今しか出来ない事をやろう   作:因幡の白ウサギ

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今日は白鷺千聖さんの誕生日ですね。……ウチの千聖ちゃんには関係ないですが、推しキャラなので嬉しい限り。今年も千聖さんの公式イラストが増えてくれる事を祈ります。


中学後編 : バンド名は、Afterglowだ!
変人たちと、その妹たち


 中学校といっても、所詮は近くの地区に住む小学生を集めて詰め込んだだけの箱庭みたいな物だ。

 私立のように入学者を選別するという意味合いの入試なんて物は、まだ義務教育である中学で行う事は出来ず、そんなわけだから集まる子供達もピンからキリまで……優等生から不良まで、何でも集まる見本市状態となっていた。

 

あの人が千聖先輩かぁ……噂通り、綺麗な人

 

私も、あんな風になれたらなぁ

 

芸能人みたいだよねー

 

 

 

「ねえ兄さん」

 

「内容を当ててやる。どうしてこんなに人の目を集めるのか、だろ?」

 

「凄い……大当たりよ。流石は兄さん、私の考えている事なんてお見通しね」

 

 いや、こんなの誰でも分かるわ。というツッコミを唾と一緒に飲み下し、通学路をゆっくりと歩いて行く。通学路には俺や千聖と同じ制服に身を包んだ生徒達が居るが、その全ての目が俺達に向けられていた。

 さっき小声で話していた3人は、制服のテカリ具合的に新品な感じがするから、きっと新入生なのだろう。

 

 もう1度言うが、公立の中学校はピンからキリまでの子供達をごちゃ混ぜにかき混ぜた闇鍋状態であるから、あらゆる意味で上と下の差がデカい。それは頭脳や運動神経もそうだが、当然"容姿"という項目も含まれている。

 そして、贔屓を抜きで見ても、美人と美少女を掛け合わせたような女の子に成長した千聖が、注目を集めないわけがない。

 

「だけど、なにより……」

 

「?」

 

 割と近い位置に居る千聖の体勢が原因なのだろう。腕を組んで、しかも手をガッチリと繋いでいる。

 千聖レベルの美少女が、俺みたいな中の下くらいのフツメンと、こんな親しげに歩いていれば、意識を引くのも当然といえる。

 

 そういえば、千聖に強請られるままやっている、この繋ぎ方は恋人繋ぎとかいうらしい。前に「そういえば、千聖と常にやってる繋ぎ方って名前あるのかな」と呟いた時、紗夜が呆れ気味に教えてくれた。

 

「もう何年も、その繋ぎ方をしているのに知らなかったの?」

 

 なんて言われたが、知らない物は知らないのだ。……縁遠かったし。そういう繋ぎ方が出てくるようなマンガとか見たこと無かったし。

 

「千聖が綺麗だから注目されてるのさ」

 

「あら、褒めても何も出ないわよ?」

 

 と言いつつ、やはり気分が良いのか、手を握る力が僅かに強くなり、更に密着してきて歩きづらい。

 

「事実を言ってるだけだ」

 

「ありがとう。兄さんも素敵よ」

 

「冗談よせよ」

 

「事実よ。私にとっては、他のどんな人より、兄さんの方が、ずっと素敵だわ」

 

 嘘偽りなく、本気の目をしていた。

 

「愛してるわ。たった1人、私だけの兄さんの事」

 

「……俺も愛してるよ」

 

「嬉しい……これからも、ずっと一緒よ」

 

「ああ、ずっと一緒。約束だ」

 

「ええ。約束よ……」

 

 

 

 

「…………朝から何をやっているのかしら、あなた達は」

 

 紗夜に呆れられた。後ろを振り返ると、もう待ち合わせの公園を通り過ぎていたらしい。

 

「おはよう紗夜。居たなら声を掛けてくれれば良かったのに」

 

「涼夜は、あの甘ったるい空気に割って入れと言うのね。無茶言わないで」

 

「2人とも凄かったよー。2人の周りだけ、なんか凄いピンク色だったし」

 

 日菜が言うくらいなんだから、それは相当な物に違いなく、実際に俺と千聖は周囲の目線を集めまくっていた。

 その目線の大半は「またやってるよ……」みたいに呆れ半分、悔しさ半分な物だが、悔しさの代わりに気恥ずかしさを感じている新入生も少数居た。

 

「そうか?そんなにか……?これくらいなら、別に普通だろう」

 

「うーん。流石、ウチの中学で有名な"ブラコンとシスコンの希望の星"が言うことは違うなー」

 

「その嫌すぎる称号、まだ残ってたのかよ」

 

「えー?これ以上ないくらい的確だと思うんだけど、何が気に入らないの?」

 

「星ってのが気に入らん。なんだよ星って」

 

「目立つからじゃない?だって、ことある事にイチャついてるじゃん。2人で」

 

 入学早々の自己紹介で、千聖は"兄さん以外の男の人には興味ありません"とか言ったらしく、それが理由でブラコンの称号を得た。

 俺は俺で常に千聖と一緒だし、こんな感じで腕を絡めて手を繋ぎっぱなしだし、そもそも俺も自己紹介の時に"家の千聖は誰にも渡さん"とか言ったような……。

 

 そして、こんな発言をすれば嫌でも目立つ。噂によると、学校の殆どの人が俺達の事を知っているらしい。

 

 結論:不名誉でもなんでもなく妥当だった。

 

「うっわあ……」

 

「なんで落ち込んでるのよ」

 

「否定したいけど、否定できないという事実に気付かされたからだよ……」

 

「兄さん大丈夫?」

 

「大丈夫。その気遣いが嬉しいよ」

 

 学校が近付くにつれて、周囲からの目線も多くなる。その目線の殆どが男子であるから、目当ては千聖と氷川姉妹の3人だろう。

 千聖の影に隠れがちだが、紗夜と日菜も美少女と呼ばれるに相応しい容姿をしている。そんな美少女が3人も固まっていたら……そりゃ見るだろう。第三者なら俺も見る。

 

 そんな訳で、周囲の目線を引きつけながらの通学には嫌でも慣れた。ついでに向けられる嫉妬の目線にも慣れた。

 

「今年はクラス分けが、どうなるかな」

 

「もう3年生なんだから、今年こそは兄さんと同じクラスになりたいわ……」

 

「涼夜君だけ、2年間、別のクラスだったもんねー。あたしと、おねーちゃんと、千聖ちゃんは同じクラスだったのに」

 

「ある意味で奇跡よね」

 

 2年間、俺だけ狙ったかのように別のクラスというのは、何かの悪い偶然なのだろうか。それとも、あの神様が実は操作でもしているのだろうか。

 そんな突拍子もない事を考えてしまうくらい、俺だけ除け者であった。基本2クラス合同の体育すら被らないのは流石に笑った。

 

 その所為で最初の1年は千聖が病んだ事もあったが……今はそんな事も無く、落ち着いている。

 

「…………それにしても、慣れないわね。人の波が、こうして割れるのは」

 

「あたしは楽しいよ。モーゼが海を割った時って、きっと、こんな感じだったんだーって考えられるし」

 

「そうか?……日菜の考える事は良く分からんな」

 

 学校の正門から入り、クラス分けが掲示されている場所に向かって行くと、俺達を見つけた人集りがサッと真っ二つに割れた。

 

 ──重ねて言うが、 中学校は、近くの地区に住む小学生を集めて詰め込んだだけの箱庭みたいな物だ。

 なので、大体半分くらいは俺達が居た小学校から来ていて……あそこでは俺と千聖、そして氷川姉妹は一般生徒から露骨に避けられていた。

 

 俺は単純に変人だから。千聖は俺の妹だから。氷川姉妹は妬みとか色々。

 まあ、この際、理由はどうでもいい。とにかく俺達は小学校では避けられていて、この中学校には、俺達を避けてきた小学生が多く進学してきているのだ。

 俺達の待遇が小学校の二の舞になるのに、さほどの時間は必要なかった。

 

「楽だから良いけどな」

 

「私は、兄さんとAfterglowさえあれば、他は別に、どうでもいいわ」

 

「あたしも千聖ちゃんに同じくー。おねーちゃんとAfterglowがあれば良いかな」

 

「とんだ妹達ね……否定できない私が居るけれど」

 

 この中学校でも、俺達は4人だけ孤立していた。だがしかし、4人で充実しているし、邪魔も入らない事を考えると、孤立状態も、そう悪い物ではない。

 

「そんで、お待ちかねのクラス分けは…………ッ!?」

 

 全員が絶句した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後、家への帰路の途中で、俺は口を開いた。

 

「凄ぇ……全員が同じクラスだぜ」

 

 過去一番…………いや、過去10本の指に入る衝撃だった。まさか、まさか全員が同じクラスになるとは。

 

「正直、望みは薄いかと思っていたのだけれど……こんな事もあるのね」

 

「千聖ちゃんも、珍しく、はしゃいじゃうくらいだもんね」

 

「あれは……思い出したら恥ずかしくなってきたわ」

 

 あまりに嬉しかったからなのか、思わず飛び付いてきた千聖の姿は非常に珍しかった。直後に正気に戻って顔を真っ赤に俯いたのもポイントが高い。俺を萌え殺す気か。

 

「まあこれで、千聖達が休み時間の度に忙しく教室を出入りする必要が無くなった訳だ」

 

 寂しいからという理由で離れた教室まで足を運ぶ千聖と、暇だからという理由で付いて来ていた氷川姉妹。毎時間の休み時間の度にやっていた事だが、とても忙しそうで気の毒だった。

 

「正直、あれ疲れるから助かるよー。神様に感謝だね」

 

「アレに感謝すんのは止めとけ。アイツ、休暇取ってベガスに行くような俗物だから」

 

 "あー……早く休暇取ってベガス行きてぇ"という、あまりに俗物じみた発言に度肝を抜かれたので、細部のやり取りは忘却の彼方でも、それだけは今でも鮮明に覚えている。神がベガスでギャンブルとか、何の冗談だ。

 

「まるで神様に会った事があるみたいな言い草ね」

 

「あるって言ったら、どうする?」

 

「まずは頭の病院に行きましょうか」

 

 いっそ清々しいくらいの即答だったが、事情を知らなければ俺も同じ事を言っていただろう。それくらい突拍子もないんだ、あの現象は。

 

「まっ、冗談だから安心しろよ」

 

「冗談にしても面白くなかったわ」

 

「悪かったな」

 

 そんな他愛のない事を言いながら、ふと思う。蘭達は大丈夫だっただろうかと。

 

 クラス分けは万人に降り掛かる行事であり、蘭達も例外ではない。そして、5人が一緒のクラスに居られる確率というのも、そう高くはないだろう。

 だけど、蘭以外なら何とかなる筈だ。メンタルが強そうに見えて、実はクソザコメンタルな蘭が1人だけ、ピンポイントでハブられるような事にならなければ。

 

(…………完全にフラグだ、これ)

 

 家に帰ったら、電話で巴にでも聞いてみようか。もし蘭が落ち込んでいるのなら、暇を見つけて励ましてやらなければならないだろう。

 

 もちろん、これが杞憂に終わる可能性の方が高いし、俺もそうであって欲しいと思っている。

 だけど何故か、俺には蘭がハブられているだろうなという予感があった。

 

 この予感が当たっていたと知るのは、もう少し後になる。




ところで、千聖さんの誕生花はアネモネなんですが、花言葉に『儚い恋』って意味があるらしいですよ。私も今日、初めて知りました。

儚い……あっ(察し)


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