Fate/Grand Order【The arms dealer】   作:放仮ごdz

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ウェルカム!ストレンジャー…前回から一ヶ月経つ前になんとか投稿できたものの危機感を抱いている放仮ごです。三章までの更新スピードは何処に行ったのか。元々ロンドンは長いのに、色々付けまくった弊害ですね。せっかく混ぜれる要素があるのにつかわないのはもったいない精神です。

早い物でUAも130,000突破。ありがとうございます。やっと山場が終わったのでここから早いと思いますのでこれからもどうぞよろしくお願いします。

今回は探索回。時計塔に向かうオルガマリー達と、ヘルタースケルターの謎を追う立香達に別れます。三角頭と脚本家も宝具を発揮。楽しんでいただけると幸いです。


時計塔探索だストレンジャー

束の間の休息に浸るジキルのアパルメント。一通りの情報交換を終えると、アンデルセンとシェイクスピアが書斎に籠ってアシュリーは二人について行き、ジキルはそのまま二人のマスターから情報をメモに纏めていた。

 

 

「・・・なるほど。ウイルスに感染した魔本が変異したクリーチャーに、スコットランドヤード全滅。そんなことになっていたのか。ともかくお疲れさま。まずはアンデルセン氏の言う通り休息を取って欲しい。先程アシュリーが淹れてくれた紅茶だ。よければ」

 

「ありがたくいただきます・・・」

 

「ああ、生き返るわ。外はむせ返る様な血とカビの匂いと蒸気と湿気に塗れていたし」

 

「はい、もうぐったりで・・・オケアノスでも船酔いが酷かったけどここは単純に何か嫌です・・・」

 

 

ジキルの言葉に、とりあえず休息を取る事にした二人のマスターは差し出されたコップを一飲み、一息吐いた。戦闘中はさほど気にしなかったが、今のロンドンは魔霧を差し引いても酷い環境下にある。ゾンビや被害者の物と思われる血痕から香る鉄の匂い、モールデッドが生み出されるカビの匂い、そのカビが蔓延る原因ともなっている湿気に、ヘルタースケルターの動力と思われる蒸気。

窓が割れてしまった事で少し入り、ゾンビの返り血が飛び散ったりもしたが、それでも室内と言うだけでまだマシである。二人は客用ソファにそれぞれ倒れ込み、立香はソファの背もたれに俯せでもたれかかり、オルガマリーは仰向けにソファの上に横になった。

ジルも休息のために壁の隅に蹲り、エヴリンとジャックはとりあえず開いた広い床にくつろぐ。この地獄を生き抜いただけあって疲労が溜まっていた様だ。

 

 

「先輩、所長、無理せず休んでください。今後はお二方のバイタル管理にも気を付けますね」

 

『あれ、それ僕の仕事なんだけど・・・?』

 

「むしろお前が休めドクター。誰よりも一番働いている奴がそこまで頭が回る訳ないだろう?」

 

「ああ、旦那様大丈夫ですか?気が利かない私で申し訳ありません!おかゆでも作りましょうか?」

 

「おい、うるせーぞ!休めるものも休まらねーだろ!」

 

 

マシュの言葉にぼやいたロマンにディーラーがツッコむのを余所に、どたばたと清姫が混乱して目を回しながら走り回るのを、ジキルの個人用ソファにふんぞり返ったモードレッドが一蹴。その声に落ち着いた清姫はいそいそとマシュを連れて厨房に引っ込んだ。それを見て困った笑みを浮かべたジキルは、顔を引き締めて確認のため口を開いた。

 

 

「しかし、そうか。ヘルタースケルターはそんなに量産が効かないかと思っていたけど、ゾンビに反比例する様にむしろ増えているのか・・・」

 

「ゾンビやオートマタと違って銃が効かないから、サーヴァントの皆に任せるしかない強敵でした」

 

「あちらとしてもゾンビの存在は好ましくないみたいね。シェイクスピアみたいな弱小サーヴァントが襲われるのを懼れているのかしら。フランケンシュタイン博士を殺害して、三角頭のチェイサーに倒されたサーヴァントは、恐らく彼らの手駒だったのでしょうね」

 

「私たちの様な、魔霧から自然に現界した英霊を手駒にしていたと考えるのが自然ね。私に接触が無かったのは、恐らくすぐに隠れながら移動していたからかしら。まさかバイオハザードの経験が役立つなんてね、もう操られて利用されるのはこりごりだし助かったわ。アンデルセンが無事なのはほとんど古書店に籠っていたから?ナーサリー・ライムは接触があったかどうかも不明だけど・・・貴女達は彷徨っていたみたいだけど何か覚えはある?エヴリン、ジャック?」

 

「変な優男がジャックを唆そうとしていたからファット・モールデッドを嗾けたら逃げてったけど」

 

「それぐらいかな?おかあさんに会わせてくれるって言ってた」

 

 

起き上がったオルガマリーの考察に続いたジルの質問に、何でもない様に言うエヴリンとジャック。そんな様子に胸を撫で下ろす立香。もしかしたら今頃、ジャックたちを倒してないと行けなかったのかもしれないのだから当然であった。

 

 

「あー・・・接触はしたけどエヴリンに邪魔されたのか。もしエヴリンがいなかったらジャックが敵に回っていたのかも。そんなの嫌だ、ありがとうエヴリン」

 

「・・・私を褒めても何も出ないよ?」

 

「何も求めてない。あんなことしたのに、仲間になってくれて・・・いい子だね、エヴリンは」

 

「・・・私はいい子?だったら、家族になれるね」

 

「へ・・・?」

 

 

立香の言葉に、笑みを浮かべたエヴリンは、すぐに笑みを消した。今の発言を理解していないであろう立香に、再び怒りがぶり返したのだ。

 

 

「・・・やっぱり嫌。お前はママにしたくない。もう話しかけないで」

 

「え、うん・・・」

 

 

笑ってくれたのにまた嫌われ、しょぼんと落ち込む立香。ぼんやりと受け答えし、自業自得だと気付かない辺り疲弊しているのが目に見える。そんな立香を見かねたのか、モードレッドが口を開いた。

 

 

「まあいい。考えるのはジキル、お前の仕事だ。オレ達実働隊は連戦続きで疲れた、ここで十分休ませてもらうぜ。・・・そうだ、考えるって言えばそれしか能の無いゴクツブシがいるじゃねえか。それも二人も。ジキル、書斎に籠ったあいつ等は何をやってるんだ?」

 

「呼んだか?」

 

「お呼びですかな!?」

 

「モードレッド卿、貴方は黙ってなさい。もっと的確に言うのであれば失言しない様に寝てなさい。マスター達には休息の時が必要です。五月蠅い輩はお呼びじゃない」

 

「超一級のフラグ建築士だな貴様は。寝れないというなら眠らせてやろう。優しくは保証しないが」

 

「・・・すまない父上。だからそんな怖い顔はしないでくれ、オレだってうんざりしてるんだ!」

 

「「問答無用!」」

 

「ギャー!?」

 

 

言われるなり顔を出してきた五月蠅い作家二名に、げんなりした騎士王二人による愛(?)の鉄拳制裁を受けて気絶するモードレッド。ブリテン親子はこれでも平和である。少なくとも無視されず怒ってもらえてモードレッドは満足したのかスヤーと安らかに眠っていた。そのまま床に座る騎士王コンビにどうとも言えない表情を浮かべるマスター二人。そんな光景をニヤニヤ見ていた作家コンビに、気になった事があったディーラーが歩み寄った。

 

 

「どうだアンデルセン。お嬢様はアンタ達の世話をできているか?」

 

「紅茶の味は上の上だがそれ以外は最悪だな。今は必死になって散らばった本を直しているところだ。あれは偉い所のお嬢様か何かか?本の整理ぐらいはできてほしいものだ。しかしお前達はネタに事欠かんな。これで父子なのだというから面白い」

 

「余計なお世話です。少なくとも私は息子とは認めていません」

 

「奇遇だな青、私もだ」

 

「そこは娘ではないのか?そうだ、言い忘れていた。俺達が何をしているか、だったな。この演劇作家はひたすら例のものを書き上げているが、俺は違う。仕事なんざ極力したくないからな。だが気になる事があってな。お前たちが言うこれまでの経緯・・・七つの特異点と言う奴だ。いや、正しくは「聖杯戦争」という魔術儀式に引っ掛かるものがあるというか・・・判断するには材料が足りない。正直に言って、行き詰まりかけている。首魁だというソロモン王とやらが出てくれば話は別だが・・・」

 

「物語で言うならば四つ目はいわゆる中間、何かアクションが合ってもいいものですからな!このロンドンの惨状が彼の王さえも予想だにしない事ならば、介入してくる可能性大ですぞ!」

 

「不吉な事を言わないで欲しいわ・・・」

 

 

アンデルセンとシェイクスピアの言葉にげんなりするオルガマリー。当り前だ。例え首謀者だろうが、これほどの事ができる怪物にわざわざ会おうとは思えない。遭うにしてももう少し戦力が整って万全の体勢でが好ましい、むしろ遭いたくないというのがヘタレな彼女の本音である。立香は夢で見たヴィジョンが一瞬脳裏に浮かんだが、疲れているので言わない事にした。

 

 

『あー、すまない。そろそろ話を戻していいかな?現状の確認と、今後の方針について』

 

「ええ、お願い。今はそんなに頭が働かないから簡潔にね」

 

「ドクター、これからどうすれば?もうジキルさんも情報は得てないみたいだけど・・・」

 

『まず、幸運なのは恐らく敵の認識がゾンビ・ウーズの対処と魔霧に注がれている点だね。こちらを殲滅するつもりなら、既に本拠地が割れているここに再び襲撃して来ても可笑しくないんだ』

 

「このアパルメントの付近にいたヒルは私とモードレッドが退治しました。あちらもこちらの場所が割れていないのでは?」

 

『いいや、手当たり次第家屋を破壊する事も出来るはずなんだ。そうしないということは、魔霧の及ぶ街路しか敵は認識していない。そこを突ければいいのだけど・・・さすがに、今までみたいに外での長時間活動は今の二人やサーヴァント達の状態から見ても無理がある。あまりにも負担が大きい』

 

「私が思うに、ヘルタースケルターさえ何とかなれば、他は私達も銃で何とか対応できる。でも・・・」

 

「その手段が無いのか。まず一体一体がセイバーのサーヴァントと戦える戦闘力が持っている。どうやって造られているのかも分からない、何体いるのかさえもだ。困ったな、手詰まりになりそうだ」

 

 

立香の意見に続けて見解を述べるジキル。ゾンビ・ウーズ・モールデッド・ホムンクルス・オートマタはどうとでもなる。しかし問題はロンドンのエネミーの中でも強い部類に入るヘルタースケルターの存在だった。

 

 

「ヘルタースケルターって剣を持ったロボットよね?一応、私のグレネードランチャーの硫酸弾が効く事が分かっているわ。アイテムボックスもこの家にあったし、ガンパウダーを調合してある程度は増やせるけど・・・」

 

「それでは根本的な解決には繋がらないだろう、ジル・バレンタイン。ふむ、方針が決まらないのか。よし、では俺の考察を裏付けるための資料を集めるというのはどうだ。ようはお使いだな。体力が残っていればの話だが」

 

「体力なら、それなりに・・・気分もアシュリーの紅茶のおかげか直りました」

 

「ほとんど長距離移動はサーヴァント任せだったしね・・・でも、このロンドンで資料を集めるなんて、まさか・・・」

 

「おいおい。ここはロンドンだぞ?であれば自ずと行先は決まっている」

 

「決まっている?」

 

「ええ、決まっているのよ藤丸。西暦以降、魔術師達にとって中心とも言える、かく言う私も現代で通っていた巨大学院――――魔術協会、時計塔よ」

 

 

魔術関係が分からない立香に懇切丁寧説明するオルガマリー。彼女にとってはカルデアに来る前から馴染みのある場所、その過去だ。場所は大英博物館を入り口に、リージェントパークからウェストミンスターにかけての地下と遠出だが、探索域を広げるのは悪い話ではない。現状、何もできないのだから。

 

 

「そうだ。世界に於ける神秘を解き明かす巨大学府がこのロンドンには存在している、活用しない手があるか?」

 

「でも、この現状で時計塔が健在するなら当然、ジキル氏が連絡を取り合っていると思うのだけれど。スコットランドヤードの話はあっても、魔術協会関連の話は聞かなかったわ」

 

「・・・話す必要がなかったからね。モードレッドと出会ってすぐに確認したが、入り口の大英博物館は瓦礫の廃墟となっていた。珍しい事に、完膚なきまでに建物が破壊されていたんだ。今思えば「魔霧計画」の首謀者たちによって反抗の可能性を叩き潰されたのかもしれない」

 

「そんな、時計塔が・・・!?」

 

「破壊されていても構わん。魔術師達が生きているならそれに超したことはないが、このゾンビの群れだ。例え魔霧に耐えられたとしてもアレは一溜まりないだろう」

 

 

そのアンデルセンの言葉を聞いてラクーンシティ脱出の際に立ち寄った警察署の惨状を思い出したのか、ジルが頷く。いくら籠ろうと殆んど意味が無い。そう知っているが故の確信だった。特に地下とか信用ならないのだ。

 

 

「だが影響はない、必要なのは記録だ。資料だ。重要な資料庫の類なら相当に頑丈な封印なりで守られているのは確実だろう。オルガマリーの顔を見れば当たっているのは分かる。そこまで俺を連れて行け」

 

「でしたら吾輩も同行いたしましょう。神秘の学府の跡地となれば、閃きの源泉にもなるはず!」

 

「だったら私も行くわ。アンデルセンのボディーガードを最後までできなかったし、仕掛けの類なら得意分野よ。ゾンビの相手も任せて頂戴」

 

 

アンデルセン、シェイクスピア、ジル。その三人が行くことになった時計塔、ならばと立香がマスターとして同行しようと手を上げようとするが、それはオルガマリーの手で止められた。

 

 

「所長・・・?私なら大丈夫です、全然行けますよ」

 

「いいえ、藤丸はここの守りをお願い。モードレッドもこのままここに置いて行くわ。またゾンビの群れが襲撃してこないとも限らないし、司令官が必要でしょ?それに時計塔なら私の方が適任よ。・・・この非常時、時計塔に保管されていたであろう触媒を持ち出すのも手ね。戦力増強は未だに必要事項だから」

 

「・・・分かりました」

 

 

オルガマリーの言葉に納得した立香は大人しく引き下がった。すると碩学者として興味が出たジキルが名乗り出た。

 

 

「よし、それなら僕も付いて行こう。魔術についてはこの場でも詳しい部類だと思うよ。それにいざという時は役に立つ。奥の手があるからね」

 

「では、出発だ。かつての華やかなりし神秘の学府を尋ねるとしよう」

 

 

ジキルも加わり、オルガマリーとそのサーヴァントを筆頭に彼らは外へ出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数刻後、ロマンから今度はゾンビではなくヘルタースケルターがアパルメントの周囲に現れたと聞き、気絶しているモードレッドを残して迎撃に出た立香たち。エヴリンの呼び出したモールデッドで拘束しそこを仕留めるという戦法で危なげなく勝利を得た彼女達は、アパルメントへと戻り傷の手当てをしていた。

 

 

「おかあさん、片付けたよ」

 

「お疲れ、みんな。特にエヴリン、ありがとう!」

 

「私に近付くな」

 

「うぐっ・・・」

 

「せ、先輩、落ち込まないでください。何はともあれヘルタースケルターの撃退、完了です!」

 

「この程度なら銃が効かないというハンデがあっても何とかなるな。愚息め、何時まで寝ている、まったく・・・」

 

「数の暴力さえなければこんなものか、と言いたいところだがロケットランチャーしか通じないのは俺個人としては誠に遺憾だぜストレンジャー」

 

「ははは・・・」

 

 

エヴリンを撫でようとしたらキレられて落ち込む立香を宥めるマシュ、自分達で鎮めたモードレッドが起きて来ない事に文句を垂らすセイバーオルタと、自らの武器が通じない事にぶつぶつと抗議するディーラーに苦笑いを浮かべるアシュリー。

 

 

『そうだ、立香ちゃん、マシュ。後で所長にも教えるつもりだけど実は、ヘルタースケルターの解析が進んだんだ!』

 

「ロマン、何時の間に?」

 

「俺が残骸を回収しておいた。魔本騒動の前に休憩した時があっただろ?あの時に、マシュに頼んで送ってもらったんだストレンジャー。俺としても理由も分からず銃が効かないのは納得がいかん」

 

『それを、ダ・ヴィンチちゃんと一緒に・・・アレは僕らには不明な技術で作られた機械だ。恐らくは魔力で作られた機械、のはずだ』

 

「カルデアみたいに魔術と科学の融合だったり?」

 

『少し違うな。魔力で作られているが機械。要は、あれは宝具なんだ。魔力によって編み上げられた力あるかたち。エクスカリバーとかの剣の宝具は「鋭い刃」の宝具である代わりにヘルタースケルターは「戦う機械」の宝具。つまりは作り出しているサーヴァントがいる、自立稼働ではなくリモコンで動くロボット軍団さ。リモコンである何かを壊せば全機が停止するはずさ』

 

「つまり、サドラーの様な余程の例外を除けば宝具の所有者であるサーヴァントを倒せば・・・」

 

「連中は消え失せる。なんだ、一気に話が見えてきたな」

 

 

そう言ったのはモードレッド。戦闘音で目を覚まして来たようだ。立香からオルガマリー達が時計塔に向かったと説明を受け、ジキルが行ったのに置いて行かれたのは納得いかんとばかりに苛立っていたが、ヘルタースケルターをどうにかできると聞いてご満悦だ。

 

 

「遅いお目覚めだな騎士様?騎士王様の鉄拳は余程寝つきがいいらしい」

 

「うるせえ。夢に見た父上の愛の鉄拳とか嬉しくねーし、勘違いすんな!このところ起きっぱなしでゾンビ共を狩っていて疲れが溜まってんだよ!」

 

「そりゃお疲れ様だ、むしろもっと休んでもらいたいところだがサーヴァントらしく働いてもらうぞ騎士様。それで、ロマン。肝心な事を忘れちゃいないか?」

 

『はい?』

 

「そうですドクター。宝具の所有サーヴァントの所在はどこでしょうか?」

 

『あ。えー、はい・・・その・・・分かりません。そこまではさすがにダ・ヴィンチちゃんもお手上げで・・・』

 

「分かりませんで済んだらナビゲーターはいらん」

 

『ウッ。面目ない』

 

 

己に続いたマシュの問いかけに対するロマンの返答をバッサリ切るディーラー。割とリアリストである彼の辛辣な言葉に苦笑しながら立香は嗜める。

 

 

「そ、そこまで言わなくても・・・ディーラー、ドクターたちも頑張って分かった事もあるんだし・・・」

 

「忘れたのかストレンジャー。今、ここはバイオハザードの真っ只中にあるんだぞ。時間がものを言う。犠牲者は刻一刻と増える一方だ。有体に言えば、事件は会議室ではなく現場で起きてるんです、って奴だ。これで合ってるよなドクターロマン」

 

『ぐうの音もありません。でも医療セクションのスタッフなんです僕、それにしては頑張っている方だと思うんです・・・』

 

「言っている暇があったら何か考えろ。やるべきことは決まっているのにどこに行けばいいか分からんとは本末転倒にも程がある」

 

『リモコンであるならば魔力を辿るのが正攻法なんだろうけど、この魔霧の中じゃカルデアの技術では無理がある。セイバーオルタの直感のスキルはどうだろう?』

 

「少なくとも今は何も感じない。私もお手上げだ。・・・いや待て、どうやら私よりも適任の者がいるらしい」

 

 

そう言ってセイバーオルタが視線を向けたのは、先程から「・・・ァ・・・ァ・・・」とちらちらと己の存在を知らせていたフラン。しかし手振り身振りで彼女の言葉が分かるのはこの場では二人だけだ。

 

 

「マシュ、お願いできる?」

 

「はい、先輩。えっと・・・え、本当ですか!?・・・先輩、フランさんなら「リモコン」の場所が分かるそうなんです」

 

「ええ!?」

 

「確認だ、お前は奴等を操る魔力の痕跡を知覚できるのか?」

 

「そうと分かれば話は早い。さっそく行動開始と行こうぜ立香!オルガマリーだけに任せてられるか!」

 

 

ディーラーの問に頷くフランに、モードレッドの一声で探索に出かける事にした立香達。その行動は反撃となるのか否や。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、倒壊した大英博物館・・・時計塔の地下通路から出現した血塗れの魔本の様なエネミー・・・スペルブックの群れを撃破しながら進んだ先で見付けた書庫にて、持ちだし不可能の魔術がかけられた資料をアンデルセンが読み終えるまでスペルブックに加えてヘルタースケルター、そしてゾンビとウーズの襲撃を防ぎ続ける事を強いられるオルガマリー。

 

地下道なため宝具を使う訳には行かず、アルトリアが斬り、オルガマリーが撃ち、シェイクスピアが囮になり、清姫が燃やし、ジルが燃やし溶かし、斬って撃って蹴り飛ばす。明らかに一人だけ過剰に働いているのは歴戦の勇士かさすがと言うべきか。

 

 

「来た、来た来た来た来たァッ!」

 

 

しかしジキルが「奥の手」である特製の霊薬を自らに打ち込み、後世に伝わる小説「ジキルとハイド」通りの変貌を遂げてエドワード・ハイドになったことで形成は逆転。したのだが・・・

 

 

「完了だ。目当ての資料はおおむね解読終了できた。それにいくつか興味深い本もあったから個人的好奇心も充足したぞ。お前達、お手柄だ」

 

「個人的好奇心・・・ですって・・・?ま、まあいいわ。とにかく脱出しましょう・・・!?」

 

 

少し文句を言いたかったが、そんなことしている場合じゃないとアンデルセンを連れて退却しようと試みたオルガマリーの眼前に飛び出し、襲い掛かろうとしていたヘルタースケルターを串刺しにして持ち上げ、投げ捨てたのは見覚えのある赤い三角頭の巨人。確認するなり、アルトリアが飛び出して剣を振り下ろすも叩き落とされてしまう。

 

 

「三角頭の追跡者(チェイサー)・・・、レッドピラミッドシング・・・!こんなところまで・・・アルトリア、地下じゃこちらが不利よ!地上まで誘導する!」

 

「ヒャハハッ、関係ねえ!ここでぶっ潰せばいいんだよ!」

 

「なっ!?駄目よ、貴方だけは絶対に!」

 

 

間髪入れずに飛び出した彼に向けたオルガマリーの静止も聞かずに襲撃者、レッドピラミッドシングに先手必勝とばかりに怪力を利用したナイフによる斬撃を叩き込むハイド。その一撃は確かに大男の胴体を大きく斬り裂いた。霊核とまでは行かないが、重傷を負わせた、はずだった。

 

 

「んあ゛ぁ!?何の冗談だこりゃ?」

 

 

がくり、とその巨体が倒れ込んだかと思えば、何時の間にか六人に増えて大鉈を振り上げたレッドピラミッドシングの振り下ろしを、咄嗟に跳躍したオルガマリーが庇い、それをカバーする様にアルトリアの風王結界が弾き返す事で何とか回避。暴れるハイドを清姫に抑え込んでもらったオルガマリーは、以前見た三角頭のチェイサーのマテリアルの内容を思い出していた。

それは、あまりにもエドワード・ハイドにとって相性最悪の宝具。相手の「殺人」の罪を具現化し、その罪を直視するまで不死身と化して追い続ける悪夢の様な宝具。恐らくは、オルガマリー自らにとっても最悪な、彼の名に冠したランクAの対罪宝具【赤い三角頭の処刑執行人(レッドピラミッドシング)】。ハイドやジャックの様なサイコな連続殺人鬼(シリアルキラー)がいる場合、対処は不可能と断じるしかなかった。

 

 

「・・・五人と、ジキル。小説通りなら、エドワード・ハイドの犠牲者の数・・・つまり、ハイド本人が殺人の罪を認めないと、勝てない・・・?」

 

「あぁん?それがなんだっていうんだ!俺は、悪逆をこそ愛する!これが俺の「殺人」だって?ハハハハハッ!……残念でしたぁ。そんなのは「罪」とか関係ないんだよ。どいつもこいつも皆殺しだぁ!」

 

「あーもう、アルトリア!このバカを黙らせなさい!清姫、足止めを!」

 

 

アンデルセンを担いで逃げる気満々のオルガマリーの命令でそれぞれ動く彼女のサーヴァント達。まだ暴れようとするハイドをアルトリアが拳で気絶させ、狭い通路を阻む様に清姫が炎の壁を作り上げる。だがしかし、それを易々と乗り越えてくる三角頭六体。不死身の体は伊達ではない。

 

 

「物理で駄目なら・・・シェイクスピア!例の奴!宝具で奴を閉じ込めて!」

 

「ええい、致し方なし!なにせ逃げ切れる気が全くしませんし!急造で悪いが我が物語、貴方のマテリアルを見た吾輩の描くとっておきの短編脚本を堪能せよ!

さあ、我が宝具の幕開けだ!席に座れ!煙草は止めろ!写真撮影お断り!野卑な罵声は真っ平御免!世界は我が手、我が舞台!開演を此処に―――万雷の喝采を!」

 

 

オルガマリーの言葉に、不服だとばかりにシェイクスピアが取り出したるは何の変哲もないメモ帳。書くものが無かったのでオルガマリーに借りたそれに記された題名は、『霧の丘の処刑人(サイレントヒル)』。

 

 

「我が宝具の題名は、開演の刻は来たれり、此処に万雷の喝采を(ファースト・フォリオ)!開演!」

 

 

これぞ、オルガマリーの考えた対抗策。世界を閉塞させ、脚本を産み出し、物語を強制させる。対象者を自作劇の登場人物に仕立て上げ、その上で対象者に難題を突きつける。シェイクスピアの有する世界改変型宝具だ。今回のそれは「二次創作」であり、オルガマリーの渡したマテリアルから喜劇悲劇が大好きなシェイクスピアの考えたもの。

過去を繰り返して彼の在り方に働きかけ・・・確実に、その動きを阻害(スタン)した。完全に停止した六体のレッドピラミッドシングに踵を返して立ち去ろうとするオルガマリー達の前方。出口方面から先程倒して燃やし損ねたゾンビが変異したのかクリムゾンヘッドが数体駆けてきて、即座に構えて迎撃。アンデルセンは自身を抱えるオルガマリーと、その側に立つジルの、すぐ近くで鳴り響く銃声に顔を顰めた。

 

 

「おい、オルガマリー」

 

「何かしら、今忙しいのだけど!」

 

「どうせここの真上は崩壊した博物館だ。一発でかいのをぶちかましてそこから脱出するぞ。何時あの三角頭が動き出すか分からん」

 

「・・・それしかないわね。アルトリア、上に向けて宝具を!できれば敵を巻き込む様に!清姫、ジル、離脱するわよ!」

 

 

オルガマリーの指示を受け、渾身のエクスカリバーが大地を穿つ。融解し崩れていく天井を伝って脱出したオルガマリー達の去った場にて。

 

 

 

 

復活した三角頭の追跡者は何時の間にか一体に戻り、次の標的を捜す様に立ち去った。それは、ヘンリー・ジキルがエドワード・ハイドの分まで罪を背負おうと改めて覚悟した故だからこそ。もしもそうそう変われない英霊であるならば・・・これは、レッドピラミッドシングを撃退するのは、人間の強さと弱さだということである。

 

血塗れの処刑人は、己が召喚された理由である罪人を捜すために、何の因果がかつてのジェームズと同じく地下深くへと進んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、これかなおかあさん?」

 

「何かすぐに壊れたけど・・・」

 

「あ、うん。多分そうみたい?」

 

 

同時刻。フランの案内でウェストミンスターまで訪れてやっと見つけた宝具の本体、リモコンと思われる大型のヘルタースケルターを、エヴリンとジャックのコンビがあっさりと破壊してしまい、全てのヘルタースケルターが停止した事で拍子抜けしてしまい、空笑いを浮かべる立香の姿があった。

 

 

しかし、程なくして再起動したヘルタースケルターの脅威は収まらない。彼らの秀でている事は、文字通りの機械の体だ。ゾンビに噛まれ様が、ウーズに吸い付かれ様が、モールデッドに引っ掛かれようが、銃で撃たれようとビクともしないのだ。バイオハザードに対する究極の対抗勢力(アンチ)。その親玉が、わざわざ安全なところで指示を出す訳がないのだ。

 

 

アパルメントへの帰り道、ロンドンの中央にて立香達は、クリムゾンヘッドの群れを挽き潰していた彼に直面した。

 

 

「―――――聞け。聞け。聞け。我が名は蒸気王。有り得た未来を掴むこと叶わず、仮初として消え果てた、儚き空想世界の王である」

 

 

ディーラーのシカゴタイプライターも物ともしない鉄の巨人、蒸気王チャールズ・バベッジが、立香達の前に立ちはだかった。




今回はぶっちゃけ、色んなフラグを準備するための回。

・今章が亀更新な理由。
元々が、無駄に戦闘だけのパートが多かったり、行ったりきたりを繰り返すのでルートを把握するのが大変なんです。なので今回、二つに分ける事で一気に省略しました。

・実は酷い環境に参っていたマスターコンビ
ダ・ヴィンチちゃん製チョーカーによりウィルスの影響を受けないとはいえ、元々の最悪の環境下で気分が滅入っていた二人。特に立香の方が酷くてメンタル面にダイレクト。

・エヴリン介入によりジャックが敵になるルート廃止
実は当初は立香側に着いたエヴリンとパラケルススの連れたジャックが激突する構成だったのですが、どうしてもジャックを味方に入れなくてはいけなくなったため、せっかくだしコンビにしてしまおうとこうなりました。

・相変わらず情緒不安定なエヴリン
立香に対してデレたかと思えばすぐに敵視する忙しいエヴリン。ちなみに未だにクラス名が分かっていません。エヴリンもジャックと同じで今回必須です。

・父上コンビに制裁されるモードレッド
言わずもがな天国。アルトリア二人も嫌ではない模様。そのうちかっこいいモーさんが出るから許して。

・時計塔
魔術師に置ける重要拠点の一つ。今やゾンビとスペルブック等の巣窟で狭いため現在のロンドンで最も危険地帯である。時計塔に所属していたオルガマリー担当。

・ヘルタースケルター
リモコンで動く戦う機械の宝具。元々は人を殺す事に特化した殺人機械兵だが、ゾンビ等の出現によりそれらを駆逐する最も効率のいい手段と化した。スキャグデッド相手でも数体で囲めば鎮圧できるが、ネメシスやレッドピラミッドシング相手ではどうしようもない。
銃弾が通じず、ジルの硫酸弾やディーラーのロケットランチャーでしか真面にダメージが入らない強敵。しかしリモコンである大型ヘルタースケルターはエヴリンの胃酸攻撃で脆くなったところにジャックが細切れした事で瞬殺された。相性で強くも弱くもなる分かりやすい例。

・エドワード・ハイド
ヘンリー・ジキルの「悪」の側面であり、薬を使う事で現れる奥の手。過去に、五人もの人間を殺害したシリアルキラーでもある。凶暴で手が付けられず、もし前回の籠城戦で使っていたらどうなっていたかは想像に難しくない。レッドピラミッドシングとの相性は最悪だが、生前であったことが功を奏した。

・レッドピラミッドシングの動向
あっちへふらふら、こっちへふらふらとロンドンを彷徨っていた目的は己の召喚された理由探し。目に着いた「悪」を片っ端から惨殺していた。かつてのジェームズが精神世界だったが、現実の地下深くへと落ちて行く彼の行く先は・・・?弱点が精神攻撃だと判明した。

・シェイクスピアの宝具
レッドピラミッドシングに対する対抗手段の一つ。作者はアポクリファアニメ未視聴の為、使い方や表現がよく分からず、1.5部の使い方を元にした。使い方が間違っていて、もし指摘されたら書き直しも辞さない覚悟。

・チャールズ・バベッジ
サドラーやランスロットと同じく、ディーラーにとって天敵とも言えるサーヴァント。対抗手段は・・・?


次回、立香一行VSチャールズ・バベッジ。そして敵の本拠地へ・・・?次回もお楽しみに!よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。

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