Fate/Grand Order【The arms dealer】 作:放仮ごdz
今回はローマ帰還~オケアノス突入までの一悶着。新たな仲間が召喚されます。楽しんでいただけたら幸いです。
報酬はきっちり頂くぜストレンジャー
ローマからカルデアに帰還して早々、アシュリーやマイクと再会して特異点修正の喜びを分かち合い笑みを浮かべる立香。申し訳ないと思っているのか若干不安げであった。
「ごめんねアシュリー!マイク!私が力不足なばかりに…」
「気にしないでマスター。身の程を弁えずに防ごうとした私の失態だし?」
「俺はディーラーを帰還させるのが役目みたいなものだ、力不足なのは俺達も同じだし気にする事は無いな」
その言葉を聞いて涙をこらえきれなくなった立香をなだめる二人。マシュはその光景を眺め、色々あったが終わり良ければすべてよしという事でご満悦である。オルガマリーは帰還してすぐさま清姫に抱き着かれて参っているが。
「…はあ。じゃあ藤丸、今回は私が召喚して来るわね。絶対に今回だけは引かないでよ?」
「アーサー王を二人も当てたのにまだ居るんですか!?」
「まだまだ足りないぐらいよ。貴方も見たでしょ。魔術が干渉していないって言うのに、現代のウイルス兵器に感染したサーヴァント達の力を。正直、アーサー王が二人いてもまだ足りないわ。戦力が大いに越したことはない。アシュリーとマイクも強力な英霊だけど、やっぱり正面からぶつかれる戦力が他にも必要だわ」
「私だけでは満足できないのですか旦那様!」
「話聞いて清姫、お願いだから。私の召喚に初めて応じてくれた貴方には感謝してるから」
清姫を撫でながら溜め息を吐くオルガマリー。清姫のおかげでレフとの因縁に決着を付けれたし、何より戦乱の中でのローマでも生き残る事が出来た。感謝はすれど、それより面倒くさい性格の方が上回って難儀するのだ。オルガマリーの二人目のサーヴァントであるアルトリアも苦笑いである。
「何で私が召喚したら駄目なんですか?」
「高確率で失敗するからよ。英霊に嫌われているのかってレベルで来ないし。するにしても一回だけにしなさい。石だって有限よ」
「はい…」
「先輩・・・分かりやすく拗ねてます。所長!事実だからと言ってそこまでビシッと言わなくてもいいじゃないですか!」
「止めてマシュ、その言葉は私に響く」
僅かに吐血し体育座りして隅で落ち込む立香と、慌ててフォローに回って狼狽えるマシュ。セイバーオルタとアシュリーは関係ないとばかりに食堂に向かい、マイクはディーラーに自身の宝具について説明していた。
「なるほど。カルデアでの英霊でもない限りその宝具は本領発揮できないのか。何にしても助かった、礼を言うぜストレンジャー。…ああそうだ所長」
「何、ディーラー?」
ディーラーに呼び止められ、差し出された手に首をかしげるオルガマリー。その反応にプルプルと震えるディーラー。
「…石だ」
「石がどうかした?ダ・ヴィンチちゃんから買うけど」
「違う。緊急事態とはいえ俺がローマで渡したあの石は貴重な品だ。報酬はきっちり寄越せ」
「ええー…」
思わず呆れるが、ディーラーの目はマジであった。ミニゲーム的な感覚で村中に青コインを配置し、それを10個以上壊した者に無償でハンドガンパニッシャーをあげるというキャンペーンをしたことはあったがそれはそれ。彼の本質は商人だ。アピールするために戦うのはともかく、無償で物をあげるというのは彼の生き様に反するのである。
「…ダ・ヴィンチちゃんから買った石の三個でいいかしら?」
「価値はかなり下がるから倍にして頼むぜストレンジャー」
「うっ…痛いところを・・・」
偶然か否か、縁召喚でアーサー王を召喚し窮地を切り抜けたのは事実であるため言い返す事も出来ずに買ったばかりの石を渡すオルガマリー。10連鎖召喚するつもりだったので30個購入したのだが今ので8回分になってしまうが、もったいないのでそのまま召喚する事にした。
「む、無念…」
「マスター・・・申し訳ありませんが浮気防止のためにイケイケ?のサーヴァントはこの清姫がシャットアウトしましたわ!」
「アンタの仕業か!?」
「それでも掠りもしませんでしたね」
「ううっ・・・まさか礼装祭だなんて・・・」
結果、敗北。しかも清姫のせいで一度来たらしい英霊がシャットアウトされたとか。アルトリアに慰められ、涙するオルガマリー。せっかくロマンとダ・ヴィンチちゃん他スタッフの頑張りで連れて行けるサーヴァントが五名から六名に増えたというのだから、戦力増強をしたかったのである。
「ところでマスター、まだ七回ですよ。最後の一回が残っています。清姫ならば私が押さえて何もできないようにするのでどうぞ頑張ってください」
「恩に着るわアルトリア・・・!」
ボソッと耳打ちして来たアルトリアに感極まり、もはや勢いのままに石三つを召喚フィールドに叩き付けるオルガマリー。アルトリアに羽交い絞めにされた清姫を尻目に、念願の三本の環が出現したことに感極まり期待する。そして。現れたのは、つい数時間前に別れたばかりの赤いドレス姿。
「サーヴァント・セイバー。ネロ・クラウディウス、呼び声に応じ推参した!うむ、よくぞ余を選んだぞオルガマリー!ローマを救った恩に報い、余自らが力を貸すぞ!」
「あら、ネロさんでしたか。ドラ娘やタマモキャットさんじゃないなら大歓迎ですわ」
「…青より赤の時代か…!?」
赤いアルトリア顔、ネロがカルデアに召喚された。
「じっくり見ると本当にいい剣だな。これを個人で作ったって言うなら相当だ」
「そうだろうそうだろう!やはり商人よ、お前は余の芸術が理解できるよい人間だ!」
「そう褒めるな。俺はただの武器を扱う商人だ。しっかしあのハンターの首をスッパリ斬るか…皇帝より鍛冶屋の方が向いているぞ皇帝サマ」
「まあ何というか、仲よくなって何よりだわ」
「所長の悪運が羨ましい・・・」
「先輩!しっかりしてください!」
清姫の入れたお茶で一息ついたオルガマリーの視線の先では、楽しげに語り合うディーラーとネロと、その傍らで横になって死んでいる立香と、彼女を必死に介抱して居るマシュの姿。まあ言うまでもなく、ローマでの約束を果たしているサーヴァント達と、自分と違って何も召喚できなかった人類最後のマスターである。
動機が「ディーラーの助けになる様に」とはいえ、狂ったように金をつぎ込んだ石で召喚されて応じる英霊がいるとも思えない、とはディーラーの談。まさにその通りだなと思いながら、立香の召喚した麻婆豆腐を口にする。
「あら、美味しいわねこれ」
「マスター正気ですか!?それ愉悦味ですよ…?」
「ちょっと燃え尽きた感はあるわね。レフとの因縁に決着ついてしまったし」
「ではわたくしとの愛の炎で燃え上がらせましょう!」
「却下よ」
「か、辛い・・・ご無体なぁ…」
抱き着こうとしたのか後ろから飛び掛かって来た清姫を、お茶の入ったコップを掴んでひらりと躱し、麻婆に顔から突っ込んだ清姫はそのままガクリと力尽きる。それに哀れそうな視線で見やり、自身も手にしていた焼き魚を頬張りご満悦になるアルトリア。オルガマリーとそのサーヴァントは、今日も平和であった。
そして数日後。第三特異点を発見したロマンに召集され、マスター二人とカルデアのサーヴァント全員が管制室に集まりブリーフィングを行なっていた。
「さて、レフ・ライノール・・・というよりアルバート・ウェスカーと変異サーヴァント、通称Gカリギュラを倒し、第二の聖杯を得たというのは聞こえはいいけど、疑問は増える一方だ。そうですよね、所長?」
「ええ。あの肉の柱は何なのか。七十二柱の魔神を名乗るアレは、本当に彼の古代王の使い魔なのか。その辺りを解析するための時間も設備も足りないのがネックね」
「古代王とは?」
「七十二で魔神と言えば俺でも知っているぜストレンジャー。アレだ、古代イスラエルの王様、魔術王と呼ばれた男。ソロモン・・・だったか?」
立香の疑問にうろ覚えだが答えるディーラー。オルガマリーが頷きながら補足する。
「ええ、その通り。魔術世界最大にして最高の召喚術士。恐らく召喚術に置いて彼に勝る魔術師は存在しないわ。そこのところどうかしらコルキスの王女?」
「彼の王を相手にされたらそりゃあね。私だってとある聖杯戦争でも不完全な召喚でサーヴァントを召喚するのが関の山だし、召喚術に置いては頂点に位置すると言ってもいいわ。使役する使い魔の性能も、まあ貴方達が戦ったアレと同等かそれ以上と見た方がいい」
「でも、現代の魔術世界に置いて七十二柱の魔神というのは空想上の物とされている。ただ七十二の用途に分かれた使い魔にすぎない、というのが最新の見解よ」
「ああ。きっちりと役割が決まっていた事から天使の語源ではないかとも言われているな。でも実際に名乗った以上無関係でも無いんじゃないか?人理焼却の首謀者は例の王様を召喚した、もしくは本人かそれに準ずるものと見た方がいい」
ダ・ヴィンチちゃんも補足を入れる。話に付いて行けているのはメディアとディーラーぐらいであり、立香はチンプンカンプンな様子であった。
「天使か…あんなグロテスクな天使は勘弁だぜ。ありゃ悪魔の方が正しい」
「まったくね。でも悪魔の概念はソロモン王よりもっと後に誕生した物。名前を騙っているだけ、という可能性の方が高いわ。それでも、それほどの相手が敵だと考えた方がいい。…特異点の首謀者だったレフやジャンヌ・オルタよりも召喚したサーヴァントの方が厄介極まるのが問題だけどね。しかもそれは2000年代の英霊なんておかしい物だし」
「サドラーは想像が付いた。俺のプラーガが触媒になる可能性が大だったからな。だがウェスカーの召喚は本当に予想外だった。…ウイルステロに脅かされている世界が焼却されたことで、あらゆる特異点にウイルスの影響が出ているとも考えた方がよさそうだ」
「Gウイルス・・・だっけ?アレ程デタラメじゃないならもう何だっていいわ。ウェスカーの召喚した輩には十分対抗できるし」
「とりあえず今は当面の問題である三つ目の聖杯入手の話をしよう。唐突だが二人共、ローマの形ある島に向かう時に・・・そこの皇帝さんの運転で船酔いはしたかい?」
「思いっきりしたわ」
「私は平気です」
本当に唐突な質問に首をかしげる面々と、察したのかオルガマリーに哀れな視線を向けるディーラー。船酔い、そのキーワードから察するに・・・
「なら立香ちゃんは安心だ。所長には中枢神経にも効く酔い止めを用意しよう」
「フォーウ!」
「あら、フォウはまた来るのね。マシュの精神も安定するからよろしくね・・・って待ちなさい。何でそんな必要がある訳?まさか…」
謎生物フォウがマシュの足をツンツン叩くのを見て一瞬現実逃避するもののすぐに我に返り、顔を青くするオルガマリーに、ロマンは苦笑いを浮かべた。
「そう。…正直、アーサー王を二人も召喚できたのは僥倖だと言っていい。という訳で今回は1573年。場所は見渡す限りの大海原だ!」
「海・・・ですか?」
「なるほど。湖の精霊の加護で水面に立ちその上を歩くことが出来る我々なら船を使わずとも有利に立ち回れますね」
「ふむ。海か…おい皇帝、ちょっと付き合え」
「ん?どうしたというのだ黒い騎士王よ」
セイバーオルタがネロを引き連れてどこかへ去って行くのを尻目に、ロマンは話を続ける。
「特異点を中心に地形が変化しているらしく、見事に一面が海だ。ぽつぽつと点在している島だけしかないため「ここ」という地域が決まっている訳が無さそうだ。至急、原因を解明して欲しい」
「行ったら海の上なんて事は無いでしょうね…?」
「その点については問題ない。レイシフト転送の際の条件を設定しておくし、アーサー王二人を先行して送れば、最悪その二人にマスター二人を受け止めてもらえばいい」
「最悪って事を考えている時点でフラグよね!?」
「でもそれじゃマシュとかディーラー達が…」
「そこで私ダ・ヴィンチちゃんが発明したゴム製の浮き輪がある。これをディーラーに預けて置くから、これで窮地を凌ぐといい」
「ヒッヒッヒッヒェ。任されたぜストレンジャー」
ダ・ヴィンチちゃんから浮き輪を数個受け取り、それをリュックに括り付けるという若干シュールな画を作るディーラーを尻目に、オルガマリーは思考の海に入る。
「今回の編成は・・・そうね、清姫とアシュリーを抜いて、ディーラー、セイバーオルタ、アルトリア、マイク、そしてネロとメディアにしましょう」
「あら、私も?」
「何故私が抜かれるのですか!?」
「清姫は、川を泳いだことはあっても海は初めてでしょ?それに炎の攻撃は正直、木製の船が多い時代では致命的よ。味方の船まで燃やしてしまう可能性を考慮したら、まだ操舵技術()があるネロの方がいいわ。それに、カルデアに残るのも大事なのよ?スタッフ皆に元気が出る食事を作ってくれたら私は嬉しいわ」
「…っ、はい!不詳清姫、旦那様のために全力で奮闘しますわ!」
「じゃあ私は?」
「アシュリーは正直、鎧で海だとあまりに不利。メディアを選んだのは、アルゴノーツの経験があるからだと思ったんだけど…駄目だった?」
「いいえ。忌々しい記憶ですが、役立つなら構わないわ。せいぜい尽力しますので、よろしくお願いね可愛いマスター?」
「うん!よろしくメディアさん!」
「え、ええ…照れもしないとかやるわね…」
そうこうしているうちにセイバーオルタとネロが戻ってきて、レイシフトが始まる。そして。
「…船に落ちたのはよかったけど」
「これは・・・いきなりというかなんというか・・・」
「…何で豪華客船?」
「クイーン・ディード号だとよ。マイク、いやカーク。聞き覚えは?」
「…間違いない、ヴェルトロ事件の最後の舞台だ」
海のど真ん中に浮いていた、明らかに沈没していたと分かる藤壺やらに覆われた現代の豪華客船、クイーン・ディードにカルデア一行は降り立った。
アルトリア・オルタ、ネロ、アルトリア、清姫、海・・・あとは分かるな?まあ後者二人は持ってないんですけどね。
ちゃんと報酬は支払ってもらうディーラーは商人の鑑。さすがに石は貴重です。
立香が沢山引き当てた麻婆が好物になりかけているオルガマリー。レフとの決着をつけたため、割と呑気に現世を楽しんでます。
オルガマリーがネロ召喚。これはオケアノスを書くにあたって決めていました。海でバイオと言ったら巨大クリーチャーなので、割と必須です。
そしてオケアノス突入と同時に訪れたバイオハザードリベレーションズ最後の舞台、クイーン・ディード。これが意味する事とは…?
次回もお楽しみに!よければ評価や感想などをいただけたら嬉しいです。感想をいただければいただけるほど執筆速度が上がります。