奴隷(キミ)と僕とを結ぶHIMO   作:凍傷(ぜろくろ)

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第二十話【目標を固めても世の中思い通りにはいかないよね】

27/ゲームとかだと丁度これの最後にOPが流れて体験版が終わるみたいな、そんな20話目

 

 じゃじゃんっ!

 

「えーっ、っつーわけで! ただいまより、“シアンちゃんとマリアちゃんにペットの証を購入しよう”! 大作戦を始めたいと思います! はい沈黙ー!」

「………」

「……………」

「………」

「だっはっはっはっは! 予想通り沈黙しやがったよこの三人! ここで拍手ーなんて言ったって固まってるだけだろーなーって思ったぜ! つーわけで、ほら、ヒトー? お前もきちんとそういうの用意した方がいいって思うだろー? こんだけ可愛いなら、自分のギルドに入れてぇってやつら、ぜってぇ出てくるぜぇ?」

 

 現在、ミレアノさんの食堂にて食事を頂いているところ。

 呼んだら文字通りスッ跳んできたシアンとマリアを前に……いや横に、テーブルを挟んだ反対側にはお肉をムッチャァアアと噛み伸ばしているテッド。

 憧れのまんが肉です。噛んで引っ張るとムチャアアと伸びるあれです。食べてみると、もうほんと美味しかった。

 

「ちなみにシアンちゃん、マリアちゃん? 二人で行動してた時、何人に声かけられた?」

「え……あの、12人ほどに……」

「内容は? やっぱ勧誘?」

「はい……ウチのギルドに入れ、いい思いさせてやるぜ~と……」

「なっ……」

 

 なんと。まさかとは思ったけど、本当にする人が居るなんて。って、考えてみればそんな話を僕はいきなり振られたことがあったじゃないか。他でもない、リシュナさんに。

 身近なことだったんだ。ただそれを、僕が認識しようとしなかっただけで。

 

「な~? ほれ、だからよ、ヒト。証ってのはあるだけでもそういう面倒や心配ごとを取り払ってくれるんだって。そりゃよ、シアンちゃんたちは見ての通り、奴隷にしちゃあ綺麗なもん装備してる。けどな、綺麗ってこたぁそれだけ手を伸ばす野郎どもも居るってことだ。そういうのに巻き込まれないようにするのも、奴隷を買ったモンの務めってもんだろ。あ、自分は奴隷を奴隷として見てない、なんて意見は他人にゃどうでもいいことだから、言っても無駄だ、やめとけ。どうあれお前の手には奴隷紋があるんだ。それがある時点で、そんな言葉を他人にゃ向けんな」

「……うん」

「あ、いやいや、説教したいとかじゃないんだ。なんかお前、やっぱりちょっと馴染んでないって感じがしてほっとけないんだよ。俺が言うのもなんだけどさ。だから、ここはギルドん中じゃあ二人ぼっちの男の俺が! なんだろうと助言はしてやるべきだと認識した! だから俺が全力で間違った方向に突っ走ってたらヒトも止めてくれ!」

「あ、ああ、うん、わかった。じゃあえっと……その、証? みたいなのってどこで買えるのかな。あ、その前に……シアンとマリアはそういうの、欲し」

「欲しいですっ!」

「いるいるー!」

「……は、はい」

 

 随分とまあ食い気味に返事をされた。えと、はい。買うことが確定しました。でもそういうのって何処に売ってるんだろう。

 

「そういうのって細工ギルドとかに売ってたりするのかな」

「そだなー、武具店は知ってるか?」

「マッスル武具店にはなかったよ」

「最高だ。ちなみに服屋にもそういうのはないな。だから細工屋に行ってみるのがいいかもな。いわゆるアクセサリショップだ」

「? ヒト、なにか買ってくれるのー?」

「うん。シアンとマリアが悪い人に誘われないようにね。えーっと、僕、こういう時にどんなものを贈ればいいのかわからないんだけど……シアン、マリア、どういうのがいい?」

「え……あの、私も、そういうものは貰ったことが……その」

「うん、まりあも知らない」

「………」

 

 僕らは等しくひとりぼっちでした。

 

「なんだいヒトちゃん、アクセサリを探してんのかい?」

「っと、ミレアノさん」

 

 肉を切り分けつつモムモム食べている僕の前に、コトリと置かれる追加のサラダ。ただのサラダと思うなかれ、なんとあの肉食マリアさんが目を輝かせて食べるほどの美味。

 

「ミレアノさん、これってどうやって作ってるんですか?」

「ああそれね。ベジタブルミートっていってね、一定の温度で洗ってやると、美味い肉汁を出すっていう野菜なのさ。ベジタブルミート。略してベジットって───」

「それ以上、いけない」

 

 合体時、外国語でオロナミンC言いそうな名前が放たれそうだったので止めた。

 

「あ、で、ミレアノさん。アクセサリショップ、知ってます?」

「ああ知ってるよ。丁度この宿の裏ッ側だねぇ。モレキュラーっていう装飾品店があるんだよ。あたしの友人の店なんだがねぇ」

「……ちなみに、獣人差別は」

「するようだったら裏側になんて店を建たせるもんかい! なんたってこの宿に隣接した土地はあたしの土地だからね!」

 

 腰に手を当ててわっはっはと笑うミレアノさんは、実に豪快だ。そして安心。それなら警戒をすることもなく購入が出来るってものだ。

 ていうか裏側が装飾品店だったとは。しばらく住んでいたのに気づかなかった。地界でもあったなー、長く住んでいるのに、近場にある隠れた名店を知らなかったーってオチ。

 僕にとっては地界の“やまふじ”がそうだった。あそこの料理、安くて美味しかったなぁ……月に一回の楽しみだったよ。

 

「よっしゃ、じゃあこれ食ったら早速行ってみるかっ! っへへー、さっきはマリアちゃんに全部食われちまったから、無くなる前に~っと」

「むー! もやし、取りすぎー!」

「馬鹿言えぇ! 俺はもやしじゃなくてテッドだ! だから取る! つーかこの筋肉が目に入らないのか!? 見ての通り美しいマッスルだろが!」

「ほら、シアンも食べた食べた」

「はいっ、ご主人様っ」

「っはは、騒いでもいいけど、料理を無駄にするんじゃないよ? ったく」

 

 料理を前に騒ぎ出す、子供な僕らにミレアノさんはしょうがないねぇって感じでそう言って、カウンターの奥に戻っていった。

 それを横目に喰らう。サラダとは言っても量は結構なもので、二皿頼んだので問題ない。僕とシアン、テッドとマリアで分けたから。

 ああ……落ち着いて食べられるまともな食事って、いいなぁ。サバイバルをしてきたシアンとマリアも同意見なのか、咀嚼毎にこくこくと頷いて、落ち着いた時間を噛み締めていた。ああ平和。

 

……。

 

 昼食を終えると、僕らはそのまま宿屋の裏側、モレキュラーという装飾品店に来ていた。

 モレキュラーの意味は知らないけど、店主は白髪のオジサマ。髭も長く、なんというかどこぞの長老と言われたらなるほどって頷けるほどだった。でもまだまだオジサマ。お爺さんじゃあなかった。

 

「おやいらっしゃい……ゆっくり見ていくといい……」

 

 穏やかに笑う姿に、なんでか安心する。急かすわけでもなく、穏やかな顔で僕らの動きを静かに見ている。

 見ているっていうか、なんていうのか、見守っている感じ? 不思議だ。

 

「っへへー、細工スキルも覚醒したし、これからはこういうのも無関係じゃなくなるわけだ。腕が鳴るねぇ。っとと、で、ヒトー? どんなもんプレゼントするんだー?」

「そうだね、ちょっと待って」

 

 店主さんに説明して、そういった、こう……証? に、適したものはありませんかと訊いてみる。

 

「ほっほ、なるほど……うん、奴隷だというのに良い顔をしていらっしゃる……。ええ、いいでしょう……ではこちらなど如何でしょうか……」

 

 ゆったりとした、間延びしているわけでもないんだけど、でももったいぶったものでもない独特の落ち着いた口調のオジサマ。

 そんな彼が店の奥から出してきたのは、なんとも綺麗な装飾品。ネックレスとかブローチとかブレスレットとか、あとは───

 

「一部の人には失礼かもしれませんが、こういうものもありますよ……。地界では家族となるペットに贈るものだと聞いております……」

 

 どうぞ、と見せられたのは、綺麗な蒼と緋の首輪。失礼かも、といったのは、奴隷とはいえ人の姿をした存在につけるものではないと思ったからなのだろうか。

 

「こっちじゃ首輪っつってもアクセサリみたいなもんだけどなぁ。あー、なんてーんだ? チョーカー?」

「へぇえ……ああうん、確かに地界じゃあ首輪はペットの証みたいなものだよ。そのコにはもう飼い主が居ますよーとか、そんな感じで所有されてるって……えーと、見せ付けてるのとは違うけど、理解してもらうってカタチにはなってる筈。けど、僕は人の姿をしたコに首輪をつける趣味は───」

「これがいいですっ!《どーーーん!!》」

「…………ないのに……」

 

 “ペットの証”とか“所有”とか聞いて、段々とシアンの尻尾が左右に揺れ始めていたのには気づいていた。だからこそ口早に話を終わらせたかったのに、またも被せ気味に所望されてしまった。

 ちらりとマリアを見てみれば、「家族のあかし……!」とか言って、きらっきら目を輝かせながら首輪を手にしている。ああ、誰か助けて。無理だった、ここには敵しか居なかった。

 テッド、ここでサムズアップはなにか違う。店員さん、戦友の背中を押す仲間みたいな凛々しい顔はやめてください。さっきまでの穏やかさは何処に行ったんですか。

 

「あ、あのー……シアン? マリア~? 出来ればこっちの」

「これがいいです!」

「いやあのあの」

「これがいいです!!」

「いや、僕はシアンをペッ」

「これがいいです!!!」

「……はいぃ」

 

 折れるしかなかった。マリアも既に試着しちゃってるし、したらしたで「家族、家族ー!」って僕の腕に抱き付いてくる。

 店主さんも悟った顔で、「おぼっちゃん……奴隷にも、ペットにも、その主人に縛られていたい、所有されたいと思う存在はいるのですよ……」と、なんだかとてもエライことを言われてしまった。

 

「じゃあシアン、これ……」

 

 代金をしっかり二つ分支払って、マリア───はもう装着しているから、シアンにハイと首輪を差し出す。

 と、何故かもじもじしたあと目を閉じて、顔を突き出してきた。

 ───ホワイ!? えっとなんでしたっけこの状況! このシチュエーション! おぉおお落ち着け、落ち着くんだブロリー! じゃなくてヒト! それ以上誤解を高めるんじゃあない! 勘違いしたら周囲に馬鹿にされるだけだぞ!

 そ、そう、これはチッスの催促なんかじゃあ断じてない……そうだ、落ち着け。僕に限って、そんなことがあるわけないじゃないか。

 

「…………?」

「……!《ぐっ!》」

 

 情けない顔になっているであろう表情のままに、テッドを見る。と、ニカッと笑ってサムズア~ップ。ここで唇を突き出すようなゼスチャーをしないだけ、彼は悠彰よりやさしい。

 仕方も無しに、僕はシアンの傍に寄って、その首に首輪を……く、首輪を……!

 

(僕は…………やるのか…………)

 

 ごくりと喉を鳴らしつつ、首の後ろまで手を回さなきゃいけないから、少し抱きしめるみたいな感じになったけど、シアンは暴れることもなく待っていてくれた。

 では、ええと、そう。やることなんてきっと簡単だ。

 

  くるっと回してベルトにも似た金具をパチンと穴に通してみれば、首輪付きの奴隷さんが完成するのである。

 

 ……うわーいモノスゲー罪悪かーん。

 人って存在を買ってしまった時点でいろいろと堪えるものはあったのに、まさか首輪……奴隷に首輪……!! これだけでこんなにもダメージが上がるとは思わなかった……!

 などとワケのわからない胸の痛みに苦しんでいると、自分で付けていた筈のマリアが首輪を外して、にっこにこ笑顔で僕に突き出してくる。……僕はといえばー……目を閉じたまま待っていたシアンの頭をぽむぽむと撫でて、ちょっと葛藤があるから待っててという気持ちを心の中で伝えると、突き出された罪悪感という名の悪魔を受け取って……ほろりと涙した。

 ええ、つけますよ。つけて、改めてペットで奴隷だって、そうしたのは自分だって自覚を持てばいいんでしょう? やりますよやってやらぁあーーーーっ!!

 

「あ、でもここじゃなくてせめて外でやろうね……」

「え? あ、はい」

 

 店主さんの前とか、知り合いの前だとさすがに恥ずかしいから。

 店主さんにぺこりとお辞儀をして店を出て、海の波風亭へと続く路地へ。そこで、改めてきょろきょろと周囲を確認。……よし、誰も居ない。

 

「じゃあえっと」

「…………《どきどきどきどき》」

 

 移動しながらも目を瞑っていたシアンを前に、ごくりと喉を鳴らしたのちに───

 

  はい、ぱちんと。

 

 いろいろ葛藤はあっても、やることは結構単純。

 あっさりとシアンとマリアの首に首輪をつけてやると、その頭を撫でてトホーと溜め息を《ピピンッ♪》ホワ?

 溜め息を吐いた途端、なにか通知っぽいものが届いた。見れば、称号獲得の通知。

 

  オゴォオン……!《人間・腐れ外道の称号を得た!》

 

 ……いつもの“ピピンッ♪”じゃなくて、ものすごーく暗い音とともに、腐った称号を手に入れた。

 

 ◆人間腐れ外道【特殊条件称号】

 特殊な条件を満たすと手に入る称号。

 地界出身でペットのことを知っていて、かつ空界で奴隷を買い、ペット扱いにした上にその奴隷に首輪をつける。

 それだけならまだ所有ペットで奴隷が一人。専属というか、本当に所有していたいオンリーワンとしてまだ、あくまでまだという程度で納得出来るが、それどころか他に女を作った挙句ペットであり奴隷にまで落として、さらに首輪までつけた腐れ外道、人間の屑に贈られる称号。

 それでも特殊条件称号であり、称号として設定しておくと能力値が上がる。

 *設定時上昇能力:ペットとの絆や愛情の度合いにより、ペットの能力値が上昇

 

「……うぐっ……ひっく……うぇえ……」

「うおっ!? どうしたヒト! 急に泣き出して!」

 

 ステキな能力だった。シアンやマリアの想いの度合いで能力値が変わるなんて……───愛や絆で強くなれるなんて、それは僕が昔から望んでいたものだった。それなのに……それなのに……!

 どうやらそれを発動させるには、この称号を身につけておかなければいけないらしい。ちなみに今は“強制奴隷野郎”。この強制奴隷野郎に存在する能力値変化は“躾+5”というもの。奴隷が言うことを聞いてくれやすくなるそうだ。つけた覚えはないのにいつの間にかついてた。この世界、ほんと僕のこと嫌いなんじゃないかな。

 というわけで。

 

 ◆ツァガ・ヒト/JOB:癒し人【称号:人間腐れ外道】

 

「うぇえええ……!」

「だからどうしたんだよヒト!」

 

 称号設定をしてみれば、あまりにもひどすぎた。確かにそういう結果になってしまったけれど、こんなの狙ってやったわけじゃあなかったのに。

 

  ピピンッ♪《称号効果:絆の証が発動!》

 

「《ポワ……》……? あれ……? あの、ご主人様、なんだか急に、体が軽く、温かくなって……」

「…………ヨカタネ」

 

 常時発動型だそうです。つまり常に付けていたほうがお得。イコール、僕は腐れ外道。

 ……強く生きよう。決して、人に称号は見せないで。

 

「おっし、まあよくわかんねぇけど泣いたり立ち直ったりで、決着はついたってことでいいか? なにも言わねぇってんなら気にするなってこったろーし。あ、けどなにかあったら言えよ? 悩み抱えてあとで爆発させるような関係、俺は嫌だからな。なんでも言え。むしろ言ってくれ。俺はこう見えて、隠し事をしない仲間ってやつに憧れてんだ」

「へええ……じゃあテッドはなにか、隠し事とかはないの?」

「俺か? んっへへぇ、俺はなぁ、こう見えて、実は甘いものが好きなんだ!」

「……別に意外じゃないかも」

「ん? そか? ああけどほれ、男で甘味が好きっておかしな目で見られるだろ? でも好きなんだよな。だから俺は心の底からビエネッタを望む。頑張ってGP稼ごうぜっ!《ムキィーン!》」

「ん、了解」

 

 特に否定する話でもなかったので、素直に頷いた。

 甘いものは僕も好きだ。妹にケーキを買っていった時も、妹が食べれないからって結局僕が食べたんだけど……妹にその味を説明するのが凄く大変だった。身振り手振りで説明をする僕を見て、妹はいつもくすくす笑っていたっけ。

 

「………」

 

 とりあえず。僕のこの世界での目標は、完全に決まった。

 癒し屋……癒し店かな? は、絶対に作る。で、そこを拠点に地界への転移方法を探して……戻ったら、僕が住んでいた街へ戻る。戻って、香織と妹を……必ず癒そう。戻ってみたら、かつての時代とは世代が違っていたならそれでもいい。諦めきれずに泣いてしまうかもしれないけれど、決して届かないのなら諦めもいつかはつくだろうから。

 でも、もし自分が生きていた時代に降りることが出来たなら、必ず癒そう。癒して、それからの人生を目一杯祝福して、別れよう。

 じゃあ、それまで頑張らないと。

 

「えっと、シアン、マリア、テッド。相談があるんだけど───」

 

 僕らの旅は始まったばかりだ。

 打ち切られた漫画みたいな言葉が頭に浮かんだ。それもいい。

 ただし終わるなら、たとえ中途半端でもハッピーエンドを望みたい。

 

  そんな思いの丈を、三人に思い切りぶつけてみた。

 

 当然“地界に戻る”ってことは僕が地界人であることを話すわけだから、それも最初から全部。

 するとテッドは「転生ってやつか! すっげぇなぁ!」なんて素直に驚いて、シアンとマリアはよくわからずこてりと首を傾げた。

 けれど、「自分もご主人様に救われましたから」と笑ってくれると、「頑張りましょうね」と言ってくれた。

 マリアは……「ヒト、だいじょぶ。えと、まりあがきちんとげっそーりょく? 使えるようになれば、未来でも過去でも、えと、いけるよ? てんせーもできるし!」と言って、にこーと笑ってくれる。転生って……また死ねと?

 

「一度死んだ経験があるからってよお、なんでも悟った気になるもんじゃあねぇだろ。冒険者としてひよっ子な俺達なんだ、手伝ってくれって言うのは当たり前だろ? むしろ地界から来たってだけでも珍しいのに、転生ってのはなんか面白ぇし! これで隠し事は無しの信頼関係が築けるってわけだな!」

「信じてくれるの?」

「あったぼうよぉ! つか、今ここで嘘つく理由が何処にあるよ。俺達ゃ仲間だ! だから、大変恐縮なんですがGP溜まったらビエネッタご馳走してください。それまでの貢献とか、俺あんまり役に立ててねぇけど、どうかご慈悲を……!」

「……少しの感動を返せこの野郎」

 

 言いつつも苦笑が漏れた。ああほんと、温かい。

 こんな感覚は久しぶりだ。やっぱり、男友達って大事。……友達? 知り合いか。

 

「えっとさ。僕とテッドの関係って」

「ギルドメンバーだな! お? それともパーティー? まあ妥当なところでマッスルメイツだろ! 単純に言やぁ筋肉で繋がれた魂の友! 魂友だな! タマトモ!」

「よおっしそれが聞きたかった! ナイス友達!」

「? おう! ナイス友達!」

 

 自分からは友達だろうかってハッキリ言えない、自分の性格が嫌いだ。

 けど、もうつまらない遠慮や躊躇をするよりは……この“楽観的”に身を任せ、なんでもやってみるのもいいかもしれない。あ、もちろん冒険は地界への扉を探すことと、家を建てる分の£を集めること前提で。

 

「とにかく家を建てるための金と、地界に行くためのゲートを見つけられりゃあいいわけだ。ちなみに俺の目標は安定した生活を送ることな! ヒトのお陰で自分の才能の向き不向きってのもわかったし、将来的にゃあこの女子力……もといガールズマッスルで稼いでいきたい!」

「テッド、それだと女子の筋肉だよ」

「たっははは! こういうのは聞いたやつが理解してくれりゃいいんだって! さ! んーじゃあ稼ぐかぁ! まずはアメンボィジャーな! ……あ、でもよ、これって報酬が服だろ? 俺、もうこの羽シリーズ作れっけど、本気でやる?」

「……雨降らなきゃ現れないんだよね」

「おう」

「そう、らしいですね」

「? だってさー、ヒトー」

 

 マリア、よくわかってないなら静かにしてなさい。

 

「でもまあGPはまあまあだし、急ぎのクエストでもないから、雨が降ったらってことで、受けたままにしとこうか」

「そだな。じゃあ次のクエストはどうする? 簡単なのをじゃんじゃん受けるか?」

「そだね。むしろさ、随分簡単にEランクになれたわけだけど……Aまでこんな感じでぽんぽん上がれるのかな」

「まあ、そうだな。で、プレートレベルが2になれば、またFからってわけだ」

「…………」

 

 ぷれーとれべる? なにか? それ。

 目をまんまるにして首を傾げたら、「あれ? 知らんかったか?」なんて暢気に言われた。

 調べてみれば、確かにあった。

 

 ◆プレートレベル

 プレートのレベル。アルファベットで知られる冒険者ランクとは違い、これが上がると受けられる依頼が変わり、難度も変わってくる。

 これが上がると貰えるGPも変わってくるわけだが、レベル2のFランクの依頼はレベル1のS~Aランク相当の依頼なので注意。

 そもそもレベルが一千万までいく世界で、AとかSまでしかランクがないわけがないでしょうがこのたわけが。

 

 うん……完ッ全ッに見てるね、あの天秤様。

 もういいや、見られていたとしても、僕は僕として自由にやらせてもらおう。

 それに確かに、早々にEに上がった時点で違和感は感じていたわけだし。

 

「よしっ、それじゃ───えっと、シアン、テッド、マリア、いい? えっとね、こうしてこうして、僕がこう言ったら…」

「たっははっ、そういうやつってなにも言わずに合わせるもんだろー?」

「言わなきゃ無理だって。ほらいくよ?」

「はいはい、っと」

「はいっ」

「おー!」

「うんっ、せーのぉっ!」

『目指せっ! 5百万£っ!!』

 

 僕らは声を合わせて、握り拳を空へと向けて一気に突き上げた。

 さあ、冒険をしよう。あくまで、平穏を手に入れるために。

 治療屋……診療所とは違うだろうから、ともかくそれを作って暮らしを安定させる。その上で、地界に存在する心残りを解消出来れば───その時こそ、僕は心から、この世界に骨を埋める覚悟が出来る。そう思うから。

 こんな中途半端なままじゃなく、地界に行けないと理解出来れば、それでも納得出来るだろう。だから“知る努力”をする。そのためには冒険だ。冒険のためには力が必要だ。様々な場所に行くには難しい依頼も受けられなきゃいけないだろうし、ランクだって必要になる。

 どっぷりと冒険者になるつもりはなかったけれど───仕方ないよね、悠彰、香織。やりたいこと、出来ちゃったから。

 くすりと自然に笑ってから、そんな笑みに気づいて……素直に笑っておいた。

 苦笑なんてものじゃない笑顔が自分自身でくすぐったかったけど、それを見て「おいおいどうしたんだよ、泣いたと思ったら笑うのか?」なんて、この世界での友達も笑ってくれた。筋肉がきっかけみたいなおかしな友達だけど、逆にそういう人だから疑う理由もなく受け入れられたんだと思う。

 楽観的に生きればいい。難しく考えず、もっと自由に。

 

「あ、ところでよぉヒト……服はな、そりゃあ作るのはいいんだが……その。お嬢さんがたの下着とか、どうする? おぉおお俺、その、したっ、下着とか、るぁ、るぁんぜるぃー? って作ったことなくてよ……!」

「や、それ意味同じだから……って、作ったことなかったの!?」

「当たり前じゃあ! 女物の服を適当に作るだけでもドキドキなのに、その女性に合わせた下着っ……下着とかっ……! おれっ、俺が作った下着がこう、その女性の胸をソッと包むとかやさしく持ち上げるとかブッハァッ!《ぶしゃあっ!》」

「うぉひゃあっ!? ───うぇっ!? 鼻血っ!? ちょ、テッド!? きみの体、どうなってるのさ! 考え事で鼻血とかって本当に出来るものだったの!?」

 

 でも思うことがあります。

 リシュナさんがもし戻ってきてくれたら、きっと常識的な意味で苦労するんだろなぁって。いつかは戻ってくるかもしれない彼女に、心の中で敬礼をしつつ……遠くの空を見つめた。

 




ネタ曝しです。

*ベジット
 オロナミィーーンシィーーーッ!!
 よっしゃーっ! の声が、外国語だとオロナミンCだったりする存在。
 ドラゴンボールより。
 ドラゴンボールは冒険したり仲間と協力したり出来てた頃が一番面白かったと思うの。
 GTもテンポさえよければなぁと今でも思います。何事もスローなのに「は、はやい……!」とかいうアニメ、大嫌い。
 でも一星龍がゴジータに三発殴られて「ぶっへぇええ!!」って言う場面、すごく好き。
 最初は「いってぇええ!!」って聞こえて大爆笑しました。

*それ以上いけない
 あいつ……あの目……。
 孤独のグルメより。

*俺は……やるのか……
 世紀末リーダー伝たけしより、ヒゲリン。

*人間腐れ外道
 妖怪腐れ外道。サムスピに出てくる妖怪。
 人間が人食いという禁忌を犯して妖怪堕ちした存在。
 もぉお我慢できねぇだぁ~~~っ!!
 ゲーセンでサムスピが賑わっていた頃、彼を使って全クリタイムで一位を取った素敵な思い出があります。
 ナコルルを開始直後に怒り爆発→頭突きで一撃で倒せたのが相当利いたと思われる。



 録画したまま残っていたアニメを消化中。
 その中で、亜人ちゃんは語りたいを今更見るに至り……めっちゃ好きになりました。
 なんで今まで見なかったんだろうね。……時間がなかったからですよ。

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