Fate/Grand Order【The arms dealer】   作:放仮ごdz

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ウェルカム!ストレンジャー…どうも、原付の免許を取りに行ったりと忙しくて執筆を疎かにしていた放仮ごです。前回に引き続き遅くなって申し訳ありません。あと、前回のジルの服装をリベレのダイバースーツから3のものに変更しました。

今回は説明編と「彼女」との合流。いきなり残酷描写ですがご容赦ください。少しぐだりますがご了承ください。

楽しんでいただけると幸いです。


なんとも複雑だなストレンジャー

霧煙るロンドンの片隅で。とある親子の前で、血と臓物と火の匂いを漂わせた道化師が嗤っていた。

 

 

「フゥム~?ヴィクター・フランケンシュタイン博士、どうしても協力はしないと、そうおっしゃる訳ですね?」

 

「・・・・・・」

 

「ではでは~しょうがありませんねェ。クヒヒヒヒッ!」

 

「ゥゥ・・・ァァァアアアッ!」

 

 

鋏を振るい、白衣の男に何かを仕掛けようとする道化師に、ウェンディングドレス姿の角が生えた少女が止めようと突進する。しかし、道化師は笑みを深めて嘲笑い、軽快に跳ねてそれをいなすと地面に転ばせ、自らは男からかなり離れた位置まで降り立ち「チッチッチ」と人差指を振った。

 

 

「はい残念、貴女の父親はここでお亡くなりでェ~す。つまりはァ~?微睡む爆弾(チクタク・ボム)!ヒャハハハハハハ~ッ!」

 

 

カチン、と。その手に持った鋏を鳴らし、少女の声にならない絶叫と共に爆発。少女の父親は、跡形もなく吹き飛んだ。涙を目に溜めた少女が吠える。しかし道化師は笑みを浮かべる事を止めない。面白可笑しく楽しむ、それが彼の存在意義だからだ。

 

 

「クヒヒヒヒッ!残念な事です。貴女の父親が「計画」に参加する事を最後まで拒んだ結果がこれだ。ええ、ええ、有体に言えば絶命しました。しかしまあ、貴女の絶望というイイ顔と、彼の最後の瞬間見せたあの表情。生から死への切り替わりを理解してしまった人間の顔を見せてもらったのでこれで手打ちにしましょう。ああ、なんてワタクシ優しいのでしょう!吐き気がします!ハアァ~!」

 

「ウゥ!」

 

 

怒りとも悲しみともつかぬ声を上げて掴みかかる少女を一蹴し、道化師はにたりと笑みを深める。

 

 

「おお怖い怖い。フムゥ・・・そんなに望むなら貴女もこのワタクシ、メフィストフェレスの手で父親の元へ逝かせてあげましょう!絶望!嘆き!面白おかしく絶望してくださいませ!せめて退屈しのぎにはなってくださいね?」

 

 

突き飛ばされ、睨むしかない少女は再び鋏を振るう道化師、メフィストフェレスを前に悔しさから歯噛みし、ボロボロと涙を流す。何もできない自分がもどかしくて、しかし。天は罪人を赦さなかった。

 

 

「ヒャハ・・・ハハァ~?」

 

 

鋏を鳴らし、既に設置済みのそれ(・・)を爆発させる直前、それを持つ右手ごと感覚が無くなったのを感じて、思わず呆けるメフィストフェレス。見れば、右腕が肘の先から消えていた。何が起きた?目の前にいる少女は驚愕からか目を見開いている。後ろに何かが?そう振り向く事無く、

 

 

「コフっ・・・これはこれは・・・・・・残念無念、ですねェ・・・ガハッ!?」

 

 

胸を錆びた槍で串刺しにされ、吐血するとそれが一度抜かれてから一気に背中から喉まで貫かれ持ち上がる道化師の肉体。メフィストフェレスは不気味な笑みを浮かべたまま絶命した。

 

 

「ゥゥ・・・?」

 

「・・・・・・」

 

 

金色の光となって消滅したメフィストフェレスの背後に立っていたその異様な大男を見上げる白無垢の少女。道化師の返り血を浴びて赤い頭をさらに赤く塗らした三角頭の断罪者は、見定める様に少女を緘黙に見下ろしていた。

 

 

「何している、テメエ!」

 

 

その光景を見て、激昂したモードレッドが飛び込んできて。三角頭のチェイサーは冷静に剣を槍で受け止めながら、三角錐の兜に隠された視線は別の方を睨んでいた。

 

 

「アルトリアはモードレッドと一緒に!清姫は騒ぎを聞きつけて来たゾンビ達を寄せ付けないで!」

 

 

モードレッドの連れてきた、こちらにアルトリアを嗾け、清姫を使い周りのゾンビを燃やしているオルガマリーを見て、レッドピラミッドシングは歓喜に震えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その数刻前。ジキルのアパルメントにて、ようやく正気に戻ったモードレッドが咳払いして仕切り直しし、情報交換と相成った。

 

 

「ゴホン。・・・えーっと、とりあえず落ち着いたから自己紹介だ。オレはモードレッド、アーサー王円卓の騎士が一人。アーサー王、父上が愛したブリテンの都市ロンディニウムの危機に馳せ参じた。で、錯乱していたオレが案内したここは、協力関係を築いているコイツ、ヘンリー・ジキルの自宅でオレたちの当座の拠点だ。主に実働がオレで調査と解析がコイツの仕事だ。・・・・・・あの、父上?ちゃんと話したからさっきの事は許して欲しいなー・・・なんて」

 

「・・・・・・・・・叛逆の騎士なんて私は知りませんが、本当の事を言いなさいモードレッド」

 

「・・・はい。ああ、そうだ。オレはオレ以外の奴にブリテンの地を穢されるのが許せねえ。父上の愛したブリテンの大地を穢していいのはオレだけだ。それだけは・・・ってどうしたんだ父上?なんで拳を握って・・・ぎゃあ!?」

 

「円卓の騎士として守ろうとしていたならば少しは認めてやろうと思いましたが、やはり。未だに歪んでいる騎士に話す事など何もありません」

 

「なにすんだ父上!?」

 

 

アルトリアの拳骨を浴びたモードレッドは涙目になりながら猛講義するが見向きもせず、逆上して飛び掛かろうとするもオルガマリーと立香、マシュに羽交い絞めにされる。

 

 

「えっと、アルトリアは今ご機嫌斜めだから・・・えっと…モードレッド卿?」

 

「マスター。その者に卿など付けなくていいです。呼び捨てで十分でしょう」

 

「・・・もう一人の父上~」

 

「知らん。触るな。食事の邪魔だ」

 

「・・・・・・」

 

 

不義とはいえ尊敬する父親二人に冷たくあしらわれ、涙目になり体育座りで隅っこに蹲るモードレッドを慰めるマシュと立香を余所に、ジキルがオルガマリーと向き合った。

 

 

「こちらも、君達が戯れている間にそちらの事情はおおむね理解したよ。では、僕らの知る限りの情報を伝えよう。まず、この街がこんな事態になったのは三日前のことだ。気が付けばあっという間にロンドンを霧が覆い尽された。ロンドン警視庁(スコットランドヤード)も政府も当然ながら事態を把握できてない様で、実質的に政府機能は麻痺している。外からの救援もあの霧に阻まれ、ロンドンは孤立状態だ。霧は室内には入らないが、水も食糧も無いロンドン市民は引き籠っていたら全滅だ。事態は急を要する」

 

 

現在のロンドンの状況を手早く説明するジキル。オルガマリーはバイオハザードだけだと思っていた事態が思った以上に深刻だったことに頭を抱えた。

 

 

「霧には夜毎に生物の命を奪う程の魔力が満ちている。正確な数は分からないが僕の試算では数十万単位で死亡者が出ているはずだ。イーストエンドはほぼ全滅、ほとんどの区域が廃墟と化している。全ての原因であるあの濃霧を、僕らは仮に「魔霧」と呼んでいる」

 

「・・・魔霧・・・?」

 

 

はて、そんな響きをどこかで聞いたような。首をかしげるオルガマリーだったが思い出さないので取り敢えず放置し、続きを促した。

 

 

「魔霧は濃ければ吸い込んだだけで通常の生物は魔力に侵され、死に至る。酷ければ一時間でお陀仏だ。薄い所ならマスクなどをすれば死ぬことは無い、・・・それも二日前までの一日だけの事だ」

 

「・・・・・・何があったの?」

 

「この三日間、特に初日から魔霧に加えて、ロンドンには他の脅威の類が跋扈している。魔霧に紛れて凶行を繰り返す者たち。魔術で形作られた「自動人形(オートマタ)」、殺人ホムンクルス・・・そして「不明の怪機械(ヘルタースケルター)」だ。それだけでも問題だったんだが・・・この二日間、さらに異様な異形が跋扈し始めた。俗に言う、ゾンビだ。同時期に霧の中から現れ、徘徊し出したという異形の黒衣の大男が大元らしいが・・・これはまだセイバーからしか確認できていない情報だ。他にも原因があると僕は考えている」

 

「・・・私が出会った、あの大男のサーヴァントがゾンビ達の大元・・・」

 

 

遭遇し、レッドピラミッドシングと共に襲い掛かられ何とか逃げ切ったネメシスを思い出して震えるオルガマリー。確かに令呪一画を使った己の最大の一撃によって倒した。しかし、レッドピラミッドシングから逃げるために消滅を確認していなかった。その事を思い出して、言い得ぬ恐怖を感じたのだ。

 

 

「所長の話だとロケットランチャーを自在に操るB.O.W.だったな。知性が高い上にサーヴァントってのは厄介だ。名前は分かるか?」

 

「いいえ。でも多分クラスはチェイサーよ。あのモードレッドの攻撃でも立ち上がったタフさはそれしか考えられない」

 

「あの、それならマイクから報告で多分、分かりました・・・」

 

「なんですって!?」

 

 

ボソッと声に出された言葉に睨みつけるオルガマリーに、委縮する立香。報告しようにも、モードレッドやら清姫やらの騒動でできず、さらに話が進んで言いだすタイミングを逃していたのだ。

 

 

「えっと、マイクたちを形成する人格の一つがこのロンドンと殆んど同じ状況だったというラクーン・シティの体験者で、そのサーヴァント・・・の生前であろうB.O.W.に殺害されたそうなんです」

 

『なるほど、数多のバイオハザードの体験者の霊の集まりである彼はおのずと情報量も多くなるのか。しかし助かる、偶然にも程があるけどね。レオナルド!』

 

『分かっているとも。ラクーン・シティ事件という事は1998年。ちょうどこの特異点ロンドンから110年後の時代だ。これは偶然か?・・・えっと、これに関与したというB.O.W.の一覧が生還者であるジル・バレンタイン等によって作られている。BSAAの記録から見付けた。この中で黒コートの追跡者は一つしか該当しない』

 

 

ごくりと生唾を飲み込むカルデア組と、ほとんど理解できず置いてけぼりで疑問符を浮かべている現地組。そんな彼らの沈黙を前に、映像に映るダ・ヴィンチちゃんは一息に言い放つ。このロンドンを襲う災厄の一つの名を。

 

 

『洋館事件から生き延びたS.T.A.R.S.を抹殺するべくアンブレラが送り込んだ、補助用B.O.W.寄生虫「NE-α」を埋め込むことで作り出された、タイラントの強靭な肉体に加えてNE-αによる知能向上から銃火器を扱え、複雑な任務を理解・遂行できるようになった上に、簡単な言葉を話すこともできる新型タイラント。

掴んだ対象に直接t-ウイルスを注入して感染させる恐るべき追跡者。

 ――――その名も追跡者(ネメシスT‐型)だ』

 

「ネメシス・・・物騒な名前ね。でもその話が正しければ、奴の狙いはゾンビを増やす事じゃ無くて、S.T.A.R.S.の捜索なのかしら?」

 

「ッ!だとしたらマイクが・・・ディーラー、お願い!」

 

「了解だ、ストレンジャー」

 

 

己のサーヴァントが危険だと知るや否や、念話で呼びかけながら叫んだ立香の言葉に、頷いたディーラーがすかさずライフル二挺を取り出して外に出て行った。高所を飛んでいるマイクを襲うであろうネメシスを捜す為だろうか。それがすかさず読み取れるのは信頼度が高いんだな、とオルガマリーはぼんやり考えていた。

 

 

「とりあえず、マイクはまだ無事みたいなので警戒してもらって帰還させました」

 

「了解。ジキル氏、続きをお願いできますか?」

 

「分かった、続けるよ。その大男・・・ネメシスを皮切りに増えだしたゾンビたちを、何故か駆逐して回っている三角頭の大男も確認できている。恐らくサーヴァントだろう」

 

「レッドピラミッドシングの事ね。恐らくゾンビを「罪人」として狩っているのか・・・だとしたらモードレッドは戦わない方がいいわ」

 

「なんでだよ!」

 

「アイツの宝具には、貴女じゃ多分勝てないからよ。逃げた方がいいわ」

 

 

人を殺した罪の数だけ倍増し、対象を追い詰める悪夢の様な宝具。もしそれが、特に自分に発動したらと思うと・・・オルガマリーは顔を青ざめる。運よく生き埋めになったから逃げれたものの、改めて危なかったと胸を撫で下ろした。

 

 

「また、同じく徘徊していて君達が出会ったという連続殺人鬼ジャック・ザ・リッパーも確認できているがこちらはまだ誰も殺していないらしい。ゾンビを殺戮して回っているが、その目的はよく分からない。セイバーも一度戦ったけど逃げられたらしい。でも彼女の言葉によるとサーヴァントらしいから、先日連続殺人を犯したジャック・ザ・リッパーとは恐らく別の存在、だと考えられる」

 

「そうなんだ・・・よかった、まだ誰も殺していないんだ・・・」

 

 

サーヴァントとして出現してからジャックが一度も人間を殺していない、と知って安堵する立香。続けてエヴリンの話題がジキルの口から出た時、その身を固くする。

 

 

「共に行動する黒い少女を起点に黒い異形が出現したらしいけどこれはよく分かってない。ただ、ゾンビと同じで死体が変異した者と、黒いカビから湧き出た者で分かれているらしい。腕が巨大な刃の様になっているタイプと、四つん這いで身動きが素早い小柄なタイプ、巨漢を誇り吐瀉物で攻撃してくる上に倒したら自爆するタイプもいる。僕とセイバーはこいつ等を纏めてモールデッドと呼称している」

 

「モールデッド、ね。ロマン、何か情報は?」

 

『それが・・・BSAAのファイルにはそのカビに関して記録が一切無い。元々無かったのか、それとも・・・とにかく、得体の知れないB.O.W.だ。十分に気を付けてくれ』

 

 

頷く立香とオルガマリー。恐らく清姫とモードレッドに感染していたのはこの黒いカビだとオルガマリーは考えていたし、立香はエヴリンの恐ろしさをその身で味わっている。

カルデアがすべきは魔霧の原因解明と、ネメシス及びレッドピラミッドシングの打倒。そして立香個人として、一番の最優先事項はエヴリンとジャックとの和解だ。ロンドンに来て約一時間、ようやく方針が定まった。

 

 

「僕達からの情報はこれぐらいだ。もう一人、僕の友人であるヴィクター・フランケンシュタインが捜査していたから何かを掴んでいるかもしれない。でも、今朝から連絡が取れないからもしかしたら・・・できれば、迎えに行ってやって欲しい」

 

「それは一大事ね。私達とモードレッドで行って来るから、藤丸はマイクとの合流及びネメシスの捜索を頼むわ」

 

「分かりました。ウイルスをまき散らしているなんて放置できません。所長も気を付けて」

 

「ええ。ロマニ達は私達のサポートを続けながら、記録からあのネメシスを倒す方法を探って。サーヴァントである以上、必ず死因からなる弱点がある筈よ。運がいい事に真名を得ているからアドバンテージはこちらにあるわ」

 

 

対バイオハザード組織BSAAの記録という、人理焼却された世界でも辛うじて残っていたアドバンテージ。対サーヴァント戦に置いて最も重要な情報が手に在るというのは、士気にも繋がる。そう言葉を残して、オルガマリーは己のサーヴァントとモードレッドを引き連れて外に出ていく。

 

立香もマシュ達を連れて出て行き、アパルメントの屋上でセミオートライフルを構えていたディーラーと合流した。

 

 

「ディーラー。どうだった?」

 

「駄目だ。霧のせいでよく見えないからサーモスコープを使ったが熱源反応じゃ無理だな。寄生体がいるんならガナードと同じだと思ったんだが、それ以前にゾンビ共が多すぎて判別できん。せめて大まかな場所が分かればな?」

 

 

やれやれと首をすくめながらライフルを仕舞ったディーラー。ガナードならば寄生体が異常な熱を持っているので熱源感知ですぐに分かるため、リヘナラドール(不死者)の対処にもサーモスコープは有効だ。しかし視界が狭まる・・・というより殆んど動体以外の様子は分からないため探索には向いていなかった。

 

 

「とりあえずマイクと合流するよ。それからでも遅くないはず」

 

「先輩、マイクさんとはどこで合流を?」

 

「とりあえず、時計塔が見える橋の上ならヘリで降りれるって・・・」

 

「ウェストミンスター橋ね。ここからならちょっと遠いけど、どうするの?」

 

「なにか移動手段は無いのかライダーのアシュリー?」

 

 

他の面々より比較的ロンドンに詳しいアシュリーが目的地を指定するも、セイバーオルタに返され口ごもる。彼女のクラスはライダーである。しかし元々正規の英霊でなく、適正理由もロス・イルミナドスのアジトで拝借したブルドーザーを問題なく操ったという実績からというものだ。マイクと違って自由に乗り物を出せないのは彼女にとってウィークポイントだった。

 

 

「私、ライダーだけど乗り物は現地調達だから・・・」

 

「使えんな。赤いのにクラスチェンジしてもらった私の方がまだ使えるとは」

 

「うぐっ」

 

「・・・道中に車があったら拝借して、徒歩で行こうか。マイクに合流すればヘリで移動できるだろうし」

 

「そうですね。規模が小さいといってもロンドンは広いです」

 

「この異変が無ければ路面電車が通っていただろうからロマン達もそれを当てにしていたらしいな。ストレンジャーの国の言葉で言えば狸の皮算用って奴か。これは移動手段も考えないとこの先きついな」

 

「ごめんなさい、ライダーなのに乗り物なくてごめんなさい・・・」

 

「アシュリーがいて助かってるよ。気にしないで、ね?」

 

 

落ち込んだアシュリーを慌てて慰める立香。実際、アシュリーの宝具は弱点さえ突かれなければ無敵だ。ローマではそれに本当に助けられた。立香は召喚に応じてくれた自分のサーヴァントたちに不満は抱いてない、むしろ呼べない自分を責めている。清姫に言われた言葉の意味が分かれば何か改善されるのだろうかとちょっと期待していた。

 

 

「歩くのはいいがマスター。道中のゾンビ共も駆逐するのか?」

 

「うん、無理が無い程度にね。帰路の安全の確保もだけど、・・・あのままじゃ浮かばれないだろうから」

 

 

悲しげに顔を伏せる立香に、サーヴァント達は顔を見合わせ、頷いた。

 

 

「注文には応えるぜストレンジャー。それからマシュ、アンタはストレンジャーの傍にいろ。道中の敵は俺達に任せればいいが、今度ジャックたちに奇襲されたら守れるか不安だからな」

 

「了解しました。マシュ・キリエライト、全力を以てマスターを守ります」

 

 

ディーラーの言葉にジャックの奇襲を立香に言われるまで気付かなかった後悔を思い出すマシュは、先輩にもうあんな表情をして欲しくないという一心で頷いた。

 

 

「じゃあ行こう。マイクが言うには、時計塔(ビッグベン)方面だって」

 

 

立香達の向かう先は時計塔。何の因果か、彼女達の捜すネメシスにとっても因縁ある建物へ向かっている事をまだ誰も知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・逃げた?」

 

 

かつて叛逆し叛逆された者同士とはいえ、それでもアーサー王と円卓の騎士。洗練されたモードレッドとアルトリアの連携の合間に、角の生えた少女を守る様に立つオルガマリーがガンドを撃ち込んで動きを阻害しレッドピラミッドシングを追い詰めていたのだが、斬られ貫かれ傷だらけになっていた三角頭の追跡者は、何かを確認したかの様に首を竦めたかと思うと抵抗を止めた。

 

モードレッドとアルトリアが訝しんで攻撃の手を止めると、三角頭のチェイサーは得物を槍から大鉈へと換装すると片手で振り下ろし、その衝撃でモードレッドとアルトリアの体勢が崩れたところに、追撃するのかと思えば二人には目にもくれずその場を徒歩で去って行った。あっけなさすぎる決着に呆然と立ち尽くすオルガマリー。

 

 

「クソッ、あそこまで追い詰めたってのに・・・」

 

「まるでこちらを相手にしていませんでしたね。私達は元より、モードレッド卿は彼の標的に定められていたと思ったのですが・・・」

 

「・・・それに私も標的っぽかったんだけどなんで・・・そもそも何であのチェイサーがここに・・・?」

 

 

見下ろすと、そこには目元に涙を流した痕を残した、血塗れのウェンディングドレス姿の少女。角が生えているが、サーヴァントではないらしい。周りには夥しい程の量の血と爆発の跡。オルガマリーが熟考していると、そこに清姫が駆けてきた。

 

 

「マスター、周りの有象無象共は焼き払いましたわ。そちらは・・・?」

 

「ああ。確かここの主、ヴィクターじいさんの作った人造人間・・・だったか?サーヴァントじゃないから、生前って奴だろうな」

 

「モードレッド。他の聖杯戦争の記憶でも?」

 

「まあな。だがそのヴィクターじいさんは何処に…?」

 

「・・・多分、私達が着く前に何者かに殺されたんだと思う。あのチェイサーは、その何者かを殺しに・・・この子をゾンビ達から守るためにここにいた・・・?」

 

 

屋内に入り、少女に断りながら物色する。見付けたのは人造人間の物らしい棺と、書記。どうやら少女はモードレッドの言う人造人間・・・俗に言うフランケンシュタインの怪物らしい。危険ではなさそうなので連れて行くことに決め、オルガマリーは書記を手に取り外に出た。書かれていたのは、フランケンシュタイン博士が今朝書いたものと思われる字面。

 

 

 

 

 

 

1888年7月25日。

 私は一つの計画の存在を突き止めた。名は「魔霧計画」。実態は、未だ不明なままだが。計画主導者は「P」「B」「M」の、――――おそらく三名。いずれも人智を超えた魔術を操る、確証はないが英霊だ。

 そして先日、突如現れたゾンビを代表とした異形達は彼等の想定外らしく、彼等の使い魔と思われる機械兵が一気に増えたように思われる。昨日、ここを訪れた後に古書店に向かうと言っていたあの女性のサーヴァントに伝えるべき情報だろうか。それに先刻起こした我が娘は彼女に預ける方が賢明か。

 昨日からどうも体が痒い。恐らく私は奴等に消されるか、もしくは彼女の言う様に手遅れか・・・・・・その前に彼女に接触しなければ。この書記を見た、恐らくはセイバーに頼む。その時は私を――~~

【ここで文章が止まっている】

 

 

 

 

 

ここで止まっているところを見るに、これを書いた直後何者かに急襲され爆死したのだと考えたオルガマリーは溜め息を吐いた。黒幕だと思われる三人の魔術師にも想定外だと思われるバイオハザード。そして、古書店に向かったらしい謎の女性サーヴァント。オルガマリーの推測に寄れば恐らく彼女は・・・

 

 

「思ったよりも複雑ねこれは。今日中になんとかできるといいのだけど。・・・それで、私達と一緒に来る?フランケンシュタインの怪物・・・じゃあさすがに可哀そうね。フラン、でいいかしら?」

 

「ゥゥ!」

 

「そう。ならこれからよろしくね、フラン」

 

 

安心したような笑みを浮かべて応えた少女、フランを連れてその場を後にしたオルガマリー一行は、そのままジキルのアパルメントへと帰還した。




・悲報:メフィストフェレス、ディーラーと爆弾勝負する前に▲様の手により消滅。
思いの他説明で長くなったため、展開をテンポ良く進めるために登場して早々退場したメフィストフェレス。存在すら知られていませんので「M」のミスリードにはなりませんでした残念。・・・本作は「M」の容疑者が二人どころでは無いためそうなってます。

・モーさん、アルトリアと一応和解。
というか共闘するために青王とはまあまあ話せる程度にまでに改善。黒王は完全無視を決め込む様子。

・ライダーなのに乗り物が出せないアシュリー。
こればかりはしょうがない。それでも一応騎乗Cなので乗り物さえあれば使用できます。

・フラン合流。ヴィクター氏の手紙。
バイオ風となったこの手紙だけで今回の特異点の真実が詰まってます。ネメシスではないかもしれないバイオハザードの発生源とは・・・?


次回はマイクVSネメシス、そしてVS子供達。次回もお楽しみに!よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。

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