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3/21 蘭の髪色と、それに伴う色々な修正
キャラ紹介で一話が吹っ飛ぶ
昔からの癖、というのは中々抜けてはくれないもので、環境が大きく変化して必要なくなった筈の早起きという行動に引っ張られて、俺は不自然なくらいパッチリと目を覚ました。
「ん、んん……ふぁあ」
あくびと共に布団の中で背伸びをした俺が見たのは、もう何年も見慣れた、しかし何処か違和感の残る天井だ。いつも通りに目が覚めているのなら、時計の針は恐らく5時を指し示しているだろう。
俺は首を動かして、隣に敷かれているもう一つの布団の方を見た。そして其処に見慣れた顔が無いのを確認してから、布団をチラッとめくって中を見る。
「……すぅ……すぅ……」
案の定、安らかに寝息を立てている金色が其処に居た。寝る前は確かに別々の布団に入った筈なのに、いつの間に移動していたのか……。
俺が起き上がろうとすると、その動きに反応したのか金色もモゾモゾと動き出して布団の中から顔を出した。
「ふぁぁ…………おはよう兄さん」
「おはよう千聖」
乱れた金髪を直す事なく、寝惚け眼でこっちを見たのは千聖。美が付く少女に分類されるだろう容姿をした義理の妹だ。
「いい加減、俺に合わせて起きなくてもいいのに。まだ寝れるぞ?」
「いいの……ふぁぁ」
あくびをしながら目をこすっている千聖の姿からは明らかにまだ寝足りなさそうな雰囲気が感じられたが、しかし本人は布団から起き上がって赤いランドセルから、ひらがなでデカデカと「さんすう」なんて書かれたドリルを取り出した。
「おいおい。宿題、昨日のうちに終わらせてなかったのか?」
「兄さんとやろうと思ってたの」
「それはいいけど、でも、絶対に俺の方が終わるの早いぞ?」
中高の数学とかなら兎も角、今更小学3年生の計算問題とかに手こずるほど馬鹿になったつもりもない。量もそれほど多くはないし、それこそ5分もあれば余裕で終わるだろう。
「終わったら私の見てて」
「りょーかい」
俺も自分の黒いランドセルから、さっき千聖が出したドリルと同じ物を取り出して、昔懐かしの鉛筆を握って作業開始。いつしかシャーペンしか使わなくなってたから懐かしい気持ちになれる。
ドリルに印刷された簡単な問題に自分の
「宿題って何ページまでだっけ」
「えーっと、今日は20ページまでみたい」
「すぐだな」
なんて言ってる間にも、俺は最後の問題の答えまで書き終えていた。サラッと見返した限りでも間違えている箇所は無さそうである。まあ、俺と同じ歳くらいまでマトモに生きて、こんな問題を間違えるなんてありえないだろうが。
「よしっ、終わり」
「兄さん、ここ分かんない」
「どれどれ……ああ、ここはだな──」
朝ごはんの時間が来るまで、俺が千聖につきっきりで宿題を手伝うのが日課。
この世界で行える、唯一と言っていい家族との触れ合いである。
▼▼
靴を履いて、つま先で地面を意味もなくトントンと叩く。実際、この行動ってなんか意味あるんかね。
「「行ってきます」」
児童養護施設「青空」
俺と千聖が赤ん坊の頃に保護されて、それから過ごしている場所だ。
人数は俺と千聖を含めて6人と、更に職員の人が数人。全員がまだ小学生だが、6年生や2年生といった感じで年齢はバラバラだ。
ちなみに俺と千聖は3年生。もう9歳である。
「ふぁ、あふぅ……」
「眠いなら無理するなってのに」
「無理なんてしてないもん」
口ではそう言っているが、明らかに眠そうな千聖に苦笑いをしながら、俺は小学校への通学路をゆっくり歩く。
事実は小説よりも奇なり、とはよく言ったもので、俺は死んだと思ったら"神様"に出会って転生していた。……うむ、これは世にも○妙な物語で放送しても良いのでは?或いは自伝とか書いちゃうか。タイトルは"私が見た神の国"とか?……なんかの宗教みたいだな。
とまあ冗談はさておき、とにかくそんな夢物語が存在したのだ。死ぬほど……というか実際に死んだけど、マジで痛覚がマヒるくらいの痛みを味わった甲斐があるのだろう。多分、おそらく、きっと、maybe。
ところで、神様転生といえば転生する際に貰う何か特別な力……特典が要素の一つにある。人によっては王の財宝だったり、無限の剣製だったり、そんな感じのssを俺も昔見た。残念ながら俺にそんなのは無かったけどな!
…………いや、悔しくなんてないぞ?「大丈夫、そんな物騒な能力なんて必要ないから」ってイイ笑顔で言ってたから、少なくとも世紀末な世界ではないのは確かだろうし。もしそうだったとしても剣とか持って戦える度胸も無いし、これでいいのだ。
でもやっぱりちょっと欲しかったり
閑話休題
とにかく、俺は蘇って、そしてこうして二度目の子供生活を送っている。
見た目は黒髪黒目の極一般的な日本人のそれで、アニメとかで見るような若干奇抜な髪の色などはしていない。でも周囲を見渡すと、一般人に2次元の中でしか見ないような組み合わせのカラーをした人がそこらじゅうに居るので、やっぱり此処は元居た世界とは何かが異なるようだった。
栗色ならまだ分かるけど、スカイブルーな色の髪したそこの君は地毛なのか?大丈夫?将来、頭髪検査で引っかからない?
通学路の途中、住宅街の出口にある十字路は通学時間に多くの小学生が行き交う場所となる。この地区の小学生の大半はここで友達と待ち合わせをしてから登校するのだ。
もちろん、俺と千聖もその例に漏れない。
「おっ、来た来た」
角にある電柱の下、いつもの5人は既に待っていた。
「よっ涼夜、千聖。今日も2人一緒か」
紅い髪が特徴で、片手を上げて快活な挨拶をしてくるのは宇田川巴。こいつは下に妹を1人持つ"姉妹の姉"である。
どう見ても活発な男子に見えるが……女だ。
「ああ。まあそりゃ、同じ場所から通ってるからな」
「はは、だよな。変な事言って悪かった」
その笑いは嫌味一つ無い爽やかな物で、知らない人からすれば彼女が女である事など想像もつかないだろう。
というか、下手な男よりも漢らしい。
だが女だ。
千聖より背は高く、身長がそれなりに高いと自負している俺と同じくらいである。小学2年生にしてはかなり大きいだろう。いつものメンバーの中では俺と並んで身長はトップである。
だが女だ。
ジーパンに半袖、あと薄手の上着。ボーイッシュなコーディネートが決まっている。
だが女だ。
もう暦の上では秋だというのに、まだ少し暑さが残っている。
だが女だ。
まだ生き残っていたらしい、セミの鳴き声が何処かから聞こえる。今年はこれで聞き納めだろう。
だ が 女 だ 。
「おはよっ。今朝は少し暑くない?」
「んー、まあな。ところで宿題は終わってるのか?」
「今日
その隣のピンク髪が上原ひまり。癖しかないいつものメンバーの調整役でノリは良い。しかし、宿題忘れ常習犯である。
何度怒られても、かなりの頻度で忘れるというひまりの辞書に懲りるという言葉は絶対に無い(確信)
「今日は、な」
「ひまりちゃんを見てると、宿題は毎日やるものっていう私の考えが揺らぐ気がするんだ……」
そんな風に呟いたのは、前世でも違和感のないダークブラウンの髪色をしたThe・普通といった感じの女の子。
名前は羽沢つぐみ。通称つぐ。癖しかないメンバーの中で唯一ニュートラルな女の子で、コーヒー店の一人娘。
「しっかりしろ、つぐ。大丈夫、モカでさえ宿題はやってくるんだ。間違ってるのはひまりの方だ」
「だ、だよね……」
「あたしは先生に怒られる時間で寝れると思うからやってるだけだけどね〜〜ふあぁ……」
あくび混じりにそう言ったのが青葉モカ。いつものメンバーの中で1番マイペースな奴だ。趣味は睡眠と豪語するだけあって、暇さえあれば大体寝ている。過去には歩きながら寝た事もある。
そして寝起きがヤバイくらい悪く、毎日誰かしらがモカの母親とくっついて起こしていないと起き上がらないというレベルであるらしい。俺は実際に寝起きを見た事が無いから分からないが、そりゃ凄いとか。
こんな調子で、これからある修学旅行や宿泊学習は大丈夫なのか今から不安だ。運良くいつメンの誰かがモカと同室ならいいが……
「あ〜〜……眠い。ちーちゃーん、運んで〜〜」
「暑い。離れてモカちゃん」
「いやん、辛辣ぅ」
モカに抱きつかれた千聖は顔色一つ変えずに引き剥がそうとぐいぐい押し退けようとしている。
余談であるが、千聖はこのメンバーの一部からは"ちーちゃん"と呼ばれている。一部というのは、この呼び名を使うのが、ひまりとモカしか居ないからだ。
「そんなに抱きつきたいなら蘭ちゃんの方に行けばいいのに」
「ちょっと千聖。さりげなくあたしを売らないで」
「ん〜〜。蘭はねー、ちょっとこの時期は抱きつきたくないんだよねー。主に体温的な意味で」
「……あれ?なんでかちょっと悔しい」
謎の敗北感にやられているのは美竹蘭。俺と同じく普通の黒髪で、髪色だけで見るなら一番現実的な色をしている。しかし、目の色がピンクに近いという別世界ならではな色をしたクールビューティー。
ちなみに、いつメンの中で1番のお嬢様。なんでも家は伝統ある華道の家元なんだとか。しかし、蘭は家の事を話題に出されるのを嫌がるので話をそっち方向に転がさないように気をつけよう。
「モカ、千聖といちゃつくのは後にしろ。ほら、もう行くぞ」
「はーい」
「兄さん、私は別にいちゃついてなんかないから」
この5人に俺と千聖を加えて、更に巴の妹のあこが居ればいつも放課後につるんでいるメンバーが揃う。
「そういえば巴、あこは?」
「先に行かせたよ。モカを起こすのに手間取りそうだったからな」
「今日も寝起き悪かったのか」
「モカちゃん的にはあれが普通なんだけどね〜?」
「あれで普通とか嘘でしょ……?」
他愛のない会話を楽しみながら学校へ向かう。この時間が俺の1日の楽しみの一つである。放課後の次に楽しい時間であると言えるだろう。
▼▼
「そんじゃあ、また後で」
「放課後にね」
「ああ。放課後にな」
「じゃーね〜」
「また後でねー」
「涼夜君、千聖ちゃん。また後でね」
「なるべく早くね」
昇降口に設置された下駄箱の位置は、2年生と3年生では異なる場所にあり、当たり前だが教室の位置も違うので、ここで5人とは一旦お別れだ。
小学生の昇降口はそれなりに混み合っていた。俺と千聖はぶつからないように間を移動しながら、下駄箱に近寄って──
「兄さん、こっちこっち」
「ああ……そっちだっけ、悪い悪い」
千聖に服の袖をちょいちょいと引っ張られて下駄箱を間違えかけた事に気付いた俺は、下駄箱に書かれた「ほしの」という苗字にまだ違和感が拭えないでいる。
それが俺の、この世界で与えられた新しい名前だ。
苗字には由来があり、施設前に放置されて苗字が分からない赤ん坊だった俺と千聖が、星が瞬く七夕の日に保護されたから、星野、と名付けられたらしい。職員さんからはそう聞いた。そして名前の方の由来は……そういえば何故だろう?保護された夜が涼しかったから、とかだろうか。
改めて名前について考えながら階段を登り、「3-1」とプレートがある教室の前までたどり着く。此処が俺達の教室だ。
「おはよう。今日も早いな」
「おはようございます。遅刻する訳にはいきませんから」
隣の席に座っているライトグリーンっていうか、なんというか。言葉にできない色の長髪をした人が氷川紗夜さん。歳は同じはずなのに何故かさん付けで呼びたくなる雰囲気な人で、双子の妹を持つ姉である。
「おねーちゃん!」
「日菜……お願いだからいきなり抱きつくのはやめて」
そしてその妹の方、氷川日菜。紗夜さんと同じく歳は同じはずなのに、こっちはどうも、さん付けは出来そうにない雰囲気である。どちらかというと、ちゃん付けの方が似合っているのは妹キャラだからだろうか?
日菜は自他共に認める天才で、大体の事なら何でもこなす。しかし、それ故なのか「え?これくらい余裕でしょ?」みたいな悪気のない煽りが多い。俺もやられた。
「えー?いーじゃん。私とおねーちゃんの仲なんだし〜」
「だからやめなさい。立ち上がれないでしょう」
日菜はお姉ちゃん大好きっ子なので、大体は紗夜さんと行動を共にしている。口ではなんか言いつつもそれに付き合っている辺り、紗夜さんも日菜の事を嫌ってはいないようだ。
「今日も元気だな」
「あっ涼夜くんハロハロー!千聖ちゃんもハロー!」
「おはよう日菜ちゃん」
昼休みと放課後を除けば、俺たちは氷川姉妹と行動している事が多い。巴とか、モカとか、目の前の氷川姉妹とか、千聖とかの大人びた奴らの存在で忘れがちだが、やっぱり俺みたいにいい歳したおっさんが小学生を演じるのは些か無理があるみたいで、変な子供を見るような目で見られる事が多々ある。
髪の色は気にしないのに、こんな些細な事を気にするのはどうなんだろうと俺は思う。けどまあ、ここはそういう世界なのだと自分に言い聞かせながら、俺は何処か懐かしい小学生の授業を受けるために教科書を広げるのだった。