この話には、親馬鹿しかいません。
今回の話は、最後のパート以外はpixiv版と全く一緒です。
パンドラズ・アクターの場合
【 親バカ三人組は、秘密の日記に手を出した 】
その日、仕事が終わってから急いでログインすると、円卓の間で一人自分の席に座ったまま、何かをこそこそと解析しているモモンガと言う、とても珍しい姿をペロロンチーノは目撃する事になった。
普段なら、誰かがログインしてきたらすぐに気付いて挨拶する人なのに、今日は全く気付く様子が無い。
本当に珍しい姿に、「どうしたんだろうか?」と首を傾げていると、そこに聞こえてきたのはウルベルトがログインして来た事を告げるログインメッセージ。
すぐに、円卓の間に馴染み深い山羊の悪魔が姿を見せたので、ペロロンチーノは迷わず彼の元へと駆け寄った。
「ウルベルトさん、ウルベルトさん。
実はですね、今、とても珍しい状況なんです!
あの、誰がログインしてもすぐに気付くモモンガさんが、俺がログインしてきたのにも気付かず、何かのプログラムを弄っているんです。
ついでに言うと、ウルベルトさんが今ログインしてきた事にも、モモンガさんは全く気付いていませんよ。
ほら、あの通り!」
スッと、ペロロンチーノが身体を横にずらして、ウルベルトから自分が遮っていた形になっていたモモンガの姿を見せる。
そこには、彼の言う通り何かに集中しているモモンガの姿があった。
自分たちギルメンのログインにも気付かないなんて、確かにモモンガにしてはとても珍しい状況だろう。
一体、そんなに夢中になって何をしているのか、ペロロンチーノだけではなくウルベルトも非常に気になった。
やはり、こういう時は本人に直接聞いた方が、話が早いだろう。
スッと視線を交わし合い、お互いにその結論に至ったのを察した時点で、迷う事無くモモンガへと歩み寄った。
そっと、彼が逃げられない様にと両脇を陣取りながら、二人で同時にモモンガの肩を軽く叩きながら声を掛ける。
「こんばんは!
一体、何をそんなに夢中になっているんですか、モモンガさん。」
「ばんわー、モモンガさん。
そうそう、俺たちがログインしてきたのに気付かないなんて、本当に珍しいですよね?」
肩をいきなり叩かれた事で、ビクッと震えるモモンガの事を気にする事なく、それこそタイミングを合わせたかの様に交互にそう声を掛ければ、漸く二人の存在に気付いたモモンガが驚いた様に顔を跳ね上げた。
それと同時に、慌てて手元にあったそれを消そうとしたのだが……それよりも早くウルベルトが手元を覗き込み、少しだけ眉を潜める。
「えーっと、【秘密の日記 パンドラズ・アクター】って……もしかして、これはメールペットたちが時々部屋の隅で何か書いているあれですか?
普段、これだけは主である俺たちが聞いても、いつも【内緒です!】って見せてくれないヤツですよね?
もしかしなくても、パンドラに内緒でこっそりデータをコピーして持ってきちゃったんですか!」
同じ様に、モモンガの手元を覗き込んでいたペロロンチーノが、ビックリした様に口に出して問い掛ければ、スッとバツが悪そうに視線を逸らす。
一応、メールペットにもプライバシーがあるだろうと、ペロロンチーノから言外に指摘された事で、元々善良な性格のモモンガは良心が咎めているのだろう。
とは言え、つい自分のメールペットがどんな日記を書いているのか、主として気にならないかと問われれば、ここに居る二人だって素直に「気にならない訳がない」と答えるのは間違いなかった。
「あー……もう、ほぼロック解除は出来ているみたいですし、モモンガさんが【パンドラが書く日記を読んでみたい】と思った気持ちは俺も良く判りますからね。
今回限りと言う事で、ちょっとだけ中身を読んでみませんか?
ただし、私たち三人以外には誰にもバレない様にする為にも、実際にこの日記を読むのはモモンガさんの部屋に三人で移動してからですけど。
もちろん、ペロロンチーノさんが嫌だというのなら、無理強いはしません。
ただし、この件は他言無用でお願いしますね?
こういう事に、特にうるさい人が騒ぐと後が面倒ですから。」
サクサクッと、日記を読む事を同意する意見を口にすると、ペロロンチーノに「共犯になるならない関係なしに他言無用」と告げながら、まだこの状況について行けないでいるモモンガを誘導して部屋へ移動しようとするウルベルト。
このまま何も言わなければ、二人だけでモモンガの部屋に移動して日記を見ると言う行動から、自分は仲間外れにされてしまうのだろうとペロロンチーノは直に察した。
そんな事は、【無課金同盟】を組む位に仲が良い三人組の一人として、とても認められる訳がない。
こういう悪い事も、一緒に三人で楽しむという状況がペロロンチーノは大好きなのだ。
「もー……判りましたよ、ウルベルトさん。
俺だって、本音を言えばどんな事を書いているのかとても気になってますし、そもそも二人だけで楽しん俺だけ仲間外れにしようなんて狡いじゃないですか!
こうなったら、最後まで付き合うに決まってるでしょ。
という訳で、早く移動しましょうか。
他のギルメンが来たら、それこそ面倒ですもんね。」
それこそ、掌を返す様に自分の意見をサクッと変えると、ペロロンチーノはモモンガとウルベルトの背中を押して先を急いだ。
彼の言う通り、急いで移動しないと他のギルメンから何をしているのか、問い質されてしまうだろう。
流石に、自分たちが一応後ろ暗い事をしている自覚がある為、三人揃ってモモンガの部屋へと指輪の力で転移して行く。
誰も付いて来ていない事を確認し、モモンガが自分の部屋に入室禁止のブロックを掛けて転移出来なくした所で、モモンガはそそくさと先程しまったデータを呼び出し始めた。
そんな彼の背後で、手元を覗き込みやすい場所を陣取ったウルベルトとペロロンチーノ。
モモンガの手際よい作業の下、メールペットのパンドラズ・アクターの日記が解析されて表示されていくのだった。
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【 ○月×日 はじめてごしゅじんさまにあいました! 】
わたしは、めーるぺっとのぱんどらす・あくたーといいます。
きょうから、ごしゅじんさまのももんがさまのもとにやってきました。
これから、たくさんのことをおぼえて、ももんがさまのおやくにたつためにがんばりたいです。
ももんがさまは、とてもやさしいです。
わたしのために、たくさんのものをよういしてくれます。
ぴかぴかのぶーつにかっこういいふく、かっこういいぼうしにかっこういいこーと。
ぜんぶ、ももんがさまがわたしのためによういしてくれたものです。
ももんがさまのところにこれて、わたしはとても、しあわせものです!
きょうは、まだいろいろとおぼえることがおおいので、めーるのはいたつにはいけないそうです。
はやく、ももんがさまのおやくにたてるようになりたいです。
まっていてくださいね、ももんがさま!
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【 ○月○日 少しだけ、学習しました! 】
今日は、モモンガ様から辞書をもらいました。
少しだけ、言葉が聞き取りにくいそうです。
辞書を受け取ったら、頭の中に知識がたくさん入ってきました。
それからお話ししたら、モモンガ様は「少し賢くなったな」と頭をなででくださいました。
モモンガ様がなでて下さった所から、ぽかぽかと胸があたたかくなってふわふわとした気持ちになりました。
それが何か分からず不思議に思っていると、モモンガ様からどうしたのか尋ねられました。
なので、全部正直にお話ししたら、「それは、パンドラが嬉しいと感じているんだ」と教えて下さいました。
これが「嬉しい」という気持ちなのですね。
そんな風に思える様な私は、やはり幸せ者なんだと思います。
【 ○月○日 二回目 初めてお友達に会いました! 】
今日は、嬉しい事が一杯です!
モモンガ様と一緒に色んな事を学んでいたら、初めてお友達がメールを持って訪ねて来ました。
お友達の名前は、デミウルゴスと言います。
彼は、モモンガ様のお友達のウルベルト様の所のメールペットなんだそうです。
私たちメールペットの中でも、一番頭が良いのだとモモンガ様が教えて下さいました。
どうして、一番頭が良いのか聞いてみたら、彼が一番長く動いているメールペットだからだそうです。
私たちメールペットは、彼を中心に数体のサンプリング試作体のデータを元に生まれたそうです。
確かに、それなら頭が一番いいのは納得ですね!
まだ、私はメールのお届け先の道を覚えていないので、今日はデミウルゴスにお返事も運んでもらう事になりました。
早く、私もメールをお届けできる様になりたいです!
初めて会ったデミウルゴスは、とても礼儀が正しい格好いい人でした。
私も、彼の様に格好良くなれるでしょうか?
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【 ○月△日 初めてお出かけです! 】
今日は、メールペットとしての初めてのお出かけです。
昨日の夜寝ているうちに、モモンガ様がメールのお届け先の地図をダウンロードして下さったので、これでもう大丈夫だと言われました。
ようやく、モモンガ様のお役に立てる日がやって来て、とても嬉しいです!
今日、メールをお届けする先は、昨日来て下さったデミウルゴスのご主人様のウルベルト様の所と、もう一人モモンガ様のご親友のペロロンチーノ様の所です。
そこには、シャルティアという可愛い女性のメールペットがいるそうなので、会うのがとても楽しみです!
デミウルゴスの様に、私と仲良くしてくれるでしょうか?
とてもわくわくして仕方がありません!
モモンガ様から、沢山の注意事項を教えて貰いました。
ちゃんと、失敗しない様にペロロンチーノ様に挨拶出来るでしょうか?
いいえ、モモンガ様の為にも頑張らなくては!
では、行ってきます!
【 ○月△日 シャルティア嬢は、とっても可愛らしいですね。 】
初めて、お出かけ先で日記を書いてます。
初めてのお使いでお訪ねした、モモンガ様の大切な親友であられるペロロンチーノ様は、とても気さくな良い方です。
とても緊張しましたが、モモンガ様に教えられた通りちゃんとドアを三回叩いてから「お邪魔いたします!」ってご挨拶出来ました!
詳しくは良く判らないのですが、モモンガ様がおっしゃられるには「初めて訪ねる場所だから正式には四回ノックだけど、これから何度も親しく訪ねて行く相手だから、三回の方が相応しい」のだそうです。
ペロロンチーノ様も、ちゃんとご挨拶したら褒めて下さったので、モモンガ様のおっしゃる事は間違いではないのでしょう。
初めてお会いしたシャルティア嬢は、とても可愛らしい方でした。
ちょっとだけ、私たちとは違う話し方をする方ですが、ペロロンチーノ様が自慢の娘とおっしゃるだけあると思います。
ペロロンチーノ様からいただいた、美味しいお菓子を一緒に食べました。
今度は、彼女がメールを持ってきて下さるとの事ですので、お返しに美味しいお菓子とお茶を用意したいと思います。
今から、ペロロンチーノ様からのメールを持って帰りますからね、モモンガ様!
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【 親バカ三人組は、可愛いパンドラにノックアウト気味だ 】
三人の目から見て、この日記は少しずつ確実にパンドラズ・アクターの成長する様子が良く判るものだった。
色々な事を覚える事が、とても嬉しいと全力で訴えているのが良く判る。
その中でも、「モモンガの為に」とパンドラズ・アクターなりに色々と考えている姿が、とても微笑ましい。
モモンガ本人など、すっかり親バカ全開で可愛い息子の書いた日記に、メロメロになっているのが良く判った。
だが、そんな風になるモモンガの気持ちも、彼らにはとても良く判るのだ。
自分の為にと、デミウルゴスやシャルティアが頑張って成長しているのを、誰よりも喜んでいるのはウルベルトでありペロロンチーノなのだから。
とは言え、三人が見た日記はまだ最初の数ページだけ。
この先にあるのは、パンドラズ・アクターがデミウルゴスやシャルティアと仲良くしているだけではない。
多分、他のメールペットとの交流も沢山書かれているだろう。
一体、どんな風にパンドラズ・アクターは彼らと付き合い、どんな風に過ごしているのだろうか?
本音を言えば、パンドラズ・アクターだけではなくデミウルゴスやシャルティアが自分達以外の仲間の所でどんな風に過ごしているのか、とても気になって仕方がない。
だが、今、この場で日記を読んで確認出来るのはパンドラズ・アクターだけ。
ならば、先ずはまだ沢山残っているパンドラズ・アクターの日記を、三人は読み進める事にしたのだった。
という訳で、非課金同盟ならぬ親バカ三人組でお届けしました。
確か、昔本当にあった本家本元のメールペットソフトにもこれに似た機能があったという朧げな記憶があったので、そのまま使わせて貰いました。
もしかしたら、違うかもしれませんが。
この話は、書こうと思えばまだまだネタは沢山ありますが、一先ずここまで書いたら満足したのでここまでで一旦終了です。