Fate/Grand Order【The arms dealer】   作:放仮ごdz

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久し振りの更新です。ヴェルカム!ストレンジャー・・・どうも、最近ちょっとしたスランプに陥っていた放仮ごです。UAが何時の間にか80000突破してましたありがとうございます。オケアノス編、7話で終わらせるつもりがかなり長引いてしまいました。あと二話で終わらせたい。

今回は一万字突破と何時もより長く、立香とオルガマリー絶望回。前回の優勢から一転、神代の生物災害が牙を剥く。黒髭海賊団とアステリオスの勇姿を見よ。楽しんでいただけると幸いです。


アイツを否定できるかストレンジャー

 ヘラクレスは、大英雄である前にイアソンの信を預かる友である。また、彼はマスターでもある。とある現界でマスターを守りきれなかった彼にとって、マスターの指示を聞くのは当たり前であり、しかし守るために自主的に動かざるを得ず、さらには世界を滅ぼさせないために狂戦士なりに防ごうとし、混乱の極みに陥った。今回それが祟って二つも命を奪われ、その挙句にこの大敗北である。

 

何が大英雄か。何が彼の友か。…主を守れずして何がサーヴァントか。また、守れなかった。どうも自分は、圧倒的な物量に滅法弱いらしい。そんな失意のまま沈んでいく。しかし、何かに下から持ち上げられて浮上した。見れば、巨大な鮫が自身の巨体をその背に乗せていた。

 

 

「何をしている、大英雄。お前のマスターは無事だ。お前は敵をただ排除すればいい。」

 

 

何時の間にかマストの残骸の上に立っていたサングラスの男が、傍らの船の残骸に乗っているメディアリリィとイアソンを指しながらそう言った。男を無言で睨み付け、そして振り向くとそこには二隻の海賊船と、顔を青くしながらも船室から出てきてこちらの様子を探る敵マスターである少女の姿。

 

 

「■■■■■■■■■■■■■!」

 

 

オレンジ色の髪を持つ少女の姿が脳裏で一人の少年と被さり、彼女が庇う様にしている女神を見付け、以前の現界をぼんやりと思い出したヘラクレスは水面を震わす咆哮を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫?エウリュアレ」

 

「ええ……何が起こったのかよく分かってないけど。何であの変態が…」

 

「…色々ありまして。大体私の所為です、はい」

 

「…まったく、連れて来たからにはしっかり私を守りなさいよ?…というか貴女こそ大丈夫?」

 

「ぶっちゃけ死にそう。…エウリュアレはアステリオスのところに行っていて。後は私が…私達が何とかするから」

 

 

ディーラーに無理矢理食べさせられたハーブで体調を回復させた立香は作戦成功と聞いて顔を出し状況を確認すると、エウリュアレを下げさせてからアルゴー号の残骸に横たわり消滅して行くヘクトールの姿を見付けた。

 

 

「……オジサン、守る戦いなら負けなしだったんだけどねぇ…こいつぁ、完敗だ。誰だい?こんなとんでもない策を考えた馬鹿は。トロイアの将に欲しいぐらいだ」

 

「…私、だけど。ヘラクレスみたいな強敵を倒すには、ディーラーがよくやる敵の虚を突くやり方が一番いいと思って」

 

「…アンタか。盾のデミ・サーヴァントと商人なんかに守られているだけの嬢ちゃんだと思っていたら中々どうして……その無鉄砲ささえ直せれば、オジサンが召喚されたら力を貸すぜ…?」

 

 

その言葉を残して消滅したヘクトールを見送り、一息ついた立香だったがしかし。アルゴー号を見ていた周りの様子が可笑しい事に気付き、そして視線を動かし、他の面々とほぼ同時に驚愕する。

 

 

 

それは、イアソンとメディアリリィがアルゴー号の残骸に乗っかっていて生きていたからじゃない。

 

 

マストの残骸の上に、見覚えのある金髪オールバックとサングラスの男を見かけたからではない。

 

 

 

黒髭とドレイクの一斉掃射を受けて水中に沈んでいたはずのヘラクレス・アビスが水面に現れ、一跳躍で黒髭の船へと飛び乗って来たばかりか、閃光と共にその姿が三体へと増えていたからであった。

 

 

「そんな…!?」

 

「三体だと…!?」

 

「怯むな、行くぞ!」

 

 

間髪入れずに飛び出したのは、メイドオルタ、ネロ、アルトリア、アステリオス、ヴェルデューゴ、マシュの六名。示し合わせたように三人ずつで手前に居る二体に攻撃するも、その攻撃はすり抜け、気付いた時には巨大な爪と斧剣により薙ぎ払われていた。

 

訳が分からず吹き飛ばされた面子に変わり、ディーラー、ドレイク、メディア、エウリュアレ、黒髭、パーカーが、ハンドガンマチルダを構えた立香と、オリオンを肩に乗せてピストルクロスボウを手にしたオルガマリーと共に一斉射撃を叩き込む。

しかし三体のヘラクレス・アビス全てをすり抜けてしまい、唐突に立香達の背後に出現したヘラクレス・アビスの攻撃を咄嗟に気付いたパーカーがショットガンハイドラで迎撃するも、今度は六体に増えて立香達を取り囲んでじりじりと迫る。

 

 

「幻影!?それも、スキル:商人魂を持つディーラーまでかかっているって事は精神的な物じゃない幻影…B.O.W.はそんなことまでできるの…!?」

 

「所長、何か手は…!?」

 

「…本体は透明になる事も出来るみたいだし、攻撃は意味が無いわ。カラクリが分からない今、近くの島に逃げるしかない。でも、その為には殿が……とりあえず黒髭、宝具!アルトリアは直感で探れるなら前衛を!後の皆はゴールデンハインドに退避よ!」

 

「任された!いくでござるいくでござる!」

 

「そこだ!」

 

 

持ち前の直感スキルで察知したアルトリアがエクスカリバーを叩き込んで姿を現したところに、甲板に出現した大砲群からの一斉砲撃が襲い掛かり、爆発で身動きが取れなくなるヘラクレス・アビス。その隙に立香達と共に隣接するゴールデンハインドに退避したオルガマリーは、黒髭の宝具では殺し切れない事を悟り、苦渋の決断として奥の手を切る事にした。

 

 

「ドレイク船長!全速力であの島にお願い!…黒髭、本当にいいの?」

 

「何を迷う事があるのか。もしヘラクレス・アビスを倒し切れなかった場合、誰かがこの役目を引き受けなければならない、しかしこの中で真っ先に飛び出すのは間違いなくアステリオス氏だ。…だけどそれじゃあエウリュアレたんが悲しむ。それだけは譲れない矜持でござる。

せっかくエウリュアレ氏を救い出したと言うのに、その命を狙う無粋な輩を倒すためなら喜んで捧げる覚悟ですぞ。オルガマリー殿は、立香殿と違ってこういう時に迷っても切り捨てる事が出来ると信じていましたぞ」

 

「黒髭…?所長、何を…まさか!?」

 

「いいわ、だったら最後ぐらいド派手にやりなさいエドワード・ティーチ!伝説の大海賊が大英雄に勝てない道理はないわ!」

 

 

アルトリアが退避したのを確認し、ビシッと人差指を指し示すオルガマリーの様子に感づいたヘラクレス・アビスが動こうとするも、黒髭の宝具がそれを許さない。苛烈を究める砲弾の嵐に、跳躍しようとしていたヘラクレス・アビスの体勢が崩れ、それが好機と見た黒髭は部下を一斉に呼び出して砲弾の嵐に銃弾の雨を叩き込み、己が宝具に意識を飛ばし、撃ち続ける大砲の前で声を張った。

 

 

「不詳エドワード・ティーチ、大海賊“黒髭”!一世一代の生き様を見せてくれる!見とけよBBA!見逃したら許さねーんだからな!」

 

「…やっぱりそんな腹積もりだったかい。何かそんな気はしていたよ。いいさ、好きにやりな。この嬢ちゃんならアタシが押さえる」

 

「何で、せっかく拾った命なのに!…ディーラー、止めて!嫌な予感がする…所長!」

 

「…生憎だがストレンジャー。既に所長さんからオーダーを受けていてな」

 

「ごめんなさい藤丸。…でもこれを言っていたら、絶対止めていたでしょ?…貴女のせいじゃないわ。倒し切れないのは想定内、だからオリオンに言われて決めていた」

 

「相手は人類史の中でも並ぶ者はそういないトップクラスの大英雄だ。備えあって憂いなし。特にアルテミスを消滅させたあのハゲと酷似した姿だ、…警戒して損はねえ」

 

 

振り返らずに舵を握るドレイクのもう片手に首根っこを掴まれて暴れ、何とか止めようとする立香であったがディーラーは拒否し、オルガマリーは確固とした意志を貫かんとし、その肩でオリオンが続ける。マシュも立香やアステリオスと同様に知らなかったが、これが最善手だと分かっているため止める気にはなれなかった。

 

そして、道中ディーラーから受け取っていた中折れ式リボルバーマグナムを握り、飛び出そうとしていた黒髭に声をかける少女が一人。

 

 

「…黒髭。貴方は紛う事なき変態だった。・・・でも、拐われた私の事を悔やんで同行したのを聞いたわ。…一応言わないとね。ありがとう」

 

 

アステリオスの肩の上から自身を見つめ、そう言って微笑みを浮かべた女神(アイドル)、エウリュアレに。黒髭の中に言いようのない覚悟が満ちて行く。極上のツンデレが見れたため最期までふざけようかと思ったが、惚れた女と女神(アイドル)が見届けてくれるんだ、さすがにやめるとしよう。

 

 

「……………………礼には及ばないぜ女神エウリュアレ。さあて大英雄。海賊の矜持だ、俺の生き様を見せてやる」

 

 

それの準備のために砲台と部下たちが消え去り砲撃と銃撃が止んだところに跳躍、からの組んだ拳による全体重を乗せたアームハンマーをヘラクレス・アビスの頭部に叩き込み、怯んだところにストンプキック。そのまま拳の連撃を与え、鉤爪で大きく開いたヘラクレス・アビスの露出した心臓を引っ掻いて引き寄せ、もう片方の手に握ったマグナムを全弾撃ち尽くす。

 

 

「今のアンタには銃弾が効くって話は本当みたいだなあ!海賊が矜持を破って商人から奪うんじゃなく買い取った特注品の味はどうだい?」

 

「■■■■■■!」

 

「コイツが黒髭様の生き様よ。奪うのは俺ら海賊だ!逆にお宝を奪われるのだけは御法度なんでね!みすみす奪わせやしねえとも!」

 

 

アン女王の復讐(クイーンアンズ・リベンジ)が光り輝き、目を光らせて姿を消そうとするヘラクレス・アビスに黒髭は不敵に笑んだ。今この時、黒髭本人を攻撃しなかったのは明らかに悪手だ。

 

 

 

「…船長ってのは沈む船と運命を共にする物だ。―――――――壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)

 

「■■■■■■!?」

 

「そんな、黒…髭……?」

 

 

 

そして大爆発。火薬の物とは違う、船丸ごとが大爆発を起こし、ヘラクレス・アビスの影が爆炎の中に消え、立香はその光景を見て涙を流し声にならない嗚咽を漏らす。

魔力の詰まった宝具を爆弾として相手にぶつけ破裂させるそれは確かに大英雄の命を一つ潰し、それでもなお響いた咆哮に、十分距離を取っていたはずのゴールデンハインドが鳴動した。

 

 

「そんな、まさか…まだ動けるの!?」

 

「水中か…だったら!」

 

 

メディアの魔術による風を受けて高速進行するゴールデンハインドの後方から、高速で迫り来る水中の巨大な影に思わず叫んだオルガマリーに頷き、限定仕様マインスロアーで誘導する榴弾を撃ち込むディーラー。

水中で爆発するもその猛進が止まらず、あと少しで陸地と言う所で船体が大きく傾き体勢を崩しながら弾込めしたマインスロアーを仕舞って代わりにマグナム二丁を手にしたディーラーは、必死にヴェルデューゴにしがみ付いているオルガマリーに怒鳴る様に問いかけた。

 

 

「ストレンジャー!以前言っていた、俺と酷似するヘラクレスの宝具ってのはなんだ!?」

 

「私も話でしか聞いた事無いけど、十二の試練(ゴッドハンド)…Bランク以上の攻撃でないと通じない上に、一度自分を殺した攻撃は蘇生時に無効化できる、11回蘇生できる宝具よ!」

 

「だったら話は簡単だ!メイドオルタの健闘と黒髭の置き土産で既に三回殺している!残り九回殺せばいい話だ!俺、マシュ、オルタ、ネロ、アルトリア、メディア、ドレイク、パーカー、ヴェルデューゴ、エウリュアレ、アステリオス!これだけサーヴァントと宝具があればどうにかなる!」

 

「それもそうね!問題はマシュとアステリオスが攻撃宝具を持たない事だけど…二人は防御を、特にマシュはそこで戦意喪失している馬鹿を船室にでも入れて守っていなさい!」

 

「はい、所長!」

 

「私も入るわ。アステリオス、外はお願い。…でも無茶だけはしないで」

 

「うん、エウリュアレ、ぼくが、まもる!」

 

 

意気消沈してうんともすんとも言わなくなった立香と、ついて来たエウリュアレを船室に入れて、アステリオスの横で盾を構えるマシュの眼前で、それぞれ臨戦態勢を取っていたサーヴァント達のど真ん中に、飛び出してきた巨大な影。完全に肉体が白く変色し、赤く染まった髪を振り乱して単眼をギョロリと動かしマシュ…の後方を見詰めるヘラクレス・アビスであった。

 

 

「一斉にかかりな!あの男の矜持を無駄にして溜まるかってね!」

 

「よーし、いっちょやるか!」

 

「!」

 

 

ピストルを乱射するドレイクの号令に、一番手に飛び出したのはパーカーとヴェルデューゴ。黒髭の死は無駄にしないとばかりに、宝具を発動する。

 

 

「―――――!」

 

 

声にならない奇声を上げて、新たに姿を現したのは、赤ローブ姿のヴェルデューゴとは対照的な黒ローブを身に纏った全く同じ姿をした異形、もう一人のヴェルデューゴ。

生前、主の右腕としてレオンと戦い敗れた己とは異なり、常に主と共に在り守り続けた片割れを召喚する宝具【邪教の死刑執行人(ヴェルデューゴ)】。

二人のヴェルデューゴがヘラクレス・アビスを翻弄し、前方と後方から鎌の様な尻尾を全く同時に突き立てる。死には至らなかったものの、足止めはできた。

 

 

「――――テラグリジア・パニックの様な悪夢はもう起こさせねえ。二撃で決める…弾が切れたなら斧を使え(テラグリジア・ブレイカー)!」

 

 

テラグリジア・パニックと呼ばれるバイオテロを生き抜いた男、パーカー・ルチアーニが必要と感じたのは、弾が切れた際に使うもハンターには全く歯が立たなかったナイフに変わる強力な武器。BSAAに所属し、愛用し始めたのがこの斧だ。

この斧はクイーン・ゼノビアを脱出する道中、仇敵であるハンターと出くわした際に斧で仕留めたばかりか、ウーズの大半を二撃で仕留めて来た。それに由来する、一撃で例え相手がどんな防御力だろうが体力の大半を削る大振りの手斧が一撃、二撃とBランク相当の斬撃として叩き込まれ、ヘラクレス・アビスの命を削る。

 

 

「■■■■■■!」

 

「まだ終わらないぜ?一発で効かねえなら何発でもぶちかます!」

 

 

ヴェルデューゴ二体の尻尾を引き抜き、再生していくヘラクレス・アビスの背中に回り込み、間髪入れず構えたショットガン・ハイドラを連射するパーカー。

 

 

「コイツでとどめだ…!」

 

「!? 離れろパーカー!」

 

「なにっ!?」

 

 

弾切れすると直ぐに構えたマグナム・ペイルライダーが火を噴き、10秒とかからずもう一つ命を削る事に成功するも、振り向き様の薙ぎ払いにより重傷を受け、海に投げ出されてしまう。ペイルライダーを撃った直後の大きな隙が災いした。

 

 

「散々だな。いや、一矢報いれたから俺にしちゃ上出来か?なあ、キャプテン…」

 

「…後は任せろパーカー。ヴェルデューゴ!拘束しろ!」

 

「「!」」

 

 

パーカーの消滅を確認したディーラーの一声でヘラクレス・アビスの腕を尻尾で両側から拘束し、先端の刃を突き立てて踏ん張り身動きをとれなくするヴェルデューゴ二体に好機と見て銃を乱射し注意を引きつけるドレイク。

その隙にロケットランチャーを放つディーラーと充填していた魔法陣から魔力砲を放つメディア、そして船内からエウリュアレが宝具「女神の視線(アイ・オブ・ザ・エウリュアレ)」を放って、それぞれ一つずつ命を削った遠距離組に続いて飛び出すオルタ、アルトリア、ネロ。既に命のストックは八つ削った。残りは、四つ。銃に極端に弱くなっている為できた好機に、マシュ達の表情に希望が宿る。

 

 

「いけるわ!ディーラー、次の武器を使えばそれでラストよ!」

 

「それはどうだろうな?」

 

 

また一つアルトリアがヘラクレス・アビスを両断して命のストックを削り、希望を見出して歓喜の表情を浮かべるオルガマリーの言葉を遮る無粋な声があった。ディーラーと一緒に船体の傍を見下ろすと、そこには見覚えしかない顔があった。ついさっきも見たが構っている暇が無かった顔だった。

 

 

「アルバート・ウェスカー…この特異点にも召喚されているなんて…」

 

「ふむ。お前達は未来の俺と会ったことがあるらしい。だが俺はお前達を知らない、どうやら若い頃の姿で召喚された様だ。ところでどうだ、俺が投与した実験体、ヘラクレス・アビスの力は?」

 

 

ウェスカーとは別だというサーヴァント…アルバートが何故か傷だらけの巨大な鮫のB.O.W.ネプチューンに乗ってそこに居た。ローマからの仇敵ではあるが、一応別のサーヴァントだと言う事なので気にしない事にした。

 

 

「おかげさまで冬木で戦った時よりも弱体化しているわ。同じ攻撃が通じないなら数がいればいい、通常の聖杯戦争じゃまず勝ち目がない相手でも、カルデアなら勝てる」

 

「ふむ、そうらしいな。…だが、この程度の数で足りるか?」

 

「…どういうことよ」

 

「ヘラクレス・アビスはな。サーヴァントの宝具を利用したB.O.W.だ。その真価は、英霊ジャック・ノーマンの宝具の様に、海から大量の魔力を得ると言う点だ。この意味が分かるか?聖杯など得なくとも…半永久的に魔力を摂取し、何度でもストックを回復させる事が可能という事だ」

 

「なっ…!?」

 

 

アルバートから投下された言葉に、オルガマリーの脳裏に描かれていた計算が狂う。ヘラクレス・アビスは水中を進んでこの船に乗って来た。それはつまり、その時点で回復していたと言う事であり…現ストックは四つではなく、七つと言う事になる。いや、それだけではなく…

 

 

「っ…ディーラー!」

 

「…もう遅いぜストレンジャー」

 

 

嫌な予感がしてアルバートから視線をずらすと、そこには尻尾が引き千切られて縁に叩き付けられているヴェルデューゴ二体の姿と、海に向けて警戒するサーヴァント達の姿のみ。ヘラクレス・アビスの姿は無く…

 

 

「もちろん、宝具の効果はそのまま反映される。もう同じ攻撃では通じない上に、幻覚を操り分身や瞬間移動紛いの事も行える最強英霊。まさしく最強のB.O.W.と言えよう」

 

「■■■■■■■■■■!」

 

 

絶望が、海から来襲する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう駄目…………おしまいよ…勝てる訳がない…」

 

「諦めるな所長さん!おい、これ以上海に逃がすな、追い詰めろ!」

 

「無理を言うなオリオン!四方八方海の船の上だぞ!?商人の武器も直ぐに品切れだ!」

 

「そう言う事なら急いで船を陸に付けな野郎共!アタシたちはそれまで耐えるよ!」

 

「くっ…ヴェルデューゴが二体ともやられてしまったのが痛い…エクスカリバーを撃とうにも、船の上では巻き込んでしまいます…!」

 

「一度殺した攻撃は無効化される?ならば一気に11回殺せばよかろう!」

 

「無理言わないでちょうだい似非キャスター!本来、ヘラクレスは一度殺すだけでも不可能に近いの!ウイルスの影響で銃や炎、電撃に弱くなっているから殺せていたのよ!せめてクー・フーリンのゲイ・ボルクやさっきのパーカーやエウリュアレみたいな、確実に命を削る事が出来る宝具が11個無いとそんな芸当は無理よ!」

 

「私も、参戦します…!」

 

「ぼくも、やる…!」

 

「くそっ、ロケットランチャーはもう効かないか。無限ロケットランチャーで一度殺せるとしても、他の銃器じゃハンドキャノンとシカゴタイプライター、マグナムとライフルそれぞれ二種類ぐらいしか火力が足りない……万事休すか。いや、手榴弾系統とハンドガン、ショットガンを合わせれば……」

 

 

 

 

 

 

 

「…私が殺されるしかないみたいね」

 

 

外の混沌と化した状況を見て、ぽつりとエウリュアレが呟いた。どういう訳だか奴の狙いはエウリュアレを殺す事だ、自分が生贄になればアステリオスや他のおまけも助かるだろう、という意が感じられる言葉だった。

 

 

「…駄目。それじゃあ、黒髭やパーカーたちの死が無駄になる。エウリュアレは、死んだら行けないよ」

 

「…私達はサーヴァントなのよ?生きていないし、何時かは必ず消滅する。それに私は女神、生贄になるのが役目よ。私が殺されても特異点にはなんら影響はないんだし、所長さんもそう言うに…」

 

「駄目だよ!誰かが犠牲になって助かっても、助けられた本人は嬉しくも何にもない!…黒髭も、パーカーも、それが分かってない…」

 

「…分かっていたはずよ。それでも守りたいものが、貫きたいものがあったってだけの話でしょ。私達も怪物になった妹のためにこの身を捧げたんだからそれぐらい分かるわ。貴方があの時、アルトリアを守ろうとしていた時と同じ。…ああ、でも貴女が破滅していく過程を見て楽しむために生きるのもいいわね?」

 

 

フフフッ、と笑みを浮かべるエウリュアレに黙り込んでしまう立香。分かってはいるのだ、ただ、意味がある死だというものを認めてしまうのが嫌なだけなのだ。意味がある死なんてあったらいけない、守って死んだら残された人間が苦しむだけだ。最初から一緒に戦い抜けばいい話だと、そう訴えたかった。だが、誰かを犠牲にしないと生きれないのも、また自分が体感した事実で、それがまた心苦しかった。そんな悩む立香を楽しむ様にエウリュアレは微笑みを浮かべる。

 

 

「…それで何か手はあるのかしら?」

 

「…さっきから考えているけど、駄目。一撃で全部の命を削る様な物があれば…」

 

「そんな都合のいいもの…………そう言えば、ぼんやりと金髪が“アーク”がどうのこうの言っているのが聞こえたわね………とにかく、無駄よ。

本来なら迷わず逃げるのが当然なの。相手は人類史史上最強の英雄よ、文字通りの生物災害と言っていい。逃げられないなら諦めるしかないわ。…貴女はそれを知っているから、こうして必死になっているんじゃなくて?」

 

「…それは」

 

「おいおい、ストレンジャーに諦める事を勧めないでくれないか女神さま。…ここでストレンジャーに諦めて貰ったら困る」

 

「ディーラー…!?」

 

 

心が折れかけていた立香の目の前に、ディーラーが現れすぐさまハンドキャノンを手にして構えた。ついに殺されてしまったらしく、その顔は焦りに焦っている。そしてタイムリミットだと言う様に船室の上部分があっけなく破壊された。その瓦礫を受けて立香は咄嗟にエウリュアレを庇って抱き締めるも吹き飛ばされ。壁に叩き付けられて呻きながらも状況を確認する。

 

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!」

 

 

青空が見え、そこには異形の巨人が巨大な爪の生えた右腕を振り上げて立っていた。その向こう側には瀕死の状態で倒れているメイドオルタ達。半分気を失っているオルガマリーとドレイクとオリオンを守ったのか、ヴェルデューゴの姿は既にない。さらに言えば目の前にはエウリュアレが無防備な姿でヘラクレス・アビスを見上げており、今の攻撃でディーラーも殺され、出現までのタイムラグを狙う様に振り下ろされる爪に、溜まらず飛び出そうとする立香。

 

 

「エウリュアレ!」

 

「…あ。ダメ、かな」

 

「ぬ、ぅぅぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「アステリオス!?」

 

 

諦めたエウリュアレの危機を救ったのは、腹部を貫かれた傷や頭部から血を絶え間なく流し続けている重傷を負ったアステリオスだった。突進でエウリュアレとの間に入り、両の手に握った斧を振り上げ、ヘラクレス・アビスを押し上げ、その瞬間に復活したディーラーのハンドキャノンがヘラクレス・アビスの眉間を撃ち抜き動きを止めた束の間に、その悲痛な姿を見たエウリュアレが訴える。

 

 

「アステリオス、だめよ、もう。敵わない!私たちは、そいつには絶対に勝てない!災害に挑むのはただの無能よ!アステリオスは違うでしょ?!駄目なのに、駄目なのに、どうして…アステリオス!」

 

「―――――――ぼくは、ころ、した。なにもしらない、こどもを、ころしたころしたころした!ちちうえが、ははうえが、おまえはかいぶつだから、そうしろ、って!でもぜんぶ、じぶんのせい、だ。きっとはじめから、ぼくのこころは、かいぶつだった!」

 

 

そう叫びながら、復活して執拗にエウリュアレを狙うヘラクレス・アビスの攻撃を押し止めるアステリオス。爪を受け止めたために左肩が大きく裂かれ、右腕は斧剣の打撃を受けてへし折れる。それでも、ヘラクレス・アビスを拘束する事はやめなかった。

 

 

「でも、なまえを、よんでくれた。みんながわすれた、ぼくの、なまえ……!なら、もどらなくっ、ちゃ。ゆるされなくても、みにくいままでも。ぼくは、にんげんに、もどらなくちゃ………!」

 

「…そんなの、この船に乗る皆は誰も気にしないのに」

 

「アステリオスはミノタウロスと忌み嫌われ、現代でも畏怖の体現の一つと有名だ。根っこが善人だから、なおさら自分の事が許せない。他人に許されても、それは苦しめる事にしかならないんだぜストレンジャー」

 

 

アステリオスの独白に悲痛の声を上げる立香に淡々と諭しながらマシンピストルで援護射撃を行うディーラー。もう既に高威力の銃器は全部使い切ってしまった。後が無い、ここで何とかしなければ。そう試行錯誤していると、アステリオスが笑いながらディーラーに問いかけた。

 

 

「でぃーらー、こいつ、つなぎとめて!」

 

「できないことはないが…どうする気だストレンジャー?」

 

「こいつ、えうりゅあれだけじゃない、りつかも、ねらってる。――――――りつかは、ぼくを、みすてないで、くれた。なまえ、よんでくれた。みんな、かいぶつだと、きらわなかった!うまれて、はじめて!…たのしかった…!ぼくは、うまれて、うれしかった!りつかも、えうりゅあれも、みんな、ぼくがまもる!」

 

「アステリオス…」

 

 

アステリオスの言葉に、何も言えなくなる立香。それは間違っているとは、言えなかった。あまりにも純粋な在り方が、眩しすぎた。

 

 

「…オーダーには応えるぜストレンジャー。オリオン、手伝え!」

 

「人使いが荒いこった。何もできねえじゃアルテミスに顔向けできないしな!」

 

 

ひょこひょこやってきたオリオンを肩に乗せたディーラーが取り出したのは、彼が本来扱えないコンパウンドボウ。番えるは爆弾付きではなく、ガナード程度なら一撃で頭部を破壊できる通常の矢。オリオンの指示で狙いに引き絞り、放たれたそれは見事、アステリオスとヘラクレス・アビスの胸部を貫通して見せた。

 

 

「■■■■!?」

 

 

弱点である心臓部を貫かれたヘラクレス・アビスの悶絶の声が響き渡り、それに対してむしろ笑顔を輝かせたアステリオスはさらに両手の斧をヘラクレス・アビスの背中の腫瘍に突き刺して固定。予想外の大ダメージを受けたヘラクレス・アビスの足がふらつき、アステリオスはそれを好機と見て船の縁まで押しやって行く。

 

 

「でぃーらー、おりおんも、ありが、とう…!えうりゅあれを、よろし、く……!ぜんぶ、えうりゅあれの、おかげ、で――――ぼくは、えうりゅあれが、だいすき、だ!」

 

「…………………………アステリオス!誰が何と言おうと、あなたは怪物(ミノタウロス)なんかじゃない!雷光(アステリオス)以外の誰でもないわ。貴方は私にとっての英雄よ、だから――――お願いだから。怪物になりきれなかったことを、悔やまないで。それはとても、尊いことなんだから」

 

「…うん。でもやっぱりかいぶつは、ちゃんとばつをうけないと」

 

 

エウリュアレの言葉に満足気に頷き、その言葉を最後に突き落としたヘラクレス・アビスもろとも海に落ちて行くアステリオス。その間に、復活したドレイクの扇動で船は近くの島へと急いで進む。

 

 

「駄目、アステリオス…!?」

 

「うっせえ、この阿呆マスター!アイツの心意気を汲んでやれ!アンタがそれが苦手な事は知っている、だが認めないのはアイツの頑張りを無視するって事だぞ!」

 

「っ!」

 

 

海に落ちたアステリオスに、たまらず悲痛の声をあげる立香だったがオリオンの言葉にショックを受けて立ち竦んでしまった。

 

 

「…アイツを否定できるか?ストレンジャー」

 

「できない、できるわけがない……でも、誰かが死ぬのはもう嫌だ」

 

「誰だってそうだ。俺だってアルテミスに命がけで救われた。そりゃ怒ったさ、泣きもした。それでも、アルテミスが俺を助けて死んだって言う事実は変わらないんだ。だからせめて、アイツに報いてやりたい。それだけだ。……さて、俺は所長さんを起こさないとな」

 

 

ディーラーの肩から降りてオルガマリーの元に向かうオリオンの姿は哀愁に満ちていて。立香は自分の価値観が、少しだけ変化したのを感じた。

 

 

 

 

 

大敗北に喫したカルデアを乗せて、半壊した黄金の鹿号(ゴールデンハインド)は近くの島へと突き進む。それはドレイクが引き当てた幸運か、この状況を打開する手段の眠る島だと言う事を失意に沈む立香達はまだ知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「弱点部位を攻撃されながら拘束されると大英雄であってもどうしようもないか。…セルゲイのテイロスの様な鎧を考えるのも手だな」

 

「…何が最強のB.O.W.ですか。逃がしてしまっては元も子も無いでしょう。それとも、何か考えが?」

 

「フランシス・ドレイクは幸運に愛された船乗りだ。奴等がアークを見付けてくれるとは思わないか?」

 

 

暗躍する影。覚醒した大英雄の君臨する四海(オケアノス)を懸けた最終決戦はすぐだった。




ヘラクレス・アビス。ぶっちゃけると、弱点が追加されて脆くなった代わりに海がある限り永遠に復活する上に不可視になったり分身を作れたり幻影も使えるヘラクレス。勝てる訳がない。

アルゴナイタイの剣客、アルバート・ウェスカー・リリィ登場。宝具はほとんど変わりませんが、1~4までの失態を起こし続けエイダのビジネスパートナーだった頃の情けないウェスカーさん。つまりマトリックスな動きをせずロケランを受け止める事も出来ないただの元S.T.A.R.S.隊長ですね。まあクリスやロス・イルミナドスの雑魚を圧倒するぐらいには強いんですが。

今回犠牲となり散って行った黒髭、パーカー、ヴェルデューゴ、アステリオス。黒髭がかっこよく散ってもいいじゃない。大好きなんだ。
本当ならアステリオスは宝具を使ってアークまで誘導する展開を考えていましたが、立香の心境を変える事にぴったりだったので犠牲になってもらいました。本当にすまないと思ってる。

パーカーの宝具はリベレーションズ屈指の近接武器と知られる斧。ゲーム的なメタ宝具でしたが真面目に考えてハンター対策だと思えばこれは熱い。本当にテラグリジアパニックの初期装備は酷いと思います。
ヴェルデューゴの宝具は片割れ召喚。通常のサーヴァントには鬼強ですが相手が悪かった…右腕じゃない方のヴェルデューゴはレオンと同等に渡り合う実力者ですが最期から鑑みるにかなり不憫だと思います。

アステリオス達の犠牲に、少しだけ心境が変化した立香。しかしディーラー以外のサーヴァントは瀕死の重傷だと言う最悪の事態に。次回は決戦メディア・リリィ+魔神柱。ディーラーの宝具、ついに真名解放です。次回もお楽しみに!よければ評価や感想、誤字報告などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。

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