魔女と怪異と心の穴───もしくは一ノ瀬巽の怪異譚─── 作:タキオンのモルモット
にしても俺のガバガバ文章で真相に辿り着く猛者がすぐ現れるとは思わなんだ
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「お昼ぶりですね、潜木尚人さん?」
黒い袋の正体。そして今回の一連の事件の諸悪の根源。
一部は違うのだが。
「さて、まずその前に。とっとと三上さんと証拠を回収してしまいましょう。────でもその前に逃げないように取り押さえておいてください、店長さん。」
「あ、ああ。わかった。」
そう言って店長は潜木尚人の手首と足首にガムテープを巻き付ける。
その様子を見た巽は女子更衣室の左端にある姿見の目の前に皆に背を向けて座り徐に工具を取り出しながら
「さて────」
語り出した。
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「まあ、俺のは推理じゃない推測だから間違ってるかもしれないけどそこは諦めてね。先ずは三上さん殺害の件からいこうか。」
「······やっぱり三上さんは死んでたの?」
「そうだな。殺されたのは────多分『絶対に嘔吐する液体』をぶちまけられた日の夜だと思う。順をおって説明していこう。先ず三上さんが潜木さんを何らかの理由で呼び出し、口論になったのかどうなのかは知らないけど三上さんを殺害。そして遺体を隠して帰ったのさ。」
「ん?でもそれはおかしくないかな?」
とそこで口を挟んできたのは店長だった。
「何故隠す必要があったんだい?ここの防犯カメラは私が経費節約のためにその日まで切っていたのに······」
「偶然ですよ、偶然。たまたまその日に、あの液体がまかれたのです。多分、その時丁度三上さんを殺した直後で遺体が目の前にあったのかな?まあそこまで詳しくはわかりませんが。────潜木さん、多分その時に吐いてしまったのではないですか?」
「「「────は?」」」
潜木を除く全員の声がはもった。
ただ1人、潜木は信じられないような目でこちらを見ている。
「たまたま殺した直後にその液体にあてられて、仕方なくここに隠したんだよ。······あの液体我慢しようと思っても出来るものじゃねえからな。少し嗅いだだけで本当にヤバイ」
そこまで語ると、潜木が始めて口を開いた。
「······まるで嗅いだことのあるような口ぶりだな?」
「······中学の時、調理実習でとある男子が巫山戯てそれを錬成してどったんばったんなんかじゃ済まないほどの大騒ぎになったからな······」
あれは嫌な事件だった······。
「······さて、話を戻そうか。吐き気が止まらなくなり······仕方なく貴方はここに死体を置いて行くことにした。まあ、吐き気がありえないくらい止まらなくなったらそうなるわな。少なくとも死体を持ち運ぶことなんか出来ないだろう。だから隠したんだ。この鏡の······後ろにな······っと」
ガコン、と音がしてギギッ、と古びたドアの様な音を立て、鏡が開いた。そしてそこには────
「仮屋、今すぐ目を瞑れ。これは見ちゃいけない。」
そこには半分ほど骨になった一人の遺体があった。
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「うっ······これは······」
「三上さん······か、面影はある······」
鏡の裏には人1人が余裕で入れるスペースがあり、そこに屈むような形で死体が座っていた。
「おかしいとは思ったんだ。こんな端っこにこんなでかい鏡があるなんて。普通なら真ん中にあるのが自然なものだと思うが······多分ここが店長の言ってた袋小路に当たる場所なんだろうな。ミラーハウスだった時にスタッフがここに待機していて脅かしたんだろう。」
どうやって後ろから現れたか、なんて考えるだけ無駄だったのだ。最初から後ろにいたのだから。
「さて、話を続けよう。ここに隠した後、回収しようと思っていたのに回収できなくなってしまった。店長が液体ぶちまけた犯人を捕まえるために防犯カメラを作動させたからだ。防犯カメラさえ作動させてなかったらそのまま運べるが······」
「ん?でもそれなら最初からこの袋を着て幽霊のふりして回収してしまえば良かったんじゃないかな?」
暁茜の言う通りだ。
「そこまでは知らん······だが多分、待ってた方が運ぶ時は楽に運べるからじゃないかな?」
「······え?」
「人の死体運ぶより骨運ぶ方が楽だろ?だから完全に骨になるまで放置しようとしたんじゃないか?だからシュールストレミングぶちまけたんだろ?腐臭を誤魔化す為に。」
「────······その通りだ。」
本人があっさり認めた。
「因みに最初からそれを着て運び出さなかった理由はただ単に思いつかなかったからだ······今日まで······まあお前が来たから慌てて運ぼうとしたというのもあるが」
······わりかしアホな理由だった。
「まあいいや······それで動機は······多分これだろ?」
そう言って死体の側に置いてあった、少し錆びているストラップを見せる。
「そ、それが動機?何でまたそんな······」
「多分、これは国東徹殺人事件の証拠なんじゃないかな?」
「「「はぁ!?」」」
「ちょ、国東もこいつが殺したのか!?」
「このストラップ録音が出来るんだろ?そうだな────例えば、殺される直前、このストラップの録音機能を作動させ、証拠として残した。潜木さんはそれに気づかず、そして警察もそれに気づかずにそのまま遺留品を遺族に返した······それが何らかの理由で元カノである三上さんの手に渡った。そして何気なく再生したら────」
「今の彼氏である潜木が国東を殺したという証拠が出てきた、そして自首を促す為にここに呼び出し、ここで殺したのか······」
叶奏汰が巽の言葉を引き継ぎ、巽は頷く。
「······本当に見てきたかのように語るな······一字一句その通りだよ······!!」
「······国東さんを殺した動機は────三角関係?」
「その通りだ······!!全くそこまで当てるとは······」
「······ふむ、この流れで行くと、恋人を殺され傷心中の彼女を慰めて付け込み、そのポジションを奪うというのが大まかな計画かな?」
「そこまで当てられると本当に腹が立つなぁ······!!」
あまりにも単純にして、どこの三流小説だ、と突っ込みたくなるような計画だった。
「さいってー······」
「はっ、仮屋貴様はまだ子供だなぁ······ま、何れ解るさ。好きな人を何としてでも手に入れたい気持ちというのが······そして────」
途端に、スッと潜木は立ち上がった。
────おかしい、ガムテープで手足巻かれてるのにそんなにスッと立てるなんて────
「この状況下でも、まだ諦めない気持ちが沸いてくる、謎現象がなぁ!!」
いつの間にか手にナイフを持ち仮屋の首にそのナイフを当てていた。
「仮屋!?」
「動くなよ!!動いたらこいつを殺す!!」
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「······まさかここまでテンプレを往くとは······」
「おっと、逃げたりもするなよ?その場合も殺す!!」
やれやれ、面倒なことになった。
「やめろ、潜木!!そんなことしても何にもならんだろう!!」
そう叶が叫ぶ、が
「動くなって言ってるだろうが!!」
聞く耳を持たない。
「さて、まずそのストラップを渡してもらおうか!!」
「────その前に聞きたいことあるんだけど」
と、巽が問う。
「······なんだ?」
「いやさぁ、なんでそんな見向きもされてないのにここまでやるかなぁって思って。」
「────なんだと?」
だって────
「なんで三上さんの幽霊が現れたと思う?」
「······あ?」
「お前以外の人が良かったんだとよ。」
「············あんだと?」
「お前以外の人間なら誰でも良かったのさ、まあ、そりゃそうだよなぁ、大切な人も、ましてや自分自身も殺されたのに······死体まで触られるのは許せねえよな」
「おい、その口を閉じろ······」
「もし死体が見つかっても······いや、ひょっとしたらわざと見つかるように仕向けて完全なる被害者でも演じようとしてたか?まあそうじゃなくても、自分を殺した人間がのうのうと葬式に出るのは許せねえだろうな」
「黙れ······!!」
「でさ、ここまで拒絶されてるのに······なんでお前そんなに執着してるの?はっきり言って、キモいよ?」
煽る。煽る。兎に角煽る。
そして────
「黙れええええええええええええええ!」
遂に、堪忍袋の緒が切れたのか、仮屋を突き飛ばし、ナイフを構えて巽に突進する。
「一ノ瀬────!!」
叶が動き出すがもう遅い、その凶刃は巽の身体を────
同時刻、菊川警察署
「おい、氷室。」
「どうした剛。何かあったのか?」
怪異専門のオカルトジャーナリストの加賀剛(かがつよし)は用があって警察署を訪れていた。
そこでついでと言わんばかりに、前々から気になっていたことを聞いてみようと思い、何となく呼び止めた。
「いやよ、お前みたいな堅物────それこそ何時もなら『一般人はもうこれ以上関わるべきじゃない』とか言うお前が、なんであの一ノ瀬巽を怪異に関わらせてるのかと思ってな······」
「ああ······その件か······」
氷室は珍しく面倒くさそうに応答する。
「あれは別に俺が関わらせているってのは大きな間違いだ······どちらかと言うと上······つまり特務科の方からアイツはスカウトを受けているんだ······」
「────は?」
「ああ、お前アイツを現場で見たこと無かったか······アイツは────」
その凶刃は、素手で止められた。他でもない、一ノ瀬巽の手によって。
刺さる前に、手首をガシッと掴んで、離さない。
「ぐっ······!?な、おま······!?」
そしてそのまま────
「は、はぁ!?」
「全く────危ないじゃないですか、こんなの振り回して······まあいいや、殺すつもりでやって来たんだろうし······」
「ぶん殴っても、文句は言われないよね?」
「アイツは────生身で怪異に殴り勝つ程のバケモノだぞ?」
理不尽と言われている怪異をぶん殴って消すことが出来る更なる理不尽。そんなバケモノの手加減した拳は潜木尚人の顔面にめり込み────────
彼の身体は宙を舞い、ロッカーにめり込んだ。
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「······やりすぎたかなぁ······」
もう夜も遅いので(危うく補導されそうになったが店長が保護者役という言い訳を使い逃れた)帰路につく。
因みに仮屋がどうやって深夜のラビリンスにいたかと言うと「友達の家に泊まるって言ってきた」らしい。つまり────
「まあ、いいんじゃない?······確かに救急車で運ばれたのを考えるとやりすぎかもしれないけど······そんな事よりまだ着かないの?一ノ瀬の家。」
今日、仮屋は一ノ瀬家に泊まるのである。
と言っても正しくは仕事場のようなものなのだが。
因みに潜木尚人は病院に運ばれた後警察に捕まった。あのストラップには国東徹を殺した時の音声が、そしてロッカーの下から三上美香殺害時の音声が録音されていたキーホルダーが見つかり、本人も自供したのだとか。
「そろそろ着くけど······あ、ここだよ俺の家。しかし、一人暮らしの男の家に泊まるのはどうかと思うぞ······」
「まさかこんな時間になるとはねー······ま、一ノ瀬なら何もしないでしょ?」
「······随分と信用してるんだな俺を······まあ、明日は学校休みだからいいか······さて、着いたぞ。」
「······え、ここに一人暮らし?」
「······?そうだけど?」
「いやいやいやいや!?」
そこは一軒家だった。しかもそこそこ高級そうな。
「ちょっ······ここに住んでるの!?」
「言っとくが俺もう税金払う程には稼いでるんだからな?」
仮屋は忘れていた。
一ノ瀬巽は成績優秀、文武両道のバケモノであり、日本で最も有名なホラー作家であると。
「正直このまま何も書かなくても十年は生きていけそう。余程の贅沢しなければだけど。一応今の両親に管理してもらってるし······引き出し自由だけど」
「それは管理って言わない······自由に使えてる時点で管理されてない······」
「······まあ、寒くなるからとっとと入れ」
「あ、うん。お邪魔しまーす」
促された和奏は家に入った。
────数時間後に、割と後悔することを知らずに。
次回!!まさかのお泊まり会、メインヒロインが決まってないのにフラグを立てるか!?
次回:一ノ瀬家は異常!!
────え?主人公がチートすぎる?
ヒントをあげよう。今回の本文と原作←