今しか出来ない事をやろう   作:因幡の白ウサギ

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嘘をつくつもりは無かったんです。ただ、投稿終わってから「やっべエピローグ抜けてる」ってなっただけなんです。


中学生のエピローグ

 

 中学校の卒業式なんてのも、大まかには小学校と変わらない。卒業証書を1人ずつ手渡しするのが、教師側も面倒だろうなと思うくらいだ。受け取るだけでも面倒くさいんだから、準備側は面倒もひとしおだろう。

 後は校長その他お偉いさん達のラリホーマ……もとい"聞いていれば"色々と考えさせられる言葉(紗夜基準)で寝ないように気をつける。

 それさえ守れば、後は座っているだけなのだから気楽なものだ。

 

ねむーい……

 

 横の日菜のように、堂々と寝られるだけのメンタルは俺には無い。無言でスネに蹴りを入れる紗夜も大変だ。

 

 そんな卒業式を終えて教室に戻れば、もう涙脆い女子達が抱き合って泣いたりしている。聞こえてきた話で推測すると、中学校までは一緒で、高校から別れる友人のようだ。

 

「あたし達もやるべきなのかな?」

 

「別にやらなくていいんじゃないかしら。生涯の別れではないでしょう?」

 

「ああ、そうだな」

 

 だいたい一年くらい前の春にバンドを組むことになった俺達だが、楽器の購入でやっぱり一悶着あったらしい。その中でも特に問題が大きかったのが、紗夜と日菜だった。

 紗夜と日菜、2人が楽器を始めると聞いて、2人の両親はそれはもう反対したらしい。向こうからすれば、親の言うことを聞かないで公立中学に行った挙句に楽器をやるなんてワガママを言われたんだから、その反応も当然だろう。

 

 そんな2人が交換条件として出したのが、この近辺で偏差値の高い羽丘女子への進学。そしてその後の学内トップの成績維持。

 絶対に守ってみせると、日菜らしくない熱弁で説得をした姿は意外なものだったと、後で紗夜から聞いた。

 

「そんで学年1位と2位で入学とはな。やっぱヤベーや2人とも」

 

「それより、日菜ちゃんが本気を出した事の方が私は驚きなのだけれど」

 

「あたしだってガチでやる事くらいあるよ。普段は面倒だからやらないだけで」

 

 珍しく日菜がマジになった結果、模試で明らかに羽丘じゃなくても良いような偏差値を叩き出すのは、流石の天才としか言いようがなかった。

 

「まっ、あたしのキャラじゃないし、ガチになるのはこれで最後かもねー」

 

「普段から真面目にしてれば良いのになぁ……」

 

 普段から真面目にしてれば良いのに、と思わずにいられない。まあ、真面目ではないからこそ日菜とも言えるだろうが。

 

「兄さん。それブーメランよ」

 

「あたしも涼夜君だけには言われたくないかな」

 

「その言葉はそのまま返すわ」

 

 総ツッコミを頂いた。お前ら酷いぜ、俺は普段から真面目に不真面目してるっていうのに。

 

「なおのことタチが悪いわ」

 

「真面目に不真面目かぁ……よし、あたしも今度から、それ使おっと」

 

 日菜が良い事を聞いたと頷いている横で「なんて事を……」という顔で紗夜が俺を見てきた。

 何も悪いことはしてない筈だが、バツが悪くなって自然と目を逸らす。

 

「そういえば、羽丘女子って蘭達の通ってる学校だよな」

 

「そうだねー。だから花咲川じゃなくて羽丘を選んだっていうのもあるんだよね」

 

「……選べるだけの学力と金があるって、良いよなぁ」

 

 言っても仕方のない事だが、やっぱり思わずにはいられない。この世の中、やっぱり何をするにも金だなぁ。

 

「そういう涼夜だって、この近辺の公立高校に進めたじゃない。あそこは、それなりに偏差値も高かった筈よ」

 

「持たざる者の妬みだ、気にすんな」

 

 いくら地頭が悪いといったって、1年も準備すれば流石に学力は上がる。事前準備が功を奏したらしく、俺も千聖も公立高校への進学は決まっていた。

 

「ふーん……あっ、先生来た」

 

 席に戻れば最後のホームルームが始まる。これで最後だという事実が余程胸に刺さったのか、この時点でクラスの半分くらいは泣いていた。

 

 その後、卒業アルバムの最後のページにクラスメイトからのサインとかコメントとかを貰う時間があったが、4人で完結している俺達には殆ど関係ない事だった。

 

「全員で回していくか。そうすれば一周した時には、自分以外の3人からコメント書いてある状態で返ってくるし」

 

「では千聖さん。お願いします」

 

「ええ。私の分は日菜ちゃんに渡すわね」

 

「はい涼夜君。なんか適当に書いて」

 

 クラスの片隅で俺達は、そんなやり取りを交わしていた。

 俺達に貰いに来る人も無く、俺達が貰いに行く事も無い。気楽といえばそうだが、学内の評判というのは小学生からずっと尾を引くものらしい。

 

 余談だが、コメントはそれぞれこんな感じだった。

 

『これからも一緒に居ようね』

 

『例え学校が離れても、私達の友情に陰りはありません。そちらも頑張ってください』

 

『これからも、るんってさせてねー』

 

 どれが誰なのかは、おおよそ検討がついていると思う。

 

 そんな違う意味でちょっぴり悲しい卒業式の〆は、小学校でもやった校門までの行進。

 俺や千聖には関係のない事だが、両親や兄弟が見に来ている人には涙腺を崩壊させる最後の一手になる事だろう。実際、泣いてる人は男子も含めて相当な数だった。

 

「走りたい、そして急いで帰りたい」

 

「止めなさい」

 

「日菜ちゃん、流石に空気読んで」

 

 そんな感動をぶち壊しに掛かろうとする妹と、それを止める姉。ちょっとシャレにならないからか、千聖も肩を掴んで止めに入る。

 

「じょーだんだよ、じょーだん」

 

「まったく……紗夜日菜の御両親は来てないのか?」

 

「お父さんは仕事。お母さんは……どうかしら。行けたら行くとは言っていたけれど」

 

 よくよく周囲を見渡すと、薄いピンクとか水色とか、何処かのマンガかアニメの世界だから許されてる髪の色した親や子供が非常に多い。

 紗夜日菜もライトグリーンに近いような気がする色の髪だし、千聖も金髪だしで、冷静に考えると違和感がパない。

 

 黒い髪の数より、茶色めいた色の髪を持つ生徒の方が多いように見えるのは色々と問題があると、一瞬でも思ったのは……黒髪が当たり前の世界に居たからか。

 そんな刺激色が多めの中から特定の色を探すのは目が疲れるものの、見つけやすくはあった。

 

「……出口らへんに居ないか?」

 

「んー……あ、本当だ」

 

 やっぱりか。姉妹の髪色が父親譲りだったらどうしようかと考えていたが、どうやら母親譲りだったようだ。

 キャリアウーマン然としている女性は、雰囲気は昔の紗夜に良く似ていた。紗夜は母親に似たらしい。

 

「家族の邪魔するのも悪いし、俺達は此処で」

 

「えー?いいじゃん、別に一緒でもさ」

 

「卒業式の後くらいは親と一緒に居てやれよ」

 

 わざわざ卒業式という節目に来ているのだし、子供と話したいこととかもあるだろう。俺達は午後に会えるのだし、今くらいは母親の元に行っても良いんじゃないか。

 そんな親切心は、しかし日菜には伝わらなかったようで。これはもう一押しが必要かなと考えながら、俺は口を開いた。

 

「親御さんも悲しむぞ」

 

「えー。それくらいじゃお母さんは悲しまないよ。ねえ、おねーちゃん?」

 

「……いや、どうかしら」

 

「えっ」

 

 割とマジで考え出した紗夜に日菜がキョトンとした。紗夜が冗談を言うとは思えないから、きっと本当の事なんだろう。

 

「とにかく、今日くらいは良いんじゃないか?」

 

「…………そうね。どうせ午後に会えるのだし、今日はそうしましょう。日菜」

 

「はーい、おねーちゃんの仰せのままにー。じゃあ後でねー」

 

「ええ。後でね2人とも」

 

 ちょっと沈黙してから頷いた紗夜は、日菜を連れて母親の元へと歩いていった。

 

「……こうしてあの2人を見送るのは珍しい気がするな」

 

「そうね。多分、初めてよね」

 

 校門から出れば、残るのは俺と千聖の2人のみ。

 

「ああ、目がチカチカした。やっぱ多くの色を一度に見るのは疲れるな」

 

「そうなの?」

 

「千聖はチカチカしなかったのか?」

 

「ええ。全く」

 

 千聖が嘘を言っていないのは分かる。行動が真っ直ぐな千聖の嘘は、他のメンバーと比べて非常に見破りやすいからだ。

 ……意識の差とかなのか?髪の色がカラフルなのが当たり前だから、チカチカする事に慣れていて今さら体感できないとかなのかもしれない。

 

「……そうか」

 

「兄さん。疲れたなら午後の予定はキャンセルでもいいのよ?」

 

「いや、それくらいで休みはしないさ。心配してくれて、ありがとな」

 

 歩幅を合わせて歩いていると、卒業式の喧騒が完全に聞こえなくなったくらいで千聖が感慨深く口を開いた。

 

「これで終わりなのね……」

 

「なんだ?千聖が感傷に浸るなんて珍しい」

 

「もう、兄さんったら。私だって思い出を振り返る事くらいはあるわよ」

 

 そう言って千聖は寄り添ってくる。俺は何も言わず、ただ抱き寄せた。無言で寄り添ってきた時は"抱き寄せろ"という合図だという事を知っていたからだ。

 

「今になって振り返れば、大きな出来事が2つも起こったのよね」

 

「そう……だな」

 

 千聖は髪を擦り付けるように頭を寄せてきながら言った。

 

「私のこと、バンドのこと。バンドはとにかく、私の事は個人的な物だったけれど……」

 

「全員が関係したんだから、個人的ではないだろ。良くも悪くもな」

 

 ……千聖の件は、主に俺のせいなんだけどさ。

 

「それはもう良いわ。約束したものね、私をもう離さないでって」

 

 本当に振り返っているだけなのだろう。その後しばらくは何も言わない千聖の頭を、俺はただ撫でていた。

 

 

「これから高校生だけれど……」

 

 次に口を開いたのは、施設まであと5分くらいの場所に来た時だった。

 

「もう決まっているの?バイト先」

 

「先ずはコンビニとかかなーとは考えてるけど、細かい所はまだだな。何かやりたいバイトとかあるのか?」

 

「いいえ。聞いただけよ」

 

 これから高校生になる俺達にはバイトが許される。自分で金を稼ぐチャンスだ、やらない手はない。

 

「まずはケータイ持てるくらいは稼がないとなぁ……これから不便だ」

 

「持ってる人は中学生から持ってたものね、ケータイ」

 

 蘭とかは持たされてたけど、多くは高校生くらいから持たされるイメージのあるケータイだ。持てるのであれば、持っておいても損は無い。

 スマホってなんですか(元おっさん世代並感)な感じではあるから、俺達が持つのは今で言うところのガラケーになるだろうが。

 

「まあ、何とかするさ」

 

「ええ。何とかしましょう」

 

 最後に少しだけ、今来た道を振り返ってから、施設の扉を開けた。

 




次からは本当に高校生編ですよ。本当に

〜おまけ(別に読まなくてもいい)・現時点での乖離点〜

涼夜(オリ主)──当然だけど最大の異物
千聖──親から捨てられ孤児になっているので、芸能人のげの字も無い。薫と花音との関係も無い代わりに、氷川姉妹とアフロメンバーとの交流有り。Afterglow所属
紗夜──日菜との仲違いが発生しなかった。実はにんじんが食べられる。アフロメンバーと千聖との交流有り。羽丘女子に進学。Afterglow所属
日菜──アフロメンバーと千聖との交流有り。にんじんが食べられない。Afterglow所属
蘭──アコギを拾った。氷川姉妹と千聖との交流有り。
モカ・ひまり・つぐみ・巴──氷川姉妹と千聖との交流有り。
あこ──氷川姉妹と千聖との交流有り。Afterglow所属

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