Fate/Grand Order【The arms dealer】   作:放仮ごdz

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また久し振りの更新です。ヴェルカム!ストレンジャー・・・どうも、ラスボスが一番弱かったバイオ4professionalを無事クリアし、念願の隠し武器を手に入れてから執筆したので更新を怠っていた放仮ごです。サドラーはやっぱり弱かった(ぶっちゃけマイクエリアが一番強敵だった)。

今回は長くなりすぎたのでディーラーの宝具お披露目は次回に持ち越しになりましたが、ヘラクレスへの反撃回となります。そしてイアソン終了のお知らせ。楽しんでいただけると幸いです。


全額勝負といこうかストレンジャー

アルバート・ウェスカーは「あの御方」に直接オケアノスに召喚されたサーヴァントだ。メディア・リリィとヘクトール、ヘラクレスだけでは力不足だと感じた「あの御方」は、唯一ディーラーを完膚なきまでに倒し、ローマにて事故で消滅したウェスカーを「新世界の神になる」という野望を抱いていなかった頃の状態で召喚し(生前の記憶は引き継がれる)、送り出した。

 

召喚されたアルバートはヘラクレスを使って「宝具を使用し、強化するB.O.W.」を生み出す実験には成功し、さらにカルデアがこのヘラクレス・アビスに敵う道理は無いので役目は終え、あとは自由にしていいと言うのが令呪による命令だ。「あの御方」には黙ってもう一つ仕込んだものを見届けてから消えてやろうと言う腹積もりだった。

 

 

「なに、行先はすぐ傍の島だ、今なら俺のB.O.W.で容易に追いつける。お前はそこで無様に気絶している馬鹿の子守りでもしていればいい。心配ならば配下を付けようか?」

 

「結構です。イアソン様は私が守ります。もしも彼等がまた攻め込んで来たら、貴方から頂いたコレを使いますのでご安心を。それよりも、あの御方からの命令は遂行してください。この海を滅ぼすには、もうイアソン様では役不足です」

 

「元よりそうだろう。コイツには野望があっても、それを成し遂げるだけの覚悟が無い。新世界には不要の産物だ。死に物狂いでやってみればどうにかなるタイプだろうがな」

 

「なるほど。アルバート様と同じ人種ですね!」

 

「…………冗談と受け取って置こう」

 

 

メディアリリィの発言にビクッと反応したアルバートであったがサングラスを押さえ、一度浮上して来てから己が指し示したドレイク達の向かった島へと追い掛けて行ったヘラクレス・アビスの行方に視線をやり不敵に笑む。

 

 

「なにより、俺の予想に反して教団を壊滅させたレオン・S・ケネディの関係者であるあの男がいる。不安の種は潰しておくに限る」

 

 

その視線の先には、新たにアーチャーのサーヴァント二体を入れた自らのサーヴァントを背後に控えさせ、オリオンを肩に載せたオルガマリーが、傍らにドレイクとその部下たちを連れて砂浜に立っていた。

 

 

「部下が命を懸けて頑張ってるのよ。邪魔はさせないわ」

 

「さあて、二度目だけどこここそ命の張りどころってね!」

 

 

その姿を見て正気を取り戻したイアソンが船の残骸の上に立ち上がる。屈辱と敗北に塗れたその表情は憤怒に染まっていて、アルバートとメディアリリィは溜め息を吐いた。

 

 

「不安の種?馬鹿かアルバート、奴等はそんな生易しい物じゃない、必ず潰すべき害虫だ!害悪だ!一匹残らず捻り潰せ!俺の船がこうなったのも守りきれなかったメディアの責任だぞ、お前もやれ!」

 

「後の二人は無視していいわ!イアソンを狙いなさい!」

 

「さて、遠慮なく宝具の大盤振る舞いをさせてもらおうか。太陽神(アポロン)月女神(アルテミス)に捧ぐ―――彼女の無念を私が受け継ぐ。訴状の矢文(ポイポス・カタストロフェ)!」

 

「狙われたからにはお返しをしないとね。宝具―――五つの石(ハメシュ・アヴァニム)!」

 

「そーれ、たんまり喰らいな!」

 

 

イアソンの命令に動き出そうとしていた二人に先手を打つように、新たなアーチャー二人を筆頭に、ディーラーから借りた銃も使い遠距離から一斉攻撃するオルガマリー達。メディアリリィが魔力の防御壁を張り、ウェスカーが手にしたカスタム拳銃…サムライエッジで反撃するも、アルトリアに防がれてしまい意味を成さなかった。

 

 

「な、なんでオレばかり…この卑怯者!絶対に俺を守りぬけよ!アルバート!メディア!…ふん、あのマスターとエウリュアレが居ないのを見受けるとどうやらヘラクレスから逃げているんだろう?だったら時間稼ぎをすればオレ達の勝ちだ!アイツは最強だからすぐにやってくれるさ!」

 

「…はあ。そう上手く行くといいのですが」

 

「こうなるのは奴等の思惑通りか。勝手に死にそうだったから興味は無かったがあのマスター、中々興味深い。タイラントを嗾けるのも視野に入れて置こう」

 

「…あのマスターに同情しますね、ええ」

 

 

湾岸に隠れていた黄金の鹿号も現れて砲撃が襲い掛かり、メディアリリィは溜め息を吐きながら迎撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう誰かに助けられるだけは嫌だ。共に戦い、誰も犠牲にせず生き抜きたい。そんな決意を抱く藤丸立香は今日も今日とて無茶をする。ワイヤーでしっかり縛ったエウリュアレを抱き抱え、高速で森の中を走るバイクの後部座席に乗り大英雄と命がけの追いかけっこをすると言う無茶をする。

それができるのも、彼女が信頼する己のサーヴァント三名がバックアップしてくれるからだ。

 

 

「来るぞ来るぞ、ストレンジャー!」

 

「全く、とんでもないマスターに呼ばれたものね…!」

 

「先輩は、私達が守ります!」

 

「マシュとディーラー、メディアさんは手筈通りに!メイドオルタ、お願い。全速力で逃げて!!」

 

『経路は僕が指し示す!立香ちゃん達はとにかく、逃げてくれればいい!』

 

「フルスロットルで行くぞ!しっかり掴まってろ、マスター!」

 

 

ある程度引き寄せるために一定のスピードを保っていた愛車のエンジンをフルに回して爆走を開始するメイドオルタと、それを追いかけて走る(一名は飛んでる)ディーラー、マシュ、メディア。猛追するヘラクレス・アビスに目掛けて三名は各々の役割でバックアップを開始した。

 

 

「■■■■■■■ッ!!!!」

 

「…アステリオス、貴方多分、私を任せる人を間違えたわ。致命的に」

 

 

何度も不可視になり分身、瞬間移動を繰り返しながら迫り来る大英雄を、立香の背中越しにぼんやりと眺めたエウリュアレは、考える事を止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

そもそもどうしてこんなことになったのか。それは、ドレイク達の逃げた島で、アルゴナイタイを裏切った弓兵のサーヴァント・アタランテと、彼女をアルバートの放ったネプチューンから救ったと言う弓兵(なお杖で殴ったり投石したり)のはぐれサーヴァント・ダビデと合流したためであった。

 

アルテミスの最期を聞きオリオンの意思を汲んでヘラクレス・アビス打倒に協力すると申し出たアタランテと、アルゴナイタイの求める「契約の箱(アーク)」を宝具として所持しているためアルバートに追われていると言うダビデと協力し、ヘラクレス・アビスを倒す策を考えたカルデア一行。

 

ダビデ曰く契約の箱(アーク)とは触れさせれば相手は死ぬ、それだけしかできない三流の宝具であり、正確にはダビデの所有物と言う訳でもなく、神が人類に与えた契約書の様なそれの現物と共に召喚されるサーヴァントがダビデらしい。

契約の箱(アーク)とはあらゆる存在に死を与える箱であり、もしも神霊であるエウリュアレが触れて契約の箱(アーク)に捧げられれば暴走し、真っ当な世界ならばともかく本来存在しない特異点では耐え切れずこの時代その物が「死」ぬとの事。イアソンは王になる力のつもりだったのだろうが、これは誰かに言い含められたため滅ぼすつもりなど微塵もないのだとメディアが確信を持って言ったため全員が納得した。

 

そして、契約の箱(アーク)に触れさえすればヘラクレスの命のストックを一発で削る事が出来るらしいが、まず宝具であるために魔力があるためバーサーカーでも触れさせることが難しいらしい。そこで、立香が作戦を思いつき、かなりのギャンブルだがそれしかないと相成った。

 

ヘラクレス・アビスが狙っている立香とエウリュアレが囮になって契約の箱(アーク)のある場所まで誘き寄せ、ディーラーの思い付いたある策で触れさせる。その間、アルバートとメディアリリィに邪魔されない様にオルガマリー達がイアソンを狙って足止めする。実行部隊は立香とそのサーヴァント達。それだけの作戦だ。

 

 

「行くぞメディア、マシュ。俺達は奴を殺す必要はない。適当に足を止めさせればいい」

 

「分かっているわ。マシュ、この中で接近戦ができるの貴方ぐらいなんだから踏ん張りなさい!」

 

「はい!マシュ・キリエライト…先輩を守るために、行きます…!」

 

 

メディアの魔術でメイドオルタの進行方向先に転移、通り過ぎてから手榴弾やら魔法陣によるトラップを放ち、爆発や氷結、炎や電撃で足止めを図るディーラーとメディア。しかしヘラクレス・アビスは少しスピードを緩める程度で意にも介さず突き進み、それをマシュが後方から己の盾を投げ付けて背中の弱点部位にぶつける事で仰け反らせ、括ってあったワイヤーを引っ張って手元に戻すと今度は突進。

 

 

「やあぁああああっ!」

 

「■■■■■■■!」

 

「ッ!」

 

 

させるかと言わんばかりに咆哮と共に振り返って爪を叩きつけて来たヘラクレス・アビスの反撃を受ける直前に立ち止まって踏ん張り防御、その隙にメディアの手から胸元に向けて放たれた魔力光線とディーラーのライオットガンによる顔面ショットガンを浴びて動きを止め、その間にメイドオルタはギリギリ視界に納まる程度の距離まで突き進んでいく。

 

 

「■■■■■■■■■■!」

 

 

それに気付いたヘラクレス・アビスは巧みに右腕の爪と左手の斧剣を乱舞の如く振り回してディーラー達を跳ね飛ばし、閃光と共に姿を消してメイドオルタの追跡を再開する。

 

 

「メディア。次だ」

 

「了解。回復はちゃんとしなさいよ」

 

「分かっている」

 

 

アーマーを着て一撃死を回避しているディーラーの回復系統の商品を使い、メディアの魔術でダメージ軽減している両者共に体力を回復して傷も治し、メディアの魔術で再びメイドオルタ達の進行方向先に転移して再び妨害。しばらくの間、それを繰り返すディーラー達。地味ではあるものの、「殺さない程度の攻撃で足止めできる」というのはヘラクレスとの戦いに置いてかなり有効であった。

 

 

 

 

 

 

 

そして、しばらく走り続けて契約の箱(アーク)がある地下墓地(カタコンベ)の最奥部まで来た立香達。逃げ場がない一番奥までメイドオルタがバイクで契約の箱(アーク)を飛び越え、それに気付いたヘラクレス・アビスは急停止。

ただ触れさえすればいいのに、マシュとバイクから降りたメイドオルタが押し込もうとするも足りず、メディアの魔術も弾き飛ばされる。どうあっても触れる気はない様だがしかし、それをディーラーは許さない。

 

 

「なあ英雄様。アンタ、ウイルスに感染してクリーチャー化しているんだろう?どうだ、感覚は。何時もより鋭く、反射的に動ける様になっているんじゃないか?」

 

「■■■■■■■■■■■!」

 

「ヒッヒッヒッヒェ。アンタには特異点Fで借りがあったなぁストレンジャー…JACKPOT(大当たり)だ!」

 

「…行っけえ!」

 

 

ディーラーが投擲した閃光手榴弾とパルスグレネードが閃光とパルスを発生させると同時に、立香が懐から取り出したそれを投擲。視力を失い、平衡感覚を失い、しかし契約の箱(アーク)に触れない様にその場に陣取り、両腕の得物を闇雲に振り回すヘラクレス・アビスであったが、一定間隔で流れる音が聞こえて来て彼の意思に反して体は動き出す。契約の箱(アーク)の上に、それはあった。

 

 

「B.O.W.デコイ。本来ならばハンターの様なすばしっこい奴等を一か所に集めて爆発で一網打尽にする、ヴェルトロと取引して手に入れた俺のとっておき商品だ。やっぱり効果はあったな、狂化が成されているバーサーカーの辛い所だ。これがジャック・ノーマンの野郎だったら効かないんだろうがな」

 

「これで、どうだ…!マシュ、押し込めぇええええっ!」

 

「はい、行きます先輩…疑似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)ッ!」

 

「■■■…!?」

 

 

何とか抗い、ギリギリのところで立ち止まったヘラクレス・アビスに、宝具を展開しながら突進したマシュのシールドバッシュが直撃。ぐらりと揺れて、ヘラクレス・アビスは巨大な右腕をついに、契約の箱(アーク)に下ろした。短い声を上げて、ヘラクレスの命のストックが一瞬で失われその姿が消える。ついに、ヘラクレス・アビスを倒す事に成功した立香はその場にへたり込んだ。

 

 

「やった…やったよ、黒髭。パーカー、ヴェルデューゴ。…アステリオス。みんなのおかげで、私達は勝てたよ…」

 

「お疲れだマスター。吐くなよ?」

 

「本当、よく勝てたものね。最後、ギリギリだったわ」

 

「作戦は完璧だったんだ。後は頑張りさえすればどんな難題でも越えられるのが人間だ。よく踏ん張ったなマシュ。いいガッツだったぜ」

 

「…正直、信じられません。先輩とディーラーさんの作戦が大きかったと思います。それよりマスター、大丈夫ですか!?」

 

 

一息吐いたマシュが慌てて立香の安否を確認する。魔術礼装の背中が鋭く裂けていたが、軽傷の様でありディーラーが手当てしていて安堵した。

 

 

「………正直、死ぬかと思った。何度か掠ったし」

 

「アルテミスの様に傷口から感染したらヤバかったが、どうやら振り下ろしの時に生じた風で裂けた様だから安心しろストレンジャー」

 

「死ぬかと思ったは私の台詞よ。気が気でなかったわね。まあでも、野蛮だけの勇者ではなく自分の弱さを知って、出来得るだけの事をした立派な振る舞いだったわよ、マスター」

 

『あとはイアソン、敵の魔女メディアとアルバート・ウェスカーのみだ。所長にも知らせた、急いで戻ってくれ皆!』

 

『嫌な知らせだよ立香ちゃん。イアソンが魔神柱化、敵の魔女メディアがクリーチャー化した。オルガが危ない』

 

「ええ!?」

 

 

安堵からの急転直下、所長のピンチに立香はメイドオルタと共にバイクに飛び乗り、他の面々を置き去りに来た道を急いで戻る。ディーラー達もメディアの魔術による支援を受けて走りだし、オケアノス最後の戦いが始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハアアッ!」

 

「ネプチューン。…シークリーパー、グロブスター」

 

 

水面をかける青き騎士王に向け、アルバートはウロボロス・ウイルスの嚢胞を目の前の海に飛ばして巨大なホオジロザメのB.O.W.ネプチューンと、t-Abyssによるウーズの亜種である白いカブトエビの様なシークリーパーの群れと、巨大なナマコの様な肉塊グロブスターの群れを召喚。

アルトリアは跳躍して飛び出して来たネプチューンを一刀両断して着水。風王結界を解放してシークリーパーとグロブスターの群れを巻き上げながら突進。堪らず腰だめに構えるアルバート。

 

 

「その程度か騎士王?」

 

「ぐっ、があっ!?」

 

 

振り下ろされたエクスカリバーを後退して避けて踵落し…ネリチャギをその肩に叩き込み、すかさず怯んだアルトリアを掌打で海面まで吹き飛ばしたアルバートは、続けて滑走して来たネロに手にしたサムライエッジを乱射。

 

 

「斬撃皇帝、出るぞ!…この程度、ぬああっ!?」

 

 

咄嗟にネロが剣で防ぎ隙ができた瞬間に再度ネプチューンを召喚し、水中から襲わせるも拳で迎撃されるも、焦らずにサングラスの位置を直したアルバートは、シークリーパーとグロブスターを再び召喚して構えた。

 

 

「今の俺のクラスはアーチャー。驚異的なスピードこそ出せないが、堅実さではアサシンの俺を優に抜く性能だ」

 

「むう、無事か青いの!」

 

「え、ええ何とか……しかしこの男、決して侮れません。あの召喚能力は厄介です」

 

「奴めの相手は我等が受け持ったのだ。行くぞ青いの!援護は任せよ!」

 

「ええ、同じオルガマリーのサーヴァント。信頼しましょう。……あと青いの言わないでください!」

 

「…いいだろう。アーサー王に皇帝ネロ、別のクラスとはいえローマでは世話になったな。決着をつけるか。完全に葬ってやる!」

 

 

小さな島の様に集束したグロブスターに乗り、海に乗り出してアルトリアとネロの二人とぶつかるアルバートを余所に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何…?おい、メディア。その冗談、この状況じゃなくとも全く笑えないぞ」

 

「いいえ。残念ですが、ヘラクレス・アビスが倒されました。どういう手を使ったのかは不明ですが、海である限り決して負ける事の無い今のヘラクレスがカルデアに敗北した様ですイアソン様」

 

「死ぬはずがないだろう!?不本意とはいえ、アルバートが「海では決して負けない力」を与えたはずだ!そもそもアイツはヘラクレスだぞ!英雄(オレ)たちの誰もが憧れ、挑み、一撃で返り討ちにされ続けた頂点、不死身の大英雄なんだぞ!?それがあんな、ふざけた作戦しか出せない腰抜けのマスターが寄せ集めた様な雑魚サーヴァントどもに倒されてたまるものかァ!!!」

 

 

ヘラクレスが負けた、その凶報をメディアリリィから受けて取り乱すイアソン。今もなお遠距離攻撃を受けており、メディアリリィの張った防壁も罅が入り始めている。撤退しようにも自分の唯一の取り柄とも言えた船は全壊。聖杯はあるものの、今悪足掻きしようとも出るのはシャドウサーヴァントのみだが召喚して飛び出していく傍からアーチャーに倒される。ヘクトールとヘラクレスがやられた今、最後の頼みの綱であるアルバートはこちらの気も知らず二人の英雄とガチンコバトルしている。

もう怒鳴る事しかできないイアソンに、メディアリリィは憐みの目を向けながら笑みを浮かべた。

 

 

「安心してくださいイアソン様。マスターのお守りは私の役目。最期までちゃんと、面倒をみてあげますから」

 

「何を言っているメディア!聖杯の魔力をじゃんじゃん使って特大の砲撃をかましてやれ!」

 

「全盛期でしたら短時間で出来ますが今の私では難しいですね。しかし降伏は不可能、撤退も不可能。私は治癒と防衛しか能の無い魔術師。ああ、その防衛も今や崩壊間近。さあ、いかがいたしましょう?」

 

「うるさい、黙れッ!妻なら妻らしく、夫の身を守る事だけを考えろ!」

 

「ええ。もちろん考えています、マスター。だってそれがサーヴァントですものね」

 

「っ…何だその顔は。なんだってまだ笑っている!お前、この状況が分かってないのか…!?」

 

「最期にいい事を教えて差し上げます。貴方の求めていた契約の箱(アーク)と女神エウリュアレですが」

 

「それがどうしたって言うんだ!今更!」

 

「もしも契約の箱(アーク)にエウリュアレを捧げていたら世界が滅んでいました。残念ですね、そうしたらイアソン様も苦しまずに死ねたのに」

 

 

今度は純粋な笑みを浮かべたメディアリリィに、表情が引き攣るイアソン。彼女は、イアソンに恋をさせられ裏切られた末路を辿った魔女メディアが幼き姿を取ったサーヴァントは、純粋に狂ってしまっていた。

 

 

「う、嘘だよなメディア…?契約の箱(アーク)に女神を捧げれば無敵の力が与えられるんじゃなかったのか…?だって、あの御方がそう言って…」

 

「はい、それは嘘ではありません。だって時代が死ねば世界が滅ぶ。世界が滅ぶ、即ち敵が存在しない…ほら、無敵でしょう?」

 

「それじゃあ何の意味も無いだろう!オレは今度こそ理想の国を作るんだ!誰もがオレを敬い!誰もが満ち足りて、争いの無い、本当の理想郷を…」

 

「それは叶わない夢なのです。召喚されてからこれまで言って来たことは全て真実です、多少の誤解はあった模様ですが。騙してなどいません。例えば、今しがた守ると言ったでしょう?どうやって守るかというと…こうやって、です」

 

「なっ…」

 

 

もう少しで魔力障壁が割られる、と言ったところでえいっ、と軽く声を上げて聖杯をイアソンの胸部に突っ込んで取り込ませたメディアリリィ。イアソンの姿が溶け、歪み、膨張して姿を変えていく。

 

 

「聖杯よ、我が願望を叶える究極の器よ。顕現せよ。牢記せよ。これに至るは七十二柱の魔神柱なり。其は序列三十、海魔フォルネウス」

 

「が。ぎ、が、あ、ぎいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

 

「――――戦う力を与えましょう、抗う力を与えましょう。そして、ともに滅びるために戦いましょう。私も、愛しい貴方のために我が身を捧げましょう…ずっと一緒ですよ、マスター…」

 

 

魔神柱へ変貌していくイアソンを見ながら取り出し、残念とでも言いたげな笑みを浮かべたメディアリリィが自身の首筋に打ったのは、アルバートから手に入れた怪しげな赤い液体の入った注射器。アルバートからGウイルスだと聞かされていたそれは、液体の中にちらりと動く影が見え、メディアリリィに注入される。

 

 

「ぐっ、がっ…」

 

 

苦しみもがき、倒れたメディアリリィの背中が蠢いて数本の触手が飛び出し、魔神柱に巻き付いて取り込みながらメディアリリィの身体を持ち上げていく。しかしその表情には困惑が浮かんでいた。

 

 

「これは…まさかアルバート、様…これ、は…!?」

 

「うん?ああ、やっと使ったか。貴様はもう用済みだ、G生物で魔神柱を取り込むというのはいい提案だったが、それではローマでG生物を倒したカルデアに勝てる見込みが減るだろう。そもそも重石に過ぎないクズ共に付き合う義理は無い。…だが感謝しろ、自我は残る支配種プラーガを貴様にくれてやった。片っ端から辺りの生物を取り込み変異する不完全な…アーヴィングに言わせれば二流の代物だがな。サーヴァントはプラーガにもちゃんと適合する、それが分かっただけで満足だ。礼を言おう」

 

「………ヘクトール。貴方が正しかった、みた、い…」

 

 

メディアリリィの脳裏に思い浮かぶは、ヘクトールの忠告。同じ主を持つため裏切る事は無いと思っていたのが裏目に出た。

 

 

「ッ!?アルトリア、ネロ!退避よ!」

 

「「!」」

 

 

狂笑を浮かべたメディアリリィが、足場が崩れて魔神柱ごと海に落ちる瞬間、アルバートと交戦中のアルトリアとネロに向けて触手が伸び、二人はオルガマリーの声に咄嗟に剣で迎撃。しかし大波によって体勢が崩れ島まで流されてしまい、アルバートはその隙を突き姿を消す。

 

 

「アレは…プラーガ、なの…?」

 

「オルガマリー達がフランスで寄生されたと言う寄生生物ですか。でも、どこに…」

 

「来るぞ所長さん!皆、急いでドレイクの船に乗れ!」

 

 

それに気付いたオリオンの声に、オルガマリーを抱えて黄金の鹿号(ゴールデンハインド)に飛び乗るアタランテと、続くダビデ。そして津波が先程までいた砂浜を襲い、アルゴー号の残骸を突き破ってそれは現れた。

 

 

『序列三十、海魔フォルネウス・アビス。この力を持って、アナタ方の旅を終わらせましょう!』

 

 

メディアリリィが変異したのは、さまざまな魚類や貝類、さらにネプチューンやグロブスターにシークリーパーなどを融合させたような特徴を持つ白いイカに酷似した硬質な殻に覆われ、全身に赤い魔神柱の目がギョロリと動き、大口を開けたクリーチャー。

開いた口の中から舌の様な触手と一体化した半身を現したメディアリリィが叫び、フォルネウス・アビスは口を閉じて水中に沈むと、水面が盛り上がり迫り来るのが分かった。

 

 

「最後に怪物のご登場かい!こないだのクジラよりは幾分か小さいねえ!…野郎ども準備はいいね!黄金の鹿号(ゴールデンハインド)!これが最後の航海、最後の海賊だ!目標はあのデカブツ!連中が持っている財宝はアタシたちの自由の海だ!黒髭の野郎が奪われた分まで全部まとめて取り返すよ!鐘を鳴らしな、兄弟!」

 

「あいよ、姉御!」

 

「取り舵一杯!砲撃と射撃を行いつつ、接近!オルガマリーの所長さん方をデカブツのところまで送り届けろ野郎共!」

 

 

このままでは埒が明かないとばかりに沖に乗り出す黄金の鹿号と、それに並走しながら辺りを警戒するアルトリアとネロ。不自然な静かさに、オルガマリーの脳内が警鐘を鳴らした。まだ立香達が合流していない、このままでは船ごと沈められて終わりだ。だがしかし、船で沖に出ないと攻撃すらできない。そんなジレンマに頭を悩まされる。

 

 

「前回はまだ足場になる船があったからよかったけど…また巨大水棲クリーチャーって、やっぱりマイクが居ないのは痛いわ……アルトリア、ネロ!一度上がって様子見よ…!?」

 

 

そう言ったオルガマリーであったが船体が大きく揺れ、投げ出されそうになり必死にしがみつくと右舷から迫り来る巨大な影が見え、次の瞬間には小さくなった魔神柱の様な触手が海面から飛び出してきて攻撃。

 

 

「させるか!」

 

 

咄嗟に船上に上がったアルトリアの切り上げで迎撃するも、海面に飛び出してきたフォルネウス・アビスの噛み付き攻撃が襲い掛かる。

 

 

「…あ、ヤバい」

 

「マスター!」

 

 

ネロの声が聞こえて強い衝撃がオルガマリーを襲い、そこで意識は暗転した。




今更だけど、ルールブレイカーがあるならマスター権を剥ぎ取ればよかったんじゃね?と思ったのは言っちゃ駄目ですかね。

アルテミスの最期を聞いて奮闘するアタランテとダビデ。前者の方はフランスでディーラーに瞬殺されてましたが気付いてないので掘り返さない方向で。

原作と作戦は同じなれど、エウリュアレと共にメイドオルタのバイクに三人乗りして他のメンバーでサポートすると言う作戦を実行した立香。相変わらず無茶してます。
最後はB.O.W.デコイで誘き寄せると言う作戦。ヘラクレスをアークに触れさせるってこれがいいんじゃね?という考えです。なお、ジャック・ノーマンは引っ掛かりませんがヘラクレスは狂化している上にウイルスで大脳がほとんど溶けてるから…

弱体化しているとはいえアルトリアとネロと言う主人公クラスのサーヴァント二名と互角に渡り合うアルバート・ウェスカー・リリィ(アーチャー)。メディアリリィを騙しましたが、実はこのアルバートは5前のヘタレだから最初からGウイルスなんて持って無かった(自分が危険だから)。

そして登場、今章のラスボス。フォルネウス・アビス。魔神柱を取り込んでクリーチャー化。元ネタは5のアーヴィングモンスターです。イアソンとアーヴィングって何か似てるよね!
海洋生物だけでなく浮遊していたグロブスターやらも取り込んでいる為t-Abyssとプラーガが同居している状態であり、さらに魔神柱も混ざっている為メディアリリィの自我は表層しかありません。これまたウェスカーの想定外。それに気付いたアルバートはさっさと逃げました。

次回、オケアノス編最終回「ヴェルカム!ストレンジャー…!」次回もお楽しみに!よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。

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