奴隷(キミ)と僕とを結ぶHIMO   作:凍傷(ぜろくろ)

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第八話【能力は使ってこそ。そりゃそうです】

14/さわやかに、悪の道

 

 さて、旅ゆけばフィールド。

 モンスターが自由に動き回るそこでは当然戦いがありまして、

 

「シアンゲットセット! ガトリングブラスト!」

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオォオオラァアアッ!!!」

 

 物理防御が高いモンスターとぶつかればINTとAGIに振り分けたステータスでシアンにラッシュをさせ、

 

「“微塵斬り”! せぁああありゃぁああああっ!!」

 

 AGIMAXにしたリシュナさんが火属性を込めた魔法双剣で敵を切り刻みまくり、

 

『ホガーッ!!』

「《ゴギンッ!》……くだらん技だ。ただ埃を巻き起こすだけか?」

『ホガッ!?』

 

 コボルトベビーが少し成長したみたいなモンスターに棍棒で殴られても、平気な顔でクスリと笑う、内心大絶賛痛がっている僕が居たり。

 うん……僕もなにか防具買わないとだめだね……ほんと。

 それでもいいペースでレベルも上がってるし、ステータスもじわじわと上がっていっている。

 

「釣りはいらねぇ! 取っときなァッ!!」

 

 右腕の肘から先が高熱に襲われる感覚ののち、それが最高温度に達した時点で空気を殴るように振るうと、そこから空気を焦がすような大砲が放たれる。

 Bマグナムである。

 ええ、イグとの合体技、Bマグナムはとても爽快感がございました。

 僕の防御力とイグの破壊力……これはいい連携になると思って、イグと相談して使い始めた戦法だ。もちろん火傷を負う以上の熱を発する技だから、癒しながらじゃなきゃとてもじゃないけど堪えられない。あと溜め時間が長い。

 ……つまり、イグが熱を溜めている間に、シアンやリシュナさんが敵をコロがしちゃうんだよね……。

 まあそれは置いておいても、ノリが良くなってきたシアンが普通にオラオラ言うから怖いというか面白い。

 こういうのはどこまで一緒に騒げるかが大事だから。

 周りの迷惑にならないくらいでなら、人は存分に“楽しさ”を堪能するべきだ。

 

「イグが溜めながら僕が移動して的を狙う……いい方法だけど、僕のAGIが低過ぎる所為で敵に避けられる可能性が高すぎるのがなぁ……」

『ギギギーギギ』

「不意打ち以外には使えないなと言ってます」

「キミは正直だなぁ、イグ」

「いやいや、ジュウウウって腕を焦がしながら撃つタイミングを図ってるキミも相当だよ? 正直って言葉とは関係ないけどさ」

「痛みを感じないほど癒しを送っておりますから」

 

 そこは平気。うん平気。

 ただ、構えからマグナムを放つまでのモーションで、大体の敵に避けられてしまうのだ。なので不意打ちで、いそいそと罠を仕掛けていたコボルトベビーに当ててみたんだけど……ベビーさん、蒸発しちゃった。威力高すぎだこれ。

 難点を挙げると、使う度に蜂蜜を消費するので、いつでも使えるわけじゃあないっていうこと。

 

「ねぇイグ、ちなみにさ。小出しにしたとしたら……何発まで撃てるの?」

『ギー』

「六発だそうです」

「……ほんとにマグナムなんだね」

 

 放ったあとはしばらく休まなきゃ次が撃てない。

 小出しにして撃つのも余計に体力を使うらしくて、六発が限界らしい。

 僕が癒したらどうかなって提案はしてみたけど、熱を放出するのにはもちろん体力も使うけど、それだけってわけじゃあないらしいのだ。

 多分それも癒せると思ったけど、僕にはそれがどういうものなのかがわからない。

 イグに詳しく訊いてみたんだけど、イグ自身もそれがなにかがわからないらしい。

 そりゃそうだ、種として当然に使えるものにわざわざ疑問を抱く者は少ない。

 学者でもないイグだったら、それは尚更だ。

 

(やっぱり一度、プレートで世界のことを知っておいたほうがよさそうだなぁ)

 

 プレートでもわからないことはエミュルさんに訊こう

 っと、エミュルさんで思い出した。

 悠介さんの工房の鍵も、使えるかどうか試してみないとな。

 ……どこで試せばいいのかもわからないけど、空間に作られた部屋なら何処からでも開けられたり~とかするのかな。これもわからない。わからないことだらけであります。

 まあ、それはおいおいやっていこう。今は忘れな菜だ。

 

「AGIMAXっていいなぁ~! 剣がすごく早く振るえる! STRが無い所為で剣重いけど!」

 

 忘れな菜を探しながらもリシュナさんが「シャアアア!」と双剣で空を刺突しまくっている。

 元気だ。

 僕の傘と自分の傘を手に、刺突をしまくっていた悠彰を思い出した。

 

「うーん、トーテムポールロマンスから抜けるとこれが出来なくなるのかぁ。ステータス割り振りをお願いしたからって、AGIMAX状態で独り立ちしたら、オーガの不意打ち一撃で死ねる自信あるし……ずっこい! やっぱりヒトくんずっこい! なにその能力! ステータス移動出来て癒しも出来るなんて! しかもなにそのソウルヒールって! 聞いたことないよ私!」

「既知のエリアだけ知っていれば満足ならそれでいいでしょーが。未知のエリアがあるからこそ世界は楽しくて、楽しいからこそ人生には救いがあるんだって。友人の受け売りだけど、間違ってないと思うよ、僕は」

「なんだか深い言葉だね。誰かの言葉?」

「救いを求めて、自らが救いになろうとした男の言葉……だといいね」

「あはは、なにそれ」

 

 笑顔が弾けた。

 こんなことでも弾ける笑顔があるのなら、それでいいってことにしよう。

 だから忘れな菜を探してくださいお願いします。

 

「《スンスン……》……チョーチン……ご主人様、チョーチンってどんな形ですか?」

 

 リシュナさんはほっといて、犬のように姿勢を低くしてスンスンと鼻を動かしていたシアンが振り向きつつ訊いてくる。

 姿勢を低くというのは、犬がたまにやる上半身だけを低くして、お尻だけを何故か立たせたままのアレだ。穴を掘る時にやることがあるアレ。

 ……やめなさいその姿勢。パンツが見えちゃうから。

 

「ねぇリシュナさん。なんでスカート短いんですか」

「動きやすいからだけど……改めて訊かないで。なんか今さら恥ずかしい……」

 

 元はリシュナさんのものだから仕方ない。

 仕方ないけどそんなものは姿勢でどうとでもなるはずなのに……シアンってもしかして、羞恥心とかそんなにない?

 ……ないかも。もし人としての知識もろくに得られない状態で育てられたら、そうなるのは当然……うん、当然か。困ったなぁ。

 そういえば男風呂にも躊躇無く入って、僕の背中を洗おうとしたくらいだし。

 

「いいかいシアン。これと同じのを探すんだ。これが提灯っていうもので、僕が住んでいた場所ではお祭りの時なんかによく見たものだよ」

「お祭り……確か相手が出血死しかねないほどにボコボコにすること、でしたよね?」

「シアンさん? それ血祭りだからね?」

 

 ともかく採取に取り掛かるのでした。

 

……。

 

 忘れな菜。

 ワスレナサイ、と読むが、これが案外クセモノであった。

 

 ◆【忘れな菜の採取】分類:採取

 知っての通り忘れな菜は忘却魔法の媒介に使われるものだ。

 といっても人には効かないし、効いても効果時間というものがある。

 主にモンスターから逃げるために、冒険者がモンスターに投げつけるものだな。

 もちろん加工しなければただの草にすぎないが。

 忘れているうちに逃げ出すのが定番だな……おっと、長くなってしまうな。

 その忘れな菜だが、3つほど持ってきてほしい。

 モートス平原に問題なく生えているが、困ったことに発見するのが難しい。

 夜になると提灯型の花に発光虫が集まり、花が光るからわかり易いのだが、夜まで待てん。

 なんとか取ってきてはくれまいか。

 それにしてもギルドにこう人が多くては暑くてたまらない。

 脱ごうとして注意されたばかりだから、それも出来ないとくる。困ったものだ。

 *報酬金:1000£ *契約金:0£ 依頼主:目の下にクマのある女性研究員

 

 えー……ハイ。こう書かれているように、一個も見つけられてません。

 

「リシュナさん……」

「まさかこうも見つからないだなんて……や、ほんとだよ? ほんとに前はここにあったんだよ? でも……あちゃ、刈られた痕がある。多分別の誰かに取られちゃったんだよ」

「アッチャー……」

 

 それは悲しい。

 先にこっちに来ていれば取れたのかもしれないと考えると、余計に。

 ……アレ?

 

「リシュナさん。刈られてるんですよね? 根っこから全部取られてるんじゃなくて」

「無駄に発見しづらいから、根っこから取るのは禁止されてるの。って、刈られてるのがどうかしたの?」

「………」

 

 癒しは癒し。

 傷ついたあなたを癒しましょう。はい、ヒール!

 刈り取られていた部分にヒールを流す。

 と、切り口から茎が伸びて、その先からズボァと提灯部分が飛び出した。ご丁寧に緑色の汁を撒き散らしながら。まるでナメック星の人の再生をこの目で見たかのような心境だった。

 

「うわっ! なにそれずっこい!」

「うん……僕自身も素直にそう思ったかも……」

「!? !?《ハタハタハタ……!!》」

 

 リシュナさんは素直にずるいと言って、僕も同じ意見で、シアンだけが急に再生した植物を前に、驚きつつも尻尾をぶんぶん振っていた。

 猫は尻尾を振ると怒っている、というけど、これはどう見ても楽しんでいる。むしろ好奇心がくすぐられている状態って感じだった。

 

「え? じゃあなに? これ刈り取ってまた癒せば、また簡単に?」

「……《ザシュッ》……ヒール」

 

 言われた通りに刈り取って、癒しを流せば元気な提灯。

 再生する瞬間は相変わらずピッコロさんだが、それも合わせてなんだか面白い。

 

「うわぁずるいほんとにずるい! なにこれ! 植物系の高級素材とか、見つけちゃったら採り放題ってことじゃない! そざっ……あれ? ねぇヒトくん、その癒しってさ……」

「うん……たぶん……」

 

 無言で見つめ合い、無言で頷く。

 シアンが首を傾げているさなか、リシュナさんが双剣を手に具足で蹴り弾いて宙に舞わせた石をカツンと割ってみせる。

 僕はそれを拾ってヒールをかけるわけだけど……それはボコメコと一気に形を変え、巨大な岩に変貌した。

 そんな光景を見て、リシュナさんは僕の肩を叩いてえらくオットコマエの表情で言った。

 

「合格だ、ヒトくん」

 

 と。

 

「ようっしヒトくん! 鉄鉱石! 鉄鉱石とか増殖させて売ろう! あと武器とか防具とかも廃棄処分のものとかもらって癒しちゃおう!」

「疲れるの僕だけなんですが」

「うぐっ! ……イヤアノ、別にパーティーだからお金を寄越せとかは言わないからさ……こういう時は素直にノって欲しいかなぁ……。もっと喜びに胸を膨らませようよ……ね? 童心は大事だよ?」

「……了解。というか、僕も意地悪だったね。ちょっと薔薇馬鹿の所為でお金とかのことに敏感になりすぎてるみたいだ」

 

 もっと砕いた考え方を持とう。

 お金に意地汚い人を信用出来るかは別として、でもそういう人はお金のことでなら信用出来るだろうし。

 

「じゃあ今日の依頼を終わらせるついでに、素材系の依頼を片っ端から受けるってことで」

「ナイスアイディア! むしろ私も提案しようと思っていたのだよヒトくん!」

 

 “ウェーイ!”と、サムズアップしつつ(>ヮ<)な顔をするリシュナさんと、事情は飲み込めていないものの、僕が役に立つ瞬間を思ってか尻尾を振りつつ興奮気味にこくこくと頷くシアン。

 ……そ、そうだよね! 僕、お金のことでようやく貢献出来るんだよね!

 ちょっと、いやかなり反則技だけど、これで───!

 

……。

 

 で、ギルド。

 

「素材から素材そのもの以外の物質が検出されました。こういうのは反則行為になるので、数に数えられませんね。どうやったのかは知りませんし、モンスターがやったことかもしれませんが、これは数として数えられません。頑張って他のものを採ってきてくださいね?」

 

 所詮そんなもんだった。

 こののち、大急ぎでモートス平原まで戻って、それはもう探し回った。

 シアンが忘れな菜の香りを覚えていたというのに、見つけるのにとんでもなく時間がかかる始末。

 ようやく終えた頃にはお昼時になっており、先の二つの依頼がどれだけ楽だったのかを物語ってくれていた。

 

「あーほら、やっぱりズルはいけないってことが教訓になったってことで納得しよ? くよくよしてても仕方ないって、ね? 再生させた意味ならあったじゃん。シアンちゃんが匂いを覚えてくれたし。だからそのー……元気だそっ?」

「OHヒモ……やっぱりHIMO……僕は……僕は……」

 

 マラカルニの町で昼食を摂る。

 今日のお昼は肉と野菜をパンで挟んだなんたらサンド。

 正式名称が長いので覚えていられない。

 ちらりと横を見れば、一心不乱にもふもふとパンを食べるシアン。

 食事が好きらしい。目が輝いている。

 

「あ、でも閃きましたよ僕は。癒し増殖で依頼を達成するのは却下されたけど、武器とか防具とかの素材に使う分には構わないんじゃないかって」

「あ」

「?」

 

 ぱかり、と口を開けて硬直したあと、「そっかぁ!」と頷いてくれるリシュナさん。こてりと首を傾げつつもパンを喰らうシアンさん。

 うん、シアン、ちょっと落ち着きなさい。

 これが美味しいのはわかるから。尻尾がすごく動き回ってて、その喜びもわかるから。

 

「マッスル武具店に行って、要らなくなった装備とかが無いか訊いてみようか。もちろんタダではくれないだろうから、安値で買って……」

「うっふっふ、ヒトくん。そちも悪よのう……! でもおねーさん、そういうの嫌いじゃないよ? ノリ良くいこう! 向こうはきちんと欲した分のお金を貰える! そして私たちはきちんとそれを買う! 癒して直すのはこっちの勝手だもん!」

「行こうリシュナさん! いざ、悪の道!」

「良い子のみんなー! 外道を歩む時は自己責任でねー! ぜったいに人の所為にするとかしちゃだめだぞーぅ!? ───そして私は外道でいい《ニヤリ》」

「? ?《こ、こく……?》」

 

 やっぱり事情がよくわかっていないらしいシアンが、疑問を孕んだ頷きをする。

 そんな彼女らとともに、マッスル武具店を目指した。

 途中、食べ終えたシアンがご機嫌笑顔で尻尾をゆるく振りつつ歩く姿にほっこりしつつ。

 悪巧みをしつつも歩いていると、こういう時っていうのは案外早く辿り着くもので、あっという間にマッスル武具店。

 

「ごめんくださーい」

「ウチにはごめんなんてものは売ってねぇ!」

「いえそういうことじゃなくてですね!?」

 

 いきなりツッコミどころを提供してくれた。

 まあそれはそれとして。

 

「なんでぇボウズじゃねぇか。ハァーンのヤツから聞いたぜ? あいつの腰を治してくれたんだってな」

「もう情報が……? あ、ええっと、それはうん、依頼だったから」

「あいつはどーにも体にかかる負担の全部を腰に集中させてるからいけねぇ。っとと、そんな話はあとだな。んで、どしたいボウズ。今日はなんの用だ?」

「いや、なんかもう廃棄処分に近いものでもいいから、防具があったらなぁと」

 

 ちらりと、シアンとリシュナさんを見る。

 リシュナさんから服を借りているとはいえ、防具無しの服のまま。

 リシュナさんは軽装だ。パッと見て“防具”と言えるのが胸当てと篭手くらいしかない気がする。

 

「ははぁ、なるほどなぁ。まあ駆け出しの冒険者にゃあよく言われることだ。別に俺ぁ構わねぇがな。ただしいくら廃棄処分に近いもんだとしても、金は貰うぜ? こちとら商売だ。手元にあるモンは処分するまで賞品であることにゃあ変わりねぇ」

「そりゃもちろんです。というわけで、見せてもらえると……」

「おう、ちょっと待ってな」

 

 おっきな体をどしーんどしーんと揺らしつつ、マッスルさんが店の奥へと歩いてゆく。

 ……そういえばあの人の名前、なんていうんだろう。

 ハァーンさんは知ってるのに。やっぱりあの人もダイナマイトッツなんだろうか。

 

「リシュナさん、あの人の名前、知ってる?」

「え? ああうん、モルドフ・ダイナマイトッツ、だったかな」

 

 やっぱりダイナマイトッツだった! しかもモルドフ!?

 ……悠彰が持ってた某ドッヂボールゲームに、そんな名前のキャラが居たなぁ……。

 

「だっはっは! 待たせたなボウズ! ほれ、これが処分に困ってたもんだ! 好きなの選びな!」

 

 そんなモルドフさんが、豪快な笑顔で戻ってきた。

 ムキムキな筋肉に抱えられてきた巨大な箱……その中には、なるほど。

 武器やら防具やらがごっちゃり入っていた。

 

「うわーはー……! どれもこれもボロボロだったり埃かぶってたり……!」

「リシュナさん、これがいい、あれがいいとかってある?」

「ちょっと見たばっかりでそんなのわかるわけないでしょが」

 

 ごもっとも。そしてシアンがやっぱり喋らない。

 僕の服を掴んだまま、尻尾を丸めて警戒しっぱなしである。

 

「ん、んー……」

 

 僕はといえば、そんなシアンの頭を撫でつつ癒しを流したのち、武具に目を通し始めた。

 作ってもらったナックルを調べる要領で目を通せば、なるほど、きちんとそれぞれの情報も理解できた。

 

 ◆呪いのサンマソード───のろいのさんまそーど

 地界の秋刀魚という魚をモデルに作った刀。

 魚が腐ったような香りを放つ。

 微妙に水属性を持っている他、嗅覚が強いモンスターには効果大。

 ATK=3(水:10)

 

 ◆試作型イグニスブレード───しさくがたいぐにすぶれーど

 火打石と剣のコラボレーション。

 振るった反動で撃鉄が動き、火花を散らす。

 ほんの僅かだが火属性効果がある、初心者用火属性武器。

 が、取ってつけた装置の所為でゴテゴテしく、好んで使う者は居ない。

 そんな理由もあってか、ある意味で上級者装備。

 ATK=2(火:2)

 

 ◆飛び出しナイフ

 弾丸の代わりに刃を飛ばせないものかと考えた、かつての鍛冶猫が考えたもの。

 ボタンを押せばステキな速度でナイフが飛んで行くが、単発式なので一回ずつ拾うしかない。

 もはや生産されていないので、代えの刃もない模様。

 ATK=敵の強度による

 

 ◆砕けた胸当て×3

 使い物にならない胸当て。繕うほうがお金がかかるため、廃棄するべき。

 

 ◆砕けた篭手×4

 使い物にならない篭手。繕うほうがお金がかかるため、廃棄するべき。

 

 ◆もはや原型をとどめていない鎧×2

 もはや鎧ですらない。

 

 ◆愚か者の重鋼装───おろかもののじゅうこうそう

 戦に駆りだされることになった若者が、死にたくない思いのみを前面に押し出した全身装備。

 攻撃、速度、魔法防御などの一切を捨て、防御のみを望んだ愚かなる鎧。

 上手く身動きが取れずに魔法で焼かれ、鎧の中で死した若者の怨念が詰まっている。

 DEF以外のステータスが-50修正。

 代わりにDEFだけは+50。

 呪われているために、当然であるが装備すると呪われる。

 

 

 ……───ハイありました掘り出し物。

 しかも全身鎧ですよ。愚か者の重鋼装……鋼ですか。

 血がこびりついてて、こすっても剥がれ落ちないステキ仕様ですよ。

 呪われてらっしゃる。

 

「あぁそれかぁ……随分前に知り合いが引き取ってくれって言ってきたもんなんだが、装備したヤツがことごとく大火傷を負ってなぁ。気味が悪いってんで誰も買わねぇんだ。幸い、装備さえしなけりゃどうってことねぇんで、置いておくことにゃあ文句はなかったんだが、やっぱ気味悪くてなぁ」

「ちなみにおいくら?」

「買うのか!? これでボウズが火傷したら目覚めが悪いんだが……」

「そりゃもう自己責任でしょう。死ぬわけじゃないなら大丈夫!」

「…………まあ、それもそうか。ただし大火傷だ。あんまり甘く見るんじゃねぇぞ? 外せなくなるなんてこたぁねぇが、妙な熱さを感じたらすぐ脱ぐんだ。いいな?」

「いや……まだ買ってもおらんのですが……」

 

 なのにもう買うことが決定したみたいに言われても。

 や、出来れば買いたいけどさ。

 

「あぁ、あー……そうだな、500£だ。呪いのこと考えりゃもっと安くてもいいだろうが、あんま安すぎても文句が飛びそうだ。安いから買ったのに~とかな。それだけ危ねぇ。初心者にゃあ中途半端な値段だろ。どうだ? それでも買うか?」

「買います! 買いますとも!」

 

 今日の依頼で手に入れたお金で全身鎧をゲット!

 きちんと購入手続きをして、握手! これで商談は成立……この鎧は僕らのものぞグオッフォフォ……!!

 ……ハッ! いけないいけない、脳内でサンシャインがあくどく笑っていた……!

 と、いうわけで。

 

(まずは呪いを癒しで排除。……完了)

 

 鎧から熱の呪いを取り除く。シアンの呪いを癒した時と同じ要領だ。

 と、その時。視界の隅で何かが動いて、調べてみればインベントリに謎のアイテムが追加されていた。

 

 ◆焦熱の呪い───しょうねつののろい

 燃やされ、苦悩のままに死したものの呪い。

 死んでなお熱に苦しみもがいている者の怨念の塊。

 用途は不明。

 

「…………」

 

 いや、不明って言われてもさ。この状況でどうすればいいかなんて、軽く想像つくでしょうに。

 とりあえずそれを取り出して、うりゃ、とシアンがつけているナックルにくっつけてみた。

 するとジュルリと溶け込んでゆき……

 

  ガカァン……!《堅結硬拳が呪われた!》

 

 残念そうな効果音とともに、ナックルが呪われた。

 見てみれば、“呪”の文字とともに熱属性が15から65にUPしている。

 ……うん、やっぱり。って、65!? すごいな呪い!

 あ、でも呪いのペナルティなのか、SPDが-50になってる。上手く動けなかった呪いが原因だろうなぁ。

 

「あ、あの、ご主人様……?」

「ああうん、なんでもないなんでもない。篭手が熱くなったらすぐ教えてね、シアン」

「? はい……?」

 

 困惑混じりのシアンの頷きに、とりあえず頷きで返す。

 で、ナックルに呪いを押し当てたままに癒しを流し込みまくった。

 するとどうでしょう。“呪いを癒して属性は癒さない”というイメージがそうさせたのか、ナックルからは黒い霧みたいなのがボシャアアアと流れ出し、人の顔みたいに見えたと思ったら白く輝いて消えた。

 その霧が、最後の瞬間には笑顔に見えたのは気の所為……にしとこう。あまり踏み込まないで。

 そして肝心のナックルはといえば……よし、熱属性の向上はそのままで、呪いは消えていた。当然SPDマイナス修正もなくなってる。よかった。

 

「……なになにヒトくん。早速なにかずっこいことしたの?」

「早速って……や、まあ、したにはしたけど」

 

 ボソリと言われて気づいたけど、モルドフさんの前でこういうことするの、普通に凄まじいことだよね。目先の好奇心に心を捕えられていて、モルドフさんのこと忘れてた……!

 あぁああ、なんか見てる……こっち見てる……!

 でもやることはやります。うん、やります。

 

「うん」

 

 ナックルはこれでいい。

 あとは、鎧のほうが呪いを取った状態でも防御力に異常があるかどうか。

 この際もうVITとかDEF以外がどうなろうと知らない。

 ただひたすらに身を守れる奇跡を僕にください。

 と見てみれば、

 

 ◆鬼憧重鋼装───きどうじゅうこうそう

 鬼の力強さに憧れた者の鎧。

 鬼のように強い、という喩えを求め鍛えられた。

 若者も突然の戦でなければゆっくりと馴染ませ、戦うことが出来ただろう。

 呪いが晴れたことで本来の能力を取り戻したそれは、それでもやはり防御特化の鎧。

 DEF=50 SPD=-10

 *要求ステータス:VIT20以上

 

 ……完璧でございます。

 まさかこんな形に落ち着いてくれるとは。あ、でもやっぱり重い所為で速度は下がるんだね。

 まあ呪いでもなければ、力とかが下がるのはおかしいもんね。

 でもそっか、防具とかの値だとVITはDEF、AGIはSPDになるのか。

 SPDってスピードとかそういう感じかな?

 

「……わあ」

 

 それは納得するけど、要求ステータスがVIT20って。

 ……安定して装備出来るのが僕しか居ないじゃないか。

 ええはい、相も変わらずレベルが上がればVITばっかり上げてる僕です。

 VIT20? 余裕ですとも。他がひどい有様だけど。

 ていうかね、これにもし要求ステータスなんてものがなかったら、なんかもうシアンが居ればいいみたいなことになると思うんだ。

 今でさえ僕が盾にならなくてもいいみたいな状況だし。

 だからこそようやく……ようやく僕も役に立てるのだ……!!

 

「シアン、リシュナさん、これ、僕がもらってもいいかな」

「え? うん、いいけど」

「もちろんですっ《ぱあああ……!!》」

 

 わあ……リシュナさんは形からして遠慮するって感じで、シアンは僕の装備が充実することに目を輝かせてまで喜んでる……。

 いや、いいんだけどね? これで僕も役に立てるわけだし。

 だってDEF50だ……これは素晴らしい。

 なので早速装備。の前に、この使い物にならない防具一式ずつと、あと飛び出しナイフも買わせてもらう。

 

「単発しかねぇぞ? いいのか?」

「もちろんです」

 

 むしろ、だからこそいいのです。これが完成形だと認識できていれば、単発式だろうと何度でも再生してくれる……!

 石が出来たのだから、出来ると信じよう。いや、心配だし少しモルドフさんに細工してもらおう。

 あ、ちなみにお値段タダ同然でした。さすがに廃棄処分行き納得のものだったからだろう。飛び出しナイフは希少性から、少し高かったけど。

 ……また稼がなきゃ。トホホイ。

 

「あん? なに? ここを砕いて? ……いや、まあそれくらいならいいけどよ」

 

 飛び出す刃の根っこの部分を軽く壊してもらい、柄の部分に溶接してもらう。

 よし。これでナイフ自体が飛び出しても、溶接した部分に癒しを送れば何度でも再生可能……!!

 戦いってのは何も力だけじゃないんだぜ!? ここさ、ここを使わねば!

 などと脳内で超不死鳥さんが笑ってらっしゃった。

 

「よぅしシアン! リシュナさん! 狩りに行こう! 討伐依頼でもなんでもこいだ!」

「はいっ! ご主人様!」

「わぉ、やる気十分だねっ! おっけーぃ、お金を稼ぐことに文句なんかないからねっ!」

 

 こうして、モルドフさんに挨拶をしたのち、僕らは駆け出した。

 シアンがゴシャーアーと走ってゆき、リシュナさんも走ってゆき、僕は叫んだ。

 

「待ってくれーーーっ!!」

 

 一言。

 この全身装備、重すぎ……!!

 

「だっはっはっはっは! 気をつけろよぅボウズー!」

 

 あまりのもたもた感に、モルドフさんに笑って送り出される始末。

 だがご安心! 動けないほどじゃないなら、全力で筋肉を動かして、疲れる度に癒せばいい!

 

「うおぉおおおおおおっ!!」

 

 ドゴンドゴンと人が歩く音とは思えない音を鳴らしながら、僕は駆け出した……!!

 あ、もちろん走りながら、シアンに奴隷紋を通じて、癒して元の形にまで戻した装備品一式を装着させるのを忘れません。そんな彼女のステータスはといえば。

 

 ◆シアン・ド・ギャルド/JOB:奴隷

 Lv 10

 

 HP 1942/1942

 SP 50/50

 

 EXP 1278

 NEXT 402

 

 STR 24

 VIT 24

 DEX 1

 AGI 25

 MND 1

 INT 1

 CHR 1

 

 SKILL:嗅覚強化、聴覚強化、体術、投擲、主の番犬【NEW!】

 MAGIC:ブラスト

 £:0

 

 ◆EQUIP

 頭:リシュナの羽帽子

 首:リシュナのチョーカー

 胴:軽鉄の胸当て/リシュナの服

 手:軽鉄の篭手/リシュナのカフス

 腰:リシュナのプリーツスカート

 足:リシュナの旅人の靴

 

 *人物情報:主に付き従う、猫で狼で番犬な元奴隷。好意ではなく厚意を強く抱いていて、今さらなにをどうしたってそれが恋心に変わることはない。

 ようやく自分の防具を買った主人の姿に安堵し、より一層役立たなくてはと決意する。

 ステータスは初期値からして主よりも12も違っていたため、非常にステータス移動と相性のいい獣っ娘。

 願えばなんでもするだろうが、そこに愛は無いから無茶するなよそこの主。

 

 ……だから一言余計だってばデビル天秤さん。

 や、それはともかくだよね。

 ようやく防具を買ってあげられた。既にリシュナさんに服は借りていたとはいえ、奴隷服の上に装備させるのも悪いし、だからって裸の上ってわけにもいかない……って、裸の上に胸当てと篭手だけって、なにを考えてるんでしょうね僕は。

 ともあれ、よかった、本当によかった。

 大絶賛置いていかれてるけど、よかった。

 だ、だからちょっと待ってほしいな……っ! この感動を少しでも共感してくれると……って待って!? ほんと待って! 置いていかないでぇええっ!!

 


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