メリーあけましてクリスマスおめでとうございました。お久しぶりです。
今までの書き方にちょっと思うところがあって修行してました。まあまあ納得いく書き方が出来るようになったので、これからまたぼちぼち書いていこうと思います。宜しくお願いします。
前回までのあらすじ
・蘭の反抗期
・友希那と紗夜の契約
・日菜の反抗期
「えーっと……見当たらない」
学校から目的地へと向かう僅かな移動時間、リサは通りがかった本屋の雑誌コーナーに立ち寄っていた。
「オシャレ雑誌の位置なら分かるんだけど、音楽関連はねぇ……」
リサは普段使うオシャレ雑誌の売り場をスルーして、音楽関連の雑誌が集まる売り場で雑誌を探している。
これは少し前までのリサらしくない行動だが、今そうしている理由は友希那のバンドに入って意識が変わったから……という理由だけではない。
先日、友希那のバンド──名をRoseliaと名付けられたそれの初ライブがあった。
友希那には固定ファンが多く、また、その業界からも注目されているとあってかライブには多くの人が集まった。学生は勿論、社会人らしき人や、リサは気付かなかったが業界の中でも名が知られた者達まで来ていたという。
満員の会場で、恐らくは友希那にだけかけられているだろう期待にリサは大いに緊張しながらも、なんとか初ライブは成功に終わり、そのライブ後にインタビューを受けた雑誌の発売日が今日なのだ。
友希那は"他人の評価なんてアテにならない"というスタンスだから見向きもしないが、リサは気になっていた。
といっても、それはリサが人の目を必要以上に気にしているとかではない。むしろ友希那のように余程極まった考えを持たなければ、多少なりとも他人からの評価が気になるのが人間という生き物だろう。
自分達の初ライブがどんな風に見られていたのか、そしてそれは好意的に受け取られたのか、否か。
そんな不安と期待が半々な気持ちのまま入り混じって、今のリサは若干挙動不審だった。
「……あっ、見っけ」
キョロキョロと目線を忙しなく動かすこと暫し。目的の物を見つけたリサはそれを手に取り、Roseliaの特集を探す……前にスマホが振動した。
定期的にブーブーと振動しているスマホをリサはポケットから取り出し、そして驚いた。
「……えっ?!嘘、もうそんな時間?」
予めセットしておいた集合時間まで、あと5分しか無かったのだ。どうやら自分が思っていたよりも長く探してしまっていたらしい。
……次からは1人で探さないで店員さんに聞こう。
そう決意しながら、リサは急いでその雑誌をレジに走ったのだった。
「リサ姉おそーい!」
「ごめんごめん!ちょっと雑誌探すのに手間取っちゃってさー」
結局、約束の時間から10分も遅刻してしまっていた。羽沢珈琲店で先に席を取ってくれていたあこに謝りながら、リサもコーヒーを頼んで席に座る。
「このまま2人でお茶会になるかと思ったよ~。ね、りんりん!」
「うん……けど。今井さんなら、来るって……思って、ました」
今日は、あこが提案した"祝! Roselia雑誌掲載記念お茶会"の日であった。
が、友希那はお茶会なんかに出るより練習に時間を使いたいと不参加。そして紗夜は生徒会の仕事で不在なので、参加者はこの3人のみだ。
メインの2人が欠けるというまさかの事態だが、その2人の分まで楽しもうとリサやあこは意気込んでいた。
「あはは、ありがと燐子。じゃあ待ってくれた2人にお詫び……って訳じゃないけど、はいこれ。買ってきたから一緒に見よっか♪」
「あ!それが、あこ達が載ってる雑誌?」
買ってきた雑誌の表紙を見せると、あこは目を輝かせてそれを見た。
「そうそう。普段はファッション雑誌しか買わないから迷っちゃって」
「見せて見せて!」
「いいよー。はい」
リサから雑誌を受け取ったあこは急いでページをペラペラと捲っていく。リサが頼んだコーヒーが来たくらいで、どうやら目当てのページを見つけたようだ。
「『孤高の
「写真、撮られてたん……ですね。…………思い出したら、緊張してきちゃいました」
「えっ今更?」
あこが広げたページをテーブルに広げて3人で見る。演奏中は夢中だから気付かなかったが、様々な角度から撮られていたらしい写真を見ていて……3人は殆ど同時に同じ感想を抱いた。
「それでー、なんか……えっと」
「あこ正直に言っていいよ。分かってるから」
「……じゃあ遠慮なく言うけど」
とは言いながらも、あこは躊躇いがちにリサに気を使って言葉を選びながら言った。
「リサ姉だけ、凄い浮いてる」
「だよねー……」
友希那は普段着、リサも普段着、燐子も普段着。そして、あこと紗夜も普段着。
まだ演奏用の衣装なんてものが無いので仕方なく普段着で演ったが、こうして見れば個人個人の感性が異なる事もあって、どうしてもアンバランスな印象を写真からは受ける。
これだけ見れば、5人がガールズバンド界隈で注目されているバンドだとはとても思えない。
「いやー。あの時から薄々思ってはいたけど、こうして写真になると分かるね。アタシだけ場違い感がヤバいっ!」
「えっと、その……」
どの写真を見ても自然とリサに目が吸い寄せられる。普段着には大なり小なり個人の個性が出るものだが、その中でも特に個性で殴ってくるのがリサの普段着だった。
「特にこの写真。これさ、ボーカルの友希那より目立ってるっぽいの流石にちょっと不味くない?」
「相対的に……友希那さんが地味に、見えますね……」
リサが指さしたのは、恐らく友希那を目当てに撮られたであろう写真に写りこんだ自分。
それは見切れているにも関わらず……いや、この場合はむしろ見切れているからこそ、余計に目がリサに寄ってしまうという効果を生んでいた。
「Afterglowみたいにお揃いの衣装があればいいんだけどなー」
あこと紗夜だけはAfterglowでも活動しているから、ライブ衣装である黒色の専用パーカーを持ってはいる。しかし、それはあくまでAfterglow専用でありRoseliaの初ライブには不適切だとして着ていなかった。
「っていうかさ、アフロに限らずバンドって衣装もある程度は揃えるもんなんでしょ?流石にこのままだと主にアタシが目立っちゃうし、なんとかなんないかなぁ?」
今のリサが目立つ理由は見た目ギャルな事と5人の中で誰より派手な私服なのだから、お揃いのライブ衣装があれば問題の半分は解決できる筈だった。
もう半分はリサがギャルを辞めなければ解決できない問題だが、それは無理だろうから解決不可能である。
だが、問題が半分になるだけでも幾分かマシなはずだ。
「あ、でもこういうのって高いかもしれないのか。アフロの時はどうだったの?」
「Afterglowの時はねー。普段から使おうと思えば使える実用性と、それなりに安いっていうのを兼ね備えて最強に見えるパーカーだけだから安かったよ!」
「普段着の上から、着てるだけ……だもんね」
忘れがちだが蘭達は高校生に成り立ての一年生であり、あこはまだ中学三年生だ。
つまり、蘭達はバイトを始めて日がまだ浅く、あこに至ってはバイトを始める事すら出来ない。
メンバーの大半が抱えるお財布問題もあり、上下一式なんていう金の掛かるライブ衣装は用意できる筈もなかった。だが、出来るならライブに臨む時の勝負服は持っていたい。
そんな思いから必死に探した結果、見つかったのが上着だけ統一するという案だったのだ。
「そういう考えもあるかー。んー、アタシ的には全然オッケーなんだけど、友希那が納得するかどうか……」
FUTURE WORLD FES. に出るのならば、ライブ衣装は避けては通れない問題だ。
参加規定には"ライブ衣装を用意する事"なんて書いてはいないが、過去にライブ衣装無しで出場を果たしたバンドは無いし、ライブ衣装には統一された衣装を着る事で一体感を高めたり、自分達の音楽を視覚で観客に訴える効果もある。
その重要性を友希那は勿論承知しているだろうから、上着だけ等という手抜きとも取れるようなライブ衣装など認めはしないだろう。
だが、リサ達にも資金面の問題がある。初ライブ後にファミレスで行われた反省会でRoseliaに全てを捧げる覚悟は決めたものの、お金の問題はどうしようもないものだった。
「うーん。りんりん、何とかならない?」
「なんでそこで燐子に聞くの?」
「だってりんりん、あこのこの服とか作ってるから」
「これ手作りだったの?!燐子すごいじゃん!」
あこが普段から好んで着る服をよく見てみる。だが、言われてから見ても店売りにしか見えなかった。
これが手作りなんて……とリサは内心で凄まじい衝撃を受ける。本当に個人制作なのかを疑うくらい完成度が高かった。
「そんな、大したことは……」
「いやいやいや、大したことあるって。アタシ今まで店売りだと思ってたから」
「りんりんの腕があれば、きっと良い衣装が出来ると思うんだ!」
このクオリティーならば何も問題は無い。音楽に関係する物に妥協は許さない友希那も、これだけのレベルなら認めてくれるだろう。
「確かに!これなら友希那も納得してくれるだろうし、ねえ燐子、作ってくれない?」
「……私が作って、いいんですか?」
「あったりまえじゃん!むしろ燐子じゃなきゃダメなくらいだよ!」
「アイディアをみんなで出し合って作れば、きっと良いものが出来るよ!」
戸惑いの目を向ける燐子にリサとあこは頷きなから言った。そんな2人の様子を見た燐子は小さく、しかし確かに頷いた。
「私で、良ければ……作らせてください」
「うん、お願い!」
そうと決まれば、まずはデザインを考えなければならない。これは最終的には5人で決めなければいけない事だが、草案くらいなら3人で出してもいいだろう。
「じゃあねー、あこは『高貴なる闇の騎士団』みたいな感じのカッコイイのが良い!」
「初っぱなからヘビーなの来たなぁ……」
具体性に欠ける上に、Roseliaの語源である薔薇の要素が欠片も見当たらない。
草案の雲行きに一抹の不安を感じながら、リサもどんなものが良いか思考を巡らせるのだった。
「────♪」
場所は変わって、とあるスタジオ。友希那が1人で使っているそこには、友希那の歌声が響いている。
適度に休憩を挟みながら歌い続けていた友希那は、しかし何処か不満足そうに歌い終えた。
(…………ダメ。こんなんじゃ全然)
もし今の歌を誰かが聞いていれば「そんな事はない。素晴らしい歌声だった」と答えるだろう。だが、当の本人は全く納得していない。友希那の中にある理想に、今の歌は遠く及ばないからだ。
「もっと……もっと……」
友希那は再び歌いだそうとして……スタジオを使える時間が終わりを迎えそうな事に気がついた。残念だが、どうやら今日はここまでみたいだ。
友希那は消化不良な気持ちを抱えながらも、そそくさと帰り支度を済ませてスタジオを出た。
「スタジオ空きました」
「友希那ちゃんお疲れ。そういえば雑誌見たよ。Roselia、いい名前じゃない」
「ありがとうございます」
もう何度も使っている場所だから、スタジオのスタッフともそれなりに会話をする間柄になっていた。そんなスタッフの手にはRoseliaの事が載った雑誌がある。
「それで、どう?Roseliaの感想は」
「まだまだ理想のレベルには程遠いです。私も、みんなも」
「やっぱり理想高いねー。まあ、ずっとやりたがってたバンドだし、そういう思いが強くなるのも当然かもだけど……おや?」
スタッフが入口に目を向けた。それに釣られるように友希那も目を向けると、かっちりしたスーツ姿の女性がスタジオに入ってきたところだった。
「ほほー。珍しいお客さんだ」
その来客を物珍しそうに見るスタッフの前で、その女性は友希那に声をかけた。
「湊友希那さん。少々お時間いただけますか?」
「……失礼ですが、どなたでしょうか?」
「私、こういう者です」
差し出された名刺を友希那は受け取り、さらりと目を通す。彼女は音楽事務所の人間らしかった。
「もしスカウトの話なら、申し訳ないですがお断りさせていただきます。私は自分の音楽で認められたいので」
この手の話は別に今回が初めてではない。もう飽き飽きするくらいされてきた事で、その度に友希那が返す返答も同じだった。見守るスタッフもそれを分かっているのか、若干憐れむような目で女性を見ている。
だが、女性は友希那とスタッフの予想に反して、とんでもない隠し玉を用意していた。
「私達なら、貴女の夢を叶える事が……FUTURE WORLD FES. に出ることができます」
「──っ!?」
そこで初めて、友希那は動揺した素振りを見せた。今の自分が何がなんでも出たいFUTURE WORLD FES. を餌に提示してくるという事は、どうやら色々と調べられていると思った方が良さそうだ。
「実は、友希那さんに声をかけるのは、これで2回目なんです。さっきの反応を見るに覚えてはいないでしょうが……」
「…………」
覚えていなかった。しかし、これは友希那の記憶力に問題があるわけではない。むしろ、何十社とスカウトしに来た会社名を全て覚えている方がおかしいだろう。
とにかく、今回の事務所は一度断られているにも関わらず、友希那を諦めきれなかったらしい。
「バンドメンバーにこだわっている事も知っています。ライブハウスで自らスカウトしていた事も。だから、あなたが納得するであろうメンバーも集めました」
「友希那ちゃん。これってつまり、メジャーデビューなんじゃ……」
「…………」
友希那は何も言わなかった。否、言えなかった。
突然に降って湧いた己の目標を叶える絶好の機会に即座に反応できるほど、友希那はまだ人生経験を積んでいなかったからだ。
その言葉を咀嚼し、飲み込んで理解するのに多少の時間を有しているのを断りの沈黙と受け取ったのだろう。女性は更に言葉を投げかけた。
「コンテストになんて出る必要はない。あなたの実力ならば、そんなものを経由するまでもなくフェスに出られる!もちろんメインステージで!」
その言葉に友希那の心は更に揺さぶられた。
向こうは間違いなく最高の条件を整えてくれている。数多くのスカウトを受けた友希那でさえ、これに乗らない手はないのではないかと思えるほどだ。
「私、は……」
だが、友希那は何故か首を縦に振れなかった。これが最善だと頭では分かっていても、どうしてか頷けない。
そんな未知の感覚への戸惑いが表に出ていたのだろうか、女性は心配そうに友希那の顔を覗き込んだ。
「……友希那さん?すみません、何か気に障るようなことを言いましたか?」
「いえ、ただ混乱してしまって……少しだけ、待っててくれないかしら」
頭の中が混乱したまま咄嗟に放った言葉は、友希那自身を驚かせた。
(私、今なにを言ったの?フェスに出るには、これが最短ルートなのは分かっているのに)
頭で分かっているはずの事なのに、どうして誤魔化すような言葉で回答を先送りにしたのだろう。
混乱は深まるばかりだった。
「わかりました。急に言われても難しいのは分かっていますし、友希那さんの中で答えが出る時まで待ちます。それでは」
女性がスタジオから出ていく。その後ろ姿を見送りながら、友希那は荒れ狂う胸の内に悩まされる事になるのだった。