く発光させるバベッジ。
「見果てぬ夢を、ここに。我が空想、我が理想、我が夢想・・・!」
暴走した蒸気機関が損傷してダメージを負うも、関係ないとばかりに背中から蒸気を噴出させて飛び上がり、高速回転する掘削ドリルを構えて立香に向け蒸気を上空に噴出して急降下。鎧を展開し両手を突き出したアシュリーが迎え撃つ。
「――――
「クッ、ゥ・・・ァアアアアアアアッ!」
咄嗟に投げ飛ばした立香がマシュにキャッチされたのを確認し、改めて真正面から衝突するアシュリー。吹き飛ばされそうになりながらも必死に耐える。
受けてみて分かった、これは以前少ししか耐える事が出来なかったアルテラの物と同じ、対軍宝具だ。長くはもたない。それどころか、このまま直撃すれば周囲を巻き込んで破壊の奔流を起こすには間違いない。現にゾンビやらが血をまき散らしながら回転に巻き込まれミンチと化していた。もしも、魔力が途切れて鎧の維持が止まればその瞬間同じ運命を辿るだろう。
これでもこの鎧は城の壁を突き破るドリルを難なく受け止めた実績がある。あとは、自分が慣れない尋常ではない魔力消費に耐えるだけ。しかし、鎧を着て無敵の自分でも悲鳴をあげてしまうシカゴタイプライター以上の衝撃だ、長くは耐えられそうにない。
アシュリーは英雄などではない、一般人だ。ロス・イルミナドスに攫われた経験から胆力はあるものの、度胸はほとんどない。目の前でレオンが銃を構えるだけでも怯えたぐらいだ。死にたくない。アルテラの時は一瞬だった。しかし、じわじわと追い詰められてそう思わざるを得ない程、彼女の心は強くない。もう折れそうだ。
しかし、だ。自分は知っているのだ。レオンと同じく、嫌々ながらも、死地に向かうレオンから私を預かってくれた、彼がこんな状況を見過ごせないお人好しなのだと。・・・それを信じて恐怖に耐えることができるのが、自分なのだと。
「――――そういえば、この武器の性能をストレンジャーに見せる事が無かったからなあ」
バベッジに挽き潰された直後、少し遠方の建物の屋上に出現していたディーラーは、マグナムやらシカゴタイプライターやら己の武器の中でも高火力のそれがまるで効かなかった時点で認識を改めた。
原理は、プラーガが甲冑に入り込んだ事で生まれたガナードの派生体、アルマデューラと同じだ。甲冑に銃弾は通じない。正確には効きはするが殆んどダメージは無い。アルマデューラを倒すには一番脆い兜に大ダメージを与えて外させた頭部から出てきた本体を叩く必要がある。先に進むため「王の聖杯」を取るためにその罠にかかったレオンは大苦戦したのだという。
兜に一撃で大ダメージを与えられるのは、マグナムと・・・そして、ライフルだ。レオンはセミオートライフルで数に対抗していたが、ここではその必要はない。相手は一人。アルマデューラと同じく、急所を狙うだけなら一発でいい。必要なのは堅牢な装甲を撃ち抜く貫通力だ。
「ボルトアクション式ライフル。連射性は悪いが、威力は随一。・・・お嬢様、アンタの頑張りは俺やレオンが知る通りだ。何時も通り助けを求めろ、レオンは居ないから俺が
「ディーラー!マスター!」
「オーライ。決めろ、お嬢様」
「マスタースキル!」
アシュリーの声と共に、トリガーを引くディーラーと、手をかざす立香。放たれた弾丸は蒸気の鎧の継ぎ目部分の一つであろう鳩尾部分を撃ち抜き、それで一瞬攻撃が止んだ瞬間に引き絞られた拳が、煌めく光を纏って弾丸が撃ち込まれ凹んだ鳩尾部分に叩き込まれた。
「―――勝利への確信!」
マスタースキル「勝利への確信」。自軍のサーヴァントに、信頼と言う名の「星」を与え、
それを受けたアシュリーの全身全霊を込めた一撃はクリティカル・・・致命的な一撃となり、バベッジの堅牢なボディに、ディーラーの撃った弾痕を起点に風穴を開ける事に成功した。
「・・・はあ、はあ・・・やった・・・の・・・?」
「アシュリー!・・・お疲れ様」
「ゥゥ!」
力尽き、魔力が解けて甲冑姿から元の私服姿に戻って倒れ込むアシュリーの体を、慌てて駆け寄り優しく受け止める立香とフラン。そんな光景を、風穴を開けられたバベッジは光の粒子へと変わりながら微笑む様に単眼を輝かせた。
「見事であった、か弱き娘よ。そして臆病なマスターよ。シティの地下へ、行くがいい。
「ゥゥ・・・」
「・・・すまぬ。ヴィクターの娘。どうか気にしないくれ。お前の声は聞こえたが…私は、既に、正しき命を有した、人間・・・・・・ではなく・・・妄念の・・・有り得ざるサーヴァント、と、化したのだ・・・」
「関係ない!」
「なに・・・?」
言う事を伝えて、いざ消えようとしていた所に一喝の言葉が向けられ、疑問だとでも言う様に蒸気を噴出させるバベッジ。涙ぐみながら叫んだのは、立香であった。
「意思を通じあえて、話ができて、そんな優しい人が人間ではないなんて、絶対にない!サーヴァントだろうと、ロボットだろうと、ガナードだろうと、根っから人間じゃなくても!関係ない!友達、仲間、家族!ううん、言葉では表せない対等な関係、同じ人間だよ!
フランとバベッジさんだって、そうでしょ?フランの悲しみは、貴方と別れることからなんだから、気にするなとか言うな!残される方は何時だって気にするの!どれだけ悲しいか、苦しいのか分かってるの!?サーヴァントだからってそれに甘えるな、馬鹿!」
「ストレンジャー・・・」
「・・・・・・」
仕事を終えて戻って来てみれば、涙を流しながらせき止めていたものを決壊させる様に言葉を漏らす立香に、何とも言えなくなるディーラー。その後ろには、感銘を受ける様な表情を浮かべるエヴリンの姿もあった。
「・・・解析、不能。だが、言いたいことは、理解した・・・残された者の感情を省みなかった事は詫びよう。だが、残すことしかできない私の意も汲んでくれ。臆病すぎるマスターよ…。私は・・・私は、嗚呼、私の世界を夢見てしまったが・・・しかし・・・それ、とて・・・私の夢を叶えなかった世界であっても・・・
「奴?」
「奴は・・・「M」は、復讐の権化だ・・・何に復讐しようとしているのかは知らないが、例え世界がどうなろうと復讐を果たそうとしている・・・この世に災いをもたらし…全てを地獄の炎で焼き尽くすと言っていた・・・あの日に、喚ばれた事はそれ果たせという
奴とは「M」、マーカスのことだろう。では「あの日」とは。「止めれなかった」とはどういうことか。思考するディーラーを余所に、バベッジはもはや首から上を残すのみの姿で続けた。
「この惨状を生み出したのは奴の仕業だと気付くのに遅れた、必要以上の地獄を生み出してしまった・・・我が発明、アングルボダは、それに加担してしまった・・・悔やんでも悔やみきれぬ・・・カルデアのマスターよ、勝手だとは思うが奴を止めてくれ。時間が無い、急げ。ヴィクターの娘が生きるこの時代を、人理を救ってくれ・・・」
その言葉を最期に、キャスターのサーヴァント、チャールズ・バベッジは消滅した。項垂れるフランをモードレッドが励まし、立香はアシュリーをディーラーから渡された救急スプレーで治療しながら問いかけた。
「まだ行ける、アシュリー?」
「うん、少し休めば行けるけど・・・」
「これからどうするんだストレンジャー。まずは所長達と合流するか?」
「それなんだけど・・・ドクター、所長達に通信は?」
『すまない、報告が遅れた。それが、時計塔から脱出した後から通信が繋がらない。どうやら魔霧が濃いエリアに入ってしまったらしい。これからどうするんだい?』
「まずはフランをアパルメントに帰してから、出発する。ドクターは通信が繋がり次第所長にも伝えてください。目的地は……チャリング・クロス駅、その奥……アシュリー、力を貸して」
「え、あ、うん・・・?」
満面の笑みを浮かべる立香の言う事がいまいち分からないまま頷くアシュリー。そう、彼女のクラスはライダー。その本領発揮である。
「ディーラーも、力を貸してね?」
「・・・どんな無茶でも、できるかぎりは
オケアノスの時から気付いたマスターの事実に、嫌な予感を感じざるを得ないディーラー。このマスター、メディアが一周回って褒めるぐらいに
『あ、マイクに替わる増援に送る準備が整ったけど・・・聞いてないみたいだから後にしようか。ちょっと悲しい。マギマリに相談しようかな・・・』
実はこのまま謎解きの答え合わせまで行ってから終わりたかったけど一万字超えた為断念した今回。アシュリーをかっこよく書くために全力を費やしたのは言うまでもない。
・エクスカリバーの縦穴
前回最後のアレ。ほぼ垂直だが、微妙に斜めに撃ったためやや急な傾斜になっている。何の偶然か、「大空洞」へと通じる横穴と繋がった。ちなみに大英博物館跡地にぽっかり開いているため人的被害は無し。
・ジルのマップ
常時更新される優れもの。腐っても宝具の一部。行けないところまできちんと描かれるためとても便利。
・早めに登場したゴルフォ
実はロンドン編始めから登場していた御二方。召喚されたはいいものの墓場で、リアルゾンビに襲われてずっとスペクタルしてた。モードレッド等他のサーヴァントと出会わなかったのは偶然。スキャグデッドとスカルミリオーネは瞬殺したとの事。この二人、特にフォックスの口調は本当に書きにくい。唐突だけどゴルフォ好きです。
・グレイブディガー
バイオハザード3に登場する割と苦戦するタイプのボスキャラ。ラクーンシティの地下を掘り進んで地震を起こし、最終的にラクーンシティ公園の一角を陥没させた。電気が弱点。つまりゴールデンは天敵。
・チャールズ・バベッジ
強化しようにも感染しようが無い上に、そのままでもディーラーの天敵で立香パーティーに対するアンチであるために魔改造されなかった人。ぶっちゃけ強過ぎると思うんです。「M」の暴走に気付きながらもサーヴァントである事を理由に静観していたことを悔やんでいた。大事に思っているヴィクターの娘であるフランに向けた言葉は、立香の逆鱗に触れた。
・無敵の鎧対決
偶然にも成立してしまったバイオ最強の鎧VSFateのまあまあ最強の鎧の対決。火力はバベッジ、防御力はアシュリーに軍配が上がった。
・アシュリー・グラハムという存在
根っからの「助けられる側」。守る事ではなく、助けられる側でこそ真価を発揮する。守ってくれる誰かを信じて耐え忍べる事こそが彼女の強さであると心底思う。若干五月蠅いけど。
・ライフル>甲冑の方程式
バイオ4の強敵の一つ、アルマデューラ。道中手に入るマグナムを逃した場合、もっぱら対抗手段になるのはライフルであることから。マシンピストルでも数十発いる甲冑の兜を一撃で吹き飛ばす威力を誇る。実際甲冑やら盾やらで防御を固めた敵に強い武器である。
・勝利への確信
限定仕様ハンドガンと同じく少しメタ的な仕様になったマスタースキル。実際は大量のスターを配布させるだけ。ロイヤルブランドと同じくレアプリ以外で手に入る機会とかないものか。
・色々決壊した立香
サーヴァントであるからとかを言い訳にされてキレた立香さん。殆んどディーラーへの文句なのは御愛嬌。支離滅裂過ぎた気もするけどこれがこの作品の藤丸立香。
ちなみに言っていることの元ネタは「ほうかご百物語」の経島先輩の言。曰く妖怪だろうが意志疎通ができれば関係ない。
そんな訳でロンドン編も終盤に入りました。本当に長いですね。冬木編とフランス編とローマ編を合わせて同じぐらいにならない事が目標です。
次回、VS「M」その正体が明らかに。バイオの人類史が生んでしまった怪物を前にカルデアはどう立ち向かうのか。次回もお楽しみに!よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。―――今回は本当に励みになりました、ありがとうございます!