魔女と怪異と心の穴───もしくは一ノ瀬巽の怪異譚───   作:タキオンのモルモット

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英霊剣豪七番勝負ヤバイ!!マジヤバイ!!




ところでめぐると戸隠先輩のコスプレ衣装痴女っぽいと思うの僕だけ?


Halloween Night

1

「────せ!!一ノ瀬!!」

 

「······ん、悪ぃ。ミスった?」

 

ハロウィンパーティーが間近に迫っているとある日。

 

運営をどうにかした(具体的には一週間ずっと三人分の作業をやった)俺はバンドの練習組に合流したのだが。

 

どうやらぼーっとしていたらしい。皆に声をかけられるまで動いてなかったようだ。

 

「······なんでこんなボーッとしてるのに演奏は完璧なんだ······?」

 

「尊敬通り越して恐怖を覚えるレベルなんだが巽······」

 

「正直、金払っても聞く価値ある演奏するからね一ノ瀬は······」

 

「一ノ瀬君、上手いんですね······」

 

「これだけは親に勧められてやった習い事の中で唯一熱中できたものだったからな······ま、弾いてた曲はアニソンとかばっかりだったけどね。」

 

『弾きたいと思った曲を全力で弾け』がモットーだったあのピアノ教室は本当に居心地がよかった。年に二回ある発表会でも平然とゲームの曲とか弾いてたしな俺。

 

だから、という訳では無いけれど。熱中してたからこそ身についたというか······ある程度楽譜に目を通せば一、二回の練習で何でも弾けるようにはなった。

 

「しかし······一ノ瀬疲れてるの?なんか演奏は完璧なのに心ここに在らずって感じだよ?」

 

「んー······あー······確かに疲れたっちゃあ疲れた······」

 

「······そりゃそうだ、一週間ずっと三人分の仕事量を全て完璧にこなしてたんだから······」

 

「むしろ疲れない方がおかしいかと······」

 

まあ、本当の理由はもっと別にあるんだけど────

 

それが原因の一つに入っているのは事実だから訂正はしない。

 

「······んー、このまま練習続けて風邪ひかれても困るし······今最も重要なのは個々のスキルアップだから一ノ瀬には聞き手に回ってもらおうかな?」

 

「そうだなー······最低でも巽の足元に及ぶレベルにならないと巽と綾地さんのボーカルが強すぎて俺達が空気になるかもしれん······」

 

「······それは嫌だな······」

 

ならお言葉に甘えて聞き手に回りましょうかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから暫くして、時間になってしまったので撤退する。

 

「······中々借りれる時間少ないねえ······もう少し練習したいなぁ······」

 

「まあ、しょうがないっちゃしょうがないんだよな······この辺そーゆー事出来るところ少ないし······」

 

「そんなにヤバイか、俺の腕前」

 

「······保科がほぼ初心者だからしょうがないと言えばしょうがないんだよなぁ······」

 

前世界の記憶を頼りにやっているから前世界よりは上手いのだが、やはり基礎をやっただけではダメなのだろう。······前世界と曲が若干違っているのもあるが。全てはキーボードが追加されたせいである。

 

────というか

 

「練習場所あるっちゃあるけど······?防音設備は整ってるし······」

 

「「「「それを先に言え!!」」」」

 

皆につっこまれた。しかし────

 

「え?本当にやる?特に仮屋······」

 

「時間が惜しい!!本当に借りれるなら借りたいんだけど────」

 

「じゃあ、案内するわ。ついてこい。」

 

そして向かったのは────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の家の地下室······と言うより本当の1階である。

 

実は俺の家、坂の途中に出来ていて、一階は実はガレージのようなところなのだ。だが家と直結している訳では無いし、別にカウントしなくてもいいよね?という感じ。そしてそこに何故防音設備が整ってるかといえば────

 

「なんでも前にこの家に住んでた人の趣味らしいんだわ。」

 

「······もう一ノ瀬の家はなんでもありなんだな······」

 

「問題があるとすれば······ここ丁度前の家の主人が死んでた場所なんだよねー」

 

「「「「······ゑ?」」」」

 

「まあ幽霊とかその類は出てこないと思うよ?丑三つ時になれば話は別かもしれんけど」

 

数秒の沈黙。それを真っ先に破ったのは仮屋だった。

 

「ちょ······嘘でしょ?嘘だと言ってよ一ノ瀬ェ······」

 

「嘘じゃねえよ、幽霊出る程度じゃ大した事故物件にならねえからな?元々幽霊が集まりやすいのは確かだったみたいだけど······ここの主人が原因不明の心臓発作で死んで以来、その主人が化けて出るとか取り壊そうとした業者の作業員が謎の事故で入院したりとか······そんな事件が起きててほったからしにされてたのを作家デビューしてある程度貯金の溜まった俺が買い取って仕事場にしたんだよ。」

 

いやー、すんごい安かった。具体的には当時義父が「この程度ならお前が金を出すまでもない、俺がプレゼントしてやる」と言えるレベルで安かった。

 

まあ、義父は結構な高給取り······検察庁の人間なのだが。

 

「安心しろ、ちゃんと除霊(物理)はしたから。」

 

「「「「実際居たのか!?」」」」

 

「そりゃもう······あ、丁度今綾地が立ってるところが前の家の主人が遺体で発見されたところだよ」

 

「ひいっ!?」

 

入口近くに居た綾地が悲鳴を上げる。保科が慰めに行くがまだ震えているようだ。

 

「────さて、曰く付きだけどたんまりと練習できる······なんなら泊まっても俺は問題ないぞ?······ここと、時間の短いあのライブハウスだかよく分からんところ······どっちがいい?」

 

────その後四人は死ぬほど悩んで苦々しい顔をしながらこの家を選んだ。

 

 

2

 

それからは練習の日々だった。

 

途中真夜中に海道のドラムがひとりでに鳴っているのが目撃されたり、保科が弾いてないタイミングでギターが鳴ったり、綾地の歌声を録音して聞いたら後半に「お兄ちゃん······一緒に死のう?」と綾地のものではない謎の声が入っていたり、仮屋が弾き始めた瞬間に棚に積んであったジャ〇プとかの雑誌類が崩れ落ちたり、気まぐれにキーボードで某鬼畜妹を弾いてたら本当に幼女の笑い声が聞こえたりしたが、特に問題なく本番を迎えた。

 

「どこが問題なくだ!?」

「問題しかねえだろ!?」

「すごく怖かったです······」

「早く引っ越した方がいいって絶対!!」

 

「······あはは······一ノ瀬君は凄いところに住んでるんだね······?」

「流石センパイ······怪異に揉まれ続けて幽霊とかどうでも良くなったんですか?」

「お姉さんも引っ越した方がいいと思うよ······?」

 

なんと練習しに来ていた四人以外にも言われてしまった。解せぬ。

 

「「「「「「「理解しろ!?」」」」」」」

 

「んな事言ったってなぁ······幽霊だって悪霊ってわけじゃないただの悪戯好きの幽霊とか寂しがりの幽霊なんだから少し構ってあげる方が寧ろ供養になるんだもん。」

 

────まあ、正直、────と────に会えるのかと思って期待してる面もあるけれど。

 

「······」

 

それを見越してか、唯一事情を知っている仮屋がこっちを寂しそうな目で見つめてきた。

 

 

 

「────で、全員コスプレって聞いたけど、椎葉どうした?」

 

運営側は全員コスプレするという事になっていたのだが椎葉のみ制服だった。

 

「それが······男装するってことが伝わってなくて······可愛い服が来ちゃってさ······」

 

「あらら······おかしいなぁ、ちゃんと男装一人って伝えたんだが······」

 

まあ、過ぎたことはしょうがない。

 

「······ところで一ノ瀬君?君は何のコスプレしてるの?······見たところ普通に普段着にしか見えないんだけど······」

 

「ああ······戸隠先輩F〇teとかわからなそうですしね······知らないのも無理はないか······」

 

「いや、センパイ、ハロウィンパーティーなのにハロウィンに関係ないコスプレするのは如何なものかと······」

 

······え?だめなの?

 

「うーん、ハロウィンに関係ないのはちょっとなぁ······」

 

「えー、着替えるの楽だから割と気に入ってたんだけどなぁ······英雄王の普段着······」

 

「······そんな理由で選んでたんですか······?」

 

「あと声真似得意なんだよねー······あー······あーあー······『慢心せずして、何が王か!』」

 

「うわ、そっくり!!上手すぎて気持ち悪っ!!」

 

「酷くない?」

 

なんで上手いのに罵られなきゃいけないのか。甚だ疑問である。

 

「しょうがない······どっちにしようかなぁ······ワラ〇アの夜かアー〇ードにするか······」

 

「······偶にはアニメから離れたらいいんじゃないですか?」

 

「それやるともうコスプレの衣装が仮面ラ〇ダー以外使えなくなるんだが。」

 

「訂正します。サブカルチャーから少し離れた方がいいんじゃないですか!?」

 

「んな事言ってもなぁ、コスプレ衣装なんざ他に持ってねえよ······」

 

「そこまで来ると逆に凄いですね!?ド〇キで売ってるでしょうが!!」

 

「普段行かないからなぁ······よし、ワラ〇アの夜にしよう」

 

そう言って俺はやたらと凝ったマントを取り出し、それを羽織る。

 

「······あ、ウイッグ持ってくるの忘れた······」

 

「「「「「「「そこまでやらなくてもいいだろう!?」」」」」」」

 

いや、そこまでしないとつまらないじゃん?

 

「それはそうと一ノ瀬君」

 

「何ですか?戸隠先輩。」

 

「この中で誰のコスプレが一番似合うと思う?」

 

────ああ、そういえば

 

「人気投票あるんだっけ?完全に忘れてたわ。」

 

「おま······忘れてたのかよ······」

 

いや、こういうのって個人個人で楽しむものであって優劣をつけるものじゃないと思うんだけど。

 

「うーん······えー······わかんねえ、取り敢えず一番マトモなのが綾地ってのはわかるけど。戸隠先輩と因幡はなんて言うか······痴女のコスプレにしか見えないんだよなぁ」

 

「「ごふっ!?」」

 

「い、言いやがった······コイツスタッフの大半が思っていたであろうことを平然と言いやがった······!!」

 

「流石一ノ瀬······俺が言えなかったことを平然と言ってのける······!!痺れも憧れもしないけど!!」

 

「いや······一ノ瀬、それが感想って······どうなの?」

 

「今のところ俺の中で一番似合ってると思ったのが仮屋な件。······でも因幡はまだマシかなぁ?」

 

「シュバルツカッツェの制服だけどね·····コスプレとかしてると上手く弾けなさそうだし。」

 

「ち、痴女かぁ······確かに露出度高いけど······」

「うう······確かに······冷静に考えたらこんなに露出度高い服着てるんだなぁ私······!!センパイの言う通りじゃん······!!」

 

「ちょ、戸隠先輩!!因幡さん!!しっかりしてぇ!!」

 

二名ほど心に傷を負って、ハロウィンパーティーはスタートした。

 

 

 

3

「いやー、いよいよ本番かぁ······」

 

「嘘だろ、まだ周回完全に終わってないのに······!!」

 

「一ノ瀬、平常運転すぎるのもどうかと思うんだけど······」

 

「流石······全然緊張してねえんだなコイツ······」

 

「あはは······」

 

本番直前。俺達は舞台袖で最終調整(一人ソシャゲの周回)をしていた。

 

「おーい、もうすぐ出番だって。スタンバイしておいてって戸隠先輩から連絡来たよ。」

 

「OK、サンキュー椎葉」

 

「かーっ、いよいよかぁ······緊張してきたァ!!」

 

「海道、緊張しすぎて酷いミスはするなよ?」

 

「それかなりのブーメランだぞ柊史······」

 

「んー、ま、最期の学校行事だし······偶には気合い出すか······」

 

最後、と皆は変換した。確かに、時期的にはこれが今年度最後の学校行事だ。

 

「そうだな、頑張ろうぜ!!」

「ああ、そうだな」

「はい、全力を尽くしましょう!!」

 

ただ一人────

 

「······一ノ瀬······まさか······」

 

仮屋だけが、その言葉に唯ならぬ雰囲気を感じたのか、真剣な眼差しで睨んでくる。

 

『それでは続きまして────有志団体によるバンドです!!皆さん拍手でお迎えください!!』

 

しかし、そんなコールが響いてしまってはスイッチを切り替えざるおえなかったようで、仮屋は直ぐ本番に集中する。

 

仮屋は後に語る。

 

『あそこで私がスイッチを切り替えて、完全に忘れさらなければ、運命は変わっていたのかもしれない』と。

 

しかしもう遅い。仮屋は今のでスイッチを切り替えてしまった。最早引き返せない。

 

「ああ────これで、最期の学校行事だ。」

 

そう呟いて、一ノ瀬巽はステージに上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その演奏で、ハロウィンパーティーは今日一番の大盛り上がりを見せた。

 

ノーミスで、パーフェクトな、最高の演奏をした。

 

『以上、有志バンドの皆さんでした!!では最後に一人一言どうぞ!!』

 

「······なにそれ聞いてないんだけど仮屋」

 

「······私も今初めて聞いたよ一ノ瀬······」

 

完全なアドリブにも関わらず、綾地は簡潔な挨拶をする。

 

そして、俺にマイクが回ってきた。

 

「······え?これ一人一人やるの?」

 

「「「「話聞いてた!?」」」」

 

『なんでもいいから〜』

 

なんでも?今なんでもいいって言ったな?

 

しょうがない。なんでもいいなしょうがない。

 

「キーボードやらせてもらいました一ノ瀬巽です!!もう知ってる人もいる······っていうか知ってる人が大半でしょうが、三日後読者様のお蔭で百万部を突破した『関東怪奇探偵団シリーズ』の最新巻、『関東怪奇探偵団肆』が発売されますので、壱、弐、参巻を持っている方は是非購入してください!!まだ読んでないよって人は是非これを機に購入してください!!以上!!」

 

「「「「『宣伝するなぁ!!』」」」」

 

「なんでもいいって言ったじゃん!!」

 

宣伝したら怒られた、解せぬ。

 

 

4

 

演奏が終わった後。

 

「······あれ?一ノ瀬は?」

 

「······そういえばいないよね······」

 

最後の最後、綾地寧々に皆で感謝の気持ちを伝えようぜ!!みたいな事をしようと計画していた保科は首を傾げ、一ノ瀬の姿を探す。

 

「わ、私探してくるね!!」

 

そう言って椎葉が離脱する。

 

保科はこれを計画した際、誰でもいいから一ノ瀬に伝えておいてくれと頼んでおいたのだが······

 

「······この中で誰か一ノ瀬にこの計画話したヤツ、挙手。」

 

保科がそう言う────しかし、保科を含め、誰も手を挙げなかった。

 

それを見た保科はこう呟かざるおえなかった。

 

「······後で土下座かなぁ······」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『────という訳で、退院後菊川のS区に居るらしいよ、君の家の近所だ。』

 

「······そんな近くに来られると作為的な何かを感じるんだよなぁ······てかそんな名前の家あったっけ······?」

 

『どうやら今まであちこちを転々としていたようでね。まさかこんな偶然があるとは思わなかったけど。とにかくもうそこにいるのは確定。』

 

「そうですか······ありがとうございます。」

 

『いやいや、金を貰ったからには何でもやるさ······しかし、君のような有名人からこんな依頼が来るとは思ってなかったけど』

 

「あっははは、まあいいじゃないですか。んじゃあ、残りの金はもう既に振り込んであるので。」

 

『大丈夫、今確認した。今後ともご贔屓に······とはいかないか。まあ、成功するといいね。』

 

「────絶対成功させますよ。その為に今まで生きてきたんですから」

 

『そうかい、まあ、頑張ってね!!んじゃ!!もし生きてたら博多で会おう!!』

 

「ええ、ありがとうございます。では」

 

そう言って電話を切り、空を見上げる。見事な星空が広がっていた。

 

「······やっと······やっとだ。やっと突き止めたぞ······七年間も隠居しやがって······」

 

七年前の光景が脳裏に浮かぶ。

 

────血塗れのリビング

────嗤う男。

────首が胴体から切り離されていた父。

────そして、自分を庇って死んでしまった母。

 

全部が全部鮮明に思い出せる。

 

これで、改めて決意が、否、殺意が固まった。

 

────さて、後片付けに戻らないと。

 

そう思い後ろを振り返り、その前に、と自販機へ足を運ぶと、後ろから声がした。

 

「一ノ瀬くーん!!」

 

「椎葉?どうしたんだ?」

 

「どうしたんだって······!!保科君が綾地さんに感謝の気持ちを伝えたいから皆でサプライズプレゼントするよ、って話────」

 

「なにそれ聞いてないんだけど!?」

 

「────へ?」

 

声色から本気というのが伝わったのだろう。

 

ちょっとむくれていた椎葉の顔がポカンとした表情に変わる。

 

「本当に聞いてない、なにそれ知らない······あれ?」

 

「······えーっと······」

 

そうこう問答していると海道から電話がかかってきた。

 

「······もしもし?」

 

『おい、巽、柊史の土下座ショーが始まるから戻ってこい。』

 

「······要するに俺だけに伝わってなかったのね!?」

 

『まあ、とにかく早めに戻ってきてくれればいいよ。らしい。』

 

「りょーかい。」

 

そう言って電話を切り、はぁー、と溜息をつく。

 

「えーっと、一ノ瀬君だけに伝わってなかったの?」

 

「······どうもそうらしいな······なるべく早く戻ってこいねえ······そうだ椎葉、折角だからコスプレしようぜ?」

 

「ふぇ?でも私可愛い女の子の服は······」

 

「魔女の装備なら問題ないだろ?」

 

「え?うん······そりゃそうだけ────あれ?私一ノ瀬君に話したっけ?」

 

「······一応言うと、アルプだって怪異みたいなものだからな?」

 

「あ······そういえば一ノ瀬君副業でゴーストバスターやってるんだっけ······」

 

「いや、ゴーストバスターじゃないけど······まあその関係で。後はお前の体質────女性服を着るとではなく、女性っぽい格好をすると吐き気に見舞われるだっけ?そんなダメージを受けるのに寧ろ女子の格好を羨ましく見る限り、トラウマになって着れないってことは無さそうだから魔女の代償かなぁって。」

 

「一ノ瀬君探偵の方があってる気がするんだけど······」

 

────閑話休題────

 

「んじゃ魔女化しようか。」

 

「うん······しょっと!!」

 

光に包まれて魔女の服を着た椎葉が姿を見せる。

 

「んーと······帽子とマントを取って······髪をツインテールにしようか······後は······この羽とカチューシャ、それと槍を────」

 

「どっから取り出したのそれ!?」

 

「さっき使わない備品があったから電話の序に片付けとこうかなぁと思って。その中に入ってた。」

 

そう言って自販機の隣を指さす。

 

そこには大量の備品が入ったダンボールがあった。

 

「さて······これでどうよ?」

 

そう言って持っていた手鏡を渡す。

 

「わぁっ······!!」

 

「うん、満足そうで何より······と、後はプレゼント。」

 

そう言って紙切れを渡す。

 

「これ······コンテストの投票用紙!?」

 

「完全に存在忘れててさー、気づいたら投票締め切られてたw」

 

「ライブ前に話題に上がったのに!?」

 

周回してたら完全に忘れていたんです。

 

「ま、その一票は俺の票だ。誰に投票しても勝手だろう。よって、椎葉お前にやる。今お前のしているコスプレは、俺の目から見て誰よりも似合っているよ。」

 

「────っ!?ななななな、何を言ってるの!?ううー······恥ずかしいよぉ······」

 

「あっはっは、まあ、俺からの最期のプレゼントだ。受け取ってくれ······さてそろそろ戻るか」

 

「······え?最後って······?」

 

さいご、と聞いて呆然として、動けない。

 

「────?どうした椎葉······そろそろ戻るぞ?」

 

振り返った一ノ瀬の目を見てゾッと、寒気が込み上げてきた。

 

────彼の目は黒く濁りきっていた。

 

今まで見たことのない、冷たい目線を見てしまった、身体が動かない。

 

思わず、ギュッと、両目を瞑り、俯く。

 

「しーいーばー?戻るぞー?」

 

そう言われて、ハッと、目を開く。

 

そこにはいつも通りの一ノ瀬巽が不思議そうな表情で立っていた。

 

「あ、あれ?」

 

「ん?俺の顔に何かついてる?」

 

「······ううん、何でもない。見間違いだったかも······」

 

「?そうか。んじゃ着替えて戻るぞ。保科の土下座ショー見たいし」

 

「あ、あはは······手加減はしてあげてね?」

 

 

 

 

 

後に椎葉紬はこう語る。

 

『あの時、踏み込んで「なにかあった?」と一言聞けば、違う未来があったかもしれない』と。

 

しかしもう遅い。────ここでも、駄目だった。

 

 

 

 

 

 

 

5

 

打ち上げをしましょう!!

 

その一言を発したのは因幡めぐるだった。

 

そしてオカ研+三名(戸隠、海道、仮屋)でそのまま騒ぎ────

 

 

気がついたら十時半回ってた。

 

「あっぶねえ、危うく補導されるところだった」

 

そう言いながら、夜の街を駆ける

 

「ところでセンパイ······」

 

「ん?どうした?」

 

「そ、そろそろ地上に戻ってもいいのではないでしょうか?」

 

────民家の屋根の上を。

 

 

 

 

「ああ······怖かった、マジ怖かったです······」

 

「まあ、お蔭で補導されなくて済んだんだ、いいじゃないか」

 

「そりゃ······そうなのかもしれないですけど······」

 

ぐったりと因幡は沈んでいた。

 

「ま、家まで送ってやったんだから文句言うなって······そんじゃ俺はもう行くぜ」

 

「は、はい······ありがとうございました······」

 

「────じゃあな、因幡。」

 

「はい、また学校で会いましょう!!」

 

その言葉に何も返事を返さず、一ノ瀬は夜の街へ消えていった。

 

 

因幡めぐるは後に語る。

 

『変な所は何も無かった────纏っている雰囲気にも、何も。ただ、いつもなら「またな」というセンパイが、「じゃあな」と言ったのは、変だったかもしれない。』と。

 

ここでも、止めることは出来なかった────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日、一ノ瀬巽は学校に姿を現さなかった。

 

 

 




漸く怪異症候群2に入れる(白目)

怪異症候群2が終わったらアンケートからの個別ルートです。

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