いつ面談が終わるか筆者も予測がつきません。
相変わらずオリ設定多数。
オリキャラ視点のみです。
──コンコンコンコン。
4回のノック音が静かに響く。
いよいよアルベドと話さなくてはならないかと思うと緊張する。すぐに沈静化が起きるが
「…どうぞ」
声を掛ければ自分と同じ烏の濡れ羽色の長髪に、こめかみから山羊のような捻れた角を生やした美女が入ってきた。腰からは黒い天使の翼が生えており、
「失礼致します。守護者統括アルベドで御座います」
微笑みを浮かべる艷やかな唇から静かに入室が告げられる。誤魔化しているが、視線はモモンガさんに固定されていた。少しもこっちを見てくれねぇ。すんげぇ嫉妬心が燻っているのが感じられる。
──…分かっちゃいたけど、こうも空気扱いされると泣けてくるわ…。
「…よく来たな、アルベド。まずは席に座りなさい」
「大事な話です。席について頂かないと話せません」
「…かしこまりました。失礼致します」
デミウルゴスやセバスに続き、アルベドも大人しく座った。モモンガさんに言われたからだ。なんで分かるかって?無視されている本人には分かんだよ、
アルベドはモモンガさんに声を掛けられて嫉妬が少し落ち着いたようだが。
「…さて、これからあなたの考えや想いを教えて頂きます。嘘偽りや誤魔化しがないようにお願いしますね」
「忌憚なく教えて欲しい。不敬と考える必要はない」
「かしこまりました…それでは、何を申し上げれば宜しいのでしょうか?」
この子の視線は俺とモモンガさんの間にほぼ固定されている。時々、モモンガさんに視線が揺れているが基本的に俺を見るつもりはないようだ。
──…これ俺専用我慢大会かな?
「うむ。聞きたいことは久しく姿を見なくなったギルドメンバーについてだ」
「特に[たぶら]さんについて聞かせて欲しいのです。最後に会った日から今日に至るまで」
しかし、ちっとも哀しんじゃいないと思う。
「…かしこまりました。我が創造主であるタブラ・スマラグディナ様は先日お見えになられました。
「…っ」
「…」
──
俺の質問に答える形になったのは、誤魔化しが効かなかったからだろう。これ以上、無視を続ければ流石にモモンガさんも気付く。それを恐れたからだ。
《[ももんが]さん。設定についてはゆっくりと考えましょう。そのこと自体に本人は不服が無いみたいですし》
《そう、ですね…やっぱり負い目は感じてしまいますが…本人が良いというのであれば様子を見ながらじっくり考えたいです》
その返答に今はそれでいいと思います。と取り敢えず返事をして、考える。
この子は、想像以上の闇を抱えていると感じた。モモンガさんへの感情以外全てが荒廃しているイメージが浮かんだのだ。常に微笑んでいるが、モモンガさんに向ける時以外目が笑っていない。
これは恐らく俺が追求しても躱される。この子もトップクラスの頭脳の持ち主だ。俺程度の考えなど見抜いてくるだろう。
──…どうすっかな。モモンガさんに悪役やらせんのもなぁ…悪役?
思い出した。俺は何を躊躇っていたのだろうか。ここはナザリック地下大墳墓。
《[ももんが]さん。確認したいことがあります》
《?…何ですか?》
《我々は悪の[ぎるど]ですよね?》
この時のモモンガさんの心情はきっとこうだろう。こいつこんな時に何を言ってんだ?と。しかし、律儀なモモンガさんは俺にちゃんと応えてくれた。
《なに言ってんですか。当たり前だろ
オーケー。じゃあ、『悪』をやってもらいましょう…不本意だろうけど。あと、さり気なく毒吐くの癖になってません?…昔からか。
《[あるべど]は嘘を付いています。悪の魔王になりきって追求して下さい》
《…は?》
「あの…どうかなさいましたでしょうか」
いい加減、モモンガさんが何も言わないから不安になってきたようだ。一先ず、先延ばしさせるために促す。
《いや、何でもない。しばし待ってくれって言って下さい。んで、考える[ぽぉず]で時間稼いで下さい》
《何なんですか、もう…分かりましたよ》
「いや、何でもない。しばし待ってくれ」
「はい、かしこまりました。いつまでもお待ち致しますわ」
もう完全に恋する乙女の表情だ。油断すると本性が顔に出るだろうけど。
それは置いといて、モモンガさんに改めて説明する。
《有難う御座います。それで、[あるべど]ですが見た目は哀しんでいるように見せかけてましたが、感情は違います》
《スキルは何を感じ取ったんですか?》
《怒り、呆れ、微かな敵意。そして深い憎悪》
眼窩の光が揺れる。考えるポーズで顎を固定していなかったら、きっと顎が落ちただろう。これは予想していないと驚くのも無理はない。俺も憎悪が強烈過ぎてちょっとビビった。
《…さっき言っていた嫉妬じゃなくてですか?》
《それは最初に感じましたが今は落ち着いています。それとは別ですね》
《…俺に何をさせるつもりですか?》
《悪役。悪の親玉。非公式[らすぼす]。お前嘘付いているだろ、ちゃんと言えって追求して下さい》
眼窩の光がこちらに向けられる。いや、気持ちは分かるけど今は勘弁して。アルベドの目が限界まで見開いてんですけど。なんで気付かないの、この人。
《…普通に聞いて駄目なんですか》
《営業職の人にこう言いたくないですけど、俺ら程度の話術じゃ無理ですよ。この子も[でみうるごす]並の知能持ちですよ?》
《…ハアアァァァ…》
分かる。分かるよ。好みの女性に悪役になりきって追求ってそれどんな罰ゲーム?って思ってんでしょ。でも、しょうがないじゃない。搦手を使わないと多分この子、絶対言わないよ。
「…アルベド。今一度、確認したいことがある」
「!…ハッ。何なりと」
モモンガさんの雰囲気が変わったのを感じ取ったのか、アルベドの表情も引き締まり部下の
「…
「…何のことでしょうか」
おおー…悪の親玉になりきってる。流石モモンガさん。しかし、アルベドも負けていない。内心、冷汗だらっだらだろうに、表面上は知りませんよって涼しい顔をして受け流している。だが、甘い。本気のモモンガさんの恐ろしさはここからだ。
「アルベド…アルベドよ。嘘は付くな、と言われたな。そうだろう?」
「…仰る通りで御座いますが…」
「…この我を前にして誤魔化せる、と。そう驕っているのがよく分かる…もう一度だけ問おう。アルベド…貴様は嘘を付いた、そうだな?」
「…仰る意味が──」
「アアァルウウゥゥベエエェェドオオオォォォ…!」
こっわ。裏事情知ってても怖い。あ、沈静…。
魔王の眼窩は赤く輝き、怒っているのが見て取れた。【漆黒の後光】や【絶望のオーラ】まで発動させてる。やっぱすげぇわ、この人。演技でここまで『怒り』を出せる人はそうそういないぞ。しかも、好みの女性に対して。とんでもねぇ罰ゲームだぜ。
「これで三度目…意味が分かるか?三度だぞ…この我に、魔王に!三度も同じ問答を繰り返せと言うのか、アルベドォ!!」
『…っ!』
──っと、
「…[あるべど]、いい加減になさい。駄々を捏ねるのは子の特権。しかし、叱るのは親の務め…許されるのは今だけですよ」
「…けるな…」
──あ、地雷踏んだくさい。
《…[ももんが]さん。何があっても手は出さないで下さいよ》
《え?》
「ふざけるなよ!!クソがぁ!!」
先程までの淑女然としていた女性の面影は微塵も無くなった。今目の前にいるのは怒りと憎悪に燃えたサキュバス。空気をも振るわせる強烈な怒気は、叩き付けられたのが普通の人間なら卒倒、悪くすれば即死するだろう。見開いた金色の瞳は憎悪に塗れて俺の姿をどす黒く映し出していた。
しかし、
この体はその強大な力の本流も受け流し、その精神は視線で殺せそうな殺気も柳に風の如く前から後ろへと通り抜けていった。
モモンガさんとの違いは…きっと子供かそうじゃないか、かねぇ。人間の頃なら体が卒倒を選んじゃうだろうけど。
──…キレ過ぎじゃねぇ?…なんかあるっぽいな。
「貴様のような奴に!子など言われる筋合いはない!!…何が親だ…!──貴様は…貴様らは!!我らを捨てるだけでなく愛しのモモンガ様まで奪うつもりだろう!!屑どもが!!」
「…アルベド、お前…っ!」
《[すとっぷ]、[ももんが]さん。抑えて》
《でも、
後にモモンガさんはこう語った。あんなに静かに怒っているのは初めて見た、と。何に対して怒っていたのかまでは分からなかったが、怖かった、と。子供達に対して怒っていたときとは違う何かがあったと、そう言っていた。
《…[ももんが]さん、今は何も言わずにこの子のこと見てあげて。あと、六階層の[ぴぃぶいぴぃ]設定を練習[もぉど]に。よろしく》
《は…?》
「さっきからコソコソと何をしている!…どうせモモンガ様を影から誑かしているんだろう!」
「…[あるべど]、六階層へ来なさい。
「貴様が…貴様がその偉大な御名を口にするなぁ!!」
ドゴン!と座卓に拳が叩き付けられる。掃除が大変そうだなぁ、と他人事のように一撃で粉砕された座卓をぼんやりと見つめた。
「…癇癪、ねぇ…まぁいいや。[ぎるど]長、その子と一緒に六階層までよろ。あとさっきの設定も頼みます」
「…どうせ一人で逃げるつもりだろう?地獄の果てまで追い掛けてやるからな…!」
「アルベド、いい加減にしろ…。──…サキさん」
《だいじょーぶですよ。私の[びるど]忘れちゃいました?》
《…取り敢えず設定だけしてみます。ですが、きちんと反映されるか検証もなしに…》
ほとんど無表情な少女が
死期を悟った者のように、優しげに。
《大丈夫です。何も問題はないですよ、きっと》
部屋から出るとセバスが心配そうな顔をして耳栓を取りながら音もなく駆け寄ってきた。スキルも使わずにどうやって音を殺してあんなに速く歩けるんだろうか…。
「夜想サキ様。何やら不穏な物音が聞こえてきたようですが…」
「…[せばす]、何も心配はいりません。あなたは九階層の巡視をして下さい」
それを聞いたセバスは怪訝そうな顔つきになり、聞き返してきた。まぁ、何かあると思うわな。
「巡視、ですか…しかし──」
ここは無理にでも『はい』と言わせないと部屋から出てきたモモンガさんについて行ってしまうだろう。そうはさせん。
「──母からのお願いです。あなたは、このまま巡視を。[ももんが]さんと[あるべど]の姿が見えてもついて行かないように…お願い」
「っ…かしこまりました。ですが、一つだけ宜しいでしょうか」
「…?」
セバスは視線をそらして若干頬を赤らめて静かに告げた。なにこのかわいい生き物。
「…それは
思わず撫でて…やりたかったが身長差があって届かない。しょうがないので軽く跳んで撫でてやった。
「それじゃ、他の[めいど]にも同じように伝えてね。私の可愛い子供」
そしてそのまま指輪を使って言い逃げ。やっといてかなり恥ずかしかったのは秘密だ。
指輪で一瞬で六階層の
それは親子喧嘩という名の死闘。
──って格好付けたのは良いけど、他の子供達に見せらんないし、体の性能もユグドラシルのままか確証はないし…へへっ、これ実はやべーんじゃね?
しかし、考えていることとは裏腹に心は酷く穏やかだ。最悪、子供達に殺されてもそれで皆が幸せなのであれば死んでも構わない。
ぶっちゃけ、こんな俺でも唯一残ったギルメンということもあってモモンガさんは大事に思っているはずだ。そんな俺がNPCに殺されたとあっては俺がどれだけ言おうと彼らの間に禍根は残るだろう。それは皆が不幸だ。特に俺は死に損だ。やってらんないね。
──…俺一人いなくなるだけで家族全員が本当に幸せなら出て行くのも吝かじゃないんだけどねぇ…。
しかし、そんな簡単に済むわけがない。そして、アルベドは俺を殺したいほど鬱憤が溜まっている。話し合いだけで解消するならそれに越したことはないけど、あの様子じゃ話は聞いてくれそうにない。もしかしたら、タブラさんが最後に『余計な一言』を言った可能性もある。
──《皆飽きてやめちゃったのにモモンガさんもよくやるよなぁ》
あゝ、やだやだ。想像したらアルベドのあの怒り具合からマジで言った可能性が高くなってきた。もー、ほんと。
そんなことを考えていたら闘技場の真ん中まで来ていた。普段ならあの双子がすぐに出迎えに来ただろうけど、残念ながら今は地上で作業中だ。まぁ、これからのことを考えたらそちらの方が都合がいい。
《
《はいはい。なんでしょう》
頭の中で糸が繋がる感覚に集中すればモモンガさんの声が聞こえてきた。問題がなければ設定が終わったのだろう。
《コンソールが出ないので玉座でマスターソース開けるならいけるかと思って試してみたところ、設定は出来ましたが…急な無茶振りは止めて下さいよ。完全にユグドラシルの感覚で頼んできましたよね?》
《ああー…その通りです。申し訳ありません》
そういや、コンソールが出ないのすっかり忘れてた。コンソール開けないんじゃ、現場で設定変えられるか分かんないわな。ていうか現実でマスターソース開けるのか…。
《まぁ、それはいいです…アルベドと戦うんですか?》
《可能性は高いでしょうね》
《…モード設定がきちんと反映されているか分からないのに、本当に戦うんですか?》
《ただの親子喧嘩ですよ》
《生き返れるかも分からないんですよ?やっぱり今からでも…》
《あたしゃまだ死ねねーし、我が子に殺されるほど落ちぶれてねーわ》
モモンガさんの言葉が止まる。そう、こんな序盤で死ぬわけにはいかない。これから素敵な家族ライフを始めるのだ。死ぬには早すぎる。そう考えたらテンションアゲアゲだな。
《仮に死ぬとしたら十分家族[らいふ]を過ごしてからだぁね》
《…ハアアアァァァァ…》
特大のため息を吐かれた。なんかゲームが現実になってからため息の数多くなってないか。
《そんなにため息ばっかだと禿げるぞ…禿げだったわ》
《ハゲじゃねぇよ!?…あー、もう。分かりましたよ。今からアルベド連れてそっち行きます。あと、なんかセバスが行ってらっしゃいませって凄いあっさりしていたのが気になるんですけど…何かしました?》
お、ちゃんとお願い聞いてくれたみたいだな。偉い偉い。
《九階層の巡視してね、ついてっちゃ駄目よって母親として頼んだらそれはずるいですよ母上って言われましたよ。うへへ》
《え、いやちょっと。一人だけズルくないですか?あと笑い方キモい》
ふっ、なんとでも言うが良い。結局のところ、勝者は俺なのだ。
《ふふー。なんとでも言うが良い、勝利者は私だ》
《くっ…この
《お父ちゃん元気出しな!》
《お父ちゃん言うなや、この
《おっほ。新しい[ぱたぁん]っすな》
《うぜぇ》
《どいひー》
こんな冗談の言い合いも出来なくなるかもしれないと思うと寂しくなるな。それとさっきから死亡フラグ乱立している気がする。まぁ、でも悪いフラグっていうのは──
──へし折るもんでしょ。
さて、モモンガさんと凄い形相で睨み付けてくるアルベドがやって来た。もう、アルベドったら
因みにヘルメス・トリスメギストスは装備していなかった。そんな時間も無かっただろうしね…まぁ、着けていても俺の前じゃ意味無いんだけどな。
「どうもどうも、[ぎるど]長。早速ですが[あるべど]と
「会って早々それですか…ハァ、分かりましたよ。アルベド、命令だ。サキさんと話し合いなさい」
「……ハッ。かしこまりました」
アルベド。気持ちは分かるけどそんな嫌そうな顔しないで。ガラスのハートが傷付くじゃないの。
《〈伝言〉。心臓に毛が生えている奴が何言ってんだか…》
《[ぎるど]長。空気読んでね》
《お前にだけは言われたくねーよ
さて、そんなアホなやり取りをしている間にモモンガさんが貴賓席に座る。おや、いつの間にかアルベドがバルディッシュなんか手に持ってますねぇ…気ぃ早過ぎじゃね?
「…[あるべど]…まぁ良いでしょう。それで何故私のことがそんなに憎いのですか?」
「…敵に馬鹿正直に胸の内を晒すアホがいるか、このマヌケ」
はいキター!伏線回収乙であります!
──…つまんねぇし、無理矢理感しかねぇな。いやでも本当に似たようなこと言うとは思わなかった。ちょっと哀しい。
真面目な話、絶対タブラさんのせいだろこれ。殺る気満々じゃん。髪なんか逆立てちゃって、どす黒いオーラが滲み出てるし。バルディッシュを持つ手に力が入り過ぎて
──…そういや、あのバルディッシュもタブラさんが一生懸命作ったんだよな…あー、練習モードとはいえ
とはいえ、アルベドのビルドはガチガチの
あ、唐突だけど分かったわ。これ、拳で語り合おうぜって意味の話し合いじゃね?だからバルディッシュも取り出すし、モモンガさんの命令もちゃんと聞いてますよってことじゃね?
「…まぁ、聞かなくても理由は何となく分かりますけどね。私が死んで気が晴れるならそれもいいでしょうけど…」
「…それは潔くモモンガ様に命を捧げるという解釈でいいのね?」
「[あるべど]。あなた頭良いけど馬鹿ですね」
ドゴォン!!
──うおっほう!あんまりにも頓珍漢なこと言うもんだからつい癖で煽っちまった!
一瞬で間合いを詰めただろうアルベドがバルディッシュを振り下ろすまでコマ送りよりちょい速いくらいで見えていた。形相といい重圧といい、それがスローで迫ってくるのはちょっとしたホラーだった。
周りから見れば、アルベドがわざとらしく外したように見えたかもしれない。すぐ隣にでっかいクレーターっぽく陥没した地面が出来ていた。
《おい!話し合いすんじゃなかったのか
《いやー…つい癖で。まぁでも、これで少なくとも[あるべど]が相手なら傷一つつかないであろうことは分かりましたよ…おっそーい☆》
《うっぜぇ…これ終わったらぶっ飛ばすからな…》
不穏なことを呟く骨は置いといて、アルベドがヤバい。何がヤバいって頭に血が上り過ぎてバルディッシュをただただ振り回しているだけだ。周りが全然見えていない。こんなん【パリィ】するまでもない。
目の前に振り下ろされる致死の戦斧を軽やかに避け、薙ぎ払われる必殺の一撃が目の前を通り過ぎる。
戦闘時の体の性能も把握出来たことだし、スキルの性能を試すために虚空から『炎楼』を取り出す。初陣の相手がこの子っていうのが非常に悲しかった。でも、これないと武器破壊出来ないしなぁ。
「…ふん。私を殺すつもり?」
「殺さんよ。[すきる]──」
袈裟に振り下ろされる戦斧にスキルを発動させて刀を振る。
「──【
高確率で相手の武器を破壊するスキルだ。俺の場合はそれにパッシブスキルで確率の上乗せをしている。通常の
以前の炎楼・改はそれの確率を上げて更に耐性貫通を確率で付与していた。つまり、低確率だが破壊不能も破壊するようになっていたのだ。流石に世界級は無理っぽかったが。
しかし、現在装備している炎楼・零式は世界級を取り込んでパワーアップした。
具体的に言えば破壊確率を前より更にアップさせ、神器級相手でも耐久値MAXだろうが確定で破壊させ、耐性貫通確率の確定化も付与。しかも、防御力無視のおまけつき。──一応、炎属性ダメージを任意で与えることも出来るのだが、そちらは本当にただのおまけだ。まともなダメージソースにならない。名前の由来でもある──下手すると世界級も壊せるまさにぶっ壊れ武器と化したのだ。勿体無いから世界級には使わないけどネ。
因みに鞘もセットで世界級になっている。多少のHP
それでも防御に回せばいい感じに防げるし、殴れば結構な威力がある。元のパワーがなさ過ぎて牽制くらいにしかならないけど。まぁ、つまるところ──
バギャンッ!
──嫌な音を立ててアルベドのバルディッシュが粉々になる、と。アルベドは突然重みが消えた右手を呆然と眺めている。そうなるだろうな。でも、曲がりなりにも今は戦闘中。こっちの話も聞かずに暴れ回る子に折檻は必要だろう。
ゴン!と返す刀の峰でアルベドの側頭部を叩く…あれ、ちょっと待って。結構な力を込めて、しかも両手持ちで叩いたんだけど微動だにしねぇ。出血すらない。
──…防御貫通してるはずなのに全然効いてねぇ…いや、これは。
「…スキル【イージス】。でも、使うまでもなかったようね…警戒して損したわ」
アルベドの手が俺の頭を捕まえようと迫って来ていたが、抜け目なく鞘を拾いつつ下がって躱す。あっぶねぇ、捕まったら間違いなくスプラッターになってたわ。
「全く、本当にちょこまかと…鬱陶しいったらないわね」
そう言って取り出したのは一本の杖。あれはギンヌンガガプか。
「…私に世界級は通じませんよ?」
「そんなことは百も承知よ…でも、流石にこれは壊せないわよね?」
美女が口を三日月?だっけ?のように釣り上げて嗤うと本当に不気味だった。まぁ、確かに世界級は勿体無いから試し撃ちはしたくないけど、それで殴るつもりか。
「…確かにそれは
《ちょ、ちょっと!まさか世界級も壊せるようになったんですか!?》
《いきなり何ですか、もう…多分ですよ、多分》
《…なんてもの生み出したんだ、あんたは…しかも、それを容認する運営はマジでクソだな…》
それは否定しない。まぁ、最終日だったから大目に見てもらえたのかもしれない。そもそも、耐性貫通も俺の破壊性能アップがあってこそだ。他の人だと破壊不能オブジェクトである壁や岩が精々で、ここまでぶっ壊れにはならない。ていうか、破壊不能オブジェクト一つ一つにも耐久値が設定してあったことを思い出した。まさか、世界を壊す世界があってもいいとか考えてたんじゃ…マジで運営はクソだな。
「…どうやら貴様を殺すことが出来そうにないのは業腹だけれど…精々『嫌がらせ』をさせて貰うわ」
「…え、いやちょっと待って…まさか──」
アルベドが初めて俺に向けて心からの笑顔を見せた。それは微笑み。しかし、心にあるのは嘲笑の二文字。
「──その『まさか』よ。
そう言ってアルベドは全力であらぬ方向へ走り出した。その先にあるのは7階層へ繋がるゲートがある箇所。
「くぉるぁあああ!!待てええぇぇい!!」
「誰が待つか!貴様が大切そうにしていたあの部屋を
──ぐうぅぅ…!そう来たか!
アルベドは俺が丹念に作り上げた癒やしの空間を破壊することで溜飲を下げようと目論んできた。やっぱこの子頭が良い。少しやり合っただけで俺の弱点を把握しやがった。
俺は避けたり、それを活かして場を引っ掻き回すのは得意だけど
《サキさん、これ以上は流石に見過ごせません。先に転移して部屋の前にいますね》
《あぁぁ!有難う御座います!お願いします!》
部屋を壊されること自体は、本当は止めてほしいがそれで何もかも上手く収まるならしょうがないか、で終わらせられる。非常に、堪らなく、誠に、本当に遺憾ではあるが。
でも、モモンガさんは違う。俺が大事にしていたことは知っているし、それを壊されるのは俺以上に我慢出来ないだろう。あの人は昔からそうだった。ギルメンが大切にしていることを何より尊重してくれていた。
あの子が俺の部屋を壊したらモモンガさんはアルベドをきっと赦さない。そうなったらあの子も壊れてしまう。俺の素敵な家族ライフが
──出来ればあの人がいない間にタブラさんが何か言ったか確認しときたいね。
本当に想像通りだったら今度はモモンガさんも壊れちまう。いやー、はっは。綱渡りすぎて笑うしかない。まぁ、でも何とかするしかない。
一滴の冷汗が額から顎にかけて流れ落ちる。嫌な汗が背中をじっとりと湿らせる。沈静化のお陰でそれがしっかりと感じ取れるのが癪に障る。前方にはアルベドの背中が見える。敵の弱点を突くことが出来るためか、腰の翼が
──全く、こんなに陰気な子だったのかねぇ。
それは煽ってしまった
《クソ運営は本当にクソですね》
《同意》
《…アルベドは大丈夫なんでしょうかね》
《…私らが何とかするしかないよ》
──つづく。
嫌がらせに走るアルベド。胸中は泣いて追いかけるおっさん。迎え撃つ魔王。明日はどっちだ。
━━━オリ設定補足━━━
・PvP練習モード
文字通りスキルやアイテムなどの試し撃ちなどを行うためのモード。練習終了後は消費したアイテムや壊れた装備、死亡キャラ、消費経験値、リキャストなどなど全てが元に戻る。召喚したNPCも勿論消える。
防衛の根幹に関わってくるため設定はギルマスのみ行える。転移後に変化があったかは今のところ不明。
・ウェポンブレイクⅤ
武器破壊系アクティブスキル。確率で武器破壊。
使用武器により確率が変わる。
・炎楼・零式
作中で大体説明しましたが、結構なチート武器。唯一、世界級を破壊できるポテンシャルを秘める。炎属性攻撃付与は本来は10位階相当だが、使用者の攻撃力と魔力依存のため、
因みに防御無視がなかった場合は
・イージス
名前的にダメージカットじゃないかなぁ、と。細かいカット率は意味がないので考えてないです。