Fate/Grand Order【The arms dealer】   作:放仮ごdz

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ウェルカム!ストレンジャー…どうも、放仮ごです。今回が2017年最後の投稿。ロンドンに入ったってのに連続して番外編みたいな話なのは本当に申し訳ない。でも今回のはこれからの展開に必要な繋ぎ、つまりはフラグ建て回です。

前回ちゃっかり暴れていた▲様と、これまで死闘を生き抜いてきた少女の心の中の話。サイレントヒル2終盤のネタバレが入ってるのと、自己解釈多目なので注意。モーさんがちょこっと登場で少しロンドン編の展開が進んでます。楽しんでいただけると幸いです。


チェイサーをご所望かいストレンジャー

 それは、誰も知らない、一人の男が訪れた、霧に覆われた不思議な湖畔の街での話。

 

 

 裏世界と呼ばれる世界の病院の地下通路にて行われた追走劇を逃げ切り、しかし同行していた妻に似た女性をみすみす目の前で失ってしまった男は、悲観する様に項垂れた。

 

 

「私は、また、救えなかった・・・」

 

 

そうじゃないだろう。救えなかった、ではない。お前が考えるべきは、思い出すべきは。私がいる意味だろう。自罰意識だ。お前が自覚するまで、現実を直視するまで、何度弾丸を撃ち込まれ、鉄パイプで殴られようとも私は何度でもその女を殺そう。罪の意識を裁く、それが私の存在する理由だ。

 

 

「やめろ!もうやめてくれ!何度も私を苦しめないでくれ!」

 

 

時と場所は流れ、新たに殺人を犯した事で、二体に増えて再び女性を目の前で惨殺した私達に叫ぶ男。誰かに裁いて欲しいと、お前が心の中で叫んでいたから私達がいる。

 

 

「私は弱かった。だからお前の存在を望んでいた。私の罪を罰してくれる誰か………でも、もういらないんだ」

 

 

槍を手にした私達を相手に、男は覚悟を決めた目でこちらを睨みつけ、私達はたじろぎ怯んでしまう。彼は弱い男だ。その手に持つ大鉈は私達の様に片腕では扱い切れていない。なのに何故、私達は臆している?

 

 

「分かったんだ。自分で決着はつける」

 

 

振るわれる、鋏だった大鉈に私達は追い詰められていく。ここまでか。

 

 

―――――――ああ、そうか。もう、私達はいらないのか。

 

 

「もう私には必要ない。これはただの死体だ」

 

 

ジェイムス、お前は自らの罪を直視したんだな。ならば私は、潔く死のう。

 

 

 

 

 

 

しかし気付けば、焼却された。無かったことにされた。一人の男の贖罪だ、人理からしたら小さな事だろう。それでも、私にはそれだけの事だったのだ。

 

断罪してやろう。人理を焼却し、人類を滅ぼしたお前はジェイムスの代わりだ。そうする事で私の存在意義を取り戻す。これは、私の存在意義を取り戻すための戦いだ。

 

 

 

 

 

 

――――あの資料館の絵を見たジェイムスの深層心理から生まれた私は彼自身で、断罪の化身だ。召喚されるや否や、殺人の罪に苦しんでいたマスター達を襲ったのは、その為に呼ばれたのではないかと思ったのだから不可抗力だ。それに物も言わないからって、また自害させられるとは。サーヴァントとはそう言う物なのか、理解した。

 

・・・私を呼び出した少女(マスター)と、もう一人。共にいた少女は、ジェイムスと似た物を感じた。何だったのかは分からない。だが、彼と違い自ら考え、乗り越えられる気概も感じた。あの少女に召喚されていたならば、私は・・・・・・・・・いや、よそう。今は次の召喚に期待しよう。その時こそはあのモノに断罪を。

 

 

 

 

――――霧の街、か。因果な物だ。そして罪に溢れた有象無象が蔓延っている。ジェイムスのサイレントヒルとは違う、異形の巣窟。今回マスターはいない様だが、私が召喚されたのはこいつ等を処刑するためか。ならば屠ろう。駆逐しよう。処刑あるのみ。貴様等が罪を自覚する瞬間(とき)はもう無いのだから。

 

 

「スタァアアアズ!」

 

 

物言う異形が出て来たか。お前もまた、罪に塗れているな。ジェイムスの手に渡ったはずの大鉈を構える。かつて鋏だったそれは、奴の放った砲弾を斬り飛ばし、共に突進して組み合い、殴り合う。各々の武器を構える隙が共に無い、ならば作るしかなかった。

 

 

デカブツと殴り合い、一度離れて私が斬り、奴が触手を出して貫き、その余波で機械人形共は壊れ、鮮血が飛び散る。口惜しい事に、互角だ。

 

 

――――ああ、この感覚だ。罪人を追い詰めていくこの・・・・・・期待とも言い得ぬ高揚感。私はこれを感じている時だけ、在り方を忘れられる。

 

 

「この土地で、好き勝手暴れてるんじゃねえ!オラア!」

 

 

高揚していた全ての感覚が、赤雷と共に訪れた闖入者によって一気に冷める。なんだ、また罪人か。どうもサーヴァントという物は罪人しか居ないらしい。ちょうどデカブツを吹き飛ばしてくれたんだ、お前から処刑してやろう。大鉈はデカブツに突き刺さったままだから、この槍で貫いてやろう。

 

 

「ちっ!何だコイツ、魔力放出が効いてない…?それに、全然吹き飛ばねえ…!?」

 

 

無駄だ。お前を目標と定めた事で追跡開始EX・・・というらしいスキルが発動し、生半可な攻撃では意味を成さない。セイバーらしいサーヴァントを壁際まで追い詰め、槍を掲げる。赤雷をいくら撃とうが、いくら斬ろうがもう止まらん。

さあ罪人よ、貴様の罪を悔い改めろ。私が赤い三角頭の処刑執行人(レッドピラミッドシング)であるが故に、お前はもう逃れらr

 

 

「ガンド!」

 

「!?」

 

 

何処からともなく放たれた魔力の弾を背中に浴び、私の動きが強制的に止まる。何だ、何をされた?ギリギリと首を動かし、それを見た。

 

 

二人のサーヴァントを引き連れた、あの少女の姿が、そこに在った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

父が死んで、私は虚勢を張る様になった。アニムスフィア家当主に恥じぬような働きをしないと行けなかったから。泣いている暇なんて、なかった。

 

子供の頃から共にいて、信頼していたレフに裏切られて殺されて、私は彼に出会った。

 

 

 本当に変な奴だった。三流マスターがろくな準備もせずに召喚したから当り前だがサーヴァントなのに弱くて、でも三騎の英霊を撃破する様は圧倒的で、すぐに商売を初めて、あろうことか自分のマスターに戦う武器を与え、私の注文にも応えてくれた。

 

 初めて握った銃は重くて、ガンドと違って思い通りの場所に当たらなくて。力を得たと思えたけど、拍子抜けだった。

 

 

―――そんなに凄い奴じゃない?

 

 

 むしろ藤丸の方を見直した、そう思えてきた時に、私はレフに裏切られた。何時も褒めて支えて、私に無くてはならない存在になっていたあの男は私を蔑んでいて。意気揚々と、私は彼の手引きで既に死んでいると聞かされた。もうカルデアに帰る事は出来ないとも。あまりに哀れだからとカルデアスに入れられそうになって。

 

 

 

 

「―――だから、俺はアンタを評価する」

 

 

 

 

 そして彼に救われた。あんな面に向かって評価されたのは何時ぶりだったか。父親以来と言ってもいい。救ってくれたこともだけど、私にとっては認めてくれたことの方が本当に嬉しかったんだ。

 

 彼から譲り受けた武器は、それはもう私に合っていてレフを圧倒した。あの時、私が安全な物なんて頼まなければちゃんと選んでくれるんだと再認識して。

 

 ロマニ達にも認められて、所長としての役目を終えて。そして藤丸達が退去した中でも彼は残っていて、私を生かそうとしてくれて。もう無理だと分かっていたけど、それが本当に嬉しかった。

 

 

 

 そして本当に生き返らせて、さらには生前渇望していたマスター適正までくれた彼には、外面じゃ尊大に振る舞っても心の中じゃ絶対に頭が上がらないと思う。

 

 

 

 特異点攻略で必ず一緒に居るのは今のところ私、藤丸、マシュ、セイバーオルタ、そしてディーラーだ。オケアノスを越えた今ではこのメンバーがしっくりくる。

 

 フランスではディーラーが意味不明な理由でワイバーンを駆逐して、ジークフリートしか太刀打ちできないはずのファヴニールを屠って、彼のトラウマを一緒に乗り越えた。

 プラーガに寄生された時の、魔術回路を焼かれるような痛みを無視して放ったガンドは、彼への恩返しになっただろうか。

 ……その前に一回、彼の頼みで私が殺したので、プラマイゼロかもしれないが。藤丸、冬木でうっかり殺してしまった貴方の気持ちが凄い理解できた。罪悪感がおかしい。知らないところで犠牲になったマスター達と比べて自分で殺すという感触はダイレクトに伝わって嫌な気分になった。

 

 

 ローマでは最初と最後以外一緒に居れなかったけど、最終決戦では共にウェスカーと戦い、そして彼の窮地を救ってアルトリアを呼び、勝利できた。彼を死なせない、というのは藤丸と私の共通理念だ。何度もディーラーが犠牲になっているが、この感覚に慣れちゃ駄目だと毎回思う。

 

 また、フランスの時のマリー、アマデウス、ジークフリートの様に一時的な私のサーヴァントになってくれる英霊は数多くいた。女神ステンノの試練を乗り越えて出会ったエリザベートとタマモキャット。そして二人を指揮して私が戦い、(ほぼエリザベートの宝具で)打ち勝ったレオニダス一世だ。

 彼の宝具はローマを救う戦いに置いては必要だと思ったので無理矢理仮契約して従わせたが、すんなり受け入れてくれていい人だったと思う。マシュが慕うのも分かる気持ちがする。守護力も高いし、また一緒に戦いたい。

 エリザベートとレオニダスに軍隊の相手を任せて、連れて行ったタマモキャットはウェスカーの召喚したタイラントにやられてしまったが、もし召喚できたらまず謝りたい。みすみす死なせてしまった事への罪悪感だ。ここは藤丸と一緒だと思う。

 

 

 

 そして、オケアノス。ネロが仲間になって初の特異点だったが、彼女のスキルには大変助けられた。彼女がいなければ、最初のクイーン・ディードから脱出できずに終わっていた。海だと分かっていたのに、ろくな対策も取って無かったのを彼女に助けられたとも言える。判断ミスだったとしか言えない、彼女にはローマから本当に頭が上がらない。

 オリオンを助けて、藤丸の過去を知って、ドレイク船長に助けてもらって、アルテミスを私の手で引導を渡して、敵の猛攻を凌いで船から脱出して、アステリオスと出会って、黒髭と出会って戦って、本気で藤丸に怒って、圧倒的な敵を前に本当に絶望して。

 

 それもこれも乗り越えられたのは、何があろうと諦めず悪い意味でもいい意味でも全力を尽くした藤丸と、どんな状況にも対応していい仕事をしてくれたディーラー。そして何より、アステリオスに黒髭、パーカーにヴェルデューゴ、そしてオリオン達の犠牲があったからだろう。人理を救うためには犠牲は付き物だと割り切りたいけど、無理だ。そんなことをしたら、レフの爆破テロで被害を受けた皆に顔向けができない。

 

 やっぱり私は、誰かを死なせてしまった事に後悔せざるを得ない。忘れる事は出来ない。どうあっても償いたい。そのためにも前に進まなくては。私が生かされているのは人理を救うためだと思え。……どうせ人理が修復されても、未来有望なマスター達を危険に陥れた私の居場所はどうせないのだから。

 

 

 

 

 正直、藤丸があんな性格じゃなきゃ私はここまで頑張れてない。まだまだ頼りないから、私がしっかりするしかないのだ。…オケアノスではあまりにも無様な姿を見せてしまったが。無理もないと思う、半不死身の大英雄相手に絶望しない方がどうかしている。…そう、彼女はどうかしているのだ。あの時は、アステリオスの死を受け止めて、決して諦めなかった藤丸がどれだけ心強かったことか。

 

 

 それでもまだまだ未熟だ。魔術師としても、人としても。あの在り方は変えないと行けない。最初は、彼女の資料を見ても、どうせ一般上がりの補欠だと思ってちゃんと見ようと、向き合おうとしなかった。

 

 だって、私の演説を最初は聞いていたけど途中から寝てしまったのだあの馬鹿は。理由を問い質してみると、専門用語ばかりで眠くなると来たもんだ。ムカついて、目の敵にしてもしょうがないと思う。

 

 まあそんな彼女と二人三脚で助け、助けられてきた訳だが。やっぱりまだまだ危うい。オケアノスで、改めて彼女の異常性を知ってそう思った。レフとの決着もつけ、後は人理修復を成し遂げるだけだがまだまだ、死ねない。

 

 

 でも、もしも藤丸が何も心配のいらない、私よりも優秀な立派なマスターになったら?…恐らく、私は清姫やアルトリア達のマスター権を彼女に渡すだろう。そして完全に援護に徹する、それが私の結論だ。アルトリア曰く「少しリツカの影響を受けて来ましたがまだまだマスターの策は堅い一面が見受けられます」らしい私の立てる作戦では何時かボロが出る。というかオケアノスの最後の戦いはそれでオリオンを犠牲にしてしまったような物だ。

 

 

 それに、藤丸と違って私は何時か罰されないと行けない。例え何人生き残っていようが、私はレフの企みに気付かなかった事で危険に陥れたのは事実だし、何人もの犠牲を出した。これは決定事項だ。私がいなくてもカルデアはロマンとダ・ヴィンチちゃんがいれば安泰だろう。

 

 

 

 

 

 そんな事を考えながらレイシフトした、第四特異点ロンドン。今回は清姫と、イギリスという事でアルトリアを連れて来た。…のだが、いきなりトラブルが起きたらしい。ロンドンに来るなり、初期位置から藤丸達と分断された様だった。高濃度の魔力が含まれたこの霧が何か関係しているのだろうか。

 

 

 藤丸の見た夢の通り、そこら中に蔓延っているゾンビや、カークから教えられたウーズ、そしてよく分からない黒い人型を退けながら、霧に含まれている高濃度の魔力のせいかカルデアとあまり通信ができないため、通信で知った最後の地点へと藤丸達と合流すべく生存者を捜しながら先を急いだが、人っ子一人、見当たらない。いや、正確にはゾンビが蔓延っているが。ゾンビとウーズが黒い巨漢のナニカと交戦しているのを見かけたが、それだけで、静かな物だ。

 

 屋内に隠れている人が多いのはアルトリアが何となく感知してくれたが、屋外は生きている気配はほとんど無いらしい。考える必要も無くこれが今回の異変だろう。ついに本格的なバイオハザードが起きてしまったらしい。

 

 本当なら、この時代から100年ぐらい後にバイオハザードが発生するため、これは人理崩壊の危機だ。早く合流し、出来れば現地人かサーヴァントとも合流して事態の収拾に努めなくては。もう既に何十、何百人もの犠牲者が出ているのは明白だ。

 

 

 

 

 そうして急いでいると、静かな街並みに轟音が響き渡った。嫌という程聞いて来たそれは、ディーラーも持つロケットランチャーの爆破音で。

藤丸達が交戦していると考えた私達が向かった先では、見覚えのある三角頭とタイラントに似たコートを着たクリーチャー、そして全身甲冑の騎士が交戦している光景があった。

 

 

「…モードレッド。何故ここに・・・」

 

「モードレッド!?………まあアーサー王やネロ帝がアレだし、もう驚きはしないけど」

 

 

 アルトリア曰くモードレッドと思われるサーヴァントは現在、魔力放出なのか赤雷を纏って突進、三角頭と交戦していた。

・・・いや、正確には交戦とは言えないだろう。コートのクリーチャーはモードレッドの攻撃でダウンしたが、三角頭は全く怯まず、むしろ追い詰めている。あの槍で仕留めるつもりか。

 

だけど、もう、誰も犠牲にしないと決めた。やる事は、決まっていた。

 

 

「ガンド!」

 

 

 特異点に行くたびに、何時もの礼装の下に着込んでいるカルデア戦闘服のマスタースキル。使わずとも私なら使えるが、咄嗟に使えるというのは実にいいアドバンテージだ。あと、私が単独で撃つよりも効果がデカいのも魅力だろう。上手く当てればウェスカーだって止めれるかもしれない。

 

 

魔弾を受けて尚、ギギギギッと三角頭を動かしたチェイサーのサーヴァントと、目があった気がした。

 

 

 

 

 

――――後から分かった事だが。どうやらその日、私は再び運命に出会ったらしい。切っても切れない縁は知らないうちに紡がれていた。




僕が▲様の好きな理由は、デザインもあるけどその在り方が尊いからです。まあ自己解釈なんですが。なお、心中の口調は彼の元であるジェイムスをイメージしてます。
▲様が召喚された理由は自分の成し遂げた存在意義が無かったことにされたのと、人理焼却の首謀者の断罪。成し遂げる事は出来るのか。

オルガマリー、生き返ってもほとんど詰んでいた件。現在第二部の序章でも話題に上がっている事ですがやっぱり被害が大きすぎた。藤丸立香が彼女であったから今も生きれている、とありますが立香も立香でオルガマリーが居たから生きられてます、まさに二人三脚です。

そして再び出会ってしまった二人の邂逅。自分の存在意義を取り戻したい▲様と、贖罪したいオルガマリー。ロンドンに着くや否や分断された立香たち共々、その運命や如何に。

次回はちょっと時系列を戻して立香sideの話。VS悪夢の競演お子様コンビ。次回もお楽しみに!よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。
 ではでは、よいお年を。………しかし狗年かあ(今年(2017年)の妹の高校合格祈願に行った初詣の帰りに神社からの帰り道、何もしてないのに下り坂で二匹の犬に追い回されてトラウマになった。おかげでバイオ4でも犬がリヘナラドールと並ぶトラウマエネミー)。………犬に縁のない年だといいなぁ(切実)

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