Fate/Grand Order【The arms dealer】 作:放仮ごdz
久々の投稿ですがまだロンドン編続きができて無いためにエイプリールフールな番外編です。原作はバイオ7となります。主人公は原作主人公のイーサン。楽しんでいただけると幸いです。
アメリカ、ルイジアナ州の片田舎に聳え立つ、かつて農家だったと分かる不気味な「ベイカー家」の屋敷の地下にて、男は一人、ハンドガン・・・グロッグ17を手に慎重に歩を進めていた。
もうここに訪れるのは何度目か。脱出する手立てを捜して彷徨い歩く男は、もう何度目かも分からない“襲撃”を退け、警戒しつつそろりそろりと進んでいる。もう何度もここを通っているが決して油断はできない。
背中にベルトを通して身に着けている、謎の仕掛けを突破して手に入れたショットガン・・・イサカM37にも、今手にしているハンドガンと同じく死亡した保安官補佐からいただいたポケットナイフも、ズボンのポケットから直ぐに取り出せるように身構えている。
電話で助言する声しか聞かせない謎の女性「ゾイ」の言葉を頼りに、玄関の鍵を開けるのに必要なケルベロスのレリーフを探していた。先刻仕掛けを解いて見付けた鍵で、ようやく地下の奥深く、地図には「解体場」と「死体保管庫」と書かれたエリアに行ける。この本館には他にもまだ行っていない部屋はあるものの、心当たりはそこしかない。
かつてはバスルームだったと思われる、黒いカビに覆われた部屋に入る。以前やって来た時と同じく、黒い異形の人型・・・モールデッドが現れ、襲い掛かってくるも男は動じずにハンドガンを頭部に標準を向けた。
「お前等に構っている暇はないんだよ、クソッたれ!」
引き金を引き、目と思われる部分を吹き飛ばして怯ませるとすかさず両肩に連射。両腕がもげて転倒しじたばたともがく異形の頭部にナイフを突き立てて粉砕、仮初の勝利を納めた。
しかし騒ぎを聞きつけてあたりかしこから新手のモールデッドが湧き出してくるのを感じて、男は全力疾走。奥のボイラー室に入るや否や扉を閉めて息を整えた。
モールデッドは「彼等」と違って知能があまりないのか、ドアノブを握って扉を開けてきたりはしない。だからこそ男は安心していたのだが・・・その一時の安堵は簡単に打ち砕かれた。
「マジかよ!?」
異変を感じ、扉の傍から飛び退いた直後。モールデッドの力ではビクともしない扉があっさりと粉砕され、高笑いを上げながら現れた。
「フハハハハハッ!」
「コイツ、喋るのか!?」
黒いカビに覆われた、全身真っ黒のそれはモールデッドに似てはいるが間違いなく違う。その存在感は、彼を追跡する「彼等」に近いもののそれとも違う。存在感が、圧倒的に違うそれは・・・その男は、マッスルだった。
「我等をこんな場所に閉じ込める圧政者よ!傲慢が潰え、強者の驕りが蹴散らされる刻が来たぞ!さあ、彼女のためにも、潔く観念したまえ!」
「彼女?ミアのことか!」
男はショットガンを手に構える。目的地は目と鼻の先、だが目の前の怪物は聞き捨てならない言葉を口にした。最後にビデオでその動向を確認した愛する妻の安否のためにも、無視して先には進めない。
「フハハハハハッ!!ゆくぞ、彼女へ向けた我が愛は爆発するぅッ!!」
その手に握られた棍棒が振り被られる。男は咄嗟に飛び退いて回避し、ボイラーの影に隠れてハンドガンを乱射。しかし頭部、足に当たってもビクともしないその巨体がずんずん迫るも、両肩が入り口に引っ掛かったところに男は溜まらず次の部屋への扉に飛びついた。
「急げ、急いで逃げ出さないと・・・」
この先に他の通路がある確証はないが、それでもこんな化物を相手にするよりマシだ。そう考えながら解体室の鍵を取り出し、ガチャガチャと慌てて入れようとするも、上手く入らず落としてしまう。
慌てて振り向くも、マッスルはその巨体のせいで引っ掛かり、「おのれ圧政者~!」とじたばたとしているだけだ。安心して拾い上げようとする、しかしそれは別の手が覆いかぶさる事で止められた。鋭い鉤爪の様な物で覆われた手に、顔を上げる。
「唄え、唄え、我が天使……クリスティーヌ、貴女のために・・・」
「ッ!?」
そこには、大して見えないその顔の半分を髑髏仮面で隠した鉤爪の男がにんまりと笑って立っていた。完全にホラーである。咄嗟に構えたショットガンをその顔面にブチかます。
「うぐおおおああああっ!?」
何かに恍惚としていたその男はひょろい外見のイメージのままに軽く吹き飛び、隅まで追いやられた。それを好機と見て今度こそ鍵を手に取り、鍵穴に差し込む。今度はすんなりと入り、慌てて扉を開くと、不意に熱気が首元を襲った。
「貴方はあの子の父親になるのでしょう?嘘吐きは許しません許しません許しません・・・」
「……マジかよ」
恐る恐る振り向くと、そこには口元から火をちらつかせた、角の生えた少女がいた。男には見覚えのない衣服を纏っているがその本来綺麗なのだろう髪共々白く黒くところどころ染まっている。
「クソッ!」
「ッ・・・、逃がしません・・・シャア!」
冷汗をかいた男は渾身の力を以て少女を突き飛ばすが、少女はゆらりと幽鬼の如く立ち上がるとその手に取り出した扇から火球を放ち、男は咄嗟に扉の中に飛び込み、慌ててそれを閉める事で防ぎ、轟音に耳を塞いで納まった事を確認すると一息吐いた。
「ったく・・・なんなんだよここは」
その時だった。男は、目の前の棚にケルベロスのレリーフが置かれている事に気付くも、すぐに声を潜める。殺された保安官補佐の死体が何故か壁に吊るされてある部屋を、二つに分けるその棚の向こう側の扉から見覚えのある初老の男が現れたからだ。
「・・・俺が父親のはずだった。だがあの子はアイツを父親にすると言いだした。それは駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ・・・」
「(あの子?)」
独り言の様に、言い聞かせる様に呟き始めたその言葉に、男は再び聞いた「あの子」という言葉に反応し、口を手で押さえて思考する。先程、少女の様なナニカが紡いでいた言葉でもあり、この男・・・ジャック・ベイカーを含む「彼等」ベイカー一家がたびたび口にする言葉でもあったからだ。仮面の男が口にした「クリスティーヌ」とやらなのだろうか。違う気もする。彼の脳裏に、一階のダイニングの傍の部屋で見かけた「Evelyn」と名前が書かれた長靴がよぎった。
「奴を見つけ出して・・・存分に思い知らせてやる・・・」
そう言ってジャック・ベイカーはケルベロスレリーフを手に取り、男に気付かず奥の死体保管庫に通ずる扉から出て行った。男は一息吐いて、気を引き締める。
「この先にあのレリーフがある事は間違いない様だな」
そう言ってハンドガンとショットガンの弾を補充し、ハンドガンをポケットに入れて代わりにショットガンを構える。奥に通ずるドアから死体保管庫に抜け、犠牲者たちの死体が入っているであろう肉袋を避けて、吊るされたレリーフを発見して手に取る男。油断があったのかもしれない。
次の瞬間、男は顔を掴まれて無理矢理振り向かされ、そこにいたジャック・ベイカーの蹴りによって下に広がる檻の中へと落ちてしまっていた。
「・・・マジかよ。やっぱり罠かクソッたれのジャックめ」
「お前はもう逃げられないんだ、イーサン」
男・・・イーサンに向けて、斧を手にそう言ってのけたジャック・ベイカーが歩み寄って来る。イーサンはショットガンを至近距離から放つも、前回のガレージの戦いからの経験か横に避けたジャック・ベイカーの一撃がイーサンの顔・・・を庇った右腕に炸裂。血飛沫が飛び散り、ジャック・ベイカーが高笑いを上げた。
「怪我をしたようだが大丈夫か?」
「ああ、おかげさまでな!ジャック!」
イーサンは慣れた動きでハーブと薬液をあらかじめ混ぜて作った「回復薬」を取り出してジャバジャバと腕に振りかけて回復。自分の体が普通じゃなくなっていると自覚しながら、傍に吊るされている肉袋を渾身の蹴りでジャック・ベイカーに叩き込み、怯んだところに顔面にショットガンを叩き込んだ。
「いい加減死ねよ、ジャック!」
「お前よくもやってくれたな!お前の中身を俺は見たいんだよ。分かるだろ?」
「おい正気かよ?」
「フフフフッ・・・そう言うな。どうだイーサン、イカすだろ?」
そう言って奥の金網を破り、そこに在った鋏の様に改造されたチェーンソーを手に取りエンジンをかけて振り回すジャック・ベイカー。
「どうしたビビってんのか?ギブアップした方がいいんじゃないのか?」
「余計なお世話だジャック!」
顔面血塗れだが大して気にしてないのはガレージの戦いの時と同じ。戦慄しながらも、破られた金網の奥にもう一つ、普通のチェーンソーを見付けてジャック・ベイカーの横薙ぎを潜り抜け、それに飛びついたイーサンは構えてエンジンをかける。
「そうだ坊や。それでいいんだ。いいことを教えてやる。対等になったつもりだろうがな、お前はもう死ぬんだよ!ヒッヒッフッヒヒッ」
「そうかい。外のあのマッスル達もジャックの仲間か?そりゃ逃げられないな」
「何のことだ?俺がここで殺すのさ!」
「ちいっ!」
振るわれた鋏チェーンソーを、咄嗟に受け止めて鍔競り合うイーサン。ここまで来たらやけくそだ。少なくとも銃よりは効果がありそうだ。
「どうだ?楽しいだろ?」
「できれば勘弁願いたいなジャック」
「お前はここで死ぬんだ!」
「だろうな!」
なんとか吹き飛ばし、意気揚々と立ち上がるジャック・ベイカーの追撃に備える。そんな時だ、異変が起きたのは。
「解体するよ」
「なに?グアァアアアアアアッ!?」
幼い声が聞こえると共にジャック・ベイカーの上半身が、一瞬のうちに細切れにされた。呆然と佇むイーサン。ハサミ型のチェーンソーが残された下半身が倒れると共にゴトンと重い音を上げて床に落ち、ドルルルッとエンジン音を響かせる。しかし、そこに不死身の大男を細切れにした犯人の姿は見えない。ジャック・ベイカーが先程「知らない」といっていたあのナニカの仕業か?と身構える。すると再び信じられない事が起きる。
「よくもやってくれたな!イーサン!」
「俺じゃないぞジャック!逆恨みはよせ!」
ボコボコと残されたジャック・ベイカーの下半身の断面が泡立ち、肉体を再生し始めたのだ。泡立つそれが顔の形になり叫んでいるのはあまりにも不気味だ。
イーサンに何かされたと思い込んでいるらしいその言葉にたまらず言い返すイーサン。しかし、その言葉にそれは反応した。
「呼んだ?」
「なん・・・だとォ?」
グシャッと、先程まで誰も居なかったそこに姿を現し、ジャック・ベイカーの下半身の芯に大型のナイフを突き立て復活を阻止したのは、幼い銀髪の少女だった。いや、やはりその髪はカビで黒ずんでいるし、身に着けているマントもカビだらけとあの「ナニカ」たちと共通している。何より、顔やら手やらに見える傷が只者ではない事を表していた。
「お、お前は一体・・・?」
「誰って・・・呼んだよね?わたしたちの名前を。さっきから何度も何度も何度も!」
「何度もって・・・」
ゆらりゆらりと、自らの持つポケットナイフなんかより圧倒的に存在感を持つナイフを手に近付いてくる少女の真っ直ぐな眼光にたじろぎ、イーサンは後退しながら気付いた。さっきから自分が誰の名前を呼んでいたのかを。
「・・・お前も、ジャック、なのか?」
「うん。わたしたちの真名は、ジャック・ザ・リッパー。じゃあ、解体するよ。手と足を斬っちゃうからちょっと痛いけどすぐ治るよね?早くおねえちゃんのところに行こう、おとうさん?」
「なに、を・・・」
言い切る前に、少女・・・
しかしその時は訪れず、代わりに声が響いた。
「マシュ、あの人を守って!」
「はい、先輩!」
切り裂きジャックとは違う、二人の少女の声が響き、イーサンの視界を黒と肌色が覆った。それが、黒い鎧と少女の太腿だとは露とも知らず、イーサンは目の前に降り立った少女の構えた大盾により窮地を切り抜けていた。
「ディーラー、ジャックを倒して!」
「
「そん、な・・・・・・おねえ、ちゃん・・・」
首を出し、盾の向こう側を見やると、切り裂きジャックは頭上からばら撒かれた弾丸の雨に撃ち抜かれて捨て台詞を残し、金色の粒子と霧散化したカビの様な物をまき散らしながら消滅。その場に黒衣の男が飛び降り、再度立ち上がり、復活を図ろうとしていたジャック・ベイカーの下半身に向けて取り出したリボルバーマグナムを叩き込むと、今度こそ静まった。
「安全は確保した。降りていいぜストレンジャー」
「ありがとう、ディーラー。よかった、なんとか助けられた」
黒衣の男が上を向いてそう言ったので視線を向けると、そこにはケルベロスレリーフを回収して一息吐いているオレンジ髪の少女がいた。こちらの無事を確認して喜んでいる様だ。
「あ、先輩は私が」
飛び降りて来たオレンジ髪の少女を、何故か黒衣の男ではなく自分を守った盾の少女がお姫様抱っこで受け止めるのを見ながら、イーサンは差し出された黒衣の男の手を取って立ち上がった。
「サービスだ。掴まれストレンジャー」
「助かるよ。・・・まさかこの屋敷に生き残りがいたなんてな」
イーサンは驚きのままに口にする。今まで、死体となった犠牲者たちを道中何度も見て来た。中には水死体となって廃屋地下に放置された者もいた。自分以外に無事に逃げ出した者がいるなどゾイが言ってなかった事もある。しかし少女達は困っている様であった。
「あー、ストレンジャー?残念ながら俺達はここに閉じ込められた人間じゃない」
「えっと、この場所に異変があって、それを調査しに来ただけというか・・・」
「つい数分前に私達も訪れました。恐らく異変について知っている物かと」
「異変なんて十分・・・いや待て、ついさっきも直ぐの部屋で今の切り裂きジャックみたいのに遭遇した。そいつか?」
「やっぱりサーヴァントがここに湧いてたようだなストレンジャー」
イーサンの言葉にそうぼやいた黒衣の男に言葉に頷き、右手に付けた端末を起動するオレンジ髪の少女。
「・・・ということだそうです。今回は小規模なので最低限のメンバーで来ましたが、サーヴァントは複数いるみたいです。どうしましょう所長?」
『とりあえず広い場所に向かいなさい。そこで追加を送るわ。それまではその男と行動を共にすること。ここに詳しいみたいだし、見返りに守ってあげなさい』
「分かりました。えっと・・・私は藤丸立香。カルデアってところでマスターをやってます。この子がマシュで、この人はディーラーって言います。貴方の名前は?」
正直、怪しいにも程がある。だが、善意で自分を助けてくれたというのは何となく分かった。少なくとも、自分を疑ってポケットナイフしか寄越さない挙句にジャック・ベイカーに殺された保安官補佐よりは好意的に捉えていた。
「イーサン。イーサン・ウィンターズ。ここには妻のミア・ウィンターズを捜しに来た。手伝ってくれるか?リツカ。情報ならいくらでも渡す。この狂った館から生きて脱出するためにな」
「はい。よろしくお願いします、イーサンさん」
ディーラーの取り出したマシンピストルで無理矢理檻の鍵を壊しつつ、立香から受け取ったケルベロスリリーフを玄関に持って行くためにここを後にしようとするイーサンは、意味も無く振り向く。そこには、もはや動かなくなったジャック・ベイカーの亡骸が残っていて。
「なあ頼むから。もう二度と起き上がるな」
手向けとばかりにハンドガンの弾をぶち込んだ。それが、過剰代謝を起こしているジャック・ベイカーの体に更なる急激な変化を齎してしまったことをイーサンは知らない。
エイプリルフール特別ゲスト:嘘吐き絶対焼き殺すガール清姫サン
時系列はよく分からないイベント時空。「存在しないはずの2017年」に突如出現した特異点という感じで、ロンドンよりも極狭い区域なために少人数で来た感じ。何故二番目のジャック戦が乱入ポイントなのかは、僕のトラウマであるあの蟲BBAを間違っても出さないためです。あとジャックVSジャックがしたかった。
野良サーヴァントは皆感染して、黒幕の家族になってます。鉤爪の男ことファントムが言うクリスティーヌももちろん彼女。マッスルことスパルタクスの脳内も圧政=彼女を拒絶する、となっている次第。本編と違ってジャックにとって彼女は姉で、ミアはおかあさん。ミアがピンチなのは言うまでもない。対象を生かしたたまま感染し手駒にする事に特化した特異菌怖い。
何故か実現してしまったバイオのジャック VS Fateのジャック。余計にダメージを与えまくっているのでこの後のジャック決着戦が酷い事になりそうだけどディーラーがいるから大丈夫だ問題ない。
次回こそ本編。いい加減書き終えます。次回もお楽しみに!よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。