魔女と怪異と心の穴───もしくは一ノ瀬巽の怪異譚───   作:タキオンのモルモット

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からくりサーカスアニメ化決定ィ!!

テンション上がるのが帳消しに成る程バイトが辛い


一ノ瀬巽の転身

1

菊川署特務課は混沌とした雰囲気に包まれていた。

 

特務課は怪異を専門とした部署であり、他の部署よりも

例外が多い、 だからこそ、彼が期間限定とはいえ所属するのも納得は出来た。

 

特務課の紅一点、金森雛子(かなもりひなこ)も例外の一人で、年は最低でも23行ってるか解らないレベルの若さで特務課に居るのだ。

 

だからまだ、期間限定所属は解る、まだ解る。高木健二(たかぎけんじ)は特に動揺していなかった。

 

─────この時までは。

 

「え?一ノ瀬巽?誰だそれは!!私の名前は櫛梨在処(くしなしありか)よ、早めに覚えなさいよねっ!!」

 

 

「「「「「誰だよ!!」」」」」

 

 

 

 

 

 

2

「待って、よし落ち着こうか。君は一ノ瀬巽君だろ……だよね?」

 

初めに正気に戻ったのは氷室と行動することが多かった為、一ノ瀬巽と少し接点があった小暮紳一(こぐれしんいち)だった。

 

「あ、やっぱバレましたか。流石ですね小暮さん。」

 

「まあ、こっちは一ノ瀬君が来るって聞かされてたからね……尤も、そんな格好をしてくるとは思ってなかったけど」

 

さて、ここで一ノ瀬巽の今の格好を見てみよう。

 

綺麗な黒髪ロング(アホ毛は自前)、着ているものは女性用のスーツ、胸はそこそこあり、紛うこと無き美少女であった。

 

「……なんで女装してるの?」

 

「いや、祖父が期間限定所属の際に学校休むのに使った言い訳がインフルエンザで……学校の奴等とか出版社の人に見られたら嘘ってバレちゃうんですよ……Twi◯◯erでもインフルエンザって言っちゃったしファンにバレてもまずいので……正体を隠さなきゃいけなくてですね。流石に女に変装すればバレないでしょ。いやー、線が細くて毛深くなくて顔が母親似で本当に良かった……」

 

「普通抵抗とか無いの……?女装とか俺は絶対に嫌だよ、てかどうやって声変えてるの!?」

 

「前々回くらいの冬コミで初めてやったんですが思いの外好評だったのよ。似合ってるなら抵抗無いわ。後、声に関しては名探◯◯ナン見て習得してみたいと思って練習したらなんか出来たわ。」

 

「嘘でしょおい」

 

「ま、そんなこんなで私は一ノ瀬巽じゃなくて櫛梨在処だから、間違っても巽なんて呼ばないでね、ふりじゃないわよ?」

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい」

 

次に正気に戻ったのは特務課の金森雛子。

 

「なんで貴方がここに居るの?」

 

「あれ?聞いてませんでした?氷室さんの代役ですよ。」

 

「「「……え?」」」

 

どうやら全員聞かされてなかったらしい。

 

────話は一昨日、爺さんに呼び出された時まで遡る。

 

 

3

「……と、言うわけでお前には氷室君の手伝いをして貰いたい」

 

「……なんで氷室さんの?てかなんで氷室さんの事知ってるんだ」

 

「ん?ああ、言ってなかったか?特務課という部署を作る事を提案したのはこの儂だ。」

 

「……初耳なんだが!?」

 

「うむ……もう亡くなってしまったが儂の友人の息子、当時新人の氷室君、そして最近入った小暮君とまだ高校生だった金森君をを除くメンバーで特務課は始まったのだ……まあ、そんなこんなで氷室君の事を気にかけているのだよ……」

 

まさか、自分の祖父が特務課の創設に関わっているなんて全く思っていなかった。

 

「……氷室君は怪異に少しだけ耐性のあるただの人間だ……昨日、お前が怪異を斃した後、偶々氷室君と会ったのだがね……はっきり言って危ない。あのままでは怪異を無差別に引き付ける。」

 

「……つまり、お祓いに連れて行けと?」

 

「いや、お前には特務課のサポートを一日だけやって貰おうかと思ってな……最近異常なまでに菊川市の怪異発生率は増えている……出来ればお前に特務課に所属して貰いたいんだがな……」

 

「いや、警察なんてブラック企業なんかに所属したくない」

 

「あ……そう……(´・ω・`)」

 

いや、まあ普通に過去の経験から嫌いなのもあるけど、まじブラック企業じゃん。

 

「……まあ、一日くらいなら……」

 

別に良いか、そう思った矢先、電話が来た。

 

「……氷室さんから……?もしもし?────は?警察署が怪異に襲われて二人重体?」

 

 

 

 

……さて、ここからはダイジェストで。

 

この後、すぐさま菊川警察署へ、勿論爺さんも一緒に。

 

その後厳戒態勢を敷いていたわけだが……氷室さんが無理矢理解決、そのまま元凶を斃した後、強制的に除霊させるため、とある寺へ拘束された状態で連行された。

 

というのも、怪異の元凶を引き寄せたのが他ならぬ氷室さんなのだ。本人には言ってないけど。

 

「俺はまだ仕事でき────モガモガッ!!」

 

それが氷室さんの最後の言葉だった。死んでないけど。

 

そしてその一時間後、完全に祓うには三日程かかるとその寺から連絡があり、

 

普通に休ませれば良いじゃん→でも人手不足期間限定で数日くらい所属して?→OK

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「って事があったんです。」

 

「「「……ええ……」」」

 

「……まあ、そんなわけで、少しの間よろしくお願いしますね?」

 

そう言って彼……否、彼女、櫛梨在処はとても良い笑顔で微笑んだ。

 

序でにその微笑みで金森雛子は女としての自信を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3

 

「では、暫くの間よろしくお願いしますね?高木さん?」

 

「お、おう……」

 

高木健二(たかぎけんじ)は未だ混乱の中に居た。

 

そりゃそうだろう。同僚から聞かされていた常識外れの少年が女装して期間限定でコンビを組むことになったのだから。

 

(……参ったな、これ危ないんじゃないか?)

 

自身の秘密が特大の地雷にならないことを祈りつつ、彼は事件の概要を説明し始めた。

 

 

 

「……成る程?女子高生ばらばら死体の連続遺棄事件ですか……なんでこれ特務課が担当してるんです?」

 

事件の概要はこうだ。

 

十月三十一日、第一の被害者が菊川市郊外の森林公園で発見された。

 

四肢を日本刀のような鋭い刃物で切断され、無造作に転がされていた。

 

二件目はその翌日。今度は菊川市郊外の山中にて、その土地の所有者が発見した。死体の損傷具合など全て一件目と同じである。

 

三件目はつい二日前、菊川市内の公園にて発見された。

これまた死体の損傷具合など全て同じ。

 

「……一見普通の殺人鬼による通り魔にしか見えませんが……?これは一課の仕事でしょう」

 

「ああ、その死体が普通の死体なら良かったんだがな……」

 

「……?普通じゃないところでもあるんですか?」

 

「……よく見ろその死体を、血が出てないだろう?」

 

「?別に何処か別の場所で殺した後ここに棄てたと考えれば辻褄は合うでしょう?」

 

「……ああ、そうだ、普通はな。だが三件目で少し問題が出た。」

 

「問題?」

 

「公園だからな、防犯カメラがあったんだ。といっても入り口だけだけどな……で、被害者が入り口から入っていく姿が映っていたんだ、つまり─────」

 

「犯行現場はこの公園……にもかかわらず、血が飛び散ったような後も無く、ルミノール反応もなかったと……それは異常だな、確かに。……で?特務課の見解は?」

 

そう発言すると高木は一瞬黙り込み、こう紡ぐ。

 

「……鎌鼬《かまいたち》だ。」

「ありえん。」

 

ばっさりと、即座に切り捨てる。

 

「鎌鼬如きがここまで出来るわけがないし、仮に鎌鼬だったら生きてる。」

 

 

鎌鼬。三匹一組の怪異。一匹目が足を絡めて転ばせて、二匹目が鎌で裂き、三匹目が血止め薬を塗る。結果として血の流れない深い傷を作る、その程度の怪異だ。

 

怪異は良くも悪くもルールに縛られる。その程度の逸話である以上、それ以上の結果は出ない。

 

「そうだな、怪異単体ならありえねえな……」

 

「……成る程、人間が何かしら手を加えたと……?そういえばそんな組織がありましたね……ネクタールでしたっけ?」

 

その単語が帰ってきた瞬間、高木健二は恐怖した。

 

「お前……どこまで知ってる」

 

「何でもは知りませんよ?知ってることだけです……まあ、中川さんと小暮さんがエイチエム、高木さんがネクタール、って事くらいですかね?まあ、そんなことはどうでも良いでしょう。今は事件のことです。」

 

「…………」

 

「取り敢えず現場百編とも言いますし、第一の事件現場から見ていきたいのですが……」

 

「……後で覚えておけよこんちくしょー!!」

 

その叫びと共に、高木健二はアクセルを踏み込み事件現場まで急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、何処かの山奥の寺にて────

 

「ばっ、馬鹿な……信じられん……!!」

 

「もう良いか?住職、まだ仕事があるんだ。」

 

そう言って担ぎ込まれ、少なくとも三日は帰れないはずの氷室等は完全復活を果たし、菊川市へ戻ろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

4

 

「……うーん、気配は感じる……けど……弱いな……」

 

あれからお昼を挟み、午後二時。

 

第一、第二、そして第三の事件現場全てに微妙に怪異の気配は残っていた。

 

「ただ、何が何なのかはさっぱり解らん。って感じね」

 

「……素が出てるぞ、普通にしゃべれば良いんじゃねえのかもう」

 

「……成る程、高木さんは男勝りな女の子が好みですか」

 

「お前男だろ!!俺の好みは清楚系だ!!」

 

「いや、そこまでカミングアウトしなくても……」

 

聞いてもいないことをカミングアウトする高木に呆れた目線を向けつつ、調査資料に目を通す。

 

「……てか三件目の事件に関してはその辺に結構防犯カメラがあるのに目撃情報無いんだね?」

 

「あ?……そういやそうだな。でもあるって言っても三カ所だし死角くらいあってもおかしくはねえだろ?」

 

「……死角……一応確かめてみるか……」

 

そう言うと巽は徐に屈伸、アキレス腱伸ばしを始めた。

 

「……おい、ちょっと待て、何考えてやがる」

 

「ん?死角ならあるでしょ?上に」

 

「……要するにあれか?お前は街頭とか電柱の上とか通ったって言いたいのか?お前じゃないんだから出来るわけねえだろ!!」

 

「いや、でもほら、新S区みたいに犯人が怪異に乗っ取られてあり得ない身体能力叩き出したりとかあるかもしれないじゃないですか」

 

「それでも流石にそれは……」

 

高木が言い終わる前に真上にぴょん、と軽く跳び、上を覗く。

 

「……ありましたー、下足痕です!!」

 

「嘘だろオイ」

 

「間違いないと思いますよー、若干血痕と土が付着してますね、これで完全に鎌鼬の可能性も無くなりましたね」

 

「……直ぐに鑑識を手配しよう」

 

「序でにこれまでの事件現場の高いところも調べるように言っておいて下さい。」

 

「……ああ……なんで俺は年下に扱き使われてるんだ……?」

 

そう言って高木は電話をかけるために少し離れる。

 

(……しかし、なんでここにしか血痕が付着してないんだ?下足痕に……もっと言ってしまえば土に付着しているから地面に血が染みても可笑しくないはずなんだがなぁ……)

 

そこだけが、謎だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5

 

お昼休憩、ということでガ◯トで昼飯を食べながら鑑識からの報告等を整理していた。

 

「……街頭の上についていた血痕は被害者のものと一致した。これでこの事件は完全にこちらが主導権を握った形になる。」

 

「それはいい事です。一般人に出しゃばられても困りますからね」

 

「……君だってコネが無ければ一般人……失礼、逸般人だったな君は。」

 

「逸脱させないでくれるかしら、一応種族は人間です。」

 

果たして誰がその主張を信じるのだろうか。高木達からしたら完全に怪異の範疇だ。

 

だが、勝てるわけがない、よって何とか味方にしようと目論んでいるのだが……果たして上手くいっているのだろうか。

 

そんな高木の悩みなど知ったこっちゃねえと言わんばかりに彼……いや、彼女は事件の話をし始める。

 

「恐らく一件目と二件目も同じように移動したのでしょう、木の上などに下足痕があるかもしれません」

 

「もう調べてある。同じ下足痕が見つかった。だが何処にでも売ってるスニーカーだから特定は難しそうだ」

 

「んー、これはあれですね。新S区のやつと同じパターン。怪異に取り憑かれた人間の仕業、と言ったところでしょう。」

 

「上も全く同じ考えだそうだ。この件は完全に特務課に任せるそうだ。」

 

「……いや、あのさぁ、おかしくない?人手が足りないから俺が期間限定とはいえこっちに来てるんだよ?なのに完全にこっち任せって……聞き込みとかどうするの?まさか二人でやれと?馬鹿なの?死ぬの?」

 

「……俺に言われてもなぁ……」

 

二人揃って愚痴を零したところで丁度料理が届く。

 

「お待たせしました、ハンバーグステーキ大盛りに、ミートソーススパゲッティです」

 

そして店員はハンバーグステーキ大盛りを高木の目の前に、ミートソーススパゲッティを在処の前に置いた。

 

 

 

「…………すいません、逆です。」

 

 

 

「………………えっ………………?」

 




P.SヒロインX引けました

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