魔女と怪異と心の穴───もしくは一ノ瀬巽の怪異譚─── 作:タキオンのモルモット
怪異症候群は一気に書かないと······あれRPGだから忘れないうちに書かないと死ぬ(確信)
1
因幡めぐるの依頼が解決した次の日の深夜3時。
一ノ瀬家に電話が鳴り響いた。
「······はい、もしもし?」
『やあ、巽君、遅くにすまない、君に頼みたいことがあってね』
「······すんげー嫌な予感がするんですが······なんです?」
その問に、氷室はこう答えた。
『オッサンの下半身を退治してほしいのだが······頼めるかい?』
「────は?」
2
現場の神代邸には救急車とパトカーが群れていた。
そしてそこに如何にも────というより、メディアで取り上げられている高校生が来たらどうなるか。
「あ、こら君!入ったらダメだ!!」
「······特務課の氷室さん呼んできてください。」
下っ端警官に絡まれる。
これがあるからウザい。え?なら特務課入れよって?やだよ。小説書けなくなるじゃん。副業禁止なんだから。
「すまないなこんな時間に······」
「そう思ってるなら迎えに来てくださいよ、菊川市って聞いたから遠くないかなぁって思ったら思いっきり郊外ギリギリじゃないですか······」
「いやぁ、現場を離れるわけにもいかなくてな······まあ話は後だ。2階から降りてこなくて······救急隊が突入できない挙句閃光銃が何故か効かないんだ。」
「······はぁ?」
現場となった神代家の2階。
そこには上半身の消えた下半身が移動していた。
「······これさぁ、『テケテケ』と『トコトコ』に別れてるんじゃねえの?んで『テケテケ』の方が本体とか」
「いや、上半身は既に回収した。だからあれだけなんだが······何故か効かん。」
「ていうかアレなんなの?これ『ひとりかくれんぼ』の惨状なんじゃないの?」
「多分怪異の空気に当てられて死体が怪異化したんだろう······で、倒せるか?」
「ん?まあ······倒せるでしょ」
そう言って巽は廊下の端っこまで移動する。廊下をぐるりと一周してくる下半身を端で待ち続ける。
「来たな······」
そう呟いた巽は全力で下半身だけの怪異に向かって走り出す。
そして数メートル手前で飛び上がり────
ライダーキックの要領で股間に飛び蹴りをかました。
「────────!!────!!/:4tdtki41@@jptlvsns!?」
人語ではない奇声を上げた怪異はそのままピクリとも動かなくなった。
「一 件 落 着 ! !」
「相変わらず規格外だな······金的で怪異を退治するなんて······!!」
「いや、そこ悔しがるところじゃない。」
外野が煩いが無視だ無視。
3
「······ふうん······その神代由佳が『ひとりかくれんぼ』を始めた張本人か······何してんだか······」
「彼女はギリギリ一命を取り留めた。妹である神代春子くんも無傷だ。それ以外は全滅。そして────」
「たまたま巻き込まれた姫野美琴が解決したと?······一般人の女子高生が?」
「君だって似たようなものだろう······まあ、君のように規格外な力を持ったわけでもない女子高生が『ひとりかくれんぼ』をクリアしたとは予想外だがね。」
菊川署の一室。会議室なのだろうか?よくわからない部屋で氷室さんと俺は先程の事件について話していた。
「まあ、今回は暗躍とか無さそうじゃないっすかね?面白半分にやったら最悪の結果を招いただけでしょう。つーわけで寝かせてもらえません?まだ4時っすよ4時。どうせこの件で明日学校休みか一限で終わりでしょうし。」
神代も姫野も同じ学院の生徒だったようで。学院の生徒の家が······多分強盗のせいか何かにされて全滅となれば臨時集会か休校はあるだろう。マスコミ張るだろうし。
「ああ、悪かったな。こんな夜遅くに呼び出して。ゆっくり休むといい、仮眠室を使って構わないぞ。」
「りょーかい。じゃ、おやすみ」
こうして俺は眠りについた────
───────
────────────
────────────────────
「······お······た······!!」
なんだうるさいなぁ······なにか聞こえるんだけど。
体感的にまだ六時間も寝てねえんだけど。
「んあ······なんすか氷室さん······まだねみぃんすけど······」
「どんだけ寝るつもりだ君は!?もう11時······いや違うそうじゃない!!」
もう11時だったのか······どーりで腹減ってるわけだ······
「はぁ······飯買ってきていいっすか?」
「もう買ってきてある!!とにかく早く来てくれ!!美琴君がまた怪異に襲われている!!」
────は?
3
「白いナニカ······間違いなく『くねくね』ですよねそれ」
氷室さんに無理矢理車に乗せられ(霧崎さんと加賀さんも一緒に)田舎の方へ走る車の中で聞いた話によると。
姫野美琴が目を覚まし、家へ帰らせたところ駅とは全く逆の方向に気づいたら進んでいたらしく、しかも道がループしているとの事。仕方なく近くの農家の家へ、そこのおじさんに事の顛末を説明し、暫く世話になる予定だったのだが、その時畑から白い、くねくねしたナニカを目撃。その瞬間おじさんは発狂し失踪。その後自身も襲われ、撒いた後で氷室に電話。しかしその途中でその怪異に通話を邪魔されたようだ。
「────よくもまぁ『くねくね』に出会って生きてるな姫野······あいつまじ何者だよ······」
くねくねとは。白くて常にくねくねした動きをする怪異で、見たら発狂し二度と戻らないという性質を持つ、初見殺しという概念のような怪異だ。
多少怪異に耐性を持ってたりすると大丈夫らしいが。
「事は一刻を争う······早く辿り着かなければ······」
「全くだ!!」
「······あんたら随分燃えてますね······」
「剛は兎も角、等がここまで熱くなるとはな······」
何故か燃えている氷室と加賀に対し、霧崎と一ノ瀬の二人は完全に冷めている。
「お前等が冷めすぎなんだよ!!ていうか巽!!お前はあの娘と同じ学校なんだろ!?なんでそんな冷めてんだよ!!」
「会った事も無い、会話もした事ない、名前だって昨日はじめて聞いただけの人間のために何でそこまで熱くなれるんだよ、そっちの方が謎だわ。」
「お前等が熱くなりすぎてて一周まわって冷静になったんだよ······」
「翔太はまだいい、が巽は相変わらずクソだな!?」
「当たり前だ、こうしている間にも俺は新たな物語を紡ぐ時間を無駄にしてるんだ······ケータイで打った後にパソコンで色々しなきゃいけないのがどんだけめんどいと思ってるんだ······」
「そんな事思ってもいねえだろ······!!」
「思ってるさ、2割は。」
「······参考までに聞くが残りの8割は?」
「ラーメン食べたい、おにぎりじゃ足りねえ」
お昼時なのにお昼ご飯のこと考えてねえわけねえよな?
と、そこまで話したところで氷室さんのケータイが鳴る。
「もしもし────美琴くん!?」
どうやら被害者からの通信らしい。
曰く、順調に逃げきれているのだとか。そして、住所も聞き出せた。
「まあ、菊川市近郊の田んぼつったらその辺だろうな·····」
「丁度向かってるところだからすぐに着くだろう、待っててくれ美琴く」
「そうはいかねえだろ。」
横槍をいれて悪いが、流石にすぐは無理だ。
「あ?何言ってんだ!?」
「────まさか気づいてないんですか?加賀さんは兎も角氷室さんまで気づかないとは······え?霧崎さんも?」
驚いた、全然気づいてないらしい。
「何ですぐには行けないなんて言うんだ?······理由があるんだろう?」
「────さっきからこの車、なんで走り続けてる?」
「は?何でって────」
「
「は!?んなモンたまたまじゃ······」
「幾ら田舎って言ったって、俺達は裏道を走ってるわけじゃないんです。なのに何故、信号に一度たりとも引っかかっていないんですか?」
氷室がまさかと思い、カーナビを見る。
そこは姫野美琴が居るであろう村に入る唯一のルートに近い所にある道路だった。
「つまり俺達はもう······怪異の影響を受けている!!!?」
「さっきから景色が全く同じだ······多分そうなんだろう。」
このタイミングで巽のケータイにメッセージが入る。
綾地寧々からの連絡。
『今日皆で集まることになっているのですが······もしかしてまだ寝ていますか?』
俺はすぐさま、返事を返す。
『助けて、怪異に巻き込まれた、過労死しそう。』
精一杯の愚痴を込めて。
【悲報】ひとりかくれんぼ冒頭で終了。
ま、しょうがないね!