奴隷(キミ)と僕とを結ぶHIMO   作:凍傷(ぜろくろ)

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第九話【戦いに慣れましょうぜ。ちくちくと】

15/マッスル

 

 コーン……

 

「あがぁああああああ……!!」

「ご主人様!? ご主人様ぁっ!!」

 

 で、癒しながらフィールドまで走った結果、筋肉痛様に迎えられました。

 うん、あくまで疲労を癒しただけであって、筋肉はそのまま使ってたわけだからね、そりゃ痛くなる。

 むしろ疲労を癒してしまったからこそ筋肉痛。

 

「この場合どうなんだろうね。そのまま筋肉を癒しちゃったら超回復はするのかな。どうなのヒトくん」

「試したことがないからわかりませんデス……!!《ズキズキズキズキズキズキ……!!》」

 

 装備欄で鬼憧重鋼装を見てみる。

 相変わらずDEFは50でSPDは-10。そもそもAGIが5の僕に、-10はキツすぎる。

 AGIとSPDがどれほど身体能力に影響するのかは知らないけど、マイナスであることには変わりない。

 

「ええっと」

 

 それは今は置こう。

 筋肉を癒して超回復を……あ、いや、待った待った。

 超回復って、壊された筋肉が次はもっと堪えられるようにって、壊れる前より強くなること、だったよね。

 じゃあ癒したら元通りになるだけで、筋量が上がったりはしない筈だ。

 だったらどうすれば? ……もちろん、超回復をする細胞を癒し続ける。栄養をしっかりと摂った上で細胞を活性化させる!

 栄養が足りなければ細胞が弱るだけ? 弱ったなら癒しましょう!

 というわけではいイメージ! はい癒し!

 

「超回復・加速! ホアアアア《シュゴオオオオ!!》キャーーーッ!?」

 

 細胞に休む暇も与えぬ勢いで癒しを送ったら、なんか体から蒸気が溢れ出た! ていうか喉渇く! 水分足りない!

 

「リリリリリリリシュナさんリシュナさんギャアアリシュナさぁああん!! 水! 水ない!? 乾く! リシュナさん!」

「あわわわぁーーーわわわ!? 水!? え!? 水っ……水ね! はい!」

 

 冒険者らしく常備していたのか、すぐに突き出される魔法瓶。

 それを開けてガヴォガヴォと喉に落下させるように流し込む。

 すると、飲んだ先から吸収でもされているのか、水の冷たさが一気に体中に走る。

 なんだか嫌な予感がして、とりあえずは装備を外してシアンに頼み、宿まで連れて行ってもらった。

 ……はい、水、飲みまくりました。

 普通どれだけ喉が渇いていても、飲みすぎれば喉が受け付けなくなるんだけど……そんなことにはならず、息の続く限り飲み続けてもまだ足りない。

 それどころかお腹が空いてきたので、ミレアノさんに無理を言って夕食用に準備していた鶏肉と野菜を少量いただいた。

 それを胃袋に納めると、やはり一気に消化吸収が始まる……が、一瞬で消化されてたまるかと、ほぼ丸呑みにした胃袋の中の鶏肉と野菜に癒しを送って再生させ続ける。

 

「よしシアン! モンスターのもとへGO!」

「えぇっ!? 大丈夫なのですか!? ご主人様っ!」

「私は一向に構わんッッ!!」

「不安だなぁ……」

 

 たんぱく質の摂取は完了した! そして胃酸で砕かれる栄養素も再生させ続けるから摂取し放題! 多分!

 さあ今こそ筋肉を酷使する時! 栄養の準備は十分だぁああーーーっ!!

 

……。

 

 コーン……

 

「ぅげっほごほっ……えっほ……っ! うぇえっ……!!」

「ご主人様!? ご主人様ぁーーーっ!!」

 

 で、またフィールドでぐったりな僕。

 心配してくれるシアンにごめんなさい、呆れつつも笑ってるリシュナさんに、むしろありがとう。笑い飛ばしてくれたほうがいっそ嬉しいです。

 でもこれは面白い。

 蒸気を発しながら草原を走る鬼面装甲の馬鹿───最高だ。

 ええ、懲りずにまた装着中ですよ。じゃなきゃ筋肉のトレーニングにならないし。

 そう、僕はマッスルを目指す。

 レベルアップボーナスではVITを上げて、他のステータスは自力で上げてゆく!

 レベルアップの能力だけに頼るなんて、せっかくの新しい人生なのにもったいない!

 骨格も一応、悠彰の話じゃ“鍛えればいいガタイになるって、絶対”、らしいから。

 ならいっそ、筋肉モリモリマッチョマンになってみたい。どこまでいけるかはわからないけど、それでも目指せる限界まで……!

 ……そっか、そう考えると、体つきのくせに大人しいよなって言っていた悠彰の言葉も、納得は出来るのかな。

 

  ピピンッ♪《STRが1上昇しました!》

 

 ───……!? え、あ、え!? 上がった!? え!? ほんとに!?

 

「リシュナさん! 上がった! STR上がった! 1上がったよ!」

「えぇっ!? ちょ……ほんと!?」

「ほらほら見て! VITは置いておくとしても、それ以外は5だった能力が1プラスされてる!」

「わお! ほんと───…………あの、ヒトくん? 改めて言うのもなんだけど、このVITっていっそ清々しいけど怖いよ……」

「ほっといてください!」

 

 ◆ツァガ・ヒト/JOB:癒し人

 Lv 7

 

 HP 2170/2170

 SP 50/50

 

 EXP 870

 NEXT 173

 

 STR 6

 VIT 26

 DEX 5

 AGI 5

 MND 5

 INT 5

 CHR 5

 

 SKILL:ヒール、オートヒール、ソウルヒール、オートソウルヒール

 £:200

 

 ◆EQUIP

 頭:無し

 首:無し

 胴:鬼憧重鋼装(全身装備扱い)

 手:イグナショフ(ペット扱い)

 腰:無し

 足:無し

 

 *人物情報:引き抜きをエサに女性を奴隷に落とした外道《ブツンッ》

 

 ……よし、僕はなにも見なかった。

 ステータスを開いたけど、僕はなにも見なかった。外道とか書いてあったけど速攻で閉じたね。

 ねぇデビル天秤様。僕、頑張って体を鍛えるよ。

 目標が出来たんだ。

 ……今度会ったらあなたを殴る。絶対に殴る。グーで殴る。

 イグの素材を集めるために戦ったお陰で結構レベルも上がってるんだ。

 きっとこれじゃあ全然敵わないんだろうけど、だからこそもっと頑張るよ。

 そして殴る。絶対に殴る。グーで殴る。

 相手は女性? だからどうした相手は既に敵である。

 でも能力と新しい人生をありがとう。お願いだから一言が多いその語り方はやめてください。

 

「よ、よぉお~し……!! 早速、依頼のためにアマラットンを……!」

 

 アマラットン。ウサギ型モンスターで、額に“天”の文字のような痣があるのが特徴。

 天をアマ、と読んで、だからアマラットン。ラットンっていうのもウサギ型モンスターらしい。どこぞの亜人と未だに縄張り争いをしている、とプレート情報に書いてあった。なんで地界の“天”って文字が普通に浸透しているのかは……やっぱりいろいろ地界に毒されてるんでしょうね。

 もしくは命名したのが地界人だったとか。

 さて、新しく受けた依頼は、討伐と捕獲、と。

 まずは討伐。

 

 ◆【天の文字を刻む者】分類:討伐

 よくぞ立った、益荒男(ますらお)よ。

 我の代わりに天をその額に刻む畜生を滅してほしい。

 名はアマラットン。兎である。数は10匹ほどだ。

 多くは語るまい……ヌシの修羅、見せてみよ!

 *報酬金:1600£ 契約金:100£ 依頼主:ゴウ・オニ

 

 ◆【毒物の調達】分類:討伐

 私を待たせるなよ小間使い。私のために動け。

 毒を背に持つモンスター、ポイズンキャタピラーの毒苔が必要だ。

 しのごの言わずにさっさと持ってこい。いいな、今日中にだ。

 *報酬金:1800£ 契約金:100£ 依頼主:ウィーヴ・ド・カザァナーン

 

 ◆【はじめてのほかく】分類;捕獲

 Fランク、充実してるかい?

 一応コレ、討伐とか雑用とか採取とか一通りやったら受けられるようになるクエストだから、目を通しておいてね。

 まずは、やあ。僕はクエスト管理担当補佐のシュパルコ・リッツという。

 ああ、気軽にスパルトイでいいよ。僕骨好きなんだよねー。

 あ、スパルトイっていうのは骨型モンスターで……ってどうでもいいね。

 無駄にスペース使ったらエミュルちゃんに怒られちゃうし、本題だよ。

 捕獲してほしいのはコボルトさ。あ、ベビーじゃなくてね?

 で、捕獲が成功したらいよいよ昇格試験だよ。

 この試験はそのまま続行してもらっても構わないんだ。

 条件はミル・コボルトの討伐。

 ミルっていうのはその群の王を喩える名だ。

 名前の由来は黒竜王ミルハザードから来てるとか。

 じゃあ、よろしくね。あ、捕獲方法はいっつも受諾者に任せてるんだ。

 どんな方法でもいい、必ず生きた状態で連れてくること。いいね?

 *報酬金:2000£ 契約金0£ 依頼主:シュパルコ・リッツ

 

 ……と。

 このように、適当なものを受けてきたんだけど……一つ重要なやつが混ざってるんだよね……。

 うん! 依頼は依頼だから特別視なんかしないけどね!

 コボルトを捕獲して連れていけばいい! それだけだもんね!

 というわけで、筋力トレーニング兼依頼達成行動、開始!

 

「シアン、リシュナさん、レベル上げも兼ねて、モンスターが出たらとりあえずコロがす方向でいいかな」

「はいっ」

「ん、全然オッケー! ……ていうかさ、ヒトくん。地界じゃ“殺す”を“コロがす”っていうの、普通なの?」

「殺す殺すって言うの、なんだか物騒じゃないか」

「まあ、そうかも。でもコロガすじゃあなにかをこう、コロコロ~っと転がすイメージの方が強くない?」

「気楽に考えていこうと思ったんだ。難しく考える必要なんてないって気持ちで」

 

 ある種の現実逃避とも言う。

 この場合で言う現実は、もちろん地界の常識だ。

 今さらあの世界での常識をこっちで説いても、こっちにはこっちの常識があるんだ~って理解しちゃったから。

 さあ、話もそこそこに、モンスターのおでましだ。

 敵は…………コボルトベビー。

 早速シアンさんが殺る気、もといやる気に満ち溢れた表情で僕の指示を待ってるけど、ちょっとだけそのまま指示を待っていてほしい。

 試したいことがあるのだ。

 そのことをシアンとリシュナさんに確認しつつ、鬼面装甲の僕がズシンと前へ。

 異形のモノを前に、5体で現れたベビーは少々怯んだ。

 ……モンスターに怯えられた瞬間、ちょっと傷ついたのは秘密だ。

 大丈夫、どうせ鬼面に覆われて、僕の顔は見えやしない。

 

「……ヒトくん、今ちょっと傷ついたでしょ」

「なんでわかるの!?」

「コボルトベビーが怯んだ時、あからさまにビクッてなったし」

「………」

 

 あからさまだったらしい。ショックだ。

 

「ねぇリシュナさん……防具の可視化と不可視化って選べたりしないかな……無理だろうけど」

「出来るよ? 私も胸当てと篭手以外はそうしてるし」

「出来るの!?」

 

 早く言ってほしかった!

 ていうかこんな格好のままにおろおろする僕を見て、コボルトベビーが余計に怯えてる! うわぁ凄いショック!

 ここで気の強い人なら“ウハハハハこの俺様を見て怯えているぜぇえ!”とか言えるんだろうけど、魔物に怖がられるって実際やられると悲しい! 凄く悲しい!

 いやいや今はショックを受けるより不可視化だ! えーとえーと…………どれ!?

 

『ゲッ……ゲゲギャーーーッ!!』

「うわっ!?」

 

 もたもたしている僕の姿を隙と断じたのか、異形の蠢く姿に耐えられなくなったのか、声的に恐らく後者のコボルトベビーが襲い掛かってきた!

 どうする!? どどどどうする……どうしよう!?

 えーとえーとあぁああああ纏まらない内に棍棒が振り上げられて───!《メゴォッシャア!》…………うん。

 

『ゲギャッ!? ゲッ……ギャギャ!? …………ゲェーーーッ!!』

 

 殴りつけておいて、あっさりと壊れた棍棒と僕とを何度も交互に見て、ついにはゲェーと叫ぶベビーさん。

 そうだった。焦る必要もなく、VIT26にDEF50の防御馬鹿だったんだ、自分は。

 それじゃあとゆっくりと不可視化の項目を探そうとした途端、そのコボルトがシアンにボゴシャアと顔面を殴られ、一撃で塵と化した。

 

「ご、ごめんなさいごめんなさいご主人様! ご主人様を守れず……!」

「えっ……や、いいっていいっていいんだって! 今のは僕が待っててくれって言ったんだから! っとと、あったあった。よし、不可視化!」

 

 不可視化の項目にチェックをつけると、鬼面装甲が見えなくなる。

 でもどっしりとした歯応え……もとい、ずっしりとした重みはそのままこの体に圧し掛かっていた。わあ、本当にただ見えなくなっているだけだ。

 けれどもやっぱり、こういうのは顔は見えている方がいいと思うのだ。

 はふぅと息を吐きつつ、おろおろするシアンの頭を撫でて、やはり一歩前へ。

 手に持った飛び出しナイフ改を、狼狽えるコボルトベビーへとチャキリと構えて、いざスイッチオン!

 

『《ゾス》……イギャッ!?』

 

 ……飛び出し、飛んで、刺さった。

 えーと……漫画とかだとこういうのって、集中線とかが書かれてとても速くて、ゾブシャーって突き刺さるイメージ、あるよね。

 でも実際に見ると……ほんと、“ゾス。”って感じだった。“。”までついてこその擬音というか。

 敵の反応も“いてっ!? なんだっ!?”って様子。

 

「………」

 

 でもめげません。

 溶接してもらった刃の欠片に癒しを流すと、なんとそこがゴワゴワと再生……再び刃が装填されて、またそれをスイッチで射出。

 再生過程はイメージでなんとかなるらしく、再生した部分と溶接した部分の境目はもろく、ってイメージを働かせたら、射出の勢いで簡単に折れた。

 

『《ゾス》イギャッ!? ゲゲルギャアーーーッ!!』

 

 そんな刃がまた刺さると、“なにしやがんだコノヤロー!”とばかりにコボルトベビーが襲い掛かってきた!

 でも動くことなく冷静に対処。癒し、再生、装填、射出。

 刺さると当然痛いのに致命傷にはならず、なんか地味にむかつくのか、一体のコボルトベビーは叫びながら僕目掛けて棍棒をふりまくってきている。

 でもダメージはない。

 

『ゲギャーーーッ! ホギャーーーッ!!』

 

 ガンゴンガンゴンと音が鳴る。

 その間も冷静に飛び出しナイフを射出させて、目の前の激怒ベビーさんに突き刺してゆく。

 

『《ゾス》イギャッ!?《サクッ》ギャギャッ!? ……ウゴロギャアアアアアアアッ!!!』

 

 そしてとうとうキレたらしい。

 かつてない迫力の咆哮とともに懇親の一撃を振るってくるも、攻撃力よりも防御力が勝ってしまっていたため、あっさりと棍棒は砕けた。

 なのに今度は拳で殴りかかってくる。

 その間も冷静に射出を繰り返していたら、 全身ナイフのモンスターと言ってもいいくらいの状態になってしまい、「かっ……体は剣で出来ている……!?」なんて、つい呟いてしまったところ、ついには彼は塵となって消えた。

 ダメージの所為というよりは、刺さりすぎたための失血死だろうか。

 

「……えげつないことするね、ヒトくん」

 

 見ていられなくなったのか、次々と襲い掛かってきた他のコボルトベビーも無視しつつ会話。

 ガンゴンガンゴン殴られているものの、痛くも痒くもございません。

 この世界に来て、まだそれほど経っていないのに……随分と常識ハズレなところまで来てしまったなぁ……。

 1192万レベルなんて、そこまでいったらどうなってしまうのやら。

 そこまで鍛える気は無いけどさ。

 

『アッキェエエーーーッ!!』

 

 それはそれとして、早くも棍棒が壊れてしまったコボルトベビーがローリングソバットで攻撃を仕掛けてきたんだけど……何処で覚えたんだろうね。

 もちろんダメージはなかったので、ソッと近づいてギュッと二体を抱き締めた。

 

『オギャッ!?』

『ゲゲギャッ!?』

「STO!!」

 

 そして倒れる。大外刈りはせず、重量で押し切るように。

 

『《ドォッゴォオンッ!!》グギャアアアーーーッ!!』

 

 STO。ラリアットと大外刈りを合わせたプロレス技である。

 スペーストルネードオガワ、の略。

 ラリアットもやってないし大外刈りもしてないけど、重さだけはたっぷりと乗せて潰した。

 ……一撃で、二体とも塵と化した。

 

「………」

 

 勝てた……勝てたのだ。

 今までなにも出来ず、ただステータスを移動する程度だった僕が……!

 …………でもなんでこんなに虚しいんだろうね。

 自分の実力ではないからかなぁ……まさか防具の重さで押し潰して勝つだなんて、この世界を知ったばかりの僕だったら考えもしなかっただろうし。

 異世界バトル! カッコイイ武具! それを駆使して戦って、レベルを上げる勇者! ……そんな想像をしてみても、現実は鬼顔フルフェイスの兜とか、なんか毘沙門天の像あたりがつけてそうな布が巻かれた鎧とか、そんなものを身につけて、戦うのではなく押し潰して勝つ……勇者じゃなくて凡人。

 ああなるほどぉ……虚しくもなるなぁああ……!

 でもこれで安心して心に刻める。僕は勇者になんかなりたくないし、凡人でいいし、魔王討伐なんてしたくもない。

 人を癒して笑顔が欲しい。治療費が無くて苦しんでいる誰かを、お金は要らないよ、なんて言って癒せたら…………わあ、後でカドが立ちそう。

 後払いでもいいからきっちり払ってもらおう。情けない僕でごめんなさい。

 それとも、食費は冒険者側で稼ぐとか。

 ……なんにせよ、マイホームは建てなくちゃだね。

 

「よしっ、どんどん行こう! 頑張って稼ぐぞ~っ!」

「ねぇシアンちゃん、ヒトくん、どったの? なんか妙に張り切ってるけど」

「……わからない《ふいっ》」

「あぁん! そんなそっけなくしないでってば! だ、大丈夫だよー? 怖くないよー? 怖くないからその体を隅々まで触らせて───」

「シアン、STRMAX」

「はいご主人様《モキリ》」

「冗談ですごめんなさい! でもモフモフしたいのは紛れもない本心! 偽り無く!」

 

 全力で正直だった。

 自分に正直に生きるのって、結構大変だよね。

 それはそれとして今回の戦いで得た結論はといえば……飛び出しナイフ、弱いです。

 今度これを強化してもらおう。そうすれば少しは強くなれるかもだ。

 むしろ敵の注意を僕に向けるって意味では、地味な痛さのほうがいいのかもしれないけど……やっぱり威力は欲しいや。

 切れ味がよくなれば深く刺さるだろうし、先っちょだけゾスって刺さったってモンスター相手じゃあそれもしょうがない。

 

「でさ、ヒトくん。アマラットンとポイズンキャタピラー、どっちを先にやるの?」

「見つけた方を先にでいいかな。プレート情報でも、やっぱりここに居る、って確定して書かれてるわけじゃないみたいなんだ。情報では、キャタピラーはシダリ草っていうのが多く茂ってるところに出現しやすいらしくて、アマラットンは土の盛り上がりがあったら、そこが巣の可能性が高いって」

 

 アマラットンは地面を掘って巣を作るらしい。

 その巣がまるで蟻塚のようであるらしい。

 “らしい”ばっかりだが、会ったこともない僕だからね。仕方ないね。

 

「大体、蟻塚って言ったって、こんな草原にそんなのがあれば、今まで気づかない筈が在ったァアーーーッ!!」

 

 ありました。

 堂々と、“ずーーーん”と、人であったならば胸でも張ってそうな感じに。

 

「リシュナさん…………あれ? あれがそう?」

「うん、そうそう。たはー、やっぱりこういうのって、欲してると見つからなくて、じゃあ別のことをって考えると見つかるものだよねー」

 

 アリクイでも差し向けたいほど立派な蟻塚もどき。

 こんなのの中に住んでいるという。地中? それとも蟻塚の中?

 とりあえず試してみたいことを試してみることにした。

 協力者としてシアンが必要だ。……ったんだが、訊いてみたら大却下。

 

「シアン、上手くいけば貴重な戦力になるんだ。だから」

「いやですやりません!《ぶんぶんぶんっ!》」

 

 全力で首を横に振るわれて、何気にショックは感じている。

 

「いや、頼むよ。これが成功すれば僕という名の火力は素晴らしいものに」

「いやですやりません!《ぶんぶんぶんっ!》」

「そう言わずに。ね? 一回だけだから」

「いやですやりません!《ぶんぶんぶんっ!》」

「ちょっとだけだから。すぐに済むから。悪いようにはしないって」

「いやですやりません!《ぶんぶんぶんっ!》」

「…………なんか僕の言い方もアレだけど、シアンのその反応もどうかと思うなぁ」

 

 まるで“いいえ”を選んでも永遠に同じ質問を投げてくる竜冒険のお偉いさんみたいだ。

 でも試してみたいことを諦めてしまうのはもったいない。

 なので今度はリシュナさん。

 

「リシュナさん、だめかな」

「さらっとお願いしてるけど、結構抵抗あるよそれ」

 

 本人がいいって言ってるんだから、気にせずやってくれるとありがたい。

 むしろ僕が戦力になるか否かの大事な悩みどころなのですから。

 

「仮にやったとして、私がシアンちゃんに盛大に嫌われるよね」

「最初から嫌いです」

「あれぇ!? 失うものはなにもなかった!?《がーーーん!》」

 

 たはは、と頬を掻きつつ嫌われることを嫌がった彼女が冷たい目でキッパリ言われたのは、問答の隙もないほどの発言直後のことでした。

 そんなリシュナさんが僕に近づいて、ソッと「普通奴隷の子って、人に嫌われることをとことん不安に思うものじゃないかなぁ。なんで私、こんなに嫌われてるの……?」と不安を打ち明けてきた……途端、耳打ちのために近づいた距離でさえ、シアンにズズイと押されて離された。

 

「シ、シアンちゃん? 耳打ちくらい……」

「ふかーっ!!」

「うわーん! なんだか知らないけど威嚇されたぁ!」

 

 どれほどシアンが好きなのか。

 うわーんとか言いつつも、手はわきわきと小刻みに動き、今にも飛び掛りそうな体勢を……って、そういえばシアン、リシュナさんの服を借りる時に二人きりになったんだよね。

 ……その時もこんな怪しい行動に出て、しかも実行に移ってたとしたら……。

 

「リシュナさん。リシュナさんの服をシアンに着せる時、なにかやった?」

「なにかってなに!? 私べつにおかしなことはしてないよぅ! 強いて挙げるなら抱き締めたり頬擦りしたり耳を唇でハムハムしたり尻尾に顔をうずめたりしただけで《ドス》うきゅっ!?」

 

 変態が居た。そんな変態の首に地獄突きをしてから、僕とシアンの旅は再開したのだった───! ……しかし回り込まれた。

 

「いやいや待ってよヒトくん! キミは誤解してるよ! 獣耳は正義! あのモフモフに触れる機会を服を貸すことで手に入れておいてモフらないなど有りえようか! 否! 断じて否ァ! 私は《ドス》うきゅっ!?」

 

 自分勝手な変態にもう一度地獄突きをかましてから、僕とシアンの旅は再開したのだった───! でもやっぱり回り込まれた。

 

「……相手の意思を無視した行動は周囲には変態行為としてしか映らんので熱く語れば語るほど人は離れていくもんですよ」

「一息で何気にひどい! や、やー……でも、もふもふが……」

 

 胸の前で両手を合わせるように、指をこねこねして視線を逸らすリシュナさん。

 僕はそんな変態さんを前に、どうしたもんかなぁと視線をずらして思考を切り替えようとしてみると───視界の先にヘンテコなモンスターを見つけた。

 おお、と左手の掌にポムと右拳を落として、リシュナさんを振り向かせたのちにその背中を押した。

 

「リシュナさん。あんなところにモンスター。なんか胸のみから物凄い勢いで毛を生やしてる奇妙なのが居るよ? ほーらモフモフ」

「いやちょごめんごめんなさい押さないでやめてやめて!? ていうかアレなに!? モンスター!? 言葉の意味では正しくモンスターだろうけどなんで胸のみから毛が!?」

 

 草原でたまたまみつけた同じ背くらいの謎モンスター。

 見つめつつ、項目に浮かんだ“調べる”を意識すると、相手の情報が視界に浮かんできた。

 

 ◆ナメムナゲ

 突然変異種モンスター。

 後ろ足が短く前足が長い、ゴリラのような姿勢で動く。

 が、ゴリラと違って力は弱い。

 肌はナメタケに触れたようなしっとりでぺっとりな肌で、無駄毛は一切ない。

 何故か胸部のみからもっさりと体毛が生えており、その胸毛は某赤きサイクロンのような形で存在している。

 

「……ナメムナゲって言うらしいね。ほら、リシュナさん、存分にモフってきてください」

「いやいやいやいやいやいやいや!!」

「ほら、申し訳程度の獣耳もあるみたいだよ? 猪の耳っぽいけど。よかったね、正義だなんて言えるほど好きなんだもんね」

「怖いよ!? 笑顔がすごく怖いよ!?」

「……大丈夫、僕ら待ってるから。存分に抱き締めたり頬擦りしたり耳をハムハムしたり胸毛に顔をうずめたりしてきていいんだよ……? 僕ら、仲間じゃないか……《サァア……!》」

「なに風に撫でられながらいい顔で物凄いこと言ってるの!? 嫌だよ! あれ絶対おかしな存在だよ! だって私モートス平原であんなの初めて見たもん!」

 

 はわはわと首を横に振りつつ必死に叫ぶリシュナさん。

 なにを言うかと思えばこのお子は……。

 

「リシュナさん、存在の在り方を自分の見解で勝手に決め付けちゃだめだよ。あのナメムナゲだって、リシュナさんが気に入るなにかを持っているかもしれないじゃないか。例えば声が綺麗だとか」

『ムナギャァーーーオ!!』

「ね?」

「なにが!? ねぇなにが!?」

 

 声が綺麗、と言った途端にナメムナゲがムナギャーオと叫んだ。

 何故かエコー気味に。ムナギャーオムナギャーオムナギャーオ……と、叫びを追うかのように響く声に、リシュナさんの目尻に涙が浮かんだ。

 

「……なんか……その。戦場を駆けた兵士が断末魔の一瞬に上げる悲鳴のような声だったね……」

「うん……」

「リシュナさんの好みにストライクとかは」

「あるわけないでしょ!? あるわけないよね!? ないよ! ちっともないから!! と、とにかく倒そう!? モンスターを見つけたら倒すって話だったよね!? ね!?」

「え、う、うん」

 

 どうやらお気に召さなかったらしい。そりゃそうだ。

 キッとナメムナゲを睨んだリシュナさんは、なんだかぶつぶつと言って、早くも双剣をシャリンと抜き取っていた。

 

「……シアン、リシュナさんはなんて?」

「……あれは“けもみみ”じゃない、あれはけもみみじゃない、と繰り返しています」

「あー……」

 

 動物の触り心地は確かにいいけど、それもその動物が嫌がらない程度で済ませる努力をしようね、リシュナさん。あなたが獣耳とかを愛しているのは、よーくわかったから。届いたから。

 

「そうだ、毟り取ろう……。あんなのがあったら、もふもふという言葉から神聖味が消えてしまう……」

 

 物騒だったけど、確かにあれを“獣の体毛”と一括りにしてしまうのには抵抗があった

 なんて思った直後、リシュナさんが地を蹴り駆けていった。

 僕もすぐに切り替えてステータス移動を行使。……急にAGIMAXになった所為で、リシュナさんがコケた。

 

「ヒトくん! 普通こういう場面で失敗する!?」

「移動の時はAGIMAXでって話だったでしょ!」

「そうだけど頭に血が上ってて忘れてたんだよぅ!」

 

 めげない彼女が再び地を蹴り駆けてゆく。

 シアンが私もとばかりに僕を見つめてくるけれど、なんか今はリシュナさんの邪魔をしちゃいけない気がする。

 むしろ周囲に目がいってない気がするリシュナさんと一緒に戦わせるのは危険だ。

 だってほら、今も

 

「《ドゴォン!》はきゅうっ!?」

 

 一直線に走りすぎて、蟻塚にビッグバンクラッシュやってる程だし。ていうかナメムナゲほったらかしで、なんで蟻塚に突っ込んでらっしゃるんで!?

 ていうかすごい音が鳴った……アレ結構硬いのか。

 ああ……相当痛かったのか、蹲ったリシュナさんが「きぃいいぅぃゅぅうう~……!!」ってか細い声で唸ってる。

 あ、AGIMAXなんだから痛いのは当たり前だった。VIT1だもの。

 けれど状況は待ってくれない。

 蟻塚……正式にはアマラットンの巣が壊れたことで、中からアマラットンと思われる大きめのウサギ型モンスターが飛び出したのだ。もちろん相手は巣を壊されたことで最初から臨戦態勢であり、

 

「わぉ! ジャスティス!」

『《がばしー!》ギチュ!?』

 

 飛び出した矢先にリシュナさんに抱き締められた。

 その突然のことに混乱している間にも、彼女はウサギを頬擦りしたり耳をハムハムしたりお腹の部分に顔をうずめたりと、どんどん表情がとろけてゆき、

 

『ギチュウ!』

「《どごぉんっ!》ぅあいたぁあああーっ!?」

 

 ついには額に頭突きを喰らい、絶叫した。

 ……しかもそれでドサリと倒れ、動かなくなる始末。

 なぜ? AGIMAXのままだからでしょう。

 ステータスを覗いてみれば、あらまあまさかのHP4。……4!?

 

「シアンAGIMAX! リシュナさんを助けて!」

「はいっ!」

 

 指示した刹那に獣のように手足で駆けるシアンと、倒れたリシュナさん目掛けて跳躍し、攻撃を仕掛けるアマラットン。

 もちろんすぐにリシュナさんのステータスをVITMAXにして防御特化にしたけれど、HPは4なのだ。アマラットンの攻撃力がその上を行ってしまっているのなら、リシュナさんが……!

 ああもうモフモフに命をかけるにしたってもう少し状況ってものを考えようよリシュナさん! アマラットンが出たのにAGIMAXのままにしておいた僕が言えたことじゃないけど!

 心で叫びつつ、僕もシアンと同時に駆けたんだけど……重い! 一旦防具収納! よし!

 

「させませんっ!」

『ギチュッ!?』

 

 僕がもたもたしている間に、シアンはとっくに間に合っていた。

 アマラットンのジャンピングスタンプがリシュナさんに当たるより速く、シアンの手がアマラットンの体を突き飛ばしたのだ。そこからは即座にSTRとVITとAGIにステータスを振り分けて、アマラットンの相手はシアンに任せることに。

 

「イグ、シアンのサポート、お願いしていい?」

『ギ』

 

 けれど相手は未知の敵。

 任せるにしたって不安材料は少ないにこしたことはないので、イグにも手伝ってもらうことに。

 腕にはりついたままだったイグが、腕を離れて空を飛び、シアンの傍に向かったことを確認したら、僕もようやくリシュナさんのもとへと辿り着き、癒しを実行するに到る。

 ……回復役って速度も大事だなぁと思った、とあるよい天気の出来事でした。

 これからはランニングもしよう。うん。

 

「“ヒール”!」

 

 でもまずはヒールだ。

 頭突きを額に受けて、その体毛の痕がくっきりと額についているリシュナさんに癒しの奇跡を。

 

「………」

 

 天だ。

 見事に“天”である。

 額に天。

 ……うん、この痣は癒さずに残しておこう。

 こういう場合、なんて言えばいいのかな。

 あれか。

 

「我! 額極めたり!《どーーーん!》」

「どうすれば極められるの!?」

「あ、起きた」

 

 HPは既にMAX。回復は完了していた。

 でも額には天。素晴らしい。

 

「あぁ~……もう、まさか頭突きをされるなんて」

「モンスターを抱き締めるほうがどうかしてると思うけど。立てる?」

「ん、だいじょぶ」

 

 ひょいと立って、「さて」と落ちていた双剣を拾って構え直すリシュナさん。

 対するナメムナゲとアマラットンはといえば、

 

「ご主人様っ、やりましたっ!《どーーーん!》」

 

 ナックルを血と謎の粘液で染め、輝く笑顔で僕らを迎えてくれたのはシアンさん。

 したたる血液が生々しい。

 

「……ねぇヒトくん……やっぱりあの拳武器、強すぎない……?」

「ステータス移動の恩恵があってこそだと思うよ……」

 

 元気に手を振ってぴょんこぴょんこ跳ねている。キツそうな胸が揺れている。目に毒だ。

 それにしても無邪気です。親に甘えることが出来なかった分、なんというかこう、僕って存在に甘えたいのかもしれない。

 僕はといえば、妹を可愛がっていたこともあり、甘えてくる存在には……甘い。

 近づいて頭を撫でてやると、ふっさふさの尻尾がぶんぶんと振るわれる。

 目を細めているのを見ると、喜んでいるのか嫌がっているのか。

 この場合、狼と猫と、どっちの見解で彼女を見るべきなんだろう。猫狼……猫は尻尾を振ると機嫌が悪いっていったよね? で、犬は逆で。

 ……あれ? 狼はどうなるんだろう。犬と同じでいいのかな。

 

「うんうん、なにかやり遂げた時は、たっぷり褒めてもらいたいもんだよねー。私もエデンに居た頃はいろいろあったなぁ」

「エデン……チャイルドエデンっていったっけ。訊いていいかな、リシュナさん。そこってどんな場所なの?」

「んー? そうだねー。子供の楽園、って言っちゃえばそれまでなんだけど、一言で言えば孤児を押し付けた場所、かな。そこの主は二人で、一人はカルナ=ナナクサ。もう一人はマイカ=アヤセ。あ、あと二人の子供としてキリ、って人が居たんだけど……もう亡くなってるね」

「リシュナさんとエミュルさんはそこで育ったと?」

「そ。さっき言った二人が、エデンの両親を担ってくれたお陰で、随分とすくすくと。生きる術もそこで教えてもらったしね。一定の歳になると出て行かなきゃいけないんだけど、私はその時にマグベストルっていう姉妹に引き取ってもらったの。剣技も魔法も、その二人に教えてもらったんだよ?」

「へえ……あ、でもちょっと待って。そんな場所があるなら、シアンはどうして……」

 

 撫でていたらこしこしと自分から顔を押し付けてきた、実に猫っぽいシアンをさらに撫でつつ質問。

 返ってきた答えは、ひどく当たり前のものだった。

 

「何処にでもあるわけじゃないからだよ。チャイルドエデンは一つしかないし、そこに行くためには遠出をしなきゃいけない。子供一人を押し付けるために、モンスターが蔓延る空の下を歩ける?」

「無理だね」

「でしょ? エデンっていったって、子供を捨てることを推奨するために作ったわけじゃないんだもん、当然だよ」

 

 話していて過去を思い出したのか、小さく俯きながら息を吐くリシュナさん。

 うーん、子供の楽園とか言うけど、ちょっと想像出来ない。

 ようは寮のある学校みたいなもの……なのかな? 保育園とかの延長、みたいな。

 

「……リシュナさん。そこに居る人の名前、マイカさん? とかいってたけど、なんでナギーは───」

「あぁっ! と、ところでさっ! えと、ヒトくんが試してみたいことの続きだけどさっ」

 

 あ、話題逸らされた。

 あまり、されて嬉しい話でもないのかもしれない。

 ……いいか。詮索されて嫌なことをわざわざ訊く必要なんてない。

 知りたいなら自分で調べてみればいいことだし、なんならナギーを呼んで訊いてみるのもいいだろう。相当恐れ多いけど。

 

「うん。防御力特化の僕を、STRMAXのシアンかリシュナさんに全力で投げてもらう作戦なんだけど」

「……やっぱり私がやったらシアンちゃんに嫌われるよそれ」

「防具の重量と僕の防御力を利用した、全く新しい戦い方だと思ったんだけどなぁ」

 

1:投げられます

 

2:敵にプランチャーをキメます(トペ・コン・ヒーロでも可)

 

3:他の敵を羽交い絞めにするor捕らえた上で地面に押し潰して、シアンとリシュナさんの到着を待ちます

 

 結論:つよい

 

 いいことだらけじゃないか!《どーーーん!》

 我ながらとんでもない戦法を思いついてしまった……!

 でも現実はそんなに甘くないよね。

 もしもを想定して、それから取る行動も考えておこう。

 ……あ、ちなみにプランチャーとトペ・コン・ヒーロは、プロレス技でございます。

 場外の敵目掛けてロープを越えて体当たりするのがプランチャー。

 回転して背中から当たるのがトペ・コン・ヒーロ……だったっけ?

 まあいいや、行動行動。

 

1:投げられます

 

2:敵にプランチャーを避けられて脇腹から地面に激突したとします

 

3:血反吐を吐きます

 

4:ボコボコにされます

 

5:防御力とIYASHIを駆使して耐え抜きます

 

6:敵が僕に夢中なので、シアンとリシュナさんは不意打ちが可能!

 

 結論:つよい

 

 いいことだらけじゃないか!《どーーーん!》

 そんなことを事細かに説明してみるも、シアンは「いやですやりません!」で、リシュナさんは「ヒトくんは私にこれ以上シアンちゃんに嫌われろっていうの!?」と叫んできました。

 いや……本人がいいって言ってるんだから、せめて一度くらいやってほしかったんだけど……。

 いい作戦だと思ったんだけどなぁ。

 

「仕方ない、諦めるよ。それよりも今はクエスト達成を優先しよう」

「はいっ」

「アマラットンの依頼は10匹討伐だから、あと9匹。巣に一匹しか居ないところを考えると、番いじゃなかったのかぁ」

「…………」

「ヒトくん? あれ? おーい」

 

 ……ウサギモンスターでさえ相手が居るのに、僕はフラレて交通事故……。

 だ、大丈夫、気にしてないよ……。

 僕はこれから筋肉と癒しのために生きるんだ……いっそ捨てられた子や動けなくなってしまった人と一緒に村を作るくらいの勢いで……!

 その名もマッスル診療所。

 

「…………《ぱああ……!!》」

「……シアンちゃん。ヒトくんが急に輝く笑顔になったんだけど、なにがあったんだろ」

「ご主人様が笑顔……《ほにゃああ……!》」

「わお、こっちはこっちで嬉しそう……あれ? 私おいてけぼり? って、ヒトくん? シアンちゃん? 他の巣を見つけたよ? ほら、この木の陰の……あれ? 聞いてるー? おーい!」

 

 筋肉を鍛えよう。

 そして誰もが忘れてしまったゴリモリマッチョが勇者になる世界をもう一度……!

 

「………、……? ───!?」

 

 いや違うでしょ! 勇者じゃないって!

 また余計な思考に目的意識を持っていかれるところだった!

 癒しだ、癒しだよ。僕は人を癒す存在になりたいんだ。

 ゴリモリマッチョ冒険記には当然興味があるけど、それをするのは僕じゃない。

 むしろ僕はゴリモリマッチョ診療所を建てたい。

 そこでシアンと暮らしながら、のんびりと。

 で、強盗が来てもSTRよりVITが高い僕はあまり役に立たず、用心棒としてシアンが活躍。

 僕は伊達マッスルとして一躍有名に……!

 

「………」

 

 なんか今とあまり変わらない未来が見えた気がした。

 頑張ろう。実用性のある筋肉を目指して。

 シアンもいつかはお嫁に出るんだろうし、一人でもやっていけるように。

 

「シアン、頑張ろうね」

「はいっ、ご主人様っ」

「あれ? 私は?」

 

 こうして僕らは歩きだした。

 診療所を作る夢を描きながら、敵の住処を破壊する旅路へ。

 なんかいろいろ最低だ……と頭を抱えて落ち込もうとも、様々な行動のたびに葛藤と理解を繰り返しながら進んだ。

 善とか偽善は今さらだ。

 善だの悪だのを唱えたいなら霞を食う仙人にでもなりなさいなんて、悠彰にしょっちゅう言われていた。

 だから罪悪感は抱いても飲み込んで、前へ。

 ……番いの巣穴は特別ダメージが大きかったけど、前へ。

 

「幸せそうに暮らしている番いの巣穴を破壊する……最初くらい、足取りが重く感じるのも仕方ないよね」

「ヒトくん、重いなら装備外しなさい」

「あれ?」

 

 物凄く当たり前のことをツッコまれても、それはそれとして楽しむことにした。

 いろいろなツッコミどころを互いに構築しつつ。

 


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