魔女と怪異と心の穴───もしくは一ノ瀬巽の怪異譚───   作:タキオンのモルモット

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⚠︎注意⚠︎
元々の設定通りだけど今回主人公の崩壊がヤバイです

それとお気に入り20突破しました······まさか二次創作を全く見ない作品でここまでいくとは思ってなかった、せいぜい伸びても十越えるのが限界だと思ってました。

こんな作品でよければこれからも宜しくお願いします!!


怪異症候群

1

旧神代家。それはお偉いさん御用達の高級旅館。人里から離れた山奥にある、秘境のようなものだ。

 

そこで一ノ瀬巽は────

 

「あははっ!!お兄ちゃんまてー!!」

 

「待てと言われて待つバカは居ないのさ春子ちゃん!!」

 

幼女と戯れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すいません、遊んでいただいて······」

 

「いえいえ、大丈夫ですよ!!」

 

「お兄ちゃん!!次はトランプやろ!!トランプ!!」

 

「おっし、何やる?ババ抜き?神経衰弱?なんでもいいぞー!!」

 

一ノ瀬巽はテンションが最高潮に上がっていた。それは最早誰が見てもわかるくらいに。具体的にはさっきプリキュアの声真似をノリノリでやっていた。しかも全く違和感が無いというくらいの完璧さで。

 

「······なあ等······やっぱ俺達あいつに頼りすぎてたんじゃないか······?疲れから壊れちまったんじゃ······」

 

「そうではない────と信じたい······」

 

元々壊れているのでそれは若干間違っている。そして元よりロリコンの気質があるだけである。疲れているのは本当だが。

 

疲れが顔に出ていたのか、神代春子(かじろはるこ)────ひとりかくれんぼの生還者────がこちらを心配している目で見ている。

 

「お兄ちゃん大丈夫?」

 

「ん?ああ、気にするな。睡眠は取っている······が、家に返してもらえなくてねぇ······」

 

「そうなの?」

 

「ああ、お兄ちゃん実は小説家なんだけど、何故か······急に警察のお兄さんに呼び出しをくらってね······家にも帰れないし······昨日なんかやたらとアクロバティックな動きで村一周して疲れきってるのにさぁ······そのせいかな?」

 

「そうだったの!?大変だねぇ······あ、そうだ!!お兄ちゃん顔をこっちに······」

 

言われるがままに顔を神代春子の目線まで近づける。

 

なでりなでり、と頭を撫でられた。

 

「お兄ちゃん頑張ったね〜いいこいいこ······いいんだよ、偶には誰かに甘えよう?休もう?私だったら何時でもお兄ちゃんの事なでなでしてあげるから、ね?」

 

その時、一ノ瀬巽の何かが壊れた音がした。

 

「············」

 

無言でひしっと、胸に顔を埋める形で巽は春子に抱きついた。

 

「おっ?お兄ちゃん意外と甘えん坊さんなんだね。······いいよ、好きなだけ私に抱きついてていいからね······よしよし······」

 

何か壊れたかのように、巽は無言で、夜飯が出来るまでの間ずっと彼女の胸の中にいた。

 

(······幼女の胸は最高だな······)

 

 

 

「······やっぱ俺達頼りすぎたんだよ······!!」

 

「そう······だな、これからは暫く呼ばない方がいいかもしれない······」

 

因みにこれを見た外野が本気で彼の精神状態を心配したのは別の話。そもそも昔から穴が空いている彼にその心配は今更といえよう。

 

 

 

 

2

 

夜飯の時間、遅れてきた姫野美琴が『能面が動いた』と言い出した。

 

仕方ないので旅館の全ての人間を避難させる事に。

 

「加賀さんだけじゃ心配だ、俺も車で同行しよう」

 

「お前ただ単に春子ちゃんと離れたくないだけだろ」

 

など一悶着あったものの最終的に神代春子の

 

「終わったらいーっぱいナデナデしてあげるから、ね?頑張って!!」

 

の一言に陥落した。

 

「えっと······一ノ瀬君は何があったんですか?」

 

「どうも心に傷を負ったようだ······もはや彼を癒せるのは子供だけになるレベルでな······君のせいじゃないさ······」

 

なんか可哀想なものを見る目で見られているが無視する。

 

 

「にしても能面ねえ······今までで一番弱そうだな······」

 

そう思いつつ、単独行動をとっている俺は能面が保存された部屋に来ていた。

 

「······ふむ、特に他のものが動きそうな気配はないな······なんで能面だけなんだ?」

 

考えてもわからない。何かしら理由はあると思うんだが。

 

そう思いつつ、中庭に移動する。

中庭に移動すると何か奇妙な感覚を覚えた。

 

「────灯篭か?」

 

灯篭が何か、ズレているような感覚。そんな気がする。何となく。

 

で、見たら物の見事にずれていた。物理的に。

 

「······こんなクソ重いもの動かせるのか······?」

 

いや、俺なら動かせるけど。

 

灯篭を動かしたら下に鉄格子があった。中を覗き見ると空間がある。

 

「氷室さーん、姫野ー、スゲーの見つけたぞー」

 

 

 

 

「······なるほど、地下か······巽、壊せるか?」

 

「よゆーよゆー······ぬんっ!!」

 

バキぃ!!と音がして鉄格子が抜ける。

 

「······普通できませんよ······?」

 

うるせえ、出来るんだからいいだろ。

 

「折角使えそうなもの見つけてきたのに······」

 

そう言って脇差を見せてきた。

 

「······梃子で開けるつもりだったの?」

 

「中々アグレッシブだな······それは俺が持っておこう。」

 

そう言って氷室さんは懐に脇差をしまい、下に降りた。

 

それに続いて姫野と俺も降りていく。

 

氷室さんが持っていたライターで燭台に火をつける。

 

「······なんだあれ?奥に······祭壇かなにかか?」

 

そこにあったのは祭壇だった。面を飾るであろう突起が設置されている以外は大体一般的な祭壇だ。

 

「······何もなさそうだな······」

 

「一度上に戻ろうか。」

 

本当に何も無かった。多分何かしらの仕掛けはあるんだろうけど。

 

そして戻ってきた道を進もうとして────

 

 

 

 

 

 

 

目の前に能面が浮かんでいた。

 

「────なんだこいつは!?」

 

「氷室さんアイツです!!私を襲ってきt」

 

ドゴッ!!ガシャアアアアン!!

 

言い終わる前に巽が拳を能面にぶち込んでいた。

 

無惨にも能面は砕け散る、がしかし────

 

 

ジジジッ────

 

という音のあと能面が再生した。

 

 

「なんだと······!?セルか貴様!?」

 

「巽!!下がれ!!」

 

そう言って氷室は拳銃を取り出し、能面の眉間をぶち抜く。綺麗に三つに割れる。そこから更に氷室はその破片に向かって銃をぶっぱなし、完全に消滅させた。

 

「ふう······やったか?」

 

「氷室さんそれフラグ!!後ろだ!!」

 

完全に不意をつく形で後ろから猛スピードで能面が迫ってきた────しかし、特務課のエースはこんな事じゃ動じない。

 

「······刺される方が好きか?」

 

懐から脇差を取り出し、逆手に持ちそのまま突き刺した。

 

能面は跡形もなく砕け散る。どうやら一先ず終わりらしい。

 

「氷室さん······あの段階で『やったか!?』は言っちゃいけない。フラグになるよ」

 

「ああ······身を持って理解した。」

 

 

 

 

 

 

 

3

 

その後、霧崎さんが調べていた書物から全てが明らかになった。

 

神代は代々呪術を使って村を支配していた。しかしその力を扱いきれなくなっていく。そこに姫野が介入し、そんなつもりは無かったのだろうが、村の信用を乗っ取ってしまった。その後、姫野と神代はお互い呪術を捨てて生きていくことを誓ったのだとか。

 

「私は、決着をつけに行きます。全てを終わらせてきます。」

 

そう言って姫野は部屋を出ていった。

 

「待つんだ美琴くん!!」

 

「待つのはお前だ等······」

 

「しかし!!もし万が一があったら────」

 

二人が口論しているのを他所に、俺はなんとなく、嫌な予感がして廊下に出ていた。

 

「······一ノ瀬君?止めに来たんですか?」

 

「まさか、俺がそんなたまかよアホくせえ······」

 

「?じゃあなんで外に······?」

 

「保険だよ保険······とっとと決着つけて帰ってきてくれよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────始まったか。」

 

姫野と別れてから数分後。

 

屋敷の屋根の上から見下ろした光景は、それはそれは地獄絵図だった。

 

沢山の醜悪なナニカがこちらに集まっている。

 

何年も残っている呪いだから、こんな事もあるんじゃないかと思っていたが、これ程までとは。

 

「やっぱ釣られて怪異が寄ってきたか······」

 

凶悪な呪いは周りにも影響を及ぼす。

 

「せめてこの辺は片付けてやるか······パワーアップとか困るだろうしなぁ、アイツも。それに────」

 

と、建前を述べる。結局助ける。助ける理由はただ一つ────

 

 

 

 

 

 

 

 

「春子ちゃんのナデナデが待ってるんだ、ちゃんと頑張らないとなぁ!!」

 

幼女のナデナデ。それが今の彼の原動力。

 

ハッキリ言おう。台無しだった。

 

主人公とは思えないほどに。

 

「等、アイツを休ませてやれよ······最早幼女のナデナデが生き甲斐になってるじゃないか。ぶっ壊れてるぞ」

 

「────ああ、そうだな······暫くはアイツに頼らないようにするよ······」

 

二人のオッサンの憐憫の視線を受けながら、一ノ瀬巽はこの日、二百以上の低級怪異を滅した。

 

 

4

 

後日談という名の今回のオチ。

 

あの低級怪異を二百滅した日。あの日の内に安全が確保されて、旧神代家に居た人は皆戻ってきた。

 

そしてそのまま一泊することに。どうやら明日は学校遅刻確定の様だが、まあ公欠なら構わんだろう。

 

そしてその時、春子ちゃんにちゃんとナデナデしてもらった。オマケに一緒に寝てくれた。最高だった。

 

あ、寝たってただ一緒に寝ただけだからね?何もしてないよ?シてはいないよ?

 

そしてそのまま朝を迎え、学校に行き────

 

「······俺はなんてことを······」

 

自己嫌悪に陥っていた。

 

「······一ノ瀬どうしたの?なんか凄くやばい顔してるよ?」

 

「体調悪いなら保健室行った方がいいんじゃないのか?」

 

(······なんだこの味?嫌悪してる?······何を?)

 

「一ノ瀬君、保健室へ行った方がよろしいかと······」

 

「ちょ、センパイ!?そんな顔色で何で学校にいるんですか!?風邪ならしっかり寝たほうが良いですよ!?」

 

こんな具合に心配(一部変なものを見る目で見られた)された。

 

────まさか幾ら最近辛かったとはいえ二桁行くか行かないかの幼女に甘えた自分に自己嫌悪しているとは言えず、なんとか誤魔化した。

 

ただ、担任にその顔を見られ保健室に強制連行され、授業を僅か一時間しか受けられなかったのは完全に予想外だったが。

 

いや、別に今更教えて貰うことなど無いのだけれど。独学で終わらせているし。

 

そして放課後。オカ研の部室。

 

「······あ、ウラド三世(槍)が宝具5になった······」

 

「クレオパトラは?」

 

「当たらねえよ······パールヴァティーは出たんだけどな······」

 

「星四ですからねぇ······私も爆死しました······デンジャラスビーストしか出ません······」

 

「それは爆死じゃない。」

 

因幡とソシャゲしていた。

 

綾地と保科?アイツらだったら俺らがイベント周回している横でイチャコラしてるぜ?

 

と、そこに唐突にノックの音が鳴り響いた。

 

そこに立っていたのは姫野と────

 

「······どちら様?」

 

知らない茶髪が立っていた。

 

「あ、私は······神代由佳です······」

 

「ああ······もう大丈夫なのか?」

 

「はい······正直まだ立ち直れませんけど······自業自得ですし······」

 

話についていけない部員をほったからし、話を続ける。

 

「で?何用?まさかまた怪異か?」

 

「い、いえ、違います······その、すいませんでした、私の不注意で巻き込んでしまって······」

 

「ああ、別に構わんよ······どうせあの警察のせいで怪異が絡むと遅かれ早かれ巻き込まれるから。」

 

怪異の度に呼び出すのやめてくれや、マジで。

 

「私からはお礼です。ありがとうございました。助けてくれて。」

 

と、言い姫野が有名店のシュークリームを渡してきた。

 

やったぜ。

 

「······ま、もう巻き込まれることは無いと思うけど、余り無茶するなよ?」

 

「「はいっ!!」」

 

「うん、良い返事だ。」

 

頼むから俺を巻き込まないでくれ。マジで。

 

「あ、それでその······綾地さんは······?」

 

「へ?わ、私ですけど······」

 

「なんだ、綾地に用事があったのか······?」

 

姫野はどうやら綾地に相談があるらしい。

 

「あの······その······好きな人ができたんですけど······どんな風にアピールすればいいのかわからなくて······」

 

ふむ、なんだろう、すごく嫌な予感がする。

 

「そうなんですか······その人の好みとかはわかりますか?」

 

「それが最近出会ったばかりで······」

 

うん、もう凄く嫌な予感が止まらない。

 

「どんな人か教えてくれればそこから考えることもできるかもしれないですよ、姫野センパイ」

 

そう因幡が言うと、恥ずかしそうに、しかしハッキリとこう言った。

 

「その······氷室等さんという、警察の方なんですが······」

 

······ほらみろ、的中した。嫌な予感。

 

「────え?氷室さん······ってあのコトリバコの時の人だよな?一ノ瀬······」

 

「ああ、その通りだ······」

 

これは······また面倒な事になりそうだなぁ······

 

「えっと······一ノ瀬君は何か知ってる?」

 

「······いや、すまないが。あの人が好きなものとか全く知らん。」

 

「そう······ですか······」

 

ガッカリするな。

 

「いや、お前結構長い付き合いみたいなこと言ってたろ?何も知らないのか······?」

 

「あの人が好きなこと────強いて言うなら······ゴーストバスターだな。」

 

「「「「「「え」」」」」」

 

全員の声が被った。

 

「あの人怪異のことしか頭にねえから······食事とか全部カロリーメイトとか食べてもコンビニ弁当だし······それすらも怪異が出たらそっち優先だし······怪異が出たと知ったらどんな事があろうと怪異優先の男なんだよ······だから27になっても碌に交際経験無いし、しても全てを怪異に費やして台無しにしてる。」

 

つまるところ、趣味は仕事。女より仕事。自分の体調より仕事という攻略難易度の高いキャラなのである。

 

つまり、何も出来ない。詰みである。この依頼、達成不可能。

 

「······取り敢えずお弁当を作ってあげてはどうでしょう······?」

 

こうして、長期の依頼になる氷室等攻略作戦の為に姫野美琴がオカ研に入り浸るようになった。

 

尚、この攻略作戦は卒業の日まで続くのだが、それはまた別のお話。各自脳内でテキトーに想像してくれたまえ。




さあ、ようやく紬ママが出せるぞ······!!

にしても年下に甘えたりしたい時ありますよね!

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